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栄養シグナルとしての脂質 co-№05 [油脂ー搾油、栄養、コレステロール]

2010年11月に小針店で配布した畑の便りの再録です。



栄養シグナルとしての脂質


 日本人では、コレステロール値が下がると肝臓癌が男女共に増える関連が強いそうです。
日本各地の約10万人を対象に、生活習慣についての情報を集め、10年以上の長期にわたって疾病の発症に関する追跡を行い、がん・心筋梗塞・脳卒中などの成人病の発症と生活習慣の関連を明らかにして予防などに役立てようとする研究、J PHC研究が行われています。それに拠れば、総コレステロールの低値と肝がんとの関連は、開始3年以内に発生したがんや進行がんを除いても、さらにはウイルスへの感染や飲酒習慣を考慮しても認められました。
総コレステロール値とがん発生リスクとの関連
肝臓癌と心筋梗塞、コレステロール値が下がると増える肝臓癌と減る心筋梗塞、この両者が均衡するところが最適域と素人目には見えます。日本医師会らのように心筋梗塞だけに着目するのは間違いだと思います。それは、日本脂質栄養学会が提唱する脂質摂取のあり方がうまれてきた背景を知るほど、そう思います。“高リノール酸植物油の摂取を増やし動物性脂肪とコレステロールの摂取を減らす”という従来の栄養指導から”動脈硬化性疾患およびその他の炎症性疾患を予防するためには、ω6(オメガ・ロク)系(n‐6系・エヌ・マイナス・ロク・ケイ)脂肪酸(リノール酸など)の摂取量を減らしω3系(n‐3系)脂肪酸の摂取を増やす”ことを勧めています。

中村丁次 氏(神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部)によれば
「バターやラードなどの動物性油脂は、(飽和脂肪酸が多く)常温で固まるために、血管中でも固まりやすく動脈硬化を発生させるのではないかという考えが生まれました。この素朴な着眼点からスタートし、(不飽和脂肪酸が多く)固まらない植物性油脂の摂取が推奨され始めたわけです。」




栄養シグナル
その後、食物と栄養と健康に関する様々な研究が行われました。そして、従来の栄養指導がうまれたのですが、一分子レベルで細胞の働き方を調べる分子細胞生物学の発展とあいまって、「栄養シグナル」という新たな展望、地平にたどり着きました。
 炭水化物(糖類)、タンパク質(アミノ酸)、脂質(脂肪酸)は単に身体を形成する材料、エネルギー源としてだけでなく、ビタミンのように体を調整するシグナルを伝える機能を持つ事が分かってきたのです。それが「栄養シグナル」という言い方であり、アミノ酸・糖・脂質による栄養シグナルの調節系の破綻が多くの代謝疾患、糖尿病や脂質異常症など関連し、動脈硬化性疾患あるいは悪性腫瘍の発症・進展に関与することが分かってきたのです。それを踏まえると、”動脈硬化性疾患などの炎症性疾患を予防するために、ω6系脂肪酸の摂取量を減らしω3系脂肪酸の摂取を増やす”という栄養指導も出てきます。


1960年代に、飽和脂肪酸・SFAの摂取と血清コレステロール値、そして冠動脈疾患の死亡リスクの正相関が初めて明らかになり、常温で固まる飽和脂肪酸の多い動物性脂質を減らす栄養指導が正当化されました。また不飽和脂肪酸・UFAも不飽和(二重)結合が 1 つのものと 2 つ以上のものでは性格が異なることが明らかになりました。 1 つの一価不飽和脂肪酸(MUFA)は肝臓で生合成できますが、2 つ以上の多価不飽和脂肪酸(PUFA)はできない、食事で摂る必要がある“必須脂肪酸”と区別するようになったのです。
多価不飽和脂肪酸⇒P/S比
1980年代になると、PUFA・多価不飽和脂肪酸 の摂取が少ないほうが冠動脈疾患の発症リスクが高いというデータ。約9万人の女性を対象とした米国の研究での、多価不飽和脂肪酸のリノール酸摂取の少ないグループに比べ、多いグループでは冠動脈疾患リスクが 32%も低下というデータが出てきました。こうした調査やPUFA・多価不飽和脂肪酸/SFA・飽和脂肪酸 の比(P/S 比)が高い食事を摂取する実験で血清コレステロールを低下することから、多価不飽和脂肪酸、例えば大豆油・菜種油などに多いリノール酸を多く摂り、飽和脂肪酸の動物性脂肪を減らしてP/S 比を上げる食事・栄養指導が生まれました。

一方、1970年代にグリーンランド人(グリーンランド先住民)の食生活と健康について長年疫学調査の結果、伝統的な生活アザラシや坂何度を多食し高脂肪の栄養を摂っているグリーンランド人には、心筋梗塞発症率が欧米白人に比べて非常に低い、予想に反して低いことが明らかとなりました。伝統的な生活をしているグリーンランド人では魚やアザラシから摂取されるEPAやDHAなどn-3系(ω3)という高不飽和脂肪酸の摂取量が多かったのです。
多価不飽和脂肪酸・PUFAは不飽和(二重)結合の位置、グリセリンと結合していない端から数えて最初の2重結合がある位置から、海の物に多いとされる n-3系、(ω3)と陸の物に多いn-6系(ω6)に大別されます。グリーンランド人では、n-3系の血中濃度が欧米白人に比べてはるかに高く、さらに健康面では、血小板凝集能が著しく低く、出血時間が延長していたこと、血栓性疾患が少ないことも認められました。 血小板の凝集という急性の作用が影響する突然死もn-3系の摂取量が低いと高い事が米国での研究でわかりました。






それで、n-3系とn-6系の働き方の違い、その仕組みの解明が行われています。
その結果の一つに、n‐3系は心筋梗塞発症率や死亡率を下げますが、LDL(悪玉) コレステロール値は上昇するのです。従来は、コレステロール特にLDLコレステロールが、血管にコブの様にせり出
した脂肪の沈着(アテローム・粥状隆起)をつくり、それで血液の流れが悪くなり動脈硬化や心筋梗塞を起こす、だから血清コレステロールを下げれば予防できると考えられていました。この従来の考え方からは、LDL(悪玉) コレステロール値を上げるn-3系の脂肪酸を摂れば、心筋梗塞などは増えるはずですが、逆に低くなっているのです。
コレステロールが最も多く含まれている卵を、人が一日に10個食べ続ける実験では、コレステロール値は上昇せず、アテロームはできませんでした。犬に高コレステロール食を給餌する実験では、血管壁に傷をつけない限り、アテロームはできません。
コレステロール値の低下で冠動脈疾患の発症を減らす、一次予防という従来の考え方の見直しが必要なのです。  続きます


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女性にコレステロール低下薬は不要? co-№04 [油脂ー搾油、栄養、コレステロール]

2010年11月に小針店で配布した畑の便りの再録です。



女性にコレステロール低下薬は不要?


 そもそも女性の心筋梗塞は男性の2分の1から6分の1に過ぎないのに、コレステロール健診や投薬開始の基準値に男女の区別がないのはどう考えても不合理です。また、コレステロール降下薬の効き目も男性に比べて悪い。現在、低下薬の投与されている人の10人に7人は女性ですが、ほとんどの方で不要な投薬治療が行われているのではないでしょうか。
人体ではコレステロールを原料にして男性ホルモンや女性ホルモン(エストロゲンや黄体ホルモン)が生殖腺で作られています。エストロゲンは、全身において大切な働きをしています。とくに血管内では、次のような重要な働きをしています。
◎血管壁を柔軟に保つ●LDLコレステロールの分解と排泄を促す◎HDL(善玉)コレステロールの合成を促す。
こうした働きが相互に作用し合い、血管の老化を防いで動脈硬化などの悪い方向に進むのを防いでくれているのです。
それで日本動脈硬化学会策定の『動脈硬化疾患予防ガイドライン2007』でも「閉経前の女性では、LDLコレステロールが高くても非薬物治療が中心になる」としており、予防策は運動や食事など、その生活指導がガイドラインです。

女性は40代後半から50代に更年期になり生殖腺の働きが衰え閉経に近づくと、女性ホルモンの一つであるエストロゲンの分泌が減少してきます。また急に総コレステロールTC値、LDL-C(悪玉)値や中性脂肪値が上昇してきます。そして、心筋梗塞などが急増します。
それでも、男性よりもはるかに少ないのです。厚生労働省の死亡統計では女性の心筋梗塞など冠動脈疾患による死亡は男性に比べ50歳代で約5分の1、60歳代で約3分の1、70歳代でも約2分の1となっています。他の調査も同様です。



貴方が、「太ると乳癌が3倍に増えますよ。だから男性も乳癌を減らすために、肥満を予防しましょう」という主張を聞いたら、可笑しな話だと思うでしょう。日本では乳がんで亡くなる女性は年に約1万人弱、男性は70人前後。女性と男性は100対1くらいの割合といわれています。男性には、乳癌対策があまり意味のないからです。

この「太ると乳癌が3倍に増えます」とか「総コレステロール値が180から240mg/dlに上がると心筋梗塞の危険性が2倍になりますよ。」という危険度を相対危険度と言います。
一方、男性乳癌の発生確率が3000人に1人であるとか「10年間で心筋梗塞になる危険度は5%ですよ」という危険度を絶対危険度と言います。本当の危険度は絶対危険度でないと意味がありません。
太って乳癌の相対危険度が3倍になった男性に、女性と同じようにマンモグラフィのX線検査を薦めるでしょうか?絶対危険度は1000人に1人になりますが、女性に較べれば三十分の一程度です。X線検査をすれば被爆による発癌リスクが高まります。女性では、乳癌の早期発見のメリットが発癌リスクより十分に大きいでしょうが、絶対危険度が三十分の一程度の肥満男性では??


日本女性の総コレステロールや心筋梗塞などは、50代に跳ね上がります。相対危険度は上がって行きます。それでも、心筋梗塞の絶対危険度は男性よりも低い、60歳代で約3分の1、70歳代でも約2分の1です。服薬での肝臓疾患や筋肉障害などの医原病リスクは同じです。それなのに、男性と同じ基準値なのは、不合理では無いでしょうか。
調査で絶対危険度を求めて目安にすべきではないでしょうか?米国では、「10年間に何%の人が心筋梗塞になるか」の絶対危険度(低リスク10%以下、中等度リスク10-20%、高リスク20%以上)をもとに、LDL(悪玉)コレステロールの治療目標値を掲げています。また、治療目標値よりも高い薬物療法開始の基準値が別にあります。女性は、全年齢で原則、薬物の投与は無しです。
総死亡率で見ると、女性では低コレステロールのほうが危険度が高い。心筋梗塞など心疾患、動脈硬化の危険因子では、どうでしょうか?


女性では高コレステロールは危険因子ではない
熊本大学循環器内科の2004年公表の調査によると、女性での危険因子は喫煙、次に糖尿病、高血圧の順です。女性では高コレステロール血症の関与は比較的少ない。北海道大学医学部の調査では、女性では1)高血圧2)HDL-C値(善玉)が低いこと3)糖尿病4)中性脂肪が多いの順です。総コレステロールTC値が高いこと、LDL(悪玉)コレステロール値が高いことは、大きな危険因子となっていません。これは、 「コレステロールが高くても心筋梗塞は全く増えない」ではなく、「他の危険因子よりも影響力が弱い」ということです。しかし男性では、高コレステロール血症が危険因子です。



危険因子の重みには明確な性差があります。循環器内科専門の天野恵子医師はNIPPON DATA80という日本人の疾患基礎調査の結果を解析して「閉経後の女性の高LDLコレステロールが動脈硬化のリスクとなるのは、『糖尿病』『喫煙習慣』という要因が重なったときです。これらの要因がなく、LDLコレステロールが高いだけなら、すぐに動脈硬化や動脈硬化による心血管疾患のリスクであるとはいえません」
女性では、狭心症や心筋梗塞に既になった人、高血圧と糖尿病を合併した人、家族性高脂血症などの心筋梗塞の危険性の高い人には投薬が必要で有効でしょうが、ほとんどの方で投薬は不要ではないでしょうか。
1日20本の喫煙で狭心症・心筋梗塞の危険度は、中年男性で約2倍、40本以上では5倍に増加。女性は男性以上に喫煙の影響を受けやすいと言われています。そして、禁煙すると数年で吸わない人と同じまでに危険度が低下します。喫煙や糖尿病は様々な病気に関係してます。現在、女性に投与されている低下薬や関連措置で約5000億円が費やされています。このお金を運動や食事など生活指導に使って「糖尿病予防」「禁煙」などを進める方が良いと思いませんか。 


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コレステロールを下げると癌になる?? co-№03 [油脂ー搾油、栄養、コレステロール]

2010年11月に小針店で配布した畑の便りの再録です。



コレステロールを下げると癌になる??


