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米国でのBSEはどのように拡がるか、見落としの多い食品安全委員会の答申原案 2005-25 [牛‐肉、乳、飼育]

畑の便り  №05-39 2005年9月20日小針店で印刷・配布の再録



米国でのBSEはどのように拡がるか、
見落としの多い
食品安全委員会の答申原案


 9月12日に食品安全委員会の狂牛病BSEに関する専門部会がありました。議題はもちろん米国産・カナダ産牛肉の輸入再開へ向けての安全性の評価です。そこで吉川座長(東京大学教授)の答申の原案(たたき台)が示されました。それには、私のような素人でも判る見落としが多々あります。吉川座長は、日本国内でのBSE拡大・感染経路を以前検討しています。その際は、飼料に使われた肉骨粉とタロー(牛脂)を病原プリオンの運び屋にとりあげています。ところが、米国やカナダでのBSE拡大・感染経路では、肉骨粉しかとりあげていません。タロー(牛脂)はどこかに消えています。片手落ちです。

タロー(牛脂)のBSE感染
での危険性


 この二つは、レンダリング処理(化製処理)で共に作られます。牛、羊、豚、ニワトリなど食用動物から食肉を採取した残りのくず肉・内臓を煮ます。これがレンダリングです。すると上に脂肪がかたまります。脂肪(獣脂・タロー)は昔から石鹸やローソクの原料として、現在では飼料、医薬品や化粧品などにまで広く用いられます。脂肪をとった後の脂かすは、かつては捨てられていした。20世紀に入ってからが、乾燥して粉末とした肉骨粉が家畜やペットの飼料、肥料などに用いられるようになりました。

 BSE牛のくず肉や内臓などがレンダリング処理されたら、その肉骨粉やタロー(牛脂)には病原のプリオン蛋白質が含まれます。レンダリング処理のやり方を色々に変えても肉骨粉は感染する力があります。高温処理法(133℃、3気圧、20分)がとられていますが、この条件でも肉骨粉の感染する力は百分の1~数千分の1に減りますが、BSEの感染が起きます。タローは疑問視されていました。当初、英国でマウスなどでの動物実験では、BSEの感染が起きなかったからです。それで牛脂は飼料に使われ続けました。

 その後研究が進み、プリオンの分解は脂肪・牛脂があると進まないことがわかりました。特にプリオンが牛脂の中に含まれていると、つまり不純物で牛脂に含まれた状態では分解が遅いことが分かりました。そしてマウスは牛の百分の一位の感受性がない、BSEに感染しにくいので、動物実験の結果が必ずしも当てにならないことも分かりました。牛用飼料で特に問題なのは、牛脂を含んだ代用乳・人工乳。これを飲む「幼若牛の感受性は子牛の約10 倍と考えるべきである(吉川座長)」。

 それで、EUは牛に与える牛脂にはプリオンが多い危険部位SRMを原料としないこと、更に高温150℃などの条件でレンダリングしています。日本では、腹脂、背脂や食肉加工場で除かれる脂身、内臓の脂身のみを原料として、不純物0.02%以下のタロー(ファンシータロー)を子牛の代用乳・人工乳にのみ使うようにしました。ところが、米国は未だにタロー(牛脂)ではBSEはうつらないとしています。それで相変わらずSRMを原料に使い、不純物も0.15%と日本の7倍です。
 イエロータローと呼ばれる物です。レンダリングの方法も欧州食品安全庁(EFSA)は米国では「大気圧の下で(つまり加圧することなく)加工しているから、BSE感染性が工程に入れば、これを大きく減らすとは考えられない」としています。米国では、子牛用代用乳・人工乳だけでなく、牛用飼料全般に使えます。
 吉川座長は、2年前の日本国内でのBSE拡大・感染経路の検討では肉骨粉とタロー(牛脂)を病原プリオンの運び屋にとりあげています。何故に、米国でのBSE発生を考える際には、タロー(牛脂)が抜けてしまうのでしょう??


米国内のBSEの
曝露・増幅リスク


 吉川座長は肉骨粉に注目し、「米国では一定の割合で交差汚染が起こる可能性が否定できない」と結論しています。また吉川座長は、2年前に「動物性油脂(タロー)では特定部位(SRM)を使用していたわけであるから汚染の可能性を否定できない。その場合、動物性油脂中の不溶物として(肉骨粉と)混合汚染を起こしている可能性がある。」との見解を公表しています。まさに米国がその状況です。

 吉川座長がやっておられないので、僭越ながらタロー(牛脂)での暴露リスクを考えてみました。特に問題なのは、代用乳・人工乳です。これを飲む「幼若牛の感受性は子牛の約10倍と考えるべきである(吉川座長)」。米国では、代用乳・人工乳だけでなく、牛用飼料全般に使えます。

