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摂取過剰なリノール脂肪酸、不足なDHA脂肪酸 co-№07 [油脂ー搾油、栄養、コレステロール]

2010年12月に小針店で配布した畑の便りの再録です。



摂取過剰なリノール脂肪酸、不足なDHA脂肪酸


 日本脂質栄養学会は“高リノール酸植物油の摂取を増やし動物性脂肪とコレステロールの摂取を減らす”という従来の栄養指導からの転換”動脈硬化性疾患およびその他の炎症性疾患を予防するためには、n‐6系(エヌ・マイナス・ロク・ケイ、ω6オメガ・ロク系)脂肪酸(リノール酸など)の摂取量を減らしω3系(n‐3系)脂肪酸の摂取を増やす”ことを勧めています。




 脂質は、グリセリンに脂肪酸が付いた構造です。脂肪酸は炭素と水素と酸素原子から成りますが、炭素の結合に不飽和(二重)結合がないと常温で固まりやすい飽和脂肪酸と、不飽和結合があると液体の不飽和脂肪酸に分かれます。さらに動物は体内で合成できる不飽和(二重)結合が1個の一価不飽和脂肪酸と合成できない2個以上の不飽和(二重)結合がある多価不飽和脂肪酸に分けられます。

多価不飽和脂肪酸が不足すると、皮膚炎などが起るので、食事で摂る必要がある“必須脂肪酸”とされました。その後、分析技術の発展で生体内での挙動が、一分子単位でわかるようになりました。そうしたら多価不飽和脂肪酸のうちn-6系のものは炎症反応を促進する生理活性物質の原料となっている。一方、n‐3系は細胞核内の遺伝子に働いたり、生理活性物質に変換され抗炎症作用を持つことが分かりました。
脂質は、身体のエネルギー源であり、身体を構成する材料であるという従来知られていた機能だけでなく、ホルモンのような調整機能としての働き「栄養シグナル」という新たな機能が見えてきました。

高血圧や糖尿病は、全身の炎症反応がベースになっています。心筋梗塞や狭心症なども、血管の炎症によって生じる血管壁にこびりつくコレステロール・脂肪の沈着、コブの様にせり出したアテローム・粥状隆起が問題です。

総コレステロール値が250 mg/dL 以上の日本人9, 326 人に1. 8 g/日のn‐3系のEPAの製剤を投与すると、投与しないコントロール群(9, 319 人)と比べて、冠動脈疾患の1次(初発)、2次(再発)が合わせて5年間で19% の減少しています(JELIS研究)。もっと若年から積極的に摂っていたら・・
昔の採集狩猟生活ではn-6/n-3比は2~3と推定されてます。現代はn-6系の主要な源である精製植物油が食事の中に多く取り入れられ、同時に、魚、野生の鳥獣、ナッツ類、種子類、緑色野菜、葉菜などn-3系を多く含む食品の消費量が減少しました。その結果、現代の北米ではn-6/n-3比が15程度になっています。それでは、日本の現状はどうなっているのでしょうか。どのような改善点があるのでしょうか?厚労省の日本人の食事摂取基準(2010年版)で見てみます。

厚生労働省:「日本人の食事摂取基準」(2010年版)






リノール酸は摂取過剰の兆候
 極端な低脂質食は脂溶性ビタミン(とくにビタミンA やビタミンE)の吸収を悪くし、食品中の脂質含量とたんぱく質含量が正比例するため、十分なたんぱく質の摂取が難しくなる可能性もある。脂質はエネルギー密度がもっとも高いので、摂取量が少ないとエネルギー摂取不足になりやすい、多いと肥満などから、脂質全体の摂取量は摂取エネルギーの20~30%が望ましいとしています。日本人の平均的食生活では、その範囲におさまっています。個別には飽和脂肪酸や一価不飽和脂肪酸も同様です。
 多価不飽和脂肪酸はn-6/n-3比は、4~5程度ですが、リノール酸のn-6系には過剰摂取?、 DHAなど魚介類からのn-3系に不足という問題があります。


