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病原昆虫の天敵療法 ウイルス農薬 [農薬を減らす工夫]

№05-14 2005年3月28日小針店で印刷・配布した「畑の便り」再録

人間が、農作物を病害虫から護る手段として農薬は必要です。しかし現在主流の化学合成農薬は、人や環境への悪影響、破壊力が大きく使用量や使用場面を極力減らすべきです。我々市民が消費者として、そうして栽培された農作物を選ぶこと=購買すれば、そうした減農薬、有機農業を支える農業技術が生み出され、普及します。その実例を、ハスモンヨトウと核多角体病ウイルスをつかった農薬で見てみます。 

ヨトウムシと浸透移行性殺虫剤

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 家庭菜園やベランダ菜園をなさっている方は、収穫しようというその日の朝みると、丹精込めたトマトやホーレン草などが丸裸になっていて、どこにも虫の姿は無く不思議な思いをなることはありませんか。夜に見に行くとお食事中というこの犯人は、夜盗虫(ヨトウムシ・ヤガ類)。卵からかえった幼虫、小さい青虫は鳥のエサにならないように葉裏に隠れて葉裏から食害し、やや大きくなると幼虫は昼間は土のなかに潜み,夜になると出てきます。
  夜盗虫の中でも、ハスモンヨトウはその発生面積は年間12万ヘクタールにものぼる重要な害虫です。非常に雑食性で、里芋、長イモ、キャベツ、ナス。白菜、大根、ネギ、トマト、ピーマン、人参、イチゴ、大豆(特に多い)。菊、ダリア、キンセンカ、カーネーション、シクラメンなど食害します。
  5回脱皮しますが、孵化後7日ほどの2回目の脱皮をすると殺虫剤が効きが悪くなり(感受性が低下し)さらに大きくなると、昼間は地中に潜みますから殺虫剤がかかりにくくなり農薬による防除が難しい害虫で、孵化した幼虫が食べて葉が葉脈だけを残して白く見える白変葉が出てきたら、農薬を散布するのが最も一般的な防除法です。
  しかし、この時期の青虫は鳥のエサにならないように葉裏に隠れています。殺虫剤は、虫に薬が触れないと効き目の無い接触性の農薬と、植物の根や葉等から薬がしみこんで植物全体が農薬になり、その植物を食べた虫がころりといく効き目の長い浸透移行性の農薬があります。ハスモンヨトウの幼虫は葉裏に隠れているから、接触性の農薬は散布に手間がかかり難い、しかし浸透移行性の農薬では、葉物やナス、胡瓜、イチゴ等花が咲けばすぐに収穫できる野菜では、薬がしみこんでいる野菜を食べることになり、これもまた使い難い。さらに、長年農薬を使い続けたため、様々な薬剤に対する感受性が低下しており、殺虫剤の効きが悪い難防除害虫となっています。
 
特定の害虫だけを狙い撃ち、ウイルス農薬

 それでハスモンヨトウの幼虫を狙い撃ちするウイルス農薬を開発されました。東京農工大学と日本化薬が共同で開発し、化学農薬に比べ殺虫力と即効性に優れ、一度散布すれば1シーズン持続します。化学農薬の使用を減らせるため、天敵生物や環境への負荷も少ないものです。

  まず全国各地からハスモンヨトウの幼虫を病死させる核多角体病ウイルスを採取しました。その中から殺虫力が強く、致死までの時間が短いものを選び、ハスモンヨトウを大量飼育してウイルスを量産し、粉末状のウイルス農薬を作り出しました。幼虫の発生初期に、水で1000倍に薄めて散布すれば、ウイルスが幼虫の体内で腸から侵入し増殖し殺虫します。2003年に大学農場で行われた実証試験では、化学農薬の区は散布後7日目の幼虫の生存率が22.0%だったのに対し、ウイルス農薬では11.4%と高い殺虫効果を示しました。そのうえ、感染し死亡した幼虫が次世代への感染源となり、その後も効果を顕しました。

  昆虫ウイルスは人や家畜には感染しません。ウイルス農薬は、人畜に対する安全性が高いうえ、化学合成農薬のように対象害虫以外の生物、クモや蜂など天敵を殺すことなく悪影響を及ぼしません。このため天敵の活動が増大し、対象害虫のみならず、それ以外の害虫も減少することが期待されます。すなわち、化学合成農薬使用量の著しい低減が期待できます。
  ただし、ほとんどの蝶や蛾の幼虫は、発育齢が進むとウイルスに感染しにくくなります(成熟免疫)そのため、ウイルス殺虫剤の散布は適期を逃さず極めて短期間に行なう必要があります。欧米においては、約20種類のウイルス農薬が登録されていますが、日本では1種類(2商品)が農薬登録されているだけです。

   欧米では昆虫病原微生物の害虫防除への利用研究ともに農業分野の昆虫学が発展してきましたが、日本では長い間「お蚕様」を対象とし蚕病防除研究に昆虫病理学の主眼が置かれてきたことが影響していると言われています。今回のウイルスは、4月に農薬登録申請が予定されています。
 
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消費者の選択が開発、普及を支える

 現在のウイルス農薬は、お茶のハマキ害虫を対象とするものです。(商品名 ハマキ天敵、カヤクハマキ天敵)鹿児島県でこれを使った防除が定着しています、その理由の一つは、お茶が嗜好品で消費者の健康志向に応じて農家がこうした資材を導入する事に関心が高かったことがあげられています。私たち消費者が、減農薬・有機栽培の農産物を購入すれば、それが生産農家に伝わり、こうした防除資材の開発、普及につながります。


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