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米国産子牛の骨付き肉で、米国産牛肉、再度輸入禁止 2006-04 [牛‐肉、乳、飼育]

畑の便り  №06-04 2006年1月24日小針店で印刷・配布の再録です。



子牛の骨付き肉で、米国産牛肉、再度輸入禁止、
これを機会にBSE対策の骨抜きを図る米国


 米国産牛肉が20日再び輸入禁止になりました。これを奇貨に米国は日本のBSE(狂牛病、牛海綿状脳症)対策の特定危険部位SRMの全頭での除去措置の緩和を策動しています。これを避けるためには、日本が遵守状況を「査察」した施設から、順次、輸入再開をすべきです。
BSEの感染源プリオンが蓄積しやすい脊柱や脳などの部位を特定危険部位SRMといいます。これをどれだけ食べれば蓄積したプリオンで人にBSE感染が起こるかは、科学的には不明です。それで国内では全頭から除去し焼却処分しています。国際基準のOIE規約でも日本が提唱して貿易する牛肉は、SRM除去が条件となっていますし、米国からの輸入条件としてSRM除去を義務付けています。

成田空港で、米国産子牛の骨付き肉で見つかるまで
想定外の火事で混じった??
SRM除去も目の上のたんこぶ
日本の「査察」に合格した施設から順次、輸入再開





成田空港で、米国産子牛の
骨付き肉で見つかるまで


 成田空港で米国産牛肉を20日午前に検査、「ロットごとに(10箱で1箱の割合で)箱を空けて調べていたが、問題の3箱はロット番号が異なるため全て調べていた。」そこに除去されているはずのSRM、脊柱(せきちゅう・背骨)が残存している子牛の骨付き肉が見つかったのです。日本シイベルヘグナー社がニューヨーク州にあるアトランティック・ヴィール(子牛)&ラム社から輸入したヴィール(子牛)の骨付き肉41箱(約390kg)のうちの3箱(約55kg)で、中心部に太く横に一直線に背骨と脊柱の残存が目視で確認できる状態でした。



 
 米国では国内向けの30ヵ月齢以下の牛では脊柱など特定危険部位SRMの除去をしなくてもOKです。この除去されていない米国内向けが日本向けに紛れ込んだ可能性、牛肉処理施設の訓練不足、検査官のチェックミスなど様々な原因が考えらます。

 ジョハンズ米農務長官は、担当の検査官、輸出元の処理施設が「日本向け牛肉から脊柱を除去する必要があることを認識していなかった」ためとしています。長官の見解なら、残りの38箱分も目視でも残存しているはずですが、そうではありませんでした。読売新聞は社説で「米国では、食肉処理に当たる作業員の技術が一定せず、危険部位の除去が完全に行われるかなどについて、疑問視する声が根強かった。今回、その懸念が当たった形だ。」と指摘しています。しかし、今回の食肉会社は総従業員180人程度です。事務員などを除けば食肉処理作業員はもっと限られますから、ロット番号が違う3箱全てから目視で見つかるくらい技量が低いのなら38箱からも見つかるはずです。

 輸出処理元の会社の輸出許可は1月6日に、Fabricatorでおりています。これは、枝肉から部位別にロースとかモモとかの部分肉を切り分け包装する作業です。と畜、解体の工程は、Slaughtererといわれます。米国ではこの二つの工程を同じ施設が行うことが主流です。日本では別で、と畜、解体しをSRM除去し枝肉にするまでは、と畜場。食肉会社は、枝肉を仕入れて部分肉に切り分けパックして販売しています。食肉会社は残った脊柱のSRM除去をします。

 今回の子牛肉では、輸出元は日本の食肉会社と同じで枝肉を仕入れてきます。米国では国内向けの30ヵ月齢以下の牛ではSRM除去されていません。牛肉大国・米国でも、ヴィール(子牛)の生産農家は約900軒、子牛肉の処理・加工を行うパッカーが20社。SRM除去など輸出プログラムを実施し許可を得てヴィール(子牛)の除去枝肉を供給できると畜業者は、許可リストではGolden Veal Corporation(オハイオ州)です。この輸出許可も1月6日付けです。

