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米国産牛肉、検査・査察強化だけでなく、条件全体の見直しを 2006-05 [牛‐肉、乳、飼育]

畑の便り  №06-05 2006年1月31日小針店で印刷・配布の再録です。



米国産牛肉、
検査・査察強化だけでなく、
条件全体の見直しを


 23日、カナダで4頭目のBSE陽性牛が発見されました。約6歳の2000年前後の生まれた牛です。カナダもアメリカも97年7月から現行の飼料規制、肉骨粉などは牛に与えない規制を行っています。規制から2年以上経ってから生まれた牛です。カナダ当局は感染源は規制以前に製造された肉骨粉入りの飼料が疑わしいとしていますが、2年以上も前に製造された飼料を食べる可能性は??


カナダそして米国の飼料規制は、新たなBSE感染・発生を防いでいないのです。日本の食品安全委員会は、この2000年にカナダでは100万頭当たり10~12頭が新たにBSE感染と推計しています。今回、BSEの症候が進んだためにと殺され検査された牛は、その中の1頭でしょう。米国はこの当時カナダから毎年100万頭余りの牛、生きた牛を輸入していました。その牛の中にも、当然BSE感染牛がいたはずです。その大半は、と畜され肉骨粉にされているでしょう。それで、どれ位のBSEが米国で発生しているのでしょうか?

日本のBSEは、感染牛1~2頭分のプリオンが原因と見られています。日本は96年から牛への給餌は行政指導で禁止していましたが、ご存知のようにBSE感染が起きています。米国・カナダの飼料規制は当時の日本と同じです。23日の4頭目でも分かるように新たな感染を防げない。ところが、食品安全委員会はカナダから米国へ輸出された牛、肉骨粉などによる米国へのプリオン侵入は、「米国の汚染に影響を与えたとは考えにくい」。この脳天気な判断をもとに、脊柱など特定危険部位SRMを除去するなどの輸出条件を守られた牛肉は安全という結論を出しています。

20日の米国産背骨付き肉事件は、その輸出条件でさえ、米国は守らない、守れないということです。この件が26日の国会で論議されましたが、その内容は「目くそ、鼻くそを笑う」でした。

台湾、韓国の再開条件では、骨付き肉、背骨付だけでなく骨付き肉全部が禁止品目です。国際基準のOIE規約どおりに輸入するのは骨なし肉、脱骨・除骨された肉だけです。日本の輸入再開条件が、このOIE規約をないがしろにした条件だったため今回骨付き肉が輸入されようとしました。国会での野党の議論はこの点を突いていません。

もっとも野党の対策法2法案もその点は同じ。OIE規約を最低限として日本独自の上乗せ規制を盛るものではなくOIE規約を事実上無視しています。仮に現野党が政権を獲っていたとしても、今回の事件は防げなかった。野党の対策もSRM除去などを守らせる方策の強化、「今後は日本の査察を受けた施設に限って輸入を再開する」という24日の自民党の動植物検疫・消費安全小委員会と同じ方向での対策しかでてこないでしょう。


政局的にはどうなるかは知りませんが、このままでは野党の追求は竜頭蛇尾、お釈迦様(自民党)の掌のなかの孫悟空。

1月6日に輸出許可を得た業者が20日の1回目には違反発覚。業者も許可を出した米農務省にも再開条件を遵守する気もなければ、守らせる気がないか、その能力がないのは明白です。また、SRM除去をしていない米国国内向けと輸出用の除去済みが混在している中では、ケアレスミスでも同様のことが起きるでしょう。SRM除去が不完全でも牛が健康であれば何の問題もありません。結局、牛のBSE感染を防いでいく対策を米国に採らせることが肝心です。


日本側が背骨付き肉を注文??
写真には脊髄まで残っている
日本と韓国・台湾の違いは
野党も与党も同じ枠組み、輸入条件の枠組み全体の見直しを





日本側が背骨付き肉を注文??


