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希少な国産はまぐり ハマグリを通して見る海と食の未来(下) [有機農業/食物にする生命との付き合い方]

畑の便り  №06-13 2005年4月28日小針店で印刷・配布したものに加筆

  日本では、国内のハマグリ資源がほとんど底をついているのに、スーパーでは大量のハマグリが売られています。そのほとんどは、大陸(中国、北朝鮮、韓国)から輸入されたシナハマグリやシナハマグリを蓄養(一定期間、いけすや干潟などで蓄え飼育すること)したり、放流していたものです。シナハマグリの小売価格は、地ハマグリ(国産のハマグリ・チョウセンハマグリ)の半値以下。
アジアの浅瀬と干潟を守る会の山本茂雄さんによれば(2005年3月のハマグリ調査のよびかけより)http://www.isemikawa.net/contents_b/archives/2005_3_2_42.html

店頭に並ぶ輸入ハマグリ類は、限りなく100%に近い精度でシナハマグリです。

中国自身の自国の消費が多くなったことと、日本に倣って埋立やダム建設を急ピッチで行った結果、輸出余力はきわめて小さくなり、現地で蓄養をしていない中国産を見つけることも、むずかしい時代になりました。エビ池での蓄養は、身が痩せてしまい、業界で言う「バクダン」が多く混ざってしまう消費者泣かせ・業者泣かせの粗悪品を産出してしまいます。これを使わない限り現在のような価格帯で需要を満たすことはできません。
しかも、主要な流通経路を記せば、

北朝鮮南甫(ナムポ)→中国蓄養池→大分県沿岸(直播放流の場合)→*→量販店
          ↓
          全国各地の旧産地問屋→*→ 量販店

 北朝鮮南甫は、東アジア唯一の輸出余力のある産地です。かつては*市場関係が関わって、まさにここにプロの目が光っていました。現在では市場外流通とか、”中抜き”と言って、商品知識の乏しい方々が一人で他品目の商品を大量に取り扱っています。*には何も介在しないことが多くなりました。デフレを起こすほど低価格にはなりましたが、絶滅していないものまで販売しているのが現実です。

 おまけですが、昨年の夏名古屋市博物館で催されていた「名古屋の漁師町下ノ一色展」で展示してあったハマグリの貝殻はすべてシナハマグリでした。

 豊橋市自然史博物館の展示物もハマグリと表示してある展示物(貝殻)もシナハマグリです。この二つの例は企画担当者が違いをわかっていても、展示するための貝殻すらも調達できないほど資源(貝殻すらもないくらい個体数)が減少しているのが現実なのです。

 全84商品8都道府県(5日集計現在)
宮城・千葉・東京・神奈川・愛知・三重・熊本・福岡
「○」表示名ハマグリがハマグリ(国内種)だった商品・・・4
「△」ハマグリが若干混ざっていた商品・・・・・・・・・・1
「同定中」・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3
それ以外は、シナハマグリか外洋性のチョウセンハマグリ

hamaguri_mizu.jpg

今年は、北朝鮮産アサリの偽装がテレビ等で騒がれているので、スーパーの仕入れ担当者は大変苦労したと思います。ものめずらしいミスハマグリ(ベトナム産)や千葉県産?のチョウセンハマグリ(外洋に面した砂浜に生息)が店頭に並んでいたのと対照的に、おなじみの北朝鮮産中国エヒ養殖池蓄養品は発見できませんでした。必ずお隣に並んでいるアサリ・シジミも同時にチェックしました。さすがに愛知県です。1店舗を除いては、愛知県産のアサリがまじりっけなしで売られていました。こういうところで、干潟保全の成果を実感できるのです。矢作川河口堰を作らなかったこと、幡豆の里山を空港に売らなかったこと、六条潟を埋め立てなかったことがすべてこの結果を生んでいます。流通関係者の皆さんも干潟保全活動に積極的な参加を試みて、少なくなり続けた身近な海産物を呼び戻す担い手になってもらいたいと思います。

 

