クリタマバチ・・日本人が持ち込んだ害虫と天敵 [農薬を減らす工夫]
農薬を半減できる二つの新技術 果樹の樹形、温湯散布 [農薬を減らす工夫]
№10-12 2010年3月小針店で印刷・配布した「畑の便り」再録
IPM(総合防除)と生物農薬
果樹栽培では、多くの消費者が好む見た目が良い果実を収穫するために、農薬を多用しています。この農薬を50%、約半分減らせる技術が開発されました。高価な機械を買ったりする必要はありません。果樹農家は冬が終わりを告げる時季に、剪定(せんてい)、枝を切り落とし樹形を整える作業をします。その樹形を工夫することで、農薬を50%、約半分減らせると農研機構・東北農業研究センターが発表しました。
果樹園の農薬散布には、スピードスプレヤー(SS)、農薬を溶かした水を納めるタンクに散布ノズル、タイヤ、エンジン、運転台を取り付けた散布専用の車を使います。これで、果樹の間を走りながら、タンクの農薬を天辺に届くように一面に散布します。人が散布ノズルを散布したい葉々に近づけて散布するやり方に比べ、手間がかかりません。
その代わりに、面状に噴霧された農薬の霧滴流は葉に衝突・付着しないかぎり、しばらく漂い、やがて地面に落下して全て無駄に、つまり環境を汚染するだけ。その果樹にかからない農薬量は散布量の約80%。
これを減らす薬剤到達性の良い樹形を考案して、農家で試してもらったところ、りんごでは50%、洋ナシでは40%の農薬を減らせました。その分、環境汚染、先週の畑の便りで取り上げたような水質汚染などが減らせてます。
収穫量がりんごでは1割ほど減るといったデメリット、作業時間は2割程度削減し、農薬代も減るメリットがあるそうです。また、農薬散布では減らせない樹木中にいるシンクイムシなどの被害も減ったそうです。
樹高を切り下げる剪定などで良い樹形にするには、早くて3年ほどかかるそうです。今の形が手直しできないほど悪ければ、植え直して骨格になる枝配置から育て直しが必要です。時間はかかりますが、こうした減農薬技術が拡がると良いですね。
栽培中のイチゴに、週一回、温湯をかける
55℃前後のお湯を散布すると、農薬が半分くらい減らせるそうです。茨城大学農学部の佐藤達雄准教授らが、取り組んでいる研究で22日に発表されました。
作物に熱ショックを与えると、その後、さまざまな病原菌の感染に対する抵抗性があらわれます。高熱で、サリチル酸や感染特異的タンパク質の集積などがおこるからです。全身獲得抵抗性(SAR)といいます。この現象、熱ショック誘導抵抗性は、トマト、キュウリ、イチゴ、メロンなどさまざまな作物でおきます。高温そのものによる病害虫防除効果も期待できる。
佐藤准教授らは、栽培される作物の中でも特に農薬使用量が多い施設イチゴで、温湯の散布によって主要病害虫・うどんこ病、炭疽病、灰色かび病、ハダニ類など抑制し、農薬使用量の削減を目指して2008年から研究して来ました。
農薬は周辺環境への負荷・悪影響や薬剤耐性病害虫の出現、生産コスト、作業労力など、化学合成農薬一辺倒の病害虫防除は様々な問題を抱えているので、クリーンな防除手段として「お湯」に着目しました。作物に悪影響がなく病害虫のみを抑制する温度域、全身獲得抵抗性(SAR)を誘導する温度域を明らかにする。必要な水量や散布方法や道具の開発です。
その結果、週一回、葉先がかかる位の55℃前後のお湯を散布すると、農薬が半分くらい減らせるとの結果が出たそうです。経費は農薬散布とほぼ同じですが、手間が6倍。実用的な自走式の散布装置を開発して、これを減らすことを目指して研究を継続するそうです。早く実用化されること、トマト、キュウリ、メロンなどさまざまな作物でも、研究・実用化されることを待ちたいです。
新たな農林水産政策を推進する実用技術開発事業「温湯散布による施設イチゴの農薬使用量削減と保鮮技術の確立」のホームページ
