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天敵昆虫を利用して農薬を減らすには? [農薬を減らす工夫]

№03-23 、 2003年5月27日小針店で印刷・配布した「畑の便り」再録

 耕作地は病害虫、雑草には人間が用意してくれた快適空間

  耕作地、田畑は生態系という点で見れば、肥沃な土壌に大根やキャベツなどの少い種類の作物植物が大量に生えているきわめて単純な構成です。ですから、その作物植物を食べる、寄生する青虫などの虫や菌・微生物には「美味しい食卓」です。また作物が植わっていない地面は、ほかの植物にも肥沃で陽光がよくあたる空き地です。人間は彼らを病害虫、雑草と呼びますが、耕作地は人間が用意してくれた快適空間です。

  彼らが耕地で繁殖すると、今度は彼らを食べ物とする生物が入ってきます。天敵です。例えば露地にナスを植えると、ナスに害虫のスリップス(ミナミキイロアザミウマ)がつき、実や葉に口を差し込んで汁を吸い増えます。すると畑の周囲のシロツメクサなどの雑草から天敵(ヒメハナカメムシ類)がナス畑に飛んできて、害虫を食べ発生を少なくしてくれます。

しかし、この天敵だけでナスの被害を十分に防げません。なぜなら、天敵のカメムシ類は餌の害虫のスリップスが増えた後に増えはじめ、それから害虫が減ります。また病害虫や雑草がそれまでその地域にいなかった外来性の種では、有力な天敵がいないこともあります。それで、化学合成した農薬に替わる防除方法として天敵を利用をする際には、自然に任せたのでは病害虫が大量発生してから天敵が現われますので、予め人間が天敵を用意して放す、棲息させることが行われています。 

「除草虫」を放して雑草を抑える 

米国フロリダ中部で、熱帯ソーダアップル(TSA)という外来雑草の拡散を南米産の甲虫を放って防ぐ生物学的防除が行われています。

  TSAは、ブラジルとアルゼンチンが原産の雑草で、背が高く、とげたらけが特徴。白い花をつけ、その実は小さいが、果皮はスイカに似ています。多湿で肥えた台地、水辺、かんきつ類の果樹薗、野菜畑に拡がり、フロリダでは百万エーカー(四十万㌶)、生育すると土着の植物を駆逐し重大な経済的損害を与えています。例えば牧場では種が牛のふんで運ばれ、牧場全体がたちまち雑草で覆われ、牧草が生えなくなります。牧場主にとっては大問題となっています。

  フロリダ大学のジュリオ・メダル助教授が六年間にわたる原産地調査、研究で見出した南米産の甲虫を使います。この虫はTSA(熱帯ソーダアップル)の葉を落とす葉きり虫で、切り落とされたTSAは衰弱してしまいます。フロリダで雑草TSAが侵入したところに、この甲虫を放つのです。フロリダ農務・消費者保護局、米国農務省、フロリダ大学の共同事業としで行われてます。

研究では他の作物への悪影響はありませんでしたが、実際に放してみないとフロリダのほかの植物、作物にどのような影響を与えるか分かりません。TSA(熱帯ソーダアップル)が南米原産のように、この除草の甲虫も南米原産ですから北米のフロリダの生態系にどのような影響を与えるのか調べて上で、悪影響が見出せなければ、大規模に実用化されることになります。(5月25日、日本農業新聞 日本では、雑草対策に天敵を使うことは、研究されていますが、実用化されていません。)

 なぜ、天敵利用なのか 

自然に現われる天敵では、被害を十分に防げません。それで、これまでは化学合成した薬剤、農薬(殺虫剤、殺菌剤、除草剤)を散布してきました。しかし病害虫の薬剤耐性やその残留性や環境に与える悪影響から使用を減らすことが求められています。

