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病原菌の薬剤耐性と農業 2003年 [遺伝子技術]

2003年5月20日小針店で印刷・配布した「畑の便り・№03-21」の再録

 中国を中心に感染が拡大しているSARS、新型肺炎。この3月まで知られていなっかた伝染病です。このような新たに現われた伝染病を新興感染症といいます。SARSのように病原体自体が目新しい場合だけでなく、レジオネラ菌のように昔から自然界に存在していて24時間風呂のような繁殖に好適な環境が人間の生活の変化で生じ、その結果、集団的感染、伝染を起こすようになった病気があります。 

感染症1-2-18.gif

 私たちを脅かしている感染症は、新興感染症だけではありません。一旦は制圧されたかのようになった感染症が再び流行するようなった再興感染症があります。例えば結核。1999年に厚生省は結核緊急事態宣言を出しました。50年代には新規の結核患者が毎年50万人余りでした。その後減り続けましたが97年を境に増加に転じたのです。集団感染は90年代初頭の7倍にもなりました。「結核は過去の病ではない」。このような再び流行するようなった再興感染症が増えてきました。

  もう一つは、医療により起こる感染症です。手術や点滴などで体に深く傷がつけられます。普段は細菌などがいない処にこうした医療による傷、器具を経て病原菌が入り込み感染することが起きます。こうした感染で特に問題にされるのは、黄色ブドウ球菌や腸球菌などの人の体に常にいる常在菌です。これらの菌は腸など常に棲息している場所にいて、我々が健康ならば問題をおこしません。しかし手術や点滴などでとんでもないところに入り込むと感染症をおこします。

  感染症は、病原体と抵抗力の弱まった人間が飛沫核のような伝染経路で結ばれることで顕れます。ですから加熱殺菌や保菌動物の隔離で病原体を封じ込めたり、手洗いなどで伝染経路を遮断したり、食事や運動などで抵抗力を高めるなどすれば感染を防げます。SARSの不気味さは、感染経路が不明で患者やその家族を隔離しても拡大が収まらない、感染者が航空機で移動して瞬く間に世界各地に広がったことです。

  さて感染すると治療となりますが、抗生物質などの抗菌薬が重要な手段です。SARSのようなウイルスに抗菌剤は効きませんが、弱った体に起こりやすい細菌感染対策に使われます。ところが効かない、抗菌薬でたたけない病原体が増えてきています。薬剤耐性菌ですが、その発生に現代の農業、食糧生産が深くかかわっています。

病原菌は菌密度が高くなるほど病原性が強くなる

 抗生物質は細菌の生理活動を妨害することで効果を発揮します。細菌は単細胞の生物ですから、人の血液などから自分を養い、増殖のための栄養素を取り込みます。栄養素の代わりに抗生物質を取り込ませれることが出来ます。それが細菌の中で行われる蛋白質の合成を妨害したりします。例えばペニシリンは、細菌に特有の細胞壁の材料となる蛋白質を「いびつ」にします。そのため細胞壁が出来ず増殖できません。

  多くの細菌は、たくさん集まれば集まるほど、菌密度が高くなるほど病原性を強く発揮します。これを専門的には「自己誘導」「密度依存性調整QS]といいます。また多ければ白血球の手に負えません。白血球が食べたり、持っている活性酸素などで破壊しきれません。それで抗生物質など投与して菌を減らし、病原性の発現を弱め症状を軽減化したり、白血球で始末できるようにするわけです。

 薬剤耐性菌はどのようにして生まれるのか。

  細菌など微生物は、遺伝子を複製するときにミス・変異が生じやすく、その変異で抗生物質などの抗菌薬に耐えられる、例えば抗生物質を分解できる酵素を作る、個体がいます。しかし、それら薬剤耐性の菌が少数のこっていても症状は無くなったり、軽減化します。そうなるとなにがおきるでしょうか。例えば肺結核の治療では、6ヶ月間に渡って4種類の薬剤の連続服用が標準の治療法です。このため症状が軽減すると、患者が勝手に薬の服用を減らしたりやめたりすることがまま起こります。そうすると薬剤に耐えて生き残った耐性菌で完治しませんし、肺から耐性結核菌が排出されて他の人が感染することになります。結核に限らず、このようにして、人間が抗菌剤で選び出した、生き残った耐性菌が棲息することになります。