消費者の選択が開発、普及を支える
私たち消費者が、減農薬・有機栽培の農産物を購入すれば、それが生産農家に伝わり、こうした防除資材の開発、普及につながります。
京都府キュウリモザイク病を予防する植物ワクチンが製剤化されました
植物・作物用のワクチン [農薬を減らす工夫]
№09-12 2009年3月小針店で印刷・配布した「畑の便り」に加筆
作物にもワクチンが、人間の予防接種と同様に病気の感染を防ぐワクチンがあるんです。
享保17年(1732)西日本でウンカが大発生により飢饉がおこり、百万人近くもの餓死者がでました。それ以来、徳川幕府はウンカが大発生すると各地の代官にたいし鯨油による注油駆除を教示、つまり、当時は鯨油は幕府お墨付きの唯一の農薬でした。(これが、日本で捕鯨が盛んに行われていた理由の一つです。欧米では鯨肉をたべないで、もっぱら鯨油などの利用でしたが、日本では肉、脂はむろん捨てる部分がないほど利用されました)。
江戸時代に無農薬で野菜がとれたわけ・・里山 [農薬を減らす工夫]
病原昆虫の天敵療法 ウイルス農薬 [農薬を減らす工夫]
№05-14 2005年3月28日小針店で印刷・配布した「畑の便り」再録
人間が、農作物を病害虫から護る手段として農薬は必要です。しかし現在主流の化学合成農薬は、人や環境への悪影響、破壊力が大きく使用量や使用場面を極力減らすべきです。我々市民が消費者として、そうして栽培された農作物を選ぶこと=購買すれば、そうした減農薬、有機農業を支える農業技術が生み出され、普及します。その実例を、ハスモンヨトウと核多角体病ウイルスをつかった農薬で見てみます。
昆虫ウイルスは人や家畜には感染しません。ウイルス農薬は、人畜に対する安全性が高いうえ、化学合成農薬のように対象害虫以外の生物、クモや蜂など天敵を殺すことなく悪影響を及ぼしません。このため天敵の活動が増大し、対象害虫のみならず、それ以外の害虫も減少することが期待されます。すなわち、化学合成農薬使用量の著しい低減が期待できます。
天敵活用、あなたは虫食いリンゴを年に何個、許せますか? [農薬を減らす工夫]
№08-33 、 2008年8月4日小針店で印刷・配布した「畑の便り」再録
天敵不在の今、殺虫剤の散布をやめるとリンゴの被害率は90%に及ぶ
もう直ぐお盆、青りんごが出てくる時季です。普通栽培のりんごは農薬を多数大量に使用します。「今、殺虫剤の散布をやめるとリンゴの被害率は90%に及ぶといわれる。しかし、有機殺虫剤のなかった戦前ではリンゴ被害は10~15%だった。それは果実内部にいて天敵にやられないハリトーン(モモシンクイガ)によるものだ。この『難防除害虫』を薬剤で防除した代償に蜘蛛や寄生蜂などの天敵が絶滅してしまった。
そのために幼虫が野外にいて多くの天敵にやられていた害虫、なかでも世代が短くて繁殖力が強い小型な害虫のダニ、カイガラムシ、アザミウマなどが現在『難防除害虫』となり農薬防除の対象となり、これが被害率90%の内実だ」
つまり『難防除害虫』の天敵生物の活用が農薬を減らして、環境と健康を護るには重要です。一番手軽なのは、畑の周辺に住んでいる天敵を使うこと、無料で手に入るし、市販されている天敵資材は大半が外国産の生物で生態系を乱す恐れがありますが、土着なら地域の環境にも合っています。しかし、現在の農薬取締法(農取法)では、この地元にすみ着いている「土着天敵」を捕まえ、その土着天敵を増殖して、畑に放して防除に使うことはできないのです。小3の娘は学校でアゲハチョウの幼虫を飼育しています。昆虫マニアはしばしば、捕まえた虫を飼育、繁殖し、自然に放ち増やすことを試みています。しかし、農家が土着天敵で同じ事、増殖し防除に放つと違法行為になる恐れがあるのです。
