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梅酒・・酒税でこわされる食文化の伝統 [手作り食品]

梅酒は、甘味とさわやかな酸味、独特の香りか魅力の和製リキユールです。梅酒に含まれる酸の約50%は梅のクエン酸です。また、梅酒らしさを形成する香りの成分の一つとしてベンズアルデヒドか知られています。この成分は、種の香り成分の50%以上、果肉にある香り成分の10%未満の含有量ですから、種は、梅酒らしい香味を支える大切な役割を持っていると考えられます。



梅酒が日本で初めて資料に登場するのは江戸時代の1695年・元禄8年に書かれた『本朝食鑑』(ホンチョウショッカン)という書物です。「痰ヲ消シ、渇を止メ、食ヲ推メ、毒ヲ消シ、咽痛ヲ止メル」といった梅酒の効用が紹介されています。また製法は、「半熟の生梅を灰汁に一晩浸し、取り出して拭き浄め、酒で洗ったもの2升に、好い古酒5升と白砂糖7斤(1斤=約600g)を合わせ、かき混ぜて甕・カメに収める」とあります。

 江戸後期の文化10年・1813年の『手造酒法』(テズクリシュホウ・十返舎一九)には、梅酒(むめざけ)は、「豊後青梅2升をよくあらい、灰にまぶして一夜おく。灰を洗い水気を拭いて上々三年酒5升と白砂糖7斤とともに壷に入れて20日程おいた後、桃仁(桃の種)をきざんで加える。次の日に濾して壷に入れ、風をひかぬように口を密封する。」とあります。

刻まれ砕かれた桃仁(桃の種)では、豊富に含まれるアミグダリンが青酸、ベンズアルデヒド(芳香成分)、グルコースに分解します。青酸は沸点: 25.6℃ですから、梅酒をつくる時季では直ぐに気化し拡散します。桃仁を加えて梅酒の独特の香りを強化しています。


古酒(清酒)

また、『黒白精味集(コクビャクセイミシュウ)』(1746年成立)では、同様の方法で梅を処理し「砂糖2斤、諸白酒(清酒)にひたひたに成程入置」、また「みりん酒に漬候へば砂糖入ず」と書かれています。

江戸時代には、梅と白砂糖と清酒か1年以上寝かせ熟成した清酒の古酒、または、梅とみりん酒で作られていました。材料費は、お米を基準にすると、普通の諸白酒(清酒)は約1.5~3倍、みりん酒は約3倍、清酒の古酒は約3.3~6.6倍、白砂糖は1斤で約4.4倍です。江戸時代の「訓蒙要言故事」には、「新酒は、頭ばかり酔う。古酒(熟成酒)は、からだ全体が潤うように気持ち良く酔う」と書かれているように、古酒の方が好まれていて高かった。このように、みりん酒を使ったやり方が経済的でした。
また「生梅を灰汁につけてからきれいに拭ってにごり酒に漬けると、年月を経ても色か変わらず肉もくずれない」との書かれた文献もあるところから、各家庭、農家などでは自家醸造した濁酒・にごり酒も使われていたと思われます。


にごり酒

江戸時代の方法では、アルコール度は消費時点で清酒・古酒が5%程度、みりん酒は14%前後、濁酒・にごり酒で14 ~17%。糖分はみりん酒が40~50%、古酒5升と白砂糖7斤で約35%です。
現在、一般的な梅1kgに35%のホワイトリカー(甲類焼酎)1.8㍑(1升)と氷砂糖500~600gで糖度25%前後のやり方とは随分違います。

江戸時代はアルコール度5%が今は35%になった理由

梅酒らしう香りの主成分のベンズアルデヒドは、水にはわずかに溶ける程度ですが、アルコールには良く溶ける混和しますから、梅肉や種から引き出すには必要です。江戸時代の作り方をみれば、5%程度で十分です。今日では35%もある酒を使うのは何故でしょうか??

1868年の明治維新後、明治初期には200万軒の農家の多くが自由に濁り酒などを造っていました。

明治政府は、税増収をお酒に関する税に求めます。清酒が、明治の前期において非常に大きな産業だったからです。1874 年の段階においては、織物に次いで第2位、1900 年においては織物、製糸に次いで第3位でした。

1875年(明治8年)、1年につき一人一石(百升)まで製造量規制。
1882年(明治15年)には、自家製酒を造る者は製造免許鑑札を申請し、鑑札料金80銭を納めることを義務化。
1883年、製造量を一人一石から一家一石に制限強化。
1886年(明治19年)自家用清酒の醸造禁止。

  日清戦争・・1894年(明治27年)7月から1895年(明治28年)3月

1897年に自家用濁酒を禁止。
1899年(明治32年)ついに焼酎や白酒なども全面的に禁止します。そして同年、酒税の国税に占める割合が35.5%となり、国税の税収第1位となりました。


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明治の税収の推移

今日、国税庁は、「アルコール分1度以上の飲料(飲用に供し得る程度まで水等を混和してそのアルコール分を薄めて1度以上の飲料とすることができるものや水等で溶解してアルコール分1度以上の飲料とすることができる粉末状のものを含みます。)」を課税対象にし、製造には税務署長から製造免許を必要としています。この「製造免許を受けないで酒類を製造した場合は、10年以下の懲役又は100万円以下の罰金」「製造した酒類、原料、器具等は没収」だそうです。

