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温暖化を加速する「磯やけ」、その原因は [有機農業/食物にする生命との付き合い方]

№07-39 2007年9月小針店で印刷・配布した「畑の便り」の再録

  先週は、異常に暑かったですね。9月じゃなくて8月でした。台風の影響が大きいのですが、その台風が強力なのも地球温暖化で海水温が高く、立ち昇る水蒸気でエネルギーを補給されるからです。

 

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 地球温暖化、その原因は一つではありません。先日、地球の地軸の傾きも原因との研究が公表されました。日本の南極観測隊が採取した過去34万年分の氷の成分を分析した結果です。地球儀を見れば分かるように、地球は太陽を廻る公転面にたいして傾いた軸で自転・公転しています。それで中緯度の日本は四季があります。雪や氷に覆われた高緯度地帯では、入ってくる太陽光を反射して熱を外に出していますが、自転軸の傾きが変化し、日射量が強まり、太陽光を反射する氷床や氷河がいったん解け始めると、温暖化が急激に進む。逆に日射量が弱まると、急速に寒冷化し、氷床などが拡大することになります。

  この効果は、気温や二酸化炭素濃度の変動が数千年遅れで連動する数千年以上の長期の気候変動のメカニズムです。今回の研究をまとめた国立極地研究所の藤井理行所長によれば「現在進行している温暖化は地球が経験したことがない状況」、二酸化炭素など温室効果ガスの排出量、濃度や太陽活動の短期的変動の影響などの要因が大きいとみられます。

 

 今のバイオエネルギーの問題

 その二酸化炭素排出量の削減で、今、バイオマスエネルギー、バイオ・エタノールやバイオ・ディーゼル油が注目を集めています。しかし、その削減効果に、国連食糧農業機関(FAO)など幾つかの国連機関やOECDが強い疑問、適切に利用されなければ逆効果という警告を発しています。

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  国際エネルギー機関(IEA)の予測によると、2030年においても、バイオ燃料は輸送用全燃料の4%から7%を供給し、その大部分は米国、EU、ブラジルで生産され、消費されます。これに対し薪、炭、家畜排泄物、作物残滓などの”伝統的バイオエネルギー”は、大部分の途上国で約20億人の家庭の暖房や調理のためつかわれ、世界エネルギーの10%を供給しています。だが乾燥牛糞でコンピュータ・ネットワークを動かすことはできない。しかし、近代技術はこれをバイオガスに加工することができ、電力供給が可能にできます。1日2ドル以下で暮らす20億の人々が手頃な費用の、自分が生産した、環境的に持続可能なエネルギー源としてバイオパワーを利用できる様になれば、貧困削減への巨大な貢献になります。貧困削減と家族計画の普及とで途上国での人口爆発を押さえ込み、エネルギー需要=二酸化炭素排出量の抑制、削減が可能になります。「輸送またはその他の燃料としてよりも、熱電併給のために生物資源を利用するのが、今後10年における温室効果ガス排出削減のための最善にして、最も安上がりの方法だ」(FAOの事務長報告)

  一方、バイオ・エタノールやバイオ・ディーゼル油は米国、EU、ブラジルなど約8億人の車の燃料の一部を代替するだけです。そしてこれらの原料はトウモロコシ、大豆など食料そのものであり食料を人間と家畜から取り上げることになります。現在でも、穀物価格を上昇を招いて貧困層に飢えをもたらしています。その増産のための大規模なモノカルチャー(単一栽培)のための土地開拓で環境損傷と生物多様性喪失を引き起こすと批判しています。

  東南アジアやブラジルなどの雨林を、開拓してバイオエネルギーの原料となるサトウキビなどの耕地を造成すると、雨林で眠っていた湿地の泥炭などが二酸化炭素を放出します。私たちは緑化、植林で二酸化炭素の吸収=削減が図れると考えます。確かに木々が育つ数十年間は、木々に炭素が固定化され、その分は大気中の二酸化炭素が減ります。その後、倒れ倒木になれば朽ちていく過程で二酸化炭素となり大気に戻っていきます。森林は二酸化炭素・炭素の一時貯留庫にはなりますが、長い目で見ればやがて元に戻ります。それが自然の炭素循環です。しかし湿地などでは泥炭となって分解バクテリアが不活発なためより長期に、大量に炭素が地表に留め置かれます。開拓は、その眠りを覚まし、却って大量の二酸化炭素が放出される結果になります。

