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生態系・・ハイブリッド生態系モデル note [有機農業/食物にする生命との付き合い方]

2013年6月16日、畑の便りの再録

 岩波書店の「科学」2013年3月号の「種間相互作用の多様性は自然のバランスを支えるかー複雑生態系のパラドクスとその解消ー」


近藤倫生氏(こんどうみちお・龍谷大学理学部)、舞木昭彦氏(もうぎあきひこ・龍谷大学理学部)の科学技術振興機構(JST)の 課題達成型基礎研究(平成20年9月~平成24年3月)の一般向けの論文である。研究成果は2012年7月20日(米国東部時間)発行の米国科学誌「Science」に掲載された。
<論文タイトル> “Diversity of interaction types and ecological community stability”
(種間関係の多様性と生物群集の安定性)

龍谷大学のリリース
ライフサイエンス 新着論文レビュー

以下、抜書き&補足

1970年代の初めまで、生態系は複雑であるからこそ長続きするのだと考えられてきた

Elton(チャールズ.S.エルトン)は、その(1958年刊行の)著書『The Ecology of Invasionas of Animals and Piants(邦題「侵略の生態学」)』のなかで、単純な農業生態系や、捕食者と非捕食者の2種のみを考慮した数理モデルでは害虫の大発生や個体数の周期変動が見られること、それとは対照的に、複雑な自然生態系で大規模な絶滅や大発生が生じないことを指摘した。そして、この振る舞いの差は、これら生態系の複雑さに起因すると推測した。また、MacArthur(ロバート・マッカーサー、Robert MacArthur)は、理論的な洞察を通じて食物網の複雑性と生態系の安定性を関連付けた。
・・
MacArthurは多くの種がたくさんの捕食-被食関係で結ばれた複雑な生態系ほど、植物と上位の生物を結ぶエネルギー・物質の経路が多くなるため、特定の経路が失われるようなかく乱に対する抵抗性が高くなると論じた。これらの議論はいずれも、多様な種がお互いにかかわり合う複雑な生態系は、単純な生態系よりも維持されやすくなることを予想している。
 
1970年代の初頭、生態系の複雑性と安定性をめぐる議論に大きな転機が訪れる。

Robert May(ロバート・メイ)の理論研究がそのきっかけだ。・・
生物の種数と相互作用するペアの数を増やしていくと、やがてある程度それが進んだところで生態系は不安定に変ってしまう。個体数の変動が大きくなり、元に戻りにくくなってしまうのである。このことは相互作用強度が小さく、結合度(相互作用の起こる確率)が低く、種数が少ない単純な生態系ほどに安定になりやすいということを意味しており、EltonやMacArthurの洞察ー生態系は複雑であるほど安定になりやすいーとは正反対である・・
 
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 Mayの研究は、私たちの経験と理論との間に大きなギャップがあることを明らかにした。私たちは、自然生態系には驚くほど多くの生物が互いに密接にかかわり合いながら共存していることを「知って」いる。しかし理論研究は複雑な生態系の維持を不可能だと予測しているのだ。

「(注2)数理モデル
直接的な実験や観察が困難なときには、しばしば模型が利用されます。例えば、車の安全性能を調べる衝突実験には、本当の人間ではなくて、人間の特徴を備えた「衝突実験用模型」を利用するのが普通です。自然科学の研究においても、研究対象とする現象や系の注目する特徴を抽出し、そのような特徴を備えた数学的な模型を使って研究を進めることが可能です。このような数学を利用した模型のことを数理モデルと呼びます。本研究では、たくさんの生物種が互いに助け合ったり、食べたり、食べられたりすることで個体数を変動させる様子をとらえた数理モデルを利用しています。」龍谷大学のリリース

May以降の複雑性ー安定性研究はさまざまな相互作用のなかでも、主として捕食-被食関係に着目することで進められてきた。だが現実の生態系には、捕食-被食関係の他にも、相手に必要なサービスを提供しあうことでお互いの増殖を助け合う相利関係や、資源や生息場所をめぐって争うことでお互いに増殖を邪魔し合う競争関係など、多様なタイプの関係が存在する。

 「(注3)相利的な関係
 生物は互いに関わり合い、影響を及ぼし合いつつ生活しています。そのような関係のなかでも、互いの増殖を支え合うような二種間の関係のことを相利関係と呼びます。イソギンチャクとそこに共生するクマノミの関係、植物とそこから蜜などの資源をもらう見返りとして花粉をほかの花に届ける手伝いをする動物(昆虫や鳥など)の関係、植物とその果実を食べつつ同時に種子を遠くに運ぶ役割を果たす動物の間の関係などはみな相利関係ということができます。」龍谷大学のリリース

「 (注4)生態系サービス
生物と物理・化学的環境が相互に関係して作り上げているシステムを生態系と呼びます。生態系は私たち人類に多大な利益・サービスを提供しており、これを生態系サービスと呼びます。例えば、食料や燃料、木材などの提供、水の浄化や気候の調節、宗教や文化的生活の基盤の提供、酸素の生産や土壌の形成などはみな生態系サービスの一種です。生物多様性はこの生態系サービスの基盤であり、生物多様性が失われることで生態系サービスの劣化が生じることが知られています。」龍谷大学のリリース
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 現実には生物の個体数はさまざまなタイプの相互作用に動じに影響されながら変動しているに違いない。この種間相互作用タイプの多様性は、生態系の複雑性-安定性関係にとってどのような意味を持つであろうか?
現実の生態系は、さまざまなタイプの種間相互作用がミックスされた、いわば「ハイブリッド生態系」であり、どれか特定の相互作用のみでできているわけではない。異なる種間相互作用を混ぜ合わせたとき、生態系の複雑性-安定性関係はどのようなもになるだろうか。

「たとえば、鳥の仲間が昆虫を食うといった、一方が他方から搾取する敵対的な関係(食う-食われる関係)もあれば、植物とその花粉を運ぶ昆虫とのあいだに成立するような、互いに助け合う関係(相利関係)もある。これまでの研究では注目されることのなかったこのような種間関係の多様性こそが、生態系をささえる鍵なのではないかと考えた。」新着論文レビュー

ハイブリッド生態系の数理モデル

私たちは、Mayのモデルにいくつかの現実性を高めるための仮定を加えることで、仮想的な生態系を作った。

「この数理モデルでは、多くの生物種が互いにかかわりあいをもっており、ほかの生物種の影響をうけ個体数の増減するようすを記述した。また、この数理モデルには相利関係と敵対関係の両方が含まれており、さらに、その混合の比率を変えられるという従来の数理モデルにはない新しい特徴を備えた。」新着論文レビュー

「2~200種の生物がいる生態系を想定。それぞれの種の間で、花を咲かせる植物とミツバチなど互いの繁殖を支え合う協力関係か、食う食われる捕食や寄生など敵対関係か、もしくは無関係と仮定し、組み合わせて約7万パターンの初期条件を設定した。さらに気候変化や人間活動の影響などの外部要因も考慮した上で、生態系の変化を約7千万回シミュレーションしてその結果を解析した。」(京都新聞2012/7/20)

① モデル生態系の複雑性を一定のレベルに保ったままで、種間相互作用のタイプや組成を変化させた
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 生物間に捕食-被食関係しか存在しない生態系は比較的安定的になることが多い。しかし、そこにほんの少量の相利関係を加えると、生態系は極端に不安定になるのである。・・さらに相利関係の増やしていくと、生態系は再び徐々に安定性を取り戻す。相利関係が種間相互作用全体の70%程度に達したときに安定性は最大になり、それを超えると生態系の安定性は再び低下していく。相利関係のみで出来た生態系はとても不安定となる。つまり、捕食-被食関係と相利関係の両方が存在する生態系について言えば、二つの相互作用タイプがほどよく混ざっているときにもっとも安定だということになる。

「この結果は、種間関係の多様性が生態系を維持するうえで鍵となることを示しただけでなく、これまでの生態学における、食物網(食う-食われる関係のみで構成された生態系)などひとつの種間関係のみにもとづくアプローチの限界を示唆した。」新着論文レビュー

②複数の種間相互作用が混在するハイブリッド生態系において複雑性が生態系のバランスに及ぼす影響
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 捕食-被食関係のみで成り立っているときには、生態系の複雑性が高まるに従って、安定性は緩やかに低下する。また相利関係のみで構成された生態系では、生態系が複雑になるほど安定性は急速に失われる。
捕食-被食関係、相利関係のいずれかのみしか存在しないときは、複雑な生態系は不安定になった。この結果は、複雑な生態系は不安定であるというMayの理論予測と一致する。

捕食-被食関係と相利関係の両方の種間相互作用が存在するハイブリッド生態系では、中程度の複雑性のところに「不安定性の谷」が存在し、それを境にして正負まったく逆の複雑性効果が観測される。

複雑性(種の数が多い、関係を結んでいる種ペアの数が多い)が全体的に低い場合、安定性がいちばん高くなるのはもっとも生態系が単純なときであり、複雑になるほど安定性は低下する。だが、複雑性が「不安定性の谷」より高いときは複雑になるほど安定性が高まるというパターンがあらわれるのだ。この時、種の数が多いほど、そしてお互いの関係する種のペアが多いほど、各生物種の個体数変動は抑えられ、生態系のバランスは保たれることになる。複雑性が生態系の安定性を高めるのだ。

「生態系が複雑なのは周知の事実であり、従来の理論ではそのことを説明できなかったが、自然界にありふれた種間関係の多様性を考慮すると、複雑性により生態系の安定性は促進される。これら(二つ)の理論予測は、ほかの種間関係である競争関係の存在や、種間関係のネットワークの構造など、いくつかの前提を変えて数理モデルを解析してもつねに導かれただけでなく、数学的な解析によっても示された。」新着論文レビュー

「絶滅の危機にさらされた生物を保全したり、将来における再生のために生物個体を人工的に飼育したり、植物種子や遺伝子を保管する試みがなされていますが、本研究はこれだけでは保全の方策として不十分である可能性を示唆しています。
生物多様性の保全のためには、どのような種がどのような関係を築いているのか、あるいはその関係が地域によってどのように異なっているか、そしてどのように生じるのかを明らかにするなどして、「種そのもの」だけではなく、「種間の関係性」を維持するための方策について考える必要があります。 」龍谷大学のリリース

 

北里八雲有機牛 [有機農業/食物にする生命との付き合い方]