  殺虫剤を例に取れば、多くの殺虫剤は害虫だけでなく天敵をより強力に殺します。すると、殺虫剤散布後に生き残った害虫は、天敵の減少で散布前よりも急速に増加します(リサージェンス)。そして、再度殺虫剤の散布が必要になりますが、殺虫剤に強い害虫が生き残った畑では、殺虫剤の効果が弱まっていて(薬剤抵抗性)、さらに強力に殺虫剤の散布が必要となります。こうした農薬は大概は残留性や環境影響に問題が多いものです。また終には、農薬がまったく効かない害虫が現われます。

  例えば、コナガ。キャベツや白菜、チンゲンサイなどにつき葉を食べて穴を開けてしまう害虫です。コナガの天敵は、クモやアリ、ゴミムシ、寄生バチ、スズメや蛙、カビやウィルスなどたくさんいます。それで、もともとは目立たず害も多くはない平凡な虫でした。しかし、消費者は葉に穴の開いてない見栄えの良いキャベツや白菜を求めます。市場価格も高い。それで最初は神経系を乱す農薬を使いました。数年のうちに抵抗性を獲得して死ななくなったコナガが生き残ります。天敵が少なくなっていますから、以前よりも急速に増加します。すると、別種の神経系農薬をまき始めました。同じようにして消化管を侵す農薬、さらに脱皮に関わる農薬へと、次から次に新しい農薬を繰り出し、コナガも次々に抵抗性を獲得していきました。「今では、殺虫剤をまくのも水をまくのもあまり違わない状況」になっています。この数十年でどの農薬も効かない野菜害虫の「王者」になってしまいました。

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  このように、人の病原菌の薬剤耐性、MRSAと同じ問題が農業の病害虫に起きています。そのうえ合成化学農薬では残留や環境への悪影響があります。それで農薬に替わる防除技術として天敵利用が行われています。(天敵利用は有機農業で推奨されている防除技術です。天敵農薬は有機農業で使える、使用が許されている農薬です。)また天敵を使うと、省力化の効果も大きいのです。「農家は高齢化も進んでいるでしょう。農薬をまんべんなく散布していくのは、大変だし時間もとる。その点、天敵を使えば作業量がうんと減って、栽培面積を3~4割増やせる(大阪府立食とみどりの総合技術センター、田中寛)」。この点からも天敵利用が進められています。 

天敵利用の課題 

 天敵利用にはア)病害虫・雑草の防除のために天敵を繰り返し放飼する生物農薬的利用、イ)天敵を放飼して生態系に定着させ、繰り返し放飼することなく長期間にわたって害虫等を抑制することを目的とした永続的利用、ウ)すでにその環境に生息する土着天敵を保護することにより病害虫、雑草の防除を期待する土着天敵の保護利用に大別できます。
 
 今、日本で主に行われている天敵利用は、ハウスなど施設園芸でのア)病害虫の防除のために天敵を繰り返し放飼する生物農薬的利用です。現在、国内で販売されている生物農薬(天敵)は十三種類ですが、ほとんどが欧米からの輸入品です。天敵は生きた生物ですから、移動し増殖します。天敵農薬には、化学合成農薬とは異なる形で、有害な環境影響が生じる可能性があります。その天敵が、生態系のまったく違う海外から来る外来種ではその懸念が強いのです。それで国産の天敵での天敵農薬の開発が進められています。沖縄県農業試験場は、施設園芸の重要害虫スリップス(ミナミキイロアザミウマ)の天敵で、沖縄に棲息する捕食性昆虫のアリガタシマアザミウマの人工増殖法を開発し、4月22日にナスとキュウリで農薬登録を取得しました。このように有害な環境影響を生じない、少ない天敵の発見、選定が課題の一つです。

  また天敵農薬は化学農薬とは異なり、その使用環境によって効果が安定しないことがあります。これは栽培条件や地域性などによって温度・湿度条件や害虫の生息状況などが異なるためです。天敵農薬を効果的に利用するためには、天敵の生態を十分に把握するとともに、畑、施設での害虫の発生状況を小まめにチェックして、放飼時期、害虫初期密度、天敵活動適温の確保、農薬散布との体系化などを考慮して応用的に利用することが求められています。その技能の農業者への普及、向上が2番目の課題です。

