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駐米大使、11月のブッシュ大統領の京都土産は、牛肉輸入再開と言明 2005-40 [牛‐肉、乳、飼育]

畑の便り  №05-45 2005年10月31日小針店で印刷・配布の再録です。



駐米大使、11月の
ブッシュ大統領の京都土産は、
牛肉輸入再開と言明


 加藤駐米大使は、先週の火曜日10月25日にBen Nelsonアメリカ上院議員に「来週、日本では、日米の牛肉のリスクを比較し、アメリカの牛肉のリスクは、非常に小さいとの結論を考えている。」「1週間のパブリックコメントの後に、11月中旬の小泉・ブッシュ会談で、牛肉輸入再開の結論をだす。」「この決定を市民に知らしめるには、4週間かかる」と書簡と口頭で伝えたそうです。月曜日24日には、食品安全委員会のプリオン専門部会は、そうした結論に達しませんでした。それでも日本を代表する立場の大使の発言ですから、本国政府、外務省や首相官邸筋からの示唆があってのものでしょう。

 そして、この31日に食品安全委員会の狂牛病に関わるプリオン専門部会が開かれます。この畑の便りが出る頃には官邸筋の思惑通りの結論が出ているかもしれませんが、24日の専門部会の論議を見るとそう簡単に官邸の思惑に沿った結論が出るとは思えません。


24日の食品安全委員会の専門部会で答申(案)が認められなかったわけ
甲斐知恵子委員の反対意見
横山委員の反対意見
山内委員、金子委員の反対意見





24日の食品安全委員会の
専門部会で答申(案)が
認められなかったわけ


 24日の会合で結論が出なかった理由は次にように報道されています。

★ 内閣府・食品安全委員会のプリオン専門調査会(座長=吉川泰弘・東大大学院教授)は24日、政府が諮問している米国・カナダ産牛肉の輸入について、生後20か月以下の牛に限って再開を容認する答申原案を提示した。

 同調査会は今月末に開く次回の審議で答申案をまとめる。食品安全委は4週間の意見公募を行い、12月にも政府に答申する方向で、政府は12月中にも輸入再開に踏み切る見通しだ。 食品安全委は、「特定危険部位(SRM)を取り除いた、生後20か月以下の牛肉を検査なしで輸入する」とした2004年10月の日米両政府の基本合意に基づいて、今年5月、米・カナダ産牛肉の安全性が国産牛肉と同等かどうかの諮問を政府から受け、プリオン専門調査会に科学的な検証を委ねていた。

 調査会は、米国内のBSE(牛海綿状脳症)の汚染状況や病原体をエサに混入させないための飼料規制の実態などを検証し、安全性を評価した。その結果、輸出条件が守られることを前提に比較した場合、「日本で処理される牛の食肉・内臓と米・カナダのそれとのリスクの差は非常に小さい」と結論づけた。

 ただ、一部の委員からは、米国の食肉処理現場でSRMの除去がきちんと監視されているか不明であるとして、「リスクが同等とはみなせない」との意見も出された。このため、答申案の正式決定は次回の審議に持ち越したが、委員の多数に大きな異論がないため、おおむね原案に沿った内容で決着する見通しだ。

 原案は、輸入再開の安全性を懸念する意見にも配慮して、再開後、米国がSRMの除去などの対策を守らないなどの場合には、「いったん輸入をストップすることも必要」とした。米国の順守状況は、厚生労働省と農林水産省がチェックするよう求めている。

 【プリオン専門調査会が提示した答申原案の骨子】
 ▽国産牛の食肉・内臓と、脊髄(せきずい)などのSRM(特定危険部位)を取り除いた生後20か月以下の米国・カナダ牛の食肉・内臓のリスクの差は極めて小さい
 ▽米・カナダのBSE(牛海綿状脳症)汚染状況を把握し、適切に管理するため、継続的な調査監視が必要
 ▽BSE拡大を防ぐには、SRMの飼料利用禁止が必要
 ▽SRM除去は、食肉処理場での監視の実態が不透明で、国産牛とリスクが同等とは見なしがたいため、科学的検証などが必要
 ▽輸出条件の順守が十分でない場合、いったん輸入停止することも必要
(読売新聞) - 10月25日
 これは正確ではありません。

 専門部会の委員は実質11人です。24日には3人が欠席され、3人とも「リスクの差は非常に小さい」との答申案に反対の意見を文書で出されました。出席した金子座長代理も、「日米同等かは不明」とする意見を文書で提出し、審議では「リスクの差は極めて小さいというなら理由を説明すべきだ」「条件をつけて科学的・公正な結論を出したといえるか」「委員がそろったところで審議すべきだ」とのべました。残りの7人の方の議論は、議事録が公表されていませんので分かりませんが、これまでの審議を見る限り1~2人は答申案には異議を表明されておかしくありません。この問題は、多数決で決める性質の問題ではありませんから、欠席した委員が出席したうえでコンセンサス(合意)をうるために審議をさらに継続することになったのです。