2013年 2月22日の畑の便りの再録
 
北里八雲有機牛は、2009年に肉用牛として日本で初めて「有機畜産JAS基準」の認定を受けました。2013年2月から扱います。
有機畜産とは3年間、農薬や化学肥料を一切使わない草地で栽培された飼料を食べる家畜を生産することで、飼育、出荷、と畜、保管などの行程が、全て有機でない一般の牛と分離されています。
有機畜産4つのポイント
①飼料は主に有機の飼料を与える。(有機畜産では15%まで非有機飼料給与できますが、北里大学八雲牧場では100%自給有機飼料のみ給与)
②野外への放牧など、ストレスを与えずに飼育する。
③抗生物質などを病気の予防目的で使用しない。(治療で使用した場合は通常の2倍の休薬期間)
④受精卵移植技術を使用しない。

詳しくは
 
函館と室蘭の中間に位置する八雲町は北海道酪農発祥の地としても知られています。この八雲町の人家の影もない内陸部に、北里大学八雲牧場があります。面積は370ヘクタール、この広大な土地で、約280頭の肉用牛を自給飼料100%の草資源のみで生産・肥育しています。

輸入穀物飼料を使わず、自給飼料(八雲牧場の草)100%で肉用牛を飼育し、その排せつ物をたい肥にして牧場に還元するという、自然の循環を大切にした「環境保全型畜産」に取り組んでいます。
元来草食動物である牛は草で育ち、その排せつ物から堆肥を作って牧草地に還元することで無駄のない「資源の循環」が成立します。放っておけば伸び放題になる草を食べるのも牛なら、排せつ物で大地を肥やし、豊かに牧草を茂らすのも牛であり、北里大学八雲牧場は牛がつくる牧場なのです。
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牧場内生産飼料だけで育てます

北里八雲牛は春から秋まで放牧し、冬期は舎飼いされます。四季を通じて当牧場で生産した牧草だけを食べて大きくなります。トウモロコシサイレージや輸入穀物等も一切与えておりません。
牛舎で与えられる飼料は、乾草(牧場生産の乾草および牧草のラップサイレージ)、グラスサイレージ(牧場生産の牧草を貯蔵した発酵飼料)です。

日本の飼料自給率は25%まで低下し、75%の飼料を海外に依存しています。家畜の排泄物は、飼料生産国に還元されず、日本国内で処理しなければなりません。しかし、還元する土地が少ないという問題があります。一方、飼料輸出国は土壌中の養分が持ち出されるため、年々、地力が低下しています。また、人は穀物を直接食べることができるので、これを牛の餌にすれば、遠回しながら、世界の食糧事情に悪影響が出かねないという事情もあります。

牛の種類

牛は頑強で寒さに強く、草のみの飼料でも体重がよく増え、肉の食味も良い性質の牛である日本短角牛など6品種が飼われています。八雲牧場ではこれらを交雑することでさらに放牧適正が高く、草資源を有効に活用できる牛を生産しています。日本短角種(日本在来種)および日本短角種とサレール種(フランス原産)の交雑種の他に、日本短角種、アンガス種、ヘレフォード種、シャロレー種とこれらの交雑種です。
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 大好きな草をおなかいっぱい食べ、ストレスの少ない環境で育った牛は精悍(せいかん)という言葉が似合うくらいに生命力に満ち溢れています。
飼料を自家産牧草のみにしたことで4つのメリットが牧場で生じてます。

1、牛が病気に強くなった(草だけで丸まると太ります)
2、子牛の感染症の心配が少なくなった(経済動物のリスク、死亡率が低下)
3、飼料コストと餌の管理労力が軽減された
4、排せつ物処理のスタッフ負担が軽減された(水分が減り堆肥の作業性が向上、臭気が軽減され作業環境が改善)

健康に良い牛肉

牛肉では、一般的な食事による消費量で、抗ガン作用や肥満防止の脂質代謝などの機能性を、容量依存的に発揮する共役リノール酸(CLA)が多く含まれています。代表的肉牛である和牛(黒毛和種)の倍以上含まれています。脂肪はn-6系とn-3系に大別され、栄養学的にはn-6/n-3系比が4以下が望ましいとされています。和牛(黒毛和種)は19前後ですが、北里八雲有機牛は3以下です。
 
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↓北海道で有機飼料をエサに育った"有機牛”を使用してます。
虹屋小針店で食べた時は美味しかった。

 

 

 

 
 
 

英国でのオーガニック食品と通常食品の時代遅れな比較研究 [有機農業/食物にする生命との付き合い方]

№09-34 2009年8月小針店で印刷・配布した「畑の便り」再録

7月、英国の食品規格庁(Food Standards Agency、FSA)が公表した研究結果が、海外では話題を呼んでいます。それは、オーガニック食品と通常生産された食品とを比較した研究で、重要な栄養成分含量では大きな差がないという内容です。

  随分、時代遅れの評価法だと思います。車、自動車を加速性能などの乗り心地だけで評価しているようなものです。今は、二酸化炭素CO2の排出量など環境への影響、環境負荷も大きなポイントです。製造での排出量、使用時の排出量など環境負荷も大きな評価項目です。乗り心地に大差なければ、環境に与える悪影響が少ない方が選ばれる時代です。

環境負荷の評価・・将来世代への責任

  私たちは、この地球にしか生きれません。その環境が人間が生きていけない、生き難い環境になったら大変です。ですから、オーガニック食品と通常生産された食品とを比較するなら、両方の環境負荷も比較すべきです。オーガニック・有機農法と通常生産の環境に与える影響も比較するのが今の時代感覚ではないでしょうか。

  環境負荷の中でも、着目点は二つあると思います。一つは、農薬の生態系への影響です。第二次大戦後に普及した合成農薬は、特定の病害虫を殺傷するだけでなく、同種の無害な生き物や鳥などの捕食=天敵生物を殺してしまいます。病害虫だけでなく広く多くの生き物を殺してしまいます。環境・生態系を脆弱にしてしまう悪影響です。

  もう一つは、化学肥料の多用による土壌の劣化です。土壌中に滞積した化学肥料が、地上に白く噴出す塩害。有機物・堆肥など有機肥料を施さない田畑の土壌は、ミミズなどの土壌生物がいなくなります。ミミズは土壌ごと有機物を食べて、丸めて排出します。団粒になった土壌は、内部に水分や作物が根から吸収する栄養分、肥料分を蓄える貯蔵庫です。ほかの土壌微生物たちも、こうした土壌の団粒構造をつくります。その結果、旱魃などに強い、生産力の高い土壌になります。化学肥料だけに頼ると、こうした土壌中の生き物たちの餌を与えないので、土壌が劣化します。

  この生態系が脆弱になり土壌が劣化するほど、農業が持続しにくくなります。将来世代が食い物に困る可能性が高くなる。今日明日の問題ではないし、自分が困る問題でもないけど、私たちの命が繋がっていく将来世代の問題。 

安全性は既に明確??

また「農薬はこの研究の対象からは除外されている。」のです。「なぜならば我々FSAは農薬の安全性については既に厳密に評価され明確であるという立場であるからである。」「オーガニックでも通常生産でも全ての農薬の使用は残留農薬によるリスクが概念上ゼロであるように規制され監視されている。」「概念上ゼロというのは毎日一生涯にわたって摂取しても検出できる影響はない量のADI以下の摂取量であるということである。」

  “既に厳密に評価され明確”と言い切れるのでしょうか。例えば農薬とパーキンソン病の関連。手足の振るえや転びやすくなるなどの神経疾患、パーキンソン病と農業従事者など職業的農薬使用の関連は、2000年頃から言われていました。「今回のコホート研究の結果、農業あるいは園芸農業従事者におけるパーキンソン病発症のリスクの増加が示唆されたが、これはデンマークでは、安全な農薬の使用が行政による規制と労働者の訓練によって保たれてきたと一般的に信じられている事と対立する知見であり、パーキンソン病の発症に、農薬が重要な危険因子であるとする仮説に根拠を与えるものである.」食品・薬品安全性研究ニュース第37号

この関連性が再度確認され6月に公表されました。フランス国立衛生研究所とピエール・エ・マリー-キュリー大学の疫学的研究で、若い農業者よりも高齢の農業者で強く、農薬への暴露量と関連し、また有機塩素系殺虫剤に暴露された人の発病リスクは、普通の人に比べて2.4倍も高かったそうです。

 有機塩素系殺虫剤は50年以上前から使われている農薬。その人の健康への影響、神経疾患との関連がようやくわかってきた。これまでの経験では、こうした毒性などは、職業病として発見され、一般公衆に検出が広がっていきます。 今、厳密に評価され明確に安全として使われている農薬、50年後にも、安全、人の健康への悪影響なしといわれているだろうか??厳密に評価しているのは確かだろうけど、明確に安全というのは言いすぎだと思います。

BSEの教訓・・命の繋がりの中の食物

 狂牛病BSE、1980年代に英国で狂ったように暴れて死んでいく病気が牛に顕れました。1986年、死んだ牛の脳が海綿状になっていることがわかりました。英政府は、1988年、「人間の健康に影響を及ぼすことを示唆するものはない」
89年、BSEによる 「危険はない」
90年、「脅威を感じる理由はまったくない」
92年には「危険はまったくない」
94年には、イギリスの牛肉はただ安全なだけでなく、「まったく安全」。
96年3月、10万頭以上のBSE感染確認牛が出た後、この疾病による人間の犠牲者が10人出ており、彼らがすでに死亡、あるいは死にかけていること、犠牲者の数がどこまで増えるのか見当もつかないことを議会で報告

  この10年間政府が安全を保証してきた後にどんでん返しの歴史を省みると、厳密に評価し明確に安全という姿勢は、科学者の傲慢とおもえます。人間・ホモサピエンス「知恵のある人」の知恵は、無知の知ではないでしょうか。

 英国で有機的に飼育された牛、草食動物の牛には草や穀物しか与えない飼育法の牛には全くBSEが発生していないという事実に英国民は学び、約20億ポンドの有機食品を消費するようになりました。

あらゆる生物は、食物連鎖という命の繋がりの中で生きています。牛は草の命を頂き、私たちは牛の命を牛肉や牛乳で頂いて生きています。牛の排出物は、畑に帰り多くの土壌生物の食物となり、団粒構造の土壌のなかで肥効成分になり蓄えられ、根から吸収され、草をかたちづくり、牛に食べられる。その繋がり方の詳細は不明だが、繋がり方の添った農業、畜産での命の育み、作物栽培、家畜飼育が良い。

