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アライグマのキャッチ&リリース ラスカルの末裔 [有機農業/食物にする生命との付き合い方]

№07-28 2007年7月小針店で印刷・配布した「畑の便り」の再録

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 先日、庭先に夜毎にアライグマのつがいが水を飲みに来る、床下に入り込んで巣を作ろうとしたお宅の話を聞きました。鎌倉市などでは野生のアライグマが民家の屋根裏なんかに住みついてしまい、オシッコが漏れてきたりして困っています。それで、家人が床下に木の柵を設けたりしましたが、破られてしまったそうです。防護柵は工務店に依頼し、一方、新潟市に相談。市は駆除業者を紹介したそうです。

  業者は、床下に忌避剤を散布し、住み着いていないのを確認。新潟市では、捕獲するには許可を得るのに10日余りかかる、捕獲しても新潟市外に放すことになると話したそうです。つまり、余所へ行くのを待つのが新潟市のやり方というわけです。これって、凄く自分勝手な自己中な対応だと思いませんか?

 ブラックバスとラスカル
 ラスカルは北米の野生に戻れたが・・
「命を大切に」というのは当然だけど
 ブラックバスはキャッチ&イートにすべきではなかったか。

ブラックバスとラスカル

アライグマは、ブラックバス、魚、エビ、カニ、カエル、イモリ、ネズミ、鳥など、動くものなら何でも食べる肉食魚で湖や川の在来

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の生き物を食い殺すので問題になったブラックバスと同様に、「放置しておくと分布を拡大しながら様々な被害を及ぼすおそれがある」動物で駆除、防除の対象です。特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律で特定外来生物に指定されています。この外来生物法を所管する環境省は、「今後生物が殺処分されるという事態を繰り返さないためにも、みんなで外来生物を放したり、逃がしたりしないように注意していくことが大切です。」といっていますが、発見したアライグマを捕獲せずに逃がしたり、捕獲しても新天地に放したりするのは、法の目的や精神と大きくかけ離れてはいないでしょうか?野生のアライグマは捕獲せずに逃がす、万一、捕獲したら新天地に放す順法行為が生息域を広げているのではないでしょうか。けれども、新潟市のやり方は環境庁のガイドラインに従った適法なものなのです。

   ブラックバスは1925年(大正14年)に、神奈川県芦ノ湖に87匹を放流されたのが始まりで、当時から、ブラックバスは肉食魚で、むやみに放流すると在来魚に影響を与える危険性があることが知られていので、他の水系と隔絶されていた芦ノ湖が、繁殖しても他の水域まで広がる恐れがなかったので放流先に選ばれました。1964年までは、バスの生息分布は、わずか5県。ところが、1970年代に入ると、ルアーフィッシングブームが起こり、ブームに歩調を合わせるかのように、ブラックバスは急激に生息地を拡大、今や日本全国バスのいない都道府県は一つもなくなっています。  

 バス釣りブームを大きくした「広告塔」はSMAPの木村拓哉とコピ-ライタ-の糸井重里。糸井は「バスが日本の湖にいること自体が不自然ではないのか」との質問に対して「日本という国は島国ですから、魚の進化がある程度で止まっているんですね。バスというのは少し頭のいい魚なので、その位置にいる魚がいなかった。王座が空いていたんです。そこにバスが増えたっていう現象なんですね」と答えています。

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頭のいい魚なので歩いて他の河や湖へ移ったり、四国、九州、北海道に海を越えていったとでも言うのでしょうかね。人間が放流、川や湖で捕らえた(キャッチ)したバスを、釣り場を増やすために棲息していない湖などに放流(リリース)した結果です。バス釣りブームに浮かれた人間が生息域を広げたのです。アライグマは、野生のアライグマは捕獲せずに逃がす、万一、捕獲したら新天地に放す順法行為が生息域を広げているのではないでしょうか。

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1977年に、フジテレビ系で放送されたテレビアニメ『あらいぐまラスカル』が日本に北米、南米からアライグマを呼び寄せました。当時、年間約1500頭、総計で約2万頭輸入されたそうです。アニメは最終的には、1年後に飼い主の少年スターリングはラスカルを育てることができずに森の中に放ち野性に返して終わります。 
 
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横浜市の野生アライグマ 
 
  実物のアライグマも見る分にはカワイイのですが、大きくなるにつれ凶暴になり、飼育者は噛まれたり引っ掻かれたりといったケガは日常茶飯事(しかも猫よりはるかに力が強い)、ペットしては『絶対に向かない』(天王寺動物園)。原産地の北米では、食い物がなくなると猫やジャーマンシェパードを襲って食うそうですから、犬や猫を飼うつもりでは飼えません。軽い気持ちで野生動物のアライグマを飼ってしまった人々が、飼いきれないといって捨ててしまったのです。そんなアライグマ達が着々とその数を増やしてるのです。
 