 981年に発表されたハワイ日系人40~59歳の男性8000人を9年間追跡調査した結果では、心筋梗塞など虚血性心疾患による死亡率は、総コレステロールTC値が高いほど上昇しますが、総コレステロールTC値が低くなると、今度はガンによる死亡率が増えることが判明。この報告が先駆けとなり、ガンと総コレステロールTCの関係は注目を集めるようになりました。
低TC値でガンが増えるという結果は、アメリカや欧州、日本などの多くの疫学調査でも報告されています。東京都老人総合研究所元副所長の柴田博先生らの研究ではHDL(善玉)コレステロール値が低いほどガンによる死亡率が高まるという結論が出ています。埼玉県T市の40~80歳の住民3222人を10年間追跡調査したものです。
 日本で高脂血症患者、総コレステロールTCが220mg/dl以上で薬(リポバス)を服用した約5万人を追跡調査したJ-LITで見てみます。リポバス投薬で、TCの最頻値が250mg/dl前後から200mg/dlまで約50mg程低下しています。そして重篤な肝疾患と癌その他の悪性疾患患者を調査対象から除外していますから、新たに発生、発見した癌による死亡を見ていることになります。 
その結果は、180mg/dl未満のガン死亡者は、280mg/dl以上の人の5倍。先週号に載せた性別、登録時年齢、高血圧症、糖尿病、喫煙習慣で補正したデータでは、TC値240~259が最小でそれより多くても少なくとも増えています。ただ低いほど増え方が大きい。LDL-C(悪玉)値では180~199が最小で、同じ傾向にあります。
コレステロールが高いと心筋梗塞など心疾患や動脈硬化などが増えるといわれていますので、それらと癌を合わせて見ると、TCなら200~259、LDLなら120~199といった広い範囲で、この2者の合計死亡率はほぼ同じ、横ばいです。
そして心筋梗塞や動脈硬化に起因する病死と癌死(悪性新生物)が入れ替わる形になっています。この帯域から外れると心筋梗塞や動脈硬化に起因する病気も癌(悪性新生物)も増える。低い方に外れると癌の増加が大きく、高いほうに外れると心筋梗塞などの方が大きい。多すぎても、少なすぎても危ないと見えます。
 これがトレードオフの因果関係にあるなら、TCで220~259、LDLで140~199の人々への低下薬治療は、心筋梗塞などを癌に置き換える、トレードするだけです。専門医の方にとっては、心筋梗塞が減ったというのは喜ばしいことでしょうが、我々にとっては心筋梗塞での死よりも癌での死の方が良いは言えません。TCで220~259、LDLで140~199での低下薬投与は、我々にとっては無意味です。お薬でコレステロールを下げて動脈硬化や心筋梗塞になる人は減ったけど、癌になる人が増えましたでは意味が無いとおもいます。
「コレステロール値が低いとガンによる死亡リスクが高くなる」という見解には、低コレステロールを招くような食生活による栄養不足、栄養の偏りが危険因子・原因との反論があります。しかし栄養素が不足しないようコントロールした研究でも、低コレステロールは独立したガンの危険因子であるとの報告も出ています。
また病理学的には、癌細胞によるコレステロール消費が増加や、癌細胞由来の物質がコレステロールを低下させるなどコレステロールの代謝異常や組織内コレステロール異常が見られる。癌が進行するとコレステロールが低くなるから「因果を逆転」して見ていると反論があります。
医師会らは『肝疾患ゆえに低コレステロール血症を示し、そのような人々の死亡率が高いという「因果の逆転」を見ていることになる。』としていますが、癌については述べていません。まだはっきりしていないからです。





 日本流の低下薬治療は、18世紀の瀉血療法?


 以前に、18世紀の欧米、日本で言えば幕末の頃、盲腸にもコレラにも欧米では瀉血療法、血管を切って「悪い血」を出す療法が行われていたことをお伝えしました。盲腸やコレラに、こんな療法が効くわけが無いと、200年後の私たちは思いますが、当時欧米では、「悪い血」を出す瀉血が正統な権威のある治療法でした。
1835年にフランスの医師P.C.A.ルイが『瀉血の効果に関する研究』を著し瀉血したほうが圧倒的に死亡率が高いことを統計的に実証しました。この知識が広まると、瀉血は「あっという間に世の中から消えてしまった。」日本流のコレステロール療法も、瀉血療法と同じでないという保証はないのです。後からみれば、なんて馬鹿な治療、投薬をしていたとなるかもしれません。

「日本でコレステロール値を下げる薬の売り上げは年間約2500億円。関連医療費も含めると7500億円。」そうです。日本ではLDL 140mg/dlで投薬開始ですが、欧米では190mg/dlです。この違いで、約6000億円多くかかっているといわれています。そして140~190の帯域では、心筋梗塞や動脈硬化に起因する病死と癌死(悪性新生物)が入れ替わる形になっています。お薬でコレステロールを下げて動脈硬化や心筋梗塞にならなかったけど、癌になりましたというなら、踏んだり蹴ったりです。

欧米では女性には投薬治療しません。家族性高脂血症など特別な例を除いて投薬していません。日本では、男女を問わず投薬。日本の投薬治療の10人に7人は女性ですから、欧米に比べ約5000億円も過剰に負担し、副作用の医原病にもなっている。
現在の基準、日本動脈学会のガイドラインによる
  適性域 120mg/dl未満 
  境界域 120~139mg/dl未満 
  高LDLコレステロール血症 140mg/dl以上
治療開始基準(140mg/dl以上)
女性は小さめの男性という扱いで男女を区別しない
という基準は、見直す必要があるというのが日本脂質栄養学会の見解の一部です。
これを、医師会らは「厳密な科学的査読(発表に際しての専門分野の複数の研究者による検証)を受けたとは言えない論文も根拠にしている」などと反論しています。しかし権威で押しつぶすのではなく、実証的に反論して欲しいと思います。

 医療現場では、服薬をやめたいと申し出る人、勝手にやめている人が出て混乱しているそうです。医師らは 「怪しい人たちの怪しい説」といった医師会製作のレッテル張りで対処しているようですが、それでは患者らの疑念は晴らされません。米国や欧州の治療基準と日本のそれが大きく異なっている現実と、栄養学会の見解が厳密な科学的査読を受けた論文も根拠にしているからです。この混乱を収めるのは、1835年にフランスの医師P.C.A.ルイが瀉血療法にやったような実証的な根拠です。
 医師会らは、自ら言うように『血清コレステロール値と総死亡率の関連を、強く影響している他の要因、年齢、喫煙、高血圧、多量飲酒等の「交絡因子」を考慮に入れた分析』して、総死亡率、発ガン率、癌死亡率などと血清コレステロール値がどの程度の因果関係があるのか明らかにして、医療費と副作用を負担している患者、国民に説明して欲しいと思います。





 多目的コホート研究(JPHC研究)でみる総コレステロール値とがん発生リスクとの関連


多目的コホート研究(JPHC研究)で、総コレステロール値で、4.14mmol/L未満(160 mg/dl未満)、4.15-4.64(160-179 )、4.65-5.16(180-199)、5.17-5.68(200-219)、5.69-6.20(220-239)、6.21以上(240 以上)の6つのグループに分けて、
その後のがん発生の相対危険度(総コレステロール値4.65-5.16mmol/Lのグループのリスクを1としたときのハザード比)及びその傾向(総コレステロール値1SD<男性0.89 mmol/L=34.6 mg/dl、女性0.91 mmol/L=35.2 mg/dl>増加あたりのハザード比)について解析

血中の総コレステロールの低値と全がんの発生との関連は男性においてのみ認められました。研究開始3年以内に発生したがん及び進行がんを除いたところ、この関連は弱くなりました。
臓器別に見ると、総コレステロール低値とがん発生との関連は、男女の肝がん、男性の胃がんで強く認められました。さらに開始3年以内に発生したがん及び進行がんを除いたところ、胃がんとの関連は弱くなりましたが、肝がんとの関連はほとんど変わりありませんでした。(図参照)。一方、男性の前立腺がんでは、総コレステロール値が高いほど発生リスクの上昇が見られました。この関連は進行がんを除いたところ弱くなりました。
総コレステロールの低値と胃がんとの関連は、研究開始3年以内に発生したがん及び進行がんを除くと弱くなることから、がんによる結果として総コレステロールが低下していた部分があると考えられます。

一方、総コレステロールの低値と肝がんとの関連は、開始3年以内に発生したがんや進行がんを除いても、さらにはウイルスへの感染や飲酒習慣を考慮しても認められました。

肝がんに先行して起こる肝硬変や、それ以前の長期にわたる慢性C型肝炎では、ウイルス感染が血清コレステロールの低下をもたらすことが知られ、その影響が残っている可能性が考えられます。逆に、コレステロール低値によって、C型肝炎ウイルスが肝細胞のLDLレセプターや酸化LDLレセプターの親和性を増した結果、持続的な肝炎をひき起こし易くなる可能性も考えられます。
総コレステロール値とがん発生リスクとの関連http://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/357.html  
続きます
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10年間で心筋梗塞になる危険度を5%から4%に減らすのにいくら払うか  co-№02 [油脂ー搾油、栄養、コレステロール]

2010年11月に小針店で配布した畑の便りの再録です。



10年間で心筋梗塞になる危険度を5%から4%に減らすのにいくら払うか


 J-LITは、日本で5万人の高脂血症患者、総コレステロールTCが220mg/dl以上の35歳から70歳までの男性と、閉経後の女性を対象とし、心筋梗塞、脳血管障害発作の新鮮例(発症一ヶ月以内)、コントロール不良の糖尿病患者、重篤な肝疾患と腎疾患、二次性の高脂血症、癌その他の悪性疾患患者を除外し、約5万2千人を対象にシンバスタチン(リポバス)という薬剤を6年間服用する「Japan Lipid Intervention 」、通称J-LITという疫学調査です。この調査期間中に亡くなられた方は840人です。この方々について死因と総コレステロールTC値やLDL-C(悪玉)の関係が解析されました。調査対象のバイアス(偏り)から、高コレステロールが死亡率を高めるような結果バイアスがかかっていると考えられています。

コレステロール値が高くなる遺伝子を両親もしくはどちらかから受け継いで高コレステロール血症を発症する家族性高脂血症(FH)という病気があります。家族性高脂血症では、極端な高コレステロールにより、動脈硬化をひき起こしやすく、やがて狭心症、心筋梗塞、脳硬塞などを心筋梗塞になる危険性が高いことが知られています。男性は30歳から、女性は50歳頃から心筋梗塞を発症。心筋梗塞で亡くなる頻度は、非FHの一般人の約10倍です。0.2%、500人に一人の割でいますが、このJ-LITでは、対象の人の比率が約10倍、2%含まれていたと推定されています。このため、高コレステロールが死亡率を高めるような結果バイアスがかかっていると考えられています。治療を受けていない人々も含まれる一般住民と違いますから、その点でも同様の結果バイアスがかかっている見られます。
性、登録時年齢、高血圧症、糖尿病、喫煙習慣で補正した、総コレステロールTC値(20で区切り)と総死亡率(千人当たり死亡数)は「し」の字です。


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240~259の領域が最も小さく、200~259は横ばいで底になっています。これより小さい180~199までと、より大きい260~279はそれより高くまたほぼ同じです。280以上では総死亡率は上がりますが、それよりも160~179が2割ほど死亡率が高くなっています。そしてより小さい160以下が総死亡率が最も高くなっています。これを相対危険度という視点で見ると、200~259は横ばいで底になっているU字型です。つまり、総コレステロールTCで200~259が青信号の区間、
 LDL(悪玉)の値でみると120~159が底になる[__]字型です。80以下と200以上が最も大きい。相対危険度で見ても同じです。HLD(善玉)では、60~69が底のV字型で、それよりも高くても相対危険度は高くなっています。中性脂肪では、300以上で上がります。
「一番死ににくいとは一番健康であることを示すのとほぼ同義語」という栄養学会の、医者にかかるユーザーとしては支持できる考えに立てば、総死亡率が低いこの帯域、TCで200~259、LDLで120~159を医療や健康管理の目標にするのが妥当といえます。



