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トランス脂肪酸とは? トランス脂肪酸と心疾患の関係(1)(2005年版に加筆) [油脂ー搾油、栄養、コレステロール]

2005年10月、2008年7月、2010年10月小針店で印刷・配布した畑の便りの加筆、再録です。

 マーガリンのトランス脂肪酸が「狂った油」、「食べるプラスチック」などと話題になって、その表示の義務化が2009年から検討されました。

 2006年1月1日以降、米国では、トランス脂肪酸の摂取が飽和脂肪酸及び食事由来コレステロールの摂取と同様に冠動脈心疾患のリスクを高める悪玉コレステロール (LDLコレステロール)のレベルを上昇させるという科学的知見から、食品にトランス酸の含有量も飽和脂肪酸、コレステロールに加えて表示することが義務付けられました。

その当時、日本では表示義務はなく、具体的な規制策は検討もされていませんでした。またほとんどの業者が表示実現など考えておらず、静観する姿勢でした。これを問題視する報道や表示実現を求めるなどの消費者団体の動きがその当時出ました。

2009年、政権交代で消費者庁の大臣に就任した福島瑞穂氏が「食品中の含有量の表示義務化」へ向けた検討を消費者庁に指示。結果、業者の義務ではなく自主的開示、そして開示情報や表示方法は消費者庁の定めた「トランス脂肪酸の情報開示に関する指針」による2011年になりました。
詳しく 消費者庁のトランス脂肪酸に関する情報 http://www.caa.go.jp/foods/index5.html

 2006年当時、このトランス脂肪酸問題は格好の販売促進の話題ですが、虹屋はそうした扱いをしませんでした。一般のマーガリンは概ね10%前後の含有に対して、虹屋扱いのマーガリン、紅花マーガリンの含有量は0.5%、有機マーガリンは0.46%。このマーガリン⇔悪玉コレステロール説を振り撒けば、たくさん売れたかもしれません。

この問題は欧米では問題でも食習慣・生活の違いから、日本ではさほど問題ではない、 むしろ日本のトランス脂肪酸の摂取状況などをみると、心疾患のリスクの低下には、塩分(ナトリウム)や総脂質などの栄養表示を任意から義務にする事が先決と考えるからです。

トランス脂肪酸とは?

 同じ種類と数の原子でできている化合物でも、その性質、融点やらが違うことがあります。それで原子の空間で並び方が違いに着目して、立体異性体という区分をします。次元空間内ではどう移動しても重ね合わせることができない分子構造をしています。その立体異性体のなかの幾何異性体、シス-トランス異性体という分類でのトランス型ということです。 

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脂肪酸のシス型は折れ曲がった構造で、トランス型は直線状の構造になっています。熱力学的にはトランス型が安定ですので、後で出てくるように熱など何かの切っ掛けがあるとシス型からトランス型の変化がおこります。

14-0317a05_.gifこの脂肪酸とグリセリンが結合したものが脂肪(油脂)です。グリセリンは脂肪酸と結合することができる手を3本持っています。その脂肪酸の種類や数で様々な脂肪(油脂)ができます。3個つながったものが、健康診断の血液中の「中性脂肪」で正式には「トリアシルグリセロール(またはトリグリセリド)」といいます。食事から摂るものや体に蓄えられる脂肪はこれです。

 

膵臓から分泌される膵リパーゼにより分解されると、脂肪酸とグリセリンに1個または2個つながった脂質に分解されます。2個つながったモノはジアシルグリセロール(ジグリセリド)です。1個つながったモノはモノシルグリセロール(モノグリセリド)です。
またステロイド骨格という特有の構造を持つ脂質がコレステロールです。

不飽和結合
 
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脂肪酸は、炭素と水素からできています。炭素は化学結合をする手が4本あります。このうち隣の炭素との結合に1本ずつ使い2本、残る2本は水素と結合している、水素で飽和されている動物の脂質に多い脂肪酸、飽和脂肪酸と、隣の炭素との結合に2本(二重結合)と1本で3本、残る1本は水素と結合している植物の油脂に多い脂肪酸があります。2本手の二重結合は、1本の結合が解けても炭素同士は結合が続きます。そうなると化学結合の手が1本余ります。この余った手が別の原子と化学結合できます。酸素と結びつけば酸化です。水素が付けば飽和脂肪酸化します。それで、隣の炭素との結合に二重結合を持つ脂肪酸は、水素で飽和されていない不飽和脂肪酸といいます。

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二重結合をしている炭素同士は、水素が1個ついています。シス(cis)とは、“同じ側の、こちら側に”という意味で、脂肪酸では水素原子(H)が炭素の二重結合をはさんで同じ側についているもの。トランス(trans)とは、“横切って、かなたに”という意味で、脂肪酸では水素原子が炭素の二重結合をはさんでそれぞれ反対側についているものです。

トランス脂肪酸は、グリセリンと結合していない端から数えて何番目の炭素の2重結合がトランス型であるか、トランス型を幾つもっているのかによって多種あります。2重結合が3番目、6番目と9番目に3つ持つαーリノレン酸は7種トランス型があります。6番目、9番目と12番目に3つ持つγーリノレン酸も7種のトランス型があります。
 二重(不飽和)結合がN個の多価不飽和脂肪酸は、2のN乗-1個のトランス型が理論的にはあります。

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そして、トランス型とシス型で、その性質が変わります。例えば、二重結合が1個でシス型でオレイン酸は融点13.4℃で室温で液状、このトランス型のエライジン酸は46.5℃、2重結合の位置が3つ違う6番目のトランス型のバクセン酸は44℃、炭素数が同じ飽和脂肪酸のステアリン酸が69℃。このような性質の違いが、どのような脂質としての働きの違いになっているでしょうか 。
 
 
 不飽和脂肪酸には、脳神経の発達やアレルギー症状の緩和を助けるなど、ほかの脂肪酸にはない生理作用があります。不飽和脂肪酸を欠くと、皮膚障害、不妊などが引き起こります。ビタミンのような必須の栄養素、必須脂肪酸です。体内で様々な生理活性物質に変わります。

トランス型とシス型は、融点をみてもまったく違います。牛など草食動物の胃に共生している微生物に由来し、牛肉や乳、乳製品に多く含まれるトランス型のバクセン酸。摂取されたバクセン酸は、生体内にある酵素の働きで、共役不飽和脂肪酸の一種に変換されることがわかっています。
 問題視されているマーガリンなどに含まれているトランス脂肪酸の大部分は、生体内でも共役不飽和脂肪酸に変換されません。このように生体内に吸収生体内に吸収されてからの動態が異なります。
 しかし個々のトランス脂肪酸の種類別の、ヒトの健康に与える影響、生理作用を調べた科学的データは少しかありません。ほとんど無いという状況です。
 
ヒトを含む動物種の多くは、不飽和脂肪酸を自らの体内で生合成できません。それを生合成できる植物、菌類を食べて摂取する(草食や雑食)やそのように脂肪酸を蓄積した草食動物や魚などの動物を捕食する(肉食や雑食)で得なければなりません。そして、それを加工して使っています。それゆえに食物での摂取が”必須”脂肪酸です。トランシ脂肪酸も摂らざるを得ません。

脂肪酸はそのままで消化吸収されるので、その動物の体内の脂肪酸の組成は、餌となった動物、植物のそれに似ます。魚粉を食べた鶏の肉は、魚臭い。そして栄養・エネルギー源としてトランス脂肪酸も代謝されます。エネルギー源になります。貯まり続けるという説は誤りです。
 
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トランス脂肪酸は何処にあるに続く 
 
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ヘルシーリセットの中鎖脂肪酸って何?肥満に効果?(2003年版に加筆) [油脂ー搾油、栄養、コレステロール]

