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反射と電界 電磁波めも(2) [放射能汚染]

γ線・ガンマ線は電磁波

電磁波の反射

なみの反射
音、音波の反射は日常的に体験します。窓閉めれば、外の騒音は、窓のガラスで大半は反射してしまいます。一部が窓ガラスの震えと成ります。そのガラスの震えが内側の空気を振動させて音に成ったりします。また窓の隙間から、音が入り込んだりします。
 カーテンを引くと音の大半はカーテンの内側の空気を振動させることはありません。カーテンの布地が振動を吸収している。音・音波は空気の振動です。空気の密度の振動が伝播するもの(疎密波)であり、振動が波の進行方向に対して平行な縦波ですから、振動が空気から窓ガラスやカーテンに伝わる、その伝わり方が物によって違うことは直感的にわかります。隙間が有れば、一部が伝わってくることもわかります。
  電磁波・光は、物がない真空も伝わっています。そして音・音波と同様に、跳ね返される反射、隙間から回り込んで入り込む回析、中に浸透して、一部が吸収されます。Why?How to?

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 電磁波( electromagnetic wave)は、空間の電場と磁場の変化によって形成され、振動が波の進行方向に対して垂直である横波です。電気現象を司る電場(電界)と磁気現象を司る磁場(磁界)の振動方向は互いに垂直に交わり、電磁波の進行方向もまた電磁場の振動方向に直交しています。

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 電場と物質
乾燥時、手指からパチッと静電気の火花が飛びます。静電気も電場を作ります。電磁波と違い時間的に強さが波打ちません。静電場です。
 物質は、分子、原子から成ります。原子では、真ん中にある原子核が陽子でプラスの電荷をもち、周囲にマイナスの電荷の電子があってこれを打ち消して、±ゼロになっています。身の回りの物質は、様々な化合物ですd1fig01-dennsi.jpgが、電気的には全体としては±ゼロになっています。静電場に曝されると、その電気的力を受けます。電子はプラスの電場ではそちらに引かれ、マイナスの電場では反発します。電場を打ち消す方向に動きます。電子が移動して、物質内部にマイナスの強い部分(極)とプラスの強い部分(極)が顕れます。
 この電場で極が顕れることを分極と言いますが、大きく4種類の形があります。一つは、電子分極。原子核の周りに電子は雲の様に分布しています。電子は原子核に束縛されていますから、自由に移動することはできませんが、電場がかかるとごく限られた範囲内で、ちょっとだけ偏ります。電子の分布にズレが生じて、プラス/マイナスの偏りが発生します。これが電子分極です。

d1fig01-ionn.jpg 一つはイオン分極。物質中の、原子間、イオン間の距離が電場がかかると変わるもの。塩化ナトリウム(食塩)の中ではプラスのナトリウムイオンとマイナスの塩素イオンが規則正しく配列しています。ここに電場がかかると、ナトリウムイオンはほんの少しマイナス側へ、また塩素イオンはプラス側へ動きます。その結果、プラス電荷の重心とマイナス電荷の重心がズレで極が顕れます。
 よく混ざっていない、不均質な物質では、その境目に電荷が溜まる、電子が溜まったような状態になり分極が顕れることがあります。これを界面分極という。


 一つは配向分極。分子の中には、元々電荷の偏りを持っているものがある。例えば水分

d1fig01-haikou.jpg子では、電子を引っ張る力が強い酸素原子が少しマイナスに、電子を出しやすい水素原子が少しプラスになっています。このような分子は、電場がかかると分子全体がくるりと回って電場の方向に向こうとする性質を持っています。また、初めは電荷が偏っていなくても、電場に中に置かれると特定の方向に分極を起こす分子もあります。この特定の方向が電場の方向とズレている場合、やはり分子自体がくるりと回って電場の方向に向き直ろうとします。これが配向分極です。

この項目は続く 電子レンジの加熱の原理

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 水分子 H₂O

タグ:電磁波

γ線・ガンマ線は電磁波  電磁波めも(1) [放射能汚染]

γ線・ガンマ線は電磁波
電磁波は、波長で10km ~ 10-6nm の波である。長い方から電波、光、X線、γ 線という。
ナノメートル(nanometre、記号nm)は、国際単位系の長さの単位。10-9メートル=10億分の1メートル。 1 nm = 0.001 µm (マイクロメートル)= 0.000001 mm、 1 nm =1000pm(ピコメートル)= 10 Å (オングストローム) 、1pm=1兆分の1メートル

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電波には低周波、超長波、長波、中波、短波、超短波、マイクロ波がある。電波がテレビ・ラジオなどの無線通信に用いられるのは、進行方向に障害物があっても電波が伝わりやすいという性質による。

光は数mm から数nm の範囲の波を指し、波長の順に赤外光、可視光、紫外光と呼ぶ。

X線は波長が1nm 以下の波、γ 線はさらに短い10pm 以下の波を指すが、厳密にはその発生メカニズムで区別する。X線撮像(レントゲン写真やX線CT)に用いられる。X線、γ 線の物質を透過しやすい性質による。

このように、原子・分子・高分子など、ある大きさを持った物質に、ある波長の波を当てることによって生じる物質と波との相互作用は、大きく、反射・透過・吸収の3 通りである。見方を変えると、①散乱・回折・干渉・屈折などの波としての応答と、②熱・化学反応・イオン化・光電効果など、物質が波のエネルギーを吸収して生じる応答、の2つに分けられる。

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タグ:光化学

新潟県の東電核災害での汚染状態 2014年 (加筆④) [放射能汚染]

新潟県の東電核災害による放射能汚染を検討評価する会議がありました。「新潟県放射性物質の循環に関する実態調査検討委員会」です。事務局は防災局放射能対策課です。2015年2月6日に福島第一原子力発電所事故に伴う新潟県内の放射線等の監視結果(2014年版)を検討評価しました。
監視結果(2014年版)は県のサイトでいずれ公開されるでしょうが、
山菜やツキノワグマなどの野生動物の肉から検出されています。飲み水の原水となる河川水からは検出されず。浄水場の汚泥からは検出、水道水からは検出されず。浄水場が水を浄化する役割を果たしているとわかります。
 下水処理場の汚泥からは放射性セシウムは検出されず。放射性ヨウ素が検出されています。医療で用いる、甲状腺癌の焼殺に用いられたものが検出されたのだと思われます。含水率80-85%の汚泥では8月、9月に新潟市、長岡市、旧新津市で検出されてます。
 ごみの焼却灰(飛灰)では、2011年6月29日から7月2日の調査では糸魚川市除いて全ての調査施設で検出されたものが、2014年では不検出は16施設になっています。ただし、南魚沼市・310Bq/kg、魚沼・59、十日町市・79とブルームが群馬を経て到達した地域、阿賀町・80と福島と接する地域で高くなっています。2011年に降下したもの、附着した物でしょうが、再浮遊して汚染しているのでしょうか?
 川の泥や海底の土の汚染は分布や総量では大きく増えも減ってもしていません。新たな大量の流入はおきてないと見られます。ただし、物理的には崩壊で減るのですから、その減少とバランスするだけの流入はあるとみられます。魚では、新潟市のフナで2011年の半分量ですが検出されています。海産物は検出されいません。捕獲海域がわかる海産物は海底土の汚染が見られない海域の物で調べていますから、当然です。フナから類推すると、2011年の半分量程度ではないでしょうか。
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 委員長の今泉・新潟大学教授から湖沼の湖底土の放射性セシウムについて発表がありました。新潟は鳥屋野潟と佐潟、福島県は猪苗代湖や五色沼など8地点です。湖沼の泥のセシウム134の調査結果が示されました。それでは、佐潟では検出されず、鳥屋野潟では2013年9月に約20Bq/kg、2914年5月10月に数Bq/kgでした。福島県側はいずれも2014年10月でも数十Bq/kg以上でした。

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 裏磐梯の秋元湖、五色沼は、2013年5月、10月、2014年5月には250Bq/kg以上でしたが、2014年10月には200程度に下がっています。福島市西部の大笹生にある自然湧水の十六沼は、2013年10月は約60、2014年5月には約40程度です。水源の自然湧水は、今泉教授によれば「湧水の滞留期間は2年ほど」です。東電核災害の発災は2011年3月です。その頃に地下に浸透した水は、2013年の春頃から湧き出る勘定です。湧水がセシウムを運んだとしたら、単調な増加を描くとみられます。しかし逆に2014年5月には1/3ほど低くなっています。湧水がセシウムを運び込んだの主犯ではなく、周囲の雨水で運び込まれた近傍の周辺地帯の物でしょう。ところが、2014年10月には300を超えています。いったい何があったのでしょうか。今泉教授の「湧水の滞留期間は2年ほど」は十六沼には当て嵌まらず、3年半ほどとすると説明が可能です。
 飯館村の北部を東流する真野川をせき止めた多目的ダムのダム湖の「はやま湖」は、2013年5月は約380、10月は約80、2014年5月は約380となっています。積雪の融水が春先にセシウムを運び込み、農業などで使われる水と共に流出している様が見られます。そして2014年10月には下がりますが、約280と下がり幅が異様に小さくなっています。これも湧水の滞留期間は3年ほどと仮定すると、水使用による流出減少に、湧水による運び込み増加が重なったとして説明が可能です。
 裏磐梯の秋元湖、五色沼は、1888年(明治21年)の磐梯山噴火の時の中央部の山腹崩壊(山体崩壊)、さらに泥流も発生して大倉川や中津川等が堰き止められて形成された堰止湖であり、湧水の滞留期間がはるかに短いと考えられます。融水による運び込み増加が調査開始時点では既に起こっていたと考えられます。

 今泉教授は「セシウムCsの濃度は自然崩壊による減少と除染による影響を受け、減少している。」と結論しています。崩壊による減少は誰もが否定できません。しかし除染は人家近隣で行われています。秋元湖など湖沼の周辺では、行われていません。湖底土のセシウムCsの濃度は、この影響を受けるとは考えられず、測定値もそれを示しています。特に十六沼の推移はそれを示しています。「除染による影響を受け、減少」は飛躍しています。あたかも、結論が先にあったような論理立てです。 
森からの放出 
続いて、田上恵子委員(放射線医学総合研究所、放射線防護研究センター)から「森林閉鎖系における放射性物質の循環」との題で報告講演がありました。冒頭、「放射性物質(ここで問題になるのは放射性セシウム)については、その動きから『閉鎖的』つまり、森林の外へはなかなか出てこない、といえます(1年間あたり、降下したセシウム全量の1%未満)。」と、森林は、セシウムを貯蔵保持する、外部への流出拡散は少ないという趣旨の発言がありました。