 癌(悪性新生物) Vs 心筋梗塞・血管疾患
 死因別に見ると、医師会らが着目している心筋梗塞、他の心疾患、突然死、脳血管障害、他の血管系を合せてA群と癌(悪性新生物)をあわせてみると、総死亡率が低いTC値200~219、220~239、240~259の区画ではほぼ同じです。LDL‐Cでも120~139、140~159、160~179、180~199ではほぼ同じです。よく見ると、癌の比率はTC値240~259が最も小さくTC値が小さくなると大きくなる、心筋梗塞や血管障害などのA群は逆になっています。いわば、A群と癌が入れ替わる形になっています。それはLDL値ではもっとはっきりしています。180~199区画が癌死亡が最小で、A群はその5倍ほどあります。LDL‐C値がより低くなると、癌が増え、その分A群が減っています。120~139区画以下では、癌もA群も増え、特に癌が増加しています。逆に180~199区画より高い200以上では、A群も癌も増え死亡率が高くなっています。
 このような入れ替わる形になっているので、その帯域の低い方の端で心筋梗塞などは最も低くなる。TCでは200~219の区画、LDL‐Cなら120~139区画が最も低くなる。従って、心筋梗塞などだけを見ている日本動脈硬化学会が、TC220、LDL‐C140を治療開始基準とするのは当然です。専門医の意見に引き摺られて医師会が同様の見解を述べるのも当然です。
 「10年間で心筋梗塞になる危険度は5%ですよ」という危険度を絶対危険度と言います。「総コレステロールTC値やLDL-C(悪玉)を20mg/dl下げると心筋梗塞の危険性が0.8倍になりますよ。」という危険度を相対危険度と言います。0.8倍は「10年間で心筋梗塞になる絶対危険度」が5%から4%に減ることです。
専門医は相対危険度を下げる治療に情熱を傾けるのは当然です。患者は、通院し医療費を払い、副作用も覚悟しなければならないから、絶対危険度で見ないと患者には意味がありません。ましてや、コレステロールを下げると癌になる危険度が増えるというなら、話は別です。 続きます


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「コレステロールは高めが長生き」?? co-№01 [油脂ー搾油、栄養、コレステロール]

2010年11月小針店で配布した畑の便りの再録です。



 9月に日本脂質栄養学会が「長寿のためのコレステロールガイドライン(指針)」を発表、それが『コレステロールは高めが長生き』などと報道されました。それに対し10月、日本医師会(日医)と日本医学会、日本動脈硬化学会が「科学的根拠に乏しい。明らかに間違いである」と批判。

両者を読み比べると、日本医師会らが動脈硬化、心筋梗塞などの"病気"に着目し、栄養学会が「最も重要なエンドポイント(着眼点)は総死亡率」「一番死ににくいとは一番健康であることを示すのとほぼ同義語」という姿勢。これが、科学的根拠のウンヌンより、医師会=現状維持、栄養学会=基準変更という結論を導いていると思いました。

また、栄養学会の浜崎智仁理事長(富山大学和漢医薬学総合研究所教授)は「日本でコレステロール値を下げる薬の売り上げは年間約2500億円。関連医療費も含めると7500億円を上回る。この中には多額の税金も投入されており、無駄と思われる投薬はなくすべきだ」と主張しています。これには大賛成。

具体的には、日本では、男性の2倍の数に当たる女性たちがコレステロール低下薬を投与されていますが、欧米同様に日本人でも「女性にはコレステロール低下薬治療は不要」。
男性でも現在はLDL-C 140mg/dlが投薬治療開始の目安ですが、「医師の合理的な判断による特別なケースを除き」(悪玉)LDL-C 190mg/dl以上のみ投薬治療です。
これが日本人に妥当なのか俄かに素人は分かりませんが、現在の基準の見直し、男女差や高血圧、糖尿病、喫煙、家族歴といった条件、心筋梗塞、脳卒中などの既往の有無などでより細分化した基準へ見直す必要があると思います。



45歳以上の男性、55歳以上の女性は、リスクを一つ持つことになっているから、中リスク群になる


 


総死亡率 対 心筋梗塞


医者にかかるユーザーの立場では、栄養学会の「最も重要なエンドポイント(着眼点)は総死亡率」「一番死ににくいとは一番健康であることを示すのとほぼ同義語」の方がが支持できる。動脈硬化や心筋梗塞になる人は減ったけど、癌になる人が増えましたでは意味が無いとおもいます。医師会らはこの点には反論していません。動脈硬化、心筋梗塞(こうそく)などに着目するだけです。


日本人の死因の約30%は癌、肺炎など呼吸器系は10%ですが、これらは総コレステロールやLDL-C(悪玉)が低くなるほど増える事が知られています。LDL-Cは肝臓からコレステロールを細胞には配達するものですが、これが少なすぎると細胞膜の形成が不十分でウィルスや細菌の侵入を防御できなくなり、またホルモン類の欠如により免疫力も低下、免疫細胞が体の中で出来たガン細胞を除くことで発ガンを防いでいますから、免疫力低下で発ガンが増えると見られますが、詳しくは不明です。

 医師会らが問題にしている動脈硬化の脳血管障害は12%、心筋梗塞など心疾患は欧米人は約50%で日本人は約15%しかありません。その薬物の開始基準は欧米の方が厳しいと思われますが、逆。欧米では190mg/dl以上で、日本は140mg/dlです。何故このように違うのでしょうか??



 栄養学会は、日本の一般住民を対象とした研究など国内外の多くの疫学調査の結果から、総コレステロールTCと総死亡率の間にも負の相関、TCが低いと死亡率が高く、TCが高いと死亡率が低いと指摘しています。さらに「LDL-Cと心疾患の間に有意な相関が認められない」とまで言っています。
この見解に対し医師会らは『血清コレステロール値と総死亡率の関連を因果関係としてとらえるべく分析するには、総死亡に最も強く影響している他の要因、年齢はもちろんのこと、喫煙、高血圧、多量飲酒等の「交絡因子」を考慮に入れた分析が必要である。』と反論しています



 


コレステロール単独の悪影響は小さい


 動脈硬化や心疾患などの元凶はコレステロールという学説は、20世紀初めウサギにコレステロールを食べさせたら血管に沈着したというアニスコフの報告が最初で、その後アメリカのフラミンガムという町での現在まで続いている疫学調査の結果などから定説になっています。
 単純にコレステロールの値と心疾患の発症頻度を比較すると、コレステロール値の高い程、発症頻度も増加して見えますが、フラミンガム研究の内容を詳細に再検討したところ、事実はそれ程単純でないことが明らかになってきました。 

 血清総コレステロールTCが300mg/dl(LDL-C約190mg/dl相当)を越す値でも、血圧が正常で糖尿病がなく、たばこも吸わず、心電図に異常のない場合は発症率はきわめて低い。逆に高血圧と糖尿病があり、タバコを吸い、心電図に異常がある場合はTCが200(LDL-C約120mg/dl相当、日本の基準の適正域)以下でも、数倍の高率で発症することが明かになりました。コレステロール値が同じで危険因子のない人に比べ、高血圧で、かつ糖尿の人の発症率は6倍になり、さらにタバコを吸えば9倍に、心電図異常(左心室肥大)があれば15倍にもなることが分りました。
糖尿病、高血圧、喫煙、心電図異常の危険因子を考慮すると、危険因子の数が多い程発症率の高くなる。そして仮にコレステロールも危険因子の一つに加えたとしても値の高いことによる影響は、ごくわずかだったのです。 

 日本の研究でも、同様の結果が得られています。こうした経過を見ると、医師会らが「年齢、喫煙、高血圧、多量飲酒等の他の要因、交絡因子を考慮に入れた分析が必要である。」というのも当然です。その点をJ-LITで見てみます。

日本でシンバスタチン(リポバス)という薬剤を服用してもらい、その効果を6年間追跡した研究「Japan Lipid Intervention 」、通称J-LIT。この調査は、総コレステロールTCが220mg/dl以上の35歳から70歳までの男性と、閉経後の女性を対象とし、心筋梗塞、脳血管障害発作の新鮮例(発症一ヶ月以内)、コントロール不良の糖尿病患者、重篤な肝疾患と腎疾患、二次性の高脂血症、癌その他の悪性疾患患者を除外し、約5万2千人を対象にシンバスタチンを6年間服用する疫学調査です。 続きます










「NIPPON DATA80」という日本人を対象とした疾患基礎調査データからは、閉経後の女性の高LDLコレステロールが動脈硬化のリスクとなるのは、「糖尿病」「喫煙習慣」という要因が重なったときです。これらの要因がなく、LDLコレステロールが高いだけなら、すぐに動脈硬化や動脈硬化による心血管疾患のリスクであるとはいえません。
(天野恵子 医師・循環器内科)


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植物ステロールとコレステロールの関係 [油脂ー搾油、栄養、コレステロール]

2010年10月小針店で発行した畑の便りの再録です。


 動物は、細胞を作る細胞膜の構成成分やホルモン、女性ホルモンや男性ホルモンや胆汁酸(脂質の吸収に必要)など原料にコレステロールを食べ物や生合成で使っています。
 植物は、植物ステロールを使っています。

 コレステロールの含有量は、植物性食品では総脂質のうち50mg/kg、動物性食品では5g/kg=5000mg/kgです。実測では「ネギ」や海藻類には有意な量のコレステロールが含まれていました。

食用油の植物性ステロール含有量

 

食用油植物性ステロール(mg/100g)食用油植物性ステロール(mg/100g)
大豆油340なたね油700
コーン油850ごま油500
綿実油310米ぬか油960
サフラワー油310ひまわり油350
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コレステロールとの違い

植物ステロールとコレステロールの二つ、構造が類似していますが、違いは、簡単に言うと,植物ステロールはコレステロールにヒゲが1本生えたような構造、側鎖の形状が違います。
 コレステロールは、水に溶けないが脂には溶ける脂溶性です。植物のステロールは、水に溶けない、油にも溶けにくいという性質です。

 

 

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植物ステロールは40種類以上が知られています。βシトステロールが最も多く50%を占め、次いで33%がカンペステロール、2~5%がシグマステロールです。
茨城県衛生研究所による植物ステロール値の実測値

 昆虫は植物ステロールのヒゲをはずしてコレステロールにする酵素を持っており、植物ステロールを有効活用しています。ところがヒトをはじめ少なくとも哺乳類は、ヒゲをはずす酵素を持っておらず、植物ステロールをコレステロールにして利用することができません。

 食べ物の脂質、脂肪やコレステロール、植物ステロールなどの脂質は、酵素リパーゼの働きで分解されます。胆汁酸で乳化されそれと混合した、それに包まれたようになって胆汁酸ミセルで小腸(空腸)の吸収上皮細胞から吸収されます。そして、そこで再び腸に排出、送り戻されます。ほとんどの植物スチロールは、この経路で腸⇒糞便⇒体外でて、血中、体内への吸収は5%以下といわれます。植物ステロールは、経口摂取しても哺乳類の腸管からほとんど吸収されません。これに対して、コレステロール、動物性のステロールは、40~50%吸収されます。

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植物ステロールのコレステロール低下作用。

 コレステロールは細胞膜を構築や維持に不可欠な必要なものに、それを貯蔵するための特別な形態(ブドウ糖であればグリコーゲンなど)はありません。
 腸で吸収されたり肝臓や皮膚で合成されたコレステロールの一部は血液中に特別な形(リポ蛋白)で体内を循環しています。これが、貯蔵のデポ、倉庫の役割をしています。
 コレステロールは脂溶性のため、水が主成分の血液とは混ざりません。そこで、リン脂質とアポ蛋白質でできた「リポ蛋白」という「入れ物」に入れられて血液に混ざっています。


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リポ蛋白の名称アポ蛋白の種類コレステロールの移動経路備考
キロミクロンApoB48小腸から肝臓へ 
LDL 低比重リポ蛋白β肝臓から組織へ悪玉
HDL 高比重リポ蛋白α組織から肝臓へ善玉
上記以外にVLDL、IDLがありますが、省略します
 
 加齢や生活習慣などで、コレステロールを使う細胞のLDLを吸収する機能の低下や食物からのコレステロールの大量摂取、肝臓などでの合成量のコントロールが上手くいかない(抑制が効き難くなる)などでこの血液中のコレステロールが過剰になると、生活習慣病に代表されるさまざまな循環器疾患が顕れます。過剰在庫のコレステロールが様々な悪さをします。 

 植物ステロールは、コレステロールよりも優先して胆汁酸ミセルに取り込まれるため、コレステロールと植物ステロールを一緒に摂取するとミセル中のコレステロールが減少し、小腸で吸収されるコレステロールが少なくなる。
また、ミセルに取り込まれなかったコレステロールは便として排泄されます。


