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体細胞クローン牛の牛肉が 今夏、食卓に登場? 2003年 [遺伝子技術]

2003年4月15日小針店で印刷・配布した「畑の便り・№03-16」の再録

早ければ、8月頃にクローン牛(体細胞クローン)の牛肉が出回りそうです。クローンとは、遺伝子組成が完全に等しい生物の集り。植物や下等な動物では特に珍しいものではありません。例えば一つの種芋から苗をとって生産した芋は、そのすべてが種芋と同じ遺伝子組成を持つクローン芋といえます。株分けもそうです。しかし哺乳類のような高等動物では、一卵性の双子のような特別な場合に限られます。それを人為的に創りだすクローン技術を使った牛の牛肉が、早ければ8月頃に市場に出回ります。

クローン羊のドリーは安楽死

  体細胞クローン動物といえば、96年に生まれた英国の羊「ドリー」が一番有名ですが、彼女は五歳半という比較的若い年齢で関節炎を患いました。10歳以上の羊で顕れる老化現象です。母親役の羊は6歳でしたから、細胞年齢は6歳+5歳で11歳に相当したのではと指摘されました。そして、この2月に六歳で肺の病気に罹ったこともあり安楽死処分となっています。

 4月10日には野牛(絶滅危ぐ種のジャワヤギュウ)のクローン2頭のうち1頭に異常があることが分かり、この子牛は安楽死しています。2頭は4月1日に生まれ、このうち1頭は通常の1.6倍もの体重があり、自力で立ち上がることが困難でした。

  体細胞クローン牛は98年、世界で初めて日本で誕生しました。2月末現在、40の試験機関で336頭が生まれており、約半数の162頭が死産や病気で早死にしています。現在140頭あまりが飼育されています。

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このクローン牛の牛肉は「食品としての安全性が損なわれることは考えがたい」と厚生労働省の研究チームが11日まで最終評価、専門家の“お墨付き”を出しました。これを受け同省は、今年七月に設立される予定の食品安全委員会に安全性評価を諮問し「お許し」を得て、市場に出荷となる見通しです。

  「健康な牛かどうかを検査して食肉にするなら、体細胞クローン牛を不安視する材料はない」(研究班の代表、東大の熊谷進教授・獣医公衆衛生学)といいますが、はたして食べますか?

 

  クローン牛・クローン動物を作る技術は2つに大別されます。一つは体外受精で得た受精卵をつかう受精卵クローン、一つは皮膚や筋肉、乳腺などの体細胞から遺伝子が入っている細胞核を取り出し使う体細胞クローンです。

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  受精卵は細胞分裂します。16~32細胞まで分裂した受精卵を分解します。一方、細胞核を除いた卵子細胞を用意します。この卵子とバラバラにした細胞を融合させます。つまり、遺伝的に同一である卵子が16~32個できます。これを借腹、雌の子宮内に戻し発育させます。上手くいけば16~32頭の遺伝的に同一のクローン動物が生まれます。(実際は、これほど上手くはいかない。)これが受精卵クローンです。

  一卵性の双子は、2つの細胞に分裂した受精卵の時に、何らかの作用により細胞が分離し、それぞれの細胞から通常の個体が生育し誕生します。受精卵クローンは原理的にはこれと同じです。遺伝子操作はされていません。それで、受精卵クローンについては安全性に問題はないと考えられています。すでに500頭あまりの受精卵クローン牛が誕生し、その肉や牛乳も出荷されています。(業者の自主判断で表示がついているものがあります、新潟市では白山浦の㈱よね一、古町の山長㈱で販売実績あり。)

  一方、体細胞クローンでは遺伝子操作が不可欠です。皮膚にしろ筋肉にしろ、その細胞は受精卵と違い、活発に細胞分裂しません。分裂・増殖を抑制、管理する仕組みが働いています。この遺伝子の仕組みが壊れ、勝手に細胞分裂し盛んに増殖するようになったものを、われわれは癌細胞と呼びます。癌にならないよう抑制している遺伝子の仕組みを、遺伝子を操作し解除しなければなりません。

またどの体細胞も細胞核におさまっている遺伝子は同じですが、皮膚では皮膚の働きを司る遺伝子、神経細胞では神経の働きを司る遺伝子だけが働くようにコントロール・分化しています。受精卵では、そこから分化が始まるのですから、再びすべての遺伝子が働き、将来どんな役割の細胞にでも変われる状態に戻す必要があります。つまり、どの遺伝子が働くのか管理、限定している仕組みも遺伝子操作で解除する必要があります。これらの遺伝子操作を初期化といいます。

  体細胞クローンは、皮膚や筋肉、乳腺などから取り出したの核を初期化し、細胞核を除いた卵子細胞に挿入します。後は受精卵クローンと同じです。皮膚や筋肉から同じ遺伝子組成の核を取り出して、無限にクローンを作り出すことができます。例えば、乳量が多く肉質が良く、飼料効率に優れた牛がいれば、その牛と同じ形質のクローン牛を多数生産することができるまさに“夢の技術”なのです。

