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調味料ー酢、料理酒、味醂 ブログトップ

もろみ酢、粕酢、中国の酢(下) 固体発酵の酢 [調味料ー酢、料理酒、味醂]

普通の日本酒の麹菌ニホンコウジカビ・Aオリゼもクエン酸生産はしますが、能力が低いのです。日本酒では乳酸菌が働き、その乳酸で酸性にしています。今では、乳酸を別に発酵させておいて、加える蔵元が多いそうです。
日本酒を搾った酒粕を長期間貯蔵すると酒粕に含まれる酵母や麹が働いて、酒粕中のたんぱく質はペプチドやアミノ酸になり、澱粉は糖分や有機酸に分解され酢造りに最も適した豊潤な成分を持ち、アメ色から味噌色に変ります。これが練粕です。

新粕 ⇒ 練粕

麹菌など微生物の増殖・培養は、フラスコに液状の培地を入れて行う「液体培養」、半固形の培地をいれるシャーレ培養と麹の様な蒸米などの固形物の上での「固形培養」があります。麹菌は同じ菌でも培養方法によって形や性質を異にします。持っている遺伝子はみな同じですから、不思議です。

麹菌は様々な酵素たんぱく質をつくり、それで培地の成分を分解し有用な成分がうまれますが、その機能は「固体培養」が強いのです。液体培養では麹菌の周囲に栄養源がたくさんありますが、蒸米など固形培養では、米の中に菌糸を伸ばし取りにいかなければなりません。液体培養では麹菌の細胞膜に酵素を置いて、周囲の栄養物を分解し、直ちに取り入れます。固形培養では菌糸の先端から酵素を培地の蒸米の中に分泌します。その遊離型酵素が蒸米の栄養分を分解し、例えばでん粉からブドウ糖を生成し、その一部を菌糸の近いものを吸収しています。



日本酒では種麹の胞子(分生子)を蒸米にまぶし、発芽し菌糸は自ら分泌した遊離型酵素で蒸米を分解し、それを栄養として成長します。蒸米一粒一粒に麹菌が生産分泌した何種類もの酵素が詰め込まれています。麹菌は、醪の中で酸素不足とアルコールなどで胞子(分生子)を残して死んでしまいます。

酒粕にはそうした酵素や胞子、酵母が残っています。長期間貯蔵するとそれらが酒粕で働いて醸して、糖質、各種の有機酸、アミノ酸、ビタミン類が豊潤になります。練粕になったら、水を加え、撹拌して溶解すると褐色の酒粕抽出液ができます。これに種酢=酢酸菌を加え酢酸発酵させると褐色の風味豊な粕酢ができます。


虹屋で取り扱い品

この江戸時代に考案された粕酢は赤酢と呼ばれ、江戸前寿司の酢飯に使われてきました。寿司は魚を塩と米飯で乳酸発酵させた「なれすし」(熟れ鮨(鮓)、馴れ鮨(鮓)が起源ですが、元禄時代の初め頃から酒粕を利用した酢の醸造法が進歩すると炊飯に酢を加えるようになりました。


左が粕酢の酢飯


鎮江香酢(ちんこうこうす)など中国の酢の多くは、粕酢と同じく固体発酵です。麹菌、クモノスカビなどで醸されます。オオムギ、小麦、糯米、コーリャン、ふすま、エンバク、豌豆などを原料にクモノスカビ、麹菌、酵母などで固体発酵(餅こうじ)で醸します。その後、水と酢酸菌を加え、酢酸発酵してます。

クモノスカビは日本以外のアジア全域において、酒や酢の醸造で麹に用いられています。極めて成長が早くあっというまに広がる。表面に広がる菌糸に水滴がつき、きらきらと輝き、クモの巣のように見えるカビ。

インドネシアの茹でた大豆にクモノスカビを生やしたテンペ(Tempeh)という食品


もろみ酢、粕酢、中国の酢(中) 黒麹菌 [調味料ー酢、料理酒、味醂]

黒麹
黒麹菌は胞子(分生子)が分岐点で暗く色の濃い線があり、胞子に黒など色が付いて見えます。この黒麹菌は、クエン酸を生産する力が非常に強い。焼酎や泡盛(沖縄焼酎)を醸しに使われています。



お風呂場などに出てくるクロカビは、菌糸も着色しています。培養すると表面にある胞子の色の緑色が特徴です。培養シャーレを裏返してみるとと暗い緑色から黒色に見えます。クロカビの胞子はわずかの刺激でも互いに外れてバラバラになります。つまりお風呂場などでは胞子が外れ菌糸を見ている、シャーレを裏返してみている状態なので、黒くみえてます。