また泥炭は、やがて岩石化・化石化して石炭になります。そして地下深く石炭となってしまえば、その分は大気中の炭素・二酸化炭素が純減損します。つまり、数億年過去に固定化された炭素・石炭を燃やして大気中の二酸化炭素濃度を上げているのですから、その分を、新たなに石炭化するように森林を管理することが基本なのに、バイオエネルギー原料栽培のための開拓は、全く逆のこと行う結果になります。 

参照 畑の便り0717、トウモロコシを黄色いダイヤモンドに変える錬金術師のひく飢餓の影バイオ・エタノールと牛肉価格 
 
それではもう一つの化石燃料、石油は何処に由来するのでしょうか。 

海洋の二酸化炭素吸収

  それではもう一つの化石燃料、石油は何処に由来するのでしょうか。最も有力な説は、海洋で生産されたプランクトンなど有機物が化石化したものが原油であるという説です。現在でも、海の生物たちが吸収・固定化する二酸化炭素は、陸上の森林などとほぼ同じです。海の植物は、生態から昆布などが海藻が群生する海中林と浮遊する植物プランクトンに大別されます。日々生産される有機物の一部が、深海にまで落下していきます。その一部から石油ができたという説です。
  1950年代、北海道大学の研究者達は潜水球「くろしお号」に乗り込んで海中の調査をおこなっていましたが、その時に海中の懸濁物がライトに照らされて白っぽく雪のように見えたことから、彼らはこれをマリンスノー(海雪)と名付けました。ツナミと同じく現在では世界中でこの言葉が使われています。マリンスノーは様々な形、球状、彗星状、糸状、平板状などをしたものがあって、大きいものは10cmを越します。
  マリンスノーのでき方は大きく2つに分けることができます。ひとつはプランクトンの死骸、またはそれが分解したものです。もう一つは物理的な働きによって作られた小さな粒子の集合体です。マリンスノーは必ずしも高い密度で存在するわけではないのですが、海洋にまんべんなくあるので、全体としてその量は膨大です。植物プランクトンは、海中の窒素・リンといった栄養塩を取り込み、二酸化炭素及び太陽の光エネルギーを使って光合成を行い、有機物をつくり身体を作ります。植物プランクトンは、あるものは動物プランクトンや魚などのエサとなり、その糞として、またあるものはやがて死骸となって深海へ沈んでいく。こうして二酸化炭、
素(炭素)もいっしょに深海へと運ばれていきます。深海で、微生物に食べられ分解し炭素や栄養塩を多く含んだ海洋深層水をつくります。これが再び、海面付近に上昇するのは、イオ・エタノールと牛肉価格    それではもう一つの化石燃料、石油は何処に由来するのでしょうか。 ページ先頭へ海洋の二酸化炭素吸収  それではもう一つの化石燃料、石油は何処に由来するのでしょうか。最も有力な説は、海洋で生産されたプランクトンなど有機物が化石化したものが原油であるという説です。現在でも、海の生物たちが吸収・固定化する二酸化炭素は、陸上の森林などとほぼ同じです。海の植物は、生態から昆布などが海藻が群生する海中林と浮遊する植物プランクトンに大別されます。日々生産される有機物の一部が、深海にまで落下していきます。その一部から石油ができたという説です。  1950年代、北海道大学の研究者達は潜水球「くろしお号」に乗り込んで海中の調査をおこなっていましたが、その時に海中の懸濁物がライトに照らされて白っぽく雪のように見えたことから、彼らはこれをマリンスノー(海雪)と名付けました。ツナミと同じく現在では世界中でこの言葉が使われています。マリンスノーは様々な形、球状、彗星状、糸状、平板状な