 日本シイベルヘグナー社がニューヨーク州にあるアトランティック・ヴィール(子牛)&ラム社から輸入したヴィール(子牛)の骨付き肉41箱(約390kg)のうちの3箱(約55kg)です。アトランティック社が、グループ会社のゴールデン・ヴィール社(オハイオ州)から子牛の部分ブロック肉を仕入れて、皮下脂肪や筋など除いて整形加工した骨付き肉です。日本シイベルヘグナー社は、フランス料理でよく使われる子牛肉やフォン・ド・ボーを新たに商うために輸入したものです。フォン・ド・ボー自体は牛肉加工品で輸入できませんから、原料の骨付き子牛肉が必要となります。シーファー駐日米大使によれば米国捜査当局の調べでは、日本シイベルヘグナー社は背骨付きの子牛肉や羊肉を意味する「ホテル・ラック(Hotel Rack)」と呼ばれる注文書で発注しました。現時点で輸入側と輸出側が単に規制を無視しただけなのか、あるいは意図的なもの(犯罪)なのかは不明と大使は述べています。(日本経済新聞1月27日)




 成田に到着したのは、ロイントリムドとホテル・ラック7本リブです。ロイントリムドはロイン、つまりロースやサーロインの部位で皮下脂肪除去などの整形(トリム)された骨付き固まり肉です。ホテル・ラックは、背骨つきで「仔牛のローストにはホテルラックのリブ7本入りが最も高級メニューになる。米国の大体の規格で約5キロぐらいのブロックになるので、一枚づつのメニューにするか、パーティー専用メニューにするか、あるいはブロックのまま客席に持っていって、その場でカービング(切り分け)をする」のだそうです。



 




 


写真には脊髄まで残っている


 肉にはその中を通る末梢神経を除けば病原体プリオンが蓄積するところはありません。骨自体にもプリオンは蓄積しません。危険性が高いのは脳や脊髄などプリオンが多くたまる部位、特定危険部位SRMです。SRMをそのまま食べることを除けば、食肉で問題となるのは、Tボーンステーキやリブ肉など、切り取られた牛肉の一部に脊柱が付いた状態で食べられること、ひき肉の原料にSRMが混じること、解体、食肉への切り分けの際のSRM汚染です。

 背骨も骨は問題ありません。その中にある脊髄や脊柱「背根神経節(はいこんしんけいせつ)」が危ない部位SRMです。背根神経節は背骨の中を通過するせき髄から分枝した神経が、背骨から出る前につくる膨らみをいいます。脊髄は、牛を背骨で二分して枝肉にする際にと畜場で取り除けます。その時に脊髄で肉が汚染されないかが問題です。

 背骨は枝肉を支える役割がありますが中に脊柱(背根神経節)が残っています。背根神経節は1頭あたり32対、64個もあり、と畜場で注意深く除去を試みても6~8割程度しか除去できませんでした。したがって、食肉加工場など、枝肉から食肉を分離する場所で、脊骨を除去する除骨の作業時に取るしかありません。除かれる背骨に含まれるように切り離すことと、間違って神経節を切断し食肉を汚染しないよう分離します。背骨ぎりぎりで肉をとろうとすると背骨から引き出されて食肉に含まれたり、切断しますから、カナダは1インチ離れた所、その分背骨に肉を残して切るよう指導しています。





 米国では今回のような30ヶ月齢以下の牛では脊髄も脊柱「背根神経節」は除きません。輸出用牛肉で必要となりますが、普段の国内向けはしていません。ゴールデン・ヴィール社は、と畜し枝肉にして部分ブロック肉にするまで、脊髄の除去と脊柱「背根神経節」除去は、これまでやったことがありません。今回が初めて。1月6日に輸出許可を得ていますから、作業員、検査員は輸出向けには除去が必要なこととその方法技能の習得が必要です。しかし農務省の検査員すらそのことを知りませんでした。

 したがって、と畜、枝肉にする際に脊髄が除去されていません。枝肉は細菌汚染予防のために2回は洗浄することになっていますから、その際に流れ出して肉を汚染します。今回の違反の肉の写真が公開されています。箱の中に肉がある写真では、上にある肉の椎間板の白い板が挟まっている背骨、その下の脊柱管に白いひも状の脊髄がはっきりと、箱の外に肉が置かれた写真では、脊柱管には痕跡状態で残っています。






