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オメガ3脂肪酸の欠乏、ジャンクフードが暴力的犯罪行為を増やすー英米の研究 2006年 [サプリメント・健康食品]

2006年10月23日小針店で印刷・配布した「畑の便り№06-43」の加筆再録

  先週10月17日の英国の高級紙「ガーディアン」に、人の攻撃的行動、犯罪において栄養の欠陥が中心的役割を演じている事を示唆する幾つかの調査や英国と米国の犯罪者での研究が紹介されました。研究者の一人は、「先進国社会での暴力の大流行は我々が何を食べるか、あるいは食べないかに関連しているかもしれない。ジャンクフードは、我々を病気にするだけではなく、狂わせ、悪行も働かせるかもしれない」と言っています。その栄養は多様なビタミン、ミネラル、必須脂肪酸のオメガ-3系脂肪酸(n-3系)です。  

油脂の分類 特徴 主な脂肪酸 代表的食べ物 代表的な油
飽和・一価不飽和系油 エネルギー源
細胞構成成分
パルミチン酸
オレイン酸など
  ラード油
オリーブ油
オメガ-6系油(n-6系) 体の成長に必須
リノール酸
γ-リノレン酸
バター、肉 紅花油
コーン油
ひまわり油
オメガ-3系油(n-3系) 脳・神経系に必要 α-リノレン酸
EPA、DHA
 海藻、葉菜、根菜、青魚、クルミ、大豆 シソ油
魚油

 

刑務所での摂取試験

  英国と米国の刑務所は満杯状態。定員オーバーも珍しくありません。狭い場所にすべてすし詰めにされ受刑者と受刑者、受刑者と刑務官との暴力、攻撃的行為が多く発生しています。それで、英国の刑務所で総合ビタミン剤、ミネラル、必須脂肪酸を摂らせて見ました。そうしたら彼らが獄中で犯す暴力的攻撃の数が37%減りました。

それらの栄養素を含まない偽薬を与えた受刑者は、相変わらずでした。また摂取試験がおわると元に戻ってしまいました。米国の研究は、オメガ3脂肪酸サプリメントの魚油のピルが攻撃的行動を奇跡的に改善しました。現在、オランダ政府が、こうした栄養剤で受刑者に同様な影響を与えるかどうか大規模な試験を行っています。

  英国の刑務所での試験を主導した監督官は、貧しい食事だけで犯罪という複雑な社会問題が説明できるとは誰も考えないが、今や、「食事と反社会的行動の間には直接的関連がある、悪い食事は悪い行動の原因になり、良い食事はそれを防ぐと絶対的に確信した」そうです。  

 ガーディアン紙 Delayed: the food study that could cut prison violence by 'up to 40%',Guardian,10.17
http://www.guardian.co.uk/uk_news/story/0,,1924017,00.html

 教育改革で荒れた学校を建て直した?魚油

 英国では、学校が荒れています。サッチャー政権の推し進めた教育改革で、「全国統一学力テスト」と国の監査機関による「学校評価制度」、「学校選択制」などが導入されました。安倍首相が高く評価し、教育再生の鑑と考えている改革です。しかしその結果の一面は、義務教育修了資格を持たずに学校を去る子どもが約8%、英語の16歳試験の合格率は41%、怠学(truancy)は毎年100万人以上、学業態度や非行を理由にした期限付き放校処分10万人以上、退学処分1万人以上、さらには、退学処分された者による犯罪の増加など、様々の問題が教育の荒廃として顕れてきています。全国統一テスト(ナショナルテスト)の成績を公表することで学校間を競争させ、教育水準局の査察で学校を格付けした結果、学校が「勝ち組」と「負け組」に分かれ、成績優秀校の周辺には裕福な中産階級家庭が次々と引越してきて学校を独占する一方で、成績の悪い学校が、低所得者層や移民・難民家庭などが集まる地域に取り残されているそうです。地方教育局(教育委員会)の中には、域内の成績の悪い小学校に「6年生(ナショナルテストを受ける11歳児の学年)には一年間、テスト科目以外の授業はしないように」と指導したところもあるという。

  「失敗校」とランク付けられた学校は、「特別措置」下に入り、大量の教師が解雇・辞職し、さらには中央の教育水準局と地方教育局の監視・指導の下で再生計画を提出し、新たなスタッフを雇用するという大混乱状況に追い込まれるのだという。サッチャーを党首に仰いだ保守党でさせ「学校は生きた機関であり、[成績の悪い学校を]名指してさらし者にするとすれば、それは、その学校の子供たちに恐ろしいことを告げることであり、教師のこともまったく無視することです。それは事実上、彼らは敗残者だというに等しいのです。」と今になって批判しています。 

 こうした教育改革で敗残者とさらし者にされた学校、学童が荒れないはずがありません。こうした学校荒廃も一因になって、1997年の総選挙でサッチャー政権は退陣にさせられますが、一度荒れた学校は簡単には元には戻りません。

