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植物・作物用のワクチン [農薬を減らす工夫]

№09-12 2009年3月小針店で印刷・配布した「畑の便り」に加筆

 作物にもワクチンが、人間の予防接種と同様に病気の感染を防ぐワクチンがあるんです。 

IPM(総合防除)と生物農薬

  世界の農作物の収量の3割は病害虫と雑草で失われているといわれます。農業は、基本的に自然の原野を切り開いて、一種類の作物(植物)を広大な面積で栽培します。従って耕地の生態系・生物相は非常に単純なので、ここに作物の病原微生物が繁殖する条件が整うと、病害はあっという間に広がります。古来、人間は様々な病害虫対策を行ってきました。

  農薬は、日本では1670年に鯨油(げいゆ)を水田の水面に注ぎ、稲を揺らして害虫をその上に落として、その油膜で虫体を包んで動けないようにするとともに気門をふさいで窒息させる方法が記録されています。
享保17年(1732)西日本でウンカが大発生により飢饉がおこり、百万人近くもの餓死者がでました。それ以来、徳川幕府はウンカが大発生すると各地の代官にたいし鯨油による注油駆除を教示、つまり、当時は鯨油は幕府お墨付きの唯一の農薬でした。(これが、日本で捕鯨が盛んに行われていた理由の一つです。欧米では鯨肉をたべないで、もっぱら鯨油などの利用でしたが、日本では肉、脂はむろん捨てる部分がないほど利用されました)。

  この注油法は、明治維新後、鯨油が石油に変わったり、誘蛾灯で集めて下に油をはった容器の上に落とすなど改善されて、約280年間にわたり不可欠のウンカ防除技術として主食のお米の生産に貢献してきました。戦争中は空襲の目印になるなど理由で中止されました。敗戦後、再開しようとしたときに誘蛾灯の電気がもったいないなどの理由をつけて、DDTなど合成殺虫剤が「これを使いなさい」と占領米軍からお下げ渡しになりました。これが日本で、広く大量の合成農薬が使われるようになったきっかけです。
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  こうして現在、主流になった化学合成農薬は非常に効果がありますが、一方、正しく使わないと作物に残留したもので人間に直ちに、慢性的に害を起こしたり、また害虫以外の生物など環境に大きな影響を与え、残します。

  病害虫は、大きく害虫(昆虫)、病原菌(カビなどと細菌)、ウイルスがいます。農作物のウイルス病を治す農薬はありません。アブラムシは体長1~2mmほどで吸汁による食害よりも、その際に様々なウイルスを作物に持ち込む、ウイルス病にかかった作物でウイルスの入った汁を吸う→別の植物に移って吸汁の際にウイルスに感染させる害が甚大です。そのためアブラムシの防除するために殺虫剤が多用されています。植物ウイルスは特効薬がないので、媒介する昆虫や菌類、線虫類を駆除する農薬を使用します。

  それで現在IPM(総合防除)という考えかたが提唱されています。化学農薬だけに頼らず、いろいろな防除をしつつ環境を守り、かつ、生産が安定し、農家も十分な収入が得られるようにするという考えです。例えば、耕作方法や品種を変えたり、黒いシートをしいて雑草を防いだり、防虫ネットをかけ、ハエとり紙のような黄色や青色の粘着シートで害虫を取る。そして、今、注目されているのが、生物の知恵を利用する「生物農薬」です。

植物ウイルスと「干渉効果」

 植物・作物はウイルスの攻撃を一度受けると、同じ種類のウイルスへの抵抗力を持ちます(干渉効果)。そこで病原性の弱いウイルス(弱毒ウイルス)を植物に人工的に感染させて、植物に抵抗性を持たせる研究が行われています。

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  750種以上の植物に感染するキュウリ・モザイク・ウイルス(CMV)、アブラムシが媒介しトマトでは葉を縮らせ実が熟す頃になると亀裂が入り、腐らせたり、枯らしたりします。自然にあるCMVから分離した性質の弱い弱毒CMVを予防接種したトマトやキュウリ、ピーマンの苗が販売されています。
キュウリモザイク病は感染すると葉は激しく縮れてモザイクに、実も凸凹に変形し、急激に萎れて枯れてしまう。特に症状が激しいズッキーニ黄斑モザイクウイルス(ZYMV)を弱毒化した生ワクチン、苗に予め接種して予防する農薬が昨年から販売されています。