それに逆らったやり方では、BSEのようなことが起こる。その繋がりを絶つやり方、農薬散布・化学肥料多用などでは生態系が脆弱・劣化して農業が持続しにくくなり、将来世代が、私たちの命が繋がっていく将来世代が食い物に困る可能性が高くなる。食物を命の繋がりの中に位置付けてみる認識の枠組みの変化、フレームシフトがBSEの教訓だと思います。

その認識フレームでの比較が求められているのではないでしょうか。

 英国の食品規格庁の比較研究は、旧来の枠組みでの、それもかなり傲慢な姿勢での比較であり、これでは差異が見えてこないのだと思います。普通栽培の雑草対策での、除草剤だけのやり方と、総合的雑草管理=作物のローテーションや質の高い種子を使う、ポリエチレンシートを使う、天敵利用などと除草剤を組み合わせるやり方の差異が、この評価法では見えません。


水耕栽培、養液栽培と農薬//有機農法的水耕栽培、養液栽培 [有機農業/食物にする生命との付き合い方]

№09-08 2009年2月小針店で印刷・配布した「畑の便り」の再録

 スーパーでは、ミズナなど様々な養液栽培の野菜が売られています。温室ハウスなどで植物の生長に必要な養分は化学肥料を溶かした液肥・培養液で、それを循環させて与える栽培方法です。
  発泡スチロールの板、スポンジなどの根を張るための培地を用いた固形培地耕と培地を用いない水耕栽培、噴霧耕とがあります。培地に土を用い、液体肥料をチューブなどで補給するものは、養液土耕といい養液栽培には含めません。
  なぜなら、作物と土、根と土壌微生物が織り成す生態系が、培地栽培や水耕栽培にはなく、養液土耕にはあるからです。化学肥料の養液栽培では水中の根に根毛が見られません。

根に取り付く病害虫に脆い

 養液栽培は土作り、施肥の技能・手間が省けるとか、冷暖房をすれば一年中栽培できて計画的販売が可能とか、外食のファミリーレストラン内に装置を設置して店内で、お客さんの目の前でレタスなどを栽培できるとか、閉鎖性が高いので病気が出にくく無農薬栽培が可能などの利点もありますが、多くの欠点もあります。その一つが、病原菌が入ると蔓延、慢性化しやすい。

 栽培前にハウス内や栽培装置の消毒をおこなう。床をコンクリ張りにしたり、施設に入るには着替えるなど土ぼこりなどで病原菌を持ち込まないようしています。そのように密閉度をたかめ消毒して、無菌状態を保とうとしています。が、栽培施設がいったん病原菌に汚染されると入られると、天敵生物もいないので、非常にもろい。

  葉や茎を外から食べ荒らす病菌、害虫は、普通と同じ農薬散布で対処できますが、最大の弱点は根に取り付く土壌性のもの。病原菌、その胞子などが循環する培養液に混じって、作物だけでなく栽培装置、施設全体を循環し広がり発病・汚染します。根腐病の発生は80%以上だそうです。

  そうなると殺菌消毒しますが、至る所に広がった病原菌を全滅させることは難しい。例えばスポンジ状の培地を完全に消毒することは不可能です。それで、しばしば、病害発生を繰り返します。

  つまり養液栽培の要点は、培養液の殺菌です。その方法にはどのようなものがあるのでしょうか?

銀で殺菌

つまり養液栽培の要点は、培養液の殺菌です。その方法にはどのようなものがあるのでしょうか?草刈真一さん(大阪府環境農林水産総合研究所)の資料などを基にまとめてみました。

加熱殺菌は安全性、殺菌効率、確実性は高いのですが、燃料代がかさむ。資材の殺菌には使われていますが、培養液消毒では少ない。

紫外線は、安全性、病原菌の種類を問わず効果がありますが、培養液が濁りが多いと効率が低下します。紫外線ランプの電気代もかさみます。オゾンは上水道でも用いられている、安全性、殺菌効率、確実性は高い方法で、塩素より殺菌力、安全性が高いのですが、装置が高く、高額の設備投資が必要です。

砂を使った緩速ろ過が一部で用いられています。砂による濾過作用と砂中に棲息する微生物の作用で病原菌が抑制され発病にいたりません。しかし大量の培養液に処理にはむきません。砂の代わりフィルターを用いる、フィルターは銀でコーティングして銀の殺菌力も利用します。これは、安価で導入も簡単ですが、フィルター交換の手間が新たに生じ、多発する施設や病気によっては効果がない。

最も普及しているのは、オクトクロスという農薬。培養液に使える(登録してある)たった一つの農薬です。ポリエステル製に布に銀を結合してあり、1トンの培養液に30cm×100cmのこの褐色の布を浸します。

銀は金属元素中最大の殺菌力をもち30~50ppb(十億分の一)濃度で効果を発揮します。液に浸すと銀が放出され、約16時間後にこの濃度になります。使いやすいし、多発する根腐病に有効で、合法的に使える農薬なので多用されています。ただ頻発する施設や発生すると全滅に近い被害になる青枯病や軟腐(なんぷ)病などには効果がありません。

  無農薬が可能といわれてますが、青枯病や軟腐(なんぷ)病などが発生したら①その時栽培していたものは廃棄し、施設全体を隅々まで消毒して、新たにやり直す②普通栽培で使われているが、水耕栽培では合法的には使えない農薬を使い、栽培終了後に念入りに消毒などなど、どちらにせよ完全に殺菌はできません。つまり、新規就農者が飛びつきやすい敷居の低さがあるが、潜在的にリスキーで、借金をせおって撤退する例が多いのです。

廃棄される培養液による環境汚染

 結局、養液栽培では培養液をミズナやレタスなど作物が吸収利用した肥料分を補って循環使用して、コスト削減して収益を保っています。しかし、病害発生を予防するためには、培養液を捨てなければなりません。窒素成分などの肥料成分や銀イオン、農薬が含まれている廃液が大量に出ます。これによる川などの富栄養化などの環境汚染が生じます。
  
また不良果などの植物残渣の始末も大変です。トマトの栽培では、腋芽や不良果などの植物残渣が毎日、1ヘクタールあたり1トンほどでます。露地栽培や小規模などではこれらは畑に鋤き込むなどしています。大型温室での栽培になるとそれでは追いつかず、産業廃棄物としてコストをかけて処理しています。

こうした点を克服する栽培法が開発されつつあります。  
 
土作りならぬ“水つくり”・・有機肥料による養液栽培

 こうした点を克服する栽培法が開発されつつあります。有機肥料による養液栽培技術で、野菜茶業研究所からポット試験で開発・実証結果が2006年1月に公表されています。各地で実用化が進められています。

トウモロコシからデンプンを製造する工程で出る廃液、鰹煮汁(カツオブシを製造する際の廃液)、油かす、魚粉、奇形果など栽培の残渣などの未分解の有機物を粉砕などの物理的処理して、有用な土壌微生物と共にして培養液をつくります。この過程を、水づくり(耕水工程)といいます。
 
 =養液栽培槽に水を満たし、少量の土壌(1リットルあたり5g程度)を微生物の植菌の目的で添加し、エアーポンプなどで酸素を供給しながら、1リットルあたり乾重1g程度の少量の有機物を毎日添加します。この作業を約2週間続けて養液を発酵させると投入した有機物を速やかに分解(無機化)する微生物生態系が完成します。これに作物を定植し、以後は作物の生育にあわせて必要な量の有機肥料を培養液内に直接添加していけばよいのです。=野菜茶業研究所の発表文より
有機肥料による養液栽培技術の開発-化学肥料を使わず有機肥料だけの養液栽培が可能に-
(農研機構野菜茶業研究所ホームページ) 
 
こうすると、作物の水中の根に根毛が発生します。これは、根毛は化学肥料をとかした従来の培養液では見られません。その周囲で根を覆うように有用な土壌微生物の膜バイオフィルムができます。この微生物の膜バイオフィルムの微生物が未分解の有機物を、分解して肥料分に変えて、作物に供給しています。

微生物の膜バイオフィルム

 つまり、この技術は有機栽培の田畑で形成される作物(根)と微生物の共生を、培養液中で再現するものです。いわば、施設園芸での有機農法といえます。

 「根部の病害を引き起こす菌は根の周りに出来るバクテリアの膜にシャットアウトされる。」(開発者の篠原信さん)ので根腐病は無論、農薬では防げなかった青枯病など病害の発生が抑止できます。

また味の面でも、化学肥料の畑や水耕栽培のトマトが「糖度だけが高く、酸味とうま味が足りない。結果的に奥行きない薄っぺらい味」なのにたいし「糖度と酸度のバランスがとれていて、そのうえ旨味成分が非常に複雑なのだ、食べた後に余韻が残る」と評価されています。
 
 なぜ美味しくなるのか、虹屋は微生物膜バイオフィルムのお陰ではないかとおもいます。冬場、霜が降りるような時季になると露地野菜は凍死しないために様々な成分、多糖類などを作ります。それが、例えば甘い冬場のホーレン草といった美味しさを私たちに感じさせます。バイオフィルムは毛根発生を誘導していますから、他にも様々な成分を作らせ、それが美味しさにつながっているのではと思います。
 
フードマイルを縮める
 
栽培技術的には、これまでも養液栽培に有機肥料を利用する研究は各国でありましたが、実用的な成功例は、ほとんどありません。この野菜茶業研究所で研究・開発された方法は、日本酒の発酵技術(並行複式)を応用し、投与する有機物の全量を有機肥料にして栽培する画期的な技術です。
 食品加工や農業で出る様々な有機廃棄品、これまで堆肥にされていなかった廃棄物を利用できる点も優れています。

 虹屋は、遠方より化石燃料を使って生鮮野菜を運ぶよりも、近場で風力発熱など自然エネルギーを使い周年栽培し賄う方が、時代に合っていると考えます。この有機物・肥料による養液栽培は、その周年栽培を支える栽培法になりうると期待しています。

まだ多くの課題があります。例えば有機物の添加・投入が多すぎると、培養液がいわゆる腐敗した状態になってしまったり、根のバイオフィルムが発達しすぎて、病害抑制効果が失われたりします。
 作物によって、生育段階によって要求する養分・肥料分は違います。細やかな水作り技術・マニュアルの開発が求められます。
 各地でこの技術の実用化に取り組んでいる農家、研究者にエールを送ってください。


