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生物、進化の実相からみる遺伝子組み換え作物の危うさ 2004年 [遺伝子技術]

2004年6月8日小針店で印刷・配布した「畑の便り№04-24」の再録

 生物の遺伝子は、「命の設計図」と言われたり、逆に「生物は遺伝子の乗り物」、利己的遺伝子という言われ方もします。しかし、生物の進化から見ると、そんなに単純ではありません。(下の池田教授の「遺伝子よりまずシステム」をお読み下さい。)この生物の歴史、進化から見ると、遺伝子組み換え作物などの安全性は、危うい物です。

池田教授の「遺伝子よりまずシステム」

 早稲田大学教授 池田清彦、2004年5月30日 日本経済新聞

生物は複雑なシステムだ。遣伝子はシステムの重要な要素だが、システムそのものではない。生物の形質を具体的に作るのは発生のプロセスだ。遺伝子たちはお互いに関係し合いながら、遣伝子のスイッチをオンにしたりオフにしたりしてプロセスを制御している。

 ほ乳類の眼を作る親玉の遺伝子はパックス6遺伝子だ。この遺伝子のスイッチがオンにならないと眼を作るブロセスが首尾よく機能しないのだ。同じく昆虫の眼を作る親王遺伝子はアイレス遺伝子という。この二つの遺伝子はとてもよく似ている。ほ乳類のパックス6遺伝子をショウジョウバ工の体内に入れて、たとえば触角や肢の部位で発現させると、ほ乳類のレンズ眼ではなく昆虫の複眼が作られる。

 この二つの遺伝子は微妙な違いはあるものの、実は同じ遺伝子だ。同じ遺伝子がほ乳類の体内で働くとレンズ眼を作り、ショウジョウバエの体内で働くと複眼を作る。眼の形を決定ずるのは遺伝子というよりむしろシステムの特性なのだ。遺伝子は形を作るシステムを動かす道具にすぎない。

 そう考えると進化の風景はずいぶん違ったものに見える。原始的な眼を作る遺伝子が突然変異で少し性能のよい眼を作り、その遺伝子が自然選択で集団の中に拡がり、その繰り返しで現在のような眼ができたわけではない。不思議なことに、眼のないサナダムシのような動物もパックス6遺伝子を持つという。遺伝子が徐々に変化して眼ができたというよりもむしろ、システムが進化して眼を作る必要上、すでにあるパックス6遺伝子を道具として利用したと考えた方が真実に近い。

 進化にとって重大なのはシステムの変化なのだ。それではシステムの変化原因はなにか。遺伝子の突然変異、環境の変化、他生物との共生などであろう。突然変異がシステム変化の原因である場合でも、進化は遺伝子の変化に還元できない。

 たとえば、Aという遺伝子が突然変異を起こしシステムが少し変化したとする。当然、形質も少し変わる。次にBという遺伝子が突然変異を起こせば、そこで形質も少し変わる。今度は、同じ突然変異がまずBに起き、次にAに起きたと考えよう。結果は必ずしも同じにならない。Aに起きた突然変異で変化したシステムの中でBに突然変異が起きる場合と、Bに起きた突然変異で変化したシステムの中でAに突然変異が起きる場合では、最終結果は一般的に異なるからだ。

 遺伝子の組み合わせは全く同じでも、形質は異なるかもしれない。遣伝子を見るだけでは進化の実相はわからない。生物は遺伝子の乗り物ではない。

参照⇒ パックス6遺伝子の話は、目の進化の物語:ウォルター・ゲーリング
http://www.brh.co.jp/seimeishi/journal/012/ss_1.html

 同じ遺伝子が生物種によって別の働きをする・・覆る前提

 遺伝子組み換え技術はこっちの細菌の毒素生産遺伝子を切り出して、あっちの大豆に組み込むといった風にその遺伝子を部分品のように扱います。組み替え技術を使った育種、新品種の開発は同じ遺伝子は、何処にあっても、異種の生物でも、同じ遺伝子は同じ働きをするという前提で成り立っています。

