SSブログ
作物を丈夫に美味く育てる ブログトップ

硝酸塩汚染と有機農業 [作物を丈夫に美味く育てる]

2002年4月に虹屋小針店で配布した「畑の便り」に加筆・再録

  硝酸塩はハムなどの発色剤として使われています。この硝酸塩が体に入るという発ガン性物質を作ったり、血液が酸素を運べなくします。半世紀ほど前から問題になっていました。そして厚労省の調査では、日本人の摂取量が危険水域に達しているのです。
 硝酸塩・NO3を含む化合物、亜硝酸塩・NO2を含む化合物

ブルーベビー症候群

 硝酸塩は体内で亜硝酸塩に変わリます。この亜硝酸塩は、赤血球のヘモグロビンに酸素よりも結合しやすいのです。ヘモグロビンと結合してメトヘモグロビンに変えます。すると血液は酸素運搬能力を失い、体内の酸素供給が不十分となります。チアノーゼが現れ、酸欠状態となって死に至ることがあります。

  乳児は胃液の分泌が不十分で亜硝酸塩に変わりやすく、中毒症状を起こしやすい。1956年にアメリカで、裏ごししたホーレン草を離乳食として与えたところ、赤ちゃんは真っ青になり、30分もせずに死亡しました。278人の赤ちゃんがこの中毒にかかり、そのうち39人もが死亡しました(ブルーベビー事件)。高濃度の硝酸塩を含んだ井戸水で粉ミルクを溶いたために起きることもあります。日本では死亡例はありませんが、WHOでは1945~85年の期間で、2000の症例と160人の死亡を報告しています。

ブルーベビーs.jpg

  硝酸塩が体内で変化してできる亜硝酸塩は、肉や魚などのタンパク質(アミン)と結合するとニトロソアミンという発がん物質になります。

なぜ野菜が問題なのか

 硝酸塩は、食品添加物として摂取される場合と野菜などに含まれる場合があります。野菜はもともと硝酸態窒素を含有しているものなのです。窒素は、リン・カリウムと並んで作物の三大栄養素。タンパク質合成に必要なものです。植物は土壌中の硝酸態窒素を根から吸収し、葉に溜めてしまう性質があります。

  しかし、先ほどのブルーベビー事件まで、その毒性は問題になりませんでした。第二次大戦後、化学肥料、農薬などの多投により食糧生産を増やしました。その化学肥料多投で土壌中に大量の窒素分が入り込みました。作物は土に過剰にある窒素をどんどん吸収し、成長に必要な量以上の硝酸塩が葉に過剰に蓄積することになりました。野菜などは窒素過多になり、その結果が、裏ごしホーレン草を食べて赤ちゃん死亡となるわけです。硝酸態窒素を大量に蓄積した野菜は、味も良くありません。吸収されずに土壌に残留した窒素は、地下水に流れ込んでいき、汚染の原因となります。環境庁の調査では、井戸の4.7%で環境基準を超えていました。

日本人の摂取量は危険水域

WHOの決めた安全基準は、1日当り体重1kgにつき硝酸態窒素3.5mg(体重50kgの人で0.175g)です。厚生労働省の調査では、日本人の摂取量はこれを超えています。危険水域に達しているのです。

  1976年から97年までの東京都の含有量検査では、全体の平均値でも2.6g/kg。最高値はチンゲンサイで16g/kg。このチンゲンサイでは、大人はたった葉2~3枚を食べると、安全基準値を超えることになります。体重10kgの乳幼児なら、1枚の半分でしょうか?

  確かに、健康増進・維持には野菜が欠かせません。しかし、体内で発ガン物質が大量にできたり、赤ちゃんが酸欠になるのも願い下げです。自衛の方法の一つが、有機野菜を選ぶことです。