 素(炭素)もいっしょに深海へと運ばれていきます。深海で、微生物に食べられ分解し炭素や栄養塩を多く含んだ海洋深層水をつくります。これが再び、海面付近に上昇するのは、深層の海流にもよりますが2000年から600年後。その間炭素は閉じ込められています。森林よりも貯蔵する量も期間もはるかに長いのです。分解されず海底に堆積したマリンスノーが、地殻変動で閉じ込められ、地熱や圧力の作用によって何億年という時間がたつうちに原油になったと考えられています。
  その海洋の植物の衰えが近年目立ってきています。例えば、「磯やけ」です。陸上の森林などとほぼ同じ量の二酸化炭素を吸収・固定化しているのですから、森林伐採と同じ効果をもたらします。人間の活動に伴ってでる二酸化炭素の半分から三分の一は海洋の植物が吸収・固定化していると試算されています。海洋の植物が衰えは、吸収量の低下であり、吸収されない分が大気中に残り大気中の二酸化炭素濃度の上昇になります。
  沿岸岩礁域には、波打ち際から最も深くとも水深30mほどまでの海底に藻の群落、海中林と呼ばれる褐藻群落が形成されます。新潟県の沿岸では、ホンダワラ類で主に形成されるガラモ場がみられます。佐渡真野湾や加茂湖などでは、アマモ類が主のアマモ場がみられます。
  沿岸岩礁域の面積は海全体の0.1%にすぎませんが、海中林は生産性が高く、生産量では海全体の10%です。海洋全体が同化している二酸化炭素の約3~5%が人間が出すものですから、海中林が半分なくなれば、人間の出す二酸化炭素は海洋に吸収されないのと同じ結果になります。また海中林は、エビ・カニなど甲殻類やメバル・カサゴ・アイナメ等魚類の採食、逃避、産卵、稚仔あるいは一生を通しての生息場となっています。また、アワビ、サザエ、ウニなどは海中林の藻が食物。さらにそれらを求めて海鳥、ラッコやアシカが大量に集まる。海中林は、地球上で最も生産力が高い豊かな場所なのです。海中林は今、世界中で急速に消えつつある。オーストラリア・タスマニア島のジャイアント・ケルプ海中林は1950年代の面積の5%にも満たないそうです。
  新潟県では昭和30年代前半に、三面川河口周辺域でテングサ場が激減したことがあります。これは、三面ダムから放出された微細な泥を含む濁水の影響であろうと推定されています。その後、海藻類の減少や"磯焼け"は報告はありませんでしたが、平成年代に入って県下各地から海藻類が減少しているとの報告が新潟県水産海洋研究所に入るようになりました。このため、現況把握調査が県下各地で行なわれ地区によってその様態に差はありましたが、全般的に海藻類は少な目で、特に粟島西海岸、佐渡真野湾、能生鬼伏では"磯焼け"状態になっているのが観察されています。


