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スーパー、ホームセンターの野菜の種の安さの秘密? 2003年 [遺伝子技術]

2003年4月28日小針店で印刷・配布した「畑の便り・№03-18」の再録

 あちらこちらの畑で菜の花が咲いています。大根などが多いのですが、この菜の花から取れる種を蒔いたら、元親の野菜、大根とか白菜とかが出来るでしょうか。残念ながら、答えはNO,否です。

一代雑種(F1)種

というのは、今日出回っている野菜の95%以上が、一代雑種(F1)種です。親の容姿をそのまま子供に受け継ぐことができない野菜です。自分でつくるタネからは、自分の姿とは、おおよそかけ離れた子孫をつくってしまうのです。

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  家庭菜園で種をとっても、翌年蒔くと、まったく違った野菜が育ちます。お気に入りの野菜の、そのタネを採り、また翌年蒔いて育ててみたい、また食べたいという方は、自家採種できる野菜を自分の菜園・プランターで実際つくって、食べてみることが第一歩です。そういう野菜の種がほしい方は、関川村の「おおしま農縁」をご紹介します。

  自分でつくるタネからは、自分の姿とは、おおよそかけ離れた子孫をつくってしまう交配種、F1、一代雑種とはなんでしょうか。幾世代にも渡り伝承されてきた野菜、昔から受け継がれてきた野菜では、そうしたことがなぜ起きないのでしょうか。

  果樹などは株分けや挿し木などで増やせます。また小芋や球根などで増やすものもあります。この栄養体では遺伝的には元親と同じ、クローンです。姿、形などは元と同じに育ちます。株分けなどしない植物でも、盛んに伸びているところにある成長点とよぶ部分から植物細胞を取り出し、培養すると遺伝的には同一のクローンの幼体を作ることができます。初めは細胞の塊だったものが、根・茎・葉、小型ながらきちんと揃った体に育ちます。ウイルスなどが成長点にはいないので、ウイルス病に罹っていないウイルスフリーの苗を得るためによく使われています。

  稲などの自家受粉の植物、自分の花の花粉で受粉するものでは、遺伝的には余り変化がおきません。その割合は、稲では約95から99%です。これに対し多くの野菜、とうもろこしやキャベツ、大根などは、他家受粉、他の株の花の花粉でないと受粉しない、種ができません。子孫がのこせません。この種は、遺伝的には両親の遺伝形質が混じり合った種になります。この種を蒔いても、絶対に親と同じのにはなりません。

  生物学的に見れば、遺伝的多様性があり環境の変化に対応して生き残るための戦略なのですが、作物としては都合が悪い。毎年、味や形が変わるのは不都合です。そこで、大体、同じものが育つように、遺伝的に大体同じような種が出来るように工夫します。

固定種の育て方

   小カブを例にすれば、割れが少なく平べったい形より丸形で甘味のあるものを作ろうと思い、たくさんカブのタネを蒔いて、条件の合うものだけから種を採り、合わないものは食べてしまい種を残しません。これを何世代もかけて選抜淘汰をくり返します。そうすると、遺伝的に大体同じような種がとれるようになります。これを固定種といいます。

  「○○交配」とか「F1」(雑種第一代の意味)表示が種の袋に付いているものは、雑種です。例えば「タキイ交配耐病ひかり蕪」は日本の小カブと大きくて丈夫な、外国の家畜飼料用のカブをかけ合わせているそうです。この蕪から種を採り、翌年栽培すると、日本の小カブの性質が強いものと、外国の家畜飼料用のカブの性質が強いものなどバラバラな形質のものができます。

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 固定種の良い点  

固定種の良い点は、その固定種を生み出してきた人々の伝統の味、例えば日本の固定種では日本人が長い間かかって受け継いできた、伝統の味、旬の味覚が味わえること。また、同じ両親から生まれた兄弟でも、けっこうバラバラなように、発芽が不揃いで生育もまちまち、だから大きく育ったものから順に長期間収穫できること。(つまり家庭菜園のような少量、長期間たべたい場合に向いている。逆に言えば、市場向けの品質が揃ったものを大量生産には適さない)

そして、一度タネを買えば、以後自分でタネを採れること。ただし、遺伝的に均質化、純化を進み過ぎると、『自家不和合性』とか『雄性不稔』とかいう現象がおき種子をつけにくくなる。生命力が弱まってきます。(回復させ方など実際の採種のやり方は「おおしま農縁」の自家採種ワークショップなどに参加してください。)

基本的には、時々選抜を休みます。そうすると、翌年には元の品種の性質が力強く顔を出す株が現れます。それらが、交雑して、生命力を蘇らせるのです。これの現象を雑種強勢といいます。 