2003年1月28日小針店で配布した畑の便りの加筆再録です。

「浜の真砂は尽きるとも、盗人の種はつきまじ」と石川五右衛門は言ったそうですが、現代は「世に盗人の種は尽きるとも、ダイエットの種は尽きまじ」ですね、ダイエット・バブルと業界の人は言っているそうです。さて新顔は、日清が新しく出した食用油・「ヘルシーリッセタ」。中鎖脂肪酸(ちゅうさしぼうさん)の働きで体脂肪がつきにくい健康対策オイルだそうです。
同じような効果を謳って爆発的に販売をのばした花王の「健康エコナ」。このエコナは、ダイエット効果がありそうな宣伝をしていますが、結局のところ普通の食用油と同じで、摂取カロリーが過剰ならエコナの油も、体は体脂肪にして蓄えてしまうことは去年お伝えしました。この油は、どうでしょうか。

ココナッツ油と部屋干し臭い

 中鎖脂肪酸(ちゅうさしぼうさん)は、食品では牛乳やヤシ油(ココナツオイル)に含まれています。脂肪は、グリセリンと脂肪酸が結合した物です。脂肪酸は、炭素が鎖状に結合していて、その炭素の数が8~12個の物が中鎖脂肪酸です。(我々が食べる油脂、脂肪のほとんどは12個以上の長鎖脂肪酸です)販売される物は、ヤシ油などを分解し、精密蒸留により高純度の中鎖脂肪酸を取り出し、再度、グリセリンと結合した合成品です。「ヘルシーリッセタ」の原材料の表示は「食用精製加工油脂、乳化剤、酸化防止剤(ビタミンE)」となっています。

洗剤メーカーのライオンの調査では、部屋に干した洗濯物のあのイヤなニオイ(部屋干し臭)を特徴づける「酸っぱくて汗っぽいニオイ」の「キー成分」は中鎖脂肪酸、(その酸化物)だそうです。) 

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脂肪は、腸で胆汁などの働きで細かくされ、油滴になり、そこに膵臓から分泌される消化酵素が働いて分解され、吸収されます。中鎖脂肪酸は胆汁や膵臓からの酵素がなくても分解吸収されます。(普通の約4倍吸収されやすい)肝臓で普通の脂肪より約10倍酸化されやすい、エネルギー源としての利用速度が速いのです。この特徴を生かして、手術後の人や未熟児(酵素の活性が低く、胆汁の量が少ない)のエネルギー補給に使われてきました。

 こうした用途に花王は中鎖脂肪酸100%の商品を販売していますが、その商品への花王の評価は①必須脂肪酸などの栄養に欠ける②揚げ物、炒め物には使えない、調理性に問題があるです。それで花王は中鎖脂肪酸ではなく、グリセリンに2個の脂肪酸が着いた脂肪・油を合成して多く配合した食用油「健康エコナ」を開発販売したわけです。日清は揚げ物、炒め物に使えるようどんな工夫をしたのでしょうか。

 食用油の市場規模は年間約1000億円。年々縮小し、健康面から注目されていたコーン油、べに花油、オリーブ油なども落ち込み、その分、健康オイルが伸びているのだそうです。縮小しているのは40、50代以上の世帯では、油の使用量は少ないからで、ただこの世代は肥満が生活習慣病の素地ということから、肥満に関心があり健康オイルはこの世代の需要があるのだそうです。約1割、年間100億円程度でそのほとんどが「健康エコナ」だったのですが、エコナが発がん性の疑いから販売中止、今やヘルシーリッセタの独り舞台とか。

 また日清は1988年に中国に進出。2013年3月期の中国での売上高は約150億円。中国は食用油の供給過剰が続いており、価格競争が厳しい。このため、09年に「ヘルシーリセッタ」を投入したそうです。今村隆郎社長は「中国は利益が出にくい。高付加価値品で中国製品との違いを出さなければ勝てない」と中国の富裕層に売り込みを図っています。

 話が脇道にそれましたが、中鎖脂肪酸を摂ると体脂肪が増えない、減るのでしょうか。摂取カロリーから使用カロリーを引いて、余剰があれば合成された体脂肪が蓄積するわけですし、不足なら体脂肪が消費される量が増え減少するわけです。肥満、ダイエットという点からは、「ヘルシーリッセタ」など中鎖脂肪酸を含んだ食用油にかえると摂取カロリーが減るのか、使用カロリーが増えるのかがポイントです。

摂取カロリーが減るのか

 「エコナ」も「ヘルシーリッセタ」なども、カロリーは普通の食用油と変わりません。1gあたり約9キロカロリーありますから、これに変えても総摂取カロリーは変らない。北海道の畜産試験場で、豚の飼料に中鎖脂肪酸と大豆油を添加して、その違いを調べる調査が行なわれています。それを見ると、体重や体重の増え方、脂肪層の厚さは、大豆油と中鎖脂肪酸で変りがない、同じです。脂肪の質には違いが出て、中鎖脂肪酸の方が高品質の豚肉になるそうです。

 広告や新聞記事で紹介されている健康オイルでのダイエット例を見ると、総摂取カロリーのことは触れられていない。この手の使用実験でよくあることは、この食品がダイエットに効果があるかどうか試験したいので協力してくださいと頼まれると、その試験期間中はダイエットが気になって、食べる量を減らしてしまう、つまり、総摂取カロリーが減る、そうなれば、自然に体重、脂肪は減るわけです。

 総摂取カロリーの点がはっきりしているのは、エコナのグリセリンに2個の脂肪酸が着いた脂肪・油のダイエット例です。

身体での使用カロリーが増えるのか
 米国で肥満症の治療の為に食事・総摂取カロリーを制限した実験で、エコナの油を使った方が体重の落ち方が早かった、約1%早く落ちたという例です。肥満症の治療ですから、体重、脂肪が落ちて当り前です。早く落ちるのは、肯けます。

 食事をして、血糖値が高くなるとせっせと体脂肪やグリコーゲンを合成してたくわえ、血糖値が低くなると分解して消費しているのですが、体脂肪はグリセリンに3個の脂肪酸が着いた形ですから、エコナの油は2個ですからもう1個着けるのにエネルギーを使う。中鎖脂肪酸なら、中鎖脂肪酸がまず使われて、結果的にあまってくる米やパンなどの炭水化物から体脂肪を合成するのにエネルギーを使う。つまり結果的に使用エネルギー量が増える。

 それでも、食事制限をしたうえで落ち方が1%早くなるだけですからネ。この手の健康オイルを求める人は、自主的な食事制限・摂取カロリー制限に困難を感じる人なわけで、この程度で実際のところどれ位効果があるのでしょうか。
 
著しい脂肪肝・・・安全性はどうでしょうか。
 中鎖脂肪酸は、高濃度の物が医療で使われています。出されている注意事項をみると、下痢 (便中の脂肪酸の増加)、黄疸の遷延、肝機能障害などが上げられています。
14-0316a04_.gif「ヘルシーリッセタ」の中鎖脂肪酸は、胃で消化されて、普通の油・長鎖脂肪酸より約4倍速やかに腸管壁に吸収され、肝臓に運ばれていきます。そして肝臓で代謝も約10倍速く効率良く燃やされてエネルギーとなります。それだけ肝臓に負担がかかります。 


 雄ラットに高脂肪食を食べさせた実験では中鎖脂肪酸の多い食事では肝臓に脂肪が蓄積するという結果が出ています。その高脂肪食は、脂肪エネルギー比率40%で、脂肪・油は脂肪酸組成の異なるラード、大豆油、ヤシ油(中鎖脂肪酸が多い)の3種類です。

 いずれも、体重増加・終体重には差がありませんでした。肝臓中性脂肪はラード食、大豆油食、ヤシ油食の順に増加し、特にヤシ油で著しい脂肪肝になっています。その脂肪は、ヤシ油に多い中鎖脂肪酸が少なく、逆に少ない長鎖脂肪酸が増加していました。このことから、中鎖脂肪酸が優先的に利用され代謝される反面、体内の長鎖脂肪酸の代謝を抑制して肝臓に蓄積しやすくしたと考えられています。
 黄疸、肝機能障害、著しい脂肪肝・・なんだか肝臓への悪影響が心配になります。この手の健康オイルの主要な購買層は40・50代の世代です。この世代は、飲酒などの影響で肝臓が弱っている人が多いので、特に心配です。

