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泥縄の実質的同等性、組換えコシヒカリの安全性は? 2001年 [遺伝子技術]

2001年10月小針店で印刷・配布した「畑の便り」の再録

現在、除草剤耐性の遺伝子を組み込んだコシヒカリが開発されています。これが成功し、食卓に上がるには、数々の安全審査を経なければなりません。

 実質的同等性

組換え食品の安全性は、実質的同等性に基づいて審査されています。厚生労働省は、次のように解説しています。

 「「同等とみなし得る」「実質的同等性」とは、当該種子植物の食品としての安全性を評価するために、既存の食品(種子植物)を比較対象として用いるという方法が適用できるということです。(中略)

 なお、厚生労働省が行う安全性審査の範囲は、既存のものと同等とみなし得る組換え体としています。その理由は、そのような組換え体において(除草剤耐性や殺虫毒素などの)付加された性質以外の性質については、すでにその安全性が広く受け入れられてきたため、あらためて考慮する必要がないか、又は、その安全性の評価を行う上で必要とされる知見等の蓄積が十分になされていると考えられるためです。」  遺伝子組み換えの中には、既存の作物・食品と同等とみなし得ないものもある。それは審査の対象外、だから市販されないと言うわけです。それでは、どうやって同等かどうか見分けるのでしょうか。

 農林水産省の解説には、「組換え農作物とその元の農作物とを比較して成分,形態,生態的特質において変化がなければ,安全性については元の農作物と同等であると判断するというものです。」と書いてありました。(11月の改訂前)

 冒頭の除草剤耐性の遺伝子を組み込んだコシヒカリは、組換え親のコシヒカリと比較して、除草剤耐性以外は変わらない、実質的に同等ということを確かめると言うわけです。

どのような形質・性質に着目するかが重要

  すると、どのような形質・性質に着目するかが重要となります。遺伝子組み換えで起こる変化を、FAO/WHO合同専門家会議は、大きく3つに別けています。一つは、目的の形質・性質が加わる意図的な影響、一つは、意図したものではないが予測可能な影響、もう一つは、意図しない予測しない影響です。冒頭の組換えコシヒカリで言えば、除草剤耐性と言う形質が意図的な影響です。そして、米・イネに含まれるタンパク質が変化するといった変化が、意図しないが予測可能な影響です。これは、名古屋大学の松田幹夫教授の組換えで実際に起きています。この二種の影響・変化は、調べるべき標的が判っていますから、従来のやり方、特定成分の分析で調べることが出来ます。

 問題なのは「意図しない」かつ予測できない影響です。その中でも「以前には見られなかった毒素の生成、環境からの有毒物質蓄積の可能性の拡大(例えば農薬や重金属)、養分の摂取に関する思わぬ変異などの望ましくない影響」です。予測できないのですから、調べる標的が定まりません。合同専門家会議は、「代替方法として考えられる(標的を定めないアプローチ)。プロファイリング技術は、たとえば遺伝子、蛋白質及び代謝等の各レベルで用いられており、標的を定めた化学分析よりも広範に非意図的影響を検知するのに役立つだろう。だが、まだ十分に開発や評価がなされておらず限界がある。」

 遺伝子組み換え作物が、科学の段階、実験室にとどまっているのなら、これでも構いません。計測や検出技術の進歩も、科学の進歩です。また「非意図的な影響が起こるのは、ランダムに遺伝子を挿入することにより、既存の遺伝子が破壊されたり、蛋白質(酵素)の発現が変化したり、新たな代謝物が生成されるといった理由によるものであろう。」その影響が、どの遺伝子が破壊される事によると判れば、その遺伝子の働きを知ることが出来ます。意図せざる結果が何故起きたかを調べることから、新しい知見は得られるのです。

 しかし、この段階で、遺伝子組み換えで何が起きるか調べる手段が充分ないままに、実用化するのは、早過ぎないでしょうか。広く栽培されれば、自然環境に影響を与えます。食卓に上がれば、私達の健康に影響します。専門家会議は「安全性評価の過程のいくつかの点については、遺伝子組換え技術の発展に立ち後れないよう、適宜修正しなけれならない」これでは、泥縄としかいえません。転ばぬ先の杖、実用化を図るなら、広範に非意図的影響を検知する技術を開発し、安全性を評価する方法を構築する方が先ではないでしょうか。

 ともあれ、今日の遺伝子組み換え作物・食品の安全審査は、予見できない変化の危険性は考慮外。カッコ付の安全です。

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