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カリカリの梅干のつくりかた・・梅干のペクチン [手作り食品]

基礎知識編

果物など植物細胞は、セルロースでできた小部屋の中にあります。このセルロースの壁・細胞壁をといいますが、これはセルロース繊維をペクチンが結び付けている構造になっています。模式的には、長く太いセルロース繊維をペクチンが横糸/鎖になって編み上げている、そのペクチン鎖同士が途中で結合している構造です。



ペクチンは、ペクチン酸(ガラクツロン酸)が多数糸状に結合した高分子化合物ですが、未熟な果実ではプロトペクチン(protopectin /proto-・・を生じる親物質)という非常に長くつながった物になっています。そのプロトペクチン鎖間でカルシウム、マグネシウムなどの2価金属イオン、化学結合する手が2本で左右のプロトペクチンを結合しています。このようなプロトペクチンが「カニのはさみ」のように金属イオンを挟み込む結合をしています。カニのはさみを意味するギリシア語(chela)からchelate・キレート結合といいます。このキレート結合があるため、このプロトペクチンは水に溶けません。




 種が発育し出来てくると、、それを引き金に細胞壁の分解酵素の遺伝子が活発に発現し、分解酵素ができて細胞の中から細胞膜を突っ切って細胞壁に分泌されます。酵素でプロトペクチンがペクチニン酸 (pectinic acid) に分解され、さらにペクチン酸(ガラクツロン酸)に分解されます。それで細胞壁が柔軟になり果物がやわらかくなります。この状態を私達は「熟した」といっています。ほとんどがペクチン酸に分解されていると、「過熟」状態です。ペクチニン酸、ペクチン酸は水に溶けるようになります。



カリカリ梅干

和歌山県や近畿大学の共同研究から梅干の組織軟化は、「果実中のペクチン鎖間をキレート結合しているカルシウム、マグネシウムなどの2価金属イオンが(加えられた)食塩に由来するナトリウムイオンで置換され、キレート結合が解離して生じるペクチン質の可溶化と、これに伴って活性化される果実中のペクチン質分解酵素によるペクチン質の低分子化によるもの」と考えられています。

食塩を加えてナトリウムNaによる置換と軟化は、食塩水でじゃが芋を煮る・加熱すると水で煮るよりはやく軟らかくなることにも顕われています。ジャガイモを牛乳中や味噌汁の中で加熱すると、煮くずれしにくくなります。それは、牛乳や味噌に含まれるカルシウムがペクチンの鎖の間に橋をかけるため、分解しにくくなると考えられます。

カリカリ梅を作るのには、硬い未熟のプロトペクチンが多い実をえらび、塩漬けのときカルシウムを加えると良いのではないか?

硬い未熟のプロトペクチンが多い実をえらび方、割って種(核)を見ると核の表面の色が白い状態ならカリカリ梅漬けの原料としてOKです。




ある漬物屋さんのでは、
10%食塩水の中に投入し落としブタをして重石します。
48時間後、梅酢が上がったら小梅重量の0.6%の消石灰(水酸化カルシウム)と2%の食塩を加える。
以後毎日2%の食塩を追い塩して最終塩度20%で終える。
消石灰(水酸化カルシウム)は水溶性で直ぐに解けますが、粘膜・皮膚、特に目に入った場合は角膜・結膜に障害を起こすことがあるので家庭向けではありません。このレシピから加えるカルシウム量は梅の0.3%程度、梅1kgに3g程度で十分だとわかります。

家庭向けでは、塩分は10~12%で卵殻の炭酸カルシウムを使うやり方があります。

塩でウメの表面にゴリゴリと擦り込みます。塩の結晶でウメの表面に細かい傷をつけ、果肉に塩やカルシウムが浸透しやすくなります。塩をまぶしながら漬け込んだのではゆっくりと塩が浸透するので、速攻で漬けたとしても、ウメが活き活きとしているため、どんどん追熟してしまいます。

卵の殻は、梅1kg当り卵の殻は卵2個分で約15g、梅の約1.5%。内側に付いている薄皮をきれいに剥がして、水洗い。その後、天日によくあて、乾かします。1~2日干して、カラカラになったものを砕いて、ガーゼに包んで使います。
普通の梅干しを作り時と同様に、梅を一並べ、ここで用意しておいた、ガーゼにくるんだ卵の殻を入れます。上に梅を重ねていきます。

炭酸カルシウムは水に溶けにくく、梅から出るクエン酸で徐々に中和されて溶け出しますから、容器をあおるようにゆすって平均的にまわるようにします。

また卵や貝の殻を煮溶かした梅酢に入れると簡便です。梅1kgに梅酢約180ml、卵の殻は卵2個分で約15gで加熱します。梅酢の温度が上がってくるとブクブクと炭酸ガスの泡が出てきます。加熱の調整をして容器から梅酢が吹きこぼれないように注意してください。

約1ヶ月で出来上がり、塩分が10%程度ですし、塩分を高くしても室温で保存し保存期間が長くなると果肉が軟らかくなりカリカリ感がなくなってきますから保管は冷蔵庫。




塩化マグネシウムや塩化カルシウムを主成分とするニガリを加えても同様の効果があります。

虹屋で扱っている塩はニガリ分が含まれています。成分表では
海の精 100g中にカルシウム400mg、マグネシウム700mgで1.1g
カンホアの塩は100g中にカルシウム500mg、マグネシウム700mgで1.2g
シママースは100g中にカルシウム105~300mg、マグネシウム40~300mgで0.15~0.6g