小池文人(横浜国立大学 大学院環境情報学)神奈川県周辺のアライグマの分布拡大予測より
分布拡大を始めて18~24年程度後のものか現在の分布に近いと思われる。逆算すると分布拡大を始めたのは1980年代前半になる。アライグマのアニメがブームになったのが1970年代後半で、鎌倉で目立つようになったのが1980年代後半なので、無理のない時期である。神奈川県内のアライグマは1988年ころ鎌倉市で野生化したと考えられている。鎌倉から分布拡大した歴史を再現するシミュレーションを行ったところ、1986年に分布拡大を始めたと仮定した場合に現状の分布パターンとの類似度が最大になる。
 津久井町・相模湖町や相模原市などに現在分布しているアライグマは、鎌倉のものとは起源が違いそうだ。鎌倉からのみ分布が拡大したと仮定すると、実際のデータに合わない。 
 
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神奈川県外でも野生化しているため、この予想は楽観的な予測である(小池)
 
ラスカルは北米の野生に戻れたが・・

  ラスカルは、もともとアライグマの棲息している北米の森の奥に放たれます。そこにはアライグマの食物もあれば、営巣場所もあり、彼らを捕食し数を調整するピューマ(アメリカ山猫)などの天敵もいて生態系の中に位置付けられています。日本のアライグマを飼ってしまった人々が、スターリング少年を真似て放った日本の自然にはそれらはありません。アライグマは日本の生態系からはみ出しています。アライグマが北米の生態系で占める位置に、日本ではタヌキがいます。タヌキは、脅されると直ぐに気絶(タヌキ寝入り)する臆病な日本的な動物です。自然に任せ、猫やシェパード犬を襲って食うアライグマとタヌキが対決したら、タヌキ寝入りしたタヌキをアライグマが捕食してしまうでしょう。野生化したアライグマの放置とそれの繁殖は、日本のタヌキを駆逐し、日本の生物多様性を損なう結果になります。

  また餌を求めて農作物を食い荒らします。例えば、キツネなどが一匹でトウモロコシを食べた場合には、被害は1~2本トウモロコシが駄目になるだけなのに対して、アライグマの場合には、一匹で5~6本はダメにしてしまうそうです。このように、アライグマが及ぼす被害は生半可なものではなく、神戸市だけで1500万円は裕に超えています。模
また営巣場所を求めて、人家に侵入します。屋根裏からオシッコが漏れてきたり、京都では、清水寺など多くの寺社に住み着いて、文化財を破損し困っています。

アライグマの寄生虫が幼児に感染する恐れ 

 アライグマには、日本にはいない寄生虫が付いてます。例えばアライグマ回虫。この寄生虫、アライグマ自身はいても平気です。しかし、問題なのは、この寄生虫が人間にうつることよっておこる障害『アライグマ回虫幼虫移行症』 です。人間の腸の中での卵が孵化や外界で孵化した幼虫が侵入することではじまります。幼虫は腸壁を通って肝臓に達し、その後肺へ、まもなく脳に到達します。これらの幼虫は移行しながら2ミリまで成長します。サイズが大きいため生体組織に損傷を与えつつ、最終的に幼虫が宿主の脳に達すると炎症性反応を誘発します。現在ではいまだ治療法、人での駆除法はありません。
 
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  脳脊椎移行とよばれるこの症状は、足の麻痺や運動失調などの神経症。眼球部分に移動すると、視神経視力障害、ひどくなると人間の失明。北米では、アライグマ回虫感染が原因とみられるヒトの重症脳障害患者の報告は12例〔内3名が死亡〕。そのうちの10例は6歳以下の小児。脳の比較的必須部分ではない部位に幼虫が入った場合や幼虫が筋肉内や結合組織の中で「から」をかぶった状態になると、臨床上の兆候を示さない、発見できないので、感染数はもっと多いと見られます。
 
  アライグマ糞線虫という寄生虫は、激しい皮膚炎をおこします。これは、日本で野生化したアライグマで見つかっています。アライグマ回虫は動物園や飼育施設で見つかっています。野生化したアライグマでは見つかっていませんが、これは調査数が少ないためと見られます。どちらも、成熟した虫が多いときには数十万個もの卵を消化管の中に生み、糞と一緒に排泄されます。卵はいろいろな消毒処理を行ってもなかなか死滅しません。
 
また、卵の外皮はどんな表面にも付着する性質があります。こうした卵または外界で孵化した幼虫で人間に感染します。北米の例では6歳以下の小児の感染例がおおいのは、子供はものや土によくさわりますし、汚れた指を口に入れることも多いからです。つまり日本では、主にそのターゲットとなるのは、野生化したアライグマの生息する地域で遊ぶ、よちよち歩きの子供達です。アライグマ回虫幼虫移行症には治療法はありません。ですから、予防はアライグマを住まわせない。アメリカでは不可能に近いことですが、日本ではまだ可能です。また、アメリカでは狂犬病を運ぶ、媒介することが知られています。の

国立感染症研究所の「アライグマ回虫による幼虫移行症」 http://idsc.nih.go.jp/idwr/kansen/k02_g2/k02_42/k02_42.html 

