花粉症対策の健康食品で死にかけた和歌山の女性 2007年 [サプリメント・健康食品]
2007年3月5日小針店で印刷・配布した「畑の便り№07-10」の加筆再録
花粉症の時季になりました。杉の花粉や葉を使用した花粉症対策健康食品が売られています。虹屋にも連日のように売込みがあります。その一つで、和歌山の40代女性が飲用した30分後に重いアレルギー症状を起こし、一時意識不明になったとして、厚生労働省が予防の観点から製品名を公表しました。この商品名は「パピラ」で、山形県西蔵王の杉の若い雄花の芽を採取し、蒸気殺菌、乾燥、粉砕し、ゼラチンと共にカプセルに積めた物です。案の定というか予想された事態が起きた、幸い回復して良かったです。
厚労省いわゆる健康食品「パピラ」に係る薬事法上の対応について
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2007/02/h0228-2.html
花粉(エキス)を食べて服用して花粉への抵抗力が作れるのか?
この商品名は「パピラ」で、山形県西蔵王の杉の若い雄花の芽を採取し、蒸気殺菌、乾燥、粉砕し、ゼラチンと共にカプセルに積めた物です。「体の中に花粉を入れて花粉への抵抗力を作るという健康食品」「奇跡の花粉対策商品と呼ばれる『パピラ』で毎年悩まされ続けてきた花粉症にさようなら~。それはまさに奇跡!モニターによる症状改善率91%の実力派花粉対策商品パピラ。花粉に悩まされている男女100名に「パピラ」を摂取していただいたところ、有効回答中91%の方々に症状の消失、または改善が見られました。(2001年調査)今までに6千人以上の人にお飲みいただいた実績があります。」と花粉症に効くと宣伝、0.2g×20カプセルで8000円程度で販売されていました。山形県の調査では、2005年9月頃から販売となっていますから、2001年の100人試験は本当にあったのか、これまで2000箱程度を出荷したそうですから6千人以上の使用者がいるのか、など?が付く点が多々あります。
最大の?は、花粉(エキス)を食べて服用して花粉への抵抗力が作れるのか?と言う点です。他の花粉症対策健康食品にも当てはまる疑問です。
細菌やウイルスなどの異物を撃退する免疫で作られる抗体は、5種類(クラス)あります。外に分泌されるIgA型は鼻、眼、肺、消化管などの粘液中に分泌され、微生物や異種タンパク質にタックルし接合してこれらから侵入するのを防ぐ働きをします。母乳中にもあります。
IgM、IgGは血流中や体組織中にあり侵入してきたウイルスや異種タンパク質に対処します。毒素に接合して働けなくしたり、病源体に付着して白血球が活性酸素で殺す目印・きっかけになります。IgGは母体から胎盤を通じて胎児に移行する唯一の抗体で、新生児の免疫システムが自分で抗体をつくり出す時期まで、母体のIgGが胎児や新生児を保護します。
IgD抗体は血流中に少量あります。その機能はよくわかっていません。
IgEは、白血球の1種である好塩基球や組織の肥満細胞と結合します。寄生虫が侵入を図ると結語した好塩基球や肥満細胞からヒスタミンなど炎症、かゆみなどを引き起こす物質を放出させます。腸でそうなれば下痢が起きて、寄生虫の侵入を防ぎます。皮膚でおきればかゆみ、炎症となり多くの白血球があつまり、寄生虫を撃退する。IgE抗体は進化的には哺乳類で顕れる抗体で、寄生虫の蔓延に備えて、哺乳類はIgEを作って寄生虫をマークし、体内で寄生虫が増えるのを防いでいると考えられています。
花粉症などのアレルギー、直ぐに症状が出るアレルギーは、このIgE抗体が主役です。花粉の成分や卵などの未消化タンパク質を抗原とする抗体が出来て起こります。本来、花粉は無害ですし、卵は栄養です。IgE抗体を作る必要がありません。私たちの体の免疫組織では、こうした異物にはIgE抗体を作らないトレランス(免疫寛容)というコントロールが効いています。アレルギーでは、トレランスが破綻している、不寛容になっている状態です。
例えば、マウスに、卵のタンパク質(アルブミン)を千分の一mgを注射すると、免疫(アレルギー)反応を起こします。ところが、卵を食べると遥かに多い量が未消化タンパク質で入ってきますが、反応はおきません。免疫寛容になります。
つまりどの経路で身体に取り込まれたのかが大きく影響します。からだの表面は皮膚か粘膜で、皮膚は角質の層で覆われていて微生物などの侵入から守られています。粘膜は侵入しやすいので、眼、鼻、口、のど、腸管、気管、気管支、生殖器などの粘膜には、特別な防御のしくみが備わっていいます。特に大きいリンパ組織は腸管関連リンパ組織、気管関連リンパ組織、鼻咽頭関連リンパ組織で相互に関連して働くので、共同粘膜免疫システムと総称されます。その中でも腸管のリンパ組織が影響力が大きい。最も大きい。また腸は異物である食物を栄養として積極的に取り込む働きをします。そして血流にのせて全身に送り出します。また例えば、眼に着いた花粉は、涙液と共に鼻に排出され、その奥から食道に落ちていきます。鼻についたのも同じルートで消化器に達します。呼吸と共に肺に吸い込まれた花粉は繊毛の働きで食道へ排出されます。最終的に腸管に行き着きます。