人手が入らない自然な状態なら、セシウム全量の1%未満なのかも知れません。今泉教授がいうように降下したセシウムの33%がセシウム134、66%がセシウム137ならば、物理的崩壊で2年後にセシウム134は半減しますが137は殆ど減りませんから、森林に蓄えられる総量は降下時の83%ほどに減ります、流出量も初年の17%減ります。4年後には72%ほどになります。6年後には65%ほどになりますが、そのあとは年に0.6%程の流出拡散が続きます。東電核災害は2011年3月ですから、2007年までは流出拡散量は、急激に減り続けます。しかし、その後は前年比で1%ほどしか減らなくなります。ダラダラと流出拡散が続くことになります。
 我々とって問題な出て来る量、流出拡散量の絶対量・値でみると降下したセシウムが1万Bqなら1%は100Bqですが、1000万Bqなら10万Bqです。2007年頃には、降下したセシウムが1万Bqなら65Bq前後、1000万Bqなら6万5千Bq前後になって、その後もほとんど減らないということになります。

森林内部、生態系でのセシウムの循環。
その後に、タケノコ、樹木の山菜、草本の山菜、野生動物のセシウム含有量の推移を示しました。
これで森林生態系でのセシウムの循環や挙動を示したということなのでしょう。

 
竹林、タケノコ
 竹林は林野地に分類されます。そしてタケノコは栽培されています。勝手に自生してはいません。タケノコ栽培は林業の「特用林産」ではなく「耕種農業」として行政的には農業扱いです。

 タケノコは収穫の早い順にモウソウダケ孟宗竹、ハチク淡竹、マダケ真竹があります。地方によっては、その他にも食用にしてますが、肉厚で歯ごたえが良く、用途が広く、おいしく、早い時期から食べられるのは断然モウソウダケです。孟宗竹は江戸中期にも中国から薩摩にもたらされたものです。タケは地下茎の断片的な部分から貯蔵された栄養だけで小さなタケがはえ、これが元になって新しい地下茎と若竹を増やし、10年もたたぬうちに竹林になります。この性質から、瞬く間に各地にモウソウダケの竹林が造成されました。

 竹は、樹高が十数メートルしかない里山や二次林などには侵入すると、ひと夏の内に既存の樹木の上に葉を広げることができます。竹の陰になった既存の樹木は衰えていき、そのうちに竹林に取って代わられます。そして自然の力でその土地の気候にあった自然性の高い、多くの生物種が生息する林相に向かって推移していこうとする生態遷移を完全に止めてしまい、遷移の方向とは逆行する竹林という単純な林相を作って長期に安定してしまいます。
 竹林になってそのまま放置されると、竹が密になります。竹の植生密度と発筍量は反比例し、竹が細くなります。竹林は放置すると細いタケが密生する文字通りの竹薮になり、林内は暗くなって中に生育できる植物種は限られてしまい、生物の多様性は極端に低下します。眼の高さの太さで9センチ程度、節間中央の周囲が26から38センチの竹が10a一反で600~700本が竹材用、より疎で竹と竹の間に畳が敷ける位離れて200~300本が竹の子用の竹林です。
 日本の竹林は、竹材とタケノコを目的に農家の近くや里山丘陵地に造成された竹林です。竹材は農業用資材、日用のさまざまの器具類、家具や建築用材などで、タケノコはもちろん食用です。竹の本数を調整したり施肥をするような栽培された竹林は、日本、中国、台湾のほかは、あまり見られません。
 竹には形成層がありません。樹木には形成層が毎年肥大し年輪ができ成長します。それがないので太ったり伸びたりの成長は、1年でおしまいです。竹は生えた年内に自分の体を完成させ、翌年からは同化作用を営んで、作り上げた養分を地下茎に蓄え、タケノコや新たな地下茎の生長へ回します。孟宗竹の地下茎は大部分は地表に近い深さ20センチ以内にあります。タケノコの発生は、親の竹が3~4年目がピークです。竹材としても3~4年で成熟し、以降は硬くなり価値が落ちます。このため1本の竹の寿命は15年程度ですが、出てから5年目、6年目で竹は伐採します。
 タケノコは無施肥でも10a当り200~300kgの収穫があります。しかし肥料を施せば、多く取れます。10a当りタケノコ100kg増産するには肥料成分量はチッソ2.7kg、リンサン1.2kg、カリ1.7kg、ケイサン2.1kgとされています。また有機質の腐植が減少したり、土壌の物理、化学性を悪化するとタケノコの量質とも落ちますから、有機質肥料は必らず併用されます。
 孟宗竹の地下茎は大部分は地表に近い深さ20センチ以内にあります。タケノコは日が当たる乾燥して味が落ちますから、食用のタケノコの多くの長さが地面下にある20センチ程度なのです。逆に、京都などでは、夏以降に、敷き藁、保水力のある赤土など客土を3~5センチ重ねてフカフカの布団をかけた様にします。敷き藁が腐れば有機肥料ですし、地下茎は上に乗った敷き藁や客土の分だけ深いところから出てきて大きく、軟らかく、美味しいタケノコが収穫できます。
 田上恵子委員(放射線医学総合研究所、放射線防護研究センター)は、こうした事をご存じでは無いようです。資料には「タケノコはほとんどが民家の近くで採取される。」と親竹の伐採など人手が入り栽培され収穫ていることを知らない記述をしています。またセシウムの溜まり場になる「落ち葉の吹き溜まりになるような谷地はあまりない。」としていますが、大きく、軟らかく、美味しいタケノコを収穫するには落ち葉を重ねてやります。
 私は、何のためにタケノコを持ち出したのか、判りませんでした。森林は、セシウムを貯蔵保持する、外部への流出拡散は少ない事を示すには不適切な例だと思います。竹林で考えると、伐採される親竹でも、そこに蓄積されるセシウムが林外に持ち出されます。親竹は5~6年で伐採されます。それで林外に持ち出される量は如何ほどでしょうか。
 また、タケノコはどのような形態で測定されるのでしょうか。泥の付いた外皮を外して、茹でると成分が水に出るので生のままで測るのでしょうか。それでは、食べる部分の汚染量がわかりません。また地下20㎝位に地下茎があるのですから、その付近の成分を吸収しています。資料には深さ5㎝までに比べ、15から20㎝の土壌のセシウム量は50分の一から100分の一程度とあります。ところが、汚染量は深さ5㎝までに根を張るフキノトウなどの草本の山菜より高いのです。
 私は、何のためにタケノコの測定値を持ち出したのか、判りませんでした。
野生キノコもそうです。

キノコは学問的には糸状菌のつくる子実体の比較的大きなものです。子実体は菌の胞子を散布するためのものです。糸状菌は光合成によって養分を作る能力はなく従属栄養で暮らします。動植物の遺骸や落ち葉、倒木などを栄養源とする腐生性の腐朽菌、菌根菌など腐朽菌と植物の生きた根が必要な菌、冬虫夏草菌など昆虫類に寄生する菌等に分かれます。

 共生が必要な菌は病気を起こす「寄生菌」と植物と利益、有機物や水分を分かち合う「共生菌」(菌根菌・VA菌)です。我々が日常的に食べるキノコ、シイタケやナメコなど栽培されているキノコは、「腐生菌」です。マツタケなど菌根菌のキノコは、植物の生きた根が必要ですから栽培は困難です。森林の地上に発生するキノコは、採取キノコの多くが菌根菌です。
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 根の先端に菌類がつくる「菌根」からは菌糸(外生菌糸)が伸びて水を吸収し、根を通じて植物に送ります。菌糸は、酵素を外部に出して養分を分解し、植物に送るし、有機酸を出して鉱物を溶かし、ミネラル分を植物に送ります。逆に、植物から光合成でつくられた栄養分などを得ます。植物から100mも離れた地点でキノコが見つかり、そこまで菌糸が延びている例が発見されています。セシウム吸収の点では、腐生菌のキノコに比べ菌根菌のキノコは植物(樹木)との関係、ワンクッションあります。腐生菌よりも広い面積から九州もしています。この二つを混ぜて扱うと間違えてしまいます。

 田上恵子委員(放射線医学総合研究所、放射線防護研究センター)は、森林から採取される野生キノコと一緒に十把一絡げ(じっぱひとからげ)にしています。地下の菌糸からキノコが生える図と共に「まれにスケールオーバーする場合もある←元になる落葉等を分解中」と記してあります。森林の地上に発生するキノコは、採取キノコの多くは菌根菌です。セシウム吸収の点では、菌根菌のキノコは植物(樹木)とワンクッションあります。スケールオーバーする場合、どちらの種類なのか、腐生菌か菌根菌のキノコかは大きな問題です。キノコと言ったらシイタケ・ナメコのように枯れ木・倒木を腐れせて分解して養分とするキノコしか思い浮かばない町の人を相手にしているから手を抜いたわけでもないでしょうから、論議の道筋が粗雑です。
 タケノコといい野生キノコといい田上恵子委員の論は、道筋が良く見えないものでした。




γ線より波長がはるかに長い=低エネルギーの可視光の青色の光を当てると昆虫が死ぬ 放射線被曝と生命の進化(断章) 2014/12 [放射能汚染]

放射線のγ線は波長の極短い、光です。γ線ほど短くない紫外線は有害。可視光線は無害だと考えれています。しかし「可視光の青色の光を当てると昆虫が死ぬことを発見した。新たな害虫防除技術の開発が期待できる。」このように東北大学が2014年12月10日に広報しました。
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/2014/12/press20141209-02.html
それによると紫外線の中でも波長が短いUVCやUVBは生物に対して強い毒性をもつことが知られています。しかし、比較的複雑な動物に対しては、紫外線の中でも長波長の紫外線(UVA)でも致死させるほどの強い毒性は知られていません。ヒトなど哺乳動物の網膜に短波長可視光(青色光、400〜500nm)による損傷、加齢黄斑症など傷害は研究解明されているが、致死させるほどの強い毒性は知られていません。
 それで、紫外線よりも波長の長い可視光が昆虫のような動物に対して致死効果があるとは考えられていませんでした。東北大学大学院農学研究科の堀雅敏准教授のグループの研究で、ある種の昆虫では、紫外線よりも青色光のほうが強い殺虫効果が得られること、また、昆虫の種により効果的な光の波長が異なることも明らかになりました。

