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コシヒカリの高温障害と品種改良 [有機農業と飢餓、食料自給]

2019年の8月中旬、新潟県内は台風10号に伴う暖かい空気が吹き下ろすフェーン現象に見舞われ、各地で40度超を記録。この影響で白濁する米が増え、新潟県内の産米の1等比率は34・6%まで落ち込んだ。
農家では、2015年頃から田植え時期を従来のゴールデンウィークから1週間ほど遅らせ、高温による被害の影響を少なくしようとたり、水田の水温を下げるため、なるべく頻繁に水を入れ替えたりする農家もいる。しかし、水は「掛け流しがベストだが、そうすると水がかれてしまう」と限界も感じていた。
新潟大学農学部の三ツ井敏明教授(農学科 応用生命科学プログラム)は、約20年前からの研究で、穂を実らせるイネ登熟期に高温ストレスを受けると、登熟種子中のでんぷんを分解する酵素「α―アミラーゼ」の遺伝子が高発現しα―アミラーゼが増え、デンプン粒が分解され玄米の白濁化が助長されることを突き止めた。これを抑えれば、白濁化(乳白米・白未熟粒)を抑えることができる
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過酸化水素(H₂O₂)は活性酸素種の1つであり、身近な消毒液に用いてる。生体内で過度に発生すると、脂肪酸、生体膜、DNA等を酸化損傷する有害物質であり、細胞死やがん化などの原因になるといわれてる。しかし、低濃度のH₂O₂はシグナル分子(ホルモン、サイトカイン、神経伝達物質など細胞の増殖や分化を制御する働きを持つ分子群)として機能することも知られている。
 それで水稲での働きを調べると、生体を賦活する予備刺激のプライミング(priming)として過酸化水素は、①水稲の高温登熟性が向上させる②稲の光合成能が上昇する③稲の高温不稔が改善させるとわかった。


それで、三ツ井教授は、高温環境下でも収量や品質が低下しないコシヒカリ稲作のためにⒶ高温に強いコシヒカリを育種し、Ⓑその高温耐性コシヒカリに低濃度H₂O₂(過酸化水素)プライミングを施し高温登熟耐性の向上させ、栽培する戦略で取り組んだ。


高温耐性コシヒカリは、コシヒカリの体細胞を培養し、再分化し培養細胞中の染色体数が倍加あるいは低減したり、染色体が欠失、重複、転座などによる変異した細胞から、高温、高濃度CO2耐性を有するコシヒカリの突然変異体を選抜し作出育種した。これにNU1号の系統名を付け、2020年3月9日に品種登録した。鹿児島県、福岡県、新潟県内村上市、阿賀町、新発田市、刈羽村、柏崎市、南魚沼市、上越市などの栽培実証実験では普通のコシヒカリよりも形に異常のない“整粒”の割合が、10~7ポイント高かった。2021(令和3)年、2022(令和4)年の味度(みど)評価では品質最高水準のS評価相当だった。

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さらに、育種したNU1号に低濃度H₂O₂(過酸化水素)プライミングを施し実験栽培した。その結果、形に異常のない“整粒”の割合が約1割多く、成熟していない“未熟粒”は約半分であった。
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水稲の高温耐性品種 [有機農業と飢餓、食料自給]

水稲は、生育中に気温が日中で約35℃、夜間でも約30℃を超えると、「高温障害」が発生する可能性があります。日中は稲の蒸散に吸水が追いつかず、しおれて枯れてしまったり、蒸散を防ぐために葉の気孔が閉じと光合成も停止し、生育が止まってやがて枯れてしまったりします。夜間の高温は、稲の呼吸作用を増加させます。日中に生産したデンプンが呼吸で消費されてしまい、穂に送り込む量が少なくなり、登熟(とうじゅく)歩合の低下、乳白米(白未熟粒)発生につながります。出穂後20日間において 日平均気温が 27℃ないし26 ℃( 日最低気温が 24℃)を超えると乳白米(白未熟粒)が多発してます。

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 こうした高温下でも登熟が安定し、品質や収量が低下しにくい高温耐性品種の栽培が近年増えている。水稲の作付面積全体に対する高温耐性品種の割合は、2012年の3・5%から右肩上がりで高まり、20年に1割を超え11.5%、2021年は16.1万ヘクタール・町歩になった。、

 島根や岡山、鳥取など西日本を中心に拡大した「きぬむすめ」品種は、2021年に2012年比で3・2倍になり2万2400ヘクタール。「つや姫」品種は山形や宮城、島根などで栽培され12年比で2倍の1万7100ヘクタール/haで、前年より5%増えた。茨城県では、「にじのきらめき」品種の作付面積が、前年2020年比1・8倍の490ha。同県では、水稲作付面積の8割ほどを「コシヒカリ」が占めていたが、高温による玄米品質の低下などを理由に21年は7割に減っている。

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国の研究機関、農研機構が2021年公表した予測では、二酸化炭素がこのまま増え続け温室効果が進み気温が上昇した場合、全国のコメの収量は今世紀末に2000年ごろと比べて約80%まで低下し、白未熟粒米の発生率は2000年ごろの約5%から今世紀末に約40%まで増えるとしている。(国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 NARO)
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コシヒカリを見てみる。

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オーガニック綿の綿毛布で自殺を食い止める [有機農業と飢餓、食料自給]

2008年9月小針店で印刷・配布した「畑の便り」に加筆

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  配布のチラシで御案内したオーガニック・コットンの綿毛布をハートさんが扱うきっかけは、インドの農民の自殺を防ぎたいという思いだそうです。

 約11億5千万人の人口を抱えるインド、農村人口は7億5千万人、農民の約70%が2ヘクタール以下の零細農民、小作人。全農民の30%前後が1日2㌦以下の収入。自殺統計が取られ始めた1997年から2005年までの9年間に15万のインド農民が自殺。痛ましい限りですが、オーガニック・コットンとの関わりは??

