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酢-4  ミクロフローラ 醸造の小生態系 [調味料ー酢、料理酒、味醂]

アルコール発酵・醸造では、微生物らどのように推移するでしょうか? 
醸造でできるアルコールつまりエタノールは、細胞の境界になる細胞膜を傷つけます。
エタノールに入り込まれた細胞膜は軟らかくなります。軟らかくなった膜からは、細胞に大切な栄養分が漏れ出します。さらに、タンパク質を凝固させるアルコールの作用はタンパク質の立体構造を壊し、それが酵素なら失活します。細胞外から栄養素を入れるための介添え役の蛋白質が失活すれば、細胞外から栄養素が入らなくなります。エタノールによる栄養素の漏出・移入阻害で、飢餓状態となり細胞の増殖が抑制、つまり単細胞生物の酵母や菌類は静菌状態になります。そのアルコール濃度は4~8%です。濃度が65~75%と高いと細胞膜が壊れて死んでしまいます。

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健気な清酒酵母

清酒(日本酒)は、エタノール濃度が16~20%と高濃度です。醪(もろみ)糖度に30~40%が必要になりますが、エタノールをつくる酵母はそれ程の高糖度に耐えられません。清酒では醪(もろみ)で発酵と糖化が同時に進行します。そのため、発酵中にも次々に糖分が供給され、次々にアルコールが生成されます。発酵は7~20℃と比較的低温でゆっくりと進み、清酒のさまざまな香りを生み出します。

清酒もろみでの醗酵初期には酵母はアルコール発酵のエネルギーで盛んに倍倍に増殖します。やがてアルコール濃度が8~10%を超えると出芽して増殖することができなくなります。普通の酵母ですと、この増殖が止まる定常期にはいると、エタノールや温度変化などストレスへの耐性遺伝子が働き出します。ガードマン役の蛋白質を合成します。また傷害を受けたタンパク質を復元をたすける修繕係りの蛋白質を合成します。エタノールで細胞膜が柔らかくのが原因ですから、細胞膜を堅固にする形が直線的な飽和脂肪酸を増やします。このように厚い細胞膜を持った細胞に休止期の細胞に徐々に変っていきます。そして、アルコール発酵は15%まで進むと普通の酵母は、休止します。


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清酒酵母は全国の酒蔵で自然育種された「蔵付き酵母」から見出された、特に醸造特性にすぐれた菌株で、20%のエタノールに耐える「なにか特別なパワーを秘めているに違いない」といわれてきました。しかし、15%を超えると犠牲者(死ぬ細胞)も出ます。調べると、ストレス対応遺伝子が不活性になっているのです。つまり、アップアップしながら生きんがためには糖を分解して、エタノールと二酸化炭素にして生存に必要なエネルギーを得ています。20%がほぼ限界で、そのままでは清酒酵母は自身も死滅してしまいます。そうなると味が悪くなるので、その前に絞って低温殺菌して、出荷です。  詳しく

麦芽から麦汁、ミクロフローラ

ビールやウイスキーでは、糖化を麦芽の酵素で行います。麦を水に漬け適温に保ちます。麦は発芽に必要なエネルギーを貯蔵でん粉を糖化して得るために、糖化酵素を作ります。芽が出た麦(麦芽)を乾燥して発芽を止め、砕いて温水を加え酵素で糖化を進め、糖度が12%程度の麦汁をつくります。



ビールは麦汁を濾過して麦の皮などを除き、ホップを入れて煮沸消毒します。雑菌を殺し、雑菌の繁殖を抑えるホップの成分を加えます。その麦汁にビール酵母を入れて、発酵開始。7~8日間でアルコール分は4~8%になります。糖分の85%ほどがエタノールに変り、その作用で酵母の増殖は止まっています。この濃度は、私たちが静菌での使用濃度です。アルコール耐性の強い菌以外は繁殖できません。貯蔵タンクに移し残った酵母が後発酵をして、溶存炭酸ガスを増えたり、風味成分ができます。約一月でデキストリン(酵素によって分解しきれなかった細かなでん粉破片)とタンパク質などビールのコクに関係する成分がのこります。酵母の食べ物が無くなると、酵母が自己消化を起こし、酵母細胞内の内容物がビール中に溶け出してしまうので、この時点で濾過して出荷です。


麦汁 ここからお借りしました


ウイスキーは、麦汁を煮沸しないで酵母を入れます。糖化の酵素が働き続けるので、酵母はビールより多くのエタノールを作ります。ウイスキーのアルコール濃度は、6~9%になります。また煮沸消毒されないので、乳酸菌など様々な微生物が共存、競合する複雑な発酵系になります。発酵初期から乳酸菌が活躍すると、酵母のアルコール生成が抑えられ度数が低くなります。


