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”遺伝子組換え病原体”対策とは? 生物兵器と遺伝子組み換え(2) 2001年 [遺伝子技術]

2001年9月小針店で印刷・配布した「畑の便り」の再録

遺伝子組み換え「技術」、バイオテクノロジーは、組換え作物など農業、遺伝子治療、再生医療など医療、遺伝情報をもとにした新薬開発など医薬、など様々な分野で使われ、新しい商品、ビジネス、成長産業を生むものとして期待されています。このバイオテクノロジーが引き起こす問題の一つに、技術の「悪用」、生物兵器、人や農作物の病原体の兵器化があります。

 大量破壊兵器は、よくABC兵器と言われます。Aはアトム・原子で核兵器、Cはケミカル・化学で毒ガスなど、Bはバイオ・生物です。核兵器も毒ガスも実戦で使用されていますが、生物兵器は使用されたことがありません。米国では1969年に攻撃的生物兵器開発の中止を決定しています。核兵器があるから大量破壊兵器はこれ以上要らないということなのでしょう。国際的には、1975年に生物化学兵器禁止条約が発効し平和目的以外の生物や毒素の製造や保管が禁止されています。しかし、この条約にはそれを検証する仕組みが含まれておらず、抑止力・実効性が疑問視されています。

 そしてバイオテクノロジーの発達で、生物兵器がより強力に、より使いやすくなるとの懸念がでてきました。米国のCDC(疾病制圧センター)は、「将来、遺伝子操作で広範囲に散布可能な病原体(生物兵器)になりうるもの」としてニパウイルス、ハンタウイルス、ダニ媒介出血熱ウイルス、ダニ脳炎ウイルス、黄熱、多剤耐性結核菌など①入手容易②生産と散布が容易。③高い発病率と死亡率で大きな社会的衝撃を与えうる病原体をあげています。特にオウム真理教がボツリヌス菌や炭疸(たんそ)菌の散布を計画していた、バイオテロリズムが現実化していたことが判ってから懸念が一層高まりました。

 それで、生物化学兵器禁止条約の検証の仕組み作りの交渉が95年以降本格化しました。具体的には、生物兵器を作りうる特定の施設(大学などの研究所やバイオ企業など)を毎年公表し、国際グループによる抜き打ち査察実施などです。昨年の沖縄サミットでは「2001年交渉終結」が首脳宣言に明記されました。ところが、今年になってクリントン政権に代わったブッシュ政権が、交渉結果をまとめた議定書草案の受け入れ拒否に方針変換、そのために、交渉自体が8月4日に終了し、事実上、生物兵器の開発が野放し状態にされました。

生物兵器の開発が野放し状態

 米国が議定書草案に反対の理由に挙げたのは、①生物兵器を開発しそうな懸念国への検証システムが骨扱きにされかけている②その半面、自国の先端バイオ産業や大学が議定害に基づく研究施設への訪間調査義務づけなどで重い負担を課せられる③訪問調査に伴う企業秘密の漏えい防止策などに不安があるなどです。①は検証システムをつくる交渉を続けて解決すればよい問題です。②と③は訪間調査が行なわれる限り付きまといます。つまり、一番進んでいる米国のバイオテクノロジーが訪問調査によって、欧州や日本、ロシアなどに知られることを嫌ったのです。生物兵器、バイオテロリズムの恐怖よりも、米国のバイオ企業秘密の漏えいが怖かったのです。

 米国の対策は、病気の検出、診断、治療、予防の改良に関する研究開発を進め、診断能力の強化と疾病サーベイランスの増強し、発生時対策をキチンと行なうことです。これ自体は、新たに出現する感染症の対策としてはとても重要ですが、生物兵器対策としてはどうでしょうか。火事で例えれば、放火を無くす事は放棄して、報知器と消防車を整えておこうと言う物です。一、二軒燃えても町中が火の海にならなければ良い、安全や人命よりも、企業秘密・利益が優先するという価値判断です。

 遺伝子組み換え作物、食品の販売を、米国食品医薬局が始めて認めた時に米国政府高官は「新しい遺伝子組み換え食品の利益を短期間であげるためには、消費者はリスクを負わなければならない」と言ったと伝えられています。安全性を慎重に調査し対策を採り、人命・社会の安全を確保することよりも、企業利益が優先するという事が、バイオテクノロジー推進には常に付きまとうのでしょうか。

参照 ⇒バイオテロリズムに関する2つの話題:CDC勧告と新刊書「世紀末の生物学」
人獣共通感染症連続講座 第98回
http://www.primate.or.jp/PF/yamanouchi/98.html


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