アライグマのキャッチ&リリース ラスカルの末裔 [有機農業/食物にする生命との付き合い方]

№07-28 2007年7月小針店で印刷・配布した「畑の便り」の再録

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 先日、庭先に夜毎にアライグマのつがいが水を飲みに来る、床下に入り込んで巣を作ろうとしたお宅の話を聞きました。鎌倉市などでは野生のアライグマが民家の屋根裏なんかに住みついてしまい、オシッコが漏れてきたりして困っています。それで、家人が床下に木の柵を設けたりしましたが、破られてしまったそうです。防護柵は工務店に依頼し、一方、新潟市に相談。市は駆除業者を紹介したそうです。

  業者は、床下に忌避剤を散布し、住み着いていないのを確認。新潟市では、捕獲するには許可を得るのに10日余りかかる、捕獲しても新潟市外に放すことになると話したそうです。つまり、余所へ行くのを待つのが新潟市のやり方というわけです。これって、凄く自分勝手な自己中な対応だと思いませんか?

 ブラックバスとラスカル
 ラスカルは北米の野生に戻れたが・・
「命を大切に」というのは当然だけど
 ブラックバスはキャッチ&イートにすべきではなかったか。

ブラックバスとラスカル

アライグマは、ブラックバス、魚、エビ、カニ、カエル、イモリ、ネズミ、鳥など、動くものなら何でも食べる肉食魚で湖や川の在来

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の生き物を食い殺すので問題になったブラックバスと同様に、「放置しておくと分布を拡大しながら様々な被害を及ぼすおそれがある」動物で駆除、防除の対象です。特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律で特定外来生物に指定されています。この外来生物法を所管する環境省は、「今後生物が殺処分されるという事態を繰り返さないためにも、みんなで外来生物を放したり、逃がしたりしないように注意していくことが大切です。」といっていますが、発見したアライグマを捕獲せずに逃がしたり、捕獲しても新天地に放したりするのは、法の目的や精神と大きくかけ離れてはいないでしょうか?野生のアライグマは捕獲せずに逃がす、万一、捕獲したら新天地に放す順法行為が生息域を広げているのではないでしょうか。けれども、新潟市のやり方は環境庁のガイドラインに従った適法なものなのです。

   ブラックバスは1925年(大正14年)に、神奈川県芦ノ湖に87匹を放流されたのが始まりで、当時から、ブラックバスは肉食魚で、むやみに放流すると在来魚に影響を与える危険性があることが知られていので、他の水系と隔絶されていた芦ノ湖が、繁殖しても他の水域まで広がる恐れがなかったので放流先に選ばれました。1964年までは、バスの生息分布は、わずか5県。ところが、1970年代に入ると、ルアーフィッシングブームが起こり、ブームに歩調を合わせるかのように、ブラックバスは急激に生息地を拡大、今や日本全国バスのいない都道府県は一つもなくなっています。  

 バス釣りブームを大きくした「広告塔」はSMAPの木村拓哉とコピ-ライタ-の糸井重里。糸井は「バスが日本の湖にいること自体が不自然ではないのか」との質問に対して「日本という国は島国ですから、魚の進化がある程度で止まっているんですね。バスというのは少し頭のいい魚なので、その位置にいる魚がいなかった。王座が空いていたんです。そこにバスが増えたっていう現象なんですね」と答えています。

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頭のいい魚なので歩いて他の河や湖へ移ったり、四国、九州、北海道に海を越えていったとでも言うのでしょうかね。人間が放流、川や湖で捕らえた(キャッチ)したバスを、釣り場を増やすために棲息していない湖などに放流(リリース)した結果です。バス釣りブームに浮かれた人間が生息域を広げたのです。アライグマは、野生のアライグマは捕獲せずに逃がす、万一、捕獲したら新天地に放す順法行為が生息域を広げているのではないでしょうか。

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1977年に、フジテレビ系で放送されたテレビアニメ『あらいぐまラスカル』が日本に北米、南米からアライグマを呼び寄せました。当時、年間約1500頭、総計で約2万頭輸入されたそうです。アニメは最終的には、1年後に飼い主の少年スターリングはラスカルを育てることができずに森の中に放ち野性に返して終わります。 
 
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横浜市の野生アライグマ 
 
  実物のアライグマも見る分にはカワイイのですが、大きくなるにつれ凶暴になり、飼育者は噛まれたり引っ掻かれたりといったケガは日常茶飯事(しかも猫よりはるかに力が強い)、ペットしては『絶対に向かない』(天王寺動物園)。原産地の北米では、食い物がなくなると猫やジャーマンシェパードを襲って食うそうですから、犬や猫を飼うつもりでは飼えません。軽い気持ちで野生動物のアライグマを飼ってしまった人々が、飼いきれないといって捨ててしまったのです。そんなアライグマ達が着々とその数を増やしてるのです。
 

小池文人(横浜国立大学 大学院環境情報学)神奈川県周辺のアライグマの分布拡大予測より
分布拡大を始めて18~24年程度後のものか現在の分布に近いと思われる。逆算すると分布拡大を始めたのは1980年代前半になる。アライグマのアニメがブームになったのが1970年代後半で、鎌倉で目立つようになったのが1980年代後半なので、無理のない時期である。神奈川県内のアライグマは1988年ころ鎌倉市で野生化したと考えられている。鎌倉から分布拡大した歴史を再現するシミュレーションを行ったところ、1986年に分布拡大を始めたと仮定した場合に現状の分布パターンとの類似度が最大になる。
 津久井町・相模湖町や相模原市などに現在分布しているアライグマは、鎌倉のものとは起源が違いそうだ。鎌倉からのみ分布が拡大したと仮定すると、実際のデータに合わない。 
 
