私と隣人、男と女の見ている「赤色」は違うらしい? [有機農業/食物にする生命との付き合い方]
№08-30 2008年7月小針店で印刷・配布した「畑の便り」の再録
人間は視覚でえる情報に頼っています。私たちは三原色、赤・青・緑を識別できます。昆虫や鳥、魚はより多くの色で区別しています。昆虫や鳥は紫外線を見ることのできるので,花々は驚くほどの彩りに溢れていて、空の色は目まぐるしく変化し続けて見えているでしょう。ヒトの視覚はひどくお粗末で、人間の視覚世界はとても狭い。
また、同じ人間同士でも、視覚でとらえた世界は微妙に異なります。赤色覚は、哺乳類では霊長類で発達した感覚ですが、この赤色感覚は他人と違う場合が多いのです。夫婦で我が子、赤ちゃんの顔を見ても夫と妻では色合いが微妙に異なる別の表情像で見ている可能性が8割、同じ表情像で捉えているのは2割程度。これが赤ちゃんへの対応の夫と妻の違いに直結するわけではありませんが、夫婦でも感覚世界は別なのです。
赤色覚がヒトの社会を創った
哺乳類、鳥類などの脊椎をもつ動物の色覚は、5億年前の共通祖先では、視物質・光を吸収し反応する感知物質が明暗のみを感知するロドプシンと残りの4つの視物質グループが波長別に光を認識して色覚としています。色覚は四原色性が基本なのです。
進化上ずっと昼行性動物であった多くの魚類、鳥類、ハ虫類はこの4つの視物質を失うことなく、四原色です。しかし、ハ虫類・恐竜全盛時代を哺乳類は夜行性動物として生き延びました。夜では色覚を失っても問題はないでしょう。むしろ余り役に立たない色感覚器を作り維持に栄養を費やすより、色覚を無くす方がより「適応」=「進化」というべきでしょう。ジュラ紀、白亜紀の夜行性時代に哺乳類は1色や2色性の色覚しか持たなくなってしまいました。
赤型 (M/LWS) |
緑型 (RH2) |
青型 (SWS2) |
紫外線型 (SWS1) |
桿体型 (RH1) | |
魚類 | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ |
両生類 | ○ | ? | ○ | ○ | ○ |
爬虫類 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
鳥類 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
哺乳類 | ○ | × | × | ○ | ○ |
高等霊長類 | ◎ (赤・緑) |
× | × | ○ (青) |
○ |
夜行性霊長類* | ○ | × | × | × | ○ |
恐竜がいなくなった後、約6400万年前、哺乳類は爆発的に放散進化を始めます。そのうち、森林に住み昼行性となった霊長類は、緑と赤を弁別するようになりました。三原色の色覚を手に入れました。森林は明るさが常にちらちらと変動し、緑陰のように環境光の波長がある色に偏っているような環境です。明度の変動に影響を受けない色度や波長が偏っていても色恒常性によって食物や敵を同定できる色覚は有用で威力があります。
この三原色、赤色の獲得で森林で熟し赤い果実や食べ易い赤い若芽を見つけ易くなったといわれています。しかし赤緑色覚異常が食物獲得の点で不利かといえば、迷彩や昆虫の擬態のような「色カモフラージュ」を見抜いて雑食のサルが昆虫など食物を得るには、赤緑色覚異常が有利だそうです。
また赤色覚の獲得で、表情によるコミュニケーション(顔色をうかがう)が発達したともいわれています。イヌなど他の哺乳類の顔は、強力な顎、非常に良く発達した嗅覚の大きな鼻腔、外に突出する耳が特徴で、目を閉じたり口を開いたりするための筋肉は表情を作るほど細かく発達していません。臭覚・匂いが重要で、また目も広い視界を確保できる側方視です。
サルで完璧になった前方立体視は、視界は減りますが他の個体の表情を立体的に細かく捉えられます。目を閉じたり口を開いたりするための筋肉を発達させ(表情筋)細かく動かし様々な表情をつくる能力とそれで感情や意思伝達をする能力は三原色を獲得したしたサルで発達しています。「真っ赤になって怒る」「頬を染める」「血の気が引く」といいますが、情動での血流の変化による顔の赤色は重要な表情情報です。赤色覚の獲得で、霊長類は細かな顔の表情による情動や意志のコミュニケーションとそれによる社会形成が可能なったといわれてます。
トリやハチの色受容体は複数で可視光領域全体をまんべんなく感知するのに対し,ヒトや旧世界ザルが持つ3種類の色受容体のうち2種類はいずれも波長約550nmあたりの赤色光を最も強く感じる。血中ヘモグロビン濃度の変化によって起きる肌の色の微妙な変化を感知できるのはこのためだと,カリフォルニア工科大学の神経生物学者たちは考えている。配偶者候補が健康な血色をしているか,敵が恐怖で青ざめているかなどを判別するのに役立つだろう。旧世界ザルの顔や尻に毛がなく,皮膚が露出していて血色がわかりやすいという事実が,この説を支持している。
Biology Lettres誌6月22号に掲載予定。NEWS SCAN 2006年7月号:日経サイエンス
錐体細胞 | 名称 | 症状 | 頻度 | ||
---|---|---|---|---|---|
青 | 緑 | 赤 | |||
○ | ○ | ○ | 正常色覚 | 症状はない | 多数派 |
○ | ○ | × | 第一色覚異常 | 緑~赤の色の見分けに問題が生じることがある | 男性20人に1人 女性500人に1人 |
○ | × | ○ | 第二色覚異常 | ||
× | ○ | ○ | 第三色覚異常 | 正常色覚とほとんど変わらない | 稀 |
× | × | ○ | 全色盲 | 色は識別できないが視力は良好 | 稀 |
× | ○ | × | |||
○ | × | × | 色が識別できず視力も低い | ||
× | × | × |
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