雑種強勢を利用する交配種

 雑種第一代は生育などが両親の平均、あるいはそれ以上に優れている非常に生命力の強い固体が生まれ、おまけに形質がほぼ均一です。

  これを意図的に利用し、目的・目標の形質が優れて顕れる雑種第一代(専門用語でF1、ヘテロ、ハイブリッド)の交配種が、袋に「○○交配」とか「F1」とか表示が付いているものです。

  交配種の良い点は、まず揃いが良いこと。均一に成長するから、栽培計画が立てやすい。発芽も収穫も一斉になります。それと雑種強性のおかげで、成長が早いことや、果菜類では雌花を増加させて、収穫量を増大したりさせることもできます。

  悪い点は、まず目的・目標の形質が市場出荷向けだといことです。先ほどの日本の小カブと、大きくて丈夫な、外国の家畜飼料用のカブをかけ合わせた「タキイ交配耐病ひかり蕪」は小カブとしても、中カブとしても、大カブとしても使えますから、生産農家は、成育中、市場が高値になった時、いつでも出荷できます。生育が早く、揃いが良く、葉柄の繊維がしっかりしているので、何個か重量を計って束ねても、しなるだけで折れません。機械洗いにも耐え、見栄えも抜群です。ただ、硬くてまずい。

  つまり農家の手間がかからず(化学肥料をたくさん吸収でき生育期間が短く、揃いが良くて結束や梱包しやすく)、遠距離輸送中荷傷みしない。市場や店頭で日持ちがし、大量に消費する外食産業(ファミレスやコンビニ弁当など)で機械にかけて大量調理しやすく、また調理後の色が良いことなどが育種の重要条件です。だんだん野菜の色や形、保存性が良くなった代わり、硬くまずくなっていくわけです。

  第二に、種苗の供給をメーカーに握られてしまうこと。『タネを制する者は、世界を制す』です。メーカー言いなりの価格で買わざるを得ないこと。つまり、非常に高価で、しかも毎年買わなければならない。(メーカーや販売店にとっては、最大の利点です)
  また、メーカーが技術不足などで、交配ミスを引き起こしたりした場合、全部似ても似つかない野菜になってしまって、産地が壊滅的な打撃を受けることもあります。

交配種の場合、親となる固定種の発見と組み合わせが最大のポイント 

 

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 交配種の場合、親となる固定種の発見と組み合わせが最大のポイントとなります。単純に2つの固定種を組み合わせるだけでなく、祖父母の代から組み合わせていく、つまり固定種AとBを交配して親となる(AB)をつくり、CとDを掛け合わせて親となる(CD)をつくり、(AB)と(CD)を交配して目的の雑種ABCDを作るなど様々なやり方があり、メーカーのブリーダー(育種家)の腕の見せ所であり、企業秘密なわけです。鶏、産卵鶏や肉用鶏(ブロイラー)は、現在でも、祖父母の代の固定種は米国などの外国のメーカーが握っています。世界的に見ても、10に満たない育種兼種卵会社が世界の鶏種を握っています。日本で行われているのは、輸入された卵を孵化し、その子の(AB)や(CD)を飼育し、雑種ABCDの代を作ること、実際に卵を産む、肉を食べる鶏をつくることです。

  祖父母の代の固定種のうむ卵の供給が止まれば、卵を産む鶏、ブロイラーは出来なくなってしまいます。祖父母の代の鶏が、何らかの病原汚染、例えばサルモネラ菌、されると、そこから供給される卵をもとにつくられる、世界中で作られている産卵鶏はすべて汚染・感染し、それが産んだ卵も汚染することになります。近頃、卵のサルモネラ食中毒が煩く言われる背景の一つが、これです。

  自然界では雑種は生物の種の強靭性を増しますが、農業では逆に脆弱性をもたらしています。 

  ところで、スーパーやホームセンターに並んでいるタネは、そのほとんどが固定種です。交配種は手間がかかりますから高価で、安価であることが第一のこうしたところには並んでいません。交配種が置いてあっても、品種が袋の表示と違っていたり、ちょっと素性の知れないものが多いのだそうです。また安さの秘密の一つが、業界全体の流通在庫処分の古いタネしか使ってないこと。野菜の種類ごとに寿命が違うタネを、「有効期間一年間」と一律に表示し、依託販売で売れた分の代金だけ回収し、売れ残ったタネは寿命にかかわらず、ハサミを入れて捨ててゆくのだそうです。

  安心できる種を販売している「おおしま農縁」をご紹介します。虹屋は、大島さんのトマトや南瓜を以前から扱っています。 みらいのタネを育ててみませんか?


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