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葉酸とは?(下)先天性障害の予防に、葉酸摂取は日本人ではどれ位効果があるのか? 2003年 [サプリメント・健康食品]

2003年8月12日小針店で印刷・配布した「畑の便り№03‐33」の加筆再録

問題の先天性の神経管閉鎖障害とは

昨年平成12年12月に、厚生労働省は神経管閉鎖障害という先天性障害の発症を低減するために、サプリメントでの葉酸摂取を奨める行政通知を出しました。
問題の先天性の神経管閉鎖障害とは 無脳症や二分脊椎など、主に、先天性の脳や脊椎の癒合不全をいいます。これら中枢神経系は妊娠28日までに出来ますから、それまでの間に何らかの原因で傷害された結果と見られています。日本の発症率は、1998年で出産(死産を含む)1万人対6、うち二分脊椎は3.2程度。1970年代は1万人対14、うち二分脊椎は2.5程度です。

 この障害の発症は多くの因子(原因)が関係していて、発症率に地域差、人種差が見られます。英国では1970年代は1万人対28、うち二分脊椎は15.5程度です。白人に多く見られます。二分脊椎は、それに特有の異常が出生前に検出でき、80年代以降の出生前診断が広く行われるようになりました。特に英国では、事実上検査が義務化されています。それで、異常が見つかった場合、多くの人が人工妊娠中絶を行うため二分脊椎の発症率は、各国で5以下、英国では1以下になっています。そうした結果、神経管閉鎖障害全体でも、各国は低下しており、日本の6は最も多い方の数字です。

グラフのマジック

テレビの「あるある大事典」などでは、二分脊椎の発症率のグラフを出して、世界では大幅に減少しているのに、日本だけ2倍に増えているなどとコメントしています。
減少は出生前診断と妊娠中絶に拠るものです。日本では疾病登録システムがなく、任意の届出で、医師や社会の関心が高まると届出数が増え、見かけの発症率が高くなります。二分脊椎などの研究振興財団が出来たのは10年前です。発症率上昇の時期と重なります。発症率は増加傾向にありますが、2倍というのは大げさです。

日本でも同様の効果があるのか?

新たな欠乏症の発見 葉酸不足による先天異常研究が進み、動物実験で葉酸の投与で低下したことや血中のホモシステインというアミノ酸の高濃度が障害の原因の一つらしいとわかってきました。葉酸はホモシステインの分解に欠かせないビタミンなのです。そこで、欧米で妊娠を計画している人への葉酸サプリメント投与実験が行われました。実験ですから、葉酸の摂取量を明確に管理しなければなりませんから、サプリメントが手段に選ばれました。一日当たり0.4mgから0.8mgの服用です。

 出生前診断、人工妊娠中絶などの影響により、葉酸摂取による神経管閉鎖障害の発症リスクの低減の効果は必ずしも明確ではありません。地域によっては、完全に障害の発生がなかった所もあれば、まったく効果がなかった所もあります。二分脊椎の発症リスクの低減についての効果が認められたが、無脳症については明らかではない結果が出ているところなどあります。

 

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 概ね、葉酸摂取で神経管閉鎖障害の減少効果がみられた疫学研究の多くは、もともと比較的高い発症率であった地域、欧米地域での研究で、日本は元来の発症率は高くありません。例えば二分脊椎の日本の発症率は、欧米における葉酸摂取後の低減した発症率に相当しています。もともとの発症率が高い欧米で、葉酸摂取で神経管閉鎖障害が70%、80%減少したから、日本でも同様の効果があるとはいえません。

 厚生労働省の検討会は、日本と発生状況が似通っている中国南部での結果を重視していますが、その結果では葉酸サプリメントを摂取した人と服用しなかった人の間では、有意な差は出ていません。受精前から受精28日までは服用した人に限定するとようやく効果が見えてきます。検出できます。

 

妊娠可能な女性で、葉酸摂取量の不十分な人が増加している懸念

効果が不確かなのに何故、葉酸サプリメントの摂取を奨めるのでしょうか。「食生活の多様化により、食物摂取の個人格差が大きくなり、それに伴い葉酸摂取量の不十分な者が増加する懸念」です。
1998年の国民栄養調査から算出すると、葉酸摂取量は20代女性は約0.3~0.4mg/日で、十分です。しかし2000年に行われた女子大学生(21~22歳)244名の調査では、0.12から0.26mgでした。日本では1日所要量成人0.2mgですからその半分位の女子大学生もいるわけです。その食生活のまま妊娠すれば、妊婦に対する栄養所要量0.4mgですから、多い方でも半分、少ないと四分の一です。この栄養欠乏で胎児が傷害され、無脳症や二分脊椎など神経管閉鎖障害を背負うリスクが高まります。

 「先天異常の多くは妊娠直後から妊娠10週以前に発生しており、特に中枢神経系は妊娠7週未満に発生することが知られている。このため、多くの妊婦が妊娠して又は妊娠の疑いを持って産婦人科の外来に訪れてからの対応では遅いと考えられる・・少なくとも妊娠の1か月以上前から妊娠3か月まで」の時期にこの世代に葉酸を摂取させる方法は??厚生労働省の答えは、葉酸サプリメントの摂取です。