 年収の7割が農薬、肥料、種子代金

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 例えば、西部、綿花生産で有名なマハーラーシュトラ州のヴィダルバでは、この州の農民の自殺は3万6千件で、そのうち70%がこの地方で起きた。千キロ西のバラマティ郊外では、青々とサトウキビ、トウモロコシ、チコー(果物)、チリ、豆などが生育している。協同組合制度が行きわたり、水路が張り巡らすこの地域では、1,875米ドル以上の収入があるのに対し、ヴィダルバ地域の綿農家の年収は250米ドル以下。その理由の一つは、綿につく害虫を駆除する為に、農家は借金をして農薬を買うからである。最初は、その農薬で防げていた害虫が、次第に農薬に慣れ抗体を身につけてしまい、綿は害虫により大きな被害を受けてしまう。すると農家に残るのは借金だけ。

  そのうえヴィダルバは、灌漑施設が乏しく、雨が少なければ、ただちに干上がってしまう。土壌は枯れ、農民は借金に苦しむ。村が売りに出されたが、買い手はつかない。2005年には、『腎臓売ります』という、看板も。生産もままならず、借金を返せない農家が、担保の土地を取り上げられ、追い込まれて自殺してしまうのです。

 遺伝子組換え綿は??

  その農薬を減らせるといって売られているBTコットン、殺虫毒素BTを生産する遺伝子を組みこんだ綿品種はどうでしょうか。

 伊藤 洋一(住信基礎研究所)によれば、 =私が行ったのはパントゥルパッリーという中部インドの典型的な農村。戸数は200戸、人口は500人。「戸」「家」と言っても、全て部屋に床はなく、土間です。家の大きさは、日本の言い方で言うと全部合わせても8畳もない。とにかく座る椅子とてない。多分土間にそのまま座って生活しているのでしょう。その証拠に、「どこに寝ているのか」と家人に聞いたら土を指さした。

  電気は家の中にたったハダカ電球が一つ。キッチンと言っても、薄手の鍋数個が火鉢のようなところに置いてあって、どれがまな板なのかもわからない。奥には汚い根野菜がいくつか転がっていて、そこではランプで仕事をするのだそうです。テレビなし、ラジオなし、ましてインターネットなし。この家のご主人は、最近自殺した。残された奥さんには、子供二人、2才(男)と5才(女)が残った。

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  この家のご主人が自殺したのは、BTコットンという綿花の種で偽物を掴まされたことと、それに関連して銀行や親戚、はては異常な高金利を取る民間貸し金業者からお金を借りて、返済の見通しが立たなくなったため。問題は彼女のご主人が例外的な存在でない点で、インドの政界でも「農民の自殺」が大きな問題として取り上げられていた。

  インドの綿花農家は、いままで伝統的な種で農業を営んでいた。そこに、アメリカの農法にあったモンサント開発のBTコットンというハイブリッド(遺伝子組換えで殺虫毒素を生産する)種が入ってきた。害虫駆除に効果があるとされるこの種は、インドでも急速に普及している。なにせその種を使った農家の綿花畑には害虫がつかない。代わりに、伝統的な種を使っている農家の畑に大量の害虫が集まるから、となりの農家がBTコットンを使うと、使わざるを得ない。広がるのだ。

  しかしBTコットンは安いものでもなし、害虫は寄せ付けないがあらゆる条件で高収量を保証しない。もともとアメリカの産地にあった種で、充分な水分(と肥料)が供給されないと種自体の割高さにあった収量はない。しかし、インドの天候は極めて不順であり、そもそも水分不足が深刻なインドの農村にはあっていない面もある。だが、隣が使っている限り、BTコットンの使用をやめるわけにはいかない。

  ある農家のご主人はBTコットンの種を買うのに年収の1割を、その他肥料など費用を全部入れると、綿花農家の年収の7割はコストに消えると言っていた。そのために借金もしている。干ばつなどで収穫が著しく減った場合には、直ぐピンチになる。しかも、話を聞いていると、彼らは借金の怖さを知らない。インドの農村に金融が入ってきたのは比較的最近だと聞いた。つまり慣れていないのだ。無邪気に借金をしているように私には見えた。=

  原油高→肥料高騰などで生産費が高騰するのに、手厚い補助金でダンピングされた米国やEUの綿花と価格競争しなければならない。アメリカ産綿花は、大規模・機械化農法であり、昨今は遺伝子組み換え種子使用で多収穫が可能になっている。当然、生産コストは圧倒的に低い。しかも、巨額な農業補助金=輸出補助金が供与されており、輸出価格は圧倒的に安くなる。いくらインドの人件費が安くても太刀打ちできる筈がない。そのため設定される農家から買取価格が非常に低いという状況。

オーガニックコットン

 オーガニックコットンは農薬や化学肥料を使わないで栽培する代わりに、農家は堆肥作りに励む。生えてくる雑草をむしり、土を混ぜ合わせて空気を入れ、牛の糞や野菜くずなどの堆肥を混ぜて地力を付けるのだ。コットンは土の栄養分をとても吸収して育つ。だから基本的に1年間コットンを育てた土地では、翌年と2年後は別々の作物を植えて育てている。そして虫除け対策には、ニームと言う虫が嫌う植物や、ニンニクや唐辛子など匂いのきついハーブをコットンと一緒に植えて害虫が来るのを防いでいる。また、糖分が豊富で虫が好む植物を畑の周囲に植えて虫をそちらにおびき寄せたりしていた。
 
