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江戸時代に無農薬で野菜がとれたわけ・・里山 [農薬を減らす工夫]

№08-35 、 2008年8月26日小針店で印刷・配布した「畑の便り」再録
 
110万種もいても地球上の生態系の中では存在感が薄い昆虫類

 現在知られている生物種は約170万種、そのうち65%が昆虫。しかし、地球上の生態系の中では存在感が薄いのです。一つ一つの種の生物量が少ないうえに、種の多さにより昆虫の個々の種が絶滅したとしても環境には大きな影響が及ばない、ある種(蝶や蛾など)が絶滅してもそれに変わる種が生き残る、約5億4400万年まえの古生代から変幻自在ぶりを発揮して、昆虫は生き延びてきたのです。
  
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  昆虫は種全体としては目立ちません。「生態系の血液」とも言われる、その重要な働きが、知られていません。例えば、鳥類のえさの50%が昆虫類。多くの植物は花粉の運搬を昆虫に委ねています。森林の落葉や倒木などは、食物繊維・セルロースが多く難分解です。シロアリの仲間は体内でセルロース分解性微生物を共生させており、その微生物がセルロースを分解し蟻が吸収できる栄養素とし、蟻はそのため落葉や倒木を食べて生きてゆけ、糞などでセルロースに閉じ込められていた元素が大地に大気に帰り、ふたたび木々が利用出来るようになります。川や池など水系に落ちた落葉などは、まず水生昆虫が小さく刻んで消化し糞として排出する。この糞を水系の微生物が分解することで水の浄化が能率よく進む。河川に殺虫剤を流し水生昆虫を減少させると、微生物の働きが悪くなり浄化能力が低下します。環境における物質循環、物質移動の貢献度では昆虫の働きは非常に大きいのです。

  草食の昆虫は一つの種の植物だけが繁栄する事を妨げ、結果的に多種の植物で生物多様性のある草原や森がつくられる手助けしてます。その上、植物Aが大量にある時には、それを食べる昆虫が大発生して植物Aを食べつくすしておかしくありませんが、実際には起きません。昆虫の中で捕食者(肉食昆虫)と被捕食者(草食昆虫)の仕組みが、天敵の関係が昆虫間に備わっており、植物を食べつくさない仕組みが内在してあるのです。
 
里山は天敵の供給基地 

   田圃は稲だけ、小松菜畑は小松菜だけの歪な人工的な生態系ですが、それでも、昔はほとんど農薬無しで、収穫があったのも、天敵生物のおかげです。例えばリンゴ。
 化学合成農薬があまり使われていなかった戦前。リンゴの害虫被害果実は約1割でした。現在、化学合成農薬をいきなり止めると約9割が被害にあうといわれています。この差は天敵生物の有無、害虫を餌にする肉食昆虫や害虫の幼虫に卵を産みつける寄生蜂などの活躍によります。戦前の約1割の被害果実は天敵のいない害虫によるもので、この害虫を駆除するために農薬を使い出したら、それまでいた天敵生物も駆除されてしまい、その結果、その天敵に抑えられていた害虫がはびこり、また使用農薬が増えるという悪循環。

  化学合成農薬は安全性や環境への影響、経済性(原油高→価格上昇)から減らす方向に変わりつつあります。そのためには天敵生物に頼らざるを得ませんが、その天敵は何処から畑にやってくるのでしょうか。これまでの調査で、ずばり農地周辺の里山。害虫を捕食する肉食昆虫の一大供給基地になっていることや、間伐や下草刈りなど適度な管理が有益な天敵昆虫を増やすことが分かってきました。

①果樹園と里山林の境界付近に捕虫器を設置してオサムシ類(肉食)の行動を調査したところ、オスは林の縁に集中して分布、一方、果樹園の中にいた成虫はほとんどがメス、幼虫は農地・果樹園との境界から30~40㍍の林内に集中していた。メスは産卵に備えて大量の餌となるムシ・虫を必要とするので「里山林を交尾や産卵の拠点としながら、餌を求め農地に頻繁に進出していることが裏付けられた」(前藤薫 神戸大・大学院准教授)

②農作物の害虫・夜ガ類に卵を産む寄生蜂の生息数を見ると、伐採後10年程度の林では高い密度で、放置したまま樹齢を重ねた林では急速に密度が減ることが分かった。「草原を好む昆虫にとって、手入れされず木が生い茂る森は住みにくいため。間伐や下草刈りなど、(バイオマス・エネルギー源などに)里山利用が適度な管理になり天敵蜂をふやすことになる」(前藤)
  戦前は、炭や薪、肥料にする落葉集め、山菜・キノコ採取などが適度な管理になっていて、知らず知らずに天敵を最大利用していたのです。今日、光制御など天敵と協働可能な多くの技術が実用化しています。そうした個別技術を各々の農耕地環境に応じて適切に組み合わせる智恵の成熟が望まれます。
 


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