 糸島の加布里湾の干潟

干潟に腰まで入り込んで、はまぐりを採捕しています。漁は干潮の時間に限られますので、みなさん集中です。 ↑加布里のハマグリ

→選別機

糸島漁協

http://www.jf-net.ne.jp/foitoshima/sigenkanri.htm

干潟は4~5mの干満の差があり昔からアサリやハマグリの貝掘りが行われていました。ところが一時期はほとんど獲れなくなってしまいました。平成8年頃から多数の稚貝が見られるようになり、そこで漁協は貝資源管理規則を定め資源回復に取り組みました。漁場を3分割して2箇所を順周して使用し1地区は1年間休漁にする輪採方式で、採取サイズ(5.5cm以上)や漁獲量(1人1日10㌔)。漁期は11月から4月までで、漁協で造った"フルイ"にかけて選別し金網から落ちた小さい貝や捕獲制限以上は干潟に戻します。また、組合員は干潟に散らばるゴミやカキ等の貝殻の除去清掃を定期的に行い、稚貝の育つ環境を人為的に作る努力をしています。その甲斐あって、平成12年には見事な天然のハマグリが甦りました。年間生産量11㌧のこのハマグリを砂抜き洗浄冷凍したものを扱うことが出来ました。

浜口昌巳(瀬戸内海区水産研究所)さんの見解
―ハマグリはどんな増え方をするのか。
  夏(六―八月ごろ)に産卵し、三週間程度の浮遊幼生期(プランクトン時代)を持つ。この間に潮の流れに乗って湾や灘単位の海域を移動しながら成長し、やがて本来の住処(すみか)となる干潟に着底(砂に潜ってすみ着く)する。基本的にはアサリも同じだが、ハマグリの方が、移動分散能力が大きく、河口干潟への依存度も大きいのが特徴だ。

hamaguri_hubo.jpg
 ―生育にはどんな条件が必要か。
 浜口 着底しやすい場所は泥分が少なく、淡水の影響を受けやすい低塩分の細砂底、つまり、河口に近くて、サラサラした砂の多い干潟。河口から強力な干潟が出ているような場所だ。アサリはハマグリに比べ、泥分の多い干潟を好む。

 ―ハマグリ、チョウセンハマグリ、シナハマグリの違いは。
 浜口 ハマグリは内海型、チョウセンハマグリは外海型で日向灘や鹿島灘などで見られる。いずれも、もともと日本に生息。中国や韓国から輸入されるシナハマグリは、ハマグリと非常によく似ている。父母が浜の種はハマグリだ。

 ―父母が浜でハマグリが増えている原因は。
 浜口 海の水質がよくなっていることに加え、天然に近い河口干潟として浜が残っていたため、安住の地を求めてさまようハマグリの眼鏡にかなったこと。ちょうどよい河口干潟があっても、ハマグリは自力では移動できない。その浜に向かう潮の流れも重要になるだろう。

 ―父母が浜では、さまざまなサイズのハマグリが見られる。
 浜口 資源の再生産、浜への着底がうまくできている証拠だ。近くの海でハマグリを放流しているとのことだが、放流サイズより小さな貝も見られることから、影響はまずないと考えてよい。今後はどこで再生産し、どういうルートで浮遊してくるのか、稚貝がどこにどれだけ分布しているのかなど調査が必要だ。

 ―どのような視点が大切か。
 浜口 重要なのは、一つの浜だけで再生産が行われているのではなく、複数の浜が相互に補完し影響し合い、“幼生ネットワーク”を形成していることだ。父母が浜の状態が現状のまま保たれていても、幼生の供給地となる場所が失われれば、ネットワークが衰退し、新たに父母が浜に加入してくるハマグリの個体数が減っていく。父母が浜だけでなく、燧灘全体で現状をとらえ、見守っていく必要がある。

 ―今後、われわれはどう、父母が浜と向き合っていけばいいのか。
 浜口 あくまで自然体で、これまで通りでいいのではないか。強いて挙げれば、浜を汚さないこと、少なくとも現状を維持していくこと。資源を採り尽くさないことも大切だ。アサリは条件さえ整えば、爆発的に増えるが、ハマグリはほそぼそとしか増えない。瀬戸内海は数百年、数千年単位でさまざまな種がすみ分けてきたし、増減を繰り返しながら多様な生物をはぐくんできた。人間のエゴで環境を変えたり、特定の種を増やすのではなく、現在の海の状態にあった生物が自然に生きていけるよう、われわれ人間が場を整えてやることが大切だ。
 
2006年4月28日印刷・小針店で配布した畑の便り 
 

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