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 =実際に綿花をオーガニック栽培している農家さんに会いに行った。・・人里離れた綿花畑の真ん中、土間に人の背丈くらいの高さしかない小さな平屋の家。そこに3世代、家族7人が、羊や牛と一緒に住んでいた。彼らの家は日本の生活水準からみると、貧しいと思える。
  それなのに実際に僕が会った農家の子供達、そして家族みんなが幸せそうな表情をしていた。 実際に農作業を行なっているお父さんに話を聞いた。
 僕「農薬を使って栽培していた頃と今とでは,何が変わりましたか?」
 農家さん「農薬を使わなくなって借金をしなくてすむので生活が楽になった」
  農家さんの笑顔が印象的だった。オーガニックコットンという物が、本当の意味で生産者に優しいのだなと感じた。=朝倉創

このハートの綿毛布は、少しでも多く販売して有機綿花を買い上げたいめ、製造工程は有機認証を取っていません。それで有機の綿毛布とは表記できません事をお断りします。


バナナと飢餓と有機農業 (2-2) 2001 [有機農業と飢餓、食料自給]

2001年3月に虹屋小針店で配布した「畑の便り」 の加筆・再録
 
虹屋のフィリッピンのネグロス・バナナはネグロス島で80年代後半に起きた飢餓救済の国際的な活動の中で生まれた無農薬栽培のバナナです。募金に始まった救援活動は、自立支援のバナナの共同購入を生み出しました。そのバナナです。
 
 島の肥沃な平地、生産条件の良い土地のほどんどを大地主の砂糖キビ農園で占められています。多くの島民は大地主の農園や精糖工場で砂糖きびの収穫などの時だけ働き口を得て、その労賃で食料を買っています。国際市場における砂糖価格が80年代に大暴落し、砂糖きび農園や精糖工場が閉鎖されました。当然、労働者が職を失いました。お金がなく、食料を買えません。彼らに野菜や魚を売って暮らしていた農民や漁民も買い手がいなくなるのですから、無収入。これまで魚を売った代金で買っていた穀物などが買えません。こうして餓えが起こりました。
 
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  この飢餓を生む構造からネグロスの人々が抜け出す為には、①工場など働く場を増やす②コーヒーのような国際商品作物もつくる③野菜や米など地域で消費する作物をつくる農業・農民を育てるといった方途が考えられます。フィリッピン政府は①と②を推進しています。しかし資本や市場は外国に頼ります。例えばコーヒーが50%、砂糖きびが50%になったとしてもコーヒーがダメなときは50%が餓える、砂糖きびがダメなときは50%が餓えるというふうに飢餓をおこした構造は変わりません。③の野菜や米など地域で消費する作物をつくる農業・農民を育て、その食料が流通する仕組み(市場)を作り上げることが、「食料を獲得する能力」を安定的に得る道です。①や②の道を拓くにしても③は、安全網として重要です。
 
  この第三の道を拓く為に、ネグロスでまず問題になのは生産条件の良い肥沃な土地を大地主の砂糖キビ農園から如何に取り戻すか。敗戦後の日本では、地主から土地を実際に耕作している人に無償で渡す農地解放・自作農創設が行なわれました。明治時代末から農業が生み出す利益を地主らは専ら農業外に投資し、結果、農業の発展は遅れました。小作人だったら生産意欲はどうでしょうか。
 
 敗戦により朝鮮、台湾を失い飢餓に臨んだ日本は、食料生産を阻害するこの病根を退治する必要があったのです。
 
  フィリピンでは、マルコス、アキノ、ラモス、そして現在の大統領も大地主の出身です。それで徹底的な改革はされていませんが、ある程度の農地改革の法律が制定されています。こうした法や人々の運動で小規模ですが、砂糖きび畑が農園労働者の手に渡っています。
 
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 そこで様々な作物をつくろうとして直面したのは長年、砂糖きびが連作され化学肥料や農薬が使われた土地では、種をまいたから実が成るとは行かない「土地、土壌がが干からびている」という問題です。恵みを創り出す農業を回復するには、まず干からびた土を豊かにすることが大切です。それには家畜の糞尿や生ごみやサトウキビの絞り滓などで作った堆肥、魚粉、貝殻など、多くの有機物の施肥が必要です。つまり有機農業・有機農法をおこなわなければネグロスの人々が、様々な野菜や米などの栽培し「食料を獲得する能力」を育てられないという現実です。
 
  しかし人々は社会的混乱・内戦状態で子どもが病気にかかると、せっかく貯めておいた種も器具も売り払ってしまわなければならないという状態、まず「今日の米を確保する」ことが先決という状態ですから、3年先5年先に効果が現われてくる有機農業に取り組むことが困難な状況にあります。
 
  ネグロスバナナ民衆交易で積み立てられる自立資金を使い様々な取り組みが行なわれ、紆余曲折がありましたが、芽が出てきています。
「ツブランは小規模でも養豚を中心に一つの循環ができあがりつつある。豚の糞尿はもちろん堆肥となって、米や野菜、有機砂糖きび・果物の生産に利用される。鶏のエサにもなるし、養豚場の下に池を掘って300匹のテラピアを養殖し始めた。池の水にも豚の糞尿が利用されているから、水田や畑に撒けば肥料にもなる。全経費の4割が農場の収益でカバーでき、100%自立の計画は夢でなくできそう」
 
  第三世界の多くに、ネグロスと同様に国際商品作物に偏ったプランテーション農業が行なわれています。ネグロスの経験は、化学肥料や農薬を多投するプランテーションで干からびてしまった土地を回復する・農法、つまり有機農法・農業が「食料を獲得する能力」を人々が安定的に獲得し、飢餓に落ち込まないためには必要ということではないでしょうか。


バナナと飢餓と有機農業 (2-1) 2001 [有機農業と飢餓、食料自給]

2001年3月に虹屋小針店で配布した「畑の便り」 の加筆・再録
 
虹屋が扱っているバナナは、フィリッピンのネグロス島などで無農薬で栽培されたものです。このネグロス島は、1985年には「14万人もの子どもたちが飢えのために死に直面している」とユニセフが報告するほどの深刻な飢餓状況になりました。
 