また輸入元の日本シイベルヘグナー社は、スイスの機械時計や精密計測器などを扱うスイス系資本の商社で、食品も扱っていますが、HPを見る限り食肉部門はありません。今回もサンプルでの輸入です。その試しの輸入を、6日に輸出許可が下りたばかりのアトランティック・ヴィール&ラム社に発注し、アトランティック社はこれまた許可を得たばかりのゴールデン・ヴィール社からSRM除去の子牛枝肉を調達して、20日成田着で輸出したのです。一見、眉唾にみえますが、垂直統合インテグレートといい、事前に話をすすめ統合する形は畜産の世界では良くあることなのです。

 日本シイベルヘグナー社はMore Than Gourmet社と共同で第31回国際食品・飲料展(FOODEX JAPAN 2006)(2006年3月14~17日)に参加を予定しておりリストでは、会場が「フードサービス向け」、出展製品に「仔牛肉、フォンドヴォー」です。フォン・ド・ヴォーは、一般的に仔牛の肉や骨、野菜、トマトなどを原料として、時間をかけて煮込んで作られるフランス料理には欠かせない仔牛の出し汁です。骨付き肉を輸入したわけですね。

 More Than Gourmet社は、1983年に米国で設立されたフランス料理の食材(業務用)を扱う会社です。日本シイベルヘグナー社はMore Than Gourmet社の日本代理店という関係です。More Than Gourmet社と今回の出荷元Atlantic Veal & Lamb社は、2004年8月から共同でヴィール(子牛)肉の高級ブランドの製造、販売を行っています。サンプル出荷は今回の出荷元Atlantic Veal & Lambの担当。More Than Gourmet社を軸につながっていたのです。





想定外の火事で混じった??


 この垂直統合にひびが入ったのは現地時間12日の朝。ゴールデン・ヴィール社が火事になったのです。現在休業中で、20日付の許可リストから削られていますから復旧の目処がないのです。SRM除去の子牛枝肉の供給が止まりました。火事までに作られたSRM除去の子牛枝肉を処理した物が38箱。これで不足だったからなのか余り物を押し込んだのか、単に取り違えたのか、その理由は分かりませんがあと3箱、手近にあった米国内向けのSRMが除去されていない枝肉からの骨付き肉、目視でも残存が分かる物を加えたのです。アトランティック社では従業員も駐在する検査官も何の注意も払わなかったのです。テレビのニュースでは、インタヴューに作業員が、除去について「そんなことは何も上司から聞かされてないよ。あんた(記者)に聞いて初めて知ったよ」と言ってました。つまり38箱もSRM除去の子牛枝肉をつかっため目視ではわかりませんが、小分け作業(fablication)過程での脊柱除去はされていません。

 米国では国内向けの30ヵ月齢以下の牛では特定危険部位SRMの除去は義務ではありません。しかし日本、メキシコ、カナダなど輸出向けには除去が必要です。米国の牛肉市場には2種類の枝肉、肉が混在しています。同じ施設で混在していれば、取り違い見間違いで今回のような事が起きるのは火を見るより明らかです。単純なだけに根絶が難しいミスです。

 


 





SRM除去も目の上のたんこぶ


 それでは、米国内向けもふくめ全部、全頭SRM除去してはどうでしょうか。畜産業界は費用増大を理由に反対しています。米国政府は30ヶ月齢以下では脳や脊髄、脊柱などは食べて安全、特定危険部位SRMに指定しない、神経質な顧客、日本などの要求で除去しているだけ。今回は約束を守れなくて御免なさいと言っています。この立場では、必要がないのに米国内の牛肉価格上昇につながる全頭除去は出来ません。

 輸出する施設にはSRM除去の枝肉、牛肉しか扱わせないというのはどうでしょうか。大手パッカーの処理施設では、既にカナダ、メキシコ輸出で、そうしていたところもあり、日本が「査察」したのはそうした11施設です。しかし、そうすると以前のような日米牛肉貿易はできません。

 米国でBSE発生前は、米国の牛肉総生産量の約10%が輸出され、日本は約4.5%でした。しかし、部位別には日本はヒレの約3.9%、肩ロースは約17%、牛丼のショートプレートというわき腹のバラ肉では62%、牛タン(舌)で69%です。以前のような牛肉貿易をするには事実上全頭でSRM除去が必要で、これは米国では不可です。