976310ce.jpg

 ◎有機野菜は普通栽培の約半分

 有機野菜と慣行栽培を比較すると慣行栽培野菜は有機栽培の約2倍の値が測定されています。

   慣行栽培(g/kg) 有機栽培
   小松菜  1.66  0.92
 ホーレン草 1.69  0.86
 レタス    1.46  0.73

農薬や化学肥料を使い短期促成野菜された野菜に特に多い傾向がみられます。

 なぜ有機農業では低いのか

森林など自然な状態では、落ち葉や動物遺骸、糞などの有機物を、土壌の微生物が分解し、その際に窒素分が硝酸態窒素の変わり、植物に吸収されます。森の木々は、根から養分を微生物に与え、代償に硝酸態窒素を得る共生関係まで作っています。落ち葉などの分解は緩やかに進み、窒素分の硝酸態窒素の変化も緩やかに進みます。緩やかに少量づつ出来るものを植物を吸収し、時間を十分にとるため窒素はタンパク質に十分変化でき、硝酸態窒素として残留しにくくなります。有機農業では、落ち葉などが堆肥に変わるだけで、基本的には変わりません。(ただし、過剰に施肥すると問題が起きます。食品リサイクル法で大量に出てくる堆肥の行方が気がかりです。)

sizentokankou.jpg


人間の腸内フローラ(菌叢)と作物の菌根 [作物を丈夫に美味く育てる]

2004年6月15日小針店で印刷・配布した「畑の便り」再録

 ヨーグルトなどで腸内に棲む細菌、腸内細菌をコントロールする健康法が流行っています。人間の腸には、大腸を中心に100種類以上の細菌が住み着いていて、数はざっと100兆個。人の細胞は約1兆個ですから、その膨大さに驚かされます。これまで例えば脳死のように、私たちの自己イメージは主に意識や心で、形のある身体は軽視されたり、無視されてきました。ましてや体に棲む微生物は、病気にもならない限り意識されませんでした。病原菌は、外から来て一時的に住み着いた菌。100兆個の常在菌を同様に善玉、悪玉と分けるのは首を傾げますが、共生している微生物によって健康を維持しています。

  ところで、野菜、果物などの作物、植物も、腸に当たる根に多種多数の微生物と共生しています。例えば、日本の秋の味覚、マツタケも赤松の根にすむマツタケ菌です。胞子を出すためにつくる子実体を食べます。生きた赤松の根にしか共生しないので、栽培が出来ないのですが、こうした植物・作物と微生物の共生は、消費者の方にはよく知られていません。人間の健康に腸内細菌の腸内フローラ(菌叢:きんそう)が深くかかわっているように、作物の健康・病害に根部の共生微生物が深く係わっています。それを、化学肥料の多用や農薬が壊してしまいます。ヨーグルトなどで腸内菌叢(きんそう)を良くしようとしますが、作物では堆肥がそれにあたります。 

根から養分を与え土壌微生物を養う
 
 私たちの皮膚や腸などに共生微生物が棲んでいますが、皮膚では1センチ四方に数千から数万ですが、腸内では1gあたり100億位と数が場所によって違います。植物では茎や葉など地上部は栄養分が乏しく、水分も不足がち。決して住みよい環境ではないので、葉面に生息する細菌の数は1cm2当たり千個から1万個程度。これに対して根のある土の中では、1gの土には億単位の数の細菌が生きています。また、DNAを用いた計測によると、1gの土の中には数千から一万種のバラエティに富んだ細菌が生息しています。
 
 
hatake1.jpg
 腸内の数が多いのは、食物で栄養が豊富だからですが、土でも植物の根は種々の有機物を分泌するので根の周辺に存在する微生物は数も種類も多いのです。ある調査では細菌数を見ると、根の張っている根圏部の方が根のない対照土壌の240倍、また糸状菌類は12倍。細菌の中でも窒素固定菌は1,700倍以上、脱窒菌は1,260倍、アンモニア化細菌は125倍存在しています。
 
  植物は、根から糖、アミノ酸、ビタミン、タンパク質(各種酵素類)などを分泌しています。総量で地上の葉で光合成される量の5~10%前後といわれています。根の細胞から漏れてくるものもあれば、根の細胞の間に入り込んだ菌、菌糸に与えている場合もあります。これは養っているという方が的確ですが、このように根の張っている根圏部には多種多数の土壌微生物が生息して、植物に様々なお返しもしています。よく言われるのは、「水分、養分吸収の補助」「病害抵抗性の向上」です。  
 
