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蓼・タデ食う虫も、好き好き 医食同源と害虫 [有機農業/食物にする生命との付き合い方]

№08-06 2008年2月小針店で印刷・配布した「畑の便り」の再録

 虹屋は取り扱っている野菜の、一般的な慣行栽培での農薬の使用を、生産地の都道府県が制定した防除の標準をもとに表示しています。ある方から、「私は玉葱のあの臭いが嫌いで食べられない。玉葱に虫がつく、そして農薬をあんなに多く使うなんて信じられない」と言われました。

  玉葱のあの香り、血液サラサラ効果があるそうですが、切っていると涙が出たりして嫌いな方も居ます。この方のご家族には玉葱の好きな方がいて「蓼食う虫も好き好き」と笑い話でその場は済んだのですが、これは食物の薬理効果、医食同源と関わっています。

タデ・蓼食う虫も好き好き  4億年、今も続く攻防

蓼・タデは約800種のタデ科の草本の総称で、日本には約50種あります。蕎麦のソバ、漢方薬のダイオウなどもタデということになりますが、一般には刺身のツマに珠紅の若芽が使われるヤナギタデ(柳蓼)です。蓼類の葉は酸っぱいのですが、ヤナギ
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タデには加えて特有の香りとピリッとした辛味があります。料理店では葉を付けたままアユの塩焼きに添える出回るアユ料理に欠かせないので、別名アユタデ。葉をすりおろして酢を混ぜ、のばした「タデ酢」に漬けた、きれいな焼き色がついた鮎「これを頭からかぶりつく。鮎の内臓のほろ苦さと蓼のピリ辛さが融合した深い味わいは、鮎好きにはたまらない一品である。」 

 蓼の名前の由来は、その辛味が舌をただれさせるほど辛い、タダレ→タデから来ているといわれます。わさびなどと違って、鼻につんとくることはなく、生の葉を食べて暫くすると、刺激がさっと走るそうです。こんな辛い葉にも虫がつくということから、人の好みはさまざまであるということを「蓼(タデ)食う虫も好き好き」出典は、中国の古典にある「氷蚕は寒さを知らず、火鼠は熱さを知らず、蓼虫は苦さを知らず、ウジ虫は臭さを知らず」。また「蓼虫(りょうちゅう) 葵菜(きさい)に移らず」ということわざもあります。蓼タデにつく虫は、手近に葵(あおい)という味のいい甘菜があれば、そっちへ移りそうなものだが、そうしない。人も各々の好みがあるので他からああしたらいい、そうしたらどうだ、などといっても聞き入れないものだといった意味です。
 
 蓼虫とは??

 「蓼虫」はホタルハムシなどの甲虫ですが、数十万種の草食性の昆虫のほんの一握りです。他の虫は、特有の香りとピリッとした辛味が嫌いで食べないのです。それが平気な虫が蓼虫で、彼らにとってはヤナギタデは専用食堂です。草本は最大の敵である草食性昆虫を害する防御物質を、産出します。それが平気な極少数の虫がいて、それがその草や木の害虫になるのです。
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  タバコのニコチンは、強力な神経毒で多くの虫はタバコを食べません。しかし食葉性のヤガ類のオオタバコガ、キタバコガの幼虫は、ニコチンが神経に作用する前に速やかに体外に排泄する仕組みがあるのでタバコを食べれます。タバコスズメガはニコチンを短時間で無毒な物質に変える代謝機能があるので、名前の通りタバコを専用食堂にしています。このニコチンの壁を突破したタバコ害虫は日本でも50種近くいて数多いと思えますが、草食性の昆虫全体に較べればほんの一握りです。
  こうした草食性昆虫を害する防御物質を持たなかったとしたら、数十万種の草食性の昆虫が全て食べれるのですから、アッという間にその草本は全滅してしまいます。人には甘く美味しい葵(あおい)も防御物質を持っていて、それが多くの虫には毒物なのです。ダデの防御物質には平気な蓼虫も、葵のそれは無害化できないので移らないのです。

防御物質と進化
 
  また、新たな強力な防御物質をもつ新たな植物、仮に虹屋草が現れたとします。これを食べれる昆虫はいませんから、無敵です。他の害虫がいて弱められている草本を駆逐して、地球上を全部覆う勢いで繁殖するかもしれません。が、やがて、有性生殖や突然変異で様々な遺伝子を持った昆虫が日々生まれていますから、虹屋草を食べれる虫が現れます。虹屋草の害虫誕生です。それで虹屋草の繁殖が抑えられ、地球上には虹屋草しかいないという事態にはならないわけです。

  キウイフルーツが、日本の持ち込まれた当初は、虫も病気もつきませんでした。それから数十年たった現在では数多くの病害虫が現れています。経済栽培では農薬を使うのが当たり前になっています。それは従来いた虫が食性を拡げる形ですが、キウイフルーツだけしか食べないとか主食にするようになった昆虫が現れたら新種の昆虫誕生です。植物と昆虫の種・多様性の増大=進化には、植物の産出する防御物質の変化とそれに対応する昆虫の変化が深く関わっています。
 
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大根、カブ、キャベツ、ブロッコリー、わさびなどのアブラナ科の植物にはカラシ油配糖体が共通して含まれています。まずカラシ油配糖体を持った植物、アブラナ科の元祖が現れ、それを食べれる虫が現れ、その虫から身を守るために、少しちがったカラシ油配糖体を産出する新たなアブラナ科の植物が現れ・・とアブラナ科は種が増え、虫も種が増えていったと考えられます。
 