飢餓はなぜ起きたのか。
 
 ネグロス島はフィリピンにある、四国の3分の2ほどの大きさの島です。島の西半分は肥沃な平地のほどんどを大地主の砂糖キビ農園で占められ、島民の多くも砂糖産業に依存して生活しています。大地主の砂糖きび園で働く労働者の生活条件は、大農園で砂糖きびの収穫などの時だけ、収入を得て、その金で食料を買っています。
 
 農民、漁民達の暮らしは、どうでしょうか。
 
バコロド市のストリートチルドレン、ラモン・マグバヌワ君(13歳)は「もう1年くらいここにいる。カバンカラン市のナンドン村からきたんだ。僕は6人のうち5番目。
母さんたちは山の畑でバナナやキャッサバを作っている。すごく貧乏なんだ。
家出してバスに乗り込んだ。車掌さんを知っていたから、ただでバコロドのターミナルまで乗っけてもらった。ターミナルにはたくさんの子どもがいたから友だちになってそのままここにいる。バスの掃除。床をはいたりゴミを拾ったり。運転手が食事している間、バス以外の車の番もするよ。一回2~3ペソもらえるんだ。一日で20~30ペソくらいになるかな。ターミナルの店でご飯は食べてるよ。時々余ったものをわけてくれるおばさんもいるし。夜はベンチで寝てる。
雨の日は寒いけど、病気にかかったことはまだないよ。ほとんどはラグビ(シンナー)を吸ってる。シャブやマリワナを売る大人もたくさんいる。マリワナは一本10ペソで売っている。一度母さんが会いにきた。ご飯食べていけるんだったらここにいたほうがいいと言った。本当はハイスクールまでいきたいんだ。それから仕事を捜す。なんでもいいよ、仕事にありつけるなら。」
 
  この貧困の一因は、流通手段がごく一部の人たちに独占され、そのため、農民や漁民はせっかくの生産物を安い値段で売らざるをえないことがあります。根本的には、大地主のサトウキビが条件の良いところを占め、一般の農民は土壌の痩せた土地や斜地、漁村には小さな小舟しかないといった劣悪な生産条件にあります。このため、食料は多くを島外からの輸入・移入しています。
 
 砂糖価格の暴落が80年代にこのような厳しい状況に襲いかかりました。国際市場における砂糖価格が暴落し、砂糖きび農園・プランテーションや精糖工場が閉鎖されました。当然、労働者が職を失いました。お金がなく、食料を買えません。彼らに野菜や魚を売って暮らしていた農民や漁民も買い手がいなくなるのですから、無収入。これまで魚を売った代金で買っていた穀物などが買えません。こうして餓えが始りました。子供たちが栄養失調で死亡するなどの飢餓に苦しみました。
 
  食料が社会・経済の中で流通し行き渡るのは、慈善やなにか自動的な共有システムを通じてではありません。賃金収入などお金を稼いで、そのお金での売買を通じたり、自分で収穫物を自由にできる農地を持ち耕作するなどの経路をたどります。個々人、個々の家庭にこうした食料を獲得する能力が必要であり、それが確保できない時、餓えに苦しみます。
 
  「食料を獲得する能力」と有機農業
 
  ネグロスの人々が「食料を獲得する能力」を得る為には、①工業や観光業などを振興し働く場を増
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やす②砂糖きび以外の国際商品作物、例えばコーヒーのような作物に切り替える③砂糖きびだけではなく野菜や米など地域で消費する作物をつくる農業・農民を育てるといった方途が考えられます。フィリッピン政府は①と②を推進しています。
しかし工業などを興す資本は外国からの投資に頼らざるを得ませんが97年に見られたようにこうした外国資本は、大半が投機目的で何かあると引き揚げるので不安定です。砂糖きび以外の国際商品作物を導入しても、例えばコーヒーが50%、砂糖きびが50%になったとしてもコーヒーがダメなときは50%が餓える、砂糖きびがダメなときは50%が餓えるというふうに規模は小さくなりますが85年の飢餓をおこした構造は変わりません。③の野菜や米など地域で消費する作物をつくる農業・農民を育て、その食料が流通する仕組み(市場)を作り上げることが、ネグロスの人々が「食料を獲得する能力」を安定的に得る道です。①や②の道を拓くにしても③は、安全網として重要です。
 
  この第三の道を拓く為に、有機農業・農法が必要なのです。ネグロスバナナの代金の一部はこのための資金に当てられます。詳しくは次回で


食料輸出大国、アメリカの餓え 2001 [有機農業と飢餓、食料自給]

2001年5週に虹屋小針店で発行した畑の便り  №01-5の再録です

有機農業は、収穫量が従来よりも一般的に落ちます。これは、従来の化成肥料や合成農薬に頼る農法が、化学肥料で作物が摂れるだけの栄養分を摂らせます、収穫量を極大にしようとします。言わば肥満児に育てますから、抵抗力が当然落ち病害虫にやられ易くなりますが、この点は合成農薬で補う。この二点を基本としているからです。有機農業は病害虫への抵抗力を高めるために、丈夫な身体の作物、家畜に育てます。摂れるだけ栄養分(肥料)を与え肥えさせようとはしませんから、収穫量が落ちます。

 この点から、有機農業を推進すると、収穫量の低下して食糧不足を招き飢餓が起こる。今でも栄養不良で困っている第三世界の国々ではなおさらだ。だから、有機農業は先進国の好事家のやることだといった意見・批判をみる事があります。収穫量低下→食糧不足→飢餓という三段論法は非常にわかりやすいのですが、はたしてそうでしょうか。飢餓は何故起きるのか、どのような要因が関係しているか。飢餓の実情は?

