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脂肪を減らす生理活性脂質、痩せる油って?(2002) [油脂ー搾油、栄養、コレステロール]

2002年12月3日印刷・小針店で配布した畑の便りの加筆再録です。

 先日、脂肪を減少させる生理活性脂質を売り文句にしたサブリメント、健康食品の広

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告を見ました。脂質=脂肪ですから、脂肪を摂って脂肪が減るとはタヌキに化かされるような話ですが・・
 
この手の商品で、最も売れているのは「健康エコナ」など脂肪がつきにくい、肥らない油です。花王のエコナは「大豆&菜種生まれ」とあります。普通の大豆油や菜種油などの植物油は、ほとんどが、グリセリンに脂肪酸が3個着いた形の脂肪です。エコナは、それをわざわざ酵素などで分解し、グリセリンに2個の脂肪酸が着いた形に再合成します。人工的に1個脂肪酸を抜いた形にした合成油脂が主成分です。菜種油や大豆油は、3個着いた形が97~98%、2個のものは約1%、エコナは逆で、3個着いた形が20%以下、2個のものが約80%の組成です。
 二個着いた形の脂肪は乳化剤として食品添加物として使われています。綿実油は9.5%含んでいます。しかし2個のものが約80%の組成の油を長期に食べる食経験を人類は持っていません。何が起きるか、健康にどのような影響があるか、今、エコナを使っている人で人体実験中というところです。
11-0121_a_.jpg また「肥らない」という点は、どうかというと、体は摂取カロリーから利用、消費したカロリーを引いた過剰分を脂肪として蓄えます。その脂肪は3個の脂肪酸が着いた形です。摂取カロリーが過剰ならエコナの油も、もう1個脂肪酸をつけて体脂肪にして蓄えます。他の油と同じです。花王も「子供や健康な人には普通に油と同じように作用する」と問合せには答えています。あの広告は一体なんなのでしょう。こういうのを「二枚舌を使う」というのではないでしょうか?ともあれ、健康エコナには、脂肪を減らす生理作用はありません。冒頭のサブリメントは、どんな発見、作用に基づいているのでしょうか。
脂肪、脂肪組織に見つかった新しい生理機能
 従来、体脂肪は餓えに備える為のエネルギー貯蔵の役割を持っているだけ、代謝的に不活発な組織と見なされていました。しかしここ10年余りの間に大きく見方が変ってきています。一つは、脂肪細胞が一種の「内分泌細胞」として、様々ホルモンのような物質(
アディポサイトカイン)を生産・放出していることが判りました。その不足が短命をもたらし、その過剰が様々な生活習慣病の発病に深く関わっていると見られています。(この件は次回以降に)
 一つは、
脂肪(脂肪酸)がホルモンのように働き、脂肪組織が脂質や糖代謝など生体全体のエネルギーバランスの要となっていることが明らかとなってきました。
11-0121_h_.jpg 事の始まりは1990年に行なわれた高脂血症の治療薬の作用・メカニズムを明らかにする研究でした。研究者は、性ホルモンなどステロイドホルモンの作用メカニズムと同じような仕組みで薬が働くのではないかと仮説を立てました。
 その働き方は、①ステロイドホルモンはコレステロールから作られるので脂溶性。それで、血液中から細胞膜や細胞核の膜を通り抜け細胞核の中まで入り込みます。
②核内で特定のタンパク質と結合します。(このタンパク質を受容体といいます。)
③そのホルモン-受容体の結合したものが、核内のDNAの特定の場所に結合し、そこから下流にある遺伝子を呼び起こし働かせます。つまり高脂血症の治療薬が結合する相手の受容体タンパク質を特定し、それが働きかけるDNAの部位を特定し、その下流にある遺伝子を探れば、治療薬の作用メカニズムがわかるというわけです。

 その研究で発見されたのが、
PPARと名付けられた受容体です。さて、この受容体の本来の自然の状態で結合する相手は何なのか、また活性化される遺伝子の働き、PPARの機能が探求されました。その結果、このPPARは3タイプあり、リノール酸などの食事で摂取するポピュラーな長鎖の脂肪酸(脂肪)が、程度の差はあるものの直接PPAR全てのタイプの結合の相手であることが判りました。つまり脂肪酸もホルモンに類似の仕組みで、特定の遺伝子の働きを調節する働きがあるのです。違う点は、脂肪酸の作用濃度がホルモン類に比べて一桁高いなどです。

 アルファーα型は主として肝臓、その他心筋や消化管に発現して、脂肪酸の体内への吸収、細胞内への取り込み、活性化および代謝分解を制御する重要な機能を果たしていると考えらています。絶食し飢餓状態になり、脂肪組織の脂肪が分解され、脂肪酸が血液中に放出される状態になると発現量が増大します。