 枝肉から部分ブロック肉を切り出し過程での背骨を外す際に脊柱「背根神経節」除去をしていません。今回の背骨がないロイントリムドでも、背骨を外す際に脊柱「背根神経節」除去、1インチ分背骨に肉を残す不経済な事はしていません。当然、食肉側に背根神経節が残っていたり、不適切な切断で汚染されたと考えられます。そしてそれは、成田空港での検疫の目視検査では見つかっていません。わずか数ミリ、1gに満たない神経の球の背根神経節、固まり肉の表面にでていなければ分かりません。破壊による肉の汚染は目でわかる物でしょうか??
ところが、同じように汚染されている可能性のある米国産部分牛肉570トンあまりを、輸入業者が目視点検して安全を確認することを1月23日に厚労省は求めています。プロの検疫官でさえ出来ないことを輸入業者が出来ると思っているのでしょうか?回収・廃棄・米国に返品しかないでしょう。





日本と韓国・台湾の違いは


 OIE規約では骨なし肉、脱骨・除骨され①30ヶ月齢以下②と畜前と後に検分を受けている③定められたと殺方法で④特定危険部位(SRM)を汚染を起こさない方法で除去されている牛肉は、輸出国のBSE発生状況や飼料規制などと無関係に貿易できる品目です。骨付き肉は、内臓、ひき肉などと同じく、輸出国のBSE発生状況や飼料規制などのBSEステータスで交易条件が変わる品目です。

 米国は昨年、自国で生まれた牛でBSEが検出されていますから、最低(BSEリスク不明国)か中間(リスク管理国)です。中間と証明できなければ、最低評価です。そうなると骨付き肉などは、どれだけいるかも分からない感染牛を排除するために一頭一頭の牛ごとに「肉骨粉と獣脂かすを食べなかった」「BSEと疑われないか、確認されない」などを輸出国が証明した牛で、SRMが汚染が起きない方法で除去されていなければなりません。事実上不可能です。中間評価なら骨なし肉と同じ条件です。

 米国は自国が中間(リスク管理国)との自己証明をまだ出していません。韓国、台湾は輸入禁止にしました。最低と表立って評価せずに米国のメンツを立て、かつ自国民を守る実を取ったのです。焼肉の国・韓国では、BSE発生で輸入を禁止する前、韓国が輸入していた米国産牛肉の57%が骨付き肉でしたから、再開を望む声が大きかったのですが禁止しているのです。日本は、小泉政府は逆です。米国に頼まれもしないのに骨なし肉と同じ条件、つまり中間(リスク管理国)待遇と大甘です。その結果、骨付き肉の輸入が試みられたのです。





野党も与党も同じ枠組み、輸入条件の枠組み全体の見直しを


野党のBSE対策も、この点は小泉政府と変わりません。野党は昨年10月にBSE対策2法案を発表しています。一つは、問題が起きたときに回収を容易にするために輸入牛肉にトレサビリテーを課すものですから、無関係です。もう一つの輸出国についてBSEの発生するおそれの程度を評価して輸入条件を決める事が、野党の安全確保策です。それは、BSE発生国とBSE発生のおそれが相当程度ある国を指定し、指定された国からの牛肉などには①国産牛と同等の検査(現在、21ヶ月齢以上の牛はBSE検査)②特定危険部位SRMの除去が行われた証明を求めることとなっています。つまり、BSE発生国のカナダ・米国の輸入条件は現在の小泉政府と変わりません。野党案どおりに法律が改正されていても今回の事態は予防できません。この枠組みでは、検査、査察強化ぐらいしか対応策がありません。

輸入条件の枠組み全体の見直しを


検査や査察強化策で背骨が混じることはなくなるかもしれませんが、背根神経節の確実な除去は??でかつ検疫で点検できるとは思えません。SRMの確実な除去を「前提」としなければ、飼料規制で牛のBSE感染を防ぐことが肝要です。台湾は、米国牛肉の安全性を確保するために、米国のBSEステータスについて米国当局とコミュニケーションを継続するそうです。ステータス評価には飼料規制が重要項目ですから、それが議題となり、改善が話し合いが期待できます。日米の貿易条件の見直し条項を発動し、輸入は骨なし肉だけに限り、骨付き肉、内蔵肉は米国のBSEステータスで合意が得られるまで貿易凍結。当分は、査察検査強化でしのぎ、ステータスをめぐる交渉の中で、内蔵肉などの輸入という人参をぶら下げて、牛のBSE感染を防いでいく飼料対策を米国に求めていくのはどうでしょうか??


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