甲斐知恵子委員の
反対意見


 反対意見の根底には、甲斐知恵子専門委員(東大医科学研究所教授)の表明された懸念があります。甲斐委員の意見は特別な輸出条件規制を行なっても「常に米国内のBSE汚染度に影響を受ける危険性が伴う」と指摘し、米国・カナダの飼料の「規制によっては交差汚染などを十分防げないことは多くの事例から示されています。」「輸入解禁に対しては、全体の(BSE)汚染度が日本より高いことや、(輸出条件の)上乗せ規制が完全に行われるための具体的方策の明示が不十分であることから、調査委員会としては慎重にすべきという提言を行なうべきでしょう。」そうでなければ「どのような汚染国であっても、部分的規制を行なえば輸出入は可能になるという例をつくってしまうことになります。」

 答申案では、「現時点で20 ヶ月齢以下と考えられる2004年以後の生まれの牛の汚染は米国、カナダのほうが日本より数倍高いと予想される」とあります。それでも「リスクの差は非常に小さい」という結論は、日本の牛はと畜場で処理される全ての年齢の牛、米国・カナダ産は20 ヶ月齢以下の牛を比較しているからです。

 日本の牛は、飼料規制が徹底されず交差汚染のあった時代に生まれ育った、そういった飼料を食べたであろう牛群と2001年12月飼料完全規制によって肉骨粉などでの感染リスクが限りなくゼロになった飼料で飼育された牛群に分けられます。交差汚染のあった時代の飼料だけで飼育された牛群から2005年の時点で年間5~6頭前後のBSE陽性牛が摘発されています。後者の感染リスクが限りなくゼロになった牛群(10月現在で40ヶ月齢以下)からは一頭も発見されていません。

 つまり日本のBSE感染牛は交差汚染のあった時代の飼料で飼育された牛群からのみ摘発され、摘発淘汰で絶対数は年々減少します。この牛群は2005年末で飼育頭数の約4割で、2009年末にはほぼゼロとなります。この時点で、日本の国産牛でのBSE感染牛は限りなくゼロに近づきます。これに対して、米国もカナダも交差汚染による新たな感染牛が発生し続けます。日本の全年齢の牛でBSE感染牛が限りなくゼロになっても、米国・カナダでは新発生が続き感染牛がいるのです。

 仮に現時点では日米同等でも2年先、4年先には米国のほうがはるかにリスクが高くなります。現時点でも、日本の20ヶ月齢以下の牛では感染牛は限りなくゼロに近いのですが、米国・カナダ産の20 ヶ月齢以下の牛には交差汚染による感染牛がいます。 平成15年9月発行「 牛海綿状脳症(BSE)の感染源及び感染経路の調査について」P93  農水省の牛海綿状脳症(BSE)に関する技術検討会 BSE疫学検討チーム





横山委員の
反対意見


 また答申案では、米国カナダの20ヶ月齢以下の感染牛は、検出限界以下のプリオンしか蓄積としていないしています。横山隆委員(動物衛生研究所プリオン病研究センター長)は、「現在までのvCJDはBSEプリオンの感染が原因と考えられるが、低い感染量のBSEプリオンの病原性を無視しても良いか?・・感染を成立させることがあるとしたら、悪いことが起こるのは、数十年先(英国においても)であるといった危険性は考えられないか?」と、検出限界以下であれ多数のBSE感染牛を食べることへの懸念を指摘します。
 そして「日米の比較により、食肉加工場における対策は担保できても、BSEの根本的な対策は不十分であることが示されたと考える。とくに、上の1)は20ヶ月齢以下の牛の感染の可能性を示唆している。修正案のとおりの結論付けるのであれば、個々の点で認められた日米の差をどのように判定(評価)し、「リスクの差は極めて小さいと考えられる」との結論が得られたのかを説明する必要がある。」としています。つまり答申案の結論の出し方は不十分というのです。

 答申案では、日本の全月例での感染牛の割合を現在100万頭当たり5~6頭、カナダは20ヶ月齢以下(2004年2月以降生まれ)で5~6頭、米国の20ヶ月齢以下で2~3頭としています。(下の表)この数字だけ見れば、同等とか「リスクの差は極めて小さいと考えられる」といえなくもありません。
 資料3:米国・カナダの輸出プログラムにより管理された牛肉を摂取する場合と、わが国の牛に由来する牛肉・内臓を摂取する場合のリスクの同等性に係る評価(たたき台修正三次案)[PDF]27ページ