●ショウジョウバエで440nmと467nmの波長が高い効果を示し、467nmの光は卵、幼虫、蛹さなぎ、成虫に対しても殺虫効果を顕し、たとえばさなぎは羽化できずに死亡した。(光の強さは直射日光に含まれる青色光の 3 分の 1 程度)
●蚊(チカイエカ)の蛹、卵では効果の高い波長は 417nm の 1 つだけで、また、直射日光に含まれる青色光の 1.5 倍程度の光の強さを必要とした。
●小麦粉などの大害虫であるヒラタコクヌストモドキの蛹は直射日光の 5 分の 1 から 4 分の 1 程度の光の強さで、全ての蛹が死亡しました。
東北大学は「本研究成果は青色光を当てるだけで殺虫できる新たな技術の開発につながるだけでなく、可視光の生体への影響を明らかにする上でも役立つと考えられます。」としています。
この研究は農林水産省委託研究プロジェクト「生物の光応答メカニズムの解明と省エネルギー、コスト削減技術の開発」および日本学術振興会科学研究費補助金によって賄われました。
研究グループの一般向け発表
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/tohokuuniv-press_20141209_02web.pdf
2014 年12月9日付、英国Nature Publishing Groupのオンライン科学雑誌「Scientific Reports」に掲載された英語論文
http://www.nature.com/srep/2014/141209/srep07383/full/srep07383.html
堀雅敏准教授のグループが考える殺虫メカニズム
昆虫の種により有効波長が異なることから、その殺虫効果はヒトの目に対する傷害メカニズムに似ていると推測しています。すなわち、種によって吸収しやすい光の波長が異なり、これによって、種により異なる波長の光が昆虫の内部組織に吸収され、UVA間接損害脂質、タンパク質、およびDNA反応性酸素種(ROS)、活性酸素、フリーラジカルが生じ、細胞や組織が傷害を受け死亡すると推測していいます。
 γ線の被曝でも、DNA反応性酸素種(ROS)、活性酸素、フリーラジカルが生じ、それでDNAが損傷する。我々の細胞核内のDNAが損傷すると健康への直接的影響が顕れる場合がある。核外のミトコンドリアのDNA損傷では、エネルギー生産というミトコンドリアの機能が損なわれ、細胞のエネルギー不足、活力低下や早期老化現象が起きると言われる。γ線がコンプトン散乱でエネルギーを失い波長が長くなり、内部組織に吸収されやすい波長、UVAやUVBになると同様のことが起きるのではないか。
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ショウジョウバエでは、緑色(508nm、532nm)や赤色(657nm)では生存率が高くなっているけど。
結果をよくみると光を全く当てない暗黒状態での死亡率に較べると、青色では高率ですが緑、赤色波長では逆に半分以下に下がっている。研究グループは「哺乳動物では、UV暴露の低用量(照射量)は、エネルギーの改善、気分の高揚、及びビタミンDの産生を含む、健康上の利点を提供する。これは、青色光の低用量でも昆虫に有益な効果を有し得ることが可能である。」としてるが、緑、赤色波長で生存率が高くなるメカニズムも解明してほしい。
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タグ:光化学

食品照射から被曝影響を考える ③食中毒、微生物と異臭 [放射能汚染]

朝鮮戦争休戦後、米軍はアイゼンハーワー大統領による "Atom for Peace"「核の平和利用」 の政策のもと、1953 年から照射食品の開発研究を開始。陸軍は、照射食品・兵糧が(1) 缶詰よりも優れた味と風味をもつこと、(2) 保存や輸送などの費用の削減につながること、(3) 冷凍設備なしで冷蔵設備もその必要性を低減する事を目標に掲げています。具体的には、朝鮮半島の前線にいる兵士に牛ステーキを補給する、ステーキ肉を冷凍設備なしで少ない冷蔵設備で安い経費で前線にとどける。この目標の(3)と(2)は殺菌・滅菌の効果と強く関連します。放射線照射を、殺菌・滅菌に利用する際に、照射線量と効果の関係や照射殺菌食品の微生物学的な安全性を確保する研究が行われました。

 1866年にフランスのルイ・パスツール Louis Pasteurとクロード・ベルナールが食品の栄養価や風味を落とさないで、腐敗菌、食中毒菌の大部分を殺菌・滅菌する100℃以下の加熱殺菌技術を開発しました。パスチャライゼーション(Pasteurization)といいます。この原理自体は日本では酒の火入れとしてありましたが、それを加熱温度と時間、菌数の減少と関連させて定式化しました。杜氏が酒の表面に「の」の字がやっと書ける熱さといった職人の技能から、誰もが学び習得でき温度計などがあれば実行可能な技術にしました。日本では、牛乳での、特に牛と人の共通感染症の牛結核菌を死滅し牛乳の栄養価や風味を落とさない、パスチャライズ牛乳で名が知れています。

 放射線により、微生物を殺滅させ得ることは、レントゲンがX線を発見した1895年直後から知られていました。1921年には、食肉中に潜む寄生虫を殺滅するためにエックス線を使う特許がとられています。当時は、放射線源や発生装置が高価でした。非実用的なアイデアと見られていました。核兵器開発によって放射線源となるコバルト-60やセシウム-137などの放射性同位元素が容易に入手出来たり、高出力電子加速器など発生装置が安価になりました。"Atom for Peace"「核の平和利用」政策には、核兵器開発・生産が一段落ついて、それに携わっていた産業の不況救済という側面があります。それに合致した市場開発・創出でもあります。また、この頃から水爆実験が大気圏内で盛んに行われました。放射能が大量に大気中に漂い降下しました。その悪いイメージを覆う”イチジクの葉”でもあります。

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1954年3月の水爆実験で放射能を浴びた第五福竜丸

温度上昇が少ない

 食品照射は、食品の加温が非常に少ない、1kgに1000Gy(グレイ)の照射で0.24℃位しか加温されないという特徴があります。つまり、熱による変質が少ない。その線量と殺菌効果を、菌数が10分の一になる値D値でまとめたのが下の表です。半数致死線量(60日以内に50%死亡)はヒトでは4Gy(グレイ)、ラットは8Gy位ですから、単細胞の細菌たちはキロ(千)Gy単位です。

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参照・・http://foodirra.jaea.go.jp/dbdocs/002041000001.html

放射線の殺菌作用
この殺菌作用は、放射線(高エネルギーのγ線、β線)による水分解で生成する活性酸素や放射線それ自体によるDNA損傷によると考えられました。「標的はDNAである。普通の起きるのはDNAの塩基損傷と一本鎖切断であるが、この場合は健全な-本を元に修復することは可能であろう。しかし二本鎖が同時に切断された場合は一般的に修復困難で、どんな生物でも一発で死んでしまうように思える。生物間で塩基配列などに多少差違はあっても塩基の構造は変わらず放射線化学的には同一線量では同一損傷ということになり、損傷数は生物間であまり差が無く抵抗性には大差は無いものと考えられていました。
 その後我々は色々な食品の放射線殺菌の実験をして、各種微生物の殺菌効果を調べている中に、酸素や水など環境条件とは別に、菌によって感受性が違うことが分かりましたが、桁違いというものは見られませんでした。(並木満夫)」参照・・http://www.agr.nagoya-u.ac.jp/~food/Dr.Namiki%20Review.pdf

死亡率約 20%の ボツリヌス菌 (Cl.botulinum)
 表を見ると、猛烈な毒素を算出するボツリヌス菌(Cl.botulinum)が照射に強い放射線感受性が低いことが判ります。ボツリヌス菌はどこの土壌中にもいる嫌気性の菌です。酸素がない缶詰、ビン詰などの状態で繁殖する菌なのです。欧米では古くから「腸詰め中毒」として恐れられています。死亡率は約 20% と言われてます。
 このボツリヌス菌を完全に殺す滅菌するなら50KGyの照射になります。滅菌にはD値の12倍量で4.0×12で48Gyです。この線量を照射すると、肉など食品の脂肪分やタンパク質が分解し、照射臭またはケモノ臭とも呼ばれる食欲を減退させる臭いが猛烈に発生します。

「照射臭が発生しやすいのは牛乳と卵であり、室温下での照射では1kGyでも明確に認められる。牛肉、豚肉、鶏肉、ソーセージ、生鮮魚介類などでは室温・空気共存下で2~3kGy照射すると照射臭が認められはじめ、5kGy以上で明確に認められる。一方、真空包装や抗酸化剤共存下など酸素の少ない条件下で照射すると照射臭の発生は抑制され、5kGyでも照射臭はほとんど感知できない。」http://www.rada.or.jp/database/home4/normal/ht-docs/member/synopsis/020230.html

米航空宇宙局NASAは、1972年に宇宙飛行士向け食品に照射を認めていますが、その後、宇宙飛行士が照射臭によって食欲を落とすという理由から、ほとんどの食品について食品照射を取り止めて、メニューの数が少なくなっています。

放射線パスチャライゼーション 

 それでパスチャライズ牛乳のように、食品の栄養価や風味を落とさないで、腐敗菌、食中毒菌の大部分を殺菌・滅菌ように照射することが試されました。食中毒菌の指標には、サルモネラ菌(S.typhimurium)が使われています。滅菌にはD値の12倍量ですから0.7×12で8.4Gyの線量を照射すれば滅菌できます。10KGy程度の照射で食中毒菌の大部分を殺菌・滅菌できます。放射線パスチャライゼーション、電磁的パステリゼーションelectric pasteurization ということもあります。
参照・・照射食品の微生物学
http://foodirra.jaea.go.jp/dbdocs/001005000006.html