  しかし取らぬ狸の皮算用。今の技術では成功率が非常に低いのです。クローンマウスで約2%です。2002年の海外の研究では、2170例のうち、誕生できたのは106例で4.9%、育ったのはその8割という結果もあります。つまり、現在の体細胞クローン技術の20回に1回成功する、つまり胎子の出産を保証する技術ではないのです。生まれた仔も、先ほどの野牛のように巨体化する、体細胞クローン牛は、通常の二倍近い体重で生まれるケースが目立ちます。さらに育ってもドリーのように早死や肺炎、肝不全、肥満が報告されています。

  こういった異常は胎子の成長を抑制する遺伝子の発現異常など、細胞の初期化のやり方に問題があると考えられています。米国のホワイトヘッド生物医学研究所で、遺伝子1万個、クローニングで作られたマウスの胎盤の遺伝子1万個を調べたら、25個に1個の割合で異常がありました。これでは、クローンマウスで出生率が約2%なのも肯けます。また生まれたクローン・マウスも、肝臓に、死産になるほど深刻ではないが遺伝子の問題を示していたそうです。

 クローン牛肉の安全性は目視で判る??

  厚生労働省の研究班の代表、熊谷進 東大教授は「健康な牛かどうかを検査して食肉にするなら、体細胞クローン牛を不安視する材料はない」といいますが、異常を目視で調べるだけの食肉検査でこうした遺伝子レベルの異常が見つかるでしょうか。また今の検査では、異常のあった部位、肝臓なら肝臓が廃棄されますが、それ以外の部位、例えば枝肉は出回ります。

  研究班は、国内外の研究機関が作った体細胞クローン牛の成育状況や血液、繁殖機能などを一般牛と比較した結果、(1)クローン牛の方が一般牛より流産・死産・生後直後の死が多いが「原因は不明」(2)ただその時期を乗り切ったクローン牛の生育や生殖能力は一般牛と変わらない(3)クローン牛のたんぱく質などが、新たな毒性や病原を生む可能性を示すデータはない、だから「食品としての安全性が損なわれることは考えがたい」という評価です。

  農水省が行った実験が、その根拠の一つです。農水省の外郭団体である畜産生物科学安全研究所が行ったもので、昨年8月に結果が公表され研究班にデータが渡されました。それはクローン牛の乳と肉片の配合飼料を14週間、ラットに食べさせ、その後の健康状態を調べた世界初の実験や、マウスに食べさせて遺伝子を含む染色体に異常が起きるかどうか調べた実験などを行い、いずれも異常は認められなかった。「一般の牛の場合と差は認められなかった」

  ある意味でこれはとても奇妙な実験です。農水省は農薬の安全試験で慢性毒性を調べるために課している試験では、14週ではなく1年間です。3.5倍の日数食べさせて慢性毒性は調べるのです。こんな短い期間でなぜ十分なのでしょうか。

  米国の科学アカデミーはもっと露骨です。政府の要請により安全性について、「危険性を示す証拠はない」という評価・報告書を昨年8月に出しています。

  報告書は「一部の人にアレルギーを起こす可能性がある」との指摘に「実際に食用に使われていない段階での検討は難しい」、全体に「食品成分についてのさらなる情報がないと、判断は難しい」としながら、「クローン技術の利点と(安全性への)懸念とのバランスを考え」「クローン技術で作った家畜が食品として危険であるという証拠はない」と結論付けました。食べてみなけりゃ分からない、こんな結論なら大学教授でなくても素人でも出せます。黒の証拠が無いから白、これで科学なんでしょうか?

   「クローン技術はまだ発展途上の技術であり、正常な胎子の出産を保証する段階には至っていない。」(財団法人バイオインダストリー協会)というのが的確な評価です。クローン牛Aとクローン牛Bでは、生じている異常が違う可能性が大きい、Aを食べても安全でもBは危険ということがありうる発展途上の技術です。ですから現在飼育されている体細胞クローン牛140頭は食べてしまうのではなく、研究試料にすべきではないでしょうか。

 (独)家畜改良センター
家畜改良における牛体細胞クローン技術のあり方について(2009年10月9日)
http://www.nlbc.go.jp/g_kairyo/zousyoku/clorn.asp 

 体細胞クローン技術の活用に当たっては 、現在の生産率の低さが大きな課題となっている。既にその原因としてエピジェネティックな変化が適正に制御されていないことが知られているので、その原因を十分に解明し、改善する手法の開発が必要である。また、原因を十分に解明できなくても、エピジェネティックな変化が適性に制御されている胚を確実に選別できる技術があれば格段の生産率の向上が期待できる。
今後、独立行政法人家畜改良センターを含めた体細胞クローン研究に携わる関係機関によって、生産率が飛躍的に改善される手法の開発が必要である。

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