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コシヒカリ新潟BL、県内の水田の農薬が半減?? 2004年 [遺伝子技術]

2004年1月17日小針店で印刷・配布した「畑の便り・№04-05」の再録

 新潟のお米といえば、コシヒカリ。コシヒカリには美味しいのですが、いもち病に弱い特徴があります。この防除で梅雨から夏にかけて、農薬が県内で3548トンも使われています。(2002年)全水稲農薬の45%に当たります。当然、防除の時季には我々の吸う空気や飲水に含まれます。この農薬をなくそう、減らそうという農業技術が、2005年度から新潟県で本格的に導入されます。「マルチライン」と呼ばれるものです。

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いもち病は冷害の主犯          

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  10年前の米不足、平成5年の東北地方を中心にた冷害は、いもち病の多発によるものでした。平年は比較的発生の少ない平野部も含めて見渡す限りの灰色の水田となりました。そして、収穫がなかった地域も多かったのです。 

コシヒカリは極端に弱い品種です。「農薬の助けを借りないでこの品種を栽培することは困難」とまで言われます。しかし、農薬の多用で、農薬に強いいもち菌が現われました。

また農家の兼業化が進み、小まめに散布できないようになりました。飛行機からの空中散布による一斉防除で、手間は省けますが、今度は、その農薬が住宅、学校などにも漂い環境問題となります。農薬を使わない、減らすコシヒカリの栽培が求められました。

いもち病とは

 いもち病は胞子で拡がるカビ病です。葉に発生すると(葉いもち)、光合成ができなくなり生育がわ

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るくなります。また、遅い時期に稲穂に発病すると(穂いもち)にもみの生育が阻害される(白穂←写真)だけでなく、穂が折れやすくなります。そこに大風がふいたらポキンと折れてしまいます。発生した田は、褐色から灰色になります。

インフルエンザのウイルスに様々な種類があるように、いもち病の菌にも種類があり菌型・レースといいますが、大きく3種あり、Nレース群(日本稲系)、Cレース群(中国稲系)、Tレース群(インド稲系)です。

稲にはこの病気に抵抗力があり、それは二つのタイプがあります。農林6号や農林8号のなどは、病原菌を寄せ付けないほど、全くいもち病にかからないほど強いものではありませんが、菌型・レースが変化してもあまり抵抗性は変わりません。この抵抗性は多数の遺伝子が集積されて現われています。これに対して特定のレースには全く罹らないほど強いが、他のレースには弱いという抵抗性をもつ稲があります。クサブエ、千秋楽などです。この抵抗性は一対の遺伝子による物です。

コシヒカリにいもち病抵抗性をつけるには

コシヒカリは農林1号と農林22号を交配して、その雑種から選抜して育種されました。農林22号という、いもち病抵抗性品種を親に持ちながら、いもち病に対する抵抗性は弱いのです。農林22号の抵抗性は、多数の遺伝子が集積されて現われるタイプです。交配して得られた種に、美味しくていもち病にも強い物があったら、そちらが生き残ったはずです。おそらく、いもち病抵抗性の多数の遺伝子が入ると美味しさをもたらす遺伝子がいる場所がなくなるのです。

コシヒカリの美味さはそのままに、いもち病抵抗性をつけとすれば、一対の遺伝子を導入し、特定のレースのいもち病は寄せ付けないほど強いが、他のレースには弱いというタイプになります。それぞれが別のいもち病レースに抵抗性を持っているコシヒカリの品種を多種類、混ぜ合わせて栽培すれぱ、いもち病菌が入ってきても抵抗性の品種が入っているので、病菌がイネに感染しようとしたとき、感染できたり、できなかったりして、群全体、田全体ではいもち病に抵抗性があるのではというアイデアが出されました。

実際にそのようにして栽培すると、いもち病に罹った稲から胞子は、田圃に均一に飛散(伝染)するのではなく、近い距離のイネに多く、遠くのイネには少なく飛散するので、近くにある抵抗性稲が胞子を食い止めるバリアーになること、また胞子の飛散量が減り、水田全体に病気が広がらないのです。栽培試験では、抵抗性のものが約40%混じっていると、いもち病の発生が約10%に減っています。

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 新潟県農業総合研究所作物研究センターの資料より

  コシヒカリ新潟BLで無防除へ

 病害菌の菌型(レース)に対して、それぞれの品種が抵抗性を持っている。こうした品種群を「マルチライン」といいます。新潟県は昭和61年からコシヒカリのマルチラインの育種に取り掛かり、「コシヒカリ新潟BL1号」から「8号」までを育種しました。新潟県は品種登録されている中から、いもち病の発生レースに合わせて四系統を混ぜて2005年から供給する考えです。レースが変わるのに合わせて、混ぜる系統を変える必要がありますから、毎年100%更新し従来の「コシヒカリ」の種子は県内に供給しないそうです。