蓼・タデ食う虫も、好き好き 医食同源と害虫 [有機農業/食物にする生命との付き合い方]

№08-06 2008年2月小針店で印刷・配布した「畑の便り」の再録

 虹屋は取り扱っている野菜の、一般的な慣行栽培での農薬の使用を、生産地の都道府県が制定した防除の標準をもとに表示しています。ある方から、「私は玉葱のあの臭いが嫌いで食べられない。玉葱に虫がつく、そして農薬をあんなに多く使うなんて信じられない」と言われました。

  玉葱のあの香り、血液サラサラ効果があるそうですが、切っていると涙が出たりして嫌いな方も居ます。この方のご家族には玉葱の好きな方がいて「蓼食う虫も好き好き」と笑い話でその場は済んだのですが、これは食物の薬理効果、医食同源と関わっています。

タデ・蓼食う虫も好き好き  4億年、今も続く攻防

蓼・タデは約800種のタデ科の草本の総称で、日本には約50種あります。蕎麦のソバ、漢方薬のダイオウなどもタデということになりますが、一般には刺身のツマに珠紅の若芽が使われるヤナギタデ(柳蓼)です。蓼類の葉は酸っぱいのですが、ヤナギ
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タデには加えて特有の香りとピリッとした辛味があります。料理店では葉を付けたままアユの塩焼きに添える出回るアユ料理に欠かせないので、別名アユタデ。葉をすりおろして酢を混ぜ、のばした「タデ酢」に漬けた、きれいな焼き色がついた鮎「これを頭からかぶりつく。鮎の内臓のほろ苦さと蓼のピリ辛さが融合した深い味わいは、鮎好きにはたまらない一品である。」 

 蓼の名前の由来は、その辛味が舌をただれさせるほど辛い、タダレ→タデから来ているといわれます。わさびなどと違って、鼻につんとくることはなく、生の葉を食べて暫くすると、刺激がさっと走るそうです。こんな辛い葉にも虫がつくということから、人の好みはさまざまであるということを「蓼(タデ)食う虫も好き好き」出典は、中国の古典にある「氷蚕は寒さを知らず、火鼠は熱さを知らず、蓼虫は苦さを知らず、ウジ虫は臭さを知らず」。また「蓼虫(りょうちゅう) 葵菜(きさい)に移らず」ということわざもあります。蓼タデにつく虫は、手近に葵(あおい)という味のいい甘菜があれば、そっちへ移りそうなものだが、そうしない。人も各々の好みがあるので他からああしたらいい、そうしたらどうだ、などといっても聞き入れないものだといった意味です。
 
 蓼虫とは??

 「蓼虫」はホタルハムシなどの甲虫ですが、数十万種の草食性の昆虫のほんの一握りです。他の虫は、特有の香りとピリッとした辛味が嫌いで食べないのです。それが平気な虫が蓼虫で、彼らにとってはヤナギタデは専用食堂です。草本は最大の敵である草食性昆虫を害する防御物質を、産出します。それが平気な極少数の虫がいて、それがその草や木の害虫になるのです。
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  タバコのニコチンは、強力な神経毒で多くの虫はタバコを食べません。しかし食葉性のヤガ類のオオタバコガ、キタバコガの幼虫は、ニコチンが神経に作用する前に速やかに体外に排泄する仕組みがあるのでタバコを食べれます。タバコスズメガはニコチンを短時間で無毒な物質に変える代謝機能があるので、名前の通りタバコを専用食堂にしています。このニコチンの壁を突破したタバコ害虫は日本でも50種近くいて数多いと思えますが、草食性の昆虫全体に較べればほんの一握りです。
  こうした草食性昆虫を害する防御物質を持たなかったとしたら、数十万種の草食性の昆虫が全て食べれるのですから、アッという間にその草本は全滅してしまいます。人には甘く美味しい葵(あおい)も防御物質を持っていて、それが多くの虫には毒物なのです。ダデの防御物質には平気な蓼虫も、葵のそれは無害化できないので移らないのです。

防御物質と進化
 
  また、新たな強力な防御物質をもつ新たな植物、仮に虹屋草が現れたとします。これを食べれる昆虫はいませんから、無敵です。他の害虫がいて弱められている草本を駆逐して、地球上を全部覆う勢いで繁殖するかもしれません。が、やがて、有性生殖や突然変異で様々な遺伝子を持った昆虫が日々生まれていますから、虹屋草を食べれる虫が現れます。虹屋草の害虫誕生です。それで虹屋草の繁殖が抑えられ、地球上には虹屋草しかいないという事態にはならないわけです。

  キウイフルーツが、日本の持ち込まれた当初は、虫も病気もつきませんでした。それから数十年たった現在では数多くの病害虫が現れています。経済栽培では農薬を使うのが当たり前になっています。それは従来いた虫が食性を拡げる形ですが、キウイフルーツだけしか食べないとか主食にするようになった昆虫が現れたら新種の昆虫誕生です。植物と昆虫の種・多様性の増大=進化には、植物の産出する防御物質の変化とそれに対応する昆虫の変化が深く関わっています。
 
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大根、カブ、キャベツ、ブロッコリー、わさびなどのアブラナ科の植物にはカラシ油配糖体が共通して含まれています。まずカラシ油配糖体を持った植物、アブラナ科の元祖が現れ、それを食べれる虫が現れ、その虫から身を守るために、少しちがったカラシ油配糖体を産出する新たなアブラナ科の植物が現れ・・とアブラナ科は種が増え、虫も種が増えていったと考えられます。
 
  つまり、作物など植物は根をおろして生存しています。つまり敵が来ても逃げ出せません。それで、植物は草食性昆虫など食植者・天敵に食われないようにするため化学的防御物質を生成します。それで昆虫などは、その防御物質に対応して特定の解毒システムを作り出し適応します。適応した昆虫らは生物種として、量としても、草食性の昆虫の全体から見れば極小数、少量です。つまりある植物種にはその植物種を食そうとする特有な食植者が存在しています。ですから「蓼食う虫も好き好き」。
 
  またこうした防御物質は、もう一つの敵、細菌やカビなども害する作用を顕します。タデの防御物質、我々が辛味を感じる物質は弱い抗菌効果と強い酵母やカビを抑える効果をもっています。わさびの辛味成分は、カビや細菌の増殖を抑えます。それを私たちは痛み易い刺身を食べる際に利用してきました。室町時代の料理書には「コイはワサビ酢、タイはショウガ酢、スズキはタデ酢、フカは実カラシの酢」とあるそうですが、冷蔵庫がない時代、魚の鮮度を保ち、食欲をそそるために草本の防御物質が使われていました。欧州ではタデの実を胡椒の代用としていました。
 
  このように植物が防御物質で多様化すると、それをもたない他種植物が病中害のために生息できない場所でも生息場所にできますし、自ずから種仲間を見つける機会が増え交配がやりやすくなりますし、草食性昆虫などの天敵を減少させられます。こうした利点が植物にはあります。他方、天敵の草食性昆虫などには、適応した防御物質を産出する植物を彼ら専用の餌場にできます。異種とのすみわけが細分化し、仲間とは生息場所が近くなり、繁殖などが有利に運べることになります。つまり食植者の量は極めて少ないが、食植者の種数は極めて多くなるという豊富な多様性をもった生態系が形成されます。今から4億3,800万~4億800万年前と見られる地層から昆虫の化石が見つかっています。少なくとも4億年前から植物と草食性昆虫との防御物質を軸とした攻防は続いているわけです。
 
食物の薬理効果、医食同源と人間の解毒能力

 今から4億3,800万~4億800万年前と見られる地層から昆虫の化石が見つかっています。少なくとも4億年前から植物と草食性昆虫との防御物質を軸とした攻防は続いているわけです。私たちのご先祖が地球上に現われたのはたかだか100万年前。既に周りの植物には多種多様な防御物質が満ち溢れている環境です。それらを解毒するシステムを持っていなければ、身体に備えていなければ、食べ物に困り生きていけません。
 
  そのため例えば、肝臓にはフラボノイドやアルカロイドなどの植物が産出する防御物質・生体毒性をもつ化合物を解毒代謝をおこなう酵素が多種あります。その酵素をつくるための遺伝子群を我々は受け継いでおり、摂取、侵入してきた物質の毒性に応じて適した種類の解毒酵素を生成するよう遺伝子の発現を制御するシステムも備えています。昆虫は特定の少数の防御物質を解毒できるだけですが、この仕組みで私たちは多種類を解毒できます。つまり、昆虫が特定の植物しか食べれない、食べないのに、私たちは多種の植物を、その多種の防御物質を解毒できるので食物にできます。昆虫には無い、体内に侵入した毒素に結合し働くなくする抗体を生成する仕組み・免疫系もあります。
 
 こうした高い解毒能力をもつため、虫が致死する量より多く摂取、10倍100倍とっても死にません。このため致死量以下の摂取量での様々な生理活性効果、つまり薬効が顕れてきます。ヤナギタデは消炎、解毒、利尿、下痢止め、解熱、虫さされ、食あたり、暑気あたりなどに、その全草を生薬「水蓼」(スイリョウ)と呼び用いられてきました。江戸時代には霍乱(コレラ)に用いられたと記録されています。現在ではタデには血圧降下作用、がん細胞の増殖を抑えることが判っています。これの薬効は、防御物質、辛味などを感じさせる物質によるものですが、解毒システムという観点からは、一種類だけを食べ過ぎ摂りすぎては反って害作用が顕れるといえます。
 
  また、植物の成分を異物と判断した人間の体は、これを解毒代謝するために、体内のさまざまな活動を活性化させます。これから春の山菜の時期です。蕗のトウをはじめ、多くは植物の新芽ですから多くの防御物質を持っています。冬眠から覚めた熊は、こうした山菜=新芽を多量に食べて、その防御物質の作用や解毒代謝するために活性化する体内のさまざまな活動を利用して体調を整えます。人間も同じです。
 今日の医薬の大半は、草本の産出する防御物質の化学構造を手直するなどして開発されたものです。
 
 良薬が口に苦いのは?
 