農取法を所管する農水省によれば、「野外にいるから土着なのであって、人工の環境下で増殖した虫は、土着と判断されない可能性がある。土着でない虫に農薬的な効能をうたえば、無登録農薬とみなされる。」「土着とは同一県の範囲、県境近くにいる農家が県境を越えて天敵を捕まえた場合、その虫は土着と判断されない可能性がある。」従って、触法、無登録農薬の使用になるぞ!というのです。
ああ弟よ君を泣く
君の心、死にたまふことなかれ
親は筆をにぎらせて
屁理屈こねよと教えしや
民を苦しめて保身せよとて
二十四までをそだてしや
農水の城はほろぶとも
ほろびずとても何事か
君知るべきや民びとの
収めし税の重みを
高知県の天敵特区
高知県土佐市のピーマン生産農家は、「農薬をまったく使わないことはできなくても減農薬にはこだわり、安全で安心できるピーマンを消費者に届けていきたい」と天敵昆虫を利用した害虫防除に取り組んでいます。平成14年に2戸の生産者が、天敵昆虫を試験導入しました。農薬の効果が低く広範囲で被害を及ぼす難防除害虫、アザミウマ類、アブラムシ類、ハスモンヨトウなどに天敵農薬のタイリクヒメハナカメムシ、コレマンアブラバチを導入し、これらの天敵に影響の少ない殺虫剤を組み合わせることで、殺虫剤の散布回数を慣行の1/7~1/4に少なくすることに成功。平成17年度には天敵導入が全戸約60戸に広がりました。
同年頃から、「タバココナジラミ」が侵入し、深刻な被害が発生しました。この害虫は農薬に抵抗性のある、農薬が効かない系統でした。農家は、被害状況の観察し、試行錯誤を繰り返した結果、ハウス周辺の棲息する虫・クロヒョウタンカスミカメ、この土着天敵の導入が最も効果的であることが判りました。ハウス周辺の草木の下に網を入れて、後は大人数人が一匹一匹探し、採取してハウス内に放すのです。安定的に確保するために、共同でハウス一棟を犠牲にして、中でピーマンを栽培し、「タバココナジラミ」を付け、クロヒョウタンカスミカメを棲息させて、確保することも始めました。
高知県では天敵を利用する防除がナス栽培面積の29%、ピーマン・シシトウの58%、天敵などの生物農薬の使用量(金額ベース)は日本で第一位です。農薬登録され市販されている土着天敵の代表種タイリクヒメハナカメムシの場合、10a当たり1000頭放飼が基本とされて、購入費がかさみます。
このカメムシに見合う土着のカメムシ類をこの数だけ農家が栽培現場周辺・野外で採取することは困難。それで農家らがつくる「エコ研究会」が昨年、「土着天敵を人工増殖させて使えないか」と高知大学農学部に相談。「実験室等で維持している土着天敵を施設園芸害虫防除のために農家に無償で配付し、天敵増殖キットなどを用いて農家の手で増殖する事ができれば、防除に必要な個体数を確保でき、農家の防除資材購入費用の削減にも繋がる。」として高知県を農取法の例外、天敵特区とするよう申請を6月に出しました。屁理屈こねの農水官僚がどう答えるでしょうか?
天敵昆虫を利用して農薬を減らすには? [農薬を減らす工夫]
№03-23 、 2003年5月27日小針店で印刷・配布した「畑の便り」再録
耕作地は病害虫、雑草には人間が用意してくれた快適空間
耕作地、田畑は生態系という点で見れば、肥沃な土壌に大根やキャベツなどの少い種類の作物植物が大量に生えているきわめて単純な構成です。ですから、その作物植物を食べる、寄生する青虫などの虫や菌・微生物には「美味しい食卓」です。また作物が植わっていない地面は、ほかの植物にも肥沃で陽光がよくあたる空き地です。人間は彼らを病害虫、雑草と呼びますが、耕作地は人間が用意してくれた快適空間です。
彼らが耕地で繁殖すると、今度は彼らを食べ物とする生物が入ってきます。天敵です。例えば露地にナスを植えると、ナスに害虫のスリップス(ミナミキイロアザミウマ)がつき、実や葉に口を差し込んで汁を吸い増えます。すると畑の周囲のシロツメクサなどの雑草から天敵(ヒメハナカメムシ類)がナス畑に飛んできて、害虫を食べ発生を少なくしてくれます。