健康食品の副作用の監視は?
 花王の健康エコナも日清のヘルシーリッセタも、特定保健用食品(「トクホ」と呼ばれる)です。トクホは、その効果、安全性についての動物実験などのデータを厚生労働省に提出し審査を受けた物、その効果、安全性について国がお墨付きを与えている健康食品です。そのお墨付きの根拠となったデータをみれば、その効果の程や安全性がどれ位調べられているか分るはずですが、データは公表されてません。疑問や心配を解消できません。

欧州食品安全機関(EFSA)は、日本でトクホ審査で使われた試験資料を検討して、体重減少の効果は認められないとし、摂取することで体重が減少するという健康機能表示を2012年認めませんでした。欧州食品安全機関(EFSA)の「医薬品並みの厳格な審査」では、同じ試験資料でも効果なし、不明となったのです。

 エコナの脂肪酸が2個のものを約80%の含む組成の油を長期に食べる食経験を人類は持っていません。発がん性が疑われるグリシドール、代謝されるとこれに変わる、生み出すグリシドール脂肪酸エステルが通常の油のン十倍も含まれるいます。そのようなエコナが健康にどのような影響があるか、今、エコナを使った人で人体実験中というところですが、何らかの害・副作用が出たら、誰が、何処に報告し、誰が一般に公表し警告するのでしょうか。


 健康食品、サプリメント使用の先進国、米国で、健康食品の有害作用が顕われると、3割は深刻な症状を呈している事をお伝えしました。健康食品による害の顕われ方には幾つかパターンがあります。
一つは、有害成分が含まれている、去年のダイエット食品などの例です。
一つは、実際には大した効果がないのに、その効果を信じ込んで適切な治療などを受けなくなって結果的に悪化する。アムウェイなどのマルチ商法で売られている健康食品に多い例で、販売員が欲と二人連れで、とても強く購入者を説得、洗脳してしまう。裁判沙汰になっています。脂肪を燃やすお茶を飲んでいるから、安心して食べる量が増えて、結果的に肥る例もそうです。
三つめは、治療中で投与されている薬との相互作用で害が生じる場合です。ハーブのセントジョンズワート(セイヨウオトギリソウ)と強心剤や喘息薬を併用で薬の効果が顕われなくなってしまう例。一つは、医薬品と同じく特定の体質の人にだけ害が現れるものです。
 最初の二つは、「食用精製加工油脂、乳化剤、酸化防止剤(ビタミンE)」といった簡単な表示ではなく、きちんとした成分表示をさせる。効能の根拠となるデータの情報開示を義務付ける。トクホなら申請データを国が公表するなどの措置が考えられます。後の二つは、医薬品と同じように副作用の報告を義務付けるなど監視の強化が考えられます。健康「食品」と「医薬品」を区別する事に問題があるのです。

 
効果的なのは「よく噛む」

 よく噛むとその刺激で、食欲を抑える物質が脳内に分泌され食べる量が減ります。食事制限が自ずとできます。効果も確実で、副作用もありません。健康を考えるなら、残留農薬や食品添加物など有害な物、害を及ぼしそうなものを避け、偏らない食材、食品を、よく噛んで食べることが基本ではないでしょうか。


搾油の工程(5) 大豆の圧搾 [油脂ー搾油、栄養、コレステロール]

中国の古い書物に、紀元前7世紀の初めころ、斉の国の桓公が満州南部と見られる地方を制圧して、ここに住んでいた朝鮮の古代民族である貊族(こまぞく)が栽培していた大豆を持ち帰り戎菽(チュウシュク)と名づけたとの記録があることから大豆は満州で古くから栽培されていました。

大豆などマメ科植物に窒素固定の根瘤菌が共生していて、根には根瘤をつくり空気中の窒素ガスを取り込んでマメ科植物に供給するという性質があります。マメ科植物は窒素肥料不要。根瘤菌は相手になるマメ科植物の範囲が限定され、親和関係からアルファルファ菌、クローバー菌、エンドウ菌、インゲン菌、ルーピン菌、ダイズ菌、カウピー菌、レンゲ菌の8群に部類されます。ダイズ菌は欧州や米大陸には居ないので栽培できず、ダイズ栽培は中国、朝鮮、日本などに限られていました。

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大豆の先祖・ツルマメ

満州(今の中国東北部)では人力或は畜力で搾られた大豆油が食用油として広く普及していました。1775年(清朝第6代の皇帝・乾隆40年)頃から、搾油の残り粕―豆粕・豆餅は上海周辺の農家で金肥(購入する肥料)として用られて以来、盛んに中国国内での交易されました。マメ科植物を栽培し、鋤き込む緑肥だけでなく、豆粕・豆餅を発酵し堆肥化して、窒素源にしたのです。

この当時は、主産品が食用油の大豆油であり、搾り粕(豆粕・豆餅)がその副産品。搾り粕は、華中の綿花、華南のサトウキビ栽培などの肥料や「牲口(牛馬など家畜)ヲ飼養スルニ豆餅ヲ用ユ」(満州地誌)でした。

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この満州地方は歴史的には女真族(後に満州族と改称)の住む森林地域でした。漢民族と女真族は攻防を繰り返し、日本の江戸時代には漢民族の明王朝を滅ぼして清王朝を打ち建ています。清王朝では、先祖の地である満州には、女真族の生活をささえる狩猟の場であり山貨(朝鮮人参など)を採取する森林を保護し、森林開発・耕地化を禁止・抑制する政策をとっていました。1840年以前の満州は、アムール虎が徘徊する大森林・原生林に大半が覆われていました。

アヘン戦争(1840-1842年)後、中国内地から満州への移住者が激増し、南部の鴨緑江(おうりょくこう、現在の中国と朝鮮民主主義人民共和国・北朝鮮との国境)流域に点々と村落が出現します。

そこの暮らしは、自給自足が中心でしたが大豆は重要な換金作物であり、食料でした。朝鮮半島には野菜の葉に穀物や肉を挟んで食べるサムという食べ方がありますが、この地方では大豆の葉にも粟などを包んで食べていたようです。特に厳しい寒さが襲ってくる冬の季節では野菜が欠乏してきますが、大豆に水と温度を与えて発芽させ、大豆もやしを作って野菜としてのビタミンの補給源としました。

 余談ですが、日露戦争の旅順要塞包囲・籠城戦(1904明治37年8月19日〜1905明治38年1月1日)では、ロシア軍は大量の大豆を持っていましたが、大豆もやしを作ってビタミンの補給源とすることをせず、約5万6千人の将兵のうち8千人のビタミンC欠乏による壊血病患者、1千人のビタミンA欠乏による夜盲症患者が発生しています。これによる戦意喪失が旅順降伏の一因として挙げられています。日本陸軍は、白米飯(精白米6合)でありビタミンB1欠乏による脚気や病死者がでています。ロシア軍は壊血病にならない現地の中国人の食生活に、日本陸軍は脚気病死者を出していない麦食を取り入れた海軍や台湾の陸軍に学べば防げたのです。

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アムールタイガー

それぞれの農家で収穫された大豆は、冬に大型の馬車で運ばれ糧桟と呼ばれる県の中心地(県城・駅)に所在する穀物問屋が買い集めて、大都市各地にある油房と呼ばれる圧搾工場で、大豆を石臼で挽き粉砕し、楔を打ち込むやり方で加工されて油と粕になっていました。それらは遼河の水運で遼東半島のつけ根、渤海遼東湾の北岸の河口部の牛荘(営口)に集積されます。