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その効果は、九州大学・熊本県立大学名誉教授の菅野道廣さんによれば、「これまで60例以上の臨床実験が行われてきていますが、植物性ステロールを1~2カ月間摂取すると、ほとんどのケースで悪玉といわれるLDL-コレステロールが10mg/dLは低下しています。といっても、正常範囲以下に下がることはありません。」 善玉といわれるHDLコレステロール濃度には影響がない、あるいはほとんどなかったそうです。
菅野教授のインタビュー


例えば、0.15g含有の油を投与した場合に比べ、
0.325gの油では同じ変化ですが
0.493gの油では、総コレステロールが20減っています。
茨城県衛生研究所の試算を元にすると、概ね日本人の植物ステロール摂取は0.2g/日で、1日あたり約0.32~0.49g摂取ではLDL-コレステロール低下効果が無く、0.66gで効果が見られたことになります。他の研究では、0.8g/日が最小有効摂取量であったそうです。また2~3g/日以上摂取しても効果は増大しないという報告があるそうです。


 日本人1日あたりの植物ステロール摂取量の変化


 
1960年

1997年


食品摂取量


g/day



植物ステロール含有量


mg/day



食品摂取量


g/day



植物ステロール含有量


mg/day

穀類451.7107.4259.761.8
芋類64.517.369.418.6
野菜・果物類293.734.6405.947.9
豆類・豆製品71.233.570.933.3
種実類0.50.22.00.6
油脂類6.113.817.038.5
海藻類4.70.05.20.0
 
合計892.4206.8830.1200.7


サプリメントより献立の工夫


その一方、動物実験では植物ステロールの大量摂取で早死しています。脳卒中易発症高血圧自然発症ラット(SHRSP)での実験です。 実験レポート
 このラットは、遺伝的に加齢に伴う高血圧を発症し、心臓肥大や脳や腎臓など臓器の血管の炎症をおこし、25 週齢以降には脳血管障害(脳出血および脳梗塞)を併発して死亡します。肝臓でのコレステロール生合成能が低下しており,血中コレステロール量が少ないラットです。このラットに、脂質は植物油のみを摂取させたところ、早死にしています。この生存日数短縮には、植物ステロールの総量が関与すると考えられてます。
 

摂取され蓄積する植物ステロールが、このラットの細胞膜中のコレステロールと置きかわります。それで細胞膜コレステロールが減少すると、本来の膜結合酵素の機能不全が誘発され、膜の脆弱化が全身で起きていると見られます。また血管を作る筋肉・平滑筋の興奮性の亢進し、血管の収縮が容易に起きるようになり脳卒中につながる血管傷害に関連して、早死にをもたらしたと考えられました。

 肉、魚、卵および牛乳の食事制限をすると動物性脂肪の摂取量が減り、代わりに植物性脂肪の摂取量の増加およびコレステロールの摂取量の減少がみられると同時に、血中の植物ステロールレベルが上昇します。植物ステロールの長期大量摂取で血中植物ステロール量が増加した状態が長期に続くと、先ほどのラット・SHRSPでみられたことと同様の細胞膜の脆弱化や血管の筋肉が収縮しやすくなることがヒトでも起こるかもしれません。それは明らかではありませんが、コレステロールは減ったが、全身の細胞が脆弱化する、血管が収縮しやすくなって脳卒中などにつながる血管傷害が起りやすくなるでは困ります。

 また、コレステロールの吸収の邪魔をすることが効果の大半ですから、肉、魚、卵などと一緒に摂取してこそ効果を発揮します。サプリメントを後から摂っても効果が薄いとおもいます。

 糖尿病や高中性脂肪血症の方が、植物ステロールを多く含むからと言って、植物油脂類を多く摂取すれば総カロリーオーバーとなり、たとえ高コレステロール血症の予防ができても糖尿病や高中性脂肪血症が悪化することになります。総カロリーの制限を維持しつつ、食事内容の工夫が有効と考えられます。

 個々の食品を比較すると植物ステロールの含有量には大きな違いが見られます。コレステロールを多く含む動物性食品を摂取するときには、同時に植物ステロールを多く含む食品を摂取するなどの工夫によって、コレステロールの吸収を抑えられ、高コレステロール血症の予防をしてはいかがでしょうか。

 例えば、豆腐は多い食品です。大豆タンパク質は実験動物及びヒトでコレステロール低下作用を示しています。総コレステロール、LDLコレステロール、中性脂肪が減ります。そのうえ植物ステロールも豊富です。肉、魚、卵と一緒に食べてはどうでしょうか。ご飯も、玄米は豊富です。そして食物繊維も豊富ですから、コレステロールの排出にも有効です。


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トランス脂肪酸の表示よりも、栄養成分表示の義務化を [油脂ー搾油、栄養、コレステロール]

2010年10月に小針店で発行した畑の便りの再録です



 福島瑞穂大臣の置き土産、どうにも必要性が薄いトランス脂肪酸の表示の義務化が強行されそうです。トランス脂肪酸が、動脈硬化などによる心疾患のリスクを高めるらしいことを表示義務化の理由にしていますが、日本のトランス脂肪酸の摂取状況などをみると、心疾患のリスクの低下には、塩分(ナトリウム)や総脂質などの栄養表示を任意から義務にする事が先決です。

2005年頃、マーガリンのトランス脂肪酸の表示が話題になっていました。米国で、トランス脂肪酸の摂取が飽和脂肪酸及び食事由来コレステロールの摂取と同様に冠動脈心疾患のリスクを高める悪玉コレステロール (LDLコレステロール)のレベルを上昇させるという科学的知見から、 2006年1月1日以降、食品にトランス酸の含有量も飽和脂肪酸、コレステロールに加えて表示することが義務付けたからです。当時、日本では、表示義務はなく、具体的な規制策は検討もされていませんでした。またほとんどの業者が表示実現など考えておらず、静観する姿勢で、これを問題視する報道や表示実現を求めるなどの消費者団体の動きが出ていました。

 これに後押しされて、製造業者はトランス脂肪酸の少ない製品を開発、販売しています。表示は福島瑞穂消費者担当相は表示義務化の意向を示していました。





総脂肪・脂質、摂取増加傾向に歯止めを


 世界的に「総脂肪(油脂)からのエネルギー摂取に上限を設け、脂肪酸の摂取を飽和脂肪酸から不飽和脂肪酸に切り替えると共に、トランス脂肪酸を削減する」ことを推奨されています。(WHOの「食事、運動と健康に関する世界戦略」2004年)
 脂肪(油脂)の摂取量が増えると、肥満、心血管系疾患等のリスクが高まります。食事でとるエネルギーの20~25%が望ましいとされる割合です。

米国は平均で35%で、国全体で明らかにとり過ぎ、食べすぎです。日本は平均では25%程度ですが、30%以上が成人では男性の約2割、女性で約3割います。この割合がだんだん増えています。個人的に摂り過ぎの方に注意を喚起すべき状況にあると思います。



 




 


 不飽和脂肪酸、飽和脂肪酸と心疾患


脂肪(油脂)は脂肪酸とグリセリンという分子からできています。グリセリンは脂肪酸と結合することができる手を3本持っていて、3個つながったものが、健康診断の血液中の「中性脂肪」で正式には「トリアシルグリセロール(またはトリグリセリド)」といいます。食事から摂るものや体に蓄えられる脂肪はこれです。ステロイド骨格という特有の構造を持つ脂質がコレステロールです。








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脂肪酸は、炭素(C)の原子が鎖状につながって、片方の端に炭素(C)、水素(H)、酸素(O)2個のカルボキシル基(-COOH)がついています。天然の油脂には、炭素数が4個以上の脂肪酸が含まれています。
14-0317a04_.jpg炭素は他の分子・原子と結合できる手が4本ありますが、その内の2本で他の炭素と2重の結合した部分(不飽和結合)があるものを不飽和脂肪酸、ないものを飽和脂肪酸と分けています。不飽和脂肪酸は脂肪が溶け出す温度(融点)が飽和脂肪酸より低いので、常温・室温で溶けて液状、つまり油になっているものは不飽和脂肪酸が多く、固形のものは飽和脂肪酸が多く含まれています。

飽和脂肪酸はエネルギー代謝に重要です。不飽和脂肪酸を欠くと、皮膚障害、不妊などが引き起こります。ビタミンのような必須の栄養素、必須脂肪酸です。体内で様々な生理活性物質に変わります。
 そしてヒトを含む動物種の多くは、不飽和脂肪酸を自らの体内で生合成できません。それを生合成できる植物、菌類を食べて摂取する(草食や雑食)やそのように脂肪酸を蓄積した草食動物や魚などの動物を捕食する(肉食や雑食)で得なければなりません。そして、それを加工して使っています。脂肪酸はそのままで消化吸収されるので、その動物の体内の脂肪酸の組成は、餌となった動物、植物のそれに似ます。魚粉を食べた鶏の肉は、魚臭い。


 




 


油の酸化、n-3(ω3)とn-6(ω6)

 不飽和脂肪酸は炭素が2本で他の炭素と2重結合した部分が、1本は炭素間の結合に使い、もう1本がほどけて他の原子と結合できます。大気中では酸素と結合する、つまり酸化します。(活性酸素で酸化したものが過酸化脂肪)
 この2重結合の不飽和結合が一つのものを一価不飽和脂肪酸、2個以上のものを多価不飽和脂肪といいますが、一価よりも多価、多価の中でも2重結合が多いほど酸化しやすい。オリーブ油は70~80%が一価のオレイン酸であるため、他の植物油に比べると酸化しにくいのです。

 多価不飽和脂肪は、グリセリンと結合していない端から数えて最初の2重結合がある位置でn-3系、エヌ・マイナス・サンケイ(ω3、オメガ・サン)とn-6系、エヌ・マイナス・ロクケイ(ω6、オメガ・ロク)が主要な2系列。
 体内でn-6系(ω6)は、欠乏状態が続くと死に至る様々な生理活性物質に変わります。n-6(ω6)系は、リノール酸やγ-リノレン酸が代表、大豆油・菜種油、くるみ、紅花油などです。 
 n-3系(ω3)系は、免疫や炎症、凝血反応などが過剰に顕れないようにするブレーキ役です。アレルギーは免疫の過剰反応ですから、この脂肪酸を摂ると良いといわれています。代表的なものはα-リノレン酸 、EPA、DHAで、は魚介類・魚油・亜麻仁油・しそ油・えごま油に多く含まれています。



不飽和脂肪酸、飽和脂肪酸と心疾患

動脈硬化などによる心疾患にかかるリスクに着目すると、食事でとるエネルギーの20~25%が脂肪(油脂)という条件下で、
摂取する炭水化物の一部を一価不飽和脂肪酸に置き換えると、心疾患のリスクを下げる。
飽和脂肪酸の一部を不飽和脂肪酸に置き換えると、心疾患のリスクを下げる。n-3系の多価不飽和脂肪酸を多く含む魚を摂取すると、心疾患のリスクを下げる、こうした報告があります。コレステロールの代謝に影響を与えることで心疾患のリスクを下げるといわれています。
 




トランス脂肪酸とは?


