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世界的な穀物不足のなか、広がる日本の耕作放棄農地 [有機農業/食物にする生命との付き合い方]

№07-39 2007年9月小針店で印刷・配布した「畑の便り」の再録

  世界の穀物の貿易価格が上昇を続けています。このため欧州EUは、今秋と来春の穀物作付けに当たっての強制減反率をゼロにして増産(穀物収穫量1000万トンから1700万トン増える見込)を図るそうです。そして現在の輸入分の価格をやすくするためにに、輸入関税ゼロを当面継続する事を検討しています。中国も不足する大豆油、菜種油などの食用油で同様の政策をとっています。大豆輸入税を3%から1%に引き下げる予定で、来年度から、13億元(1億7300万㌦)の追加補助金を出し油料作物の栽培面積拡大、改良品種の普及など11の措置をおこなうと24日に発表しています。

自給率39%の国で、狭まる耕地面積

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  我が国の食料自給率は2005年は39%で、20年前の1985年は52%でした。現在の日本は食糧の6割を海外からの輸入に頼っています。欧州や中国などは日本よりも自給率が高いにもかかわらず、敏感に食糧不足に対応策を出していますが、日本はどうでしょうか。農水省は、次々と大臣が代わり、今の若林大臣も年末まで椅子に座っているのか分からない政局です。農政は停滞しています。生産基盤の農家の経営耕地面積は1985年の440万ha(ヘクタール)から2005年の359万haまで20年間で約2割・81万ha減少しています。自給率低下、食料海外依存の一因です。このうち、耕作放棄が半分弱の38万6000ha、残りが住宅や商業施設などへの農外転用です。
 
高齢化、担い手不足、耕作放棄……島根県古賀町

  さて先日26日の日本農業新聞に、「防げ、耕作放棄」という記事が載りました。
 = 島根県古賀町。平場から山間地まで水田が広がる米どころだ。その町役場会議室で、机一面に町内の地図が並べられた。水田一筆ごとに赤、黄、緑に塗り分けられている。赤は耕作放棄地、黄は自作地、緑は貸借地だ。
  「こうして見ると耕作放棄が増えたなあ。山の方は真っ赤だ」。同町農業委員会会長の吉村哲夫さん(72)は、地図を指さしながらつぶやく。どこの農地が耕作放棄されているのか、地図を見れば一目で分かる。・・
 
 浮かび上がったのは、農地のひどい荒廃ぶりと守り手の高齢化だ。町内710㌶の農地のうち、耕作放棄地は99㌶(14%)に上る。圃場(ほじょう)整備されていない山間地の水田ほど荒廃が激しく、ほぼ半分の47㌶を「復田不可能」と判断した。
  町の農業を担うのは高齢者ばかり。70歳以上が45%を占め、90代現役は8人(1%)もいる。
 
  次代の「農地の守り手」不足は深刻だ。家族内に後継者がいない世帯は全体の6割を占め、面積ベースでは全農地の4割にも達する。
  10㌃以上の農地がありながら、町外で暮らす「不在地主」も201世帯と全体の13%に上る。不在地主の農地は、借り手がいなくなれば耕作放棄に直結する。
 高齢化、担い手不足、耕作放棄……。
むらが悪循環に陥っている。
  これに追い打ちをかけるのが米価の下落だ。10年前は全国的に一俵(60㌔)2万円近くあったが、最近は1万5000円を割り込む。
  古賀町での米価下落もほぼ同様だ。町全体の米産出額は1996年の9億1900万円から、2006年は6億3000万円と10年間で約3億円も減った。農家数が減り一戸当たりの経営面積がやや増えても、米収入は平均73万円から61万円と12万円も落ち込んだ。
 
  農家1戸当たりの平均水田面積は約70㌃。小規模経営では経費を差し引けば利益は出ない。稲作を続けるために、生活費である年金の一部を、農業機械の購入に充てる高齢農家さえいる。
  米価下落の痛手は大規模農家ほど甚大だ。町内23㌶の農地を借り受け、水田経営をする農業生産法人「サジキアグリサービス」の収入は減る一途だ。04年度の新たな米政策移行に伴い、町が従来上乗せしていた転作助成金の削減なども響いた。米価下落分と合わせると4年前より、「総収入で500万円以上は確実に減った」と代表の茅原忠夫さん(61)。地域農業の担い手であっても、貯蓄する余裕は「ほとんどない」のが実情だ。
 
  茅原さんは嘆く。「むらの疲弊は農業所得が少ないことが原因だ。これに尽きる。米価は安い。生産調整は厳しい。鳥獣害はひどい。高齢者ばかりの中山間地でどうやって担い手を確保し、耕作放棄を防げというのか」
  地元のJA西いわみ米穀課の谷尻賢二課長は「米消費が減り続ける中で、米価下落の底が見えない。農家への新米の概算金も減る一方だ」と渋い顔だ。しかし、古賀町のような中山間地では米に代わる有望な作物も見当たらない。「耕作放棄解消を言うのなら、まずは中山間地でも農業経営が成り立つ政策が必要だ」と訴える。
 
  農地の全筆調査を主導した同町農業委員の斎藤一栄さん(57)の表情も険しい。「小手先だけの対策で耕作放棄は決して解消できない。大事なのは、誰もがむらで暮らせること。今、手を打だなければ、むら崩壊はすぐそこだ」
  農山村で暮らす農家の所得確保が、耕作放棄解消の鍵を握っている。 (ここまで日本農業新聞)
 
自作農主義から転換を

 農家の所得確保は、昔のような政府が所得保障的な高米価で買い入れ消費者に安く売る食管制度的な価格政策では、米消費が減り続ける中では赤字が蓄積しすぐに破綻します。しかし水田は、2000年使い続けても連作障害を起こさないを優れた農地です。これを維持することは、現代を生きる人の責務だと思います。
 
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また転用される農地は、都市近郊の優良農地が多いのですが、これからは少子高齢化社会ですから、今のように新しい住宅、新しいショッピングセンターを農地を潰して新たにつくる、農村を蚕食するように都市が郊外へ拡がっていくというあり方が良いとは思えません。土地利用全体のグランドデザインを考え、農地を維持する方策を政府全体、農水省は考える必要があります。日本の農地の大半を占める水田は、例えば、ご飯用の米だけでなく、飼料用やバイオマス・エネルギー用の稲を栽培することで、生産基盤としての機能を維持しつつ活用する生産品目戦略が必要です。
 
 自作農主義から転換を
農地があっても耕す人が居なければ、無意味です。耕作放棄は、高齢化による引退と町外に生活の場を移す「不在地主」化が引き金になっています。敗戦後の農地解放=自作農主義では農地所有者が耕作するシステムですから、所有者以外に耕作、農地利用が移りにくい。今や自作農主義は日本農業の桎梏になっています。農協など様々な農政の仕組みは、自作農主義を前提として制度が設計されています。そして様々な利権が絡み合って、今の農政が運営されています。自作農から借地農主義への転換が必要なのですが、それは郵政民営化よりも大きな政治的エネルギーが必要です。
このように、様々な課題が山積していますが、農政は停滞し、貴重な時間が食いつぶされているに思えてなりません。


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