放射線パスチャライゼーションでは、ボツリヌス菌は10分の一以下に減りますが、全滅はしません。ほとんどすべての照射食品は不浸透性の容器または包装剤に封じ込まれているので、ボツリヌス菌が活動できる嫌気的状態になります。酸素がない缶詰、ビン詰などの状態で発生しているボツリヌス菌の繁殖は「ボツリヌス菌単独で食品を腐敗することはまれで、たいがい消費者に危険だとわからせるようなにおいを発生したり汚染したりする腐敗菌とともに生育するか、食品の嘔吐を起こさせるような腐敗菌と共生している。」それで、膨らんでいたり、開封して気づいて食べられずに捨てられる、吐き出される。

 放射線パスチャライゼーションではそうした腐敗菌は全滅しています。特に問題視されたのは蛋白非分解性の株です。蛋白分解性 A、B、F 型のボツリヌス菌は、増殖が進むと悪臭を出てきて包装が膨らみます。非蛋白分解性 B、E、F 型はそのような悪臭を発生しないので「消費者は容易にこれらの菌の汚染を見逃す」危険があるからです。

 人間に対する毒性は E 型がもっとも強く、冷蔵温度でも増殖し毒素を作ります。 一般に魚から検出されるボツリヌス菌は E型なので、魚で集中的に研究されています。米国原子力委員会AECによる研究では、1)異臭等腐敗の兆候が先か毒素の産生が先かは保存条件、魚の種類による。つまり、身がグズグズになっているなどでは消費者はわからない。2) 照射によって、かびが生えやすくなる。3)非照射より短時間でボツリヌス菌は照射魚体内に毒素を産生する高い可能性がある、4)照射、非照射に関わらず、魚介類の長期保存によって非特異的な毒性により、実験動物が死亡するケースが目立ったこと。

IAEA、WHOの勧告
IAEA の勧告では「他の殺菌手段例えば、加熱殺菌、置換ガス充填包装などと比べて、照射はボツリヌス菌の潜在的な危険性を増大する可能性がある。ボツリヌス E 型菌の危険を避けるための GMP (Good Manufacturing Practice) にしたがって加工したとしてもこの危険を避けることができないだろう。」

「照射後製品は必ず 3℃ 以下で無くてはならない。ボツリヌス菌が原料に存在すると、照射後も生残する可能性がある。照射した魚やエビを 3℃ 以上にするとボツリヌス菌の増殖と毒素の産生を招く可能性があるだろう。特に高線量照射したり、酸素不透過性の材料で包装した場合、このような 3℃ 以上での保存で菌の増殖と毒素産生の可能性が高くなる。」
 WHO も照射魚介類を保存するときは常時 3℃ 以下で行うように改めて勧告しています。

 つまり、流通の過程は簡素化されません。1998 年ころの EUの各業界調査では、漁業業者は現在の技術で十分に安全は確保されており、費用をかけて照射しても保存条件が従来と同じだから、消費者は新鮮な製品を求めているから要らない。

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放射線照射はよい衛生法の代用として使用されるべきではないが、、
 米国のNASA の宇宙食を作っていた食品照射業者への訪問記では「照射室や保存区域には冷蔵設備がなく、温度管理といえば断熱シートをかけるだけだと責任者は説明してくれた。工場は亜熱帯のフロリダの中央にあり、外気の暑さと崩壊熱とで、照射室は 40℃ 近かった。ついでに、照射前後の保管はどうするのかと質問したら、輸送の保冷車を待たせておくのだという。」
 こうした事が知れ渡り、米国最大手の業者は「不衛生な取り扱いや不潔な加工作業で食品を汚染したことを隠すための技術だと非難され、さらに照射肉は料理しても、判別できるくらい、照射牛肉は未照射に比べて味が落ちるので、従来通り冷蔵保存が必要なら照射する必要はないだろうと評価され」て33 ヶ月間全く利益なしで2004年に倒産しています。
 衛生管理がしっかりしている照射食品でも10℃ 前後の家庭用冷蔵庫で保存すると、ボツリヌス中毒の危険があるのです。

参照・・照射魚介類中のボツリヌス菌について
http://foodirra.jaea.go.jp/dbdocs/001007000018.html

放射線照射の利用は、産業的には魅力がない 

 「多くの生鮮野菜は0.15kGy以下の発芽防止を目的とした照射処理では効果があるが、0.2~0.5kGyの殺虫を目的とした処理では褐変化したり腐敗しやすくなるものがある。
 生鮮果実も0.5kGy前後の殺虫を目的とした処理では品質が変化しないが、1kGy以上の殺菌を目的とした処理では品質低下をもたらすものがある。
 穀類も殺虫処理を目的とした放射線処理では有効であるが殺菌処理では粘度低下などの品質低下をもたらすものが多い。
肉類や食鳥肉類、魚介類も酸素共存下で照射すれば2kGy以上で異臭発生や味覚低下をもたらすものがある。
 しかし、脱酸素した肉類や食鳥肉類、魚介類、または乾燥香辛料や乾燥野菜などは2kGy以上でも品質低下を起こさないものが多い。」脱酸素状態で照射した肉類や鳥肉類、魚介類ではボツリヌス中毒の危険性がある。
参照・・食品の照射効果と衛生化
http://foodirra.jaea.go.jp/dbdocs/006001003061.html

 牛レバーは、病原性大腸菌中毒を契機に照射殺菌が検討されています。大腸菌のD値は0.2kGyですから、滅菌目的なら2.5kGy程度の照射が予想されます。異臭発生や味覚低下を招く可能性が高いです。それを避けるため脱酸素状態で照射すると、ボツリヌス中毒の危険性がある。
 英国の委員会が「当調査会はどの有益な食品材料についても、放射線照射を利用することによって利益を見出すことができなかった。多くの研究によって考え出された放射線照射の利用は、産業的には魅力がない。」と50年前に結論しています。


食品照射から被曝影響を考える ②有害生成物 [放射能汚染]

1953年に米国のアイゼンハーワー大統領は "Atom for Peace"「核の平和利用」 の政策を大々的に打ち出しました。この「平和利用」の一環として放射線照射・照射食品を原子力委員会や米国陸軍が本格的に研究を始めました。1952年にSparrow がジャガイモの発芽防止効果の発見を報告していました。陸軍は兵士に補給する食料の保存を冷凍設備なしに行えるようにすることを目的としていました。殺菌や害虫の防除、発芽防止などを目的にし、核が兵器だけでなく平和利用できることをアッピールする社会政治的目的を持った研究です。
核の平和利用としての食品照射
主な課題、解明すべき点として、①照射食品中に生成する物質に発癌物質、その他の毒物があるか、その量と②新たな放射能、誘導放射能が生成しふくまれないか③栄養的損失④微生物学的安全の問題が上げられています。ガンマ線やベータ線の放射線による食品成分の分解、および生成物の種類と量、陸軍は食品中の水が放射線分解されて生成する過酸化水素など活性酸素によって色・味・においなどが変化して酸味がでる食品の酸敗に関心を寄せています。
 放射線の線源候補は、使用済み核燃料(ゴミを宝に)、コバルト60(半減期5.27年、β線、γ線を出しニッケル60)、セシウム137、X線照射装置、人工的に電子を加速する電子線装置(実質的には高エネルギーのベータ線)が上がっていました。使用済み核燃料からは自発核分裂で中性子がでていますから、原子核にあたり捕獲されるとその物質を放射性物質・放射能に変える反応、放射化が起こりえます。
参照・・使用済み核燃料の使用 国立衛研報 第125号(2007)
http://www.nihs.go.jp/library/eikenhoukoku/2007/107-118.pdf
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 コバルト60、セシウム137からはγ線がでます。X線照射装置からのX線、γ線は高エネルギーの電磁波=光です。高エネルギーの光が原子核を照らすと、物理学的には光核反応がおき、次いで放射化が起こりえます。電子線装置でつくられる高エネルギーの電子線も、放射能を作り出す反応を起こしえます。理論的な考察から、放射化が起きにくいとの結論されていましたが、実証的に検証せねばなりません。日本の原子力や放射線被曝の科学ではシュミュレーションなどが好まれますが、米国では実証的な検証を重んじます。シュミュレーションは前提・設定が変われば、結果も変わります。導きたい結論が出るように設定を操作できます。実証的な検証が欠かせません。
被曝で変性し、有害物が生成 ・・50年代研究
 タンパク質、脂質、炭水化物、肉類、ビタミン類、酵素類に対する照射効果について、たとえば、照射によるタンパク変性は熱や紫外線、過酸化物によるものと異なる性質の変性であること、牛乳に照射すると多くの種類のビタミン類が失われること、臭いが付くことなどが既に報告されてました。糖、アミノ酸、脂肪酸エステルなどの食品成分の溶液を照射した実験から様々な有害物質がその中に生成することが分かり、照射食品には潜在的な危険性があるとされました。
 1963年の研究では、放射線照射により、当時その作用が十分分かっていないビタミン E、Kなどがえさの中から失われることが判らず、発ガン性など調べる長期毒性試験の多くが失敗に終わっています。このため発ガン性などは十分に検討できなかったようです。(ビタミン Eは、強い抗酸化作用があり、活性酸素の害からからだを守る。ビタミンKは、出血した時に血液を固めて止血する因子を活性化し、骨にあるたんぱく質を活性化し、骨の形成をうながします。)
米食品医薬品局FDAの対応
 このような状況から、米食品医薬品局FDAはいったん63年に出した照射ベーコンなどの許可を68年に取り消しています。 米食品医薬品局FDAは、放射線分解生成物の量を個別に照射食品ごとに推定し、それら放射線分解化合物の一人あたりの摂取量から安全性を確認する方法をとりました。ただし、その当時の分析測定法では有機溶媒で分解物を抽出し、その危険性を評価しています。これでは、有機溶媒で抽出できなかった不揮発成分の評価はできません。不完全です。
 それでも、1997年にFDAは、四半世紀の間に問題が起きなかった「基本的に照射食品は安全」。そうなので、その検知法は不要であるとして開発も検知も行わない方針を出しました。
EUの対応
 欧州EUはドイツ、デンマーク、イギリスの学者を動員し照射食品の健全性について調査を行い1987年に報告書をまとめました。それでは照射直後、高線量照射したあと時間が経過してない照射食品では、変異原性が見られた。しかし、適正に照射したあと、保存したり、あるいは加熱すると変異原性が見られない。殺菌などの目的を果たす有効で最小の線量でも照射すれば、生理活性のある成分が生成する。食品によってはそれが生物学的に問題になる量に達しないか、あるいは他の食品成分のために急速に分解してしまうためだろうと推定しています。
 これは、照射量が多かったり、食品によっては問題になる量まで生成する。他の食品成分で分解する時間、保存などの時間が短いとか、生鮮野菜果実など加熱しない食品では変異原性など生理活性を残している場合があるという心配がでてきます。それで、EUは検知法を開発し、検査を行っています。 それで食品中の脂質から生じる放射線特異的分解物質のアルキルシクロブタノン(ACB)を見出しています。
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生きている状況では
 食品では放射線を浴びた後に、生成した生理活性成分や活性酸素、フリーラジカルが他の食品成分で無害化する十分な保存時間を置いたり、加熱調理する、ビタミン類が壊されても他の食品で摂取する、照射食品を摂りすぎないといったことで、FDAのいう「基本的に照射食品は安全」な状況を保てると思います。その変質する食品成分、それや活性酸素などを無害化する他の食品成分は、生きている生物では生存・活動に欠かせないタンパク質、脂質、炭水化物、ビタミン類、酵素類などです。活性酸素は他から電子を奪うことで安定化しますが、奪われる相手がDNAならDNAが傷つく事になります。生鮮野菜果実は照射障害の現れやすい。