画像はここからお借りしました

黒麹菌は沖縄原産と考えられており、明治34年(1901年)に乾環氏が首里地方で分離してA. luchuensis と命名し発表しました。遺伝子の解析から、黒麹菌は、アスペルギルス・ニガー・A. nigerを野生型・祖先とし、クエン酸など有機酸の生産力やデンプン糖化力など麹菌として必要な形質に優れた株が人為的に選抜淘汰され、家畜化された菌群と言われています。 詳しく

泡盛(沖縄焼酎)を醸す黒麹菌はアワモリコウジカビ・Aアワモリ(awamori)です。

さて、明治期には自家酒醸造を禁止し酒税を重要な国税としました。酒税を増やすために酒醸造の技術向上に政府が取り組みます。醸造試験場が農水省ではなく、大蔵省・財務省と税務官庁に付属するのはこのためです。

1909年に醸造の技師・酒の鑑定官であった河内源一郎氏は巡視先で鹿児島焼酎の作り酒屋から「残暑に醪・もろみが腐敗して困る、何とかして欲しい」いわれました。当時の焼酎は暑い時期はすぐに腐っていました。当時の焼酎製造は醪・もろみとり焼酎づくりで、清酒と同じ黄麹を米に加え発酵させてモトをつくり、これを甘藷に仕込んで本発酵させて醪をつくり、これを蒸留器にかけて出た原酒に水を加え、焼酎として出荷していました。

河内源一郎氏は鹿児島よりさらに暑い沖縄の泡盛が腐敗しないことから、沖縄より泡盛の黒麹菌を取り寄せ研究しました。1910年、泡盛菌から醪とり焼酎に適した種麹菌の分離に成功、これには泡盛黒麹菌=学名アスペルギルス・アワモリ・ヴァル・カワチ=と命名。後に1924年により性能が安定していて麹づくりが容易で原料の甘藷の分解力が強く、焼酎の品質も一段と向上する白みががった淡褐色の菌、「河内白麹菌」=学名をアスペルギルス・カワチ・キタハラ=を発見しました。



のち北九州を皮切りに九州全土へ、また全国へ評判が広がり、現在わが国の乙類焼酎の9割近くが河内菌を使用し、韓国の焼酎も殆どが河内菌で生産されています。 河内源一郎物語

この黒麹菌で醸すと暑い沖縄などで醪・もろみが腐らないのでしょうか。コウジキンは生育の初期にかなりの量のクエン酸を生産します。黒麹菌は特に量が多いのです。醪・もろみはpH3程度の比較的強い酸性になります。この強い酸性は発酵途中での雑菌繁殖の防止効果があり、比較的気温の高い地方でのアルコール醸造に適しています。日本酒では乳酸菌が働き、その乳酸で酸性にしていますが、気温の高い地方では力不足。


白醪と黒醪

泡盛(沖縄焼酎)は原料米を黒麹菌のAアワモリで醸し糖化しアルコール発酵させます。出来た醪・もろみを蒸留してアルコールなどを分離します。この時にクエン酸は蒸発しません。残りの醪を濾過したものが「もろみ酢」です。酸味の主成分はクエン酸です。

 市販の結晶のクエン酸は、デンプンあるいは糖を黒麹菌のアスペルギルス・ニガー・A niger で醸して作られています。世界的には液体培養が主流であり、日本では甘藷デンプン粕を使い固体培養して、精製、結晶化しています。




日本酒・清酒の酒粕からも有機酸を豊富に含んだ酢、粕酢が作られています。 (続く)

もろみ酢、粕酢、中国の酢(上) 麹菌 [調味料ー酢、料理酒、味醂]

健康機能がすぐれた食品として酢ブームが続いています。そのブームで泡盛(沖縄焼酎)の酒粕(もろみ)から抽出した「もろみ酢」が一般的になりました。「もろみ酢」は酢酸発酵は経ておらず、主成分はクエン酸です。これとは別に、江戸時代からすしに使う酢として日本酒、清酒の酒粕を原料とした粕酢、色から赤酢といわれる酢があり、酸味の主成分は酢酸です。

泡盛や焼酎、日本酒は、お米に麹菌を付け、お米のでん粉を糖化することから醸造が始まります。麹菌・コウジキン・きくきんは、何処にでも常にいる菌・カビの一群です。麹菌は発育初期にクエン酸をつくります。カビにとっては比較的高温である30℃以上でも生育できる種が多く、南方系のカビと言われています。コウジカビが積極的に培養して作られる種麹は別として、コウジカビが目に見えて生育した様子はあまり見かけません。