米国国民の30人に一人が餓えを経験
 
アメリカ政府・農務省は「餓えに関する年次報告(1999年度)」を2000年9月に出しました。それによるとアメリカ国民800万人が実際に餓えを経験していました。より広く食べ物が不安定「家庭の者が活動的で健康な生活をするのに十分な食べ物をいつでも手に入れることが出来ない暮らしの家庭」は3100万人。米国の人口は約2億2000万人ですから7人に一人です。

 報告をまとめた農務省の定義では、十分な食べ物がないということ、食べ物を買うお金が十分にないということ、十分な食べ物を持つことにいつもイライラした経験も持っているということです。食べ物の摂取量を減らしたり食事をカットしたり、とばしたり、あるいは、決して栄養になるとはいえない食事を食べることも含まれています。こういう暮らしに国民の14%が米国では置かれています。

 アメリカ合衆国は、食料を世界中に輸出しています。食糧不足の国とは誰しも思わないでしょう。その国民の7人に一人が食べ物に不自由していて、3.6%が「飢餓」を経験していると政府が認めています。つまり、食料過剰と飢餓が米国では共存している。

社会的にどのような階層、集団がこのような状態に置かれているのでしょうか。
子どもを持つシングルマザー、その約30%の世帯が食べ物の確保が困難で、8%が飢餓を経験。アフリカ系アメリカ人、6.4%の世帯が確保が困難。ヒスパニックつまりスペイン語系アメリカ人、約5.5%の世帯が食べ物に不自由しています。これに対し白人世帯は2.1%です。

 所得という視点で見れば、99年の所得が貧困線つまり最低限の生活を維持するのには必要な取得水準の50%から130%、それは4人家族で8,350ドルから21,710ドル(日本円で約90万から240万円)範囲の所得の世帯の27.7%が食べものが不安定、不自由でした。割合の上では95年に26.1%でしたから99年には逆に増えています。
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 ご存知のように95年から99年の米国経済は絶好調、世界で唯一好景気の国でした。家庭の収入が増え、絶対数では食べものが不安定な家庭、国民は12%減っています。しかし経済が完全雇用、働く意思と能力のある人は総て雇用され職と収入が確保された状態であったことを考えると何故、800万人が飢餓に苦しまなければならないのでしょうか。
 飢餓に取り組む米国のNPOは次ぎように評価しています。「経済が活発なのに比べると飢えの改善の速さあまりにも遅すぎます。飢えが高いレベルでシツコクはびこり続けているという事が特に憂慮すべき点です。」

 今の米国経済の特徴に、定職を持ったホームレスがあります。日本ではホームレスの人は職がなく、収入がない人ですが、米国では建築労務者のような定職を得てもアパートの一室が借りられずホームレスの人がいます。つまり米国経済が作り出した新たな雇用・職場では以前より低所得なものが多い。
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 白人世帯の倍以上もアフリカ系とスペイン語系アメリカ人が、母子家庭の3割が食べ物を確保するのに困っていることは単なる経済問題だけではなく、社会構造全体が飢餓、栄養不良問題に関わっていることを示唆しています。

 食料過剰と飢餓が米国では共存しています。
 
 80年代前半アフリカのボツワナでは食糧生産が約2割、ジンバブエでは約4割、スーダンとエチオピアは約1割減りました。しかし食糧生産の落ち込みが少なかったスーダンとエチオピアでは大規模な飢餓発生しましたが、ボツワナとジンバブエでは何も起こりませんでした。単純に食糧不足だから飢餓が起こるとはいえません。それでは飢餓と有機農業運動はどのような関りが在るのでしょうか。有機農業を進めると飢餓は深刻化するのでしょうか。 
 
 


半額ハンバーグと食糧自給(3-1) [有機農業と飢餓、食料自給]

 2001年8月に虹屋小針店で配布した「畑の便り」再録
 
某ハンバーグが、平日半額セールをやっています。こういった食品は、原材料費は小売価格の三分の一から4分の一、そこに店員などの人件費や店舗・調理設備などの経費が加わり原価が形成されます。半額でも材料費は回収できます。
 
  ハンバーグ平日半額でも、それだけを買う人と言うのは、ほとんどいないのだそうです。たいてい飲物やオモチャ付のセットもついでに買う。一つ売るのも二つ売るのも手間は同じ、こうした「ついでが買い」で十分に利益が出るそうです。
  この会社、ファーストを名乗る以上お客さんを待たせてはいけないということで、直ぐ出せるように予め何個かハンバーグを常に作り置きをしておく。さらに、そうした物が一定時間、10分と15分とかたっても売れないときは、捨て生ゴミにしています。
 
  このような生ゴミ製造は、この会社に限りません。例えば、コンビニの弁当は、お客さんが欲しい時に店舗の棚に並んでいなければなりません。欲しい時にあるという便利さがコンビニのコンビニたる所以です。常に品揃えしておくと言うことは、賞味期限切れで、常に生ゴミにする弁当が出るということです。
 
  この春から施行された食品リサイクル法で、ある程度の比率でのリサイクルが義務付けられました。このハンバーグ会社は、一店舗当りで数千万円を投資して、作り置きをしなくてもよい新しい調理施設の加設を進めています。
 
  この設備が、仮に15年で更新するとすれば、年間に数百万円の新たな設備費がかかる。これまでは、予め作り置きをしておいて売れなければ、生ゴミにして、ゴミ処理業者に渡す方法でかかる経費・ゴミ処理費が、この数百万円以下だったから、ハンバーグを捨てていたわけです。
 
 
  食品リサイクル法施行後は、リサイクルが義務になり、堆肥や飼料などにする経費がかかる。リサイクル経費などが、この数百万円以上になる見込みが出てきたから、新たな調理設備を設けて廃棄するハンバーグを減らそうとしているわけです。私達の食べているハンバーグを堆肥や飼料にするのに、そんなにお金がかかるのでしょうか。
 