さて、トランス脂肪酸は不飽和脂肪酸の一種です。不飽和脂肪酸の、炭素が2本で他の炭素と2重結合した部分のまわりの構造の違いにより、シス型とトランス型の2種類があります。 シス(cis)とは、“同じ側の、こちら側に”という意味で、脂肪酸では水素原子(H)が炭素の二重結合をはさんで同じ側についているもの。トランス(trans)とは、“横切って、かなたに”という意味で、脂肪酸では水素原子が炭素の二重結合をはさんでそれぞれ反対側についているもの。
トランス脂肪酸は、トランス型を幾つもっているのか、グリセリンと結合していない端から数えて何番目の炭素の2重結合がトランス型であるかによって多種あります。



 


 9番目に2重結合を1個だけ持つオレイン酸のトランス脂肪酸、トランス型オレイン酸は1種・エライジン酸しかありません。6番目と9番目に二つもつリノール酸は、6番目がトランス型、9番目がトランス型、6番目と9番目の二つがトランス型があります。トランス型リノール酸は、3種です。
3番目、6番目と9番目に3つ持つαーリノレン酸は7種、6番目、9番目と12番目に3つ持つγーリノレン酸も7種のトランス型があります。
 (不飽和結合がN個の多価不飽和脂肪酸は、2のN乗-1個のトランス型があります。)

 このようにトランス脂肪酸は多種あります。オレイン酸とそのトランス型のエライジン酸の構造を見ると、オレイン酸はシスの不飽和結合(二重結合)で折れ曲がり、エライジン酸はトランスの不飽和結合が直線的です。このように、その性質が変わります。例えば、オレイン酸は融点13.4℃で室温で液状、このトランス型のエライジン酸は46.5℃、2重結合の位置が3つ違う6番目のトランス型のバクセン酸は44℃、炭素数が同じ飽和脂肪酸のステアリン酸が69℃。

 栄養としては、トランス脂肪酸は代謝され、エネルギー源になります。貯まり続けるという説は誤りです。また、個々のトランス脂肪酸の種類別の、ヒトの健康に与える影響を調べた科学的データは少しかありません。ほとんど無いという状況です。





牛肉や乳製品、精製油のトランス脂肪酸


牛肉や乳製品にトランス脂肪酸
天然の不飽和脂肪酸はふつうシス型です。これは、多くの生物が特異的にシス型をつくり出す酵素しか持っていないからです。草食動物のなかの反芻動物、牛などの胃内に共生するバクテリアは、シス型の不飽和脂肪酸をトランス型に変換する特殊な酵素を持っています。草に含まれるシス型の不飽和脂肪酸から微生物がつくる脂肪酸はほとんどがシス型ですが、僅かにトランス型、主にトランス・バクセン酸にしています。
 そのため草食動物の脂質にはトランス脂肪酸が含まれています。このため、牛肉や乳などには、このバクセン酸を主とするトランス脂肪酸が含まれています。牛乳や牛肉の脂質では2~5%。肉食動物や我々のような雑食動物は、草食動物を食べるのですから、当然、天然のトランス型脂肪酸を持っています。日本人のトランス脂肪酸の摂取量の約25%がこれに由来します。

精製油のトランス脂肪酸
食用油を精製する際の脱臭工程や揚げ物など使用の際に高温になると、熱エネルギーで不安定になるので、シス型より安定的なトランス型への変移がおきます。不飽和結合が2個(ジエン)、3個(トリエン)がタイプが主です。
酸化でもおき、食総研で十数種類の市販の植物性食用油脂を調べたところ、0.1-1.2%のトランス脂肪酸が含まれていました。日本人の摂取量の約15%がこれに由来します。




約60%を硬化油から
最大のトランス脂肪酸の供給源は、植物油や魚油に水素添加で作られる硬化油です。

1869年、日本が明治維新で右往左往していた頃、フランス政府がバターの安価な代用品を募集。これを契機に植物油や魚油など、液体=融点の低い不飽和脂肪酸を多く含み酸化し変質しやすい油を、固形=飽和脂肪酸が多く酸化しにくく保存性の高い油、硬化油に加工する技術が発達します。日本での硬化油の歴史は、1910年のイギリスのリーバ・ブラザース社の尼崎工場に始まります。当時、日本は魚油の世界的な生産・輸出国。技術の発達により、魚油から石鹸原料やマーガリン用の硬化油の生産が可能になったからです。日本の魚油から硬化油、そして石鹸を作り、中国や日本で販売しました。マーガリンは1930年頃から本格的に生産されます。

植物油や魚油の硬化
脂肪・油は炭素(C)の原子が鎖状につながっています。炭素は他の分子・原子と結合できる手が4本ありますが、その内の2本で他の炭素と2重に結合した部分(不飽和結合)があるものを不飽和脂肪酸といいます。
 炭素(C)と炭素は1本の手で繋がれるので、もう1本がほどけて、他の原子、例えば大気中の酸素と結合すると酸化して変質してしまいます。それで酸素ではなく水素を結合(水素添加)して、2重結合(不飽和結合)をなくしたら、酸化しないし融点も高くなります。

やり方は、液状の油脂中にニッケルなどの金属触媒をいれます。ニッケルが2重結合(不飽和結合)と結合します。よく撹拌しながら、水素ガスを吹き込みます。ニッケルと水素原子が入れ替わり、水素が添加されます。このとき、水素が結合しないで、不飽和脂肪酸の二重結合の位置の移動やシス型からトランス型への異性化などが副反応で起こります。
 
現在多く行われている製造法は、常庄か数気圧程度の圧力の水素の下でニッケル触媒を油に対して0.1~0.5%を加え、160~180℃に保ち触媒で油に水素を化合させます。別法として、ぎ酸ニッケルを油中で水素を吹き込みながら250℃付近に熱する方法も行われています。
 


油全体での不飽和度が減少し、融点の上昇、流動性の低下、固化などの油脂の物性が変化します。水素の量、反応温度、圧力等に応じて、どれくらい水素添加が起きるか、トランス型が出来るかがかわります。水素添加の割合が大きく不飽和結合が少なくなるほど硬化(融点が上がる)します。トランス型の生成量もほぼゼロから50%程度まで変わります。 
さて目的とする量の水素を添加した後に、濾過して触媒を除き、希硫酸などで洗って精製します。特有なロウ様な悪臭があるので、マーガリン、ショートニングの食用硬化油は高度の減圧で脱臭精製が行われます。マーガリンは、硬化油に水分、塩、香料などを加えてあります。

ショートニングは硬化油に水分や乳成分を含まず、ほぼ100%が油脂成分で香りはほとんどありません。白色で無味無臭の油脂です。


ショートニング(shortening)は『サクサクさせる、ポロポロにする』という意味を持つ、植物、動物油脂を原料とした、ラードの代用品の練りこみ専用の固形油脂として19世紀末のアメリカで開発されました。ラードコンパウンド(ラードの代用品)とも呼ばれていました。「ショートニング」という名称は、パン、ビスケットなどの原料として使用した場合、その口あたりをよくし、もろさを与えるという意味の英語(shorten)からきています。常温における伸びのよさ、生地への混ざりやすさなどに優れていて、焼き菓子やパンに練りこんで使われるのはもちろん、意外と知られていないアイスクリームやフライ用としての用途があります。

 ファーストフードで食べるフレンチフライやドーナッツはフライのオイルにショートニングを使っています。ショートニングには常温で固まる性質があり、そのため油がにじまないカラッとした揚げ物が仕上がります。揚げた後、室温に置いておくと揚げ油が硬化・固体化してしまい滲まないから、サラリとして油が手に付きません。また酸化が起きにくく日持ちが良い、保存が簡単(室内に裸で放置しておける)利点があります。


また出来るトランス型の種類、組成も、バクセン酸を主とする牛肉や乳製品などとは違います。バクセン酸は、炭素数18で、トランス型の不飽和結合が一つ、炭素鎖11位にあります。
硬化油では炭素数18で、トランス結合は炭素鎖6~16位に広く分布し、主成分は8~13位にトランス型の不飽和結合が一つあるものです。
 硬化油のバクセン酸とバターなど乳製品のバクセン酸は同じです。生体内にある酵素の働きで、共役不飽和脂肪酸の一種に変換されます。硬化油のバクセン酸以外のトランス脂肪酸の大部分は、生体内で共役不飽和脂肪酸に変換されません。このように組成や生体内に吸収されてからの動態が異なることから、健康に与える影響は牛肉・乳製品と硬化油では異なると考えられています。


 





コレステロールと脂肪摂取 


 トランス脂肪酸など脂肪摂取とコレステロールは、どのように影響するのでしょうか。
先ず、コレステロールは身体・健康には不可欠です。コレステロールは細胞膜を構成する重要な成分であり、性ホルモンなどステロイドホルモンの原料など生体内で重要な役割を持っています。低コレステロールでは心疾患などは減りますが、脳出血、癌、呼吸器疾患、消化器疾患、うつ病、自殺、外傷死になり易いことが疫学的にわかっています。
この必要不可欠なコレステロールを日本人は、約25%を食事から摂る食物コレステロールでまかない、75%が小腸や肝臓で合成する内因性コレステロールです。体重1kgあたり12㎎を合成しています。

 コレステロールは脂質で、そのままでは水・血液にはほとんど溶けません。それでリボ蛋白で包み込んで血流を介して運ばれます。食物から腸で吸収されたものは肝臓に集まり、そこで生合成されたものなどとあわせて肝臓から末梢へLDLリポ蛋白に包まれて運ばれ、組織で不要になったものはHDLリポ蛋白で肝臓へ輸送されます。

肝臓に戻ったコレステロールは、胆汁になって腸に分泌されます。再吸収されて体内にもどるか、便にふくまれ体外に排出。食物繊維が多いと、絡め獲られ、便で排出される量が多くなります。また食物繊維は、食物中のコレステロールの吸収も抑制し、排泄も促進します。こうして食物繊維は体内の総コレステロール量の低下に役立ちます。ただし、食物繊維とコレステロールが小腸中で共存していなければなりません。食間にサブリメントで摂るというやり方では効果はあまり期待できません。食事で食物繊維の多い野菜類・海藻類を多く食べることの方が効果的です。

体内での必要量や、食事での摂取量に応じて、内因性コレステロールつまり肝臓や小腸での合成量を増減して調整します。逆に、体内でのコレステロール合成を阻害する薬剤、スタチン類などが投与され内因性コレステロールが減ると、食物中のコレステロールの吸収率が良くして、調整しています。

 この調整メカニズムがおかしくなると、不要なのに内因性コレステロールが作られ続け、高コレステロール状態になります。また細胞内へのコレステロールを取り入れるメカニズムがおかしくなり、コレステロールの細胞取り込み量・消費量が減ると高コレステロール状態になります。
肝臓から細胞へのコレステロール運び役のLDLタンパク質が多く、不要になったものを肝臓に戻す役のHDLが少なくなるなどです。

血管に炎症や老化などで血管の内壁に傷ができると、コレステロールがそこに張り付いて修復をします。高コレステロール状態だと、次々とコレステロールが張り付き、血管が狭くなります。

冠動脈疾患や循環器疾患の主要な原因であるアテローム性動脈硬化症は、LDL(特に小粒子LDL)や酸化された小粒子HDLによって進展し、HDL(特に代粒子 HDL)はアテロームからコレステロールを除去する唯一の因子です。


この自律的にコレステロールを制御している機構は、脂肪の多すぎる摂取や体脂肪増加(肥満)でおかしくなります。脂肪分の目安は、全摂取カロリーの20~25%。脂肪の種類も影響し、魚に多いn-3系の多価不飽和脂肪酸は、制御機構を正常に戻す作用があるようで心疾患のリスクを下げます。
トランス脂肪酸はどうでしょうか?


 




 


コレステロールとトランス脂肪酸1990年代後半からの血清コレステロール濃度へのトランス型の影響を調べるヒトでの介入試験や疫学調査などから、トランス酸摂取量が2%増加するごとに心疾患のリスクが23%増し、摂取エネルギーの3%でも悪影響が見られると言われるようになり、米国や欧州で表示等の対策をとっています。しかし、この対策を日本人にストレートに当てはめることは不要と思います。




日本人の平均的摂取は、脂質全体は食事でとるエネルギーの25%前後。
トランス脂肪酸は食品の摂取量からの計算すると
一人一日当り0.70g、エネルギーの0.3%、
食用加工油脂の生産量をもとに計算すると
一人一日当り1.31g、摂取エネルギーの0.6%です。
そして、約60%を硬化油から、約25%を肉類、乳製品から、約15%を精製油から摂取しています。

一方、米国では脂質全体は食事でとるエネルギーの35%前後。
トランス脂肪酸は5.8g、2.6%、
75-80%を硬化油から、残り20-25%を肉類、乳製品から摂取。

西欧の14カ国では1.4~5.4g、0.5~2.1%、フランスでは約60%を肉類、乳製品から。

このように食品からのトランス脂肪酸摂取の量や割合は、各国の食事情で変化します。
硬化油、肉類・乳製品と精製油では、含まれ摂取するトランス脂肪酸の組成が違います。
各国で採用されているトランス脂肪酸の分析法AOCS Ce1h-05では、トランス脂肪酸の総量は測定できますが、その組成まではわかりません。数少ない個々のトランス脂肪酸を区別しての代謝などへの影響の研究を見るとトランス脂肪酸の種類によって影響は違いますから、組成の違いは人の健康への影響、顕れの違いになっている。、米国と日本、日本と欧州では人の健康への影響は違うと思われますが、そこまで細かく見ることは出来ません。総量というアバウトな大まかな話になります。

トランス脂肪酸、日本の平均的摂取の量は高めに見ても、欧米の最低水準です。トランス型の影響を調べた研究の最低ランクで、このランクに比べ、摂取量が増えるとリスクが上がっていくのです。 
 トランス脂肪酸を摂ると血管で炎症の症状、コレステロールの付着が促進されるのではないかという米国の研究では、トランス脂肪酸の摂取量を
0.61~1.87g、
1.88~2.26g、
2.27~2.64g、
2.65~3.13g、
3.14~7.58gの5段階に分けています。
多くなる上のランクになるほど体内で炎症が生じていることを示す炎症因子などが高値なのです。日本人の現在の摂取量は、1.56gでこの研究での最小のランクです。
エネルギーに占める割合も1%以下です。