1856~60年のアロー号戦争(第二次アヘン戦争)の結果、営口は1860年に開港し1866年頃から集積する大豆が当地で搾られています。当時の貿易統計では、大豆、豆油、豆粕の大豆3品が営口輸出の80%前後を占めています。1880年代には清国は、領土確保のため満州への移民奨励に政策を転換し、アムール虎が徘徊する大森林・原生林は伐採・開墾され大豆などの生産が増加しています。大豆3品の移出量は、1872-1881の年平均量は276 千トン、1892-1901の年平均量は693 千トン

日清戦争(1894年明治27年)前、「本邦(日本)牛荘(今の中国遼寧省、営口)間ノ貿易ニ於大豆及豆餅ハ殆ンド其総額ノ八割ヲ占メ昨廿六年中日本ヘ輸出シタルモノ実ニ百七十万両ノ巨額ニ達セリ」この大豆粕は肥料として使われました。明治20年代当時の日本では、おもに鰊搾粕が肥料として農家で使われていました。その鰊搾粕が高騰した時に、満州の廉価な搾り粕(豆粕・豆餅)を輸入し代用肥料としたのです。その輸入を契機に、大豆粕の肥料としての優秀さと廉価さが認められ、輸入が増大します。

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鰊搾粕

「我邦農業ノ進歩ニ伴ヒ魚肥料ノ需要次第ニ増加シ従テ年々其価額ノ騰貴ヲ来シ肥料商ハ此需要ノ増加ニ拘ラズ情実上並商略上取引ノ困難ヲ感ズル至レリ
於是乎兵庫ノ肥料商有馬市太郎氏等主トシテ此廉価ナル代用肥料(大豆粕―原引用者)ヲ輸入シテ魚粕ノ価格ヲ下落セシメン事ヲ図レリ幸ニシテ其効験著シク試用農家ノ好評ヲ博シ紀淡濃尾ノ諸地方ヲ始メトシテ漸次其販路ヲ拡張シタ」

農商務省農業実験場の栽培実験では、稲では約10%増収、麦では約3.7%増収、桑、茶などにも効果が認められています。価格は鰊搾粕の約半分でした。

日本での満州大豆の圧搾は、1901年明治34年に福井県敦賀港の大和田製油所が最初とされています。明治38年には井上寅次郎が兵庫に開設し、その後次々と大豆粕製造・搾油会社が出てきます。日本では、大豆粕が主産品で、大豆油は副産物でした。技術的には圧搾法です。

満州では大豆を搾って、大豆油の収量10%、豆粕の収量約86%です。豆粕中の蛋白質含有量40%、豆粕中残留油分8%です。日本国内で製造された粕のデータは見つけられませんでしたが、ほぼ同等とみられます。油分が8%、水分が27%前後と高いため、欧州など長距離・長期間の輸送では変質が起こりやすい大豆粕です。

日清戦争の結果、日本は幕末に日本が欧米から押付けられた不平等条約と同様の交易条件で清国と講和条約(下関条約・馬関条約)を1995明治29年に結びます。これを足場に、明治25年に営口に進出していた三井物産は、豆粕事業を一層拡大します。他に村松、福富、海仁、加藤といった洋行(商社)の開設が記録されています。当時の営口交易では、移出の63%は中国の他の地域への大豆3品などの移出、移入では、中国の他の地域からの移入が82%(中国産品約40%、外国産品の二次移入が約40%)を占めています。三井物産なども日本への輸出だけではなく、こうした対中国交易にも携わった。

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加藤洋行・営口

また、日清戦争後の遼東半島の日本割譲を阻止した三国干渉(1895年)の見返りとして、ロシアは満洲北部の鉄道敷設権を得てます。ロシアは1891年からシベリア鉄道の建設を始め、当時残るはアムール線(スレチェンスク〜ハバロフスク)およびバイカル湖周辺のみになっていました。二つとも地勢が大変険しく建設が困難でしたが、満洲北部にアムール線に代る短絡線としてチタから満洲北部を横断しウラジオストクに至る鉄道の敷設権を獲得しました。1898年3月、旅順大連租借条約でハルビンから大連、旅順に至る南満洲支線の敷設権も獲得しました。

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この東清鉄道建設に使う資材は営口から輸入され、建設労働者に多くの中国人が満州に移入してきます。この鉄道建設は大興安嶺トンネル完成で1904年に終えます。枕木や初期には蒸気機関車の燃料として大量の薪を使用した東清鉄道の建設によって森林は広く伐採され、その切り株だらけの地を鉄道の建設労働がなくなった中国人が開墾して農地に変えて行きます。赤い夕陽が地平線に沈む満州の風景が形作られました。

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そして日露戦争(1904明治37年2月8日 - 1905明治38年9月5日)にいたります。

搾油の工程(4) オイル・エキスペラー式圧搾法 [油脂ー搾油、栄養、コレステロール]


1904・明治37年の日露戦争後に、現在、圧搾の主流になっているOil Expeller、オイル・エキスペラー、ペラー式圧搾法、ねじプレス、螺旋式搾油機が入ってきます。このエキスペラー式の搾油機は、1900年にV.D.Andersonが試作機をつくり1910年にドイツのクルップ社が水圧プレスにかける前の予備装置に製作したのが世界初。日本には1918・大正7年には既に輸入されています。 出典

下図はバングラデッシュで行われている牛を動力としてpestle・乳棒、スリコギ、きねを駆動する搾油法です。

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これはpestle・乳棒、スリコギ、きねは縦になっていますが、横置きしネジのような螺旋の形態にします。

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シャフト軸が回転すると、取り付けられた螺旋状のウォームに沿ってケージ内に送り込まれます。「この溝をよく観ると、(上の)写真の下部の溝は深めに空いているが、写真上部(右側)に行くほどにその溝が狭まり、途中でギュッと溝がなくなっている部分があるのがわかるだろう。要は、写真下部(左側)のほうから菜種が入り、溝に従ってだんだんと移動していって、最後の溝が浅くなっていく部分でギュギュッと潰れ、油が絞られるということなのだ。」 出典
油は、鋼材の隙間からケージの外へ、その搾り粕は排出口から押し出されます。

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このエキスペラー式圧搾法の圧搾圧力は、原料がケージの中を前進するにつれて螺旋の間隔が狭まり圧縮比が高まり、700~2000kg/㎠位がかかります。圧力は、螺旋状のウォームを交換したり、外側のケージとウォームの隙間(0.2~1.0mm.)の大きさや粕の排出口の開度で調整します。

このエキスペラー式圧搾法では、菜種などの原料が連続して投入され、圧搾の工程が継続します。玉絞め法、板締水圧機(プレートプレス)では圧搾のたびに粕の排出、原料の再装填を行いますから搾油が断続しますが、エキスペラー式は連続します。大型化すれば、投入量も増やせます。今では、1時間に700トンの菜種を圧搾できる機器が使われているそうです。

これは、十分な量の原料を確保できれば(そのための資本が調達できれば)、このエキスペラー式圧搾法では少人数で大量の搾油が可能になります。ただ、菜種などの原料の品質は収穫時期や土地柄で変りますから、それを見極めて性状に合わせて回転速度や螺旋状のウォームを交換したり、外側のケージとウォームの隙間(0.2~1.0mm.)の大きさなどを変える操作などに熟練を必要とします。また多種の原料を搾る、例えばAさんの菜種をしぼり、次はBさんの胡麻をしぼるなど間欠的な用途には向きません。

エキスペラー式圧搾法は極めて高い圧搾圧力が可能です。そのように使えば大きな摩擦熱が発生し、搾油時点で高温に曝される油分に変質を起こすことになります。また油分を多く高い比率で搾れますが、それは同時に油分以外の成分、細胞内で油滴を包んでいる細胞膜なども多く出るようになります。つまり、搾った後の搾油の精製が重要になります。