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  以前ご紹介した今井明夫さん(新潟県の新潟県妙法育成牧場場長)は、もともと”家畜の栄養士さん”。県内外からこうした食品、生ゴミにされた弁当などを家畜の飼料に出来ないかという話が持ち込まれます。いずれも、ダメ。今井さんの話では、飼料にしたら「家畜がたちまち病気になってしまう」。端的に言えば、食塩と脂質が多過ぎる。ヌカなどに混ぜて、全体で塩分濃度を下げるなどしなければならない。このため、多大な経費がかかるのです。
 
  堆肥にするにしても同様です。家電メーカーが販売している、家庭用の生ゴミを堆肥にする機械も、予め、ヌカやオガクズなどで作った母材を入れて、さらに温度管理に電気を大量に消費します。30年程前は、こうした廃棄物、残飯で豚を飼っていました。食の変化が、家畜が食べたら病気になる食品を、我々の常食にしてしまった。
 
  件のハンバーグ会社は、先日、株式の公開をしました。その際、藤田社長は「半額などで、12歳以下の子供たちが気軽に食べるようになった。人間の味覚、食の基本は12歳までに出来るから、この子達は、大人になっても、老人になっても、わが社のハンバーグを食べつづける。(顧客は減らないから、わが社は安泰です。安心して株を買ってください)」と言っていました。「家畜がたちまち病気になってしまう」食品を、そんなに食べ続けて常食にして大丈夫?
 
  ハンバーグなどのファーストフードの先進国、米国では「我々がかかえているのは、歴史上最も肥っていて、最も不健康な子供たち」で米国全土で「肥満が、伝染病特有の速度と拡散性で蔓延している」。毎年約二十八万人が、肥満が直接的原因で死亡(肥満は米国の死亡原因の第2位)、肥満から発生する医療費など健康管理に2400億ドルが費やされています。日本も同じ轍を踏むのでしょうか?日本人の脳卒中や心臓病が増えると言われています。
 
  また、このことは日本が大量の食糧を輸入し続けるということです。牛肉は、値段を追求すれば輸入です。日本の湿気の多い気候では、パンに向く小麦粉は作れません。基本的食糧を国外に頼ることはどんな事態を招くでしょうか。
 
  日本が、米を完全に自給できるようになったのは、昭和30年代に入ってからです。明治の開国以降それまで、日本の需要を満たすだけの米を、日本列島では作れなかったのです。不足分はどうしたのでしょう。?    続く


土壌劣化と食糧自給 食糧自給とは(2) [有機農業と飢餓、食料自給]

2001年8月に虹屋小針店で配布した「畑の便り」再録 
 
土壌劣化と食糧自給 食糧自給とは(2)

8月19日、新潟県有機農業研究会の夏期研修会がありました。簡単にご紹介しながら、食糧の自給を考えてみたいと思います。研修会で、新潟大学農学部で土壌学を教えてられる野中先生が、土壌から見た現代の農業生産について話されました。(虹屋のメモ、記憶によるものですので、内容の責任は 虹屋にあります)
野中研究室・新潟大学の公式サイト  http://www.agr.niigata-u.ac.jp/profile/nonaka/index.html
 
 
 地球上の全陸地の三割程度だけが、継続して食糧生産を行なえる土壌の土地だそうです。後にも先にもこの3割の土地で採れる食べ物を分け合って人類は生きていくわけです。
  今、開発途上国では原生林の開拓が盛んに行なわれ、耕地が拡がっています。ブラジルでは熱帯雨林を開拓して、コーヒー園や肉牛の牧場にしています。インドネシアでは首都の貧民層を強制的に開拓地に移住させてコーヒー園で働かせているそうです。
 
  しかし、持続的な生産は無理な土壌だそうです。開拓で変ってしまう。土壌の力は、窒素などの肥料物質、必須元素イオンを保持する化学的能力、水分を保持する団粒構造などの物理的能力、ミミズなど多種多様な生物が棲息する生物的な能力という三面から測られますが、熱帯雨林などを開拓して作られた耕地、農園などは原生林に較べ劣っている、原生林の約三割程度だそうです。こうした耕地に、耕作放棄や植林などでできる二次林でも原生林の半分位にしか回復しない。
 
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  つまり、今盛んに原生林を開拓して作られている耕地は、食糧生産を持続可能な土地ではない、先ほどの未来永劫に食糧を依存していく三割の土地には入らない。今行なわれていることは「限界的土壌・限界を超えた土壌の耕作による土壌の劣化」。
 
  他方、欧米や日本などいわゆる先進国では何が起きているか。こうした地域は、元々人口が多い、つまり土地が豊かで多くの人口を養える優良農地です。その優良農地が宅地化し、工場などが立ち減少している。野中先生は減反で耕作放棄された田畑のみならず、優良農地が産業廃棄物の処分地と化していると嘆かれました。さらに多肥・多農薬の集約的農業が営まれ、土壌的には不適切な管理が行われ、土壌が劣化している、特に日本では土壌の富栄養化が起きているそうです。海や湖の富栄養化は赤潮など「死の海」を起こすことはよく知られていますが、土壌の富栄養化ではどうでしょうか。
 
  それは、化学肥料の多投で、耕地の表面に塩類が析出し耕作不能になったり、硝酸態チッソがおおくなり、地下水に10ppmも含まれるようになり、その地下水を飲み水にしている住民にガンが多発する、塩素を含んだ農薬(現在ではその多くは除草剤)に不純物として含まれるダイオキシンによる汚染などの問題が起こっている。
 