日本人が摂取するn-6系脂肪酸の98% はリノール酸です。n‐6系の摂取下限量、いわば最低必要量はデータが不足しているとして設定されません。今の日本では、n‐6系の欠乏症が報告されていないので、平均的摂取量 10g/日が目安量とされています。逆に上限量は、リノール酸摂取量が多いほど喘息症状が増加するなどのデータから危険性を考慮して、総エネルギー摂取量の10% 、1日の必要エネルギー量を2300キロカロリーとすると26g相当、としています。これより低い10gを上限とするべきという意見もあります。摂取するn-6系の98% を占める”高リノール酸植物油の摂取を増やす”という従来の栄養指導は、必要性がなくなり、むしろ過剰摂取の害を招く時代に合わないものになっています。




n‐3系は不足、特にDHA、EPA
日本のn‐3系の摂取は、食用調理油由来のα-リノレン酸が約60%、魚介類からのDHA、EPA、DPAが約40%です。食事摂取基準では、n‐3系の独自の生理活性作用を考慮してn‐3系独自の摂取基準を定めています。
α-リノレン酸は食用調理油からの摂取が多い脂肪酸ですが、多摂取により総死亡率が下がる。心筋梗塞なども多く摂るほど発症率が下がる。リスクは、男性の前立腺がんの罹患リスクを高める懸念を指摘して過剰摂取に注意が必要とした上で、現在の平均的摂取量、50%タイル値(少ない人から順に並べていって100番中50番目の価・中央値)を下限量としています。つまり、半数の人では不足しています。

魚介類からのDHA、EPA、DPAの独自の生理活性作用では、「冠動脈疾患(心筋梗塞、心不全など)、脳梗塞、加齢黄斑変性症(視力低下をきたす高齢者に多くみられる疾患)に対して予防効果を示す可能性が高い。
アレルギー性鼻炎や骨密度、高齢者における認知に関してもよい効果があるかもしれない。
がんについての効果は明らかでない。」と評価してます。

そして、日本人では、EPA +DHAを0. 9g/日摂取している人で、心筋梗塞罹患の減少が認められていることから、18歳以上では1g/日以上のEPA +DHA摂取量(魚で約90 g/日以上)を下限量、最低必要量に設定しています。上限量は、データが十分でないとして設定していません。そして、日本の大半の人は下限量以下なのです。もっと、摂る必要があります。


平成18年17年の国民健康・栄養調査のデータから、EPA+DHA摂取量の50%タイル値(少ない人から順に並べていって100番中50番目の価・中央値)は、18歳以上では男女とも下限摂取量の1g/日以下です。
またDHA、EPA、DPAの50 %タイル値は平均値の約半分だそうです。18‐29歳の男女では、50%タイル値が約0.2gで平均値が0.4gですから、ほとんどの人が下限量以下です。
30‐49歳の男は50%タイル値が約0.3g、女は約0.2gですから、この年齢層もほとんどの人が下限量以下。
50‐69歳では50%タイル値は男が約0.7g、女が約0.6で3人に2人位が下限以下。
70歳以上では50%タイル値は男が約0.8g、女が約0.6gで2人に一人強は下限以下。妊婦・授乳中の人では、0.17gですから、胎児や乳児でも不足だろうと見られます。
 このように、50歳以上の魚好きの人以外は、下限以下・絶対的不足でもっと魚などを食べた方が良いのです。

α-リノレン酸は、体内で一部EPA やDHA に変換されます。ただ「EPA+DHA 摂取が少ない場合、α-リノレン酸摂取量を増加すれば問題ないのか」という問いには、答えるデータがないとしています。リノール酸の多量摂取により、α-リノレン酸からのEPA やDHA の生成が抑制される可能性があるなど、実際の疫学データが不足している現状では、判断できません。それで、1g/日以上のEPA +DHA摂取量(魚で約90 g/日以上)を心掛けるべきと思います。
日本脂質栄養学会の提言は、脂肪摂取の方向としては妥当といえます。EPA +DHAが豊富なのは、魚やクジラ肉です。その確保策を機会を見て調べてみます


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