これらを使えば、ウイルスを運ぶアブラムシに対する殺虫剤も撒かなくて済むわけです。

ジネンジョに予防接種 モザイク病防ぐ 山口県(日本農業新聞) 
 
 山□県農林総合技術センターは、ジネンジョのモザイク病の防除に植物ウイルスワクチンが有効であることを明らかにした。病気にかかった芋に比べ、重量が2倍程度に増え、ポリフェノールなどの機能性成分の増加も期待できる。今年1月に特許を申請し、中山間地域を中心に普及に移していく。 ワクチンは、ウイルスフリー苗に傷を付け、弱毒系統のウイルスをすり込んで接種する。植物内にワクチンが入れば、人間の予防接種と同様に病気の感染を防ぐ。収穫芋から種芋を切り取る時もワクチンの効果を引き継ぐため、毎年苗を購入する必要がない。 病気を防ぐことで、ジネンジョ本来の収量や機能性成分の含羞が回復する。発病した芋の平均重量は1本300gだか、ワクチンを接種した芋は500~700gになる。試験では、ビタミン類の含有は2倍に増え、ボリフェノール類は100g当たり17ミリグラムと、従来より同4ミリグラム増えた。

  ピーマンのモザイク病も、葉が縮れ実が変形します。これはトウガラシ・マイルド・モットル・ウイルス(PMMoV)による土壌伝染性ウイルス病です。その防除には、臭化メチル剤による土壌くん蒸が最も効果的でしたが、オゾン層保全のため2005年に使えなくなりました。対策として抵抗性新品種の開発されましたが、敵もさる者、それら新品種の抵抗性を打破して感染する新型ウイルス系統が各地の生産圃場で発生しています。このような悪循環を回避するために、ワクチン(弱毒ウイルス)の開発がおこなわれ、現在、農家が安心して利用できるよう、生物農薬登録のための試験が実施されています。
 
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ブドウ根頭がんしゅ病は、地上部や根に「こぶ」(がんしゅ、腫瘍)を形成して生育不良や枯死の原因となる難防除病害です。世界中で発生しています。しかし、これまで診断や効果の高い防除方法はありませんでした。

そこで、ブドウから分離された病原細菌(Rhizobium vitis)の同定とその病原性の有無を同時に判定する、簡易で正確な遺伝子診断法を開発。これを用いて非病原性で病原細菌の抑制効果が高い菌株(拮抗細菌)を発見しました。

発見した拮抗細菌を生物農薬として使用法は「株浸漬法(培養液へのブドウ根の浸漬処理)」「灌注処理法(培養液を株周囲の土壌に潅注処理)」が開発。特に株浸漬法では、本病の発病株数を80~100%抑制することに成功。さらに、防除効果の安定性に必要な本拮抗細菌のブドウ樹への定着性と防除効果の持続性があり、、本拮抗細菌はブドウ以外の各種農作物の根頭がんしゅ病に対しても高い防除効果があることを明らかになっています。 ⇒http://www.s.affrc.go.jp/docs/mg/mg130501/contents_01.htm

 
  このように病気ごと作物ごとに、海外の微生物は、日本の微生物相を乱す恐れもあるから、地元の生物から選んで開発するのが原則ですから、手間がかかります。
 逆にいえば、全部殺す、防ぐというのではなく、個別対応だから人間など他の生き物には安全。元々すんでいた微生物から選ばれた、特定の病原微生物をえさにする微生物だから、病が癒える=食い物・えさの病原微生物がいなくなるから、撒いた農薬の微生物も自然に死に絶えてしまうか、ごく低濃度になるから環境を悪くしないのです。

  ウイルスの干渉効果などその仕組みは、よくわかっていません。こうした病原微生物が感染する植物・宿主決定する仕組み・病原性・植物側の抵抗性・耐性の仕組みといった基礎的な事柄の解明、その知見の蓄積が生物農薬の開発を加速します。地道な研究、開発に取り組んでいる人々に感謝です。

消費者の選択が開発、普及を支える

 私たち消費者が、減農薬・有機栽培の農産物を購入すれば、それが生産農家に伝わり、こうした防除資材の開発、普及につながります。


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