  この事態に対し、野中先生は各地域の森林の土壌がその地域の土壌の基本。限界土壌の耕地は、森林として利用して回復・復元を図る、優良農地では土壌の潜在的能力を生かす適切な管理を行なうなどの対策を提言されました。適切な管理は、具体的には有機堆肥などの有機物の循環をはかるなどです。加工食品メーカーからでる生ゴミ・廃棄食品は堆肥にも飼料にも向かないとか話は別の機会に譲るとして、農業、食糧生産に対しては、全陸地の三割程度しかない優良農地を、安定した生産が持続可能な状態・土壌で次代に引き継ぐことを根本に置いた取り組みが必要ではないでしょうか。
 
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  問題の一つは、耕作放棄です。日本では米の減反が水田の耕作放棄となり、何の管理もされなくなると言う問題です。需要・市場の変化で、作物が売れなくなった耕地が何の管理もされなくなるという問題です。中国でも「米は毎年大豊作で国内の倉庫には余剰米が積まれ、政府にとって大変な負担になっている」という状況です。そこで中国政府が採った政策は、「生産される米の三分の一は、生産地域での消費向けに、三分の一は消費地向けに出荷し、三分の一は飼料」を基本戦略としています。飼料用の品種の普及も図っています。「中国では豚には五千年も前から、米を食わしている」ので日本ほど農家に抵抗感がないようです。
 
  一般に所得水準が上がると、穀物の消費が減り畜産物の多く食べられるようになります。こうした市場の変化に応じて、水田という生産基盤・耕地は維持したまま、栽培する作物を変えて行こうとしています。それは、飼料の生産・自給を進めることであり、大きな目で見れば国内での食糧自給を進めることです。
 
  これは、生産サイドでの話ですが、消費サイドでは何が求められうのでしょうか。平日半額の某ハンバーグを手がかりに考えてみたいと思います。 続く


食糧自給とは(1) 青田刈りと飼料イ [有機農業と飢餓、食料自給]

2001年7月に虹屋小針店で配布した「畑の便り」の再録 
 
実りの秋が近づいてきました。イネが重たそうに穂を垂れています。豊作が伝えられる中、生産調整で青田刈りが行なわれています。せっかく出来たイネを、米を捨てるのはもったいない・・この生産調整が行なわれる原因の一つが貿易にある、世界貿易機関WTO交渉の結果、コメ輸入が行なわれている事ですが、根本的には日本の米の総需要が減少していることにあります。
 
 高齢化の進行は、多く食べる若年人口の減少です。お米大好きでも、老年になれば自ずと食べる量が減少します。輸入米がゼロであったとしても、日本の総需要量は水田面積全部に自由な作付けを許す状況にはありません。
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  飼料イネ    
  そんな中で水田の活用して飼料を栽培する取り組みが行なわれています。今井明夫さん(新潟県の新潟県妙法育成牧場勤務)によれば、
  「水田面積の30%を転作せよというが、大豆、麦は栽培収穫の不安定性に加えて生産コストが高く、輸入穀物と競争できる状態にはない。そこで注目されているのが「飼料イネ」である。
 
  コメの生産ができない水田においてイネを栽培し、水田としての機能を損なうことがない。併せて飼料の大部分を輸入に頼っている日本の畜産であるが、せめて輸入乾草に代わる牛の粗飼料として給与することができないかというのが大きな目的である。
 
  平成12年になってようやく飼料イネが水田転作の主要作物として認知されるようになった。良質米コシヒカリ一辺倒の新潟県で約20haの飼料イネが栽培され、ロールベールサイレージとして家畜に給与されることになった。一番大きな面積に取り組んだのが岩室村である。コメの生産集団と酪農家が手を結んで6ha余に飼料専用に改良された品種を栽培した。
 
  この品種はキリンビールが開発したもので、インデイカ種という種類で稲の姿は日本のこれまでの水稲と異なり、茎は太くて草丈は高く、まさにジャンボという感じである。
  10月のはじめに、この稲の収穫、つまりロールベールサイレージの調製に立ち会った。コンバインの脱穀部分がロールベールの成形機に置き換えられていて、刈り取った稲は茎葉も穂も一緒に直径1mの円筒形に梱包されるのだ。その梱包は直ちに薄いポリエチレンフィルムでラップされる。
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  こうすることで気密状態となり、水分の高いまま発酵した飼料として牛に給与される。この収穫機械を開発したのは三重県の浦川さんという研究員で、タカキタという農機具メーカーが制作した。私の職場である新潟県畜産研究センターにおいても、飼料イネの省力低コスト栽培、良質な稲サイレージの調製技術と牛への給与技術の開発に取り組むことになった。
  農業総合研究所の他のセクションと共同するだけでなく、国の草地試験場や埼玉県、群馬県、広島県などと全国的な共同研究を企画している。いままで稲の飼料化など新潟県で発言しても取り上げてもらえなかったことからすると大きな環境の変化である。
  日本には大きな無駄がいくつもある。その最たるものが何も作られていない水田ではなかろうか。そして作らないことに対して大きな補助金が支出されている。大豆も麦も飼料イネも一般水稲と一緒に考えていくことが水田という国家的な財産を維持し、食料の安定確保につなげることができるのだと思う。」楢山の歳時記(49)
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 イネ・米をめぐっては、よく自給論、自給率向上が話題となります。この問題は、需要を満たす生産と言う視点と逆に生産可能なものを食する需要構造という視点から、現状を見る必要があります。米飯給食は、後者の需要構造での取り組みですし、飼料イネは前者での取り組みです。
 
  ところで、日本の商社が開発輸入した中国産長ネギや椎茸の規制をめぐっての議論を見ると、何故に自給率を上げなければならないのか、その目的が社会的に曖昧になっています。よく、天災、戦争等による飢餓・食糧不足への備え、安全保障が唱えられますが、ここ40年余り飢餓を日本国民は体験していません。どうしても、現実味に欠けます。何故、私達は、地場物、国産で腹を満たす方が望ましいのか? 続く


今年は食糧暴動が頻発?? なぜ“平成の開国”をこの時期に目論むのか! [有機農業と飢餓、食料自給]