  これまでの試験の結果などから、農薬散布は多発地帯では葉いもち、穂いもちのどちらか一方に1回の防除にし、小発生の地帯では無防除を県は想定しています。ただし発生状況、レースの状況をみて迫加防除をする考えです。新潟県のいもち病防除薬剤は3548㌧。全水稲農薬の45%ですから、大幅な農薬の削減につながることになります。お隣の富山県でもいもち病のマルチラインを育種しました。富山県では育種した「こしひかり富山BL」をつかうに無農薬栽培体系を確立したそうです。ただこれは新潟県のように導入、普及段階には至っていません。 

いもち病抵抗性同質遺伝子系統「コシヒカリ新潟BL1~8号」については⇒http://www.naro.affrc.go.jp/org/narc/seika/kanto13/16/narc0116q04.html

 飲み水がより安全に

 県は、消費者の求める安全・安心・美味しいお米、「売りれる米づくり」のためにマルチラインを普及したい考えですが、効果はそれだけではありません。

  防除に使われる農薬の大半は、水中や大気中に漂います。インドでの調査では、散布された農薬の99%が環境中に放出されます。ですから、いもち病防除薬剤3548㌧のうち相当の量が、新潟県民の呼吸する空気に含まれ、水中に入った物は飲み水に含まれます。それも大幅に減ることになります。  

根絶から共生へ 価値観の転換

 このマルチライン技術には、多少病気が出てもよいという発想があります。農薬主体の防除は、病害虫は根絶ですから、発想の転換があります。稲作の欠かせない農薬には、除草剤があります。富山県の開発した無農薬栽培体系では、今のような雑草一本生えていない田圃にはなりません。ここにも、多少は雑草が生えてもよい、除草ではなく「抑草」という発想の転換があります。

見栄えよりも減農薬  農水省の新方針

 農水省は本年度から、見栄えをよくするために使われている農薬を使わない防除指針の作成に取り掛かります。虹屋の和田さんの黒くなったみかん、食痕のあるレモンを買われた方はお分かりですが、農薬を使わないと味、食味には影響しないが外観を悪くする病害虫がいます。農水省は作物ごとに病虫害の被害や防除の実態を調べ、見た目をよくするためだけに使われている農薬を多く使っている作物からこうした農薬をはずした防除指針(方法)を作る事業を始めます。新しい指針を「安心指向型防除指針」というのだそうです。ここにも価値観の転換があります。

世界一の日本の農薬使用を減らす一歩

  日本は、耕地面積当の農薬使用量では世界一です。OECD・経済協力開発機構の調査では、OECD加盟国の世界平均の6倍です。10年前は日本よりも使っていたオランダは、使用削減政策をとり半減させました。平均の4倍です。ですから、虹屋はなんとしても日本の農薬使用量を減らしたいし、オランダは半減させたのですから日本でも可能だと思います。 

新方針を定着させるには

  しかし「安心指向型防除指針」この名前を見ると虹屋はこの新指針が定着するのだろうか、農薬がへるだろうか不安になります。
  外観が悪くなった作物を消費者が買わなければ定着しません。それで農水省はこうした農薬を減らせば、環境負荷(汚染)が減らせ食の「安全・安心」を確保できること訴えていくそうです。先ほどのマルチライン技術で農薬が減って環境負荷(汚染)が減って、利益を直接うるのは新潟県民で、そのコシヒカリを食べる首都圏の人ではありません。環境負荷(汚染)をなぜ減らさねばならないのでしょうか。突き詰めると、子供たち、孫たちの世代により汚染されてない環境を手渡すためです。食の「安全・安心」は、食べている人、今の世代の問題です。掲げる理由と名前がミスマッチ、あっていません。黒くなったみかんが、スーパーの店頭に並んだときに、環境負荷(汚染)を減らすために見栄えのための農薬を使わなかったからこうなったと気にせずに買い物籠に入れるでしょうか。 

農薬の危険性を認める率直さが必要

 農水省は、認可している農薬は使用方法を間違わなければ食物や環境中に残留しても、人にも他の生物にも安全という立場です。安全なのに、減らす必要がどこにあるでしょうか。見栄えをよくするために使われている農薬など農薬全般には危険性がある、少なくとも潜在的な危険性がある事を認めるのならば、削減は残留の減少に直結しますから、話の筋は通りますが、国は口が裂けても認めません。

  農薬や衣類の防虫によく使われている有機リン系殺虫剤は、毒性研究が進み子供に知能低下、多動などの神経障害をもたらす疑いが非常に強く、米国、英国では新たな規制や使用禁止措置をとっています。日本では防虫剤など野放しです。この子供への毒性は新しい知見ですが、国は農薬は使用法をまもれば安全という立場に固執して取り入れられないのです。

  農薬に危険性が、今は解明されていない潜在的な危険性があるから食品中や環境中に少ないほどよい、その削減は食の「安全・安心」向上と環境保全になることを正直に包み隠さず訴えなければ、新防除指針など農薬削減政策は、社会的に受け入れられず効果を上げないのではないでしょうか。

2004年1月27日印刷・小針店で配布したものに加筆


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