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お醤油の白いカビと糠床・・産膜酵母 (2013/05) [調味料ー味噌、醤油]

2010年8月小針店で印刷・配布したものに加筆

世にお酒、味噌、醤油、酢、梅干や糠漬など漬物など発酵食品は数多くあります。その発酵の途中で、味噌や醤油だと台所で保存中に味噌ダルや醤油ビンの中で、空気に触れている表面に、それを覆うように膜状や塊ができる事があります。これは産膜酵母(産幕酵母)。

酸素と微生物

  お酒はアルコール、味噌には塩分、糠漬では乳酸と微生物の繁殖には悪い条件があります。それに耐えられる菌で、処かわれば品かわるで、各々の菌の種類は別です。が、表面で空気に触れているところ、つまり酸素があるほうが好きな菌です。

 酸素は化学的活性が強いので、過酸化水素、スーパーオキシドなど活性酸素のように細胞毒性が強く生物を害する働きもしますし、酸素を使う代謝=呼吸では同じ量の糖分から19倍もの多いエネルギーを得る事ができるなど利用性が高い分子です。

地球上に昔々、30億年??まえにシアノバクテリア藍藻類が誕生する前は、大気や海水中にはほとんど酸素が含まれていませんでした。その当時の生物は、といっても微生物だらけですが、酸素なしで代謝して生きていく仕組みです。シアノバクテリアは太陽の光のエネルギーで水と二酸化炭素から糖分を作り、その廃棄物として酸素を吐き出します。このシアノバクテリアと細胞内共生をした10億年前の生物が植物のご先祖。また大気中の酸素から、オゾン層が形成され、紫外線がブロックされるようになり、生命の地上進出できました。

 シアノバクテリアによって酸素濃度が上昇しますが、濃度が濃いところ薄いところ、濃い時期、薄い時期と様々です。それで、酸素、使い手はあるが危険な分子に生物は様々な適応をしています。微生物たちは、次のように酸素に適応しています。

① 元々の酸素がない状態での代謝のままで、酸素は不要で、むしろ酸素の酸化力に弱く、完全無酸素状態でないと生育を示さない、酸素が有ると死滅するグループ(偏性嫌気性

酸素がない状態での代謝と酸素を使う呼吸の二通りの生理システムを持ち、酸素がないと死滅する

② 10~20%(通常の大気の酸素)酸素存在下で生育可能な、つまり酸素がないと死滅するグループ(偏性好気性

③ 酸素分圧が2~10%の環境で生育を示し、かつ、10%以上だと生育しない、そして酸素がないと死滅するグループ(微好気性

酸素があっても、なくても死滅しない
④ 酸素が全くない完全嫌気でも、通常の大気の20%酸素でも、それ以下の酸素分圧でも増殖するグループ(通性好気性

このように大きく4つの適応のパターンがあります。

 また、味噌や醤油や漬物は、塩を加えます。微生物は、塩がないと増殖できない好塩性微生物と塩がなくても増殖できる耐塩性に分けられます。
多くの微生物は、塩分1.2%が増殖に最も適した塩分濃度で、それ以上塩が多いと著しく増殖が抑えられたり、死んでしまいます。

糠床の微生物たち

米ぬか、塩、水を合わせて、味噌状になるまで練った糠床。一番上の表面は、酸素20%の大気に触れています。ですから、ここに繁殖できるのは偏性好気性や通性好気性です。

 中に入ると酸素が減りますから、微好気性や通性好気性。糠床に野菜を漬けると、野菜表面に付着した乳酸菌や酵母が、ぬか床の塩分によって引き出された野菜の養分や糠をエサにして大繁殖します。乳酸菌は微好気性で酸素の少ない糠床の中が大好き、酸味の元となる「乳酸」を作ります。また乳酸菌で酸性になると、大抵の菌は繁殖できません。ですから繁殖する酵母菌は乳酸の酸性と塩分につよい通性好気性で、酸素も使います。それで、糠床中の酸素が減り、糠床の底の方は無酸素状態になり、偏性嫌気性の酪酸菌が繁殖してます。

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 酵母菌は、糖分をえさにしながら、酸素があると各種アミノ酸、ビタミン、脂肪酸などを 「合成」 しますが、酸素がないとアルコール発酵に切り替わり、アルコールを生成します。