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また「酵母が役割を終えると、ミクロフローラと呼ばれる乳酸菌群などが働いて、酵母が使い切れなかった糖分を消費し、さらに香味の厚みを増します。さまざまな種類のウイスキー酵母の使い分けに加え、土地によるミクロフローラの違いが、蒸溜所ごとに個性のあるウイスキーを生み出します。」 出典



ワイン、二次発酵

ブドウは果糖分が多く糖化工程はなしです。「ワインは他の酒と異なり、ぶどう果などに付着している自然の野生酵母により発酵が行われます。加熱のような工程がないため、発酵初期の果醪(もろみ)には多種類の酵母や微生物が含まれていますが、発酵が進むと糖分や酸、アルコールの影響でワインづくりに必要な酵母のみが増殖して純粋培養に近い状態となります。酵母の種類や発酵させる温度、生成成分は、ぶどうの種類によっても異なりますが、おおむね10~12℃で発酵し、10~12%のアルコール分を生み出します。」 出典

この高いエタノール濃度に耐えられる乳酸菌がワインのリンゴ酸を乳酸と炭酸ガスに分解するマロラクティック発酵・MLFを起こすと、酸っぱい高酸度のリンゴ酸がまろやかな酸味の乳酸に置き換かわり酸味が和らぎます。

アルコール発酵が終了しきっていないワインを、糖分を残して瓶詰めすると、瓶の中でアルコール発酵が再び始まり、発生する炭酸ガスが含まれた発泡性ワインになります。シャンパンなどは、出来たワインに糖分を加え10~12%のアルコールにも耐える酵母(シャンパン酵母)を入れて二次発酵させます。

また、大気つまり酸素が十分にあると水を弾く疎水性の膜を作る産膜酵母が繁殖して独特の香りをつけワインを駄目にすることがあります。これを逆手にとって、アルコール発酵で13.5%以上になっても平気な産膜酵母を繁殖させ、独特の香り、味わいをつけたワインが造られています。スペインのシェリー酒です。シェリー酵母でフロール(花)と呼ばれる白い膜をつくります。

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ミクロフローラの乳酸菌、シャンパン酵母、シェリー酵母はアルコール耐性をもち糖分や果汁成分をエネルギー源にしています。エタノールに耐えるだけでなく、エタノールを食べ物する微生物たちはいないのでしょうか?そういう食物連鎖・生態系は?酸素のない嫌気環境では、エタノールからメタンガスをつくる共生系が知られています。酸素が豊富にある好気環境では、なんと言っても酢酸をつくる酢酸菌です。

紀元前2~3000年のバビロニアのことわざに、「酸っぱくなったビールは、台所へとさまよっていく。」というものがあります。このような失敗したお酒ではなく、様々な風味をもったお酢がつくられています。シェリー酒は、シェリー酵母でフロールができる代わりに、酢酸菌で膜をでかせ、お酢・シェリービネガーができてます。

お酒の数だけ酢があります。お酒の醸造でできるアルコール・エタノール以外のエステル類や脂肪酸などのつくる栄養分や風味をもった、さらに酢酸菌が作るそれらで特徴付けれる酢があります。

その一方、アルコールを蒸留しエステル類や脂肪酸などをほとんど除いた上で酢酸発酵させた酢もあります。ホワイトビネガーという酸度は5%程度と通常のお酢よりは高い無色活明でどちらかというと酸味だけを感じるお酢で、欧米で広く用いられています。

フレーバービネガーというお酢(主にホワイトビネガー、アップルビネガー)に、スパイスやハーブ、果実(又は果汁)を加えて、風味を加えたお酢もあります。アップル(果実又は果汁)やタイム・エシャレット・カシス・マスカット・唐辛子・トリュフ・など様々な種類が使われています。

食の欲望は奥深い。

酢酸菌は変異・変化を起こしやすい菌で、同じ品質を保つのに工夫が要るのです。

続く


フレーバービネガー こちらから拝借


追記

このように日本酒のエタノール濃度はかなり高く、これをそのまま出荷したものを原酒です。
水で薄め通常のエタノール濃度にしたものが純米酒です。
別の安価な原料から作られたエタノールを少量(原料に用いる白米の総重量10%未満)加えてから水で薄めて規定濃度にしたものが、本醸造酒で約3/4が原酒です。
エタノールを大量に加えて水で三倍に薄めて、味を補うブドウ糖や酸味料、アミノ酸などくわえ調味したのが、三倍酒、三増酒(三倍増醸酒)です。


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