「あと一回、世界的な農産物の不作が起きたら、国際的な食糧価格の高騰によって、世界各地で暴動や飢餓が起こり、大混乱になる。と英国の新聞テレグラフが、新年早々報じました。


5日に発表されたFAOの最新データによると、昨年12月の世界食料価格指数が史上最高になっています。品目的には主食のコメと小麦(パン)は、08年の前回ピーク時の50%(コメ)から60%(小麦)程度の価格にとどまっているが、トウモロコシ、大豆、パームオイルなどは史上最高に迫ったことや、世界的天候異変で供給不足が懸念される砂糖が史上最高を大きく超えたことから食料価格指数が押し上げられました。




ラ・ニーニャ現象でウルグアイ、ブラジル、アルゼンチンなどには厳しい干ばつに襲われています。一方、ラ・ニーニャは、過去7年にわたって干ばつが続いたオーストラリアに大洪水をもたらしました。今季収穫のオーストラリア小麦の”およそ半分”が飼料にしかないらないか、品質が低下するとナショナルオーストラリア銀行の予想しています。主にうどん用に使われるオーストラリア小麦の最大輸入国・日本への輸出も、当分途絶えることになりそうです。


北半球はどうでしょう。ロシアは、”少なくともこの半世紀で最悪”という干ばつで、大麦が一昨年の半分の850万トンに小麦が3割減の4250万トン、他の穀物を合わせても3割強減の6000万トン程、ロシアの国内需要を満たす程度で、1900万トンも輸出した面影もありません。また干ばつの影響で、冬穀物の作付も約30%ほど減少しており、今年も生産増加は期待できません。米国の米も、高温で反収は減る、品質低下するで1割源と報じられてます。


 


このように、食力供給が絞られて、厳しくなっていますが、この程度のことは過去にも起きています。違うのは、投機資金の流入の規模です。国際市場での値決め、決済は米国ドルで行われますが、米国連邦銀行がドル札をどんどん刷っています。景気対策、銀行救済のためにゼロ金利政策で銀行が連銀から資金調達しやすくし、さらに銀行が持つジャンク(屑)債を連銀が買い、銀行にドルを流し込んでいます。数兆ドルだそうです。その数兆ドルが、銀行から一般企業や住宅ローンなどで市民に廻って設備投資や消費が増えて景気が回復すると言う算段です。しかし、それはタヌキの皮算用で、投機、株や商取引に流れ込み、ドル建ての国際価格が上がる結果になっています。


 


5人に一人が失業状態の米国


米国の2010年の個人破産の申請件数は、前年比9%増の153万件。雇用統計では、働く意欲のある就労人口が12月は26万人減少、失業者の4割以上になる失業期間が半年以上の人から気持ちが萎えて職探しをあきらめた人が続出。こうした人も勘定に入れると、実質的な失業率は21%とも言われています。5人に一人が失業状態の米国。


米国で生活保護政策のフードスタンプ(食料配給券)を受ける人数が2010年10月に4320万人に、米国民の8人に1人以上の割合になっています。毎月1回、多くの食料品店で利用できる電子カード(4人家族で約300ドル相当)を受け取る人が2007年10月は約2700万人、リーマンショック後の2008年10月は約3050万人、2009年9月は約3700万人、毎日2万人の割合で生活保護者が増えています。


その4320万人の約半数が、職・収入がある人。人々が何とか維持している仕事で、家族を養っていけなくなっている。こういう人たちや失業者に、銀行がお金を貸すでしょうか?


 



 


楽観的な連銀のバーナンキ議長も、米国の雇用が回復するには4-5年はかかると言っています。個人(家計)消費は米国経済で約7割を占めていますから、米国経済が回復するのは楽観的に見ても4-5年先?。そしてまた、米国企業の経営者・幹部は、自分が経営する企業の株を株式市場で大量に売り越しています。


自分の会社が成長すると思えば、自社株はこれから上がるのですから、今は買い時です。逆に、今後は悪くなる、株価が下がると思えば、今は売り時。優良企業のグーグルやフォードも含め企業関係者の自社株の売りが、買いの114倍にもなっている。昨年末に19倍だったから、年を越して急増しています。つまり、先ほどの米国の雇用=個人(家計)消費の先行きなどから経営者らは今後は悪くなると肌身で感じている。これで、設備投資が増えるでしょうか?

このように、米連銀が銀行につぎ込んだ数兆ドルは行き場が実体経済にありません。それで、投機、株や商品取引の世界に流れ込んでいます。この金が流れ込んで米国の株式市場は値を回復しています。連銀のドル過剰供給で株価が吊上がっている間に経営者らは自社株を売り抜けて儲けようとしているのです。通貨でも、例えば円市場に流れ込み米ドル安=円高を招いている。商品市場では、高品質の原油はすでに1バレル100ドルを超えていますが、平均的な原油の国際価格が1バレル100ドルを超えると予測されています。穀物市場などにも流れ込んで食料のドル建て価格が上昇しているのです。


国際的な総合穀物企業のカーギルは抜け目なく立ち回って利益を30%急増させてますが、世界各地の一日の生活費が1米ドルという人々が食糧が買えず苦しんでいます。北アフリカのアルジェリアでは、首都アルジェなどで5日に砂糖、料理油、小麦などの価格急騰に抗議する暴動が勃発。チュニジア、チリなどでも暴動が起きています。フランス政府の経済顧問は、今年4月ぐらいに世界各地で暴動が頻発する事態になりそうだとの懸念を7日に表明しています。


平成の開国=TPP参加は、各国の経済規模や中韓不参加を考えると、日本の輸出(雇用)は増えず、米国の失業を日本が輸入、農家破産や中小企業倒産では?米国は大助かりですが、農家がなくて、だれがコメを食料を作る?多数の人の手には、米国米を買う金があるの?


 


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