タデも山菜も辛味、苦味、エグ味を感じさせます。植物と動物の防御物質を軸とした攻防という点から見ると、生理作用が激しい防御物質を含むものを体内への入り口でのクチで見分けるための警告センサーといえます。
 私たちは、アク出しや煮こぼし、加熱でこれら防御物質を除いたり、不活性化させています。また、作物では苦味やエグ味のない方向で品種改良してきました。こうした味の成分は、植物・作物にとっては大切な病害虫からの防御物質です。それを人間は取り上げて食べやすい作物に変えていっているわけですから、人間によるケア=農作業が欠かせません。それを人間や生態系の他の生き物や環境に悪影響を及ぼすやり方でケアするのか、否かが問題です。
 
 「五穀、五畜、五菓、五菜これを用いて飢えを満たすときは食といい、それを用いて病を療するときは薬という」と漢方では言うそうですが、体は、食べたものと飲んだものから作られ、維持され、調整されてので、何を食べ、何を飲むかというのは、とても重要です。そして今や地球の健康まで考えて、食べる時代ではないでしょうか。 


貧すれば鈍す?鈍すれば貧に耐えられる? 中国産餃子 [有機農業/食物にする生命との付き合い方]

№08-06 2008年2月小針店で印刷・配布した「畑の便り」の再録。

 先週来、中国産餃子で大騒ぎになっています。動物は縄張りのなかで食物を探します。いわば、彼らは何処の何を食べたかは知っている。人間と家畜は知らない。他の動物のように縄張り=餌場のものだけを食べているような食生活を送っていれば今回のようなことは起こらなかったのでは?動物としての基本線を外れた人間のあり方が根底にあると思えます。

  人間にも縄張り感覚はあります。動物には各個体がコアの核心的な狭い縄張りと共有する領域を含む広い縄張りなど様々な縄張りを持っていますが、人間では国民国家が広い縄張りと言えます。動物には縄張りは自己の支配・管理が及ぶ領域で、人間も同様です。ですから、食べ物例えば餃子の件で言えば、自己の支配・管理が及ぶと観念される自国のものなら安心できるわけです。実際今回のような件が日本産の餃子で起きれば、日本政府・厚労省や保健所などの迅速な調査・原因究明が期待できますが、中国では他国ですから日本の調査権限は及ばない。まして春慶節。この時季の中国は、国家機関も開店休業状態ですから動き反応が鈍い。

それでは、どんな対策が可能でしょうか 

「世界で最も強固な食品リスク管理体制」と評価されているEUでおきた事件
 
「世界で最も強固な食品リスク管理体制」と評価されているEU。欧州の各国、多数の国民国家を統合してその上位にできたEUの食品にかかわるリスク管理措置は、狂牛病や遺伝子組み換え(GM)作物の導入規制、トレーサビリティー強化など、「世界で最も強固な管理体制」と評されています。EU域内はもとより、EU市場に輸出する域外100以上の国にも検査チームを派遣、EUの品質・安全基準を満たすようなリスク管理措置を勧告し、その実施や強化にも協力しています。域内のみならず、海外の生産者も含むあらゆる関係者に対する教育・訓練の機会も頻繁に設けています。その結果、アジアでは日本はEUに売ることのできない、EU基準を満たせない”くず食品”を売れる市場と言われていることは以前お伝えしました。

  世界で最も強固、それでも昨年8月にスイスの食品製造企業・ユニペクチン(Unipektin)は、インド産グアガムから製造された食品添加物(増粘剤)の世界規模のリコールを行っています。この添加物にEU基準を超えるダイオキシンとPCP・ペンタクロロフェノールが検出、2~25倍、最大約500倍検出されたためです。
  PCPは除草剤、殺菌剤などとして使われ、製剤の副生成物、不純物にダイオキシンを含むことから日本では1990年に農薬登録が失効している農薬です。

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  グアガムは、パキスタンやインドで取れるマメ科グアーの種子・胚乳部から得られるガム状の水溶性の食物繊維・天然多糖類、類白~わずかに黄褐色の粉末または粒で、わずかに臭気があり。水・熱湯に溶かすと分散し、でんぷん糊の5~8倍の粘稠力の液になります。増粘剤、安定剤、ゲル化剤などの食品添加物として認められており、アイスクリーム、和菓子、水産練り製品、ドレッシング、タレ、スープ、ソースなどに利用されています。「整腸作用」、「血糖値の上昇を抑制」、「コレステロールを下げる」などといわれて、「おなかの調子を良好に保つよう工夫された食品です」などと表示された特定保健用食品が許可されています。

 インドのGlycols Limited社が製造したグアガムを元に、ユニペクチン社が増粘安定剤として食品添加に使われる、商品名「Vidocrem」をつくり、販売輸出しました。ユニペクチン社は「私どものリスク管理標準であるISO(国際標準規格)9001 とIFS(インターナショナルフードスタンダード)に基づけば、この物質は検査が求められる植物性低脂肪製品のカテゴリーに入っておらず、検査は求められていなかった。」
 
 グアガムは高度に希釈されて使われるため、この製品でも消費者に急性の直ちに顕れる健康リスクはないと規制当局は判断しましたが、このインド産グアガム製品はスイス、ドイツ、フランス、オーストリア、英国、フィンランド、スペイン、ハンガリー、チェコ共和国、ポーランド、オーストラリア、トルコ、日本で使われていました。日本ではほとんど注目されませんでしたが、昨年夏、欧州ではアイスクリームなどの回収が行われました。2ヶ月あまり工程中の処理水の汚染、梱包材の汚染、隣接する栽培地に撒かれた農薬などの調査が行われましたが、原因不明で、「外部認証検査機関による全ての原材料のPCPとダイオキシン類検査、外部認証検査機関による全ての最終製品の検査。検査結果が出るまで製品は出荷しない。」で幕を下ろしました。
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なお、問題の添加物の日本の総輸入元の双日食料株式会社によれば「日本に輸入されているものは、今回問題のものとは異なる。問題の製品名がVidocremBなのに対して、日本へ輸入のものは、VidocremA。ロット番号もちがう。」

”地球人”意識と地球全体の管理する組織

  このような食品の安全性や地球温暖化のように、国民国家の枠組みでは解決できない様々な問題を抱えています。従来の縄張り=国民国家=意識を乗り越えた、地球全体を一つの縄張りとし、その管理・支配を観念するいわば”地球人”意識とそれによる国民国家の上位に地球全体の管理支配を担う組織・統治主体の形成が必要ではないでしょうか。食の安全、農薬や食品添加物などの規制を定め、地球全体で執行する組織が必要ではないでしょうか。

  農薬などの規制の基準を共通化する機構はありますが、それを強制する組織はありません。EUがインドの栽培地、工場に強制的立ち入り調査や規制することはできません。インド政府だけです。中国の工場に厚労省は強制調査はできないし、罰することもできません。できるのは中国政府だけです。日本政府、インド政府、中国政府という国民国家の枠組みの統治機構では、有効に安全を守れないのです。

  今回の餃子やこのグアガムなど、より安価に販売できるものを求めて、より多く販売できる市場を求めて企業は、世界中、地球全体を一体として行動しています。企業は既にいわば”地球人”として行動しているのに、その経済活動を社会に人間に適正なものに規制していく地球全体の管理支配を担う組織・統治主体とそれを支える”地球人”意識の形成が遅れていることが真の原因ではないでしょうか。?それができるまで待っていられませんから、当面はEUや米国のように中国の規制当局に”協力”名目で口を挟んでいく事を日本にも中国政府に認めさせることと、今回の問題企業に出資して製造管理を日本のやり方で改善していくことはどうでしょうか??

  私たちの収入が、健康保険料・年金など公的負担の増大で目減りするなか、安価な中国産食品は家計のお助けマンですが、伝えられているような過酷な条件での労働や安全を削ることが、その安さの源泉では?そこがよくならなければ、同様のことが起きるのではないでしょうか。貧すれば鈍す、鈍したから貧に耐えられるで良いのでしょうか?

  中国国内でも、職場の食堂で出された昼食の青梗菜で農薬中毒により二十数人も入院とか、学習塾へいく途中の小学生らがインスタントラーメンを分け合って食べたら4人死亡とか中毒がおきています。中国は一人っ子政策ですから、たった一人の子供を亡くした親の心中を察するに、慰めの言葉も浮かびません。先の改善策は内政干渉、経済侵略とも受け取られますが、それで中国国民の食の安全も高まることも期待できます。日本に輸出される中国製食品の安全性が高めることは大事です。例えば輸入時の検査を厳しくやるとかも考えられますが、たまたま同じ時期に同じ星の上で生きているもの同士、たった一人の子供を農薬中毒で亡くす状態を改善もできる方策が、日本人が食べる物の安全だけを確保する策より良いのではないでしょうか。

私と隣人、男と女の見ている「赤色」は違うらしい? [有機農業/食物にする生命との付き合い方]

№08-30 2008年7月小針店で印刷・配布した「畑の便り」の再録

 人間は視覚でえる情報に頼っています。私たちは三原色、赤・青・緑を識別できます。昆虫や鳥、魚はより多くの色で区別しています。昆虫や鳥は紫外線を見ることのできるので,花々は驚くほどの彩りに溢れていて、空の色は目まぐるしく変化し続けて見えているでしょう。ヒトの視覚はひどくお粗末で、人間の視覚世界はとても狭い。 

また、同じ人間同士でも、視覚でとらえた世界は微妙に異なります。赤色覚は、哺乳類では霊長類で発達した感覚ですが、この赤色感覚は他人と違う場合が多いのです。夫婦で我が子、赤ちゃんの顔を見ても夫と妻では色合いが微妙に異なる別の表情像で見ている可能性が8割、同じ表情像で捉えているのは2割程度。これが赤ちゃんへの対応の夫と妻の違いに直結するわけではありませんが、夫婦でも感覚世界は別なのです。

赤色覚がヒトの社会を創った 

哺乳類、鳥類などの脊椎をもつ動物の色覚は、5億年前の共通祖先では、視物質・光を吸収し反応する感知物質が明暗のみを感知するロドプシンと残りの4つの視物質グループが波長別に光を認識して色覚としています。色覚は四原色性が基本なのです。

 進化上ずっと昼行性動物であった多くの魚類、鳥類、ハ虫類はこの4つの視物質を失うことなく、四原色です。しかし、ハ虫類・恐竜全盛時代を哺乳類は夜行性動物として生き延びました。夜では色覚を失っても問題はないでしょう。むしろ余り役に立たない色感覚器を作り維持に栄養を費やすより、色覚を無くす方がより「適応」=「進化」というべきでしょう。ジュラ紀、白亜紀の夜行性時代に哺乳類は1色や2色性の色覚しか持たなくなってしまいました。   