  つまり、作物など植物は根をおろして生存しています。つまり敵が来ても逃げ出せません。それで、植物は草食性昆虫など食植者・天敵に食われないようにするため化学的防御物質を生成します。それで昆虫などは、その防御物質に対応して特定の解毒システムを作り出し適応します。適応した昆虫らは生物種として、量としても、草食性の昆虫の全体から見れば極小数、少量です。つまりある植物種にはその植物種を食そうとする特有な食植者が存在しています。ですから「蓼食う虫も好き好き」。
 
  またこうした防御物質は、もう一つの敵、細菌やカビなども害する作用を顕します。タデの防御物質、我々が辛味を感じる物質は弱い抗菌効果と強い酵母やカビを抑える効果をもっています。わさびの辛味成分は、カビや細菌の増殖を抑えます。それを私たちは痛み易い刺身を食べる際に利用してきました。室町時代の料理書には「コイはワサビ酢、タイはショウガ酢、スズキはタデ酢、フカは実カラシの酢」とあるそうですが、冷蔵庫がない時代、魚の鮮度を保ち、食欲をそそるために草本の防御物質が使われていました。欧州ではタデの実を胡椒の代用としていました。
 
  このように植物が防御物質で多様化すると、それをもたない他種植物が病中害のために生息できない場所でも生息場所にできますし、自ずから種仲間を見つける機会が増え交配がやりやすくなりますし、草食性昆虫などの天敵を減少させられます。こうした利点が植物にはあります。他方、天敵の草食性昆虫などには、適応した防御物質を産出する植物を彼ら専用の餌場にできます。異種とのすみわけが細分化し、仲間とは生息場所が近くなり、繁殖などが有利に運べることになります。つまり食植者の量は極めて少ないが、食植者の種数は極めて多くなるという豊富な多様性をもった生態系が形成されます。今から4億3,800万~4億800万年前と見られる地層から昆虫の化石が見つかっています。少なくとも4億年前から植物と草食性昆虫との防御物質を軸とした攻防は続いているわけです。
 
食物の薬理効果、医食同源と人間の解毒能力

 今から4億3,800万~4億800万年前と見られる地層から昆虫の化石が見つかっています。少なくとも4億年前から植物と草食性昆虫との防御物質を軸とした攻防は続いているわけです。私たちのご先祖が地球上に現われたのはたかだか100万年前。既に周りの植物には多種多様な防御物質が満ち溢れている環境です。それらを解毒するシステムを持っていなければ、身体に備えていなければ、食べ物に困り生きていけません。
 
  そのため例えば、肝臓にはフラボノイドやアルカロイドなどの植物が産出する防御物質・生体毒性をもつ化合物を解毒代謝をおこなう酵素が多種あります。その酵素をつくるための遺伝子群を我々は受け継いでおり、摂取、侵入してきた物質の毒性に応じて適した種類の解毒酵素を生成するよう遺伝子の発現を制御するシステムも備えています。昆虫は特定の少数の防御物質を解毒できるだけですが、この仕組みで私たちは多種類を解毒できます。つまり、昆虫が特定の植物しか食べれない、食べないのに、私たちは多種の植物を、その多種の防御物質を解毒できるので食物にできます。昆虫には無い、体内に侵入した毒素に結合し働くなくする抗体を生成する仕組み・免疫系もあります。
 
 こうした高い解毒能力をもつため、虫が致死する量より多く摂取、10倍100倍とっても死にません。このため致死量以下の摂取量での様々な生理活性効果、つまり薬効が顕れてきます。ヤナギタデは消炎、解毒、利尿、下痢止め、解熱、虫さされ、食あたり、暑気あたりなどに、その全草を生薬「水蓼」(スイリョウ)と呼び用いられてきました。江戸時代には霍乱(コレラ)に用いられたと記録されています。現在ではタデには血圧降下作用、がん細胞の増殖を抑えることが判っています。これの薬効は、防御物質、辛味などを感じさせる物質によるものですが、解毒システムという観点からは、一種類だけを食べ過ぎ摂りすぎては反って害作用が顕れるといえます。
 
  また、植物の成分を異物と判断した人間の体は、これを解毒代謝するために、体内のさまざまな活動を活性化させます。これから春の山菜の時期です。蕗のトウをはじめ、多くは植物の新芽ですから多くの防御物質を持っています。冬眠から覚めた熊は、こうした山菜=新芽を多量に食べて、その防御物質の作用や解毒代謝するために活性化する体内のさまざまな活動を利用して体調を整えます。人間も同じです。
 今日の医薬の大半は、草本の産出する防御物質の化学構造を手直するなどして開発されたものです。
 
 良薬が口に苦いのは?
 
タデも山菜も辛味、苦味、エグ味を感じさせます。植物と動物の防御物質を軸とした攻防という点から見ると、生理作用が激しい防御物質を含むものを体内への入り口でのクチで見分けるための警告センサーといえます。
 私たちは、アク出しや煮こぼし、加熱でこれら防御物質を除いたり、不活性化させています。また、作物では苦味やエグ味のない方向で品種改良してきました。こうした味の成分は、植物・作物にとっては大切な病害虫からの防御物質です。それを人間は取り上げて食べやすい作物に変えていっているわけですから、人間によるケア=農作業が欠かせません。それを人間や生態系の他の生き物や環境に悪影響を及ぼすやり方でケアするのか、否かが問題です。
 
 「五穀、五畜、五菓、五菜これを用いて飢えを満たすときは食といい、それを用いて病を療するときは薬という」と漢方では言うそうですが、体は、食べたものと飲んだものから作られ、維持され、調整されてので、何を食べ、何を飲むかというのは、とても重要です。そして今や地球の健康まで考えて、食べる時代ではないでしょうか。 


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