 米国で、食肉用にと畜される30ヶ月齢以下の牛のうち、約10%、320万頭は乳用牛の去勢雄牛。生後8週齢になるまでの間は、代用乳および人工乳(スターター)によるほ育が行われ、その後、10週齢程度で育成舎での群飼に移行し、粗飼料と濃厚飼料によ
る育成され、その後フィードロットで肥育されます。この去勢雄牛は一番感受性が高い時期に代用乳と人工乳でタロー(牛脂)での暴露リスク。育成、肥育期間は牛用配合・濃厚飼料に含まれるタロー(牛脂)での暴露リスクがあります。

 残り約90%の肉用品種の牛では、肥育期間は牛用濃厚飼料、子牛・育成期間中は牛用サプリメント(米国BSE牛2例目で追跡された飼料)での暴露リスクがあります。

 吉川座長は肉骨粉に注目し、レンダリング施設・飼料工場の交差汚染、流通、農家での自家配合による汚染、牛の肉骨粉の使用が許されている鶏飼料の残渣、豚飼料の残飯などを牛に給与することが禁止されていないことなどから、「米国では一定の割合で交差汚染が起こる可能性が否定できない」と結論しています。前2者は特定の群れではなく牛全体にかかわる暴露リスクをあたえます。

 甲斐諭専門委員によれば「大局的に見て(肉用の子牛の)主な産地は米国南東部が中心地で全米の子牛の約35%がそこで生産され、米国内の27州に販売されている。米国南東部の子牛生産地の繁殖牛経営は20~30頭の繁殖牛を飼養する零細経営が多く、綿花や大豆を栽培し、家禽も使用している家族経営が多く、兼業経営が多い。」つまり鶏・豚飼料の給餌による交差汚染の確率が高い牛群がある。米国の牛はその暴露リスクの濃淡がある。3つほどに大別できるとおもいます。
一つは、全般的なタロー(牛脂)使用やレンダリング施設・飼料工場で交差汚染、流通、農家での自家配合による汚染による暴露リスクの牛群。
一つは、代用乳・人工乳を飲む、それによる高暴露リスクの320万頭、約10%の乳用牛の去勢雄牛。
一つは、零細で鶏や豚も飼育する農家で育成される鶏・豚飼料の給餌による交差汚染の確率が高い牛群。
このような暴露リスクを持った米国の牛に、現実にBSE感染がどれ位起きているのか。拡大サーベランスの結果を検討することで、検証できるはずですが、それが無理と言うお話は次号以降に。





吉川流の恣意的な曝露
・増幅の評価


 たたき台は、暴露リスクの検討の後、増幅リスクつまり米国でBSE発生が増えているのか減っているのかを数字をあげて定量的に検討しています。しかし、吉川座長は「定量的評価は困難であることが考えられるので、評価は定性的評価を基本とする。」(1.2 審議するにあたっての基本的方針)としているのに、定量的評価を何故するのか真意が分かりません。

 また、その定量的評価でも前提となる数字、仮説がきわめて恣意的です。BSE陽性牛の感染値の99.4%を占めると言われるSRMが、米国では全て牛でレンダリング原料とされています。吉川座長は、米国でのレンダリングで、感染値が約1/100になるとしているが、欧州食品安全庁(EFSA)は「大気圧の下で(つまり加圧することなく)加工しているから、BSE感染性が工程に入れば、これを大きく減らすとは考えられない」としています。

 また、そもそも米国にBSEがどれ位侵入したのかという事でも、恣意的です。侵入リスクの比較では、BSE感染牛の輸入・移入、肉骨粉、動物性油脂の三ルートが取り上げられている。BSE感染牛の輸入・移入、肉骨粉では、カナダからの輸入も多いのカナダの汚染率=BSE感染牛の率は「極めて低い」として事実上無視している。カナダの汚染率は審議されたことがないのに、この取りまとめはおかしい。動物性油脂では、オランダ産のみを問題にしているのはおかしい。牛や肉骨粉では、カナダ産・カナダ経由のそれを取り上げているのに、なぜ油脂ではとりあげないのか。また米国・カナダ国内での狂鹿病(CWD)など他のTSE因子をもった肉骨がレンダリング原料となり、肉骨粉や油脂になっている。この点を取り上げないのもおかしい。