 虹屋は、これに二つの点で疑問があります。一つは、「葉酸の摂取で先天異常を予防する」という扱い方です。
一つは、葉酸サプリメントが適切な手段なのかです。

「葉酸で先天異常を予防」は障害児を苦しめる

マスコミの健康関連記事やサプリメント販売の広告では予防という扱い方です。しかし厚生労働省は「リスク低減」です。欧米での葉酸を摂取後の、低減した二分脊椎の発症率と日本の発症率はほぼ同じですから、これより下がるのか??
厚生労働省の検討会は、多めに見て約28%低下し、出産(死産を含む)1万人対4.2になる程度と見積もっています。「先天異常を予防する」ために葉酸サプリメントを服用しても、無脳症や二分脊椎などの障害を背負った子を授かったら、親はどのような心理状態になるでしょうか。

 2000年にダウン症の出生前診断が両親にどのような心理的影響を与えているのかという英国での研究の結果が公表されました。
ダウン症は先天異常であり、血液検査による出生前診断が可能です。英国では、妊娠女性の70%が、出生前検査を受けています。しかし、検査で出生前に正しく判定する割合は36%-76%。そのため、出生前の検査では異常なしでも、実際にはダウン症児を出産する場合があります。そのような親は、検査を受けなかった親に比べ、子育てのストレスが高く、子供に否定的な態度が強いのです。葉酸サプリメントを服用した人でも同様でしょう。「障害児が自らの置かれている状況にいかに適応するかは、両親のかれらに対する態度いかんに多くかかわっているもの」ですから、「あるある大事典」やサプリメント販売の広告の扱いは、親に子供に否定的な態度を強まらせ、障害児を苦しめる物でしかありません。

 厚生労働省の葉酸摂取の奨めは、母親の葉酸摂取量の不十分で、その欠乏症で胎児が傷害される事の予防です。「先天異常を予防する」のではなく「胎児への障害の予防」です。妊娠中の禁煙・禁酒が奨められているのと同じです。

葉酸サプリメントは適切な手段か?

「胎児への障害の予防」という点からは、葉酸サプリメント摂取が適切なのか、はなはだ疑問です。葉酸だけのサプリメントはほとんどなく、他のビタミンなどが含まれています。そのため、ビタミン類の過剰摂取、特にビタミンAなどの過剰摂取が起こりやすい。サプリメントには防腐などのために食品添加物が用いられています。エキス剤には、原料にある残留農薬や有害物質が濃縮されます。これらも大量に摂る事になります。これによる胎児への障害はどうやって防ぐのでしょうか?

 また、葉酸の欠乏だけが先天性の障害を生じる栄養欠乏症なのでしょうか。他の栄養ではどうでしょうか?「新たな欠乏症」があるのではないでしょうか。葉酸以外の栄養素の欠乏が、どのような欠乏症、胎児、新生児への障害をもたらすかは不明ですが、それが分かってから◎◎のサプリメントを摂りましょうでは遅すぎます。「妊娠中の健康と胎児の健全な発育のため、日頃から多様な食品で栄養のバランスを保つなど食生活を適正にし」が大本ではないでしょうか。

 また食べ物の偏りを自覚している人は、サプリメントに手を出します。厚生省は、「食品中の葉酸についても理論的には効果があると推定されるが現時点では証拠が得られていないこと、諸外国がいわゆる栄養補助食品を利用している状況なども考慮」してサプリメントを奨めています。
しかし有史以来、人間は何を食べて葉酸を摂って来たのでしょうか。言うまでもなく、様々な食品を食べてです。工業的に精製、合成したものは有効だが、天然の自然の食べ物は??という発想は、本末転倒したものです。どのように優れたサプリメントでも、野菜果物肉など含まれる様々な栄養素を全ては含んでいません。厚生労働省は、通知の中で関係者に「いわゆる栄養補助食品を利用することが、日常の食生活のあり方に対する安易な姿勢につながらないよう(妊娠可能な人に)周知すること。」を求めていますが、サプリメント摂取を奨めながらこう言われても混乱するだけです。

欠乏症での「胎児への傷害」の予防には適切な食生活

厚生労働省の葉酸摂取の奨めは、母親の葉酸摂取量の不十分で、その欠乏症で胎児が傷害される事の予防です。「先天異常を予防する」のではなく「胎児への障害の予防」です。妊娠中の禁煙・禁酒が奨められているのと同じです。
 「日本人の栄養所要量に基づき作成した食品構成に従って食品摂取を行えば、葉酸0.4mgが摂取できる」のですから、先のほどの女子大学生のような所要量の半分ぐらいしか摂取量がない食生活のパターンを解明し、その危険性を啓蒙する方が「新たな欠乏症」を防ぐためには有効ではないでしょうか。

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2003年8月12日小針店で印刷・配布した「畑の便り№03‐33」の加筆再録


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