玉絞め法は、「搾油量が少ないが良質の油がとれ、菜種の煎り具合で胡麻油に煮た香りの油となるため高く売れた。そのため後まで使用されており、昭和4年にも末次製の同機16台が(吉原製油で)増設されている。」 出典

さて、このエキスペラー式圧搾法は1924・大正13年に吉原製油・堺第2分工場に導入され、実用されてます。同時期に、有機溶剤で油分を抽出する抽出法も実用化されてます。それは大豆油の搾油です。 (続く)



搾油の工程、やり方(3) 玉絞め法、板締水圧機(プレートプレス) [油脂ー搾油、栄養、コレステロール]

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「油搾木(あぶらしめぎ)式」で搾油された綿実油に、石灰を混ぜ合わせ和紙で漉して透明にする「灰直し」製法が生まれ精製された白油が出回り始めてから約250年後に明治維新(1868年)をむかえます。「矢締め式」「油搾木(あぶらしめぎ)式」の搾油は、動力が人力から水力・蒸気力・電気力と変わりながら寛政年間から明治末期まで各地で続けられ ました。現在、日本で唯一綿実油を搾油している岡村製油㈱は、1892・明治25年創業当時は「油搾木式」(立木式)を使っています。

開国後、搾油・精油のさまざまな技術が入ってきます。

まず、油圧で下の菜種などの入った臼を押し上げる玉締め法(玉搾り)がでてきます。
明治5年製の玉搾り機が、虹屋で扱っている黒ごま油の鹿北製油(鹿児島県)では現役で働いています。


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下から上へ、油圧で下の台をゆっくりゆっくり押し上げます。しばらくすると、じわりじわりと油が出てきます。この方法だと原料にかかる圧力がとても低い(玉締め絞りでの最高圧力は150~170kg/c㎡)ため、摩擦熱が小さい。搾る度に入れ替える(バッチ式)ので、熱が機械にこもることもありません。ビタミンEなどがたっぷり残ります。
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油分の20~30%くらいと江戸時代からの「油搾木式」と同程度しか搾り出せません。しかし、労働力が大幅に減ります。灘の水車搾りでは5人体制(搾り人一人・添槌一人・親司一人・下働き二人)でしたが、搾り人一人・添槌一人は不要になります。現在も使っている製油所では、二人程度です。灘の水車搾りで菜種油は5人で1日で3石6斗約540kgで一人当り約110kg、玉締め法(玉搾り)では約800kg(鹿北製油)で一人当り約400kgです。

江戸時代の油需要の大半は、灯明・行灯の燃料でした。明治になり石油ランプが入ってきます。明るさが灯明の0.25燭光、行灯の0.2燭光をはるかに上回る3.2燭光であったことや当時の灯油価格が菜種油に比べて半値であったことから急速に普及します。菜種油の需要が激減。菜種油の搾油は、まずコストを下げることが課題になり、それにあっていました。

明治20(1877)年頃に丸板や長板を水圧をかけて押付けて搾る板締め水圧機(プレートプレス)「搾油機一台に鉄製棚板十五段あり、人毛にて編みたる手袋という布にて原料粉末を包み、板締機にて予め整形したるものを格段に装填加圧するもの」が輸入され利用されます。1台で1日約8000kg程度搾ることが可能だそうです。。

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オリーブ油

四日市製油会社(創立、明治21年)は、これで「一昼夜に凡そ百石(1石=約150kg)の菜種子を圧搾せり。これ等の機械一式の代価は四万五千円なりと云ふ。而して、一昼夜の営業費用は凡そ参拾円余なりしと云へば、即ち菜種子一石につき参拾銭の割台なりしなり。されば、これを四日市附近の日本風の搾り器に依る菜種子一石の搾り費用凡そ六拾銭なりしに比ぶれば、その生産費は僅かに半額なりしを知るべし」 出典


玉絞め法と板締め水圧機(プレートプレス)は、原料の菜種などを布状の濾過材・搾布で包みます。圧搾の圧力が高いと布が破れて、油に原料が混じってしまいます。そのため、圧搾の最高圧力が玉締め絞りで150~170kg/c㎡、プレートプレスは110kg/c㎡程度です。

板締め水圧機では、水平方向(圧縮方向に直角方向)は開放されています。玉絞め法では、タガがはまっています。

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「前の桶のようなものは、外側は鉄製の『わっか』を三段重ねにし、その中に鉄の板を並べただけのものです。
鉄製のわっかの底にはマットを敷き、帯状に編んだ繊維を内側にめぐらせます。
その中に蒸気を通した胡麻を入れ、上部は繊維で包み込むように押し込んで玉締め機にセットします。」 出典

それで、圧搾圧力は玉搾り法が高くできます。ならば、布状の濾過材・搾布を使わず丈夫な孔あき鋼製のケージを設置して、中に直接原料の菜種など入れれば、より高い圧力がかけられる??この原理での圧搾機をケージプレスといいます。圧搾圧力は420kg/c㎡か、それ以上で使われます。

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そして、1904・明治37年の日露戦争後に、現在圧搾の主流になっているOil Expeller、オイル・エキスペラー、ペラー式圧搾法、螺旋式搾油機が入ってきます。 (続く)

搾油のやり方(2) 江戸時代の精油法 [油脂ー搾油、栄養、コレステロール]

矢締め式」「油搾木(あぶらしめぎ)式」の搾油は、動力が人力から水力・蒸気力・電気力と変わりながら寛政年間から明治末期まで各地で続けられました。


油脂は細胞組織の中に取り込まれ、細胞膜に包まれた小さな油滴として存在しています。
これらの生体組織から、その大部分が中性脂肪(トリグリセリド、TG、TAG、グリセリンに3個の脂肪酸が結合した形)です。それを搾り出す搾油の工程。搾っただけの油・粗油には細胞の中で油滴を包んでいた細胞膜の構成分などのリン脂質、リポプロテイン(リン蛋白質)や酵素、繊維質、糖質など粘質物などのガム質、遊離脂肪酸、カロチノイドやクロロフィルなどの色素、匂い、冬季など低温になると固形化するロウ分などが含まれています。これら風味、色調、保存性などの品質を損なう不純物と区分けして、効率的に油脂を取り出しす精油工程の大きく2段階に分かれます。

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江戸時代は、菜種油などの主な用途は灯明・行灯の燃料でした。江戸時代には、長崎から伝わったり、江戸時代初期の伝来した禅の黄檗宗(おうばくしゅう)の普茶料理(ふちゃりょうり)・葛と植物油を多く使った濃厚な料理などで、油を用いた料理が庶民にも普及しました。天麩羅もよく食われるようになったが、やはり日本の食卓にあっては油を多用する料理は脇役でしたから、食用油の需要は少なかったのです。冬季など低温になると固形化するロウ分は、冬季など冷温条件下では植物油にトロミがついたり白く濁ったりします。野菜サラダなどのドレッシングには不適ですが、江戸時代の主要な用途、天麩羅などの揚げ物用途では問題になりません。


それで江戸時代の精油は、菜種油は甕に静置し上澄みをすくう、和紙で濾過する処理がされていました。これで、沈殿するガム質が除かれます。静置期間中に匂いなども抜けます。

綿花の副産物である綿実油は石灰を混ぜ合わせる精製処理がされました。木綿の栽培は、799年にインドから伝来しましたが、約1世紀で栽培が途絶えました。1490年ごろ戦国時代の初期から再び始まり、安土桃山時代には、畿内や三河を中心に盛んに栽培されるようになりました。江戸では綿を用いた衣服が普通に着られるようになりました。木綿の産地では、綿実を搾油しました。

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搾油されたそのままでは赤黒く濁って、「黒油」あるいは「赤油」と呼ばれて、消費が伸びなかったそうです。この色は、ポリフェノールの一種のゴシポールという色素です。抗菌作用や殺虫作用があり、綿の種を護っています。これは動物では、一見正常な動物の急死など心機能の障害、肝臓への影響、精母細胞のアポトーシスを招き殺精子作用などの毒性をしめします