 国際基準のOIE規約に貿易する牛肉に関して日本が提唱して二つの条項が昨年加えられました。「と畜前後の検分」と「SRM除去」です。米国の国内規制では、どちらも一部しか行われていませんから、米国にとっては目の上のたんこぶです。米国は「と畜前後の検分」は20ヶ月齢以下という条件が付きましたが有名無実化しました。のこるは、「SRM除去」の無効化です。

 その機会を虎視眈々と狙っていたところに起きたのが今回の件です。出荷元は「生後4ヵ月半(18週齢)以下の子牛と推定される」としています。自分のところでと畜、解体していないし、と畜元が火事で記録もなくなっているから推測estimateでしかありませんが、ヴィール(子牛)は18週から20週齢まで人工乳肥育の牛、長くて9ヶ月齢ですから概ねこんな月齢でしょう。

 これまでの研究から、BSE発症は濃厚汚染・感染を受けた場合でも13ヶ月齢と推定されていますから、この生後4ヵ月半(18週齢)では誕生直後に感染していても、SRMにプリオンの蓄積はほとんどなかった、安全と考えられます。

 しかし米国食肉業界は、この子牛肉は安全から30ヶ月齢以下のSRM付きも安全に話を拡大。100万頭・肉9万トンのヴィール(子牛)から930万トン・2200万頭の30ヶ月齢以下まで話を広げて安全を誇張し、日本の対応を非難しています。米農務長官は、「米国の規制の下では(30ヶ月以下の牛のものだから)日本に輸出された背骨あるいは脊柱は(BSE感染を起こす)特定危険部位ではありません。」これでは安全なものを何故日本人は受け入れないのか、米国民は理解できないでしょう。

 「日本政府は、アメリカの牛肉を、世界で一番安全なものとしている・・科学的標準(30ヶ月齢以下は脳や脊髄なども安全、除去は不要)を受け入れる用意があるかどうかの決断をする必要がある。もし、日本政府が、更なるアメリカ牛肉輸入禁止措置を続けるのであれば、経済制裁に向けての働く用意がある。(Musgrave下院議員)」

 これを日本政府が認めるのなら、OIE規約の貿易牛肉は30ヶ月齢以下でSRM除去された骨なし肉という条項は名存実亡。日本国内規制にも跳ね返って、SRM付きの国産牛肉が出回るでしょう。





日本の「査察」に合格した
施設から順次、輸入再開


そもそもは作業員、検査官が輸出条件・プログラムを理解していない施設に、米国農務省が輸出許可を与えたことです。米農務省は全米の検査官の再研修や施設の追加検査などを言っていますが、1ヶ月後に再研修・検査をしなければならないほど、杜撰な輸出許可交付なのです。

 日本の農水省や厚労省は年末に米国の施設査察を行っています。しかし今回のように「査察」を受けていない施設からの輸出も受け入れています。両省は、日本の査察は輸出許可を与えるものではなく確認に過ぎない、輸出入の一般ルール上、条件順守の責任を持つのは輸出国で、日本が直接米国の許認可は出来ない、受け入れ拒否はできないと説明しています。日本からの米国に輸出する牛肉の処理施設は厚生労働省が認定しています。輸出入のルールは同じですが、米国は日本任せにはしません。輸出開始前に米国係官による厳しい「査察」を行っています。

 日本も同様にして再研修や施設の追加検査などの「査察」をし査察を終了した施設から順次、輸入再開すれば良いのです。成文化されたルール上は権限はないにもかかわらず、米国は運用上、実質的に行使しています。日本も同じ状況を作り出せばよいのではないでしょうか。

 本当に大事なのは、新たなBSE感染を予防する飼料規制の強化と、それを検証するサーベイランスの強化です。安全委も答申で農水省などに対米交渉を求めています。新たなBSE感染がなくなれば、日本人だけでなく米国人もより安全・安心な米国産牛肉を食べれるのですから何の遠慮がいるのでしょう。即効性はないで、その間は査察強化で乗り切ってはどうでしょうか。 


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