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望みの性質の新品種を短期間に 安全に育種できる遺伝子利用技術誕生?! 2004年 [遺伝子技術]

2004年3月29日小針店で印刷・配布した「畑の便り№04-14」の再録

 イネの新しい品種の開発、育種を遺伝子技術を使って、従来の5分の1以下の期間、2-3年で可能にする技術が開発されました。遺伝子技術といっても、安全性に疑問のある遺伝子組み換え技術ではなく、遺伝子の配列を解析する技術です。

勘と経験の選抜から遺伝子解析での選別

 新潟県のいもち病に抵抗性をもつコシヒカリBLは、昭和61年・1986年から育種を始めて、2005年・来年度から本格的に普及にはいります。このように従来は15年ほどかかっていました。

 一般に新品種の開発にはまず異品種を掛け合わせて雑種を得ます。その種子を実際に作付けると、両方の形質が入り混じった様々な雑種が育ちます。実際に作付けし、その中から育種目的に合いそうなものを選抜します。そのよさそうな株を選んで繰り返し掛け合わせていきます。

 コシヒカリBLは、コシヒカリといもち病に抵抗性をもつ他の品種をまず交配。それで得られた雑種には、コシヒカリの形質と他に品種の形質が入り混じっています。欲しいのは、いもち病抵抗性をもったコシヒカリですから、抵抗性以外の他の品種の形質は、余計な邪魔者です。それで、栽培して抵抗性はあるが、その他の形質は少なく、コシヒカリの形質は多く持ったものを選抜し、それに再度コシヒカリを掛け合わせます。得られる2代目雑種は、コシヒカリの形質がより多くなります。それをまた栽培し、よさそうな株を選んで繰り返し掛け合わせていきます。

 稲は年1作ですが、温室で気象を管理すれば、2~3作は可能です。それでも、現在は新品種開発に15年程度かかります。よさそうな株の選抜は経験に頼っているため、効率が悪いのです。遺伝子の配列を解析する技術を使えば、両方の形質の入り混じり具合を遺伝子レベルで知ることができます。経験や勘だけでなく、数値でわかります。今回開発された技術は、種子が発芽してから1―2週間後に遺伝子を解析します。いわば、見知らぬ土地を勘を頼りに行くのと、大雑把な地図を見て目的地を探して行く位の差があります。

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従来の育種と変わらぬ安全性と豊かな将来性

遺伝子の地図の元になるイネのDNAの塩基配列は、全て解析されています。現在は、どの部分、どの塩基配列の働き、機能の解明が進んでいます。地図に例えると、どの建物に誰が、どんな仕事の会社が所在するのか調べている段階です。苗の背の高さや穂が出る時期を決める遺伝子などは、既にその塩基配列が分かっているので、選別は簡単です。コシヒカリはイネの中でも背が高く、風雨で倒れやすいのが弱点です。それで既に背が平均10センチ低いコシヒカリを開発。複数の自治体で試験栽培しているそうです。穂が出る時期を決める遺伝子も分かっていますから、東北のヤマセの吹く時季を避けて穂を出す品種も開発されるかもしれません。栽培地域に合わせた様々な長所を持つイネの品種を短期間に育種できる技術です。

安全性は従来と同じ

交配結果の確認だけに遺伝子技術を使います。人工的に特定の遺伝子を導入する組み換え技術は使用せず、従来どうりの交配を行います。ですから、新品種の安全性は、従来の育種による物と変わりません。従って、社会的軋轢がありませんから、品種が栽培され実用化も早いでしょう。どの部分、どの塩基配列の働き、機能が、例えば味に関する部分はどこか解明されるほど、様々な長所を持つイネの品種を短期間に育種できます。イネの遺伝子研究は、今まさに働き、機能の解明に焦点がありますから、最新の研究と連動する形でもたらす果実が豊かになります。

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それに引き換え、遺伝子組み換え技術は、安全性に疑問が持たれ社会的葛藤を呼び起こしています。

遺伝子組み換え技術の品種の栽培は禁止・・北海道

 3月5日に北海道は、都道府県で初めて遺伝子組み換え作物の野外での栽培を全面禁止する独自のガイドラインを決定しました。北海道農政部が「研究開発は有用だが、他県に農産物を供給する北海道は、消費者、生産者らの理解を得られる基準を作るまでは、緊急措置として規制が必要」として策定した物です。道は、2004年度中に条例化し2005年4月からの施行する予定です。翌6日には茨城県が、行政指導の指針として、遺伝子組み換え作物の栽培者に、(1)栽培開始前に県への情報提供(2)関係する市町村、近隣耕作者、農業団体などに理解を得ること(3)一般農作物との交雑・混入防止の措置を徹底することなどを求めることにしました。強制力はありませんが「地元の理解を得る」という条件は難しく、実質的に栽培は不可能になりました。滋賀県でも同様の動きがあります。

産業界は力で押し潰しをはかる

北海道などの動きに対して日本のバイオ産業の育成を目的とする日本バイオ産業人会議の歌田代表は「科学的データをきちんと示して、住民の理解を得ていくのが自治体の責任。・・これまで投じてきた研究費も無駄になる。・・(総理大臣が主催する)国のバイオテクノロジー戦略会議で問題提起し、自治体の規制に対し国の考えを問いただす。」と語っています。(3/18日経)

 さすがに、昭和56年から平成7年まで味の素(株)の社長、会長をつとめていた大物ビジネスマンは、感覚がちがいます。県や道は住民の自治体ではなく、バイオ産業の広報・宣伝機関。これまでの投資(研究費)を無駄にするような動きは、小泉首相にいって国家権力で潰してやるという発想は、我々には無縁です。なぜ歌田さんは北海道や茨城の農民、住民に自分が会って説得しようとしないのでしょうか。

 一方、冨田房男・北海道大学名誉教授ら4人の学者が昨年11月から米国から輸入した組み換え大豆を原料にした納豆「納豆のススメ」を製造して、「GM(「組み換え」の意味)大豆95%使用」と表示し、宅配方式で販売を始め、約4ヶ月間に2万パック販売したそうです。

 一日160パック約8800円の売上では、経営的は成り立っていないでしょうが、近く東京都内にも拠点を構えるそうです。資金の出所が気になりますが、それはさておいて、冨田さんは「食べても何ら問題ないのに、イメージだけで不安がられる。意地もあります。実際に食べてもらえば、安全なことが分かってもらえるはず」と話しています。

消費者の不安、疑念の一つは、組み換え作物を長期間食べた時の安全性が確認されていない事です。「食べても何ら問題ない」というのは、正確には長期的影響は調べる術がないので、安全ということにしておこうということだからです。組み換え納豆を長期間食べ続けたときに起きる影響を、科学的に予測する方法は富田さんも持たないのです。

 消費者・社会のこの不安、疑問を解消することなく、権力と既成事実化で押し潰して実用化=食卓に上げようとしている産業界、研究者の姿勢こそが、混乱を呼ぶ最大の原因ではないでしょうか。

2004年3月29日印刷・小針店で配布したものに加筆

参照 作物・果実の植物は、農林水産技術会議「ゲノム情報の品種改良への利用-DNAマーカー育種」
http://www.s.affrc.go.jp/docs/report/report21/no21_p1.htm

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家畜、つまり動物の場合は、家畜改良センターの「遺伝子育種」
http://www.nlbc.go.jp/g_tyousa/iden/idenshiikusyu.asp

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