学名ではアスペルギルス・○○、Aspergillus 〇〇と名付けられます。顕微鏡で見ると胞子(分生子)と多数が一つの塊状についている分生子柄がカソリック教会の儀式でつかう器具アスペルギルスに似ています。このアスペルギルスは礼拝式で信者に司祭や牧師が聖水を撒くため使われる器具です。形態と聖水が散布されるように胞子が散布されることとから命名されたといわれています。(1792年、最初にこの菌を記述したイタリアの生物学者Pier Antonio Micheliは司祭でもあった。)



食品加工で実用されている麹菌は大きく4種類

ニホンコウジカビ・Aオリゼ(Oryza、イネの学名)は、稲の穂にいる菌です。(稲麹については下部)デンプンをブドウ糖に分解する性質が日本酒や甘酒、味醂の、タンパク質をアミノ酸に分解する性質が味噌、醤油の製造に使われる麹菌。


ショウユコウジカビ・Aソーヤ(sojae、ラテン語で大豆)タンパク質をアミノ酸に分解する性質が特に強く、味噌、醤油の製造に使われる。たまり醤油製造で発見されたA. tamarii は、今や絶滅危惧種。

ニホンコウジカビ・AオリーゼはA. flavusを野生型の先祖、ショウユコウジカビ・AソーヤはA. parasiticusを野生型の先祖とし、タンパク質をアミノ酸に分解する力やデンプン糖化力など麹菌として必要な形質に優れた株が人為的に選抜淘汰された。選抜淘汰の中で、野生型の先祖が持っていたカビ毒のアフラトキシン産生性を(1)アフラトキシン生合成を誘導の信号伝達系に欠陥(2)アフラトキシン生合成に必須な遺伝子発現調節因子に欠陥が生じ、アフラトキシン産生性を喪失し家畜化された菌群とされてます。



 A.グラウカスは、鰹節の製造に使われます。低水分・高塩分でも増殖できるのでカビ付けをして、更により水分を抜き余分な脂肪が分解され、鰹節の独特の芳香、光沢を出します。


この画像はここからお借りしました。


黒麹

 黒麹菌は胞子(分生子)に黒など色が付いて見えます。この黒麹菌は、クエン酸を生産する力が非常に強い。焼酎や泡盛(沖縄焼酎)を醸しに使われています。



 

A・ニガー


続く

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酢-4  ミクロフローラ 醸造の小生態系 [調味料ー酢、料理酒、味醂]

アルコール発酵・醸造では、微生物らどのように推移するでしょうか? 
醸造でできるアルコールつまりエタノールは、細胞の境界になる細胞膜を傷つけます。
エタノールに入り込まれた細胞膜は軟らかくなります。軟らかくなった膜からは、細胞に大切な栄養分が漏れ出します。さらに、タンパク質を凝固させるアルコールの作用はタンパク質の立体構造を壊し、それが酵素なら失活します。細胞外から栄養素を入れるための介添え役の蛋白質が失活すれば、細胞外から栄養素が入らなくなります。エタノールによる栄養素の漏出・移入阻害で、飢餓状態となり細胞の増殖が抑制、つまり単細胞生物の酵母や菌類は静菌状態になります。そのアルコール濃度は4~8%です。濃度が65~75%と高いと細胞膜が壊れて死んでしまいます。

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健気な清酒酵母

清酒(日本酒)は、エタノール濃度が16~20%と高濃度です。醪(もろみ)糖度に30~40%が必要になりますが、エタノールをつくる酵母はそれ程の高糖度に耐えられません。清酒では醪(もろみ)で発酵と糖化が同時に進行します。そのため、発酵中にも次々に糖分が供給され、次々にアルコールが生成されます。発酵は7~20℃と比較的低温でゆっくりと進み、清酒のさまざまな香りを生み出します。

清酒もろみでの醗酵初期には酵母はアルコール発酵のエネルギーで盛んに倍倍に増殖します。やがてアルコール濃度が8~10%を超えると出芽して増殖することができなくなります。普通の酵母ですと、この増殖が止まる定常期にはいると、エタノールや温度変化などストレスへの耐性遺伝子が働き出します。ガードマン役の蛋白質を合成します。また傷害を受けたタンパク質を復元をたすける修繕係りの蛋白質を合成します。エタノールで細胞膜が柔らかくのが原因ですから、細胞膜を堅固にする形が直線的な飽和脂肪酸を増やします。このように厚い細胞膜を持った細胞に休止期の細胞に徐々に変っていきます。そして、アルコール発酵は15%まで進むと普通の酵母は、休止します。