 生体ではDNAは修復する仕組みがあります。酵素タンパクなどは修復ではなく、プロテアソーム(proteasome)やオートファジー(Autophagy)などで分解され、再合成で補充される。その間は、その酵素などが担っていた機能は低下せざるを得ない。またその分解や合成でエネルギーを使うことになる。
参照・・http://hatake-eco-nuclear.blog.so-net.ne.jp/2014-04-21
東電核災害で追加被曝する地域に居住する人や生物は、そうした負担を東電によって背負わされている。そうした負担が強いられている。それを意識する、自覚症状として認知するとか、他者が調査して検出しないとわからない。

牛レバーを放射線照射してレバ刺しに? ①食品業者として [放射能汚染]

牛レバーが刺身・生食による食中毒問題を契機に、生での提供が禁止されました。この牛レバーを放射線照射で殺菌処理して、レバ刺しを復活。そのための研究を厚労省が国立医薬品食品衛生研究所などが行っています。現在、日本ではジャガイモで食品照射が行われています。
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食品の放射能汚染とは違いますが、食品照射は食品≒生物への放射線の影響を調べる糸口になります。放射能汚染の主要な汚染源であるセシウム137は、放射線照射・食品照射の放射線源でもあります。
 ジャガイモ発芽が放射線照射で止まることを発見して1950年代に始まった食品照射の研究では、使用済み核燃料を線源に使おうとしました。一石二鳥を狙ったのです。しかし一体一体毎に出る放射線の種類や量が違うため使い難いので、やめられました。セシウム137も粉末状で水に溶け易いなどなどから、国内では血液照射装置線源に使われています。この照射は輸血後移植片対宿主病・PT-GVHDの予防のためです。コバルト60が線源に使われる放射能です。放出する1.33及び1.17 Mevのガンマ線を照射に使われています。容器に密閉されているので、取り扱いが適正なら放射能汚染は無視できます。
http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_No=08-02-02-12
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/senmon/old/housya/siryo/housya05/553.htm
照射線源には、エネルギーレベルが5 Mev 以下のエックス線、装置で加速されてエネルギーレベルが10Mev以下の電子線(実質的にベータ線)が許可されています。
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殺菌だから生き残った菌が管理が悪ければ、増殖する
殺菌、害虫の防除、発芽防止などの照射効果は、生鮮野菜果実の場合は 照射障害の現れやすいので1kGy(≒kSv) 以下の吸収線量、肉・香辛料の殺菌目的の場合には 10kGy 以下、保存食などは 50kGy 以下とされています。そのように食品を放射線で処理すると、その時々で温度上昇(1kg の食品を室温で、1kGy 照射するとおよそ 0.24℃上昇するといわれている)、色調の変化(主に退色)、照射臭(炭化水素類の臭いなど)が見られます。 
 放射線殺菌では全ての微生物を殺滅し無菌状態を作り出す滅菌と違い、殺菌はある程度の数の菌が生き残ります。生存菌数/初発菌数が1/10、10分の一が生き残ることをD10値といい、例えば加熱なら腸管出血性大腸菌O-157は脂肪 2%の牛ひき肉で57.2℃で 4.1 分、62.8℃で 0.3 分、脂肪 30.5%なら57.2℃、62.8℃で 0.5 分です。この条件で、90%致死して10%が生き残ります。
 O-157は7-8度以上なら増殖します。殺菌処理後の保管条件、温度や保管時間によって生き残りが増殖してしまいます。これはすべての殺菌法でO-157に限りらずおこりますが、放射線照射は既にパッケージされている食肉に照射しますから、間違った安心を起こしやすい。
 照射後の牛レバーの輸送や保管管理が、悪ければ菌数は照射前にもどったり、かえって増えてしまいます。冷蔵で保管する食品では放射線照射が安心感を生んで、誤った保管管理になって、食中毒を増やしてしまう懸念を食べ物を扱っている身では持ちます。厚生労働省の市販流通食品・食中毒菌汚染実態調査では、牛肉、特に生食用牛レバーのO-157の汚染度は約2%です。残りは汚染されていないのだから、放射線照射で殺菌する必要はありません。大半の90%以上に不要な照射をおこなって、レバーは変質しないでしょうか?

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 誰もが照射食品を摂取している米国でも、子供には食べさせたくない
 米国は、放射線照射・照射食品を1953年から研究を始めた家元です。米国は63年の小麦粉を皮切りに64年にジャガイモ、86年には果実、野菜、ハーブおよび香辛料、豚肉、92年には鳥(家きん)、2000年 2月には食肉全般に対し放射線照射が認めています。放射線照射を行った食品には、ラベルに「Treated with radiationまたはTreated by irradiation(放射線照射処理済み)」との表示義務があります。(上の画像)また、米航空宇宙局では70年代から宇宙食(食肉)への放射線照射を認めています。グアバやマンゴーなどの輸入食品では、13000トンほどが中の害虫を殺すための放射線照射をうけています。スパイスの3分の一は照射殺菌されています。料理にスパイスは欠かせませんから、誰もが照射食品を摂取している国です。
 アメリカでは、ハンバーグなどに使われる牛ひき肉のO-157汚染、それによる食中毒が問題になり、放射線照射で殺菌した牛ひき肉を、大量流通させようとしました。2003年から学校給食、毎日約2600万食以上を児童・生徒に提供している全米学校給食プログラムで、各学校の判断で照射された牛ひき肉の使用を認めました。しかし放射線照射される牛ひき肉は、年間に6800トンから8160トンと取るに足らない量に止まっています。学校で採用するには、保護者の賛同・承認が必要ですから、ほとんどの学校で得られていないのです。誰もが照射食材を口にしていても、選べるなら親は学校給食で放射線照射で殺菌した牛ひき肉を子供には食べさせたくないのです。
食品を放射線で処理すると発生する色調の変化(主に退色)、照射臭は放射線で食品≒生物の成分の変質を意味します。被曝で起こるDNAや酵素タンパクの損傷と原理的基本的には同じです。それが、食味だけでなく安全性にも影響しているのでしょうか。欧州EU は照射食品の表示を義務つけるだけでなく、照査食品の検知法の開発を行い、それで違法照射食品の摘発、照射食品の表示の確からしさを担保しています。 つづく
東京新聞
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放射線被曝と生命の進化(断章) 2014/04 [放射能汚染]

東電核災害で、放出された、放出されている放射性セシウムやストロンチウムなどの放射能。それらで食品や水、空気が汚染されます。そうした食品などを介して体に放射能が取り込まれます。それによる影響を考える基礎に地球での生命の誕生と進化に放射線被曝の関わりを顧みて検討してみます。 
 
自然界には、地球誕生の時に宇宙から凝集し以来地殻に存在するものや宇宙線により生成されたものなど、さまざまな放射性核種が存在し、これらの核種を含む物質は、自然起源の放射性物質「自然放射性物質」(NORMa : Naturally Occurring Radioactive Materials)と呼ばれています。
14-0501f2a.jpg原始の海の深い所で生命が誕生したのは約40億年から38億年前といわれています。グリ-ンランドで、38億年前の畳半畳ほどの小さな岩に幅30cmの黒い帯、生命が這い回った痕跡が発見されています。38億年前にはここは水深数百mの静かな海の底です。体長は1mmの百分の一位の現在のバクテリアのようなもので、水中を漂いながら、海中から炭素を含む栄養分を採って生きていたと考えらています。
 最も豊富にある自然起源の放射性核種はカリウム40ですが、半減期が約12.8億年ですから、現在の8倍ほどのカリウム40が有り、ベータ・β線やガンマ・γ線をだしていた。トリウム232は半減期141億年で約1.2倍。アルファ・α線を出すウラン235は半減期7億年ですから、現在の43~52倍位あった。ウラン238は半減期44.7億年だから、現在の約1.8倍ありました。これが崩壊で生成するウラン234、ラジウム226、ラドン222なども現在よりも多くあった。原始の生命に現在より多い、内部被曝や外部被曝させていたのでしょう。

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宇宙からの放射線

原始の海の深い所で生命が誕生した約40億年から38億年前の地球には、宇宙から放射線が飛び込んできます。大半は太陽からのものです。それはガンマ線などの電磁波と原子核が飛んでくる粒子線に大別されます。
電子レンジで使われる波長12センチのマイクロ波も、レントゲン撮影やCT検査のX線も、放射線のガンマ線(γ線)も放射線殺菌でつかう波長が10億分の1センチ以下のガンマ線も、私たちが目で捉える可視光線と同じ電磁波です。
 光のエネルギー、強弱は何で決まるのでしょうか。光は波の性質があります。海の波の強弱は波高、つまり振幅の大きさです。可視光領域の光を出す電球を用意し、光をどんどん強くして振幅を大きくして太陽光からの紫外線と同じくらいのエネルギーをもった光を人体に当てれば、日焼けが起こるはずです。しかし、そのようなことは現実には起こりません。
 これは光が実際は波長により異なるエネルギーを持っている粒子であり、それが幾つあるかでその光のエネルギーがきまると考えられています。このエネルギー量子を光子と言います。日焼け実験でわかるように、光子のエネルギーが物に与える影響の性質を基本的に決めます。光が強いと、影響を与える光子の数が多いので、影響を受ける数・量が増えます。
 光子のエネルギーは、周波数(振動数)に比例します。その比例定数をプランク定数といいます。光の速度は1秒間に約30万㎞(真空中)と決まっていますから、波長が短いほど周波数(振動数)が大きくなり光子のエネルギーは大きくなります。