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神奈川県外でも野生化しているため、この予想は楽観的な予測である(小池)
 
ラスカルは北米の野生に戻れたが・・

  ラスカルは、もともとアライグマの棲息している北米の森の奥に放たれます。そこにはアライグマの食物もあれば、営巣場所もあり、彼らを捕食し数を調整するピューマ(アメリカ山猫)などの天敵もいて生態系の中に位置付けられています。日本のアライグマを飼ってしまった人々が、スターリング少年を真似て放った日本の自然にはそれらはありません。アライグマは日本の生態系からはみ出しています。アライグマが北米の生態系で占める位置に、日本ではタヌキがいます。タヌキは、脅されると直ぐに気絶(タヌキ寝入り)する臆病な日本的な動物です。自然に任せ、猫やシェパード犬を襲って食うアライグマとタヌキが対決したら、タヌキ寝入りしたタヌキをアライグマが捕食してしまうでしょう。野生化したアライグマの放置とそれの繁殖は、日本のタヌキを駆逐し、日本の生物多様性を損なう結果になります。

  また餌を求めて農作物を食い荒らします。例えば、キツネなどが一匹でトウモロコシを食べた場合には、被害は1~2本トウモロコシが駄目になるだけなのに対して、アライグマの場合には、一匹で5~6本はダメにしてしまうそうです。このように、アライグマが及ぼす被害は生半可なものではなく、神戸市だけで1500万円は裕に超えています。模
また営巣場所を求めて、人家に侵入します。屋根裏からオシッコが漏れてきたり、京都では、清水寺など多くの寺社に住み着いて、文化財を破損し困っています。

アライグマの寄生虫が幼児に感染する恐れ 

 アライグマには、日本にはいない寄生虫が付いてます。例えばアライグマ回虫。この寄生虫、アライグマ自身はいても平気です。しかし、問題なのは、この寄生虫が人間にうつることよっておこる障害『アライグマ回虫幼虫移行症』 です。人間の腸の中での卵が孵化や外界で孵化した幼虫が侵入することではじまります。幼虫は腸壁を通って肝臓に達し、その後肺へ、まもなく脳に到達します。これらの幼虫は移行しながら2ミリまで成長します。サイズが大きいため生体組織に損傷を与えつつ、最終的に幼虫が宿主の脳に達すると炎症性反応を誘発します。現在ではいまだ治療法、人での駆除法はありません。
 
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  脳脊椎移行とよばれるこの症状は、足の麻痺や運動失調などの神経症。眼球部分に移動すると、視神経視力障害、ひどくなると人間の失明。北米では、アライグマ回虫感染が原因とみられるヒトの重症脳障害患者の報告は12例〔内3名が死亡〕。そのうちの10例は6歳以下の小児。脳の比較的必須部分ではない部位に幼虫が入った場合や幼虫が筋肉内や結合組織の中で「から」をかぶった状態になると、臨床上の兆候を示さない、発見できないので、感染数はもっと多いと見られます。
 
  アライグマ糞線虫という寄生虫は、激しい皮膚炎をおこします。これは、日本で野生化したアライグマで見つかっています。アライグマ回虫は動物園や飼育施設で見つかっています。野生化したアライグマでは見つかっていませんが、これは調査数が少ないためと見られます。どちらも、成熟した虫が多いときには数十万個もの卵を消化管の中に生み、糞と一緒に排泄されます。卵はいろいろな消毒処理を行ってもなかなか死滅しません。
 
また、卵の外皮はどんな表面にも付着する性質があります。こうした卵または外界で孵化した幼虫で人間に感染します。北米の例では6歳以下の小児の感染例がおおいのは、子供はものや土によくさわりますし、汚れた指を口に入れることも多いからです。つまり日本では、主にそのターゲットとなるのは、野生化したアライグマの生息する地域で遊ぶ、よちよち歩きの子供達です。アライグマ回虫幼虫移行症には治療法はありません。ですから、予防はアライグマを住まわせない。アメリカでは不可能に近いことですが、日本ではまだ可能です。また、アメリカでは狂犬病を運ぶ、媒介することが知られています。の

