オーガニック綿の綿毛布で自殺を食い止める [有機農業と飢餓、食料自給]
2008年9月小針店で印刷・配布した「畑の便り」に加筆
配布のチラシで御案内したオーガニック・コットンの綿毛布をハートさんが扱うきっかけは、インドの農民の自殺を防ぎたいという思いだそうです。
約11億5千万人の人口を抱えるインド、農村人口は7億5千万人、農民の約70%が2ヘクタール以下の零細農民、小作人。全農民の30%前後が1日2㌦以下の収入。自殺統計が取られ始めた1997年から2005年までの9年間に15万のインド農民が自殺。痛ましい限りですが、オーガニック・コットンとの関わりは??
年収の7割が農薬、肥料、種子代金
例えば、西部、綿花生産で有名なマハーラーシュトラ州のヴィダルバでは、この州の農民の自殺は3万6千件で、そのうち70%がこの地方で起きた。千キロ西のバラマティ郊外では、青々とサトウキビ、トウモロコシ、チコー(果物)、チリ、豆などが生育している。協同組合制度が行きわたり、水路が張り巡らすこの地域では、1,875米ドル以上の収入があるのに対し、ヴィダルバ地域の綿農家の年収は250米ドル以下。その理由の一つは、綿につく害虫を駆除する為に、農家は借金をして農薬を買うからである。最初は、その農薬で防げていた害虫が、次第に農薬に慣れ抗体を身につけてしまい、綿は害虫により大きな被害を受けてしまう。すると農家に残るのは借金だけ。
そのうえヴィダルバは、灌漑施設が乏しく、雨が少なければ、ただちに干上がってしまう。土壌は枯れ、農民は借金に苦しむ。村が売りに出されたが、買い手はつかない。2005年には、『腎臓売ります』という、看板も。生産もままならず、借金を返せない農家が、担保の土地を取り上げられ、追い込まれて自殺してしまうのです。
遺伝子組換え綿は??
その農薬を減らせるといって売られているBTコットン、殺虫毒素BTを生産する遺伝子を組みこんだ綿品種はどうでしょうか。
伊藤 洋一(住信基礎研究所)によれば、 =私が行ったのはパントゥルパッリーという中部インドの典型的な農村。戸数は200戸、人口は500人。「戸」「家」と言っても、全て部屋に床はなく、土間です。家の大きさは、日本の言い方で言うと全部合わせても8畳もない。とにかく座る椅子とてない。多分土間にそのまま座って生活しているのでしょう。その証拠に、「どこに寝ているのか」と家人に聞いたら土を指さした。
電気は家の中にたったハダカ電球が一つ。キッチンと言っても、薄手の鍋数個が火鉢のようなところに置いてあって、どれがまな板なのかもわからない。奥には汚い根野菜がいくつか転がっていて、そこではランプで仕事をするのだそうです。テレビなし、ラジオなし、ましてインターネットなし。この家のご主人は、最近自殺した。残された奥さんには、子供二人、2才(男)と5才(女)が残った。
この家のご主人が自殺したのは、BTコットンという綿花の種で偽物を掴まされたことと、それに関連して銀行や親戚、はては異常な高金利を取る民間貸し金業者からお金を借りて、返済の見通しが立たなくなったため。問題は彼女のご主人が例外的な存在でない点で、インドの政界でも「農民の自殺」が大きな問題として取り上げられていた。
インドの綿花農家は、いままで伝統的な種で農業を営んでいた。そこに、アメリカの農法にあったモンサント開発のBTコットンというハイブリッド(遺伝子組換えで殺虫毒素を生産する)種が入ってきた。害虫駆除に効果があるとされるこの種は、インドでも急速に普及している。なにせその種を使った農家の綿花畑には害虫がつかない。代わりに、伝統的な種を使っている農家の畑に大量の害虫が集まるから、となりの農家がBTコットンを使うと、使わざるを得ない。広がるのだ。
しかしBTコットンは安いものでもなし、害虫は寄せ付けないがあらゆる条件で高収量を保証しない。もともとアメリカの産地にあった種で、充分な水分(と肥料)が供給されないと種自体の割高さにあった収量はない。しかし、インドの天候は極めて不順であり、そもそも水分不足が深刻なインドの農村にはあっていない面もある。だが、隣が使っている限り、BTコットンの使用をやめるわけにはいかない。
ある農家のご主人はBTコットンの種を買うのに年収の1割を、その他肥料など費用を全部入れると、綿花農家の年収の7割はコストに消えると言っていた。そのために借金もしている。干ばつなどで収穫が著しく減った場合には、直ぐピンチになる。しかも、話を聞いていると、彼らは借金の怖さを知らない。インドの農村に金融が入ってきたのは比較的最近だと聞いた。つまり慣れていないのだ。無邪気に借金をしているように私には見えた。=
原油高→肥料高騰などで生産費が高騰するのに、手厚い補助金でダンピングされた米国やEUの綿花と価格競争しなければならない。アメリカ産綿花は、大規模・機械化農法であり、昨今は遺伝子組み換え種子使用で多収穫が可能になっている。当然、生産コストは圧倒的に低い。しかも、巨額な農業補助金=輸出補助金が供与されており、輸出価格は圧倒的に安くなる。いくらインドの人件費が安くても太刀打ちできる筈がない。そのため設定される農家から買取価格が非常に低いという状況。
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