 脂肪(油脂)・脂質全体で見ると、摂取する脂質のトランス型/リノール酸比が1以下であれば、トランス酸のコレステロールへ濃度の影響は無視できるとされ、日本人では0.1程度。n-3系の多価不飽和脂肪酸を多く含む魚を摂取すると、心疾患のリスクを下げますが、欧米に較べると日本は摂取量が多い。




 栄養表示の義務化

日本人では「トランス脂肪酸摂取量は脂質摂取量に強い正の相関が見られる」つまり脂質の摂取が多いほど、トランス脂肪酸も多いという関係。
こうした日本人の脂質摂取状況から、米国などのようにトランス型脂肪酸だけに特化した対策は不必要だとおもいます。
むしろ飽和脂肪酸やコレステロールと一体的に脂質摂取全体に目を配る必要があり、脂質総量の表示、現在任意となっているものを義務化する方が先決で費用対効果的も良いと思います。
脂質の摂取比率30%を超える人、成人男性の約2割、女性で約3割のいる人を減らす対策が先決だとおもいます。
血管系など心疾患リスクでは、日本人はナトリウム・食塩のとりすぎが一番の問題です。
脂質総量、ナトリウムの表示は栄養表示で、一部の食品につけられています。




この栄養表示は、付けるかつけないかが原則任意です。「カルシウムたっぷり」などと強調する場合には、表示が義務となっています。この5項目表示は義務化する。
トランス脂肪酸は、「無」「ゼロ」「ノン」「フリー」などの強調表示をする際の基準定めて、おけばよいとおもいます。
つまり、現在はノンカロリーなどの栄養成分の強調表示をする時だけ付けられる5項目の栄養成分表示を、全面的に義務化することが先決で費用対効果的も良いと思います。


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トランス脂肪酸とコレステロールの関係 [油脂ー搾油、栄養、コレステロール]

2005年10月、2008年7月小針店で印刷・配布した畑の便りの再録です。





 近頃、マーガリンのトランス脂肪酸の表示が話題になっています。米国では、トランス脂肪酸の摂取が飽和脂肪酸及び食事由来コレステロールの摂取と同様に冠動脈心疾患のリスクを高める悪玉コレステロール (LDLコレステロール)のレベルを上昇させるという科学的知見から、 2006年1月1日以降、食品にトランス酸の含有量も飽和脂肪酸、コレステロールに加えて表示することが義務付けられました。日本では、表示義務はなく、具体的な規制策は検討もされていません。またほとんどの業者が表示実現など考えておらず、静観する姿勢です。これを問題視する報道や表示実現を求めるなどの消費者団体の動きが出ています。
 一般のマーガリンは概ね10%前後の含有に対して、虹屋のマーガリン、紅花マーガリンの含有量は0.5%、有機マーガリンは0.46%。このマーガリン⇔悪玉コレステロール説は格好の販売促進の話題なのですが、虹屋はそうした扱いをしません。この問題は欧米では問題でも食習慣・生活の違いから、日本ではさほど問題ではないと考えるからです。(健康エコナの脂肪は、癌を起こしやすいという実験結果が出て、現在、検証中です。2007年頃にその追加試験の結果が出る予定でしたが、2008年6月現在音沙汰なし。こっちが気がかりです。)


トランス脂肪酸とは?


 脂肪・脂質は脂肪酸とグリセリンに分解消化されます。トランスというのは異性体の分類です。異性体は、化学式・組成は同じ、つまり構成している炭素や水素、酸素などの原子の数は同じでも、その配列の組み合わせが異なり、性質が違うものです。トランスは、原子の空間で並び方が違う立体異性体、その中の配置異性体、さらにその中の幾何異性体、シス-トランス異性体という分類のトランス型ということです。脂肪酸のシス型は折れ曲がった構造で、トランス型は直線状の構造になっています。熱力学的にはトランス型が安定ですので、後で出てくるように熱など何かの切っ掛けがあるとシス型からトランス型の変化がおこります。




草食動物は体内・腸のなかの微生物に草を分解してもらい、その栄養素や増えた微生物を消化吸収して生きています。その微生物はがつくる脂肪酸は、ほとんどがシス型、折れ曲がった構造ですが僅かに直線状のトランス型が含まれています。そのため草食動物の脂質にはトランス脂肪酸が含まれています。牛乳や牛肉の脂質では2~5%。肉食動物や我々のような雑食動物は、草食動物を食べるのですから、当然、天然のトランス型脂肪酸を持っています。またシス型の不飽和脂肪酸が酸化されると微量ですが安定的なトランス型に変わります。
 天然のトランス脂肪酸の共役リノール酸はダイエット効果で注目されています。米国では、サプリメントまで販売されています。ですから米国で規制が行われているのは、トランス脂肪酸に特有の毒性からというより、米国流の食生活、脂肪の多い、特に硬化油の多い食生活での問題です。





日本と欧米での脂肪、飽和脂肪酸やトランス脂肪酸の摂取量が大きく違います。

 欧米の脂肪量はエネルギー比で全摂取量の35~40%の所が多く、日本では25~26%です。(成人では適正な比率は20%~25%)
 飽和脂肪酸の摂取量では一日当り、米国人では25g、エネルギー比で13%(米国の食事ガイドラインでは、10%以下)日本人は17g程度でエネルギー 比で7.3%位です。
 トランス脂肪酸では米国では5.8g、エネルギー比で2.6%、西欧の14カ国では1.4~5.4g、エネルギー比で0.5~2.1%、日本では1.56g、エネルギー比で0.7%と低いのです。日本は平均摂取量がアメリカの26.9%である、国際的にトランス酸の摂取はエネルギー比で1%未満が提唱されていることなどから、平均的日本人のトランス脂肪酸の摂取による健康への影響は現在のところ小さいと考えられるからです。
 


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ハイ・リスクグループは

しかし、各人で食事内容=脂肪摂取量は違いますし、コレステロール・心疾患の懸念も違います。近年脂肪エネルギー比率は急激な増加を示し、20~40歳代で適正上限を超えています。揚物、揚げ菓子や肉類を多く食べる人は特に多い。つまり、トランス脂肪酸の問題は、特定の食生活パターンの人ではリスクがあるといえます。
 コレステロールにどのように影響するのでしょうか。先ず、コレステロールは身体・健康には不可欠です。コレステロールは細胞膜を構成する重要な成分であり、性ホルモンなどステロイドホルモンの原料など生体内で重要な役割を持っています。低コレステロールでは心疾患などは減りますが、脳出血、癌、呼吸器疾患、消化器疾患、うつ病、自殺、外傷死になり易いことが疫学的にわかっています。

 コレステロールは脂質で、そのままでは水・血液にはほとんど溶けません。それでリボ蛋白で包み込んで血流を介して運ばれます。食物から腸で吸収されたものは肝臓に集まり、そこで生合成されたものなどとあわせて肝臓から末梢へLDLリポ蛋白に包まれて運ばれ、組織(おもに遅筋)で不要になったものは肝臓への輸送はHDLリポ蛋白が担当しています。冠動脈疾患や循環器疾患の主要な原因であるアテローム性動脈硬化症は、LDL(特に小粒子LDL)や酸化された小粒子HDLによって進展し、HDL(特に代粒子 HDL)はアテロームからコレステロールを除去する唯一の因子です。
 よくコレステロールをLDLを悪玉、HDLを善玉に分けますが悪玉コレステロールは細胞に必要な成分であるコレステロールを血管を通して運ぶ役割の複合体です。だから、生体にとって必須の成分です。善玉コレステロールとは、細胞で余ったコレステロールを肝臓に戻す役割の複合体。善玉だけがあっても駄目です。(肝臓に戻ったコレステロールは、胆汁になって腸に分泌されます。再吸収されて体内にもどるか、便にふくまれ体外に排出。食物繊維が多いと、絡め獲られ、便で排出される量が多くなります。また食物繊維は、食物中のコレステロールの吸収も抑制し、排泄も促進します。こうして食物繊維は体内の総コレステロール量の低下に役立ちます。ただし、食物繊維とコレステロールが小腸中で共存していなければなりません。食間にサブリメントで摂るというやり方では効果はあまり期待できません。食事で食物繊維の多い野菜類・海藻類を多く食べることの方が効果的です。)

 コレステロールは体内で小腸や肝臓で多く合成されます。日本人では食事から摂るコレステロール、食物コレステロールが全コレステロールの約25%、内因性コレステロール約75%です。体内での必要量や、食事での摂取量に応じて、内因性コレステロールつまり肝臓や小腸での合成量を増減して調整します。
 高脂血症の治療薬と言えば体内でのコレステロール合成を阻害する薬剤、目下スタチン類が全盛です。この合成阻害剤を連用していると、食物中のコレステロールの吸収率が良くなる、結果的に血中のコレステロール値は下がらないそうです。薬で体内でのコレステロール合成を阻害すると、吸収が良くなるということは、その人にとってコレステロールが本質的に必要だからで、その結果、生体の恒常性維持・ホメオスターシスが働いて吸収率を上げているのです。
 この調整メカニズムがおかしくなると、不要なのに内因性コレステロールが作られ続け、高コレステロール状態になります。また細胞内へのコレステロールを取り入れるメカニズムがおかしくなり、コレステロールの細胞取り込み量・消費量が減ると高コレステロール状態になります。


コレステロールとの関係


脂肪の摂取の絶対量が多すぎると、この細胞が自律的に制御している機構が邪魔されておかしくなります。また全カロリーが過剰で体脂肪が増加していてもおかしくなります。つまり、コレステロール管理の基本はどのぐらい食べるか、絶対量が重要です。脂肪分の目安は、全摂取カロリーの20~25%程度と言われています。

 また、脂肪の種類にも多少よるようで、魚の脂は、制御機構を正常に戻す作用があるようです。トランス脂肪酸を摂取すると善玉コレステロールが減り、悪玉が増えるという結果も出ています。
 トランス型の脂肪酸を摂ると、血管内壁の炎症などの症状を促進する働きが疫学的に見出されています。血管に炎症や老化などで血管の内壁に傷ができてしまうと、コレステロールがそこに張り付いて修復をします。一旦、コレステロールが張り付くと、次々と張り付き、血管が狭くなります。だから、血管の内壁に傷ができるかどうかが問題で、トランス脂肪酸を摂ると血管で炎症の症状、コレステロールの付着が促進されるのではないかと言われています。ただこの米国の研究では、トランス脂肪酸の摂取量を0.61~1.87g、1.88~2.26g、2.27~2.64g、2.65~3.13g、3.14~7.58gの5段階に分けています。上のランクになるほど体内で炎症が生じていることを示す炎症因子などが高値なのです。日本人の現在の摂取量は、1.56gでこの研究での最小のランクです。このランクに比べ、摂取量が増えると問題になるという調査結果です。
 また炎症との関連でアトピーなどのアレルギー症へ悪影響をおよぼす疑いも持たれています。


摂取経路と抑制策


それで、個人的には摂取量が多いかどうか心配ということもあります。トランス脂肪酸の生成と摂取は、次の三つの過程があります。
(1) 牛など(反芻動物)の第一胃内でバクテリアにより生成しバター・生クリームや肉など少量含まれる(全脂肪酸の5%前後) 
(2) 油を高温で加熱する過程において生成します。一つは、搾油のやり方で違います。一つは、油の使用度によって異なります。揚げ物や揚げ菓子などで摂取する脂質で、脂質中に0.8~20%前後 、またシス型の不飽和脂肪酸が酸化されると微量ですが安定的なトランス型に変わります。
(3) 植物油等の加工での水素添加の過程において生成し、マーガリン 、ショートニングで摂取 日本のマーガリンには、概ね10%前後。