 
光、私たちが目で捉えられる光は電磁波の中の波長が400nm(青)~800nm(赤)(ナノメータ、1メートルの10億分の1、周波数750から400THz・テラヘルツ)です。赤色よりも波長の長い赤外線~1mm(1メートルの千分の1)の暖める作用を電気コタツなど暖房器に使っていますが、これより波長の長い波長12cmの電磁波は、水分子をゆすって振動を強め、温度を上げ蒸発させます。
14-0430h46.png これを調理に応用したのが電子レンジ。波長12cm(周波数2.45GHz)の電磁波を照射して食品に含まれる水分の一部を蒸発・100度にして、その蒸気状態の水で食品全体を加熱する、内側から蒸すのです。この電磁波は、マイクロ波に分類されるので、物理学者は「電子レンジという名前が何とも紛らわしい。あれは本当は”マイクロ波調理器”と言うべきもの。」といいます。

 可視光線の波長が短い青・紫よりさらに短い電磁波の紫外線は、良くご存知のように日焼けや白内障、物質の分解を起します。これは、電磁波の波長が短いほど=周波数が大きいほど光子のエネルギーが高いためです。この性質を利用して、紫外線ランプによる殺菌装置が病院などで用いられています。市販の紫外線ランプは254nmの紫外線を86%放射します。この波長の紫外線の光子は、染色体・遺伝子のDNAに吸収されます。そのエネルギーはDNAを壊します。病原菌など微生物のDNAにこうした欠陥が十分に蓄積すれば、遺伝情報が毀損します。たとえが死滅しないとしても、微生物の増殖は抑えられます。ウイルスなら不活性化します。つまり、無害になるのです。
 それで、紫外線よりも波長の短い電磁波なら、よりエネルギーが高いので、より強力な殺菌作用があるのです。紫外線よりも短い電磁波、光はX線とガンマ線(γ線)です。X線は波長は約100~0.1Å(1オングストローム=1メートルの100億分の1)、ガンマ線(γ線)は約0.1Å以下です。市販の紫外線ランプの254nmの紫外線に比べ周波数は、X線が25~25000倍、ガンマ線はそれ以上です。光子のエネルギーは、周波数(振動数)に比例します。電子ボルトというエネルギーの単位では、ガンマ線の光子は1万電子ボルト以上です。例えば、セシウム137は、約95%の確率で約66万電子ボルトのガンマ線を出してバリウム137に崩壊します。原子や分子が結合しているエネルギーは、共有結合約4電子ボルト、イオン結合で1電子ボルト、生体に重要な水素結合で0,2電子ボルトです。殺菌装置の254nmの紫外線の光子は約4.9電子ボルトですから、DNAに吸収されるとDNAの結合を壊してしまいます。原子や分子が結合している化合物、無機であれ有機であれ、X線やγ線の光子がぶつかれば、その結合が壊れてしまいます。
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街灯が暗くなると自動的に点くようになっています。これは原子に光が当たると、光子のエネルギーを吸収した電子が原子から出てくる光電効果を利用した回路が使われています。この光電効果ででる電子が流れる方向を整える、整流するようにしたものが太陽電池です。原子ごとに電子が飛び出してくるのに必要なエネルギー量が違いますし、光も波長・周波数の大小で光子のエネルギー量が違います。ある原子には光電効果を起こす光・光子の波長・周波数の限界があります。
leafanim.gifその限界以下の光・光子からエネルギーを得た場合、その電子は原子から出ませんが前よりもエネルギーが大きい状態、原子核から遠方の軌道に移ります。これを励起と言います。植物の葉緑素は主に青い光(波長435 nm前後・ナノメータ、1メートルの10億分の1)と赤い光(波長680 nm前後)の光を吸収して励起状態の電子が生成します。その励起状態を移動してエネルギーを集めて、水H₂Oから水素を引きはがします。残った酸素は排出。引き剥がした水素を二酸化炭素に結合して炭水化物を作り光子の得たエネルギーを化学的形態で蓄えます。
γ線は波長が約0.1Å以下(オングストローム=1メートルの100億分の1)。周波数が光合成の光の約100倍以上ですから光子のエネルギーも100倍以上あります。葉緑素の励起移動などなくとも、水にγ線が当たると光子の持つエネルギーのほんの一部で、水分子は光電効果で電子が飛び出た電離状態や電子が励起した状態になります。千億分の一秒以内に分解します。その結果、電子を失った水素原子(陽子)、水素分子、水酸基・OH⁻、過酸化水素・H₂O₂などの活性酸素が生じます。
 この水の分解は、原子炉では冷却水の分解による活性酸素による機器の腐食や水素ガスの爆発の危険性という運転および保守上悪影響を及ぼします。生体の約80%は水です。ですから、生体にγ線が照射された時、タンパク質などに当たるより、水にγ線は当たる確率は高い。それで生成する活性酸素を介して間接的に影響を与える場合が多いと考えられます。
14-0430ah.gifガンマ線など放射線の照射の量は、照射によって物質に吸収されたエネルギー量で示されます。放射線によって1キログラムの物質に1ジュール(0.24カロリー)のエネルギーが吸収されたときの吸収線量を1グレイ(gray、記号:Gy)と表します。1ジュールは、光子のエネルギーでの電子ボルトでは624万×10の12乗(兆)電子ボルトです。生活で馴染み深い加温でいえば1kg・1リットルの水が0.00024℃上がるエネルギー量です。
 私たち人間など哺乳動物のガンマ線の致死線量は、5~10Gy・グレイ、細菌の胞子で10,000~50,000Gy、ウイルスで10,000~200,000Gyです。10Gyに相当するエネルギーをコタツで赤外線の光子で受けても、私たちは何の異変も起きない。しかし、X線やγ線で、その高エネルギーの光子で受けると死んでしまいます。コタツの赤外線の光子のエネルギーは0.9~1.7電子ボルトです。生体のタンパク質や水の化学的結合を壊すには不足で、それらの運動エネルギーつまり熱になってしまう。ガンマ線の光子は1万電子ボルト以上、例えば、セシウム137のガンマ線は約66万電子ボルトですから、吸収されるとタンパク質や水の化学的結合を壊してしまう。
 10Gyに相当するエネルギーは、コップ一杯・200㏄の水を0.012℃だけ温めるだけです。日常的にお湯を沸かすのに費やすエネルギー量に較べれば極々微量です。しかし、それが、私たちの体の化学的結合の部分にピンポイントに働き、結合を壊してしまいます。その結果、生体を構成するタンパク質などが壊れ変性して、機能を失って死に至るのです。
さて、宇宙から地球にやってくるγ線やX線の電磁波の放射線は、地表に到達しません。それを見るためには成層圏まで行かなくてはなりません。(参照・・http://www.cr.ynu.ac.jp/calet.html)地球を包む大気の窒素などにぶつかって、光電効果を起こして吸収されなくなってしまうためです。光電効果で電子を失い電離状態のイオンになった気体原子は、地上50kmから500kmあたりにあって、電離層を作っています。(参照・・http://blog.sizen-kankyo.com/blog/2013/04/001316.html
 14-0430太陽光スペクトル.jpg
宇宙から渡来する放射線には、もう一つ、アルファ線と同じ原子核が飛んでくる粒子線があります。起源から銀河宇宙線、太陽粒子、銀河外からの宇宙放射線の3つに分けられますが、宇宙線被曝量の大半は太陽からのもの、太陽表面の大爆発の結果として太陽表面から放出される高エネルギー粒子に因ります。粒子の約90%は水14-0430supe.jpg素の原子核の陽子が飛んでいる陽子線で、約8%がヘリウムの原子核が飛んでくるアルファ線、重い鉄などの原子核が飛んでいる重粒子が約1%です。概ね約25km以下の高度から気体分子と衝突してしまいます。それで2次宇宙線が生成します。
一次宇宙線は窒素、酸素、アルゴン等の原子核にぶつかり、バラバラにします。原子核から、陽子が、中性子が、それらを結びつけている中間子が飛び出します。陽子や中性子が別の原子核にぶつかれば、それを壊します。岩場を段になって流れる滝、カスケードのようなので「核カスケード反応」といいます。
 中間子にはプラスとマイナスの電荷を持ったもの、電荷の無いもの、という三種類があります。電荷を持たないものは即2つの光子になり、その光子が電子を産む。その電子から光子が生まれ、そのプロセスを繰り返します。(電磁カスケード)
 電荷を持った中間子は1千万分の1秒程度でμ粒子(ミュー)にかわります。μ粒子(ミュー)は電子の約207倍の質量をもった電荷をもった粒子です。エネルギーが高い=速度が光速にちかいものは、生成してから6Kmほど飛びます。その間、通過する原子の電子に電気的な力を及ぼし、飛び出せたります。この振る舞いはベータ線と同じですが、質量が207倍ですからμ粒子の軌道はあまり変わらないで通過します。エネルギーが低い=速度が遅いものは、百万分の1秒ほどで崩壊して、電子などがでます。その電子で電磁カスケードが始まります。
14-0430u02.gifジェト旅客機が飛ぶ高度では、中性子線、陽子線と電磁カスケードの電子と光子(γ線)が被曝をもたらすます。地表には、主にμ粒子と電磁カスケードの電子と光子(γ線、X線)と中性子線が被曝をもたらします。世界平均では、μ粒子と電磁カスケードの電子と光子から平均実効線量率は0.28mSv/年、中性子線では0.1 mSv/年、宇宙線全体では0.39mSv/年程度とされています。この被曝量は、現在のカリウム40による内部被曝、0.19~0.17の約2倍です。(参照・・http://c-navi.jaea.go.jp/ja/background/everyday-exposures-to-ionising-radiations/natural-background/cosmic-rays.html http://www.nagoyaseikatsuclub.com/essay/syokuhinnzyouhou/191.html
地球に生命が生まれた40~38億年前は、現在の倍の宇宙線による被曝線量があったとみられます。水深数百mの静かな海の底で化石が見つかっています。宇宙線の中性子線は水に入ると急速にエネルギーを失います。高速な電子は、周囲の原子の影響を受けます。通り道の原子核があるとそのプラスの電荷に引き寄せられますし、電子があると斥力が働くからです。ですから、大気中に比べ密度が高い水中では飛程圏が百分の一程度に小さくなります。電磁カスケードの電子やμ粒子が飛びさせる電子の被曝は、水中の方が避けれます。μ粒子も光速に近いものは、できてから6kmも飛びますが、低ければ数キロです。μ粒子が生まれる空から距離をとればとるほど被曝は小さくなります。
 生命棲息の地が水深数百mの静かな海の底だったのは、宇宙線を水深で遮蔽できたからと考えられています。つまり当時の生物は、当時の浅い海での宇宙線や紫外線被曝には対処できないが、カリウム40などによる被曝でできる損傷を受けても、子孫を残す期間は生き延びられるように修復できる能力をもった者が繁栄したのです。放射線によるタンパク質やDNAなどの生体構造の化合物を直接破壊する直接的損傷と水H₂Oの放射線分解で生じる活性酸素などのラジカルによる間接損傷、DNAへの水素・Hや水酸基・OHの付加(化学修飾)を取り除き修復できる能力を持つ。それが少なくとも子孫を残す期間は生存を可能にする生物が棲息できたのです。
光合成細菌の繁殖と宇宙線被曝
 時がたつにつれて、カリウム40などの量は崩壊で減っていきます。30億年前ではカリウム40は現在の約8倍から約5倍に減り、ウラン235は現在の43~52倍から約20倍に、ウラン238は現在の約1.8倍から1.6倍に減っています。このような自然放射性物質(NORMa )の減少によって被曝量が減り、それで修復能力に余力が生まれます。修復能力で宇宙線など被曝にも対処できるようになります。
 宇宙線が多いが、注ぎ込む太陽光のエネルギーを利用できるより浅い所に進出します。現在の宇宙線被曝量から試算すると、地表、海抜ゼロ付近では0.7mSv/年位、現在のカリウム40の内部被曝の約3.9倍です。ただ、紫外線がそのまま入射します。オゾン層ができていませんので、危険なUV-Cが吸収されずに海面に届いています。
 紅色細菌(こうしょくさいきん)があらわれます。紅色細菌の光合成色素は、バクテリオクロロフィルといいます。この色素は、この色素は赤外線領域の波長もよく吸収しますが、紫外線の領域のUV-Aという波長域も吸収します。
 