  赤型
(M/LWS)
緑型
(RH2)
青型
(SWS2)
紫外線型
(SWS1)
桿体型
(RH1)
魚類
両生類
爬虫類
鳥類
哺乳類 × ×
高等霊長類
× ×
夜行性霊長類* × × ×

 恐竜がいなくなった後、約6400万年前、哺乳類は爆発的に放散進化を始めます。そのうち、森林に住み昼行性となった霊長類は、緑と赤を弁別するようになりました。三原色の色覚を手に入れました。森林は明るさが常にちらちらと変動し、緑陰のように環境光の波長がある色に偏っているような環境です。明度の変動に影響を受けない色度や波長が偏っていても色恒常性によって食物や敵を同定できる色覚は有用で威力があります。

この三原色、赤色の獲得で森林で熟し赤い果実や食べ易い赤い若芽を見つけ易くなったといわれています。しかし赤緑色覚異常が食物獲得の点で不利かといえば、迷彩や昆虫の擬態のような「色カモフラージュ」を見抜いて雑食のサルが昆虫など食物を得るには、赤緑色覚異常が有利だそうです。

また赤色覚の獲得で、表情によるコミュニケーション(顔色をうかがう)が発達したともいわれています。イヌなど他の哺乳類の顔は、強力な顎、非常に良く発達した嗅覚の大きな鼻腔、外に突出する耳が特徴で、目を閉じたり口を開いたりするための筋肉は表情を作るほど細かく発達していません。臭覚・匂いが重要で、また目も広い視界を確保できる側方視です。

サルで完璧になった前方立体視は、視界は減りますが他の個体の表情を立体的に細かく捉えられます。目を閉じたり口を開いたりするための筋肉を発達させ(表情筋)細かく動かし様々な表情をつくる能力とそれで感情や意思伝達をする能力は三原色を獲得したしたサルで発達しています。「真っ赤になって怒る」「頬を染める」「血の気が引く」といいますが、情動での血流の変化による顔の赤色は重要な表情情報です。赤色覚の獲得で、霊長類は細かな顔の表情による情動や意志のコミュニケーションとそれによる社会形成が可能なったといわれてます。

トリやハチの色受容体は複数で可視光領域全体をまんべんなく感知するのに対し,ヒトや旧世界ザルが持つ3種類の色受容体のうち2種類はいずれも波長約550nmあたりの赤色光を最も強く感じる。血中ヘモグロビン濃度の変化によって起きる肌の色の微妙な変化を感知できるのはこのためだと,カリフォルニア工科大学の神経生物学者たちは考えている。配偶者候補が健康な血色をしているか,敵が恐怖で青ざめているかなどを判別するのに役立つだろう。旧世界ザルの顔や尻に毛がなく,皮膚が露出していて血色がわかりやすいという事実が,この説を支持している。

Biology Lettres誌6月22号に掲載予定。NEWS SCAN 2006年7月号:日経サイエンス

青、緑と2種類の赤の4色性の女性

 多くの哺乳類は短波長の青と長波長の緑―黄緑の2種類の2型色覚で、性染色体に長波長を司る遺伝子があります。哺乳類の性染色体はXとY、雄がXY、メスがXX。このX染色体にある長波長を司る遺伝子を2つ重複させ、構造を一部変えたのです。これにより人間など霊長類は赤、緑、青の三原色の色覚を手に入れました。青色覚の遺伝子は人では第7染色体にあります。赤色覚、緑色覚は元は1つの遺伝子なため、遺伝子で4%、アミノ酸数で15しか違いません。共にX染色体の近傍にあるため、卵子の細胞分裂時にこの2つの遺伝子は交じり合う交差をしばしば起こし、雑種の遺伝子が作られます。すると緑と赤への反応性の差が失われてしまいます。男性はXYでX染色体を1個しか持たないため、これが赤緑色覚異常として顕れやすく日本人男性の約5%がそうです。女性はXXですから、約0.2%です。

錐体細胞の異常の有無と現れる色覚異常の関係
錐体細胞 名称 症状 頻度
正常色覚 症状はない 多数派
× 第一色覚異常 緑~赤の色の見分けに問題が生じることがある 男性20人に1人
女性500人に1人
× 第二色覚異常
× 第三色覚異常 正常色覚とほとんど変わらない
× × 全色盲 色は識別できないが視力は良好
× ×
× × 色が識別できず視力も低い
× × ×
 
興味深いことに、ヒトの赤の視物質・感光物質には2種類あり、同じ景色を見ても実は見ている色合いは微妙に異なります。赤色の遺伝子はX染色体に載っていますから、男性は片方しか持ち得ません。やや短波長側の赤(朱色に近い赤)をもっとも鮮やかと感じる男性4割、長波長側の赤(深紅)をもっとも赤らしい赤と感じる男性6割。

 女性(XX)の場合はもっと複雑で2本のX染色体に別の赤色覚の遺伝子をもつ約5割の女性は、青、緑と2種類の赤という4色性の色覚をもつことになり、2割がやや短波長側の赤(朱色に近い赤)、3割が長波長側の赤(深紅)を鮮やかな赤らしい赤と感じる三色性の色覚です。

つまり泣いて真っ赤になっている赤ちゃんを5割の母親は2種類の赤色覚での色合いでみており、女性同士たとえば姑さんと嫁さん二人でみても赤の色合いが微妙に違う泣き顔像で捉えている場合が多いのです。男親と女親では約8割では違った像で赤ちゃんを見ているのです。

4色性の女性の世界は想像できるか   紫外線が見えると世界は?

  ヒトと鳥(ニワトリ)の視物質の吸収スペクトルを較べると、ヒトは赤(吸収極大波長558nm)、緑(531nm)、青(419nm)とピークが偏っていますが、4原色性を保ったトリは均等な間隔で並んで、光の識別能力に偏りがないのです。ヒトは青・緑・赤の三原色の色の三角形の中の偏った部分にしか色覚がありませんが、トリではその三角形の平面に縦方向の第4の軸があって(紫外線)、色の正四面体ピラミッドの中に色覚を持つことになります。
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人間の目には雄雌を判別することのできない鳥種を 139種選び出し調べたところ、その9割以上が紫外線での「人の目には見えない模様」がありました。紫外線を色覚する鳥の目には雄雌が区別されています。鷹やトンビはなぜ高い空から小さな獲物を見つけられるのか?その謎も紫外線の色覚です。「フィンランドのビータラらのグループは、チョウゲンボウというハヤブサの仲間がハタネズミの通り道を視覚によって見つけることができることを発見した。ハタネズミは通り道に臭いでマーキングをするのだが,それに使う尿や糞は紫外線を反射する。」
 
 ハチなど多くの訪花性昆虫は、紫外線色が見えます。花を紫外線でうつる写真で撮ると、人には白、黄色などのぼんやりした色にしかか見えなくても、昆虫のもっとも良い止まり場所、蜜の在処を示す矢印などが花びらに浮かんできます。ヒトの眼にはモンシロチョウの雌雄を一目で見分けるのは難しいですが、モンシロチョウの雌の翅は紫外線を吸収するので、紫外線で見ると、雄は白く、雌は黒く見えます。モンシロチョウにとっては見分けは、「オスとメスは色が違う」のですからごく単純なことなのです。
また、アゲハ蝶は、なんと紫外領域も含めて「五原色色覚」。環境は紫外・紫・青・緑・赤の5色覚の世界。アゲハはどんな世界を見ているのでしょうか?全く想像を絶しています。
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 「私たちは自分の感覚世界にとらわれるあまり、失明することの意味は容易に理解し、それを恐れてもいるにもかかわらず、己の能力を超えた(視覚)世界を思い描くことができない。人間の・・見る世界、あるいはそこから想像できる範囲の世界と、本当の世界は違うのであり、自分たち(の視覚)が進化の頂点ではないと知ることは、私たちを謙虚にするだろう。」

 人間同士、愛情で結ばれた夫婦でも視覚世界は微妙に違うことが多いのです。愛情とは相手を自己と同一視することと心理学ではいいます。夫(妻)は妻(夫)を自己同一視し自分と同じ考え、対応をすると期待します。「◎◎の時には妻(夫)は××するもの」と期待します。夫婦でなくても他人に常識という名で自分と同じ考え、対応をすると期待します。往々にして期待は裏切られ、ストレスを生みます。

 元々、感覚世界ですら同一ではない微妙に異なる別の世界に住んでいる場合が多いのですから、「◎◎すべき」を脇に置いて、謙虚に違う世界・考えを尊重しあう自尊&他尊のコミュニケーションを心がける方がストレスが少なく賢明かも知れません。

人間の「自己家畜化」の深化と食 [有機農業/食物にする生命との付き合い方]

  №07-50 2007年12月小針店で印刷・配布した「畑の便り」の再録

 「家畜」は、人間によって、野生から切り離され、形や習性を変えられた動物。そうだとすると、自ら作った社会制度や文化的環境によって飼い慣らされ、それに適応して自らを変えてきた人類も、「家畜の一種」と見なされる。そういう発想で我々の人類の社会や生活の姿を考察する人類学のやり方が「自己家畜化」。人類は自らつくる環境によって身体的にも特異な進化を遂げ、あたかも家畜のごとく自己を管理する動物であり、家畜に見られる特徴があるとの認識です。

 人間はもともと群居して家族、部族などの集団をつくって暮らしてきました。食料の調達、分配、配偶者の獲得、天敵や干ばつなどに戦ってきました。そして、人口が増えるほど町や都市を作り群居する動物です。それは、家畜の暮らしと似ていますから、家畜に見られる性質が人間にあってもおかしくはありません。

 その証拠として、人間の身体の形態に、ちょうど家畜と同じような独特の変化が起きている、たとえば野生のイノシシとブタとを比べると、明らかにブタはイノシシよりも顔面部が小さくなっています。人類と猿では人類の方が顔面部が小さくなっています。巻き毛・縮れ毛、椎骨数や四肢骨の変化、皮膚の色素の増減など、人間と家畜だけにかぎって顕著に見られる形態変化がおきています。人間社会にも、何か家畜と同じ現象が起きているのではないかというわけです。
 食での家畜化は、自分で餌を探してこなくても、飼い主である人間から毎日餌を与えられる。自分で餌を探す能力も使わなくていいという特徴があります。

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野生と家畜化の特徴

①、家畜は多かれ少なかれ、人間が管理している空間のなかに囲い込まれて、生活をする。

②、家畜は、自分で餌を探してこなくても、飼い主である人間から毎日餌を与えられる。自分で餌を探す能力も使わなくていい。

③自然の脅威から遠ざかる。たとえば、天敵の襲来や、干ばつや、気候の変動などから守られる。家畜が死んでしまったら人間にとっても大損害だから、人間は家畜をできるかぎり守ろうとする。 

