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生物兵器と遺伝子組み換え(1) 2001年 [遺伝子技術]

2001年9月小針店で印刷・配布した「畑の便り」の再録

遺伝子組換え作物の兄弟に、生物兵器、病原性を人為的に高めた人間や家畜、農作物の病原体、それをミサイルなどでばら撒き伝染病を流行させる生物兵器があります。
遺伝子組替え「技術」は、ウイルスなどの持つ、細胞に遺伝子を入れ込み組み込ませる能力を利用したものです。人間の遺伝子治療では、白血病ウイルスや肝炎ウイルス、作物(植物)には、瘤(こぶ)病をおこすアグロバクテリウムが用いられます。病原性の遺伝子を除いて、ガン細胞を自殺させる遺伝子や殺虫毒素を作る遺伝子などをこれらのウイルスに組み込み、細胞に運ばせ入れ込み、組み込ませるのです。病原性を強めるための遺伝子を入れたら、生物兵器というわけです。

 生物兵器自体は、昔からあります。日本では陸軍の731部隊・石井部隊がよく知られています。近年、遺伝子組み換え技術など最新のバイオテクノロジーや遺伝子解析・分子生物学などの知見の応用で、より強力な使いやすい生物兵器が作られるとの懸念が強まっています。またオウム真理教は致死性のボツリヌス菌や炭疸(たんそ)菌の散布を計画していました。このようなバイオテロリズムも心配されています。

 そこで生物化学兵器禁止条約を強化・補足して実効性のある取締りの仕組みを作る多国間交渉が行なわれてきました。ところが、ブッシュ政権の米国の反対で、8月4日に生物兵器開発を取締まる交渉がご破算になりました。この間の経過から、今、遺伝子組み換え推進、組み換え作物の実用化を急ぐことの社会的意味合いを考えてみたいと思います。

ネズミ用生物兵器を開発したら起きたこと

 オーストラリアの穀倉地帯では、約3年おきに甚大なネズミの被害が出ます。それでオーストラリアの有害動物コントロール協力センターはオーストラリア国立大学医学部と共同で、遺伝子組換えによってネズミの不妊化するウイルスの開発を行いました。ネズミ向けの「生物兵器」の開発です。

 ネズミにおける天然痘、マウスポックス(マウス痘)ウイルスを組換え親にしました。このマウス痘ウイルスは感染すると、急速に広がるため、動物実験施設ではとくに監視が必要とされるウイルスです。このウイルスに、ネズミの精子に免疫反応を起こさせるための遺伝子(ネズミから採られた)を組み込む、するとこの組換えウイルスに感染した雌のマウスは精子を異物・病原体と認めて免疫反応を起こし、卵子との結合・受精が行なわれない、不妊化するという目論見です。

 ところが、最初に作られた不妊化組換えマウス痘ウイルスでは、十分な効果・不妊化が起こらない。そこでもう一種の遺伝子を加える、精子を排除する免疫反応を増強する働きのネズミ由来の遺伝子も組み込むことにしました。手始めにマウス痘ウイルスに、免疫反応を増強する遺伝子だけを組み込んだウイルスを作り、感染させてみました。

 すると、このウイルスに感染したネズミは九日以内に死にました。予めマウス痘ウイルスのワクチンを与え免疫を付けたネズミ、マウス痘ウイルスに遺伝的に抵抗性があり発病しない系統のネズミまで死んでしまった。免疫に関係する遺伝子を組み込んだだけで、単に病原性が強くなっただけでなく、ワクチンによる獲得免疫も乗り越え、致死的感染を起こしたのです。マウス痘ウイルスは、人にはまったく感染しませんから、今回作られた組換えウイルスが直接影響を人に与えるわけではありません。しかし、人間の病原体、菌、ウイルスに対して、同じように免疫に関係する遺伝子を組み込むことは可能です。作られた組換え病原体も同じように、ワクチン接種も無効になると考えられます。
 
参照⇒生物兵器としての遺伝子組換えウイルス、人獣共通感染症連続講座 第113回
http://www.primate.or.jp/PF/yamanouchi/113.html

 病原菌の遺伝子から、感染症を発病させる仕組みを解明し、その知見から新しい抗生物質をつくる研究が進んでいます。その知見は、発病の仕組みを強化し感染力の強力な生物兵器を誕生させる知識になります。また、同じウイルスや細菌に感染しても発病する人としない人がいます。従来は、体質の違いや抵抗力の差だと考えられてきました。しかし1997年に、エイズウイルスが体内に侵入しても、あるタイプの遺伝子をもつ人は感染しにくいことがわかりました。このような遺伝子のタイプによる感染の違いを解明して、新しいワクチンを開発する研究が進んでいます。その違いの知識を応用すれば、特定の遺伝子のタイプの人々・人種だけに感染する、狙い撃ちにする病原体・生物兵器を作れることになります。

 731部隊の石井四郎中将なら随喜の涙をながすような状況です。それにもかかわらず、米国は生物兵器開発を取り締まる、禁止する実効性のある仕組み作りをぶち壊しました。理由は何でしょうか。 続く


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