国立感染症研究所の「アライグマ回虫による幼虫移行症」 http://idsc.nih.go.jp/idwr/kansen/k02_g2/k02_42/k02_42.html 

「命を大切に」というのは当然だけど

アライグマが悪いのではありません。もともとの原因が、人間であることは間違いありません。でも、だからこそ、後始末も私たち人間がが責任を持ってつける必要があります。アライグマをペットで購入し飼育していた人で飼いきれなくなった時に、捨ててしまった。本人とすれば野生に戻す少年スターリングを真似て、命を大切にして自然に放したつもりでも、日本の生態系・自然では、先住のタヌキを駆逐します。生物多様性を脅かしてしまう。「命を大切に」というのは当然だけど、こと移入した外来生物については残念ながら例外なんだ、殺してでも排除しなくてはダメな場合(特定外来生物)があるんだ、という考えが外来生物法の根底にはありますが、環境省は骨抜きにした運用を何故するのでしょうか。ま
 

横浜国立大学大学院、環境情報研究院の小池文人(准教授)は、神奈川県でのアライグマの分布拡大予測を行い、この分布拡大予測をもとに、県での根絶の最適戦略を検討しています。

 「県内の5個の地域個体群に対して、どのような組み合わせで根絶することが望ましいのか最適戦略を求めた。この評価では(根絶のあとt年後の効果)/(根絶作業のコスト)の比を最適化している。その結果、近い将来(20年以内)を考えると周辺の孤立した個体群の除去が最もコストパフォーマンスが良く、20年から50年の中間的な将来を考えると分布域の周辺の個体群(津久井町~真鶴町)を全て除去することが最適である。また50年以上先の遠い将来を考えると全ての個体群を除去するのが最もコストパフォーマンスの良い戦略となる。ちなみに現在最も被害の大きな中心の個体群(三浦半島)のみの除去はコストパフォーマンスが最も悪い戦略である。

  分布拡大を阻止するための駆除事業は、現在の狭い面積の除去が将来のより広い地域のアライグマを減少させるため、投資と見なせる。投資の利回りを計算してみると、長期国債の利回り1.9%よりもよりも高かった。このことは債券を発行しての根絶事業が経済的には十分に有利であることを示す。逆に事業を行わなかった場合は、年利30%などの非常に高額な負債を負っていることに相当する。大きな地域個体群を取り除くことは困難な事業であるが、孤立して存在する小さな野生化個体群を取り除くと、分布拡大速度を効果的に下げることができる。たとえ将来の分布拡大を阻止できなくても、経済的なメリットは十分にある。

ところで根絶のコストには、社会的には費用の他に駆除される動物の命のコストがあると考えても良いのかもしれない。動物の命を奪うにはだれでも心理的な抵抗があるし、特にペットとして飼育されていた哺乳類は心理的な抵抗が大きい。早期の根絶で費用のコストを減らすことは、命のコストを減らすことにつながる。」
 
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 ブラックバスはキャッチ&イートにすべきではなかったか。

   これまで地域にいなかった生物がその地域の自然に侵入すると、自然がそれまでと比べて大きく変化したり、経済的な被害やヒトの健康被害がおきることがあります。これを生物侵入リスクといいますが、有害な化学物質の放出などと違い、たとえ少数の個体の侵入であっても生物が繁殖・増殖し生物の導入をやめても時間と共に影響が拡大すること、いったん広範囲に分布が拡大すると、幸運な例外を除いて元に戻すことができません。このようなことを起こすのは、これまで生息していなかった生物が他の地域から侵入する外来生物と、遺伝子組換えによって人工的に新たな生態特性を獲得した遺伝子組換え生物です。
  現在の時点では外来生物の事例が豊富で多くの知見が蓄積されています。遺伝子組換え生物は、今のところ人工的な遺伝子を持った植物が野外で成育しているのが見つかりはじめた段階です。
 