  最大の課題は、消費者の理解を得ることです。天敵を上手に利用しても、害虫・病害虫をゼロにすることはできません。害虫が天敵の餌なのですから、害虫がいなければ天敵生物は生きていけないからです。例えば、イチゴのハダニは、まず畑のあちこちにツボ状に発生し、次第に畑全体に拡がって行きます。天敵を用いると、小さいツボ発生はありますが、広がりません。そのツボは天敵に食い尽くされます。ただし、そこから逃亡したハダニが別の場所で再び小さいツボを作ります。天敵はそれを追いかけて、なにせ大切な食べ物ですから追いかけて再び食い尽くします。天敵の効果はこの繰り返しによって現われます。

  つまり、ハダニに多少はやられたイチゴ、スリップスに舐められた痕のある茄子、胡瓜、コナガで多少の穴が開いた白菜、キャベツが出来ます。このような青果物を買うように消費者の理解が得られるのか、それが天敵利用が広がり、化学合成農薬の使用が減少、無くなるようになるための最大の課題です。

飛べないテントウムシでアブラムシ退治 
2008年12月小針店で配布した「畑の便り」再録

アブラムシ・カイガラムシなどを食べるテントウムシ。日本では現在172種類いて、ナナホシテントウやナミテントウなど159種は成虫、幼虫ともにアブラムシなどをよく食べる肉食。5種類が菌食、キイロテントウはウドンコ病の菌を食べる。8種類が草食、ニジュウヤホシテントウはトマトやナスなどを食べる草食で、害虫扱いです。

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←ナミテントウは、普通の(並の)天道虫という意味で、斑紋の遺伝による変化が甚だしく、まだこの他にも多くの形状のものが存在しています。
ナミテントウは、幼虫から成虫までの一生の内に、5千~1万匹のアブラムシを食べると言われています。
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キイロテントウ、体長5~6mmほどの、可愛らしい天道虫

 環境問題や残留問題のある殺虫剤に替わって、この肉食のテントウムシをハウスや畑に放って防除に利用しようとすると、飛んで他所へ行ってしまう性質、飛翔分散能力が高いためにハウスや畑での定着率が低い=防除効果が持続しないという問題があります。そこで、成虫になるまで飼育し羽を折って物理的に飛翔不能化されたナミテントウが国内で販売(生物農薬ナミトップ)されていますが、成虫になるまで飼育する必要があるためコストが高く高価です。
  それで、遺伝的に飛べない、飛翔不能化された系統であれば、成虫、幼虫および卵塊のいずれの段階でも利用可能で低コスト化が可能と考えられ、2003年から遺伝的に飛翔不能な系統を確立し、最適放飼技術の開発が進められてきました。

  成虫のナミテントウ雌雄50頭ずつの飛翔距離を測定し、その中で飛翔距離の短い個体を30%選抜し、次世代を得るという操作を約20世代行いました。成虫の飛翔距離は世代を経過するにつれて低下して20世代めでは、およそ70%の成虫が飛翔できなくなりました。卵の孵化率が低いものの成虫のアブラムシ捕食数は実験室段階では変わりませんでした。

 実際に胡瓜の栽培に使われているハウスや露地の畑に成虫を放してみたところ、約一月後でも半数以上が定着していて、盛んにアブラムシを食べていました。生物農薬ナミトップと防除効果は同じ程度でした。今後は、幼虫および卵塊での利用や効率的な増殖法の開発、天然のナミテントウなど環境への影響など実用化へ研究が続いています。
また、トマトなどを食べるニジュウヤホシテントウはトマトよりもイヌホオズキなどの雑草を好むことがわかりました。イヌホオズキを全部抜いてしまうと、ニジュウヤホシテントウがトマトに集中するので、適度にイヌホオズキを残すとトマトへの被害が格段に減ると報告されています。 

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