しかし、この天敵だけでナスの被害を十分に防げません。なぜなら、天敵のカメムシ類は餌の害虫のスリップスが増えた後に増えはじめ、それから害虫が減ります。また病害虫や雑草がそれまでその地域にいなかった外来性の種では、有力な天敵がいないこともあります。それで、化学合成した農薬に替わる防除方法として天敵を利用をする際には、自然に任せたのでは病害虫が大量発生してから天敵が現われますので、予め人間が天敵を用意して放す、棲息させることが行われています。
「除草虫」を放して雑草を抑える
米国フロリダ中部で、熱帯ソーダアップル(TSA)という外来雑草の拡散を南米産の甲虫を放って防ぐ生物学的防除が行われています。
TSAは、ブラジルとアルゼンチンが原産の雑草で、背が高く、とげたらけが特徴。白い花をつけ、その実は小さいが、果皮はスイカに似ています。多湿で肥えた台地、水辺、かんきつ類の果樹薗、野菜畑に拡がり、フロリダでは百万エーカー(四十万㌶)、生育すると土着の植物を駆逐し重大な経済的損害を与えています。例えば牧場では種が牛のふんで運ばれ、牧場全体がたちまち雑草で覆われ、牧草が生えなくなります。牧場主にとっては大問題となっています。
フロリダ大学のジュリオ・メダル助教授が六年間にわたる原産地調査、研究で見出した南米産の甲虫を使います。この虫はTSA(熱帯ソーダアップル)の葉を落とす葉きり虫で、切り落とされたTSAは衰弱してしまいます。フロリダで雑草TSAが侵入したところに、この甲虫を放つのです。フロリダ農務・消費者保護局、米国農務省、フロリダ大学の共同事業としで行われてます。
研究では他の作物への悪影響はありませんでしたが、実際に放してみないとフロリダのほかの植物、作物にどのような影響を与えるか分かりません。TSA(熱帯ソーダアップル)が南米原産のように、この除草の甲虫も南米原産ですから北米のフロリダの生態系にどのような影響を与えるのか調べて上で、悪影響が見出せなければ、大規模に実用化されることになります。(5月25日、日本農業新聞 日本では、雑草対策に天敵を使うことは、研究されていますが、実用化されていません。)
なぜ、天敵利用なのか
自然に現われる天敵では、被害を十分に防げません。それで、これまでは化学合成した薬剤、農薬(殺虫剤、殺菌剤、除草剤)を散布してきました。しかし病害虫の薬剤耐性やその残留性や環境に与える悪影響から使用を減らすことが求められています。
殺虫剤を例に取れば、多くの殺虫剤は害虫だけでなく天敵をより強力に殺します。すると、殺虫剤散布後に生き残った害虫は、天敵の減少で散布前よりも急速に増加します(リサージェンス)。そして、再度殺虫剤の散布が必要になりますが、殺虫剤に強い害虫が生き残った畑では、殺虫剤の効果が弱まっていて(薬剤抵抗性)、さらに強力に殺虫剤の散布が必要となります。こうした農薬は大概は残留性や環境影響に問題が多いものです。また終には、農薬がまったく効かない害虫が現われます。
例えば、コナガ。キャベツや白菜、チンゲンサイなどにつき葉を食べて穴を開けてしまう害虫です。コナガの天敵は、クモやアリ、ゴミムシ、寄生バチ、スズメや蛙、カビやウィルスなどたくさんいます。それで、もともとは目立たず害も多くはない平凡な虫でした。しかし、消費者は葉に穴の開いてない見栄えの良いキャベツや白菜を求めます。市場価格も高い。それで最初は神経系を乱す農薬を使いました。数年のうちに抵抗性を獲得して死ななくなったコナガが生き残ります。天敵が少なくなっていますから、以前よりも急速に増加します。すると、別種の神経系農薬をまき始めました。同じようにして消化管を侵す農薬、さらに脱皮に関わる農薬へと、次から次に新しい農薬を繰り出し、コナガも次々に抵抗性を獲得していきました。「今では、殺虫剤をまくのも水をまくのもあまり違わない状況」になっています。この数十年でどの農薬も効かない野菜害虫の「王者」になってしまいました。