偶然の事故からこれを除く精油法が発見されました。元和年間(1615~1624年)に大坂の搾油業、木津屋三右衛門は、ある夜、綿実油を入れた壷の傍らに、土蔵の上塗り用の石灰を積み重ねておきました。翌朝、油を見ると、色が抜けていた。石灰が崩れて、油の中に溶けていたのです。天の恵みと喜んだ三右衛門は、今度は意図的に石灰を混ぜ合わせ、和紙で漉して透明な綿実油をえる「灰直し」製法を確立した。三右衛門は、他の油屋にもこの方法を教え、皆が石灰を用いることとなった。これを「白油」といいます。できた油は、灯の付き方も前より良く急速に需要を伸ばしていったそうです。

白油が出回り始めてから約250年後に明治維新(1868年)をむかえます。開国後、搾油・精油のさまざまな技術が入ってきます。搾油では、明治20(1877)年頃に丸板や長板を水圧をかけて押付けて搾る機器「搾油機一台に鉄製棚板十五段あり、人毛にて編みたる手袋という布にて原料粉末を包み、板締機にて予め整形したるものを格段に装填加圧するもので、搾油は板状をなす」が輸入され利用されます。それより前に、油圧で下の菜種の入った臼を押し上げる玉締め法(玉搾り)がでてきます。 

こうした搾油工程の変化とそれによる精油工程は、どのように変ったのでしょうか? 続く



搾油の工程、やり方(1)長木(ちょうぎ)式、油搾木(あぶらしめぎ)式 [油脂ー搾油、栄養、コレステロール]

一般的なやり方。
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通常の搾油工程は,原料の搬入→選別(ふるい分け)→圧ぺん(押しつぶす)→クッキング(蒸し煮)→圧搾(一番搾り)→二番搾り・抽出(ノルマルヘキサン・石油から作られる有機溶剤使用)→原油。

圧搾(一番搾り)ででる搾り粕にノルマルヘキサンを加え油を吸い取ることで,残った油分の99%以上を抽出しています。
常温では無色透明で、灯油の様な臭いがする液体です。 MSDS化学物質安全性データシート
68.7℃で沸騰し揮発し易いので、加熱除去される手順です。万が一飲み込んだら「口をすすぐこと。吐かせないこと。医師の診断、手当てを受けること。 」「動物試験ではラットに反復しての吸入または経口ばく露による所見として、末梢神経障害、神経行動学的影響、脛骨神経の軸索変性、後肢脱力、神経伝達速度低下などが記録され、その多くがヒトの症状と共通している。」

次の精製工程では脱ガム(泡立ちの原因となるレシチンを除く。リン酸・シュウ酸使用)→脱酸(遊離酸を中和するため水酸化ナトリウム・苛性ソーダ使用)→脱色(活性化した粘土・活性白土使用)→ろ過(活性白土を除去)→脱臭(高温蒸気または電熱加熱)→クエン酸添加(さっぱり感を出す)→再ろ過→製品(サラダ油)となります。業務用として使う場合は、さらに泡を消すためのシリコーンを添加します。日本の規格では、カセイソーダ、シュウ酸の表示義務はありません。

様々な化学物質、熱を加え、中和や冷却、除去操作を行います。その時の温度や時間によって、トランス脂肪酸ができたり(異性化)、化合結合して高分子化(重合)します。また、残留が起こります。それをコントロールして、安価に搾油・精製しています。

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虹屋が扱っている鹿北製油、米澤製油、平田産業などの搾油法は、これとは違います。

植物油はお寺の精進料理で脂分を補う意味で使われてきました。また灯明の明かりをともすために油はとられました。
1371915147.gifその搾油法は貞観年間(西暦800年代半ば)に山崎離宮八幡宮の神官が発明したといわれる「長木(ちょうぎ)式」圧搾です。

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江戸の初期に油を搾り取る搾油法の技術革新が起こります。それは「矢締め式」「油搾木(あぶらしめぎ)式」です。先ず、下図のような前処理、<干す→炒る①→人力で碓(うす)を踏んで粉末にして何度かふるいにかける②→蒸篭で蒸す>をします。蒸して、水分共存下での加熱処理でタンパク質が凝固し、油分が容易に通過し、搾油歩留まりが向上します。


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その潰し蒸したナタネを臼に入れます。下図
その臼は、搾木(しめぎ)を通した2本の立木(たつぎ)の間にあり、金輪を重ね立桟(たてざん)をはめ、その上に正當石(しょうとういし)を置き、その上から搾木(しめぎ)で菜種に押しています。
搾木と立木の間に矢というクサビを打ち込んで圧力をかけて、油を搾り出します。

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でる搾り粕は、碓で砕き炒り再度絞られます。油垂口(あぶらたれぐち:ナタネ一石からどれくらい油が絞れるかの割合)は、『製油録』(1890年大蔵永常)によると、菜種の歩留りは、土地の良い所で2割5分、土地の悪い所でも、 1割7分から2割。荏胡麻は1割5分から1割9分。胡麻は、1割7、8分から 2割5、6分。いずれの場合も、土地と肥料によって、その歩留りにはかなりの優劣がついていました。大阪がかなり高い技術をもっていて、粕を安く買い取って、さらに3度目絞って商売にしていたそうです。(江戸時代 人づくり風土記 兵庫版 P119、農山漁村文化協会)

「菜種(胡麻)の油と百姓は、絞れば絞るほどいずる物也」
(享保期の勘定奉行神尾春央の言葉とされる)

明暦(1655~1658年)の頃には、長木によるものから、搾木(しめぎ)すっかり切り替わったそうです。搾られた菜種油は、きれいな黄金色で大きな甕に静置し上澄みをすくう精製処理をされました。静置の間にロウ分(固形成分)が沈殿し、アブラナ科の特徴であるからしの様な香りが飛びます。

明和七年(1770年)頃には、攝津国武庫莵原八部三郡(鳴尾・今津・西ノ宮・深江・魚崎・御影・東明・新在家・大石・脇ノ浜・二ツ茶屋・神戸・兵庫)のいわゆる「灘」では、六甲山系の谷水を利用した水車を使って、粉にする水車搾りが盛んになりました。 
人力で碓(うす)を踏んで粉にしていたところを、水車に「同搗(どうづき)」という押しつぶす道具を仕掛けて粉にするので、大いに手間・労働力が省けます。搾った油の品質は変わらないが、人力では5人体制で菜種を一日に2石も搾れば良い方だったが、水車を使えば3石6斗も搾ることができた。採算性の良さで水車に及ぶものはなかったそうです。灘では、菜種油のみならず、水車搾りにより、おびただしい量の綿実油を生産しました。

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明治になり油圧で下の菜種の入った臼を押し上げる玉締め法(玉搾り)がでてきます。 続く

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大豆タンパク質で脂肪肝発症を予防 [油脂ー搾油、栄養、コレステロール]

肝臓の中にバターと同じような脂である中性脂肪が滴のように溜まってくるのを脂肪肝といいます。放置すると肝硬変や肝臓がんになりかねないばかりか、糖尿病の発症リスクの上昇、動脈硬化の促進といった危険性もあります。また、自覚症状がないので気づきにくいという特徴もあります。肝臓の組織を顕微鏡で見たときに、全体の30%以上の面積を占めていれば、脂肪肝と診断されます。近年急増中で、日本人は成人の3人に1人がなっているとも言われています。



原因は「生活習慣」特にお酒の飲みすぎなど食生活。


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非アルコール性脂肪肝は砂糖過剰摂取や脂肪を多く含む食事の摂取によって発症し、肥満と関連の強い病気ですが、標準体重でも発症している場合があり、その場合は将来的にメタボリックシンドロームを発症する可能性が高いことが指摘されています。

