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英国でのオーガニック食品と通常食品の時代遅れな比較研究 [有機農業/食物にする生命との付き合い方]

№09-34 2009年8月小針店で印刷・配布した「畑の便り」再録

7月、英国の食品規格庁(Food Standards Agency、FSA)が公表した研究結果が、海外では話題を呼んでいます。それは、オーガニック食品と通常生産された食品とを比較した研究で、重要な栄養成分含量では大きな差がないという内容です。

  随分、時代遅れの評価法だと思います。車、自動車を加速性能などの乗り心地だけで評価しているようなものです。今は、二酸化炭素CO2の排出量など環境への影響、環境負荷も大きなポイントです。製造での排出量、使用時の排出量など環境負荷も大きな評価項目です。乗り心地に大差なければ、環境に与える悪影響が少ない方が選ばれる時代です。

環境負荷の評価・・将来世代への責任

  私たちは、この地球にしか生きれません。その環境が人間が生きていけない、生き難い環境になったら大変です。ですから、オーガニック食品と通常生産された食品とを比較するなら、両方の環境負荷も比較すべきです。オーガニック・有機農法と通常生産の環境に与える影響も比較するのが今の時代感覚ではないでしょうか。

  環境負荷の中でも、着目点は二つあると思います。一つは、農薬の生態系への影響です。第二次大戦後に普及した合成農薬は、特定の病害虫を殺傷するだけでなく、同種の無害な生き物や鳥などの捕食=天敵生物を殺してしまいます。病害虫だけでなく広く多くの生き物を殺してしまいます。環境・生態系を脆弱にしてしまう悪影響です。

  もう一つは、化学肥料の多用による土壌の劣化です。土壌中に滞積した化学肥料が、地上に白く噴出す塩害。有機物・堆肥など有機肥料を施さない田畑の土壌は、ミミズなどの土壌生物がいなくなります。ミミズは土壌ごと有機物を食べて、丸めて排出します。団粒になった土壌は、内部に水分や作物が根から吸収する栄養分、肥料分を蓄える貯蔵庫です。ほかの土壌微生物たちも、こうした土壌の団粒構造をつくります。その結果、旱魃などに強い、生産力の高い土壌になります。化学肥料だけに頼ると、こうした土壌中の生き物たちの餌を与えないので、土壌が劣化します。

  この生態系が脆弱になり土壌が劣化するほど、農業が持続しにくくなります。将来世代が食い物に困る可能性が高くなる。今日明日の問題ではないし、自分が困る問題でもないけど、私たちの命が繋がっていく将来世代の問題。 

安全性は既に明確??

また「農薬はこの研究の対象からは除外されている。」のです。「なぜならば我々FSAは農薬の安全性については既に厳密に評価され明確であるという立場であるからである。」「オーガニックでも通常生産でも全ての農薬の使用は残留農薬によるリスクが概念上ゼロであるように規制され監視されている。」「概念上ゼロというのは毎日一生涯にわたって摂取しても検出できる影響はない量のADI以下の摂取量であるということである。」

  “既に厳密に評価され明確”と言い切れるのでしょうか。例えば農薬とパーキンソン病の関連。手足の振るえや転びやすくなるなどの神経疾患、パーキンソン病と農業従事者など職業的農薬使用の関連は、2000年頃から言われていました。「今回のコホート研究の結果、農業あるいは園芸農業従事者におけるパーキンソン病発症のリスクの増加が示唆されたが、これはデンマークでは、安全な農薬の使用が行政による規制と労働者の訓練によって保たれてきたと一般的に信じられている事と対立する知見であり、パーキンソン病の発症に、農薬が重要な危険因子であるとする仮説に根拠を与えるものである.」食品・薬品安全性研究ニュース第37号

この関連性が再度確認され6月に公表されました。フランス国立衛生研究所とピエール・エ・マリー-キュリー大学の疫学的研究で、若い農業者よりも高齢の農業者で強く、農薬への暴露量と関連し、また有機塩素系殺虫剤に暴露された人の発病リスクは、普通の人に比べて2.4倍も高かったそうです。

 有機塩素系殺虫剤は50年以上前から使われている農薬。その人の健康への影響、神経疾患との関連がようやくわかってきた。これまでの経験では、こうした毒性などは、職業病として発見され、一般公衆に検出が広がっていきます。 今、厳密に評価され明確に安全として使われている農薬、50年後にも、安全、人の健康への悪影響なしといわれているだろうか??厳密に評価しているのは確かだろうけど、明確に安全というのは言いすぎだと思います。

BSEの教訓・・命の繋がりの中の食物

 狂牛病BSE、1980年代に英国で狂ったように暴れて死んでいく病気が牛に顕れました。1986年、死んだ牛の脳が海綿状になっていることがわかりました。英政府は、1988年、「人間の健康に影響を及ぼすことを示唆するものはない」
89年、BSEによる 「危険はない」
90年、「脅威を感じる理由はまったくない」
92年には「危険はまったくない」
94年には、イギリスの牛肉はただ安全なだけでなく、「まったく安全」。
96年3月、10万頭以上のBSE感染確認牛が出た後、この疾病による人間の犠牲者が10人出ており、彼らがすでに死亡、あるいは死にかけていること、犠牲者の数がどこまで増えるのか見当もつかないことを議会で報告

  この10年間政府が安全を保証してきた後にどんでん返しの歴史を省みると、厳密に評価し明確に安全という姿勢は、科学者の傲慢とおもえます。人間・ホモサピエンス「知恵のある人」の知恵は、無知の知ではないでしょうか。

 英国で有機的に飼育された牛、草食動物の牛には草や穀物しか与えない飼育法の牛には全くBSEが発生していないという事実に英国民は学び、約20億ポンドの有機食品を消費するようになりました。

あらゆる生物は、食物連鎖という命の繋がりの中で生きています。牛は草の命を頂き、私たちは牛の命を牛肉や牛乳で頂いて生きています。牛の排出物は、畑に帰り多くの土壌生物の食物となり、団粒構造の土壌のなかで肥効成分になり蓄えられ、根から吸収され、草をかたちづくり、牛に食べられる。その繋がり方の詳細は不明だが、繋がり方の添った農業、畜産での命の育み、作物栽培、家畜飼育が良い。

それに逆らったやり方では、BSEのようなことが起こる。その繋がりを絶つやり方、農薬散布・化学肥料多用などでは生態系が脆弱・劣化して農業が持続しにくくなり、将来世代が、私たちの命が繋がっていく将来世代が食い物に困る可能性が高くなる。食物を命の繋がりの中に位置付けてみる認識の枠組みの変化、フレームシフトがBSEの教訓だと思います。

その認識フレームでの比較が求められているのではないでしょうか。

 英国の食品規格庁の比較研究は、旧来の枠組みでの、それもかなり傲慢な姿勢での比較であり、これでは差異が見えてこないのだと思います。普通栽培の雑草対策での、除草剤だけのやり方と、総合的雑草管理=作物のローテーションや質の高い種子を使う、ポリエチレンシートを使う、天敵利用などと除草剤を組み合わせるやり方の差異が、この評価法では見えません。


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