森にきのこが多いわけ 菌根は当たり前、ないのは異常

 この植物の根と菌類とが作る共生体を「菌根」といいます。ほとんどありとあらゆる陸上植物の根は、自然状態では菌根で、特に樹木に菌根はあって当たり前、ないのは異常です。
 
kinkon-paint1.gif
  樹木は菌根なしではまともに生育できません。これは南半球にマツを植林したときに問題になりました。もともとマツは南半球には分布しないので、南半球にはマツの菌根菌がいなかったのです。最初はうまく定着しませんでした。ところが原産地で共生していた菌根菌を根につけて移植したところ、初めてマツの植林が成功するようになりました。きのこの菌糸が養分を能率良く吸収し、病原菌を根に寄せ付けず、木を助けたからだといわれています。こうした樹木の菌根菌が胞子を出すために作る子実体=きのこを、時季になると我々は楽しめます。
 
  また大豆もそうです。大豆は、わずかの肥料でよく育ち、しかも大量に生産することができます。その秘密は根にあるコブで、ここに根粒菌と言うバクテリアを共生させ、生育に必要な窒素を自給しています。日本や中国、アメリカの土壌には元々この大豆につく根粒菌が存在していますが、ヨーロッパの土には存在しません。1691年(元禄4年)から2年間日本に滞在したオランダの植物学者ケンペルがヨーロッパに持ち帰り、栽培を試みましたが失敗。大豆は「畑の肉」と言われるほど高い栄養素を含んでいるので、ドイツなどで栽培を幾度も試みましたが、残念なながら失敗に終わりました。今では根粒菌を栽培地に持込む技術が確立し、大豆は冷涼な風土を好むものの、北緯50度の寒冷地から赤道沿いの熱帯まで栽培が可能となりました。 
 

サツマイモ、サトイモの冬の保存・・低温障害 [作物を丈夫に美味く育てる]

里芋は東南アジア、マレー半島が原産地。サツマイモは南メキシコや中央アメリカ原産。ともに暖かい土地に適した植物で、寒さには強くないのです。今のような気温にあたると腐れが多発します。


サトイモの貯蔵は10℃位が良いとされています。実験的には土を落とし塩素消毒すると0℃でも腐れが殆ど出ず、生きているので種芋にも使えます。腐れをみせたサトイモを切ると殺菌等の生理活性をしめすポリフェノールが凝集し赤い斑点を作っていることが多い。また検査で腐敗芋でも組織は生きていること等から、寒さで外菌の侵入を抑える働きが弱まり、侵入された細胞の自発的細胞死が多くなり腐れと現れると考えられています。 参照

 サトイモは適度な泥が付いており、少し湿り気のあるものが購入では選ばれますが、この湿った泥に侵入する菌がいるわけです。土を落とすと乾燥が進みます。この点に気をつけて芋の外菌を少なくしておけば、腐敗が少なくできるのではと考えられます。また中心部までは侵入⇒腐敗が進んでいることは少ないので、削り落として使えます。


オゾン殺菌をしたサツマイモ

サツマイモの貯蔵は、温度13~15℃、湿度85~95%が適しています。
また、産地では収穫後干したあと、3~4日間、温度30~33℃、湿度90~95%に保ち、その後一気に冷やし 約13度で貯蔵します。これで、収穫時に傷のついたところ、茎をとった傷口にコルク層(傷を覆う組織)形成が促進され、貯蔵中に病原菌の侵入が少なくなり、腐れがすくなくなります。この処理のことをキュアリングといいます。ただ、皮の色が退色します。



処理温度40℃、湿度100%で1.5日間処理する。この高温処理によって黒斑病、潰瘍病菌は死滅しさつまいもの生菌数は約1/2に減少します。傷口にはコルク層が2~3層形成されます。


クリックで拡大

コルク細胞は死細胞ですから、傷口に覆ったコルク層から時間がたち寒くなり乾燥するとと脱落します。貯蔵温度が適正で湿度100%で空気の流れの無い雰囲気下がさつまいもを生き生きした状態に保ちます。コルク層の裂け目切れ目から病原菌の侵入がおき、侵入された細胞が自発死や菌の働きで腐れを呈します。中心部までは侵入⇒腐敗が進んでいることは少ないので、削り落として食べれます。

また、寒さにあたることでデンプンが糖化し甘みが増します。
寒さは、サツマイモには痛し痒しです。

作物を丈夫に美味く育てる ブログトップ