(2)の搾油時の加熱の影響。
一般的にはヘキサンという薬品をかけて油分を「抽出」する方法でやっています。「ヘキサン法の油は特に熱処理の影響が大きい。搾った後の(油とヘキサンの混合物)を加熱して薬品の成分を飛ばし、さらに白土、臭酸、苛性ソーダなどを入れて精製・脱臭・脱色する。これでは腰の抜けた油にしかなりません。熱がかかれば酸化が進むから、酸化防止剤も必要になります。そんな油では、風味も栄養もないよね」(鹿北製油の和田さん)。
 どうしてこんなに化学抽出や精製がされるのかというと、ひとえに歩留まり(原料あたりの搾油量)を上げるため。例えばゴマ、鹿北製油のような昔ながらの物理的な方法で搾り、ろ過すると、ゴマが含んでいる油分の8割ぐらいしか取り出すことができません。しかしヘキサンなど薬品を使って粕も残らないほど搾り取り、精製・脱色をすれば、原料に含まれてる油分をほぼ100%取り出すことが可能になります。多くのエネルギーと薬品を使いますが、4、5日の短期間に大量生産することで、価格も安くおさえられます。その結果、安全性も風味もまったく異なるものになります。
トランス型の生成量でみると、トランス型は高温に曝されることで生成が進みます。ヘキサンを加熱蒸発で除く工程や脱臭の工程(油を200~250度に加熱し、真空に近い状態で水蒸気を吹き込みながら臭気成分を取り除く)など何回も高温になります。そのたびにトランス型に変わります。 ある調査では、味の素のサラダオイル(菜種油&大豆油(1500g)はトランス脂肪酸 1.0%、
日清のサラダ油 (食用混合油・400g) 1.6%、
豊年サラダ油 なたね、大豆(1000g) 2.4%、
花王のエコナ揚げ油 1.5%、
鹿北製油のなたね黄金油 0.1%。(鹿北製油は、物理的な方法で搾り、脱色は水洗いと木炭。時間をかけて沈殿させ、上澄みのみを和紙でろ過している。)


(3)の水素添加の影響。
ショートニング(shortening)は『サクサクさせる、ポロポロにする』という意味を持つ、植物、動物油脂を原料とした、ラードの代用品の練りこみ専用の固形油脂として19世紀末のアメリカで開発されました。ラードコンパウンド(ラードの代用品)とも呼ばれていました。「ショートニング」という名称は、パン、ビスケットなどの原料として使用した場合、その口あたりをよくし、もろさを与えるという意味の英語(shorten)からきています。常温における伸びのよさ、生地への混ざりやすさなどに優れていて、焼き菓子やパンに練りこんで使われるのはもちろん、意外と知られていないアイスクリームやフライ用としての用途があります。ファーストフードで食べるフレンチフライやドーナッツはフライのオイルにショートニングを使っています。ショートニングには常温で固まる性質があり、そのため油がにじまないカラッとした揚げ物が仕上がります。そのため揚げたてでもサラリとして油が手に付きません。
 大豆油、ナタネ油、魚油などは、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸などの液体脂肪酸を多く含み常温で液体で、安価です。ラードなどは、生産量の少なく常温で固形で高価です。それで安い植物油などに水素を化合させて常温で固体の脂肪(硬化油)にする方法が19世紀に開発されました。
 現在多く行われている製造法は、常庄か数気圧程度の圧力の水素の下でニッケル触媒を油に対して0.1~0.5%を加えます。160~180℃に保ち触媒で油に水素を化合させます。。別法として、ぎ酸ニッケルを油中で水素を吹き込みながら250℃付近に熱する方法も行われています。目的とする量の水素を吸収反応させた後に、濾過して触媒を除き、希硫酸などで洗って精製します。特有なロウ様な悪臭があるので、マーガリン、ショートニングの食用硬化油は高度の減圧で脱臭精製が行われます。ショートニングは硬化油に水分や乳成分を含まず、ほぼ100%が油脂成分で香りはほとんどありません。白色で無味無臭の油脂です。マーガリンは、硬化油に水分、塩、香料などを加えてあります。
 水素付加の過程で副産物としてトランス脂肪酸が生成します。触媒のニッケルと不飽和脂肪酸とが結合します、その結合体に水素と反応します。この結合体が不安定なため分解しやすく、このとき脂肪酸が熱力学的に不安定なシス体に戻らず、安定なトランス体が生成するのです。ほとんど生成しない製造法もあり、虹屋のマーガリンはそれですが、一般的には13%ほど含まれています。またこの水素添加で不飽和脂肪酸が、飽和脂肪酸に変わります。つまり酸化が起きにくく日持ちが良い、保存が簡単(室内に裸で放置しておける)なのです。ファーストフードのフライのオイルにショートニングが使われる理由の一つです。


*日本の食品に含まれる総脂肪酸中のトランス型脂肪酸の平均割合
マーガリン   13.5% (米国では13.02~25.06%)
バター      4.1%
チーズ      5.7%
牛乳       4.5%
食パン      9.3%  (食パン1枚で、0.3g見当)
ドーナツ     0.8~23.9% (菓子パン1個で1g見当)
フライドポテト  0.8~19.5%
レトルトカレー  6.2%
牛肉バラ     4.9%
牛肉ヒレ     2.7%
 (日本食品油脂検査協会などの調査から)

トースト1枚に10gのマーガリンをつけると、0.62gのトランス脂肪酸を摂取する計算になります。(パンにショートニング・植物油脂などで含まれている分は除きます)虹屋の紅花マーガリンは1%ですからこの10分の一、有機マーガリンは0.46%ですから約20分の一です。
 この摂取経路を見ると、(1)の牛由来が最も大きい。フランスの調査では、(1)の牛由来のものが全摂取量の60%を占めています。牛肉の1人当たり消費量でみるとフランスは25.7kgでトランス脂肪酸はエネルギー比で1.3%です。日本では10.1kgでトランス脂肪酸はエネルギー比で0.7%ですが、アメリカは43.9kgでトランス脂肪酸はエネルギー比で2.6%です。牛肉を欠かせない米国でトランス脂肪酸の摂取量がずば抜けて多く、問題視される理由がわかります。米国でもせめて、フランス並みにまで牛肉消費量にまで減らし、穀物をより多く食べるようにすればトランス脂肪酸過剰摂取の問題は、半分以上解決します。日本でも、牛肉例えば牛肉ハンバーグのハンバーガーを多食する人がハイリスクということになります。フランス政府は牛乳や乳製品についてはカルシウム摂取源としての意味からも削減する必要はないが、脱脂粉乳や低脂肪乳のほうが望ましいと国民に勧めています。
 またフランスの調査では、13歳前後で(3)の経路の摂取、マーガリンやショートニングなどの加工の際にできるものを含むビスケットや菓子類が30%を占め、特に多い1割の人が危険水準。日本でもこの年代でショートニングを多く使っているビスケットや菓子類の間食が多いのは同じではないでしょうか。対策は、食べる量を減らすです。


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前門のガン、脳卒中、後門の狭心症 コレステロール [油脂ー搾油、栄養、コレステロール]

2002年11月11日小針店で発行した畑の便りの再録です。



前門のガン、脳卒中、後門の狭心症 コレステロール


油は、グリセリンとそれに結合する様々な脂肪酸などという構造です。脂肪酸のうちリノール酸を多く摂取すると、血液中のコレステロール値(濃度)が低下します。それで、リノール酸を多く含む植物性食用油を多く食べれば、高コレステロールによる動脈硬化、心筋梗塞、狭心症を予防すると考えられました。しかし値の低下は一時的な一過性にしか過ぎないことや体内の総コレステロール量は変らないことなどから、このリノール酸善玉説は現在では否定されています。

 その一方、食生活の欧米化、脂肪摂取の増加でコレステロール値は上昇し、高脂血症と診断される人が増えています。日本では血液中の総コレステロールが220mg/dl以上で高脂血症と診断されます。220以上の人は推定約2200万人、5人に一人。220という基準は、欧米、肉を多く食べも狭心症など心臓疾患が日本の5倍も多い欧米の基準を元にしたものです。魚を良く食べ、欧米に比して心筋梗塞が極めて少ない日本人に合ったものか疑問が持たれていました。

安全地帯は200から260?!

 それで、約5万人にコレステロール低下剤を6年間投与、有効性や安全性を調べる調査(通称 J-LIT)が行なわれました。調査対象は心筋梗塞、脳血管障害発作(発症一ヶ月以内)、コントロール不良の糖尿病、重篤な肝疾患と腎疾患、二次性の高脂血症、癌その他の悪性疾患患者を除いた値が220以上の35歳から70歳までの男性と、閉経後の女性です。

 日本人の平均的コレステロール値に近い200~219を基準とすると全死因を合計した死亡危険度では、160未満に下がった人は3倍近くになり、160~179は約1・7倍、180~280の間ではほとんど差がなく、280以上で再び上昇しました。

 がん死だけをみると、160~179は倍近く、160以下は3倍以上、280以上の超・高脂血症患者が一番低い値でした。心筋梗塞の死亡率は200~219に比し、180未満では8倍、280以上で心筋梗塞や突然死が増えています。(2001年8月公表)


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 低コレステロールでは、脳出血、癌
 欧米の調査でも、コレステロールを下げることで、死亡率の上昇やガンの多発傾向が出ています。欧米、日本などの19の研究データからコレステロールの低い人ほど脳出血、癌、呼吸器疾患、消化器疾患、うつ病、自殺、外傷死になり易いことが疫学的にわかっています。心筋梗塞や狭心症も嫌ですが、ガンや脳卒中も嫌です。つまり値が高いのも低いのも良くないことが明らかになりました。

 東京都老人総合研究所が、日本の中でも長寿者が多い東京都小金井市在住の高齢者を調べたところ、70歳の健康で長生きしている老人のコレステロール値は200~220でした。同研究所は、特に50才を過ぎたら200以下にならない様に注意するように呼びかけています。

上のほうの値は、
 米国は240が基準値です。先の5万人調査(J-LIT)をもとに日本動脈硬化学会は240以上とする基準案を作りました。しかし、一年後には「他の疾病の基準との整合性を図る」という理由で220に据え置きました。コレステロール低下剤は最も広く使われている薬の一つで、年間3000億円以上の売り上げがありますが、基準値を240に変更すると患者数は半減します。単純に言えば、1500億円の薬代がなくなるわけです。これは、学会を財政的に支える製薬会社にとっては死活問題です。

 コレステロール悪玉説の元となったアメリカでの調査を、心筋梗塞などを起こす糖尿病などの他の4つの原因を考慮して再検討すると、総コレステロールが300以上でも、血圧が正常で糖尿病がなく、たばこも吸わず、心電図に異常のない場合は発症率はきわめて低い値です。

逆に200以下であっても高血圧と糖尿病があり、タバコを吸い、心電図に異常がある場合に高コレステロールの人に比し、数倍の高率で発症することが明かになりました。単にコレステロール値が高いだけなら発症率は、極めて低いのです。

高血圧、糖尿病などの有無が問題

 単純に220以上なら危険、240以下は安全と考えるよりも、糖尿病などの有無が問題です。J-LIT調査をもとにした管理目標(案)では心臓病の既往歴がない人は糖尿病、高血圧、喫煙、年齢(男性45歳以上、女性55歳以上)のような危険因子が0または1個では240(糖尿病は危険因子2個分)、2または3個で200、4個か心臓病の経験のある方は180を目安としています。日本人のコレステロール値は平均的には200~230くらいです。心臓病を患ったことがなく、ただ年をとっただけなら、食生活や糖尿病、血圧に気を配れば十分ではないでしょうか。

 またコレステロール低下剤は、筋肉細胞を損傷する副作用が知られています。回収になった種類もあります。その使用について「狭心症を発症しておらず、心筋梗塞もない、単なる(280以上の)高コレステロール状態の人に使用すべきでない。・・日本人に対するコレステロール低下剤の使用は虚血性心疾患が確定された高脂血症患者および心筋梗塞の危険因子を複数持つハイリスクの患者のみに限定すべきであろう。」(医薬ビジランスセンターの浜六郎 内科医)

 
薬に頼らずコレステロールをコントロールする方法は?
 コレステロールは動物では細胞膜などの生体膜の必須の油脂成分(10-25%含有)で、男性ホルモンや女性ホルモン、副腎皮質ホルモンなどのステロイドホルモンや胆汁などの原料でもあります。人では脳神経組織と副腎が特に多量に含み、体重の約 0.2%がコレステロールです。
 この生きていくために必要不可欠なコレステロールを二つのルートで調達しています。一つは自給自足。脂質・糖質・タンパク質から、主に肝臓と小腸で合成されます。もう一つは、動物性の食物、特に動物性の脂肪からです。植物にはコレステロールは含まれていません。日本人の体内での合成量は1日約1~1.5gで、食事から摂るコレステロール量は1日約0.3~0.5gです。
食物コレステロールが約25%、内因性コレステロール約75%です。

 よくタマゴを食べるとコレステロールがあがるので、1日に1個以上食べないほうが良いといわれます。これはウサギに卵を食べさせた実験を元にした説ですが、ウサギは草食動物で、卵は食べない動物です。植物にはコレステロールは含まれませんから、ウサギの体には食物コレステロールに対する備えがないのです。我々のような雑食動物では上がりません。我々には食物や体内合成で体内のコレステロール量が高くなると、コレステロール合成速度は自動的に低下する、逆に低くなると体内合成速度を増やす自動制御の仕組みが体に備わっています。
 この自動制御で体内合成量のくコントロールがうまくされていると、コレステロールの動脈への沈着は起こりません。血管が狭められません。

