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生態系・・ハイブリッド生態系モデル note [有機農業/食物にする生命との付き合い方]

2013年6月16日、畑の便りの再録

 岩波書店の「科学」2013年3月号の「種間相互作用の多様性は自然のバランスを支えるかー複雑生態系のパラドクスとその解消ー」


近藤倫生氏(こんどうみちお・龍谷大学理学部)、舞木昭彦氏(もうぎあきひこ・龍谷大学理学部)の科学技術振興機構(JST)の 課題達成型基礎研究(平成20年9月~平成24年3月)の一般向けの論文である。研究成果は2012年7月20日(米国東部時間)発行の米国科学誌「Science」に掲載された。
<論文タイトル> “Diversity of interaction types and ecological community stability”
(種間関係の多様性と生物群集の安定性)

龍谷大学のリリース
ライフサイエンス 新着論文レビュー

以下、抜書き&補足

1970年代の初めまで、生態系は複雑であるからこそ長続きするのだと考えられてきた

Elton(チャールズ.S.エルトン)は、その(1958年刊行の)著書『The Ecology of Invasionas of Animals and Piants(邦題「侵略の生態学」)』のなかで、単純な農業生態系や、捕食者と非捕食者の2種のみを考慮した数理モデルでは害虫の大発生や個体数の周期変動が見られること、それとは対照的に、複雑な自然生態系で大規模な絶滅や大発生が生じないことを指摘した。そして、この振る舞いの差は、これら生態系の複雑さに起因すると推測した。また、MacArthur(ロバート・マッカーサー、Robert MacArthur)は、理論的な洞察を通じて食物網の複雑性と生態系の安定性を関連付けた。
・・
MacArthurは多くの種がたくさんの捕食-被食関係で結ばれた複雑な生態系ほど、植物と上位の生物を結ぶエネルギー・物質の経路が多くなるため、特定の経路が失われるようなかく乱に対する抵抗性が高くなると論じた。これらの議論はいずれも、多様な種がお互いにかかわり合う複雑な生態系は、単純な生態系よりも維持されやすくなることを予想している。
 
1970年代の初頭、生態系の複雑性と安定性をめぐる議論に大きな転機が訪れる。

Robert May(ロバート・メイ)の理論研究がそのきっかけだ。・・
生物の種数と相互作用するペアの数を増やしていくと、やがてある程度それが進んだところで生態系は不安定に変ってしまう。個体数の変動が大きくなり、元に戻りにくくなってしまうのである。このことは相互作用強度が小さく、結合度(相互作用の起こる確率)が低く、種数が少ない単純な生態系ほどに安定になりやすいということを意味しており、EltonやMacArthurの洞察ー生態系は複雑であるほど安定になりやすいーとは正反対である・・
 
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 Mayの研究は、私たちの経験と理論との間に大きなギャップがあることを明らかにした。私たちは、自然生態系には驚くほど多くの生物が互いに密接にかかわり合いながら共存していることを「知って」いる。しかし理論研究は複雑な生態系の維持を不可能だと予測しているのだ。

「(注2)数理モデル
直接的な実験や観察が困難なときには、しばしば模型が利用されます。例えば、車の安全性能を調べる衝突実験には、本当の人間ではなくて、人間の特徴を備えた「衝突実験用模型」を利用するのが普通です。自然科学の研究においても、研究対象とする現象や系の注目する特徴を抽出し、そのような特徴を備えた数学的な模型を使って研究を進めることが可能です。このような数学を利用した模型のことを数理モデルと呼びます。本研究では、たくさんの生物種が互いに助け合ったり、食べたり、食べられたりすることで個体数を変動させる様子をとらえた数理モデルを利用しています。」龍谷大学のリリース

May以降の複雑性ー安定性研究はさまざまな相互作用のなかでも、主として捕食-被食関係に着目することで進められてきた。だが現実の生態系には、捕食-被食関係の他にも、相手に必要なサービスを提供しあうことでお互いの増殖を助け合う相利関係や、資源や生息場所をめぐって争うことでお互いに増殖を邪魔し合う競争関係など、多様なタイプの関係が存在する。

 「(注3)相利的な関係
 生物は互いに関わり合い、影響を及ぼし合いつつ生活しています。そのような関係のなかでも、互いの増殖を支え合うような二種間の関係のことを相利関係と呼びます。イソギンチャクとそこに共生するクマノミの関係、植物とそこから蜜などの資源をもらう見返りとして花粉をほかの花に届ける手伝いをする動物(昆虫や鳥など)の関係、植物とその果実を食べつつ同時に種子を遠くに運ぶ役割を果たす動物の間の関係などはみな相利関係ということができます。」龍谷大学のリリース

「 (注4)生態系サービス
生物と物理・化学的環境が相互に関係して作り上げているシステムを生態系と呼びます。生態系は私たち人類に多大な利益・サービスを提供しており、これを生態系サービスと呼びます。例えば、食料や燃料、木材などの提供、水の浄化や気候の調節、宗教や文化的生活の基盤の提供、酸素の生産や土壌の形成などはみな生態系サービスの一種です。生物多様性はこの生態系サービスの基盤であり、生物多様性が失われることで生態系サービスの劣化が生じることが知られています。」龍谷大学のリリース
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 現実には生物の個体数はさまざまなタイプの相互作用に動じに影響されながら変動しているに違いない。この種間相互作用タイプの多様性は、生態系の複雑性-安定性関係にとってどのような意味を持つであろうか?
現実の生態系は、さまざまなタイプの種間相互作用がミックスされた、いわば「ハイブリッド生態系」であり、どれか特定の相互作用のみでできているわけではない。異なる種間相互作用を混ぜ合わせたとき、生態系の複雑性-安定性関係はどのようなもになるだろうか。