 海水では太陽光のうち赤い波長は水深10mほどで100%減衰しますが、緑色や青色の波長が短い光は減衰が35%程度です。海水での光の吸収係数からUV-Cでも特に危険な250nmの紫外線が1%以下になるのは水深25㍍です。この水深では、赤外線は届きませんゼロです。緑色や青色の可視光線も約70%は吸収されます。UV-Aは約75%は届きます。ですから、30億年前の紅色細菌(こうしょくさいきん)はUV-A紫外線で光合成したと考えられます。(参照・・吸収係数はhttp://omlc.ogi.edu/spectra/water/abs/ の1988年のShifrinのデータを参照した。
 http://nationalgeographic.jp/nng/member/0505/f_1_ss2.shtml

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紅色細菌は嫌気性か通気性で酸素があると生存、増殖できませんから、水面付近は棲息できません。バクテリオクロロフィルでは水を酸化するだけの高いエネルギー、電位が得られず,硫化水素などを利用する。そのため、光合成を行っても酸素を発生しなかった。
 地球の冷却によって28億~27億5千万年前に、地球内部のコアに強い地電流が発し強い地磁気が発生するようになりました。地球が一個の巨大な磁石のようになり、バンアレン帯が形成され地球の外側の周囲に磁気圏が作られました。(参照・・ http://www.kakioka-jma.go.jp/knowledge/qanda.html#12 )
14-0501f2b.jpg 宇宙線の粒子線は原子核ですからプラスの電荷を持っています。高速で飛んでくる電子はマイナスの電荷を持っています。運動する電荷は電流が流れているのと同じですから、磁場を作ります。この磁場と地球に出来た磁気圏の相互作用で、宇宙線の多くの部分、荷電粒子は地磁気線に沿って周回運動を繰り返しながら、一部はオーロラを出現させて、マイナスの電荷の電子は東方向に陽子などプラスの電荷をもつものは西方向に拡散し多くが到達しなくなりました。

 これで、大気に入ってくる粒子線が減ります。核カスケード反応が減ります。2次宇宙線被曝が減りました。現在の地磁気がつくる磁気圏の遮蔽効果は、世界平均で宇宙線被曝で0.31mSv/年と試算されています。この被曝量は現在の宇宙線被曝量の80%、現在のカリウム40による内部被曝の1.7倍です。(参照・・http://edu.jaxa.jp/seeds/pdf/2_radiation.pdf http://www.nagoyaseikatsuclub.com/essay/syokuhinnzyouhou/191.html
水深が浅くなるとUV-Cの被曝が増え、DNAが損傷します。DNAの損傷を修復する能力は、宇宙線被曝の減少で余力が生じています。浅く太陽光が燦々と降り注ぐ浅い海に生命が進出できます。浅い水深では、赤い波長も減衰が少ない。水深1メートルで赤い波長の減衰は約30%、青と緑の波長は約5%です。それで赤い波長と青い波長を吸収利用し、緑の波長は反射するつまり緑色に見える葉緑素で光合成を行うシアノバクテリアが繁殖します。

葉緑素の色素はバクテリオクロロフィルの一部が構造変化したのです。「バクテリオクロロフィルaの合成系を持った光合成細菌は、2,3の遺伝子を失うだけで、クロロフィルaの合成が可能である。クロロフィルaの出現には時間がかかったが、代謝系としては昔から完成していた」(田中 歩、http://sourui.org/pdf-files/04Tanaka.pdf )このような変異は、数億年の間に紅色細菌でいく度も起きていたと思います。この変異が生存に有利になる環境、浅く太陽光が燦々と降り注ぐ浅い水深に進出、生息できなかった。バンアレン帯が形成され宇宙線被曝の半減という環境変化が、進出を可能にしたのです。それでシアノバクテリアが繁殖したのです。
紫外線と酸素呼吸
 シアノバクテリアの光合成は、クロロフィルに依ります。このクロロフィルでは水から水素を引きはがすのに十分なエネルギーを光・光子から獲得できます。この地球上にはじめて水を分解して酸素が発生する光合成が広く、浅い海で行われるようになりました。
14-0501a01.jpg シアノバクテリアの細胞では、非光合成細胞と比較して、酸素濃度が一万倍程度にも高まったと見積もられています。酸素は化学的活性が強いので、タンパク質やDNAを損傷します。 放射線被曝による水の分解で、酸素やより化学的活性の高いラジカルな活性酸素が発生します。ですから、その損傷を修復する能力、システムはあります。しかし、一万倍程度にもなった酸素濃度には力不足だったのでしょう、酸素に耐える代謝系が整備されて行ったのだと思います。
 それには、光合成の前に出来ていた酸素呼吸の仕組みを取り入れる事でした。シアノバクテリア(酸素発生光合成)の光合成は2段階になっています。一段目と2段目を繋ぐ経路は、酸素呼吸での酵素が担っています。酸素呼吸は、真正細菌、古菌どちらの系統にもみられ、シアノバクテリア以前に出現したと推定されています。シアノバクテリアが出現する以前から地上には低濃度ではあるが酸素が存在していて、酸素を消費(除去)する代謝系が発達していたようです。分子の進化を調べると、酸素呼吸の電子伝達系の酵素(シトクロム酸化酵素)が非常に古く、その酵素が進化して光合成のタンパク質の一部になった。
 
のエネルギーを電子の励起で捕獲し、それを10から8ヶ
海水中の酸素濃度が高まります。
 酸素は化学的活性が強いので、呼吸でより多くのエネルギーを取り出せます。酸素呼吸では1~2%の酸素分子が活性酸素になります。活性酸素は、生物を傷つけます。活性酸素は放射線被曝で生成するので、それによる損傷、DNAへの水素・Hや水酸基・OHの付加(化学修飾)を取り除き修復する能力を持っています。生命誕生のころに比べ30億年前ではカリウム40は現在の約8倍から約5倍に減り、ウラン235は現在の43~52倍から約20倍に、ウラン238は現在の約1.8倍から1.6倍に減っています。自然放射性物質(NORMa )の減少によって被曝量が減り、それで修復能力にの: Naturally Occurring Radioactive Materials)と呼ばれています。この余力が生まれた環境に海水中に酸素が豊富に含まれ、酸素呼吸が盛んにすれば、後者の活性酸素損傷の経路が昂進することです。
 環境が酸素豊富に変って、3つの適応パターンになっています。一つは酸素があると死滅する嫌気性、一つは酸素がなければ生存できない好気性、その中間の酸素が有っても無くてもOKの条件的嫌気性。好気性はカタラーゼなどなどの活性酸素を無毒化する酵素を持つように進化した生物です。それでも、活性酸素は無害化しきれない。磁気圏の形成で放射線被曝での損傷を修復する能力に余力が生まれたましたが、新たな負荷、酸素呼吸で発生する活性酸素がかかり活用されている。
 海中から大気中に出た酸素が現在の十分の一、約2%になると高空にオゾン層ができはじめます。約4億~4億5千万年前にオゾン層で太陽光の紫外線、特にDNAを損傷するUVC(波長280~100ナノメートル)が完全に、UV-B(315~280ナノメートル)は一部、遮断されるようになります。そして生物が上陸します。
上陸によって放射線被曝はどう変化したでしょうか?外部被曝は増えたのではないかと思います。カリウム40のβ線は、水中にでは約1センチほどしか飛びません。γ線も約1mです。陸上ではβ線は大気中を約10mほど飛びます。γ線は約100mです。水中では、半径1mの球形の内部にあるカリウム40などの出す放射線で外部被曝します。上陸すると、半径約100mの大地から出るγ線と10m以内のβ線を浴びることになる。宇宙線も水中にいれば、水で遮蔽・減衰します。
 この約4億年前時点でカリウム40などは随分減っています。カリウム40は生命誕生時に現在の8倍ありましたが1.25倍に減り、ウラン235は現在の43~52倍位が1.5倍位に、ウラン238は現在の約1.8倍から1.06倍に減っています。これらによる内部被曝は、この減少で減っています。しかし、ラドン222の呼吸による内部被曝は増えたと思います。
 2007年に海洋地球研究船「みらい」の観測航海で水深4.5mの海水ラドン濃度が測られています。1.5~0.5Bq/?で「風速が弱いと1.5Bq/m3 と大きく、表層海水中ラジウム濃度1.6 Bq/m3とほぼ等しい。」「風が強くなると海洋表層の混合層が発達して、海水中ラドンが大気に散逸するため」のラドン欠損現象・低下が見られました。新潟県放射線環境センターの柏崎刈羽地域での調査では、ラドン濃度は夏から秋に高く冬低い季節変動を示し、月平均値で 4~8 Bq/?の範囲です。つまり、陸上の大気中の方が、海水中よりもラドン222濃度が大きい。それで、ラドンを呼吸で取り込む量が上陸によって増えたから、それによる内部被曝も増えたと思います。
そしてX線とガンマ線(γ線)は、放射線です。紫外線は影になった部分は殺菌できませんが、ともに、物への浸透性が高いので容器に入れたままで内部の食品などの殺菌ができます。食品では、もっとも多く使用されているのが、放射能のコバルト60から発生するγ線です。