このように、人の病原菌の薬剤耐性、MRSAと同じ問題が農業の病害虫に起きています。そのうえ合成化学農薬では残留や環境への悪影響があります。それで農薬に替わる防除技術として天敵利用が行われています。(天敵利用は有機農業で推奨されている防除技術です。天敵農薬は有機農業で使える、使用が許されている農薬です。)また天敵を使うと、省力化の効果も大きいのです。「農家は高齢化も進んでいるでしょう。農薬をまんべんなく散布していくのは、大変だし時間もとる。その点、天敵を使えば作業量がうんと減って、栽培面積を3~4割増やせる(大阪府立食とみどりの総合技術センター、田中寛)」。この点からも天敵利用が進められています。
今、日本で主に行われている天敵利用は、ハウスなど施設園芸でのア)病害虫の防除のために天敵を繰り返し放飼する生物農薬的利用です。現在、国内で販売されている生物農薬(天敵)は十三種類ですが、ほとんどが欧米からの輸入品です。天敵は生きた生物ですから、移動し増殖します。天敵農薬には、化学合成農薬とは異なる形で、有害な環境影響が生じる可能性があります。その天敵が、生態系のまったく違う海外から来る外来種ではその懸念が強いのです。それで国産の天敵での天敵農薬の開発が進められています。沖縄県農業試験場は、施設園芸の重要害虫スリップス(ミナミキイロアザミウマ)の天敵で、沖縄に棲息する捕食性昆虫のアリガタシマアザミウマの人工増殖法を開発し、4月22日にナスとキュウリで農薬登録を取得しました。このように有害な環境影響を生じない、少ない天敵の発見、選定が課題の一つです。
2008年12月小針店で配布した「畑の便り」再録
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←ナミテントウは、普通の(並の)天道虫という意味で、斑紋の遺伝による変化が甚だしく、まだこの他にも多くの形状のものが存在しています。 ナミテントウは、幼虫から成虫までの一生の内に、5千~1万匹のアブラムシを食べると言われています。 |
キイロテントウ、体長5~6mmほどの、可愛らしい天道虫 |
ニームとは [農薬を減らす工夫]
日本のセンダンは主に西日本の暖かい海岸地方で自生しています。北限は福島県付近です。ヒヨドリが種を食べ、それで拡がるといわれてます。 センダン科に属する高さ10数メートルになる木で、公園や学校、それにお墓の中などで大木になっています。若い幹や枝は紫色を帯びた褐色ですが、太い幹では縦にすじが入り、大きなものでは直径30~40cm、高さ10数メートルになります。樹冠を大きくひろげ、5月の中旬頃、複散形花序にたくさんの花が咲きますが、よく見ますと花弁は5~8枚あり、外側が淡紫色、おしべはお互いにくっついて筒状になり濃い紫色になっています。 葉はふつう2回羽状の複葉で、葉の量も多くないので明るい樹陰をつくり、威圧的な感じはありません。直径2cmほどの花は比較的早く落ちてその後に親指ほどの緑色の果実がたくさんでき、秋には黄白色に熟して、葉の落ちた冬まで残ります。 あなたの身近に生えていませんか? |
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ニーム(インドセンダン)はインドから広まり、現在ではアジア、アフリカ諸国、オーストラリア太平洋諸島、中央アメリカ、南アメリカなどで栽培されています。露地栽培・自生には暖かな気候が必要で、日本では南九州以南で可能といわれています。日本では、苗木を販売していますが、本州などではうまく育たない、枯れることが多いようです。