④、家畜は人間によって品種改良(人為淘汰)させられていく。より役に立つような家畜へとたえず改良されるのが、家畜の宿命である。

⑤家畜は人間によって繁殖を管理される。人間は家畜を品種改良するときに、優秀なオスとメスをかけあわせて子どもを作る。そうやって、子供をたくさん産むブタを作り出したり、乳がたくさん出るウシを作り出したりする。このような生殖の管理こそが、家畜化の本質であるとも言える。

⑥、家畜にされると、その動物は身体の形が変わる。たとえば、イノシシを家畜化したものがブタなのだが、ブタは家畜になって身体の形が変わった。くちさきが短くなり、身体から毛が抜けて脂肪が付いた。牙は退化した。イヌもオオカミに比べて変化している。性周期も変化する。 

⑦、家畜は死のコントロールを受ける。つまり、人間は家畜が予定外のときに死なないように全力でコントロールし、死ぬべきときが来たら強制的に殺す。 

⑧、家畜と人間のあいだには独特の共犯関係が成立する場合がある。人間が家畜を餌付けするときのことを考えてみれば分かるように、家畜は餌をもらうことと引き替えに、労働をしたり、従順になったり、逃げ出さなかったり、芸をしたりすることを覚える。家畜は、自発的服従の状態にみずから身を置くことがある。いったんそうなってしまえば、そこから抜け出すのはとても難しいだろう。

無痛文明論 森岡正博著 より

現代の特徴 家畜化の深化

 食での家畜化は、自分で餌を探してこなくても、飼い主である人間から毎日餌を与えられる。自分で餌を探す能力も使わなくていいという特徴があります。
  しかし以前は農家の庭先を自由に駆け回って餌を啄ばんでいた鶏は、今やベルトコンベアにのって流れてくる餌をただ食べ続けるだけ。ケージに閉じこめられて、運動することもできない「家畜工場」で卵を産んでいます。
  そして人間は家、道路、上下水道、自動車、電気、そういうものに囲まれて人工環境下で生活しています。自分の部屋から電車に乗って出勤して、空調のきいたオフィスで仕事をしている姿は、家畜工場のニワトリとどこか似ています。 次に、食料ですが都市の住人は、材料や製品をスーパーマーケットなどで買っている。そうして短時間で調理して食べる。お金があるかぎり、ほぼニワトリ並みの自動供給に近い。

この状況を針山孝彦さん(浜松医科大学、生物学教授)は次にように書かれています。

 『ケニアの田舎を旅しているとき、食料を購入するため小さな町に立ち寄りました。道の両脇50メートルくらいに渡ってポツポツと各種の商店が立ち並んでいました。その商店街のはずれに近いところに肉屋がありました。天井につけられた鉄のフックには、たぶん近所で屠殺されたであろう牛がつり下がり、ハエがたかり、異臭を放っています。店頭でも自宅でも冷蔵庫があるのが当たり前の生活に慣れてしまっている私は、田舎の肉屋の中央にあった皮だけが剥がされて血がたれている肉の塊の姿と、その臭いにはちょっと驚きました。とにかく肉を切り身にしてもらって、自分で調理しました。いつも持ち歩いている醤油で味付けしたステーキです。お腹がすいていたものの、あの異臭が思い出されてなかなか食が進みません。自分が家畜化されてしまっていること痛感しました。

  日本で生活しているときの私は、食料とするために動物を殺しているのにその現場は見ません。肉を切身にするときに流れ出る血液や内臓からほとばしる湯気も見ない。スチロールのトレイに入れられ、ラップにくるまれて商品用の冷蔵庫に飾られている肉からは、調理を始めるまではほとんど臭いはない。調理をするときには胡椒などのシーズニングを加えることで臭いは一層なくなる・・・という「ないないづくし」なのです。

  そして何よりも家畜化されているなと思うのは、火を通した物が食事の中心であるため、素材そのものの味からはずいぶん違った物を食べていることです。自分が、ヒトが従属栄養生物で、食物連鎖の中で動物や植物を食いまくっていることに思いをいたらせるのは難しいことなのだなあと、肉の異臭を思い出しながら考えました。・・それでも、やはりお腹が空いていたので、抵抗感の残るその肉を、全て食べました。冷えてしまって少し筋張っていましたが、いつもと同じ、美味しい肉であることには変わりがありませんでした。』(生き物たちの情報戦略 化学同人刊行)

  火を使って調理するという点は今も昔も変わりがありません。昔の肉屋では、豚の背骨つきの半身がぶら下がっていて、職人技を駆使して塊肉を取っている、その塊肉を切り身に切り分けている光景が見られました。それが今はスチロールのトレイに入れられ、ラップにくるまれているという「ないないづくし」なのです。それは、電気を使った冷蔵庫の普及がもたらした近年になって現れた状況です。  
 
自己家畜化の深化と人間性の衰退

 と畜直後は、死後硬直で食用にはできません。しばらく置いておきます。硬直が解け、酵素で熟成し美味しさが出てきます。ケニアの田舎では、その間にハエがたかることになるわけです。ですから、どの部位が食べ頃か、腐っているところはどこか五感で見分ける力、自分で餌を探す能力が必要とされますが、今の「ないないづくし」の肉ではどうでしょうか。期限表示に頼るのではないでしょうか?
 
  需要を満たすため、これまで食用にしていなかった部位を使い、もっと加工度の高い食品も作られています。そういった加工食品では、食品添加物など五感では感知できない物がふえ、表示に頼らざるを得なくなります。
 
  今年は、様々な食品偽装が話題になりましたが、その背景には「自己家畜化」の深化、それによる食品表示への依存の増大があると思います。「自己家畜化」の深化は、自分で餌を探す能力の必要性の低下でもあります。それは、動物の根源的な餌を探し摂取する情動の衰えに反映され、生きる意欲の低下、生きていると言う感覚の低下になるのではないでしょうか。

  また、ライオンがシマウマを食べるときに、私はシマウマの命を頂いて生きていると感じるでしょうか?そういう感覚、人は「食物連鎖の中で動物や植物を食いまくっている」、他の命を頂いて生きてる存在であると言う認識を持てるのは人間だけであり、それによる罪悪感や他の生物への感謝の念といった感情は人間特有の性質、人間性の一部です。その人間性が「自己家畜化」の深化で壊れていくのではないでしょうか。ラップされたお肉から生きている豚・牛に想いが及ぶでしょうか?

  温暖化など様々な環境問題は、まずほかの生き物での被害で姿を現します。先ほどの他の生物への感覚が共有されている社会では、速やかな対応が行われ、被害が人間にまで及ばないと期待できますが、「自己家畜化」の深化で壊れている社会ではどうでしょうか。
 「自己家畜化」の深化は、他人への目線にも大きな影響を与えてると思います。それは別の機会に。
 

低価格米のひみつ [有機農業/食物にする生命との付き合い方]

№07-43 2007年10月小針店で印刷・配布した「畑の便り」の再録

  新潟「コシヒカリ」5kg1980円、秋田「あきたこまち」1580円・・スーパーではこんな安い価格で新米が売られています。今年の新米、平均では60kgで14397円、つまり5kg当たり1200円で、卸業者に売られています。卸の業者の袋代や配送など手間代などのマージンや小売段階のマージンを考えると、この消費者価格では、完全な赤字です。またドラッグストアやディスカウントストアではもっと安い、5kgで1300円程度のお米もあります。

  こうした安売り米では、一部の米業者の偽装表示も起きています。以前、中国からの輸入ホーレン草の残留農薬検出で名を上げた農民連食品分析センターは、安売りの米にどんな米がどのくらい入っているのか分析しました。粒径の小さいくず米や古米がゾロゾロ検出されました。

農民連食品分析センターの結果

 成熟してから収穫されたお米は、粒が大きい。逆に青米などで分かるように未熟なものは粒が小さい。粒径の検査は、三つのふるいを使って行われました。上から一・八五ミリ、一・八ミリ、一・七ミリのふるい、受け皿の順に積み重ね、全体で四段にしました。米穀検査では米の選別に使うふるいの最小の網目は一・七ミリ。この網目から落ちた米は網下米またはくず米として加工用の原料などに回ります。取引価格は一キロ七十~八十円。 
さらに米の鮮度を調べるために、米に判定液を加え検査。
 
 調査結果は、「おおむね千五百円以下で販売される米は、粒の小さい米、砕米、奇形米などの割合が高く、一番細かい一・七ミリの網目も大量に素通りします。また低価格米は鮮度も悪い傾向にあり、産年の記載のないものや、産地表記も『国内産』と書かれただけの複数原料米が多くなっています」(分析センターの石黒昌孝所長)、「一・七ミリのふるいで落ちるのが多い米は網下米を混ぜている可能性が高い。逆に千五百円以下でありながら粒ぞろいのよい米は古米のおそれがあります。『複数原料米』の表示は氏素性のわからない米と思った方がよいでしょう。『無洗米あきたこまち』は千七百円と価格の高いわりには、整粒も鮮度も悪い。無洗米は加工賃がかかるため、当たり前の原料を使えないのでしょうか」(農民連の横山昭三さん)と指摘します。
  くず米や、古古米のブレンドされた低価格米は、炊き上がり時点はともかく、ジャーで保温する間にみるみる食味が悪くなる。結果的に、食べない=お米の消費が減る事態を招きます。それで今年は、新米、新潟のコシヒカリでさえ価格が低落し、農家の方は困っています。
 
安売り米のブレンド用くず米の出所

 では、どこから 古米が出てくるのでしょうか?煎餅や味噌などの加工用のくず米(網下米)は、どんなルートで主食・飯用に化けているのでしょうか?
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  網下米は農産物検査法で定められている1等・2等・3等・規格外という4段階の分類には該当しない低品位米です。この低品位米を買った業者は、加工原料米としてそのまま売るよりも、主食用として売る方が利益が大きい。だから再度ふるいにかけて主食・飯用にできる「中米」を選び出しています。そのままで主食用に販売すれば違法ですが、「中米」を敢えて検査法の「規格外」になるように検査を受けます。そのようにして『規格外米』という正規の検査証明を受けた中米は「19年・新潟県産・コシヒカリ100%」のように産年・産地・品種名を表示して販売することが可能となります。合法的に高品位な1等米と全く同じように「クズ米を由来とした規格外米」を袋詰めにし同じ表示をして、つまり消費者には区別できないようにして販売できるのです。通常は、1等米などにブレンド用に使われます。先ほどの調査では、1割から3割混ぜられていました。
 