「命を大切に」というのは当然だけど

アライグマが悪いのではありません。もともとの原因が、人間であることは間違いありません。でも、だからこそ、後始末も私たち人間がが責任を持ってつける必要があります。アライグマをペットで購入し飼育していた人で飼いきれなくなった時に、捨ててしまった。本人とすれば野生に戻す少年スターリングを真似て、命を大切にして自然に放したつもりでも、日本の生態系・自然では、先住のタヌキを駆逐します。生物多様性を脅かしてしまう。「命を大切に」というのは当然だけど、こと移入した外来生物については残念ながら例外なんだ、殺してでも排除しなくてはダメな場合(特定外来生物)があるんだ、という考えが外来生物法の根底にはありますが、環境省は骨抜きにした運用を何故するのでしょうか。ま
 

横浜国立大学大学院、環境情報研究院の小池文人(准教授)は、神奈川県でのアライグマの分布拡大予測を行い、この分布拡大予測をもとに、県での根絶の最適戦略を検討しています。

 「県内の5個の地域個体群に対して、どのような組み合わせで根絶することが望ましいのか最適戦略を求めた。この評価では(根絶のあとt年後の効果)/(根絶作業のコスト)の比を最適化している。その結果、近い将来(20年以内)を考えると周辺の孤立した個体群の除去が最もコストパフォーマンスが良く、20年から50年の中間的な将来を考えると分布域の周辺の個体群(津久井町~真鶴町)を全て除去することが最適である。また50年以上先の遠い将来を考えると全ての個体群を除去するのが最もコストパフォーマンスの良い戦略となる。ちなみに現在最も被害の大きな中心の個体群(三浦半島)のみの除去はコストパフォーマンスが最も悪い戦略である。

  分布拡大を阻止するための駆除事業は、現在の狭い面積の除去が将来のより広い地域のアライグマを減少させるため、投資と見なせる。投資の利回りを計算してみると、長期国債の利回り1.9%よりもよりも高かった。このことは債券を発行しての根絶事業が経済的には十分に有利であることを示す。逆に事業を行わなかった場合は、年利30%などの非常に高額な負債を負っていることに相当する。大きな地域個体群を取り除くことは困難な事業であるが、孤立して存在する小さな野生化個体群を取り除くと、分布拡大速度を効果的に下げることができる。たとえ将来の分布拡大を阻止できなくても、経済的なメリットは十分にある。

ところで根絶のコストには、社会的には費用の他に駆除される動物の命のコストがあると考えても良いのかもしれない。動物の命を奪うにはだれでも心理的な抵抗があるし、特にペットとして飼育されていた哺乳類は心理的な抵抗が大きい。早期の根絶で費用のコストを減らすことは、命のコストを減らすことにつながる。」
 
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 ブラックバスはキャッチ&イートにすべきではなかったか。

   これまで地域にいなかった生物がその地域の自然に侵入すると、自然がそれまでと比べて大きく変化したり、経済的な被害やヒトの健康被害がおきることがあります。これを生物侵入リスクといいますが、有害な化学物質の放出などと違い、たとえ少数の個体の侵入であっても生物が繁殖・増殖し生物の導入をやめても時間と共に影響が拡大すること、いったん広範囲に分布が拡大すると、幸運な例外を除いて元に戻すことができません。このようなことを起こすのは、これまで生息していなかった生物が他の地域から侵入する外来生物と、遺伝子組換えによって人工的に新たな生態特性を獲得した遺伝子組換え生物です。
  現在の時点では外来生物の事例が豊富で多くの知見が蓄積されています。遺伝子組換え生物は、今のところ人工的な遺伝子を持った植物が野外で成育しているのが見つかりはじめた段階です。
 
  生物侵入によって起きる生じるうる困り方の程度(影響の大きさ)をハザード・災厄といいます。その困った事が起きる確率を(狭義の)リスクといいます。ハザード・災厄×起きる確率(期待値)を(広義の)リスクといいます。遺伝子組換え生物は、ハザード・災厄情報も起きる確率(狭義の)リスク情報も不十分で、(広義の)リスク情報は不確実性が高い。一方、アライグマの日本への侵入リスクは、ハザード・災厄情報は十分ありますが、日本で起きる確率は農作物、人家への侵入のように現に起きているものから、生物多様性の毀損、寄生虫などの客観的な情報が十分とはいえないものまであり、(広義の)リスク情報は不確実性があります。同じ外来生物でもブラックバスは既に生物侵入災害が発生しており、ハザード・災厄情報は十分で確率は1、でリスク管理の手法の妥当性が問題になります。
 
  ブラックバスに対しては、キャッチ&(その場での)リリースのバス釣りの容認と自治体などによる捕獲と殺処分が併用されています。アライグマの捕獲の場でのリリースと自治体などによる捕獲と殺処分というやり方は、素人が捕まえるのは危険ですから当然にキャッチ禁止をしただけで、ブラックバスと基本的に同じです。ご存知のように、このやり方でブッラクバスの侵入災害は減っていません。リスク管理に失敗しています。このような手法をとるに至った経過、リスクコミュニケーションを省みれば、遺伝子組換え生物やBSE、アライグマのように、少なからぬ不確実性が(広義の)リスク情報にあるものでの、適切なリスク管理を選択できるリスクコミュニケーションのあり方が分かるかもしれません。  


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