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コシヒカリの高温障害と品種改良 [有機農業と飢餓、食料自給]

2019年の8月中旬、新潟県内は台風10号に伴う暖かい空気が吹き下ろすフェーン現象に見舞われ、各地で40度超を記録。この影響で白濁する米が増え、新潟県内の産米の1等比率は34・6%まで落ち込んだ。
農家では、2015年頃から田植え時期を従来のゴールデンウィークから1週間ほど遅らせ、高温による被害の影響を少なくしようとたり、水田の水温を下げるため、なるべく頻繁に水を入れ替えたりする農家もいる。しかし、水は「掛け流しがベストだが、そうすると水がかれてしまう」と限界も感じていた。
新潟大学農学部の三ツ井敏明教授(農学科 応用生命科学プログラム)は、約20年前からの研究で、穂を実らせるイネ登熟期に高温ストレスを受けると、登熟種子中のでんぷんを分解する酵素「α―アミラーゼ」の遺伝子が高発現しα―アミラーゼが増え、デンプン粒が分解され玄米の白濁化が助長されることを突き止めた。これを抑えれば、白濁化(乳白米・白未熟粒)を抑えることができる
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過酸化水素(H₂O₂)は活性酸素種の1つであり、身近な消毒液に用いてる。生体内で過度に発生すると、脂肪酸、生体膜、DNA等を酸化損傷する有害物質であり、細胞死やがん化などの原因になるといわれてる。しかし、低濃度のH₂O₂はシグナル分子(ホルモン、サイトカイン、神経伝達物質など細胞の増殖や分化を制御する働きを持つ分子群)として機能することも知られている。
 それで水稲での働きを調べると、生体を賦活する予備刺激のプライミング(priming)として過酸化水素は、①水稲の高温登熟性が向上させる②稲の光合成能が上昇する③稲の高温不稔が改善させるとわかった。


それで、三ツ井教授は、高温環境下でも収量や品質が低下しないコシヒカリ稲作のためにⒶ高温に強いコシヒカリを育種し、Ⓑその高温耐性コシヒカリに低濃度H₂O₂(過酸化水素)プライミングを施し高温登熟耐性の向上させ、栽培する戦略で取り組んだ。


高温耐性コシヒカリは、コシヒカリの体細胞を培養し、再分化し培養細胞中の染色体数が倍加あるいは低減したり、染色体が欠失、重複、転座などによる変異した細胞から、高温、高濃度CO2耐性を有するコシヒカリの突然変異体を選抜し作出育種した。これにNU1号の系統名を付け、2020年3月9日に品種登録した。鹿児島県、福岡県、新潟県内村上市、阿賀町、新発田市、刈羽村、柏崎市、南魚沼市、上越市などの栽培実証実験では普通のコシヒカリよりも形に異常のない“整粒”の割合が、10~7ポイント高かった。2021(令和3)年、2022(令和4)年の味度(みど)評価では品質最高水準のS評価相当だった。

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さらに、育種したNU1号に低濃度H₂O₂(過酸化水素)プライミングを施し実験栽培した。その結果、形に異常のない“整粒”の割合が約1割多く、成熟していない“未熟粒”は約半分であった。
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