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清酒酵母は全国の酒蔵で自然育種された「蔵付き酵母」から見出された、特に醸造特性にすぐれた菌株で、20%のエタノールに耐える「なにか特別なパワーを秘めているに違いない」といわれてきました。しかし、15%を超えると犠牲者(死ぬ細胞)も出ます。調べると、ストレス対応遺伝子が不活性になっているのです。つまり、アップアップしながら生きんがためには糖を分解して、エタノールと二酸化炭素にして生存に必要なエネルギーを得ています。20%がほぼ限界で、そのままでは清酒酵母は自身も死滅してしまいます。そうなると味が悪くなるので、その前に絞って低温殺菌して、出荷です。  詳しく

麦芽から麦汁、ミクロフローラ

ビールやウイスキーでは、糖化を麦芽の酵素で行います。麦を水に漬け適温に保ちます。麦は発芽に必要なエネルギーを貯蔵でん粉を糖化して得るために、糖化酵素を作ります。芽が出た麦(麦芽)を乾燥して発芽を止め、砕いて温水を加え酵素で糖化を進め、糖度が12%程度の麦汁をつくります。



ビールは麦汁を濾過して麦の皮などを除き、ホップを入れて煮沸消毒します。雑菌を殺し、雑菌の繁殖を抑えるホップの成分を加えます。その麦汁にビール酵母を入れて、発酵開始。7~8日間でアルコール分は4~8%になります。糖分の85%ほどがエタノールに変り、その作用で酵母の増殖は止まっています。この濃度は、私たちが静菌での使用濃度です。アルコール耐性の強い菌以外は繁殖できません。貯蔵タンクに移し残った酵母が後発酵をして、溶存炭酸ガスを増えたり、風味成分ができます。約一月でデキストリン(酵素によって分解しきれなかった細かなでん粉破片)とタンパク質などビールのコクに関係する成分がのこります。酵母の食べ物が無くなると、酵母が自己消化を起こし、酵母細胞内の内容物がビール中に溶け出してしまうので、この時点で濾過して出荷です。


麦汁 ここからお借りしました


ウイスキーは、麦汁を煮沸しないで酵母を入れます。糖化の酵素が働き続けるので、酵母はビールより多くのエタノールを作ります。ウイスキーのアルコール濃度は、6~9%になります。また煮沸消毒されないので、乳酸菌など様々な微生物が共存、競合する複雑な発酵系になります。発酵初期から乳酸菌が活躍すると、酵母のアルコール生成が抑えられ度数が低くなります。


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また「酵母が役割を終えると、ミクロフローラと呼ばれる乳酸菌群などが働いて、酵母が使い切れなかった糖分を消費し、さらに香味の厚みを増します。さまざまな種類のウイスキー酵母の使い分けに加え、土地によるミクロフローラの違いが、蒸溜所ごとに個性のあるウイスキーを生み出します。」 出典



ワイン、二次発酵

ブドウは果糖分が多く糖化工程はなしです。「ワインは他の酒と異なり、ぶどう果などに付着している自然の野生酵母により発酵が行われます。加熱のような工程がないため、発酵初期の果醪(もろみ)には多種類の酵母や微生物が含まれていますが、発酵が進むと糖分や酸、アルコールの影響でワインづくりに必要な酵母のみが増殖して純粋培養に近い状態となります。酵母の種類や発酵させる温度、生成成分は、ぶどうの種類によっても異なりますが、おおむね10~12℃で発酵し、10~12%のアルコール分を生み出します。」 出典

この高いエタノール濃度に耐えられる乳酸菌がワインのリンゴ酸を乳酸と炭酸ガスに分解するマロラクティック発酵・MLFを起こすと、酸っぱい高酸度のリンゴ酸がまろやかな酸味の乳酸に置き換かわり酸味が和らぎます。

アルコール発酵が終了しきっていないワインを、糖分を残して瓶詰めすると、瓶の中でアルコール発酵が再び始まり、発生する炭酸ガスが含まれた発泡性ワインになります。シャンパンなどは、出来たワインに糖分を加え10~12%のアルコールにも耐える酵母(シャンパン酵母)を入れて二次発酵させます。