 ベーターβ型(シグマδ型ともいう)は、普遍的にどの組織でも発現しています。大腸ガンで顕著に顕われるので、発ガンとの関係が注目されています。

 
ガンマーγ型は、主に脂肪組織および免疫系に現われています。脂肪細胞の細胞分裂、増殖や脂肪合成に重要な役割を担っています。γ型が出来なくしたマウスでは、胎盤の形成が阻害され胎児が子宮内で死んでしまいます。また糖尿病の治療薬、インシュリンの働きを回復させる薬が、γ型に結合することがわかり、この面からも注目されています。


11-0121_k_.jpg さて脂肪組織といえば、白い脂身が目に浮かびますが、他に黄褐色、赤褐色の褐色脂肪組織があります。この褐色脂肪組織で脂肪が代謝、燃やされるとそのエネルギーは全て熱に変わります。一般的な代謝で発熱は、体重1kg当たり4.1Wですが、褐色脂肪組織は300~400Wの熱産生能があります。

 つまりこの組織は体内ストーブです。これは新生児時に非常に多く体重の2~5%ありますが、成長とともに減少し成人では腋の下、首の後ろ、大動脈の周囲、腎臓の周囲などあります。新生児は体積に較べて体表面積が大きい、つまり体温が逃げやすいので盛んに熱を作る必要があり、褐色脂肪組織が多いのです。(乳幼児で1日数回の間食、おやつが欠かせません。これは、多量に存在する褐色脂肪組織による熱発生が激しいので、1日3食ではエネルギー不足になるからです。)

11-0121_J_.gif その脂肪消費、熱産出の要がUCPというタンパク質です。このUCPというタンパク質を上手く働かせれば、脂肪が代謝・消費され肥満防止になると考えられています。成人では褐色脂肪組織は少ないのですが、UCPは骨格筋などに多量に発現しています。UCPは4種知られていますが、UCP 1は交感神経でコントロールされています。緊張など交感神経が興奮すると、その神経刺激でUCP 1が働き、脂肪が代謝され体温が上がります。USP 2及び 3は、PPARによって増強されることが明らかになっています。

 前述のようにPPARは様々な脂肪酸、多様な化合物を結合の相手、働き出すシグナル物質にします。しかし物質の種類毎にα型β(δ)型γ型では、結合の相性、活性化の度合い違います。つまり、
食事で摂取する脂肪(脂肪酸)をコントロールし⇒体内の脂肪酸組成をコントロールし、⇒それによって働くPPARをコントロールし⇒脂質代謝系、エネルギー代謝系の遺伝子の働きをコントロールし脂肪代謝・肥満防止が出来るのではないかと考えられています。PPARは、この他にも血管機能や炎症などの循環器系、発がんの調節機構にも関わるので、そうした病気の予防、治療に、摂取する脂肪(脂肪酸)コントロールが注目されるわけです。

 冒頭の脂肪を減らす生理活性脂質は、こうした研究をもとにして効能を謳っています。このようなサブリメント、健康食品は安全で有効でしょうか。私は、虹屋は疑問を持たざるをえません。
 
内分泌学や生理学の研究で、一般的に良く見られる現象の一つが、同じ物質でも体内の濃度によって働き方が違うことです。例えば、細胞内のカルシウムはある濃度では細胞機能を賦活化しますが、さらに濃度が増えると細胞死のメカニズムを作動させ、細胞を殺してしまいます。
 「ある濃度の範囲で親和性の高い(敏感な)受容体(反応系)がまず働きはじめます。それよりも濃度が高くなると低親和性の受容体にもくっついて、あらたな反応系も動き始めます。その際に、しばしば起こることですが、低親和性受容体が働きはじめることにより高親和性受容体で作動していたシステムが抑制される、といった自己抑制システムを生物は多用しています。」
 つまり、低い濃度では脂肪を消費する、減らす作用が認められた脂肪酸(油)でも、サブリメントの形で大量にとった場合は、逆の脂肪を増やす反応系を働かせるかもしれませんし、別の反応・作用を表わす可能性があります。
国立健康・栄養研究所での動物実験では、共役リノール酸(ダイエットサプリメントで広く販売されている脂肪酸、脂質)を大量摂取させたところ、なるほど体脂肪は減少しましたが、肝脂肪は増大し糖尿病の状態になってしまいました。このサブリメントを使いつづけている人も、肝脂肪のフォアグラ状態かもしれません。なにしろ研究が始って10年くらいしか経っていませんから未解明なところが多いのです。PPAR各タイプの働きの違いや様々な脂肪酸との相性、どの遺伝子が活性化されるのかの選択性のメカニズムなど明らかにすべき事が多々あります。
 現在のところ確実なのは、多価不飽和脂肪酸を多く含む「油(常温で液状の脂質、脂肪)」は、飽和脂肪酸を多く含む「脂」に比べてPPARを活性化しやすいということです。事実、
「油」を主成分とする魚油を用いた動物実験で、内臓脂肪量の低下と同時にUCP発現量の増加が観察
されています。その一方、不飽和脂肪酸の過剰摂取は免疫能を落とすとの研究があります。ですから、肉ばかり食べずに魚を食べる、それも煮魚を食べる機会を増やすというところが妥当なようです。


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