努力を重ねる校長の1人が、オメガ-3脂肪酸の欠乏が攻撃性と憂うつにはたす役割に関して知り、それ多く含む魚油を使った栄養剤を20週間生徒たちに摂らせてみました。暴れる生徒を拘束する回数が46%下がり、拘束されてから落ち着くのに要する時間が42%下がりました。この摂取試験に参加した全ての子供に、小さいが、しかし、顕著な改良がありました、彼らの慢性的な緊張状態が和らぎ「子供の人生を緩和するように思えました。」

ガーディアン紙
 Omega-3, junk food and the link between violence and what we eat,Guardian,10.17
http://www.guardian.co.uk/science/story/0,,1924153,00.html
'John was very aggressive. The change in him was marked',Guardian,10.17
http://www.guardian.co.uk/uk_news/story/0,,1923949,00.html 

 生化学的なメカニズム
 
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 米国の研究者Hibbelnは、脳の生化学と脳細胞膜の生物理学を理解しているならば予想できる結果だといっています。

オメガ3系脂肪酸(n-3系)は必須脂肪酸と言われています。脂肪は脂肪酸とグリセリンが結合して出来ています。人間を含めて動物は、自身の生理代謝過程に必須であっても、自身で合成できない脂肪酸を幾種類か持っています。そのため、多くの動物がそうした脂肪酸を合成できる植物、菌類などを食物として摂取したり、これらを食べて含んでいる動物を食べて必要を満たしています。欧米では必須脂肪酸を分子構造で区別して、オメガ-6、オメガ-3と呼びます。『ω・オメガ』とはギリシャ語アルファベットの最後の文字ですから、オメガ-3とは脂肪酸の端から数えて3番目の炭素に2重結合があるという意味です。リノール酸の系列がオメガ-6で、アルファ・リノレン酸系列の脂肪酸がオメガ-3です。日本ではn-6系、n-3系と言います。

脳は脂肪を60%(乾重量)含み、それにはオメガ-3系列の脂肪酸が多く存在しています。脳は神経細胞の塊ですが、その神経細胞の細胞膜にこのオメガ-3系列の脂肪酸が多く含まれています。体内のオメガ-3系列とオメガ-6系列のバランスが崩れ、オメガ-3系列の脂肪酸が不足になると、オメガ-3系列の脂肪酸が少ない細胞膜が作られます。そうした神経細胞では、機能に変化が見られます。神経の末端から神経伝達物質が分泌され、それが他の神経に結合して神経細胞間のコミュニケーションが行われています。それに変化が見られます。動物実験研究で、オメガ-3系脂肪酸が親と仔の2世代にわたって与えられなかった仔は効果的に伝達物質のドーパミンとセロトニンを神経分泌できなくなることが知られています。

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神経伝達物質システムが効率的に動作しないと何が起こるかを調べた多くの研究から、セロトニンの低レベルが自殺、憂うつ、および激しくて衝動的なふるまいの増加を招くことが知られています。ドーパミンは脳で報酬(快状態)系の過程に関わり、学習の強化因子として働いています。私たちは周囲の環境にに適応し、学習しながら、生活するすべを会得していきます。言ってみれば人生は学習の連続です。ドーパミンを使う神経はニューロンは大脳基底核とそれに指令を与える大脳皮質で働いています。そこでは技能を磨いたり、次第に行動を習慣化したり、そのような個々の行動をどのような順番に組み合わせて行動を起こすかを企画したり、戦略を練ったりする働きをしています。

幼子の成長を顧みれば、駄々をこねたりする攻撃的行動で不快な状態を解決しようと行動から、言葉を使ったりするなど攻撃的行動に頼らずに問題(不快状態)を解決する行動を学習していきます。攻撃的行動をとると罰則が与えられ不快になるからやらない方が快適という報酬(快状態)系が関わる学習と言葉など非攻撃的行動で問題(不快状態)を解決し快状態になれる学習が必要です。ドーパミンが低レベルだと集中力や注意力も失われ、無力感、無気力になったりします。また、次第に人と交わるのも嫌になり、社会から離れていきます。

米国の研究者Hibbelnは 「セロトニンのレベルが低いなら、衝動を抑えることができないか、彼らの感情的な反応を規制することができません。同様に、ドーパミンが低レベルなら報酬を経験することができないで、彼らが賞罰から学ぶことができないということです。」と指摘しています。彼は、オメガ-6系の消費が増え、オメガ-3系列の脂肪酸が不足になっているとも指摘します。

  米国では、2000年にはオメガ-6系の油脂が摂取カロリーの20%。イギリスでは1960年代前半に1%、2000年およそ5%でした。彼と彼の米国国立衛生研究所 (NIH)の同僚は世界38カ国のオメガ-6系の消費と殺人発生率の相関関係を調べ不気味なほど同調している事を発見しました。

魚を食べるのでオメガ-3系の摂取が多い日本などでは殺人とうつ病が低率を保っていると指摘しています。これらのオメガ-6系は主にテイクアウトや出来合いの惣菜などのスナック、チップ、ビスケット、アイスクリームとマーガリンから摂取されています。それで、こうした「ジャンクフードは、我々を病気にするだけではなく、狂わせ、悪行も働かせるかもしれない」と指摘しています。また動物実験から脳が急成長する子宮と人生の最初の5年と思春期でのオメガ-3系列とオメガ-6系列のバランスの崩れ、オメガ-3系列の脂肪酸の不足が永久的に影響するのでは?とも指摘しています。

どう摂取すればよいのか?