ニーム(インドセンダンまたはマルゴッサ)はインドの原産で、インドでは、古代から土壌と作物の防除、家畜や人間の病気の治療に使用してきました。樹木のほとんどの部分か苦く、種子の仁がもっとも苦く、その種から油を絞り、インドの農民は忌避剤、殺虫剤として使用していました。生葉からの抽出液(5リットルの水に1kgの生葉を入れて1日たったもの)を葉面に散布しても同様の効果があり使われました。乾燥させたインドセンダンの葉は貯蔵穀物や羊毛の衣服の防虫に使われています。油をしぼった後の粕、ニームケーキは窒素分が豊富な肥料で、絞り残された油分が土壌線虫などの害虫を防ぐので畑に施されてきました。
古代からインド人には自明なニームの病害虫に対する殺虫・忌避効果が、最初の文書報告は1928年インドで発表されました。この効果を欧米人が発見したのは、1959年スーダンで若いドイツ人科学者(昆虫学、植物病理学)ハインリッヒ博士が、偶然にもイナゴ、バッタの大襲来を目の当たりにし、全ての野菜類、緑の木葉類が食い尽くされ破壊してしまった光景のなかで、僅かに緑の木が残っていた。その木がニームでした。彼が研究し、欧米人に広めていったのです。アメリカ農務省は1975年より研究開始しました。
合成殺虫剤の害が認めらてくると、天然殺虫剤の原料としてニームが脚光を浴びるようになりました。米国では、1985年にEPA(アメリカ環境保護庁)が正式に生物農薬として認可し、天然のニームオイルを原料とした多様な薬剤が農薬登録されており、98年には50州で、1000億円売れたそうです。IFOAM(国際有機農業運動連盟)、BCS (欧州共同機構有機認証団体)は、ニームオイルを「有機農法に使用できる病害虫防除用資材」として認めて、広く有機農法の一環として使用されています。
アメリカ大手化学会社グレース社は、特許を取得し南インドバンガロールに日産20トンのニームオイル生産工場を建設しました。この特許をめぐって、騒動がもちあがり2000年に取り消されたのですが、それは別項で。
さて、ニームの成分で殺虫剤、忌避剤として有効な成分は、アザディラクチン(アザジラクチンAzadirachtin)という窒素ふくむ化合物です。アザディラクチンの作用は、一つは草食昆虫=害虫の食欲の減退、摂食阻害物質としての作用。微量でも摂取した虫は、活動をやめ、餓死にいたる。7~10日間程度有効だそうです。また昆虫の変態(脱皮や形態形成)にかかわるホルモンと構造が似ており、このホルモンの働きを阻害すると考えられています。この結果、昆虫はうまく脱皮ができず、3~14日で死亡します。
散布後に、かなり強いニンニク臭(くさったネギ臭ともいう?)がします。この臭いを嫌って虫が寄り付かない忌避効果があります。(インドでは、ニームオイルをココナッツオイルに1~2%混ぜた物で、マラリヤを媒介する蚊を寄せ付けない様にしているそうです。)
害虫を捕食する天敵、肉食性昆虫や鳥には害、殺虫作用は認められていません。ミツバチはニームの着いた花粉を幼虫に食べさせてしまうために、若齢幼虫に影響が出ます。うどん粉病、黒点病、さび病等、広範囲な病害に有効とされています。
ニームは、即効性がありません。効果が現われるのに平均して3日かかります。また光(紫外線)などによる分解が非常に速い(約100時間以内)のです。そのため、毎週散布することになります。日中、太陽が高いとき畑にニームを散布したら効果がすくなく、夜明けや夕方(西日が当たらなくなった頃)に散布することが薦められています。雨によってニームエキスが流されてしまうので、効果がなくなります。
作物によっては一部に落葉や新芽の萎凋などの薬害が現われます。魚に対して毒性があるので、池や川に直接流れ込まないようにするなどの注意が必要です。 13℃以下では固まってしまう油ですので、乳化剤などを使う必要がありますし、散布時の気温が散布に影響します。
医薬としての効果、人間への毒性...