 しかし、パックス6遺伝子のように同じ遺伝子が生物種によって別の結果をもたらします。働きをするのです。遺伝子組み換えでの新品種開発は、前提からおかしいのです。

 モンサント社のラウンドアップ・レデーという大豆で見てみましょう。モンサント社はラウンドアップ(グリサホート)という除草剤を販売しています。ホームセンターなどで大安売りされています。どんな植物でも枯らしてしまいます。発がん性の疑いが濃い除草剤です。

 大豆など作物が植わっている畑で使うと、雑草も作物も枯らしてしまいます。ですから、苗や種を播く前とか農道、道の路肩の除草にしか使えません。

 しかし、大豆など作物がラウンドアップで枯れなければ、栽培中も使えます。ラウンドアップで枯れない大豆を育種すれば、その種もラウンドアップも売れる、一粒で二度美味しい商売が出来ます。それで遺伝子組み換え技術で育種されたのが、ラウンドアップ・レデーという大豆です。

 ラウンドアップで枯れないようにする遺伝子、ラウンドアップを効かなくする遺伝子を懸命に探しました。見つかったのは、ランドアップを製造している化学工場の排水口。常にさらされる環境中で棲息していた土壌細菌からです。その遺伝子の情報で生合成される酵素蛋白が効かなくしています。

 その遺伝子を土壌細菌から取り出し、遺伝子組み換え技術で組み込んだ大豆がラウンドアップ・レデーです。生物進化の実相からみれば、同じ遺伝子でも細菌が作り出す酵素蛋白と、ラウンドアップ・レデー大豆で生合成される酵素蛋白は違っている可能性があります。毒性が違う可能性があります。

 専門的には「一部のアミノ酸の置換やアミノ酸の化学的修飾(アセチル化、リン酸化、糖鎖の結合など)が起こる可能性」があり「同一性を証明するには、大豆からこの蛋白質を直接単離し、アミノ酸配列を決定する必要がある。」のですがモンサント社はしていません。

 この酵素蛋白の毒性は、細菌で作られたものをラットに食べさせて調べられ、人には無毒と評価されています。しかし、それがラウンドアップ・レデー大豆で生合成されるものと同じでありませんから、それは証明されていませんから、ラットの毒性試験は無効です。「人には無毒」とう評価は無意味です。しかし、米国政府は、日本政府も安全として販売、栽培を許可しています。

遺伝子組換え作物同士の交配品種の危険性

 除草剤が効かない形質と殺虫毒素タンパク質の形質の二つを併せ持った大豆など、2種以上の遺伝子組み換えでの形質を持った大豆など新品種が欲しいとします。この新品種開発、育種法には既に安全の認可がある除草剤耐性の大豆に、別の安全性認可の下りている殺虫毒素を作るよう遺伝子組み換えされた大豆を掛け合わせる、交配して育種する方法があります。順々に交配すれば、3つでも4つでも遺伝子組み換えでしか持ち得ない形質をもった新品種が開発できます。

 多種の遺伝子を一度に組み込まないのでしょうか。一度に組み込みをした場合は、安全性試験が求められますが、上のやり方では法的には安全性を確かめる必要がないのです。試験費用がかかりません。安全性試験、毒性試験が免除されていて、新品種は自由に栽培、販売できるのです。それはゼロをいくつ足してもゼロだから、安全性の認可を得ていれば、いくつ組み合わせても安全という理屈です。

 しかし池田教授の解説にあるように、除草剤耐性遺伝子Aがあるところに新たに殺虫毒素の遺伝子Bが入ってきた場合と、逆に遺伝子Bのあるところに新たに遺伝子Aが導入された場合では、「最終結果は一般的に異なる」のです。

 生物、進化の研究からみれば新品種は安全かもしれないし、危険かもしれません。科学的には確かめる必要がありますが、法制度は免除しています。安全性は不明ですが、栽培、販売は自由に出来ます。

2004年6月8日印刷・小針店で配布したものに加筆


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