また、大気つまり酸素が十分にあると水を弾く疎水性の膜を作る産膜酵母が繁殖して独特の香りをつけワインを駄目にすることがあります。これを逆手にとって、アルコール発酵で13.5%以上になっても平気な産膜酵母を繁殖させ、独特の香り、味わいをつけたワインが造られています。スペインのシェリー酒です。シェリー酵母でフロール(花)と呼ばれる白い膜をつくります。

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ミクロフローラの乳酸菌、シャンパン酵母、シェリー酵母はアルコール耐性をもち糖分や果汁成分をエネルギー源にしています。エタノールに耐えるだけでなく、エタノールを食べ物する微生物たちはいないのでしょうか?そういう食物連鎖・生態系は?酸素のない嫌気環境では、エタノールからメタンガスをつくる共生系が知られています。酸素が豊富にある好気環境では、なんと言っても酢酸をつくる酢酸菌です。

紀元前2~3000年のバビロニアのことわざに、「酸っぱくなったビールは、台所へとさまよっていく。」というものがあります。このような失敗したお酒ではなく、様々な風味をもったお酢がつくられています。シェリー酒は、シェリー酵母でフロールができる代わりに、酢酸菌で膜をでかせ、お酢・シェリービネガーができてます。

お酒の数だけ酢があります。お酒の醸造でできるアルコール・エタノール以外のエステル類や脂肪酸などのつくる栄養分や風味をもった、さらに酢酸菌が作るそれらで特徴付けれる酢があります。

その一方、アルコールを蒸留しエステル類や脂肪酸などをほとんど除いた上で酢酸発酵させた酢もあります。ホワイトビネガーという酸度は5%程度と通常のお酢よりは高い無色活明でどちらかというと酸味だけを感じるお酢で、欧米で広く用いられています。

フレーバービネガーというお酢(主にホワイトビネガー、アップルビネガー)に、スパイスやハーブ、果実(又は果汁)を加えて、風味を加えたお酢もあります。アップル(果実又は果汁)やタイム・エシャレット・カシス・マスカット・唐辛子・トリュフ・など様々な種類が使われています。

食の欲望は奥深い。

酢酸菌は変異・変化を起こしやすい菌で、同じ品質を保つのに工夫が要るのです。

続く


フレーバービネガー こちらから拝借


追記

このように日本酒のエタノール濃度はかなり高く、これをそのまま出荷したものを原酒です。
水で薄め通常のエタノール濃度にしたものが純米酒です。
別の安価な原料から作られたエタノールを少量(原料に用いる白米の総重量10%未満)加えてから水で薄めて規定濃度にしたものが、本醸造酒で約3/4が原酒です。
エタノールを大量に加えて水で三倍に薄めて、味を補うブドウ糖や酸味料、アミノ酸などくわえ調味したのが、三倍酒、三増酒(三倍増醸酒)です。


アルコール発酵、アルコール消毒、アル中・・酢-3 [調味料ー酢、料理酒、味醂]

柿やブドウやリンゴ、モモなど熟し糖度の高いものを、ヘタ等を取り除き、カメや瓶に詰めてそのまま、じっくり待つと、果実の表面に付着していた酵母と酢酸菌・アセトバクターの働き出します。容器の中で糖分からアルコール(エチルアルコール、エタノール)ができる酵母発酵とそのアルコールから酢酸ができる酢酸発酵が同時にゆるやかにすすみます。時間がかかりますが、酢酸とその果実の成分を含んだ果実酢ができます。

お酒の種類だけ、酢の種類がある

パイナップルの搾汁液から製造した果実酢・パイナップルビネガーは、パインアップルの微香があり東南アジアで主に造られています。サトウキビの搾り汁をそのまま醗酵させてできた醸造酒をさらに酢酸醗酵させたシュガーケインビネガー(さとうきび酢)。(この醸造酒を蒸留し、エタノールの濃度を高めてから熟成させるラム酒を「アグリコール・ラム」(農業ラム)で、沖縄の南大東島で作られている。⇒醸造元

沖縄では、黒砂糖を作った後の鍋に湧き水を入れて、鍋肌にこびりついて残っているものを洗い落として、その水をカメに入れて発酵させたそうです。さとうきび酢は、サトウキビの豊富なミネラルがそのまま含まれています。


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米や麦などの穀物を原料とするとこれらの糖分はでん粉で蓄えられているので、でん粉を麹菌などで分解する過程、『糖化』という工程が必要になります。