この見解を多くの研究者が受け入れ同意しているわけではありません。亜鉛やBビタミンなどは脂肪の代謝に不可欠なので、これらの欠乏が重要な役割を果たしているかもしれません。植物油を固形化する水素添加で作り出されるトランス脂肪酸は、胎児と幼児の脂肪の代謝・合成を阻害しているようなので、そちらを問題視する専門家も多くいます。

これまで解明された食事と攻撃性との生化学と生物物理学的メカニズムは、オメガ-3系脂肪酸の関わりを強く示唆しますが、十分に完全にわかっていません。調査、研究が進められています。疫学的データも、英国の刑務所での試験は信頼性の高い二重盲検法ですが、米国の例や英国の学校での摂取試験は投与したらこうなったという予備試験レベルです。もっと大人数での信頼性の高い疫学的栄養介入試験データを積み重ねる必要があります。

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一部のサプリメント会社はオメガ-3系脂肪酸を含んだサプリメントの摂取で「子供の頭が良くなる、問題行動が減少する」と宣伝しています。しかしそういった薬のような効果の確証はありません。私は、オメガ-3系脂肪酸を摂取させれば子供の頭が良くなる、問題行動が減少するという直線的で短絡的な見方で子供に接する事が問題に思えます。貧しい食事だけで犯罪という複雑な社会問題が説明できないように、オメガ-3系欠乏の食事だけでこうした子供たちを理解できません。例えば学校・教育荒廃を招いたサッチャー政権下の教育改革をお手本に、安部政権が打ち出そうとしている日本の教育改革は子供らにどう影響するでしょうか? 

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オメガ3系脂肪酸は必須脂肪酸ですから、オメガ-3系列とオメガ-6系列(これも必須脂肪酸)のバランスの崩れ、オメガ-3系列の脂肪酸の欠乏が身体の変調、特に脳の構造に変調をきたすであろうと言えます。魚を食べる日本の食生活は、オメガ-3系列の摂取が英米に比べ多く、欧米の摂取基準を上回っています。英米を他山の石に、ジャンクフードなどからのオメガ-6系列の過剰な摂取に注意し、海藻、葉菜、根菜、青魚、ナッツ類などからのオメガ-3系列摂取に心がける。青魚などが食べれない方や調査では摂取量が少ない外食の多い方はオメガ-3系列の多いエゴマ油、亜麻仁(あまに・フラックス)油を食生活に取り入れるなどで十分ではないでしょうか。オメガ-3は中性脂肪を下げ、血圧を安定させて血管を健康にしてくれます。血液を固まりにくくする働きがあるので、心臓病の多いアメリカではサプリメントとして取ることがあります。ただし、多量に取ると人によっては出血が多くなることが起り得ます。

日本人の脂質摂取基準

独立行政法人国立健康・栄養研究所 江崎 治さん

日本人の平均的な摂取量をみると、n-3系(オメガ-3系)脂肪酸のうち、α-リノレン酸が60%、魚由来のEPA, DHA, DPAが40%摂取されています。α-リノレン酸は、しそ油、大豆油、菜種油に多く含まれています。オメガ-3系脂肪酸摂取の下限オメガ-3系脂肪酸も必須脂肪酸であるため目安量の設定が必要となります。日本人の平均的な摂取量の中央値を目安量としています。

  オメガ-3系脂肪酸摂取量が増加すると、虚血性心疾患の罹患率が少なくなることが予想されますが、平均的な日本人のオメガ-3系脂肪酸摂取量は、欧米人で虚血性心疾患の罹患率が最も少くなる最大摂取量より多く、このため、18歳以上男女のオメガ-3系脂肪酸摂取量の中央値を生活習慣病などの疾病罹患率や疾病による死亡率を低くすることができると考えられる摂取量=目標量の下限値としています。

この目標量(下限)は、目安量と同じ値になることから、18歳以上のオメガ-3系脂肪酸食事摂取基準は、目安量として活用しないで、目標量(下限)として用いることとしています。

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オメガ-3系脂肪酸摂取の上限

  この設定に当たって、出血時間、LDL-コレステロール、血糖値、免疫能、過酸化脂質、PAI-1値のそれぞれに対するオメガ-3系脂肪酸の影響について検討を行ったところ、出血時間の延長と血中LDL-コレステロール値増加の危険があることが推定されました。しかし、人における疾病罹患に関する根拠(エビデンス)は十分ではないことから、目標量(上限)は設定されていません。

2005年版「日本人の脂質摂取基準」の読み方 http://www.oil.or.jp/info/html/43/index.html 

2006年10月23日小針店で印刷・配布した「畑の便り№06-43」の加筆再録

 


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