 この自動制御の強弱は人によって異なります。そして、20歳後半から次第に弱体化します。先の危険因子では年齢、男性45歳以上、女性55歳以上があがっています。
 自動的に合成量が増減するということは、動物性の食物を一切取らず、食物コレステロールをゼロに減らしても、体内合成で値は変らないことになります。ですから
コレステロール過剰蓄積が起こる主な原因
①コレステロール合成の自動制御の衰え 
②コレステロール合成の促進 
③コレステロールの体外への排泄不足
④食物コレステロールの過剰摂取

 肝臓で、コレステロールはコール酸へ変化し、さらに変化し最終的には胆嚢に胆汁酸として貯蔵されます。そして十二指腸から分泌され、消化を助けます。胆汁として一旦は体外に出たコレステロールの大半は再吸収されますが、一部が排泄されます。

 
排泄に重要なのは、食物繊維です。食物繊維は、肉、卵、魚貝類などの食物コレステロールや、胆汁 と結合し、これらの吸収を抑制すると共に、排泄を促進します。結果として、食物繊維は体内の総コレステロール量の低下に役立ちます。食物繊維の多い野菜類を多く食べることが健康に良い主な理由の一つです。ただし、食物繊維とコレステロールが小腸中で共存していなければ効果は全く期待できません。肉だけ食べて、後でサラダとか果物を食べるとか、サブリメントで摂るというやり方では効果は期待できません。

 
ストレスを受けると、抵抗するために体は副腎からコルチゾールというホルモンを分泌します。他にも多種のホルモンが多量に作られます。これらのホルモンはコレステロールから合成されるので、ストレスが高いほどコレステロールが必要とされ合成が促進されます。ストレスでも運動や肉体労働といったものでは、身体のエネルギー状態が高くなります。

この状態ではコレステロールの体内合成は抑制されます。運動後の安息時、睡眠中に作られます。デスクワークなど活発な身体活動がないストレスでは、あまり抑制されません。肝臓などでコレステロールが合成され血中に放出されます。こうしたストレスが多い中高年では、血中の濃度が高くなったら合成量を落とす自動制御が弱っています。ホルモン合成に消費されなくなっても、合成量が落ちません。特に高齢者では、コレステロールから作られる性ホルモンが著しく低下します。コレステロールが容易に過剰になります。コレステロールの動脈への沈着が起こる事になります。

 脂肪酸では、α-リノレン酸や仲間のEPAを摂取するとコレステロール値が下がります。これは、痩せていると寿命が縮まる話やアレルギーと油の話につながるのですが、それは別の機会に


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脂肪を減らす生理活性脂質、痩せる油って?(2002) [油脂ー搾油、栄養、コレステロール]

2002年12月3日印刷・小針店で配布した畑の便りの加筆再録です。

 先日、脂肪を減少させる生理活性脂質を売り文句にしたサブリメント、健康食品の広

11-0121_b_.jpg

告を見ました。脂質=脂肪ですから、脂肪を摂って脂肪が減るとはタヌキに化かされるような話ですが・・
 
この手の商品で、最も売れているのは「健康エコナ」など脂肪がつきにくい、肥らない油です。花王のエコナは「大豆&菜種生まれ」とあります。普通の大豆油や菜種油などの植物油は、ほとんどが、グリセリンに脂肪酸が3個着いた形の脂肪です。エコナは、それをわざわざ酵素などで分解し、グリセリンに2個の脂肪酸が着いた形に再合成します。人工的に1個脂肪酸を抜いた形にした合成油脂が主成分です。菜種油や大豆油は、3個着いた形が97~98%、2個のものは約1%、エコナは逆で、3個着いた形が20%以下、2個のものが約80%の組成です。
 二個着いた形の脂肪は乳化剤として食品添加物として使われています。綿実油は9.5%含んでいます。しかし2個のものが約80%の組成の油を長期に食べる食経験を人類は持っていません。何が起きるか、健康にどのような影響があるか、今、エコナを使っている人で人体実験中というところです。
11-0121_a_.jpg また「肥らない」という点は、どうかというと、体は摂取カロリーから利用、消費したカロリーを引いた過剰分を脂肪として蓄えます。その脂肪は3個の脂肪酸が着いた形です。摂取カロリーが過剰ならエコナの油も、もう1個脂肪酸をつけて体脂肪にして蓄えます。他の油と同じです。花王も「子供や健康な人には普通に油と同じように作用する」と問合せには答えています。あの広告は一体なんなのでしょう。こういうのを「二枚舌を使う」というのではないでしょうか?ともあれ、健康エコナには、脂肪を減らす生理作用はありません。冒頭のサブリメントは、どんな発見、作用に基づいているのでしょうか。
脂肪、脂肪組織に見つかった新しい生理機能
 従来、体脂肪は餓えに備える為のエネルギー貯蔵の役割を持っているだけ、代謝的に不活発な組織と見なされていました。しかしここ10年余りの間に大きく見方が変ってきています。一つは、脂肪細胞が一種の「内分泌細胞」として、様々ホルモンのような物質(
アディポサイトカイン)を生産・放出していることが判りました。その不足が短命をもたらし、その過剰が様々な生活習慣病の発病に深く関わっていると見られています。(この件は次回以降に)
 一つは、
脂肪(脂肪酸)がホルモンのように働き、脂肪組織が脂質や糖代謝など生体全体のエネルギーバランスの要となっていることが明らかとなってきました。
11-0121_h_.jpg 事の始まりは1990年に行なわれた高脂血症の治療薬の作用・メカニズムを明らかにする研究でした。研究者は、性ホルモンなどステロイドホルモンの作用メカニズムと同じような仕組みで薬が働くのではないかと仮説を立てました。
 その働き方は、①ステロイドホルモンはコレステロールから作られるので脂溶性。それで、血液中から細胞膜や細胞核の膜を通り抜け細胞核の中まで入り込みます。
②核内で特定のタンパク質と結合します。(このタンパク質を受容体といいます。)
③そのホルモン-受容体の結合したものが、核内のDNAの特定の場所に結合し、そこから下流にある遺伝子を呼び起こし働かせます。つまり高脂血症の治療薬が結合する相手の受容体タンパク質を特定し、それが働きかけるDNAの部位を特定し、その下流にある遺伝子を探れば、治療薬の作用メカニズムがわかるというわけです。

 その研究で発見されたのが、
PPARと名付けられた受容体です。さて、この受容体の本来の自然の状態で結合する相手は何なのか、また活性化される遺伝子の働き、PPARの機能が探求されました。その結果、このPPARは3タイプあり、リノール酸などの食事で摂取するポピュラーな長鎖の脂肪酸(脂肪)が、程度の差はあるものの直接PPAR全てのタイプの結合の相手であることが判りました。つまり脂肪酸もホルモンに類似の仕組みで、特定の遺伝子の働きを調節する働きがあるのです。違う点は、脂肪酸の作用濃度がホルモン類に比べて一桁高いなどです。

 アルファーα型は主として肝臓、その他心筋や消化管に発現して、脂肪酸の体内への吸収、細胞内への取り込み、活性化および代謝分解を制御する重要な機能を果たしていると考えらています。絶食し飢餓状態になり、脂肪組織の脂肪が分解され、脂肪酸が血液中に放出される状態になると発現量が増大します。

 ベーターβ型(シグマδ型ともいう)は、普遍的にどの組織でも発現しています。大腸ガンで顕著に顕われるので、発ガンとの関係が注目されています。

 
ガンマーγ型は、主に脂肪組織および免疫系に現われています。脂肪細胞の細胞分裂、増殖や脂肪合成に重要な役割を担っています。γ型が出来なくしたマウスでは、胎盤の形成が阻害され胎児が子宮内で死んでしまいます。また糖尿病の治療薬、インシュリンの働きを回復させる薬が、γ型に結合することがわかり、この面からも注目されています。


11-0121_k_.jpg さて脂肪組織といえば、白い脂身が目に浮かびますが、他に黄褐色、赤褐色の褐色脂肪組織があります。この褐色脂肪組織で脂肪が代謝、燃やされるとそのエネルギーは全て熱に変わります。一般的な代謝で発熱は、体重1kg当たり4.1Wですが、褐色脂肪組織は300~400Wの熱産生能があります。

 つまりこの組織は体内ストーブです。これは新生児時に非常に多く体重の2~5%ありますが、成長とともに減少し成人では腋の下、首の後ろ、大動脈の周囲、腎臓の周囲などあります。新生児は体積に較べて体表面積が大きい、つまり体温が逃げやすいので盛んに熱を作る必要があり、褐色脂肪組織が多いのです。(乳幼児で1日数回の間食、おやつが欠かせません。これは、多量に存在する褐色脂肪組織による熱発生が激しいので、1日3食ではエネルギー不足になるからです。)

11-0121_J_.gif その脂肪消費、熱産出の要がUCPというタンパク質です。このUCPというタンパク質を上手く働かせれば、脂肪が代謝・消費され肥満防止になると考えられています。成人では褐色脂肪組織は少ないのですが、UCPは骨格筋などに多量に発現しています。UCPは4種知られていますが、UCP 1は交感神経でコントロールされています。緊張など交感神経が興奮すると、その神経刺激でUCP 1が働き、脂肪が代謝され体温が上がります。USP 2及び 3は、PPARによって増強されることが明らかになっています。

 前述のようにPPARは様々な脂肪酸、多様な化合物を結合の相手、働き出すシグナル物質にします。しかし物質の種類毎にα型β(δ)型γ型では、結合の相性、活性化の度合い違います。つまり、
食事で摂取する脂肪(脂肪酸)をコントロールし⇒体内の脂肪酸組成をコントロールし、⇒それによって働くPPARをコントロールし⇒脂質代謝系、エネルギー代謝系の遺伝子の働きをコントロールし脂肪代謝・肥満防止が出来るのではないかと考えられています。PPARは、この他にも血管機能や炎症などの循環器系、発がんの調節機構にも関わるので、そうした病気の予防、治療に、摂取する脂肪(脂肪酸)コントロールが注目されるわけです。

 冒頭の脂肪を減らす生理活性脂質は、こうした研究をもとにして効能を謳っています。このようなサブリメント、健康食品は安全で有効でしょうか。私は、虹屋は疑問を持たざるをえません。
 
内分泌学や生理学の研究で、一般的に良く見られる現象の一つが、同じ物質でも体内の濃度によって働き方が違うことです。例えば、細胞内のカルシウムはある濃度では細胞機能を賦活化しますが、さらに濃度が増えると細胞死のメカニズムを作動させ、細胞を殺してしまいます。
 「ある濃度の範囲で親和性の高い(敏感な)受容体(反応系)がまず働きはじめます。それよりも濃度が高くなると低親和性の受容体にもくっついて、あらたな反応系も動き始めます。その際に、しばしば起こることですが、低親和性受容体が働きはじめることにより高親和性受容体で作動していたシステムが抑制される、といった自己抑制システムを生物は多用しています。」
 つまり、低い濃度では脂肪を消費する、減らす作用が認められた脂肪酸(油)でも、サブリメントの形で大量にとった場合は、逆の脂肪を増やす反応系を働かせるかもしれませんし、別の反応・作用を表わす可能性があります。
国立健康・栄養研究所での動物実験では、共役リノール酸(ダイエットサプリメントで広く販売されている脂肪酸、脂質)を大量摂取させたところ、なるほど体脂肪は減少しましたが、肝脂肪は増大し糖尿病の状態になってしまいました。このサブリメントを使いつづけている人も、肝脂肪のフォアグラ状態かもしれません。なにしろ研究が始って10年くらいしか経っていませんから未解明なところが多いのです。PPAR各タイプの働きの違いや様々な脂肪酸との相性、どの遺伝子が活性化されるのかの選択性のメカニズムなど明らかにすべき事が多々あります。
 現在のところ確実なのは、多価不飽和脂肪酸を多く含む「油(常温で液状の脂質、脂肪)」は、飽和脂肪酸を多く含む「脂」に比べてPPARを活性化しやすいということです。事実、
「油」を主成分とする魚油を用いた動物実験で、内臓脂肪量の低下と同時にUCP発現量の増加が観察
されています。その一方、不飽和脂肪酸の過剰摂取は免疫能を落とすとの研究があります。ですから、肉ばかり食べずに魚を食べる、それも煮魚を食べる機会を増やすというところが妥当なようです。


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