酵母は、酸素が無い、少ない嫌気環境では糖を分解して、アルコール(エチルアルコール・エタノール)と二酸化炭素にして生存に必要なエネルギーを得ています。同様に乳酸をつくるのが乳酸菌です。人間は酸素がないと筋肉では乳酸ができる回路でエネルギーを得ています。この乳酸が溜まって筋肉中の0.3%程度になると筋の収縮動作を著しく低下させ、運動を続けることが困難になるし、筋肉痛になります。酵母も乳酸菌も酸素が十分に有る環境では、糖を水と二酸化炭素まで分解する代謝系(クエン酸回路・TCA回路)が働きます。この代謝系ではアルコール発酵や乳酸醗酵のに比べエネルギーが16倍も得られるのです。人間も乳酸ができる回路ではエネルギーは16分の一で、1分~2分程度しか続きません。酵母も乳酸菌も酸素が有る環境のほうが生育はよいのです。


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日本酒では、でん粉を分解する麹菌の酸素呼吸と静置で嫌気環境になります。果実酒などは、タルやカメなどに封じられ静置されるので嫌気環境になります。パンの酵母は、練られた小麦粉の生地内では酸素が少ない。アルコール発酵が始まると、醗酵で生じる二酸化炭素で酸素が無い、少ない嫌気環境が維持されます。

エタノールは、消毒に使われているように殺菌力があります。殺菌力は65~75%濃度が一番強く、20%以下では殺菌作用はありません。4~8%で微生物が増殖できない静菌状態になります。また温度が高いほど殺菌力も大きくなります。エタノールは、水によく溶けるし油脂や脂肪にも溶け込み、加えて酵素などタンパク質を凝固させる性質も合わせ持っています。エタノールC2H5OHは、CH3の部分が脂溶(疎水)性、OHの部分が親水性となります。



細胞は、細胞膜という脂質の膜で包れた蛋白質などが溶け込んでいる水滴です。油脂や脂肪に溶けない性質のものは脂質の細胞膜で弾かれます。このように細胞膜はガードしています。しかし油脂や脂肪に溶けない性質だが必要なものを細胞内に取り入れるために、介添え役(チャンネル)となるなどのタンパク質が膜にあります。細胞膜は脂質が整然と列んだプールの中に、いろいろな機能を持つタンパク質が浮いている構造(膜構造)です。この脂質の細胞膜にエタノールは脂溶(疎水)性もあるので、簡単に溶け込みます。 細胞膜





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エタノールに入り込まれた細胞膜は軟らかくなります。軟らかくなった膜からは、細胞に大切なアミノ酸やカリウムなどが漏れ出します。さらに、タンパク質を凝固させるアルコールの作用はタンパク質の立体構造を壊し、それが酵素なら失活します。介添え役(チャンネル)が失活すれば、細胞外から栄養素が入らなくなります。エタノールによる栄養素の漏出・移入阻害で、飢餓状態となり細胞の増殖が抑制、つまり静菌状態になります。

高濃度エタノールでは、細胞膜が壊れます。死んでしまいます。

アル中・・人の脳細胞のアルコール消毒の結果??

人間でも同じです。エタノール耐性は微生物によって違いますが、人間でも神経細胞が影響を受け易い。正常な神経細胞機能や細胞間コミュニケーション=神経伝達を妨害されます。脳は神経細胞の塊ですが、エタノール・アルコールを飲むことにより脳の中でのドーパミン(幸福感を与える物質)の量が増えることが知られています。また逆に、アルコールを長期的に摂取していたあとに禁酒すると、副腎皮質刺激ホルモン(ストレスを感じたときに放出される物質)の量が増えます。それで飲酒が習慣化するわけで、エタノールが完全に分解されるには約12時間かかりますから、毎日飲酒すれば、エタノールに長時間神経細胞はさらされます。

アルコール依存症では精神症状として抑うつを伴うことが多く、また頭部画像所見などでは大脳の萎縮や記銘力障害、前頭葉機能障害を認めることが多く、痴呆を発症する例も少なくありません。つまりアルコール依存症においてエタノールの作用により、神経細胞の脱落や神経細胞新生の障害が生じ、脳神経回路網の改変が起きていることを示唆しています。動物実験では、エタノールが神経細胞の生存に影響するよりも低い濃度から、神経幹細胞の分化=神経細胞新生を抑制することがわかっています。 詳しく


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脂質は温度が高いと物理的に溶け(軟化)、低いと半固体(ゲル状)になっています。温度が高いと物理的に柔らかくなっているところに、エタノールの軟化が加わるから、殺菌や静菌効果が出やすいのです。サバ、サケ、マグロ等の水産生物は低い温度環境(15-25℃)で生息しているので、細胞膜を柔らかく保つ不飽和脂肪酸を多く持って細胞膜の流動性を保ち、生命活動を維持しています。体温(36-41℃)の牛、豚、鶏等の約2倍あります。 詳しく