多くの花粉症では、目や鼻の症状です。つまり眼や鼻に付着した花粉が、水分で発芽し花粉管を粘膜内に伸張します。それで入り込んだスギ花粉のタンパク質の刺激で、鼻咽頭関連リンパ組織では免疫寛容が破綻しているのでアレルギー反応がおき、腸管や気管では免疫寛容が持続しているので反応が起きてません。免疫寛容を復活させれば、根治することになります。
減感作療法と健康食品
農水省はスギ花粉の一部のタンパク質を作るよう遺伝子組換えをした米を「スギ花粉症緩和米」と称して育種し実用化を進めています。2001年には実験栽培に取り組み、2003年頃から「お米を食べて花粉症を防ぐ」といった新聞記事が出るようになりました。現在、パック型に加工して医者から供給する形を想定しパック型加工米を動物に投与して安全性試験を行っているそうです。
スギ花粉のタンパク質から免疫寛容を誘導する部分だけを見つけ出し、7つあるそれを一つのタンパク質に再構成しているそうです。その再構成タンパク質を作る遺伝子を合成しイネ(キタアケ・道北38号)に組み込んだものです。パピラなどスギ花粉の健康食品を摂取すると、アレルゲンタンパク質そのものを摂取することになるが、この組換え米では再構成されたものを摂取することになり農水省らは安全性が高いとしています。
まず効き目、マウスに食べさせた実験では免疫寛容が誘導されマウスに花粉を噴霧してもアレルギー反応が起きないことが確認されています。しかし、これを実際の治療であてはめれば、非花粉症患者(?)があらかじめこのコメを食べておけば花粉症になりにくい、という結果です。それに私たちの身体でも花粉が飛ぶ時季には、鼻や肺から食道に排出された花粉を無意識に食べて免疫寛容がおきてアレルギー反応が起きません。わざわざ食べる必要があるでしょうか?
問題なのは、ある日突然、寛容が目や鼻で破綻することです。このように花粉症になってから治療的に摂取させても、マウスでは効果があるとしています。しかし、この花粉症マウスは、まず腸管内にスギ花粉の抗原タンパク質の一部を精製したものを反応増強剤と共に投与して免疫(アレルギー)反応を起こさせてから、鼻に再注入して花粉症にしています。(マウスにいくら花粉を浴びせても花粉症にはならない)人間とは花粉症のなり方が違います。こうした花粉症マウスで効果があっても、人間で同じように効き目があるとは思えません。
この組換え米を食べて、パピラをとってショック反応を起こした和歌山の女性のように気付かぬうちに免疫寛容が破綻する危険性はないのでしょうか。まずこの再構成タンパク質が新たなアレルゲンとなってアレルギーを起こす可能性がありますが、その点は調査研究されていません。また、組換え米では、遺伝子操作の結果、腎臓病患者やコメ・アレルギー患者にとっては有害なタンパク質グルテリンが増えていることがわかっていますが、これも無視されています。
和歌山の例では摂取量が問題でしたが、この組換え米はどれ位食べれば効果があり、どれ位食べると危険なのでしょうか?農水省は2003年当時は「健康機能性食品」として自由に生産、販売を目論んでいましたが、厚生労働省の反対(食品ではなく薬)で諦め、現在の医者から供給するルートに変更し安全性試験を行っています。それで分かったのは、腸管での免疫寛容の誘導に必要な再構成タンパク質の量は、マウスで1日当たり100マイクログラム以上でした。組換え米1粒に50マイクログラム、コメ1gに2.5mg、コメ1合で約500mg、100マイクログラムの約5000倍含まれています。マウスと人間の体重差を考えても、1合食べて5000倍では摂り過ぎではないでしょうか?
農水省は、このほかにも、生活習慣病の2型糖尿病に効き目があるというインシュリン分泌促進作用を持たせた組換えイネ・米、内臓脂肪の蓄積を抑制する効き目があるという機能性共役脂肪酸を産出するようにした組換えイネ・米やナタネなどの開発を進めています。今の遺伝子組換えは生産者サイドのメリットが大きい。消費者へのメリットを訴えるので遺伝子組換えでも受け入れられやすいのではないかという理由からです。健康機能性作物と称し、食品として大々的な販売を目的に国費を投じて開発を進めています。このような”日の丸”健康食品には、健康食品としての問題点、医薬との境目が曖昧で、効果の有無や安全な摂取量などが不明などの問題があります。さらに、遺伝子組換えの危険性、例えばスギ花粉症緩和米で増えたコメ・アレルギー患者にとっては有害なタンパク質グルテリン、があります。
つまり、遺伝子組換え作物・食品としての安全性評価と医薬品としての安全性評価の二段階が必要ですが、現状では安全性評価の仕組みすら整備されていません。薬をつくる植物の研究・開発は米国など世界各国で進んでいます。
3月3日に米農務省は、抗菌作用のある人間のタンパク質ラクトフェリンやリゾチームをつくる人間の遺伝子を組み込んだコメの商業栽培を基本的に認めました。収穫したコメはその場ですりつぶして有用成分を抽出、ヨーグルトなどの健康食品への添加用や下痢止めの薬として利用する計画で、食品としては当面販売しないようです。米国は、食品としての安全性評価を先送りにして、とにかく実用栽培化を図るようです。
こうした医薬系の遺伝子組換え作物の安全性評価の仕組みを作ることが急がれます。
2007年3月5日小針店で印刷・配布した「畑の便り№07-10」の加筆再録
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