家庭でつかう塩の約4割をしめる塩事業センター(専売事業の継承財団法人)の塩では
食塩では100g中にカルシウム20mg、マグネシウム20mgで0.04g
つけもの塩では100g中にカルシウム50mg、マグネシウム50mgで0.1g。

梅干を塩分20%・梅1kgに塩200gでつくると、ペクチンのキレート結合の分解を抑えるカリカリ梅になるイオンの目安0.3%・約3gに、海の精、カンホアの塩はもう0.08%、梅1kgあたり0.8g程度不足。
シママースで、0.27~0.18%、1.8~2.7g程度不足。センターの食塩では0.29%、2.9g程度不足。センターのつけもの塩では0.28%、2.8g程度不足。
この不足をニガリ分で補う。

梅の土用干しが梅の柔らかさ、コリコリ感に与える影響

梅を夏の土用、7月20日頃から約18日間に干す習慣があります。この土用干しの後に、梅酢と梅を別々に保管する方法と梅酢の中に干した梅をもどして梅を梅酢に漬けたままで保管する方法があります。

地域的には平年の梅雨明けが7月25日頃の北陸や東北の地域で梅酢の中に干した梅をもどす、その年の天候次第で土用干しをしないようです。20日頃の関東より南の地域では、別々に保管する方が多い。

例えば、京都の天神さん・北野天満宮では「6月中旬、境内で採取し、樽に塩漬された梅の実をこの日樽から取り出し、すのこの上にむしろを敷き、その上に並べて約4週間かけてカラカラになるまで干し上げる。」大福梅の土用干し(おおふくうめのどようぼし)が行われます。「干し上がった梅の実は、再び塩をまぶして樽に11月下旬まで貯蔵する。」「11月下旬樽から取り出された梅は、6粒位ずつ、手のひら程の大きさに切りそろえた縁起物の裏白を添え、奉書紙で包み事始めから終い天神の頃まで社頭で授与される。新年の招福息災の祈りを込めて祝膳に欠かせぬものとして、京都を始め全国から多くの参拝者が授かりに来られる。」



梅酢は食用の他に冶金などでの用途が大きかったのです。土用干しの頃は丁度、梅酢が上がる頃です。梅酢と梅を別々に保管する方法なら梅酢をこうした用途に使える、販売できます。

梅干の梅の柔らかさ、コリコリ感には、キレート結合が解離して生じるペクチン質の可溶化と、これに伴って活性化される果実中のペクチン質分解酵素によるペクチン質の低分子化の二つが主な要因です。

青い未熟な梅ではキレート結合が多くペクチン質分解酵素の分泌量が少ない、黄色く熟した梅ではキレート結合が少なく分泌量が多い。逆に梅酢は熟するほど量が少なくなり、クエン酸の比率が減ります。 糖抽出梅果汁の原料梅の熟度による品質の変化

従って、梅酢が上がるまでに、
A)塩事業センターの食塩を使った場合、①青い未熟な梅ではキレート結合が食塩に由来するナトリウムイオンで置換され、キレート結合が解離して生じるペクチン質の可溶化は進行するが、酵素によるペクチン質の低分子化は少ない、多くでるクエン酸による分解がある。②黄色く熟した梅では既に多くのキレート結合が解離している上に更にナトリウム置換での解離によりペクチン質の可溶化が一層進み、酵素によるペクチン質の低分子化も進行する、クエン酸による分解はクエン酸量が少ないので青い未熟な梅に較べ少ない。

B)カンホアの塩などニガリ分が多い塩を使った場合、③青い未熟な梅ではキレート結合がニガリ分(カルシウム・マグネシウム)で維持されペクチン質の可溶化が少ない、酵素によるペクチン質の低分子化は少ない、多くでるクエン酸による分解がある。④黄色く熟した梅では既に多くのキレート結合が解離しているがナトリウム置換での解離が少ないので可溶化が余り進行せず、酵素によるペクチン質の低分子化は進行する、クエン酸による分解はクエン酸量が少ないので青い未熟な梅に較べ少ない。



土用干しをすると天日で干されている間、梅の中のクエン酸濃度と温度が上昇しクエン酸による分解が進行します。

クエン酸による分解と酵素による分解を較べると、酵素のほうが力が強い。クエン酸量の多い未熟果を使用すると硬い品質ですが、和歌山県などは未熟果にペクチン質分解酵素を含浸させて果実組織を軟化させ適熟の果実を使用した場合と同等の品質を有する梅干の製造が可能になる酵素含浸法を開発しています。また、分解酵素の多い適熟の果実を使用した場合は土用干し前には「皮はぷりっとして中はやわらか」の状態になっています。



未熟な梅を使った硬い梅漬けを適度な柔らかさ、コリコリ感にするには、土用干しは特別な効用がありません。漬けっぱなしにしても、梅酢の作用でペクチンは分解され、貯蔵期間が長くなれば柔らかくなります。

適度に熟した梅を漬けた場合も、土用干しをしなくても梅酢に漬けておけばペクチン質分解酵素の働きで柔らかくなります。カリカリ梅干と同じく、熟度を選ぶほうが大切です。


藤清光・中山美鈴さんらは、ビン干しの土用干しを提唱しています。「ビンのフタを取って、昼間だけ1週間、お日様に当てる。夜は取り込む」方法です。これでも十分な品質の梅干(梅漬け)ができます。 参照 梅ぢから








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