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エビで鯨を釣る、したたかな米国に日本は太刀打ちできるか? 2005-35 [牛‐肉、乳、飼育]

畑の便り  №05-35 2005年8月23日小針店で印刷・配布に加筆



和牛の対米
輸出再開エビで鯨を釣る、
したたかな米国外交に
日本は太刀打ちできるか?
和牛の対米輸出再開


 BSE(狂牛病)で日米間の牛肉貿易は途絶えています。以前の日本の牛肉の対米輸出はほぼすべて高級な和牛、97~00年の年平均で約9トン、金額で80万8000ドル(約8900万円)、「神戸牛」などが高級ステーキ店で日本人観光客向けに出されていました。これに対して米国は約24万トン、約10億ドル。

 この9トンの和牛を輸入を再開してやるから、早く25万トンの米国産牛肉を輸入再開をするよう米国政府は、17日圧力をかけてきました。エビで鯛ならぬ、エビで鯨を釣り上げる戦術です。


アメリカがつけた再開条件は国際基準より緩い
米国産牛肉の輸出再開のための条件緩和が隠された目的
毒饅頭を避けられるか





  アメリカがつけた和牛再開条件は
国際基準より緩い


 アメリカがつけた再開条件は、牛肉(ひき肉や加工製品ではない骨から外された肉)が下記の条件を満たすことを日本政府が保証すること。
①空気スタンニング、ピッシングなどと畜方法が国際基準・指針に適合している
②BSE(牛海綿状脳症、狂牛病)の原因となる異常プリオンが蓄積される脳や脊髄(せきずい)などの特定危険部位の完全な除去など一見、妥当な条件に見えます。しかし、よくよく見ると猛毒の毒饅頭です。
http://a257.g.akamaitech.net/7/257/2422/01jan20051800/edocket.access.gpo.gov/2005/05-16422.htm

国際基準・指針は、国際獣疫事務局(OIE)が今年の5月に採択したBSEの発見された国との動物製品の安全な貿易に関する規約・OIEコードです。それでの牛肉の条件は
①30ヵ月齢以下
②頭蓋の穴に圧搾空気またはガスを注入する装置でスタンニングの処置、またはピッシングの処置をと畜の時に受けなかった
③生前・死後の検分を受け、BSEのケースと疑われなかったか確認されなかった
④脳や脊髄(せきずい)などの特定危険部位SRMが除去されそれによる汚染を回避する方法で解体
米国の条件では①30ヵ月齢以下③生前・死後の検分が抜けています。





米国産牛肉の輸出再開のための
条件緩和が隠された目的


 米国の条件では①30ヵ月齢以下③生前・死後の検分が抜けています。この二つの条件は、BSE感染牛を食肉から可能な限り排除するために、EU・欧州や日本が主張し、米国の反対をOIE総会で覆して盛り込んだ条項です。

 BSE感染牛は、現在の検査技術では30ヶ月齢以上から見つかることが多いから①30ヵ月齢以下、③検分は、獣医などが異常行動などでと畜前に、またと畜後の組織検査で感染牛・疑わしい牛を可能な限り除くという意味があります。

 米国は、永久歯が3本なら30ヶ月齢という誤差が多いやり方で分けているので、輸入国が厳密に30ヶ月齢以下を求めると満たすことが難しい。また、米国では1~2名の獣医で1地時間に3000頭あまりの牛を検分して歩行困難などの牛をより分けています。また、食用にする牛では一切、BSE組織検査はしていません。輸入国がこの米国の現状に満足せず、日本のようにBSE組織検査を要求すると生前・生後の検分の条件も満たすことが難しい。日本政府は20ヶ月齢以下は目こぼしするといっていますが、食品安全委員会がそれを認めるかは非常に不透明です。

 この米国が満せない難しい条件を抜いて、外して、日本産牛肉・和牛の貿易を再開すれば、米国産牛肉も同じ条件でと持ち込めると踏んでいるのです。米国がBSE検査を求めずに和牛を輸入してやっているのに、日本が米国にBSE検査を求めるのは不公平だと主張することが出来ると考えているのです。「米政府は日本に対し、9月までに米国産牛肉の輸入を再開するよう強く求めている。米国が日本産牛肉の輸入を再開すれば、日本にも「公平な措置」を求める米議会などの対日圧力が強まる可能性もある。」と読売新聞は分析しています。

 貿易の法制度では、SPS協定によって輸入国が設定する適切な保護の水準(ALOP、Appropriate Level of Protection)でOKとされるならば、ほとんど何でも輸出入可能なのです。OIEコードよりも条件が緩くても、日米両政府がOKならその条件でよいのです。
 SPS協定とOIEコードとの関係は→ http://www.sasayama.or.jp/wordpress/index.php?p=279





毒饅頭を避けられるか


 JA農協の機関紙の日本農業新聞は「日本産牛肉解禁へ」と今回の米国の発表を歓迎しています。その一方、「米国産(牛肉)解禁とは別問題」と言っていますが、これは甘い見通しだと思います。内外無差別の同じ条件での競争が米国流のグローバリーゼーションです。今の日本政府も同じ方針です。つまり米国産牛肉は別条件と国内と国外を分けることが政治的外交的にできると考えるのは、非常に甘い。

 米国産牛肉が未検査でスーパーの店頭に並んだら、日本国民の国産牛肉への信頼感、安心感が損なわれ牛肉消費全体がどうなるのか、火を見るより明らかです。米国政府の条件で9トン輸出したら、失うものの大きさが分かっていません。毒饅頭と気づかずに食べようとしています。

 米国政府は、9月19日まで一般から意見を公募し、速やかに決定する方針です。米国の国内手続きですから、日本は干渉できません。しかし米国政府は、日本の20ヶ月齢以下のBSE検査除外の意見公募の際、30ヶ月齢にすべきだという自国の主張を寄せてきました。日本政府も、自国のOIE規約に上乗せ条件をつけるという立場を主張すべきではないでしょうか。例えば、OIEコードは最低限のルールであり、すくなくとも①30ヵ月齢以下③生前・死後の検分という条件を付け加えるべきである。輸出する和牛に生前・死後の検分条件が加われば、米国に対してもBSE検査を求める根拠になります。しかし、日本はちょうど衆議院選挙の時期です。政府はそれどころではありません。多分、行われないでしょう。

 この時期を選んで、米国の思惑に沿った条件で日本産牛肉の輸入(実績9トン)を決め、同じ無検査での米国産牛肉での輸入再開(実績25万トン)を図る。なんと、したたかな米国の外交、エビで鯨を釣る交渉力には、感嘆せざるをえません。
 「国連の常任理事国に日本はふさわしい」という米国のご機嫌取りに戦地イラクに自国民(自衛隊員)を送りこみ(米国と国境を接しているカナダ、メキシコは派遣していない!!)、その一方、常任理事国で拒否権をもつ中国の神経を逆撫でするような振る舞いを繰り返すという、何処に歩いていきたいのか、さっぱり分からない日本外交。この外交力で太刀打ちできるでしょうか。


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