ですからエタノール対策の一つは、細胞膜の飽和脂肪酸を増やすことです。形が直線的なので堅固な膜になります。さらに、ガードマン役の蛋白質を合成します。また傷害を受けたタンパク質を復元をたすける修繕係りの蛋白質を合成します。これらの能力は各微生物ごとに違います。どの程度の温度、エタノール濃度で静菌状態になるのか、死んでしまうのかは違います。

それでは、お酒の醸造では酵母など微生物相は、どのように推移するのでしょう。 続く


純米酢、米酢、トマト酢・・酢-2・JAS [調味料ー酢、料理酒、味醂]

醸造酢は、糖類を酵母菌で醗酵するアルコール醸造の段階とそのアルコールを酢酸菌で酢酸発酵の段階でできます。アルコール発酵はお酒造りです。酒造では酢酸菌が入ると刺激臭と強烈な酸味がでるので恐れられています。酢は英語でVinegar、フランス語の(Vinaigre)に由来していてVinはぶどう酒、Aigreはすっぱいの意味でこの2つの言葉が合わさって出来た単語です。

お米の酢では、日本酒とほぼ同じ工程で酢1㍑に対して120g~200gの米で「酢もともろみ」をつくり酢酸菌様用のお酒を作ります。(もろみ等製造免許が必要)それは、どちらかと言えば甘酒に近い、アルコール度数は10%以下の米の旨み、麹の旨みがある酒がいいお酢になるそうです。それを搾り濾過します。アルコール分1度以上を含むので酒税法の酒類で、酒類製造免許が必要になり、酒税がかかります。このため、メーカーではろ過前に酢を加えて、酒税課税を避け、酒造免許不要にしています。そこに酢酸菌の種酢をいれて、酢酸発酵がスタートします。



酢酸菌様用のお酒 
こちらからいただきました


米だけで米酢を作るためには、酢1㍑に対して120g~200gの米が必要ですが、JAS・日本農林規格での「米酢」表示は40gの米でOKです。お米が少なければ、アルコールがすくなくなります。そこでアルコールを加えます。このアルコールは、糖蜜やタピオカ等を主原料として発酵し蒸留したアルコールです。米の旨み、麹の旨みがある酒が良い酢になるのですから、アルコール添加では、そうした旨味や栄養成分濃度は低くなります。そうした淡白な酢が適した用途向きで、安価です。


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JAS表示

アルコール添加は、流行のトマト酢など野菜酢では不可欠です。トマトで酒は醸せません。そこで、アルコールを加えています。出来た酢には、トマトの成分が含まれます。トマトジュースに酢を入れても同じだと思う商売下手な虹屋。

JASで「醸造酢(□□酢)」と表示できるものは、酢1㍑での野菜の下限使用量が決められています。




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米酢(酢酸発酵)と梅酢(クエン酸) 酢-1 [調味料ー酢、料理酒、味醂]

環境中には様々な微生物が生存します。その中に、エチルアルコールを食べてエネルギーを得て酢酸をだす菌、酢酸菌・アセトバクターがいます。天然の状態では、糖からエチルアルコールをつくる酵母類と一緒に果実などにいます。1863年にパスツールによって酢酸菌は発見されました。多くの酢は、このアルコール醗酵と酢酸発酵の二つの段階を経て、酢酸の酸味の酢です。酢酸だけでなく菌の作る多くの成分が含まれています。




酢酸菌の細胞膜で行われる醗酵過程を詳しくみると、エチルアルコールから水素を取りアセトアルデヒドにかえます。その中間生成物のアセトアルデヒドを大気中の酸素をくっつけて酢酸(アセテート:Acetate:CH3COOH)と前段階でとった水素と酸素で水をつくります。その際にエネルギーを得ます。


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人間ですと、飲酒で入ったエチルアルコールは肝臓で酵素、アルコール脱水素酵素・ADHなどの酵素によってアセトアルデヒドになります。そのアセトアルデヒドにアルデヒド脱水素酵素(ALDHやAcDH)が働いて酢酸ができます。生成された酢酸は、血中に放出され、全身でエネルギー源とになり、最終的には二酸化炭素と水が生成します。

