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炎症を起こす脂肪酸、治める脂肪酸 co-№06 [油脂ー搾油、栄養、コレステロール]

2010年11月に小針店で配布した畑の便りの再録です。



炎症を起こす脂肪酸、治める脂肪酸


  血管壁に傷が付いたりして炎症が起きると、からだはそれを治そうとします。そのとき、LDL-コレステロールが修理に動員され血管壁に入り込みます。そのうちで過酸化脂質となったものを平滑筋細胞とマクロファージが取り込み、泡沫細胞に変化して死んでしまいます。それらが溜まって、血管壁にこびりつく脂肪の沈着、血管にコブの様にせり出したアテローム・粥状隆起をつくります。
それで血液の流れが悪くなり動脈硬化や心筋梗塞を起こす。ですからそうした血管壁の炎症が多ければ、血管のアテローム・粥状隆起が増え、大きくてて、動脈硬化や心筋梗塞が多いと考えられます。




 血管の炎症は高血圧発症の前兆
糖尿病と高血圧は、高コレステロールよりも心筋梗塞の発症の危険因子の危険度が大きい。糖尿病は2.3倍、高血圧は2.6倍、両者が重なっていると5.9倍です。
高血圧では、血管の炎症が高血圧の発症に先行しており、血管の炎症を示す値の上昇は「高血圧発症の危険信号である」と言われています。ギリシャの研究では、高血圧予備域例では正常血圧例に比べ、炎症で生じ炎症マーカーであるC反応性タンパク・CRPの血中濃度が31%増加しています。フランスでの疫学研究では、炎症マーカーCRPが1mg/Lの増加していると、高血圧の新規発症リスクは18%増加しています。日本人で高血圧を予測させる最低値・カットオフ値は、高感度・hsCRP濃度で約0.1mg/Lだそうです。(自治医科大が主導している循環器疾患コホート研究・JMS-Cohort Studyの解析結果)
英国での研究では、JAM-1という脳内のタンパクが脳の血管に炎症を引き起こし、それで脳の血流が妨げられ減る、つまり脳への酸素供給が減る。これを補うために、血圧を上げて血を脳に巡らそうとして高血圧が発症するという結果が出ています。この知見は、従来の治療で高血圧の改善がみられない患者に、「血管の炎症を抑える薬品を投与し脳内の血流を増大させる(血圧を下げる)可能性が視野に入る」と研究者は評価しています。
臨床研究では高血圧の進展とともに炎症マーカーCRP の有意な増加が認めらています。つまり、血管の炎症が、脳などの臓器での酸素不足を生じさせ、その補う血流増加のための高血圧という反応を引き出し、一方炎症を治すためにLDL-コレステロールが血管壁に入り込み修理が度重なると、血管のアテローム・粥状隆起が増え、大きくなって動脈硬化、動脈硬化がさらに血圧を上げる、上がった血圧が血管を傷つけるという悪循環が廻りだす。ですから、高血圧と動脈硬化を発症しない一次予防では、血管の炎症を抑える事が肝心といえます。




2型糖尿病、炎症とインスリン抵抗性が互いに強め合う
糖尿病患者の95%は2型で慢性の炎症を患いそれが様々な合併症を生んでいます。2型糖尿病では免疫応答が過剰で体内に炎症性の化学物質が充満しています。そして1990年代初めにハーバード大学の研究チームが、免疫細胞から炎症に伴い分泌される化学物質の一つがインスリン抵抗性の発現と関係していることを突き止めました。TNF-α(ティー・エヌ・エフ・アルファ・腫瘍壊死因子α)という生理活性物質です。TNF-αは、病原菌に感染された細胞やガン化した細胞を自死・アポトーシスに導き、拡大を防ぎ、局所にとどめる働きをします。このTNF-αを作れないラットを肥満に育てても糖尿病にはならない、また2型糖尿病のラットの脂肪細胞ではTNF-αの濃度が高いことを発見しました。

 その後、TNF-α、より一般的には炎症によって、インスリンのシグナル伝達経路・働きを抑制する数種類のタンパク質の発現が活性化して増える結果、人体のインスリンに対する応答が鈍り、インスリン抵抗性を生じやすくなることがわかりました。脂肪細胞も産出しますが、肥満し大型(径>100μm)になると、このTNF-α産出が約2.5倍ふえてます。

 またインスリン抵抗性の細胞では、別の炎症性生理活性物質の産出が増える事が分かっています。炎症とインスリン抵抗性が互いにどんどん強め合っているのです。糖尿病でも、炎症を抑える事が一次予防で肝心といえます。




炎症性の生理活性物質は脂肪酸が原料
この炎症性の生理活性物質の産出と多価不飽和脂肪酸・PUFAが関連しています。多価不飽和脂肪酸はn‐6系(エヌ・マイナス・ロク・ケイ、ω6オメガ・ロク)系とn‐3系(ω3系)に大別されます。摂取するn-6/n-3比が高くなるにつれて、炎症性の生理活性物質が増加しています。
 体の脂質は、脂身を除くと細胞を形作る細胞膜に含まれています。私たちの体に病原菌などが感染してしまったとき、病原菌が感染した周囲の細胞から、病原菌を退治してくれる白血球を呼び寄せるなどのシグナル役の生理活性物質が、細胞膜の脂質から作られます。これらの物質は炎症、発熱や痛みを生じさせる作用もあります。この細胞膜の脂質から生合成される生理活性物質で、集まった白血球からTNF-αなどが出るわけです。




n‐6系はアクセル、n‐3系はブレーキ
炎症という点では、n-6系多価不飽和脂肪酸を原料にした生理活性物資は炎症を起こす力が強く、n-3系からのものは弱かったり、なかったりします。n-3系はブレーキ役です。
そして、その過程には共通の酵素が使われ、この二種の生成は競合しています。また、この2種の多価不飽和脂肪酸は、人体で生合成ができない必須脂肪酸で、相互に変換することもできません。つまりn-6系を多く摂りn‐3系が少なくければ、体内でも高いn-6/n-3の比率になり、炎症を起こす力が強い生理活性物質が多く合成され、ブレーキがよく効いていない、炎症が強く起りやすく治まり難くい状況になります。
日本人が摂取するn-6系の98% はリノール酸です。その摂取量が多い、n-6/n-3比が高い子供は、気管支の炎症である喘息のリスクが高いのです。6~15 歳を対象とした研究で、リノール酸摂取量が14. 5 g/日のグループは5. 7 g/日に比べて、喘息症状(喘鳴)が1. 2 倍増加しています。
n-6/n-3比が15程度の欧米では、4程度の日本にくらべ心筋梗塞が多い、同じ総コレステロール値で日本の約4倍多いのです。
逆に、n‐3系の摂取が多いとどうでしょうか。グリーンランド先住民は、n-6の約2倍摂取しています。彼らでは、血小板凝集能が著しく低く、出血時間が延長しています。他にも過酸化脂質になりやすいのでその悪影響が懸念されています。



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