センダンは、漢方では生薬です。その種子を「苦楝子」(くれんし)、樹皮と根の表皮を「苦楝皮」(くれんぴ)という生薬です。『漢方診療医典』(南山堂)などによれば、種子の「苦楝子」は鎮痛剤で、腹痛に10グラムを適量の水で煎じて服用します。樹皮と根の表皮の「苦楝皮」は解熱、駆虫剤で、回虫、蟯虫、条虫に、6~10グラムを煎じて、1日2回朝夕の空腹時に服用します。大量に用いると顔面が紅潮し眠気をもようしたりする副作用があります。民間では、ひび、あかぎれ、しもやけに黄熟した生(なま)の果実の果肉の部分をすりつぶして、患部に塗布します。
またインドでは万病に効く民間医薬として、皮膚病、解熱、泌尿器官の病気、糖尿病などあらゆる病気に使われてきました。小枝を解してブラシ状にして歯磨きにも使ってきました。
薬として有効な物は、同時に毒となります。摂取量が10gで薬で、毒となるのは100gの物と15gの物を較べるとどちらが、使いやすく、安全といえるでしょうか。一般論、原則論的には薬として有効な濃度、摂取量と毒となる濃度、摂取量が離れているほど、使いやすく安全な物質といえます。この点ではセンダン、ニームはきわめて安全の物質といえます。
ただ、センダンの苦楝皮(くれんぴ)を大量に用いると顔面が紅潮し眠気をもようしたりすることからわかるように、完全に無害というわけではありません。ニームオイルは目に刺激性が強く、動物実験では、ラットを対象にした90日間の慢性毒性試験では明瞭な毒性の兆候は見られませんでした。遺伝子に対する毒性・変異原性は認められません。(エームス・テストは陰性。マウスのリンパ腫試験も陰性。)しかしオスの不妊化への影響が見られました。
マウス、ラット、ウサギ、ハムスターに、ニームの葉の抽出物を与えて不妊化の効果を調べたところ、オスのラットで、6週目で66.7%、8週目で80%、12週目で100%の繁殖率低下が見られました。精子の生成量には影響しないものの、精子の死亡率が顕著に上昇したためとみられています。なお、この効果は永続的ではなく、4~6週間で回復してます。マウスでも同様の効果が観察されました。なお、ハムスターとウサギには、ニーム抽出物は毒性を示すと報告されています。このように、小型のほ乳類に対して環境ホルモン様の影響力をもつ恐れがあります。農薬として用いた場合は、光などによる分解が非常に速い(約100時間以内)ので、すでに環境ホルモンと考えられている一部の化学農薬のように、作物や環境に長期にわたって残留する恐れはないと思われます。
しかし、医薬で直接とった場合はどうでしょうか。長年にわたる虫下しとしての利用の実績や環境ホルモン効果が永続的でないことを考えると、実質的に不妊をもたらしているとは見られませんが、未解明です。逆にインドでは、避妊薬としての開発が進められています。残念なことに、ニームの安全性を強調する余り、「人間には無害」という表現がされています。例えば「インドのアーユルベーダ(紀元前から続くインドの伝承医学)には欠かせない神秘の薬として古くから珍重されている。・・人間が生葉で食べたり、お茶にして飲んでも害がないどころか、薬効に優れている万能薬。」こういうのを「ひいきのひき倒し」というのでしょうね。
また、これまでは殺虫成分のアザディラクチンだけに注目されていますが、他の成分geduninという成分はマラリアに感染した細胞組織に対してキニーネと同じほど効果的だと言われています。センダンから作られる生薬、「苦楝子」(くれんし)、「苦楝皮」(くれんぴ)の鎮静、解熱といった薬効を見ても、有効成分はアザディラクチンだけと思えません。センダン科の植物の持つ成分の特定と薬理作用の研究が行われています。
有機リン殺虫剤で1300人が健康被害、出雲市 [農薬を減らす工夫]
№08-36 、 2008年9月2日小針店で印刷・配布した「畑の便り」再録
2008年5月26日の出雲市
今年5月26日(月)の朝、出雲市の浜山中学校。4から5名の生徒が職員室の前に集まっていました。
8時25分、朝の職員朝礼が終わるのを待って、養護教諭に口々に目のかゆみ等を訴えました。診たところゼリー状の結膜浮腫などがありました。
30分からの学級朝礼で調べたところ全校828名中、87名が異常を訴えました。目を水で洗い流しそれでも良くならなければ保健室へ来るよう指導、40名あまりがきました。養護教諭は45分に学校医に連絡、教頭は教育委員会と市の農林政策課に連絡を入れました。
”農林政策課”この日の朝、松枯れ対策でヘリコプターによる殺虫剤の空中散布が行われていたのです。使われたのは有機リン系のスミパインMC。
出雲市は30年余り、松枯れ対策で殺虫剤空散を約2000㌶に毎年6月に実施。胸が苦しくなる、目の奥がチカチカするなどで、毎年この散布時期には市外へ避難する人やアレルギーが酷くなり家族と別れて暮らす子供などの健康被害が問題化。それでも昨年は、出雲大社での空中散布で課外活動中の高校生が農薬を浴びてしまいました。連絡を受けた市は翌27日以降、空散を中止しました。
この26日の空散で、児童生徒1057名、成人245人など1300人以上、うち入院2名、約300人が病院通いの健康被害が確認されています(8/24現在)。出雲市は原因調査委員会を発足させ、9月1日に6回目の会合が予定されています。
参照 日記・・・・身近な暮らしの中で(島根県出雲市から) http://kao326.jugem.cc/
出雲市の原因調査委員会
この委員会で空散擁護派は「空散直後の直下に人がいて、その人の目に散布農薬が落ちてきたとしても、標準的条件で計算すると、その目に侵入する農薬量は極少ない。目に影響が出るはずがない。(県農業技術センター資源環境部長)」汚染量は環境影響評価指針値以下、影響が出るはずがない(島根大学副学長)」などと主張。
直ぐさま中立派の島根大学の眼科の委員が「それよりもはるかに少ない量を目薬で点眼しただけで卒倒する人もいますよ」、「(空散された)農薬が原因でアレルギーが起きるかどうかはハッキリしないが、アレルギーの子が(この農薬に)被爆すれば症状が悪化しやすい」と教示。
目の痛みなどを訴えた1300人は現実。「出るはずがない」は観念論。観念と現実、科学者ならどちらを重視すべきでしょう?