国立健康・栄養研究所は、砂糖過剰摂取によって発症する脂肪肝は脂肪酸合成に働く遺伝子発現量が増加するために発症すること、高脂肪食摂取によって発症する脂肪肝は脂肪酸取り込みや脂肪滴保護に働く遺伝子発現量が増加するために発症することを研究でつきとました。

そしてマウス食餌試験で、大豆タンパク質中に2割ほど含まれているβ-コングリシニンの脂肪肝発症予防効果について調べました。β-コングリシニン投与群は、砂糖過剰摂取させた場合も高脂肪食摂取させた場合も脂肪肝を発症しませんでした。先程の遺伝子発現量を増やすトリガー・引き金役の活性化が抑制されていました。


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「大豆タンパク質の一種であるβ-コングリシニンは、非アルコール性脂肪肝発症予防に大変有効な食品成分であることがわかりました。」(主要栄養素研究室 山﨑 聖美)





摂取過剰なリノール脂肪酸、不足なDHA脂肪酸 co-№07 [油脂ー搾油、栄養、コレステロール]

2010年12月に小針店で配布した畑の便りの再録です。



摂取過剰なリノール脂肪酸、不足なDHA脂肪酸


 日本脂質栄養学会は“高リノール酸植物油の摂取を増やし動物性脂肪とコレステロールの摂取を減らす”という従来の栄養指導からの転換”動脈硬化性疾患およびその他の炎症性疾患を予防するためには、n‐6系(エヌ・マイナス・ロク・ケイ、ω6オメガ・ロク系)脂肪酸(リノール酸など)の摂取量を減らしω3系(n‐3系)脂肪酸の摂取を増やす”ことを勧めています。




 脂質は、グリセリンに脂肪酸が付いた構造です。脂肪酸は炭素と水素と酸素原子から成りますが、炭素の結合に不飽和(二重)結合がないと常温で固まりやすい飽和脂肪酸と、不飽和結合があると液体の不飽和脂肪酸に分かれます。さらに動物は体内で合成できる不飽和(二重)結合が1個の一価不飽和脂肪酸と合成できない2個以上の不飽和(二重)結合がある多価不飽和脂肪酸に分けられます。

多価不飽和脂肪酸が不足すると、皮膚炎などが起るので、食事で摂る必要がある“必須脂肪酸”とされました。その後、分析技術の発展で生体内での挙動が、一分子単位でわかるようになりました。そうしたら多価不飽和脂肪酸のうちn-6系のものは炎症反応を促進する生理活性物質の原料となっている。一方、n‐3系は細胞核内の遺伝子に働いたり、生理活性物質に変換され抗炎症作用を持つことが分かりました。
脂質は、身体のエネルギー源であり、身体を構成する材料であるという従来知られていた機能だけでなく、ホルモンのような調整機能としての働き「栄養シグナル」という新たな機能が見えてきました。

高血圧や糖尿病は、全身の炎症反応がベースになっています。心筋梗塞や狭心症なども、血管の炎症によって生じる血管壁にこびりつくコレステロール・脂肪の沈着、コブの様にせり出したアテローム・粥状隆起が問題です。

総コレステロール値が250 mg/dL 以上の日本人9, 326 人に1. 8 g/日のn‐3系のEPAの製剤を投与すると、投与しないコントロール群(9, 319 人)と比べて、冠動脈疾患の1次(初発)、2次(再発)が合わせて5年間で19% の減少しています(JELIS研究)。もっと若年から積極的に摂っていたら・・
昔の採集狩猟生活ではn-6/n-3比は2~3と推定されてます。現代はn-6系の主要な源である精製植物油が食事の中に多く取り入れられ、同時に、魚、野生の鳥獣、ナッツ類、種子類、緑色野菜、葉菜などn-3系を多く含む食品の消費量が減少しました。その結果、現代の北米ではn-6/n-3比が15程度になっています。それでは、日本の現状はどうなっているのでしょうか。どのような改善点があるのでしょうか?厚労省の日本人の食事摂取基準(2010年版)で見てみます。

厚生労働省:「日本人の食事摂取基準」(2010年版)






リノール酸は摂取過剰の兆候
 極端な低脂質食は脂溶性ビタミン(とくにビタミンA やビタミンE)の吸収を悪くし、食品中の脂質含量とたんぱく質含量が正比例するため、十分なたんぱく質の摂取が難しくなる可能性もある。脂質はエネルギー密度がもっとも高いので、摂取量が少ないとエネルギー摂取不足になりやすい、多いと肥満などから、脂質全体の摂取量は摂取エネルギーの20~30%が望ましいとしています。日本人の平均的食生活では、その範囲におさまっています。個別には飽和脂肪酸や一価不飽和脂肪酸も同様です。
 多価不飽和脂肪酸はn-6/n-3比は、4~5程度ですが、リノール酸のn-6系には過剰摂取?、 DHAなど魚介類からのn-3系に不足という問題があります。


日本人が摂取するn-6系脂肪酸の98% はリノール酸です。n‐6系の摂取下限量、いわば最低必要量はデータが不足しているとして設定されません。今の日本では、n‐6系の欠乏症が報告されていないので、平均的摂取量 10g/日が目安量とされています。逆に上限量は、リノール酸摂取量が多いほど喘息症状が増加するなどのデータから危険性を考慮して、総エネルギー摂取量の10% 、1日の必要エネルギー量を2300キロカロリーとすると26g相当、としています。これより低い10gを上限とするべきという意見もあります。摂取するn-6系の98% を占める”高リノール酸植物油の摂取を増やす”という従来の栄養指導は、必要性がなくなり、むしろ過剰摂取の害を招く時代に合わないものになっています。




n‐3系は不足、特にDHA、EPA
日本のn‐3系の摂取は、食用調理油由来のα-リノレン酸が約60%、魚介類からのDHA、EPA、DPAが約40%です。食事摂取基準では、n‐3系の独自の生理活性作用を考慮してn‐3系独自の摂取基準を定めています。
α-リノレン酸は食用調理油からの摂取が多い脂肪酸ですが、多摂取により総死亡率が下がる。心筋梗塞なども多く摂るほど発症率が下がる。リスクは、男性の前立腺がんの罹患リスクを高める懸念を指摘して過剰摂取に注意が必要とした上で、現在の平均的摂取量、50%タイル値(少ない人から順に並べていって100番中50番目の価・中央値)を下限量としています。つまり、半数の人では不足しています。

魚介類からのDHA、EPA、DPAの独自の生理活性作用では、「冠動脈疾患(心筋梗塞、心不全など)、脳梗塞、加齢黄斑変性症(視力低下をきたす高齢者に多くみられる疾患)に対して予防効果を示す可能性が高い。
アレルギー性鼻炎や骨密度、高齢者における認知に関してもよい効果があるかもしれない。
がんについての効果は明らかでない。」と評価してます。

そして、日本人では、EPA +DHAを0. 9g/日摂取している人で、心筋梗塞罹患の減少が認められていることから、18歳以上では1g/日以上のEPA +DHA摂取量(魚で約90 g/日以上)を下限量、最低必要量に設定しています。上限量は、データが十分でないとして設定していません。そして、日本の大半の人は下限量以下なのです。もっと、摂る必要があります。


平成18年17年の国民健康・栄養調査のデータから、EPA+DHA摂取量の50%タイル値(少ない人から順に並べていって100番中50番目の価・中央値)は、18歳以上では男女とも下限摂取量の1g/日以下です。
またDHA、EPA、DPAの50 %タイル値は平均値の約半分だそうです。18‐29歳の男女では、50%タイル値が約0.2gで平均値が0.4gですから、ほとんどの人が下限量以下です。
30‐49歳の男は50%タイル値が約0.3g、女は約0.2gですから、この年齢層もほとんどの人が下限量以下。
50‐69歳では50%タイル値は男が約0.7g、女が約0.6で3人に2人位が下限以下。
70歳以上では50%タイル値は男が約0.8g、女が約0.6gで2人に一人強は下限以下。妊婦・授乳中の人では、0.17gですから、胎児や乳児でも不足だろうと見られます。
 このように、50歳以上の魚好きの人以外は、下限以下・絶対的不足でもっと魚などを食べた方が良いのです。