細胞の中で酢酸は、TCA回路に入り代謝されエネルギーを生みます。TCA回路は、クエン酸回路(Citric acid cycle)、Krebs回路(クレブス回路)ともいいますが、酢酸はクエン酸に変ってTCA回路に入ります。このクエン酸を主とする食酢があります。梅酢やレモン、ダイダイなど柑橘類の搾汁です。リンゴ酸、ポリフェノールなど有機酸を豊富に含んでいます。



純粋なクエン酸(citric acid、C6H8O7)は、常温で無色あるいは白色の固体で、揮発性は無く無臭です。従って梅酢やレモンなど柑橘類の搾汁の香りは、クエン酸以外の成分によります。水溶液は弱酸性で、爽やかな酸味を呈味します。閾値(いきち・しきいち)は、常温で0.0025%程度。



食用以外には化粧品、洗浄剤、中和剤、冶金(メッキ)薬、可塑剤などに使われます。こうした工業用にはデンプンあるいは糖をコウジカビの一種 Aspergillus niger で発酵させて作られています。昔は、クエン酸の多い梅酢が冶金に使われていました。金鍍金(メッキ)の下準備の「酸洗い」や「色揚げ」「煮色仕上げ(にいろしあげ)」での煮色液で使われていました。梅酢を加え透明度を高めた漆が漆器に使われていました。



梅酢をとった後の梅は黒焼きにして腹痛の治癒・虫下し・解熱・腸内の消毒の効用を目的とした、食用よりもむしろ漢方薬として用いられていました。それを干して食用にしたのが梅干の始まりです。

梅酒でわかるように梅酢をとるには、青梅の方が適しています。梅酢が出た青梅は、硬くて食べ難い。これに対し、梅干用には木熟して梅酢は減っているが柔らかくなった梅が適しています。古くから食用にしていた地方、関西では、梅を上げて干さないドブ漬でした。これなら、梅も梅酢も料理や食用に使えます。赤シソで色を付けるのは、江戸時代の後期の広がりました。



酢酸は、常温では無色透明の液体で、刺激臭を持ちます。純粋な酢酸は冬など低温度では固体になり、外見が氷に似ていることから「氷酢酸」(ひょうさくさん)と呼ばれています。酢酸は試薬や工業品として重要であり、合成樹脂のアセチルセルロースや接着剤のポリ酢酸ビニルなどの製造原料に使われています。これは古くは木材の乾留から作られる木酢液や石炭コークス、石油から作られています。石炭コークス法では、触媒で硫酸水銀を使います。同法による酢酸の製造を行っていた日本窒素肥料(現チッソ)の熊本県水俣市の工場から排出した水銀が水俣病の原因となりました。


氷酢酸

食用の酢は、こうして石油などを原料にして作られた酢酸を水に溶かし、調味液などを加えた合成酢と酢酸発酵による醗酵酢があります。合成酢は、醗酵の原料のお米が不足していた敗戦後から1960年代後半(1966年に米自給率100%超える)まで家庭用でも広く使われてましたが、現在では沖縄を除いて家庭用ではお目にかかりません。現在の合成酢の用途としては主に業務用で、食事を提供したり食品を扱うような所で使われる事が多いようです。

合成酢は安くできます。また合成酢は酸度が自由に変えられます。醸造酢が4%前後ですが、沖縄で使われている合成酢は10~15%です。これだけ高いと、中華料理など高温で調理した場合でも酸が飛ばない、酸味が薄れが少ないのです。これは業務用では利点です。また、酢酸菌は自分がつくった酢酸で酸度4%前後になると生育が止まりますが、一定時間後に酢酸を食べて資化・利用して再び生育を開始することができる能力をもっています。そうなると、濁りが生じます。


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食酢では、酸度を見て4%前後になると火入れ(75~80℃、約30分)処理をして、低温殺菌してしまいます。しかし開封してしまえば、空気中から酢酸菌などが入り込みます。合成酢で酸度10~15%にすれば、そうした酢酸を食べる菌の繁殖が少ない。酢酸菌の中には酸度20%も平気という強者もいますから、皆無ではありませんが、非常に少なくなります。沖縄は気温が高く菌の繁殖が起こりやすいので、その点、酸度を高くした合成酢使用は合理的です。

 醸造酢は、酢酸のほか、多くの種類の有機酸類やアミノ酸を含んでいます。それが酸味だけでない様々な味や風味や効能を形作っています。 合成酢では調味液、人工甘味料や醸造酢など加えていますが、含まれる有機酸類やアミノ酸は醸造酢に比べて少ないのです。工業用アルコールも使う醸造酢も同様です。

続く


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