糠床の中の酵母菌は、低酸素や無酸素ですから、各種アミノ酸など糠漬けの風味を作る成分を発酵でつくります。しかし、糠床表面の酸素20%の大気に触れている条件では、産膜性が顕れます。乳酸のおかげで競争相手になる微生物がいないので大繁殖、床表面にうっすら白い膜を作ります。そこではシンナーやカビのようなニオイ成分を作ります。

酪酸菌は人間の腸内に生息する善玉菌の一つで整腸剤にも使われていますが、増えすぎるとぬか床を雑巾臭、濡れた靴下のような悪臭にしてしまいます。

 糠床を毎日かき回しますが、それで表面でうっすら白い膜をつくる産膜性の酵母が中に押し入れられ酸素が少ない環境条件になり、酵母の生理活性のスイッチが切り替わって糠漬の良い風味を作る成分を作るようになります。

かき回しで、底の糠が表面に上がったり底まで酸素が届きます。それで、偏性嫌気性で酸素が有ると死滅する酪酸菌の増殖が抑えられます。またそれは、微好気性で少し酸素が有ったほうが好適な乳酸菌の繁殖を助けます。

 乳酸菌が繁殖し乳酸が作られることで、赤カビなどの雑菌を防いでいるので、かき回しを怠ると糠床自体がダメになることがあります。

逆に、かき回しすぎて、糠床の酸素の量が多すぎても微好気性の乳酸菌は増殖が抑えられ、酵母もうまみ成分を余り生成しないので美味しい糠漬けになりません。

味噌、醤油、

 雑菌の繁殖を防ぐために、原料を蒸すなど加熱殺菌し、塩を加え塩分に弱い菌の繁殖を抑える、麹など、目的の微生物を予め増やしておいて加え、繁殖を促すなどが行われます。

 まず、仕込み水や麹に含まれる硝酸還元菌が繁殖し亜硝酸が蓄積され、好気性の雑菌の繁殖が抑えられます。
その中で麹菌(麹カビ)が増殖し、でんぷんと大豆たんぱく質を分解します。お酒に使う麹菌はでんぷんを分解する働きが強い菌で、味噌、醤油はタンパク質を分解する力がつよいものです。また、抗菌作用を持つコウジ酸をつくります。麹菌は偏性好気性なので醤油では、仕込みはじめには、発酵を均一にするため頻繁に撹拌します。
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次いで、耐塩性乳酸菌が麹カビが生成した糖分をえさにして繁殖します。乳酸により酸性になって雑菌の繁殖がますます抑えられます。

乳酸濃度が1%になると、乳酸菌自体の増殖が抑えられます。中には死滅する種類もあります。しかし酵母菌には最適な環境となり、麹カビの酵素がたんたんと作り続ける糖分をエサにして、純粋に酵母が繁殖します。酵母は、通性好気性で低酸素や無酸素では、醤油や味噌の香り成分や風味をよくするアミノ酸等合成します。

このように、醤油や味噌の風味を発酵酵母が大きく左右します。タンクを使い密閉するやり方では、県や日本醸造協会などが頒布している酵母を使いますが、古式のたるを使うやり方ですと、発酵させる味噌蔵、醤油蔵の蔵に住み着いている蔵付き酵母が活躍します。

それぞれの蔵の立地や歴史で、蔵付き酵母が違いますから、作る香り成分や風味をよくする成分が違います。それで、醸造元によって違う美味しさになります。
このようにして発酵・醸造が進んで適当な時期に、醤油は絞られ、火入れという低温殺菌処理されて出荷されます。味噌は小分けされ出荷されます。

火入れは、牛乳のパスチャライズと同じく微生物が生き残っていますし、味噌はそのままです。一般品では保存料(防腐剤)を加えてあるので、発酵酵母が増殖することはありませんが、虹屋のように添加していないと、糠床と同じように大気に20%酸素に触れている面で、産膜性を表します。無害ですが、風味や味が落ちます。取り除いて、早めに使い切ってください。

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蔵付き酵母


梅干
梅干で、上になったシソなどに発生する事があります。これは梅酢、強い酸性と塩分の多い梅酢に良く浸かっていない場合が多い。そのままにしておくと、産膜性酵母を足場に赤カビなどが繁殖してくるので、勿体無いですが、捨てます。 



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