α-リノレン酸は、体内で一部EPA やDHA に変換されます。ただ「EPA+DHA 摂取が少ない場合、α-リノレン酸摂取量を増加すれば問題ないのか」という問いには、答えるデータがないとしています。リノール酸の多量摂取により、α-リノレン酸からのEPA やDHA の生成が抑制される可能性があるなど、実際の疫学データが不足している現状では、判断できません。それで、1g/日以上のEPA +DHA摂取量(魚で約90 g/日以上)を心掛けるべきと思います。
日本脂質栄養学会の提言は、脂肪摂取の方向としては妥当といえます。EPA +DHAが豊富なのは、魚やクジラ肉です。その確保策を機会を見て調べてみます


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炎症を起こす脂肪酸、治める脂肪酸 co-№06 [油脂ー搾油、栄養、コレステロール]

2010年11月に小針店で配布した畑の便りの再録です。



炎症を起こす脂肪酸、治める脂肪酸


  血管壁に傷が付いたりして炎症が起きると、からだはそれを治そうとします。そのとき、LDL-コレステロールが修理に動員され血管壁に入り込みます。そのうちで過酸化脂質となったものを平滑筋細胞とマクロファージが取り込み、泡沫細胞に変化して死んでしまいます。それらが溜まって、血管壁にこびりつく脂肪の沈着、血管にコブの様にせり出したアテローム・粥状隆起をつくります。
それで血液の流れが悪くなり動脈硬化や心筋梗塞を起こす。ですからそうした血管壁の炎症が多ければ、血管のアテローム・粥状隆起が増え、大きくてて、動脈硬化や心筋梗塞が多いと考えられます。




 血管の炎症は高血圧発症の前兆
糖尿病と高血圧は、高コレステロールよりも心筋梗塞の発症の危険因子の危険度が大きい。糖尿病は2.3倍、高血圧は2.6倍、両者が重なっていると5.9倍です。
高血圧では、血管の炎症が高血圧の発症に先行しており、血管の炎症を示す値の上昇は「高血圧発症の危険信号である」と言われています。ギリシャの研究では、高血圧予備域例では正常血圧例に比べ、炎症で生じ炎症マーカーであるC反応性タンパク・CRPの血中濃度が31%増加しています。フランスでの疫学研究では、炎症マーカーCRPが1mg/Lの増加していると、高血圧の新規発症リスクは18%増加しています。日本人で高血圧を予測させる最低値・カットオフ値は、高感度・hsCRP濃度で約0.1mg/Lだそうです。(自治医科大が主導している循環器疾患コホート研究・JMS-Cohort Studyの解析結果)
英国での研究では、JAM-1という脳内のタンパクが脳の血管に炎症を引き起こし、それで脳の血流が妨げられ減る、つまり脳への酸素供給が減る。これを補うために、血圧を上げて血を脳に巡らそうとして高血圧が発症するという結果が出ています。この知見は、従来の治療で高血圧の改善がみられない患者に、「血管の炎症を抑える薬品を投与し脳内の血流を増大させる(血圧を下げる)可能性が視野に入る」と研究者は評価しています。
臨床研究では高血圧の進展とともに炎症マーカーCRP の有意な増加が認めらています。つまり、血管の炎症が、脳などの臓器での酸素不足を生じさせ、その補う血流増加のための高血圧という反応を引き出し、一方炎症を治すためにLDL-コレステロールが血管壁に入り込み修理が度重なると、血管のアテローム・粥状隆起が増え、大きくなって動脈硬化、動脈硬化がさらに血圧を上げる、上がった血圧が血管を傷つけるという悪循環が廻りだす。ですから、高血圧と動脈硬化を発症しない一次予防では、血管の炎症を抑える事が肝心といえます。




2型糖尿病、炎症とインスリン抵抗性が互いに強め合う
糖尿病患者の95%は2型で慢性の炎症を患いそれが様々な合併症を生んでいます。2型糖尿病では免疫応答が過剰で体内に炎症性の化学物質が充満しています。そして1990年代初めにハーバード大学の研究チームが、免疫細胞から炎症に伴い分泌される化学物質の一つがインスリン抵抗性の発現と関係していることを突き止めました。TNF-α(ティー・エヌ・エフ・アルファ・腫瘍壊死因子α)という生理活性物質です。TNF-αは、病原菌に感染された細胞やガン化した細胞を自死・アポトーシスに導き、拡大を防ぎ、局所にとどめる働きをします。このTNF-αを作れないラットを肥満に育てても糖尿病にはならない、また2型糖尿病のラットの脂肪細胞ではTNF-αの濃度が高いことを発見しました。

 その後、TNF-α、より一般的には炎症によって、インスリンのシグナル伝達経路・働きを抑制する数種類のタンパク質の発現が活性化して増える結果、人体のインスリンに対する応答が鈍り、インスリン抵抗性を生じやすくなることがわかりました。脂肪細胞も産出しますが、肥満し大型(径>100μm)になると、このTNF-α産出が約2.5倍ふえてます。

 またインスリン抵抗性の細胞では、別の炎症性生理活性物質の産出が増える事が分かっています。炎症とインスリン抵抗性が互いにどんどん強め合っているのです。糖尿病でも、炎症を抑える事が一次予防で肝心といえます。




炎症性の生理活性物質は脂肪酸が原料
この炎症性の生理活性物質の産出と多価不飽和脂肪酸・PUFAが関連しています。多価不飽和脂肪酸はn‐6系(エヌ・マイナス・ロク・ケイ、ω6オメガ・ロク)系とn‐3系(ω3系)に大別されます。摂取するn-6/n-3比が高くなるにつれて、炎症性の生理活性物質が増加しています。
 体の脂質は、脂身を除くと細胞を形作る細胞膜に含まれています。私たちの体に病原菌などが感染してしまったとき、病原菌が感染した周囲の細胞から、病原菌を退治してくれる白血球を呼び寄せるなどのシグナル役の生理活性物質が、細胞膜の脂質から作られます。これらの物質は炎症、発熱や痛みを生じさせる作用もあります。この細胞膜の脂質から生合成される生理活性物質で、集まった白血球からTNF-αなどが出るわけです。




n‐6系はアクセル、n‐3系はブレーキ
炎症という点では、n-6系多価不飽和脂肪酸を原料にした生理活性物資は炎症を起こす力が強く、n-3系からのものは弱かったり、なかったりします。n-3系はブレーキ役です。
そして、その過程には共通の酵素が使われ、この二種の生成は競合しています。また、この2種の多価不飽和脂肪酸は、人体で生合成ができない必須脂肪酸で、相互に変換することもできません。つまりn-6系を多く摂りn‐3系が少なくければ、体内でも高いn-6/n-3の比率になり、炎症を起こす力が強い生理活性物質が多く合成され、ブレーキがよく効いていない、炎症が強く起りやすく治まり難くい状況になります。
日本人が摂取するn-6系の98% はリノール酸です。その摂取量が多い、n-6/n-3比が高い子供は、気管支の炎症である喘息のリスクが高いのです。6~15 歳を対象とした研究で、リノール酸摂取量が14. 5 g/日のグループは5. 7 g/日に比べて、喘息症状(喘鳴)が1. 2 倍増加しています。
n-6/n-3比が15程度の欧米では、4程度の日本にくらべ心筋梗塞が多い、同じ総コレステロール値で日本の約4倍多いのです。
逆に、n‐3系の摂取が多いとどうでしょうか。グリーンランド先住民は、n-6の約2倍摂取しています。彼らでは、血小板凝集能が著しく低く、出血時間が延長しています。他にも過酸化脂質になりやすいのでその悪影響が懸念されています。



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