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人間の腸内フローラ(菌叢)と作物の菌根 [作物を丈夫に美味く育てる]

2004年6月15日小針店で印刷・配布した「畑の便り」再録

 ヨーグルトなどで腸内に棲む細菌、腸内細菌をコントロールする健康法が流行っています。人間の腸には、大腸を中心に100種類以上の細菌が住み着いていて、数はざっと100兆個。人の細胞は約1兆個ですから、その膨大さに驚かされます。これまで例えば脳死のように、私たちの自己イメージは主に意識や心で、形のある身体は軽視されたり、無視されてきました。ましてや体に棲む微生物は、病気にもならない限り意識されませんでした。病原菌は、外から来て一時的に住み着いた菌。100兆個の常在菌を同様に善玉、悪玉と分けるのは首を傾げますが、共生している微生物によって健康を維持しています。

  ところで、野菜、果物などの作物、植物も、腸に当たる根に多種多数の微生物と共生しています。例えば、日本の秋の味覚、マツタケも赤松の根にすむマツタケ菌です。胞子を出すためにつくる子実体を食べます。生きた赤松の根にしか共生しないので、栽培が出来ないのですが、こうした植物・作物と微生物の共生は、消費者の方にはよく知られていません。人間の健康に腸内細菌の腸内フローラ(菌叢:きんそう)が深くかかわっているように、作物の健康・病害に根部の共生微生物が深く係わっています。それを、化学肥料の多用や農薬が壊してしまいます。ヨーグルトなどで腸内菌叢(きんそう)を良くしようとしますが、作物では堆肥がそれにあたります。 

根から養分を与え土壌微生物を養う
 
 私たちの皮膚や腸などに共生微生物が棲んでいますが、皮膚では1センチ四方に数千から数万ですが、腸内では1gあたり100億位と数が場所によって違います。植物では茎や葉など地上部は栄養分が乏しく、水分も不足がち。決して住みよい環境ではないので、葉面に生息する細菌の数は1cm2当たり千個から1万個程度。これに対して根のある土の中では、1gの土には億単位の数の細菌が生きています。また、DNAを用いた計測によると、1gの土の中には数千から一万種のバラエティに富んだ細菌が生息しています。
 
 
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 腸内の数が多いのは、食物で栄養が豊富だからですが、土でも植物の根は種々の有機物を分泌するので根の周辺に存在する微生物は数も種類も多いのです。ある調査では細菌数を見ると、根の張っている根圏部の方が根のない対照土壌の240倍、また糸状菌類は12倍。細菌の中でも窒素固定菌は1,700倍以上、脱窒菌は1,260倍、アンモニア化細菌は125倍存在しています。
 
  植物は、根から糖、アミノ酸、ビタミン、タンパク質(各種酵素類)などを分泌しています。総量で地上の葉で光合成される量の5~10%前後といわれています。根の細胞から漏れてくるものもあれば、根の細胞の間に入り込んだ菌、菌糸に与えている場合もあります。これは養っているという方が的確ですが、このように根の張っている根圏部には多種多数の土壌微生物が生息して、植物に様々なお返しもしています。よく言われるのは、「水分、養分吸収の補助」「病害抵抗性の向上」です。  
 
森にきのこが多いわけ 菌根は当たり前、ないのは異常

 この植物の根と菌類とが作る共生体を「菌根」といいます。ほとんどありとあらゆる陸上植物の根は、自然状態では菌根で、特に樹木に菌根はあって当たり前、ないのは異常です。
 
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  樹木は菌根なしではまともに生育できません。これは南半球にマツを植林したときに問題になりました。もともとマツは南半球には分布しないので、南半球にはマツの菌根菌がいなかったのです。最初はうまく定着しませんでした。ところが原産地で共生していた菌根菌を根につけて移植したところ、初めてマツの植林が成功するようになりました。きのこの菌糸が養分を能率良く吸収し、病原菌を根に寄せ付けず、木を助けたからだといわれています。こうした樹木の菌根菌が胞子を出すために作る子実体=きのこを、時季になると我々は楽しめます。
 
  また大豆もそうです。大豆は、わずかの肥料でよく育ち、しかも大量に生産することができます。その秘密は根にあるコブで、ここに根粒菌と言うバクテリアを共生させ、生育に必要な窒素を自給しています。日本や中国、アメリカの土壌には元々この大豆につく根粒菌が存在していますが、ヨーロッパの土には存在しません。1691年(元禄4年)から2年間日本に滞在したオランダの植物学者ケンペルがヨーロッパに持ち帰り、栽培を試みましたが失敗。大豆は「畑の肉」と言われるほど高い栄養素を含んでいるので、ドイツなどで栽培を幾度も試みましたが、残念なながら失敗に終わりました。今では根粒菌を栽培地に持込む技術が確立し、大豆は冷涼な風土を好むものの、北緯50度の寒冷地から赤道沿いの熱帯まで栽培が可能となりました。 
 

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