米国産牛タンの安全性は、
想像力で評価し、
国際基準以下を是認


たたき台の「1.1 経緯」で、国際基準であるOIE規約との関連が一言も触れられていない。

 今回の諮問、審議の基本的性格は、平成1 7 年5 月2 6 日の第9 6回食品安全委員会(本委員会)で、農林水産省・伊地知大臣官房参事官は「今回の諮問は輸入停止以降、リスク評価のための情報収集を行ってきたことを踏まえまして、一定の輸入条件(現在の米国の国内規制及び日本向け輸出プログラム)でのリスク評価をいただき、その結果を踏まえて国際基準(OIE基準)を上回ることとなる検疫措置を実施しようとするものでございます。」(議事録5ページ、カッコ内は虹屋が加えた)厚生労働省の松本大臣官房参事官は米国から輸入される牛肉及び牛の内臓を食品として摂取する場合と、我が国でとさつ解体して流通している牛肉及び牛の内臓を食品として摂取する場合の牛海綿状脳症に関するリスクの同等性についての意見を求めるもの」としている。

 すなわち、審議の焦点は①OIE規約での牛肉と内臓肉での諸条件を米国の国内規制及び日本向け輸出プログラムが満たしているか②それを上回ることとなる検疫措置であるか③これらの条件・検疫措置の結果、日米の牛肉と内臓肉のBSE牛海綿状脳症に関するリスクの同等性が確保されるかになる。

 しかし、国際基準であるOIE規約との関連がこのたたき台では、隠されている。このため、あたかも国際基準であるOIE規約とは無関係に、リスクの同等性を評価するように審議結果がまとめられている。

 内臓肉は、OIE規約ではその国のBSEリスクのステータスで扱いが違う。しかも、米国のBSEステータスは、侵入リスク、暴露・増幅リスクだけでなく、BSE牛が発見された場合の出身農場の特定と擬似BSE牛の特定追跡の制度・仕組みなど評価すべき点が多々ある。これらの点は、このまとめには無い。米国のBSEステータスへの言及がない。
 OIE基準では、BSEリスクに応じて国などを3つにランク分けして、各々で検疫措置が違います。青信号に相当するリスクを無視できる国Negligible BSE risk。このランクなら、獣医による検査くらいしか規制はありません。脳などのBSEの特定危険部位SRMも輸出可能です。ところが米国では2頭めのBSE牛が米国産の牛でしたから、リスク管理国(黄信号状態Controlled BSE risk)かリスク不明国(赤信号状態Undetermined BSE risk)です。牛タンや焼肉で使われるハラミなどの内臓肉の扱いが全く違います。

 リスク管理国なら、肉骨粉などを牛に食べさせない飼料規制が国全体で有効に機能していれば良いのです。リスク不明国なら、と蓄される牛一頭一頭で肉骨粉などを食べていない証明が必要です。たとえば牛タン・舌の後部は扁桃があります。扁桃はBSEの特定危険部位。解体のやり方が悪ければ、牛タンに残ります。リスク不明国(赤信号状態)なら、その牛タンを採ったその牛が肉骨粉を食べていない≒BSEに感染していない証明まで求めるのです。

 米国では牛用飼料に牛の肉骨粉をつかうのは禁止されています。鶏や豚用には使われています。米国の肉用品種の子牛の35%くらいは、鶏や豚なども一緒に飼っている農家で育ちます。こうした農家では、鶏の食べ残した肉骨粉入りの飼料を牛に与えていました。現在も禁止されていません。

 米国は、どちらのランクか自己評価中です。リスク不明国(赤信号状態)なら、牛一頭一頭で肉骨粉などを食べていない証明、鶏用豚用の飼料を食べていない証明を求めることが国際基準(OIE基準)です。しかし、前回の専門調査会では「今まで主に肉を取り上げて議論をしてきたんですけれども、諮問は肉と内臓を含むという格好で書いてあるので、後で評価を介して、また内臓だけ評価しなさいというのは避けたいと思うので、委員の想像力を高めて、・・議論をしていただきたい」。(8/24吉川座長)

 この原案では、米国・カナダの全ての牛でリスクをまず評価し20ヶ月齢以下に絞り込む方法をとっており、これでは、米国・カナダをControlled BSE risk リスク管理国と評価するのと同じである。まず、この米国・カナダのBSEステータスを明確にしてから、内臓肉のリスク評価が行われるべきである。想像で安全評価し、国際基準以下の検疫措置を是認は御免こうむりたいですね。



 


日本のレンダリング産業 畜産の情報-今月の話題-2001年12月
 月報国内編日本のレンダリング産業 畜産の情報-調査・報告-2003年3月 月報国内
BSEとレンダリングのかかわり 霊長類フォーラム-人獣共通感染症連続講座(山内一也)(第71回) 1999.1.27  米国酪農家の副産物・乳おす牛による牛肉生産(子牛肉生産と乳去勢肥育)の状況
吉川座長の研究牛海綿状脳症(BSE)の感染源 及び感染経路の調査について
BSEと代用乳


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