極めつけは
空中散布の農薬毒性に誤記述(NHK8/20、23報道)
=19日開かれた出雲市の調査委員会で農薬の毒性に詳しい元大阪大学助教授の植村振作委員は、農薬メーカーの「住友化学」から委員会に提出された毒性に関する説明資料の記述に虚偽があると指摘しました。
この資料は、今回空中散布された「スミパインMC」という農薬に関して平成9年に作成されたものです。住友化学が農薬を国に登録するために実施した、ウサギを使った毒性試験で、目に軽度の結膜の充血が確認されたにも関わらず、説明資料では、農薬の成分に「目に対する刺激性はない」と誤った記述をしていました。
住友化学は、この資料を農薬を販売する際など毒性を説明するために自治体や代理店に約1万部配付して使っており、委員会に出席した住友化学の担当者は、不正確な表現であることを認めました。=
スミパインMCは有機リン系の殺虫剤
スミパインMCは有機リン系の殺虫剤(MEP・スミチオン)を合成高分子膜で包んで微小のマイクロカプセル化し、水に懸濁させた製剤です。カプセルが虫の体内などで弾けて、中身の殺虫剤が出るわけです。耐雨に優れ、散布・乾燥後の降雨による影響
もより受けにくくなって8~10週間程度はカプセルが残留し、殺虫剤としても 残効性が高くなっています。松枯れの病原センチュウを媒介するマツノマダラカミキリを殺虫剤で駆除するには、羽化し成虫となって出てくる発生初期、その約2週間後の中期、この2回が散布のチャンスです。8~10週間程度の残効性があるので、発生初期に1回散布ですむ手間が省けるのです。有機リン系の神経毒です。昆虫などの我々動物の神経を阻害する毒です。哺乳類はこれを解毒する能力が高いのですが、解毒能力が低い昆虫などでは呼吸を停止させるなどして死に至らしめます。
使用マニュアルでは①養蚕、養蜂に影響を与えないよう②水産動物、特に甲殻類に影響を及ぼす恐れが示されています。
教示から分かるのは、この殺虫剤は選択的にマツノマダラカミキリを殺すものではなく、昆虫など節足動物に全て毒性、殺作用を持つ。例えばこのカミキリムシの天敵も殺してしまう、つまり森林の生態系を構成する昆虫に8~10週間程度は殺作用を顕しその森林の生態系を脆弱にするのです。 河川に流入すると、甲殻類、例えばミジンコなどの動物性プランクトンを殺します。この殺虫剤は直接には魚を殺しませんが、餌の動物性プランクトンを殺すことで飢えさせるわけです。
松枯れと病原センチュウとカミキリムシの関係は、マラリヤと病原寄生虫と蚊に似ています。詳しくは別の機会にしますが、マラリヤがDDTなど殺虫剤散布で根絶できないように、松枯れも殺虫剤でなくせるとは思えません。農薬空中散布・地上散布の中止し、農薬の人体への健康被害、地域生態系への影響の観点から松枯れ対策の再評価が必要です。少なくとも林野庁は西尾・出雲市市長の、もっと安全な農薬を研究、開発してほしい、と自ら出向いての申し入れには応えるべきでは
病原菌の天敵療法 ファージセラピー(3) [農薬を減らす工夫]
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バクテリオファージを用いた植物病診断・予防・防除システム