回転備蓄米で、古古米を国が供給

 古米の供給元は、日本政府です。政府は、「万一に備えた保険」の備蓄米を持っています。備蓄ルールは、百万トン(消費量の1割強)を備蓄し、古米にして販売。年度ごとに売れただけ購入する回転備蓄方式。新米が収穫されるとそれと入れ替えに市場で備蓄古米の販売と新米購入をすることとなっています。
 
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  実際はどうでしょうか?平成15年産米は100万t不足の不作でした。それに対して放出された備蓄米の量は106万t。これだけを見れば問題になる放出量には思えませんが、政府備蓄米の他に、民間在庫が135万tもあったので政府備蓄米の大量放出は不要だったのです。数字では政府備蓄米を当初163万tから60万tに激減し、民間在庫は135万tから207万tと逆に増加しました。不足していたはずの15年産が大量に売れ残って、卸などの民間在庫になったのです。国は、ダンピング価格で平成8年産のような超古米の在庫整理をしました。万一に備えた備蓄と言う点では、政府備蓄の役割を民間が担う形になったわけです。
  この後も、平成17年、18年、19年も政府は回転備蓄で古米の放出・販売を4万トン/月以上のペースで行っています。卸業者は平成15年度産米の大量在庫を抱え込まされていますから、これを販売しています。こうした古米が安売り米に使われています。
  お米は、炊き上がったご飯を保温ジャーに7~8時間以上入れておくと、ご飯粒中の脂肪が空気で酸化されて酸化臭が発生します。その上、その酸化物がたんぱく質と結合してご飯を黄色くしてしまいます。
 
 常温での保管で考えると、籾のついた状態ではお米の中の脂肪の酸化はほとんど起こりません。玄米、精米と酸化し易くなります。搗き立てが旨いといわれる由縁です。
 
 備蓄米は玄米で、低温保管で酸化が遅くなっていますが、ある程度酸化しています。炊き上がり時点では食味が良くても、酸化臭・黄変が起こり易い。古古米・古古古米・古古古古米となれば、一層なりやすい、臭いが出るまでの時間が短くなる。しかしこうした米ほど安い。 
 
時給で200円程度で米作りは続くのか?

  今年の新米は平均では60kgで14397円。農水省の米生産費調査によれば、60kgあたりの米生産にかかる費用、肥料な
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ど資材費、労働費、地代・利子などは、16824円。単純には約2500円の赤字、流通経費などを差し引けば農家は60kg・一俵出荷するたびに5000円近く赤字が発生するという異常事態です。結局農家は、自分の労賃を削って、時給換算で1時間200円程度に削って対応することになります。
   このような時給で200円程度では誰もが嫌ですから、「いっせいに米作りから手を引くおそれさえあります。(農民連)」 
国際的には穀物価格は、上昇傾向にあります。国際的には、米の需要が増えているもとで、オーストラリア産の不作やアメリカでの作付面積の減少などにより、米の国際相場は五年間で二倍になっています。この状況の中で、唯一、自給可能な米さえ減産を強いるのは、賢いのでしょうか。
 
 


世界的な穀物不足のなか、広がる日本の耕作放棄農地 [有機農業/食物にする生命との付き合い方]

№07-39 2007年9月小針店で印刷・配布した「畑の便り」の再録

  世界の穀物の貿易価格が上昇を続けています。このため欧州EUは、今秋と来春の穀物作付けに当たっての強制減反率をゼロにして増産(穀物収穫量1000万トンから1700万トン増える見込)を図るそうです。そして現在の輸入分の価格をやすくするためにに、輸入関税ゼロを当面継続する事を検討しています。中国も不足する大豆油、菜種油などの食用油で同様の政策をとっています。大豆輸入税を3%から1%に引き下げる予定で、来年度から、13億元(1億7300万㌦)の追加補助金を出し油料作物の栽培面積拡大、改良品種の普及など11の措置をおこなうと24日に発表しています。

自給率39%の国で、狭まる耕地面積

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  我が国の食料自給率は2005年は39%で、20年前の1985年は52%でした。現在の日本は食糧の6割を海外からの輸入に頼っています。欧州や中国などは日本よりも自給率が高いにもかかわらず、敏感に食糧不足に対応策を出していますが、日本はどうでしょうか。農水省は、次々と大臣が代わり、今の若林大臣も年末まで椅子に座っているのか分からない政局です。農政は停滞しています。生産基盤の農家の経営耕地面積は1985年の440万ha(ヘクタール)から2005年の359万haまで20年間で約2割・81万ha減少しています。自給率低下、食料海外依存の一因です。このうち、耕作放棄が半分弱の38万6000ha、残りが住宅や商業施設などへの農外転用です。
 
高齢化、担い手不足、耕作放棄……島根県古賀町

  さて先日26日の日本農業新聞に、「防げ、耕作放棄」という記事が載りました。
 = 島根県古賀町。平場から山間地まで水田が広がる米どころだ。その町役場会議室で、机一面に町内の地図が並べられた。水田一筆ごとに赤、黄、緑に塗り分けられている。赤は耕作放棄地、黄は自作地、緑は貸借地だ。
  「こうして見ると耕作放棄が増えたなあ。山の方は真っ赤だ」。同町農業委員会会長の吉村哲夫さん(72)は、地図を指さしながらつぶやく。どこの農地が耕作放棄されているのか、地図を見れば一目で分かる。・・
 
 浮かび上がったのは、農地のひどい荒廃ぶりと守り手の高齢化だ。町内710㌶の農地のうち、耕作放棄地は99㌶(14%)に上る。圃場(ほじょう)整備されていない山間地の水田ほど荒廃が激しく、ほぼ半分の47㌶を「復田不可能」と判断した。
  町の農業を担うのは高齢者ばかり。70歳以上が45%を占め、90代現役は8人(1%)もいる。
 
  次代の「農地の守り手」不足は深刻だ。家族内に後継者がいない世帯は全体の6割を占め、面積ベースでは全農地の4割にも達する。
  10㌃以上の農地がありながら、町外で暮らす「不在地主」も201世帯と全体の13%に上る。不在地主の農地は、借り手がいなくなれば耕作放棄に直結する。
 高齢化、担い手不足、耕作放棄……。
むらが悪循環に陥っている。
  これに追い打ちをかけるのが米価の下落だ。10年前は全国的に一俵(60㌔)2万円近くあったが、最近は1万5000円を割り込む。
  古賀町での米価下落もほぼ同様だ。町全体の米産出額は1996年の9億1900万円から、2006年は6億3000万円と10年間で約3億円も減った。農家数が減り一戸当たりの経営面積がやや増えても、米収入は平均73万円から61万円と12万円も落ち込んだ。
 
  農家1戸当たりの平均水田面積は約70㌃。小規模経営では経費を差し引けば利益は出ない。稲作を続けるために、生活費である年金の一部を、農業機械の購入に充てる高齢農家さえいる。
  米価下落の痛手は大規模農家ほど甚大だ。町内23㌶の農地を借り受け、水田経営をする農業生産法人「サジキアグリサービス」の収入は減る一途だ。04年度の新たな米政策移行に伴い、町が従来上乗せしていた転作助成金の削減なども響いた。米価下落分と合わせると4年前より、「総収入で500万円以上は確実に減った」と代表の茅原忠夫さん(61)。地域農業の担い手であっても、貯蓄する余裕は「ほとんどない」のが実情だ。
 
  茅原さんは嘆く。「むらの疲弊は農業所得が少ないことが原因だ。これに尽きる。米価は安い。生産調整は厳しい。鳥獣害はひどい。高齢者ばかりの中山間地でどうやって担い手を確保し、耕作放棄を防げというのか」
  地元のJA西いわみ米穀課の谷尻賢二課長は「米消費が減り続ける中で、米価下落の底が見えない。農家への新米の概算金も減る一方だ」と渋い顔だ。しかし、古賀町のような中山間地では米に代わる有望な作物も見当たらない。「耕作放棄解消を言うのなら、まずは中山間地でも農業経営が成り立つ政策が必要だ」と訴える。
 
  農地の全筆調査を主導した同町農業委員の斎藤一栄さん(57)の表情も険しい。「小手先だけの対策で耕作放棄は決して解消できない。大事なのは、誰もがむらで暮らせること。今、手を打だなければ、むら崩壊はすぐそこだ」
  農山村で暮らす農家の所得確保が、耕作放棄解消の鍵を握っている。 (ここまで日本農業新聞)
 
自作農主義から転換を

 農家の所得確保は、昔のような政府が所得保障的な高米価で買い入れ消費者に安く売る食管制度的な価格政策では、米消費が減り続ける中では赤字が蓄積しすぐに破綻します。しかし水田は、2000年使い続けても連作障害を起こさないを優れた農地です。これを維持することは、現代を生きる人の責務だと思います。
 
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また転用される農地は、都市近郊の優良農地が多いのですが、これからは少子高齢化社会ですから、今のように新しい住宅、新しいショッピングセンターを農地を潰して新たにつくる、農村を蚕食するように都市が郊外へ拡がっていくというあり方が良いとは思えません。土地利用全体のグランドデザインを考え、農地を維持する方策を政府全体、農水省は考える必要があります。日本の農地の大半を占める水田は、例えば、ご飯用の米だけでなく、飼料用やバイオマス・エネルギー用の稲を栽培することで、生産基盤としての機能を維持しつつ活用する生産品目戦略が必要です。
 
 自作農主義から転換を
農地があっても耕す人が居なければ、無意味です。耕作放棄は、高齢化による引退と町外に生活の場を移す「不在地主」化が引き金になっています。敗戦後の農地解放=自作農主義では農地所有者が耕作するシステムですから、所有者以外に耕作、農地利用が移りにくい。今や自作農主義は日本農業の桎梏になっています。農協など様々な農政の仕組みは、自作農主義を前提として制度が設計されています。そして様々な利権が絡み合って、今の農政が運営されています。自作農から借地農主義への転換が必要なのですが、それは郵政民営化よりも大きな政治的エネルギーが必要です。
このように、様々な課題が山積していますが、農政は停滞し、貴重な時間が食いつぶされているに思えてなりません。


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