ただ「しょうちゅう等に梅等を漬けて梅酒等を作る行為は、酒類と他の物品を混和し、その混和後のものが酒類であるため、新たに酒類を製造したものとみなされますが、消費者が自分で飲むために酒類(アルコール分20度以上のもので、かつ、酒税が課税済みのものに限ります。)に次の物品以外のものを混和する場合には、例外的に製造行為としない」


酒税を確保する国税庁の視点では、酒税が課税済みのものという条件は当然です。
梅酒を造るには、江戸時代の作り方をみれば、5%程度で十分です。20%以上という条件は、納税していない自家醸造酒の排除に有効です。濁り酒、清酒は醸造酒で最高のアルコール度ですが、それでも14 ~17%です。20%条件でこれを排除できます。これ以上度数を上げるには、蒸留装置が必要になり、焼酎になります。簡易な装置でできる伝統的な常圧単式蒸留では強い豊かな風味の焼酎、焼酎乙類ができます。これは梅のなどの風味を生かす果実酒には不向き。明治28年頃にイギリスから導入された連続式蒸留機による連続式蒸留焼酎(焼酎甲類)が風味がなく適しますが、これは装置にお金がかかるため、自家醸造には向きません。




梅からクエン酸などの栄養分を引き出す力は、浸透圧の違い、梅が漬かっている溶液が濃くて浸透圧が高いから生じます。みりん酒のブドウ糖やオリゴ糖などの多種類の糖度は40~50%、これととアルコールでの浸透圧は、塩分20%の浸透圧とほぼ同じか高い程度。白砂糖と清酒か古酒では糖度が約35%で、これとアルコールでは塩分10%とほぼ同じ程度。

35%のホワイトリカー(甲類焼酎)と氷砂糖(ショ糖)で糖度25%前後では、アルコールと食塩の濃度による浸透圧はほぼ同じなので、かなり高い浸透圧です。



アルコールは細胞膜を壊し中に侵入するので、ホワイトリーカーを使うと先ず梅は膨らんでいきます。梅(細胞)の中のアルコール度が上がり、外・ホワイトリカーと同じになると浸透圧差がなくなります。アルコール(エタノール)に入り込まれた細胞膜は軟らかくなります。軟らかくなった膜からは内容成分が漏れ出しますが、基本的には梅のアルコール漬です。次に氷砂糖が溶け出し、ショ糖濃度の差による浸透圧差が生じます。これで、梅の中にあるクエン酸や香りの主成分のベンズアルデヒドなどの諸成分が梅から引き出されます。梅のアルコール漬から梅酒になります。

氷砂糖・ショ糖の作る浸透圧差は、みりん酒などが作る浸透圧差に比べ同じ濃度・糖度なら小さい。みりん酒などには糀菌の糖化でブドウ糖などが多く含まれます。糖度20%ではブドウ糖はショ糖に比べ約2倍の浸透圧差を作ります。これは、みりん酒などを使った方が、多く早く梅酒になります。江戸時代の『手造酒法』(十返舎一九)には、「壷に入れて20日程おいた後、桃仁(桃の種)をきざんで加える。次の日に濾して壷に入れ、風をひかぬように口を密封する。」と、その年の夏には飲めます。今の氷砂糖では「いわゆる飲み頃は浸透圧のバランスが落ち着くのが3カ月~半年後」「1年程度で梅のエキスが液に浸透します」となります。

国税庁・酒税法の、梅酒文化に与えた影響は?

「うちでは梅ジュースを作りますが、梅一リットルに砂糖六〇〇ミリリットルにしますと、一%くらいのアルコール発酵をして炭酸ガスができて旨いんです。これと日本酒を少し合わせると梅酒よりおいしい。江戸時代の梅酒は古酒に青梅でした。それに氷砂糖。焼酎を使うのは明治より後です。それを新聞に書いたら、国税庁に「日本酒を使ってはいけない」と怒られました。月刊酒文化1999年12月号、奥村彪生・(神戸山手大学教授・伝承料理の研究、)」


2007年6月14日放送のNHKの「きょうの料理」で、梅酒料理が取り上げられました。番組後半では高城順子講師のわが家に伝わる酒として「みりん梅酒」が「食前酒に丁度」よく「飲みやすい」と紹介されました。 参照 ニコニコ大百科

国税庁から酒税法違反「みりんで梅酒を作ると、梅に付いている酵母菌で発酵がおこりアルコール分が増えるので、それが密造酒にあたる」であるという抗議を受けました。しばらくの間NHKは「みりんで梅酒を作るのは法律違反になります」という趣旨の謝罪テロップを流し続けました。



アルコール濃度が8~10%を超えると普通の酵母は出芽して増殖することができなくなります。みりん酒のアルコールは約14%です。15%まで進むと普通の酵母は、休止します。15%を超えても発酵が続く酵母は、全国の酒蔵で自然育種されて「蔵付き酵母」から見出された清酒酵母です。野生の酒造酵母が梅についていることもあるでしょうが、どれ位の頻度で新たなアルコール発酵が起きるのでしょうかね? 10本中10本?10本中1本?100本中1本? 普通の酵母の性質・アルコール耐性から、私には国税庁の主張は言いがかりに思えます。 参照 アルコール発酵、・・酢-3 

 そのせいでしょうか、国税庁は「みりんに梅をつけた梅酒はだめだが、梅にみりんを入れたみりん梅漬けは問題がない」(??)とのことです。みりん梅漬けで、梅の成分や香りのついたみりん酒は国税庁の視点ではなら余り物、廃棄物でしょう。廃棄先?は台所の流しではなく、口の中、胃の中ですよね。




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