「たとえば、鳥の仲間が昆虫を食うといった、一方が他方から搾取する敵対的な関係(食う-食われる関係)もあれば、植物とその花粉を運ぶ昆虫とのあいだに成立するような、互いに助け合う関係(相利関係)もある。これまでの研究では注目されることのなかったこのような種間関係の多様性こそが、生態系をささえる鍵なのではないかと考えた。」新着論文レビュー

ハイブリッド生態系の数理モデル

私たちは、Mayのモデルにいくつかの現実性を高めるための仮定を加えることで、仮想的な生態系を作った。

「この数理モデルでは、多くの生物種が互いにかかわりあいをもっており、ほかの生物種の影響をうけ個体数の増減するようすを記述した。また、この数理モデルには相利関係と敵対関係の両方が含まれており、さらに、その混合の比率を変えられるという従来の数理モデルにはない新しい特徴を備えた。」新着論文レビュー

「2~200種の生物がいる生態系を想定。それぞれの種の間で、花を咲かせる植物とミツバチなど互いの繁殖を支え合う協力関係か、食う食われる捕食や寄生など敵対関係か、もしくは無関係と仮定し、組み合わせて約7万パターンの初期条件を設定した。さらに気候変化や人間活動の影響などの外部要因も考慮した上で、生態系の変化を約7千万回シミュレーションしてその結果を解析した。」(京都新聞2012/7/20)

① モデル生態系の複雑性を一定のレベルに保ったままで、種間相互作用のタイプや組成を変化させた
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 生物間に捕食-被食関係しか存在しない生態系は比較的安定的になることが多い。しかし、そこにほんの少量の相利関係を加えると、生態系は極端に不安定になるのである。・・さらに相利関係の増やしていくと、生態系は再び徐々に安定性を取り戻す。相利関係が種間相互作用全体の70%程度に達したときに安定性は最大になり、それを超えると生態系の安定性は再び低下していく。相利関係のみで出来た生態系はとても不安定となる。つまり、捕食-被食関係と相利関係の両方が存在する生態系について言えば、二つの相互作用タイプがほどよく混ざっているときにもっとも安定だということになる。

「この結果は、種間関係の多様性が生態系を維持するうえで鍵となることを示しただけでなく、これまでの生態学における、食物網(食う-食われる関係のみで構成された生態系)などひとつの種間関係のみにもとづくアプローチの限界を示唆した。」新着論文レビュー

②複数の種間相互作用が混在するハイブリッド生態系において複雑性が生態系のバランスに及ぼす影響
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 捕食-被食関係のみで成り立っているときには、生態系の複雑性が高まるに従って、安定性は緩やかに低下する。また相利関係のみで構成された生態系では、生態系が複雑になるほど安定性は急速に失われる。
捕食-被食関係、相利関係のいずれかのみしか存在しないときは、複雑な生態系は不安定になった。この結果は、複雑な生態系は不安定であるというMayの理論予測と一致する。

捕食-被食関係と相利関係の両方の種間相互作用が存在するハイブリッド生態系では、中程度の複雑性のところに「不安定性の谷」が存在し、それを境にして正負まったく逆の複雑性効果が観測される。

複雑性(種の数が多い、関係を結んでいる種ペアの数が多い)が全体的に低い場合、安定性がいちばん高くなるのはもっとも生態系が単純なときであり、複雑になるほど安定性は低下する。だが、複雑性が「不安定性の谷」より高いときは複雑になるほど安定性が高まるというパターンがあらわれるのだ。この時、種の数が多いほど、そしてお互いの関係する種のペアが多いほど、各生物種の個体数変動は抑えられ、生態系のバランスは保たれることになる。複雑性が生態系の安定性を高めるのだ。

「生態系が複雑なのは周知の事実であり、従来の理論ではそのことを説明できなかったが、自然界にありふれた種間関係の多様性を考慮すると、複雑性により生態系の安定性は促進される。これら(二つ)の理論予測は、ほかの種間関係である競争関係の存在や、種間関係のネットワークの構造など、いくつかの前提を変えて数理モデルを解析してもつねに導かれただけでなく、数学的な解析によっても示された。」新着論文レビュー

「絶滅の危機にさらされた生物を保全したり、将来における再生のために生物個体を人工的に飼育したり、植物種子や遺伝子を保管する試みがなされていますが、本研究はこれだけでは保全の方策として不十分である可能性を示唆しています。
生物多様性の保全のためには、どのような種がどのような関係を築いているのか、あるいはその関係が地域によってどのように異なっているか、そしてどのように生じるのかを明らかにするなどして、「種そのもの」だけではなく、「種間の関係性」を維持するための方策について考える必要があります。 」龍谷大学のリリース

 

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