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 ガンマ線が、食品に照射されると電離作用で、食品中の物質が変化、壊されます。それが微生物のDNAならDNAを傷つけられて微生物が死滅するわけです。人間に照射しても同様です。放射線の照射量は、照射によって物質に吸収されたエネルギー量で示されます。放射線によって1キログラムの物質に1ジュールの放射エネルギーが吸収されたときの吸収線量を1グレイ(gray、記号:Gy)と表します。10kGy(キログレイ、千グレイ)は、1kgの食品(1リットルの水)の温度を2.4℃上昇させるエネルギー量です。

 私たち人間など哺乳動物のガンマ線の致死線量は、5~10Gy、細菌の胞子で10,000~50,000Gy、ウイルスで10,000~200,000Gyです。なんと私たちの脆いことか!赤外線で10Gyの相当する熱エネルギー、1リットルの水の温度を0.0024℃上昇させるエネルギーを赤外線であびても私たちは何も感じないでしょうが、ガンマ線なら死んでしまいます。
マイクロ波は電子レンジのように物を暖めます。解凍や加熱調理に使っています。100万倍も強い、大きいエネルギーをもったガンマ線の光子がぶつかるのですから、食品の成分物質や細菌などは“温められる”ではなく“壊され”ます。
 
引用=マイクロシンメトリーという微視的な線量吸収を計測する分野での研究によると、たとえばエックス線やガンマ線などでの1mGyは、直径8μmの細胞核に平均して1本の飛跡が通る量になります。飛跡が1本通った時、細胞内に引き起こされる障害は、・・(中略)・・一般に使われる診断用エックス線1本の飛跡のエネルギーは、体を構成する物質の結合エネルギーの1万5000倍から2万倍もありますから、1本飛跡が通ると複雑な電離を起こし、DNAの損傷を起こします。=崎山比早子(科学、岩波書店、2009年6月)


 我々の自然状態では宇宙線、宇宙から来る放射線で被曝しています。月地表面で100~500mSv/年、火星で70~300mSv/年で、宇宙空間で1日当たり1mSv位です。月の表面で1年間に受ける宇宙線(放射線)の量は、地球地上で浴びる宇宙線の300?1400倍です。宇宙空間や太陽から降ってくる、高いエネルギーを持ったX線、ガンマ線や電子や粒子です。粒子の約90%は水素の原子核の陽子が飛んでいる陽子線で約8%がヘリウムの原子核が飛んでくるアルファ線、重い鉄などの原子核が飛んでいる重粒子が約1%です。また、放射線に分類されませんが紫外線の被曝も多い。
 この宇宙線が、地球に侵入すると大気の様々な気体分子と衝突します。そして、新たな放射能・炭素14などができたり、γ線やβ線が多数生成(2次宇宙線)します。この2次宇宙線のγ線やβ線を被曝します。陽子線の生体に与える影響(線質係数)はγ線やβ線の5倍、アルファ線は、生体に与える影響(線質係数)がγ線やβ線の20倍。高地、高空では大気層が薄くなりますから、陽子線など生体に与える影響大きい宇宙線が多くなり、概ね宇宙放射線の線量強度が1,500m刻みで2倍になります。約25km以上の高度から気体分子と衝突もおきなくなり2次宇宙線がなくなります。
 宇宙線は水深1000m相当の深さでも検出されるものもあり、紫外線の一部は1000m付近まで届きます。つまり、太陽の光が余り届かない深い水域が宇宙線や紫外線被曝では安全です。生命誕生の舞台が水深数百mの静かな海の底だったのは、宇宙線を水深で遮蔽できたからと考えられています。つまり、当時の浅い海での宇宙線や紫外線被曝には対処できないが、カリウム40などによる被曝でできる損傷を、子孫を残せる期間は生き延びられるように修復できる能力をもった者が繁栄したのです。
 時がたつにつれて、カリウム40などの量は崩壊で減っていきます。30億年前ではカリウム40は現在の約8倍から約5倍に減り、ウラン235は現在の43~52倍から約20倍に、ウラン238は現在の約1.8倍から1.6倍に減っています。余力が生まれた修復能力で宇宙線など被曝にも対処できるようになり、宇宙線が多いが注ぎ込む太陽光のエネルギーを利用できるより浅い所に進出します。太陽光のうち赤い波長は水深10mほどで100%減衰しますが、緑色や青色の波長のは減衰が35%程度が緑色や青色の波長の光を吸収利用する紅色細菌があらわれます。
 地球の冷却によって28億~27億5千万年前に、地球内部のコアに強い地電流が発し強い地磁気が発生するようになりました。地球が一個の巨大な磁石のようになり地球の外側の周囲に磁気圏が作られました。宇宙線の粒子線は原子核ですからプラスの電荷を持っています。高速で飛んでくる電子はマイナスの電荷を持っています。運動する電荷は電流が流れているのと同じですから、磁場を作ります。この磁場と地球に出来た磁気圏の相互作用で、宇宙線の多くの部分、荷電粒子は地磁気線に沿って周回運動を繰り返しながら、一部はオーロラを出現させて、マイナスの電荷の電子は東方向に陽子などプラスの電荷をもつものは西方向に拡散し多くが到達しなくなりました。

 宇宙線被曝が減りました。現在の地磁気がゼロになり磁気圏がなくなると、世界平均で宇宙線被曝が倍増すると試算されています。現在の海上では、1年で0.26mSv程度です。浅く太陽光が燦々と降り注ぐ浅い海に生命が進出できます。浅い水深では、赤い波長も減衰が少ない。水深1メートルで赤い波長の減衰は約30%、青と緑の波長は約5%です。それで赤い波長と青い波長を吸収利用し、緑の波長は反射するつまり緑色に見える葉緑素で光合成を行うジアゾバクテリアが繁殖します。
 光合成は酸素を作り出し、海水中の酸素濃度が高まります。酸素は化学的活性が強いので、呼吸でより多くのエネルギーを取り出せます。しかし、活性酸素といわれる形態は、生物を傷つけます。酸素呼吸では1~2%の酸素分子が活性酸素になります。放射線は生物のDNAなどを直接切断する損傷と水を分解し水素と活性酸素を作り出し、その活性酸素が傷つけるという二つの経路で生物を傷つけます。環境に海水中に酸素が豊富に含まれ、酸素呼吸が盛んにすれば、後者の活性酸素損傷の経路が昂進することです。
 環境が酸素豊富に変って、3つの適応パターンになっています。一つは酸素があると死滅する嫌気性、一つは酸素がなければ生存できない好気性、その中間の酸素が有っても無くてもOKの条件的嫌気性。好気性はカタラーゼなどなどの活性酸素を無毒化する酵素を持つように進化した生物です。それでも、活性酸素は無害化しきれない。磁気圏の形成で放射線被曝での損傷を修復する能力に余力が生まれたましたが、新たな負荷、酸素呼吸で発生する活性酸素がかかり活用されている。
 海中から大気中に出た酸素が現在の十分の一、約2%になると高空にオゾン層ができはじめます。約4億~4億5千万年前にオゾン層で太陽光の紫外線、特にDNAを損傷するUVC(波長280~100ナノメートル)が完全に、UV-B(315~280ナノメートル)は一部、遮断されるようになります。そして生物が上陸します。
上陸によって放射線被曝はどう変化したでしょうか?外部被曝は増えたのではないかと思います。カリウム40のβ線は、水中にでは約1センチほどしか飛びません。γ線も約1mです。陸上ではβ線は大気中を約10mほど飛びます。γ線は約100mです。水中では、半径1mの球形の内部にあるカリウム40などの出す放射線で外部被曝します。上陸すると、半径約100mの大地から出るγ線と10m以内のβ線を浴びることになる。宇宙線も水中にいれば、水で遮蔽・減衰します。
 この約4億年前時点でカリウム40などは随分減っています。カリウム40は生命誕生時に現在の8倍ありましたが1.25倍に減り、ウラン235は現在の43~52倍位が1.5倍位に、ウラン238は現在の約1.8倍から1.06倍に減っています。これらによる内部被曝は、この減少で減っています。しかし、ラドン222の呼吸による内部被曝は増えたと思います。
 2007年に海洋地球研究船「みらい」の観測航海で水深4.5mの海水ラドン濃度が測られています。1.5~0.5Bq/?で「風速が弱いと1.5Bq/m3 と大きく、表層海水中ラジウム濃度1.6 Bq/m3とほぼ等しい。」「風が強くなると海洋表層の混合層が発達して、海水中ラドンが大気に散逸するため」のラドン欠損現象・低下が見られました。新潟県放射線環境センターの柏崎刈羽地域での調査では、ラドン濃度は夏から秋に高く冬低い季節変動を示し、月平均値で 4~8 Bq/?の範囲です。つまり、陸上の大気中の方が、海水中よりもラドン222濃度が大きい。それで、ラドンを呼吸で取り込む量が上陸によって増えたから、それによる内部被曝も増えたと思います。


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