 日本のは全頭検査の結果で、実数です。米国とカナダは移入してきたBSE感染牛などの「侵入リスクによる汚染規模を輸入生体牛のリスクを重くみれば、米国が日本の約1.5~ 7倍以下と考えられ、カナダは約4 ~ 6 倍以下」と評価し、飼育規模差で補正した推測値です。「米国は・・侵入リスクでは100 万頭当たり約2~ 3 頭( 日本5 ~ 6 頭×約10 倍÷20:飼育規模)」。飼育規模はカナダが日本の約3倍で米国が約20倍。

 しかし、カナダは米国からの輸入牛、米国はカナダからの輸入を考慮していません。カナダは米国から毎年、約16,000~340,000頭を輸入していましたが、「米国からの侵入リスクは、カナダの汚染に影響を与えたとは考えにくいので現時点では考慮しない」

 米国は、カナダから80 年代( 1986~ 1989 年) が年間約16~ 60 万頭、90 年代は年間約100万頭を、2002年には169万頭、2003年5月のカナダでのBSE牛発生時点まで輸入しています。その中に米国の1例目BSE牛がいましたが「カナダからの侵入リスクは、カナダの汚染率を踏まえ判断することとし、現時点では考慮しない」としています。
しかし、1次答申案、2次案では、カナダの汚染率は出されていませんでしたが、この3次案では2004年時点での汚染率=感染率を100万頭当たり5~6頭としています。これで考慮しないのはおかしい。
 資料3:米国・カナダの輸出プログラムにより管理された牛肉を摂取する場合と、わが国の牛に由来する牛肉・内臓を摂取する場合のリスクの同等性に係る評価(たたき台修正三次案)[PDF]14ページ 


「米国・カナダともに国内での暴露は1990年代から増加し、(97年8月)規制前に生まれた牛群で最大となり、その後に生まれた牛群では緩やかに減少したと考えられる。欧州のデータ(3年で半減)をもとにすれば、2004 年生まれの牛群では最盛期の約1/4」と答申案はしていますから、それに従うとカナダの規制97年の時点では 100万頭当たり20 ~ 24頭、2000年で100万頭当たり10 ~ 14頭となります。2003年5月の輸入禁止までに、97年以降に生まれた感染牛が50~60頭はカナダから米国に侵入したと考えられます。

 日本のBSE感染の大本の火元のBSE感染牛は英国・欧州から輸入した33頭の乳牛ですが、そのなかの感染牛は0.85頭から1.45頭、最もありうる数が1.14頭と見込まれています。(平成15年9月発行、農水省の牛海綿状脳症(BSE)に関する技術検討会 BSE疫学検討チームの「 牛海綿状脳症(BSE)の感染源及び感染経路の調査について」)

 つまり、米国はカナダからの感染牛、97年以降に生まれた感染牛だけで日本の40倍~50倍の侵入リスクを受けています。

 これを先ほどの式に入れると 日本5 ~ 6 頭× 約(10+40)倍÷20:飼育規模となり、日本の現在の2倍以上の感染率となります。97年以前に生まれた感染牛は、入っていませんから、これを考慮するともっと大きな倍率になります。

 これが正しいというのではありません。「リスクの差は極めて小さい」という評価は極めて杜撰な推論で導き出されていて、科学的論理的な説明がありません。横山委員が指摘されるようの『「リスクの差は極めて小さいと考えられる」との結論が得られたのかを説明する必要がある。』のです。答申案は恣意的に書かれていると思わざるを得ないのです。





山内委員、金子委員
の反対意見


山内委員は「同等とは見なしがたい。」

金子委員が言われるようの『「同等とはみなしがたい」には、「同等ではない+同等かどうか不明」の両者を含みますが、現時点では「同等かどうかは不明である」、のほうが適切な表現ではないかと考えます。今回初めて同等かどうかの判断を示す文言が出たわけですが、ここは今回の答申の核心ですから、大いに議論すべきところと思います。』

 冒頭の加藤駐米大使の発言のように日本政府、外務省や官邸筋は31日の専門部会で、アメリカの牛肉のリスクは非常に小さいとの結論をえて「11月中旬の小泉・ブッシュ会談で、牛肉輸入再開の結論をだす。」と米国側に伝えています。この政治的圧力下で、専門家の方々は大いに議論されたでしょうか、その結果は、これを読まれる時点ではでていますが、皆さんが納得できるもでしたでしょうか??政府は科学者に無理やり同等と言わせるのではなく、小泉首相の政治決断でお土産(輸入再開)は揃えれば良いのです。

 
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