「動く遺伝子」での拡散

  厄介なのは、薬剤耐性がその性質、形質が細菌間で拡がることです。細菌は「動く遺伝子」と言われる細菌間、DNA間を移動できるDNAを持っています。トランスポゾン、プラスミドなどがあります。この「動く遺伝子」で様々な遺伝情報、形質が細菌でやり取りされています。例えばに病原性大腸菌O-157の作る毒素は、志賀赤痢菌と同じベロ毒素ですが、これを産出するための遺伝子、病原性の遺伝子は、第三の細菌から両者に伝えられたものです。

 

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 この「動く遺伝子」に薬剤耐性をもたらす遺伝子が乗り、他の細菌に耐性を伝える、拡がるのです。生き残った薬剤耐性菌が増殖して垂直的に拡がるだけでなく水平的にも拡がっていくのです。つまり薬剤耐性の病原菌での感染を防ぐには、病原性を持たない菌でも薬剤耐性菌は近づけない、その菌からの病原菌への「動く遺伝子」による耐性の伝播を防ぐことも大切です。

 日本の抗生物質の7割は牛、豚、鶏、養殖魚で使われている。

どこで薬剤耐性菌が生まれているのでしょうか。まず病院が思う浮かびます。日本の抗生物質の使用量は年間1700トン余り(純末、2001年)ですが病院で人間の治療に使われるのは約500トン余りです。のこり七割、1200トンは牛、豚、鶏、養殖魚、畑で使われています。現代の畜産では経営効率向上、生産費削減のためになるべく多くの頭数を飼います。人間なら4畳半一間で二人暮しでもかなり大変です。豚は4畳で12頭、ブロイラーは120羽余りです。卵をうむ鶏は40センチ×50センチのゲージ(籠)に6羽が一般的です。これでは病気、感染症にかかりやすいし、もし一頭かかればあっという間に拡がってしまいます。治療や予防に抗生物質が欠かせないのです。飼料、餌ににも添加物として予め入れてあります。こうしたところにいる細菌は、薬剤耐性を持つ方が生存には有利です。現代の畜産は、せっせと薬剤耐性菌を選び出し、増やしています。

  先週、中国からの鶏肉の輸入が禁止になりました。鳥型インフルエンザウイルスが検出されたからです。このインフルエンザは人にも感染します。もし日本で流行すれば死者は最大で2万人から3万人と予想されています。このように特定の細菌やウイルスであれば、検疫、検査をすれば侵入を防げます。

  薬剤耐性菌は無理です。菌は、ある数、1g当たり数万個はかならず食べ物についています。その菌に薬剤耐性があるか否かを検疫、検査して流通させるのは実際にはできません。そうした薬剤耐性菌が手に付着したりして体に入り込むことが起きます。それが病原菌ならば感染をおこし発病しても、抗生物質が効かないですし、病原菌でなくても「動く遺伝子」で体内の腸球菌などに薬剤耐性が広まることが起きます。

  1995年に抗生物質ニューキノロンが米国でブロイラー飼育に使われるようになりました。それで鶏・ブロイラーでその抗生物質に耐性菌が選択、淘汰されました。3年後、その耐性菌による食中毒が8倍に増えました。つまり耐性菌の侵入を防ぐには、餌や予防で抗生物質を常用する現代的畜産によらない飼育がされた家畜のものを選ぶことです。

遺伝子組み換え食品による拡散

このような耐性菌だけでなく、遺伝子組み換え作物が体の中に薬剤耐性遺伝子を持ち込みます。そして、その遺伝子が体内の常在菌に伝わることが起きます。

  遺伝子組み換え操作では、持ち込みたい組み込みたい遺伝子と組み込み、組み換えができたか調べるための目印遺伝子を一緒にセットで扱います。その目印遺伝子は大概はある抗生物質に耐性の遺伝子です。

感染症RfactorTransfer1.jpg 

  例えば大豆の細胞に、除草剤ラウンドアップに耐えられる遺伝子と抗生物質耐性遺伝子をセットで組み込み操作をします。次にその抗生物質を大豆の細胞に与え増殖します。組み込みが失敗したものは、抗生物質で破壊されたり増殖ができませんから淘汰されます。このようにして作られた遺伝子組み換え大豆には、薬剤耐性遺伝子が必ず含まれています。そしてこれを食べると、その遺伝子が常在菌に「動く遺伝子」の働きで移ることが英国で確かめられています。

 2003年5月20日印刷・小針店で配布したものに加筆


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