  生物侵入によって起きる生じるうる困り方の程度(影響の大きさ)をハザード・災厄といいます。その困った事が起きる確率を(狭義の)リスクといいます。ハザード・災厄×起きる確率(期待値)を(広義の)リスクといいます。遺伝子組換え生物は、ハザード・災厄情報も起きる確率(狭義の)リスク情報も不十分で、(広義の)リスク情報は不確実性が高い。一方、アライグマの日本への侵入リスクは、ハザード・災厄情報は十分ありますが、日本で起きる確率は農作物、人家への侵入のように現に起きているものから、生物多様性の毀損、寄生虫などの客観的な情報が十分とはいえないものまであり、(広義の)リスク情報は不確実性があります。同じ外来生物でもブラックバスは既に生物侵入災害が発生しており、ハザード・災厄情報は十分で確率は1、でリスク管理の手法の妥当性が問題になります。
 
  ブラックバスに対しては、キャッチ&(その場での)リリースのバス釣りの容認と自治体などによる捕獲と殺処分が併用されています。アライグマの捕獲の場でのリリースと自治体などによる捕獲と殺処分というやり方は、素人が捕まえるのは危険ですから当然にキャッチ禁止をしただけで、ブラックバスと基本的に同じです。ご存知のように、このやり方でブッラクバスの侵入災害は減っていません。リスク管理に失敗しています。このような手法をとるに至った経過、リスクコミュニケーションを省みれば、遺伝子組換え生物やBSE、アライグマのように、少なからぬ不確実性が(広義の)リスク情報にあるものでの、適切なリスク管理を選択できるリスクコミュニケーションのあり方が分かるかもしれません。  


温暖化と小麦 地球温暖化で、安価な肉の大量消費に赤信号 [有機農業/食物にする生命との付き合い方]

2005年11月14日小針店で印刷・配布した「畑のたより」の再録

 11月の北海道の竜巻は、日本海の海水温が高く水蒸気の発生が例年より多く、低気圧に多くのエネルギーが供給されたからだそうです。

 地球温暖化と言うと、私たちは気温の上昇に目がいきますが、より温められた海水による影響に注目すべきです。太平洋の赤道域で海水温が上昇する「エルニーニョ現象」はよく知られていますが、それで日本のウドンの味が変わり、牛肉などの供給不安定になりそうです。

 エルニーニョで、讃岐ウドンの味が変わる?

 日本向けの牛肉が不足?

  米国でも飼料・穀物価格が上昇

  飼料を輸入に頼る日本で、エコロジカルな畜産とは?

 エルニーニョで、讃岐ウドンの味が変わる?

 太平洋の赤道域で海水温が上昇する「エルニーニョ現象」は、様々な気象変動をもたらしますが、過去にエルニーニョ現象が本格化した際には、豪州では東部を中心に深刻な干ばつに見まわれたケースが多く、今年も例外ではありませんでした。穀物や牧草などの質や量で大きな影響を受けています。小麦が前年度比62%減の955万トン、大麦が同64%減の359万トン、菜種が同69%減の44万トンといずれも前年度に比べ半分以下となっています。(豪州農業資源経済局(ABARE)10月27日発表)

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 菜種は搾油の中心地である豪州東部で被害の程度が大きくなっています。虹屋の扱っている缶入りのナタネサラダ油の原料は、非遺伝子組換えのオーストラリア産です。主な産地は南部のカンガルー島ですが、国全体、南オーストラリア州で干ばつ被害を受けているのですから、影響がないはずがありません。価格上昇や不足が懸念されます。

  オーストラリアは世界第二位の小麦輸出国ですが、今年は前年度比62%減ですから、世界の小麦在庫は25年ぶりの低水準となる見通し。国際価格は高騰して、10年ぶりの高値(5ドル/ブッシェル約35リットル、約27kg)、豪州では前年の約2倍になっています。年明けから、米国、イギリス、アルゼンチンなどから輸入するそうです。

  オーストラリア産小麦は日本の輸入量の約2割を占め、オーストラリアは在庫分を取り崩しても日本に輸出するといっていますが、どうなることやら。量は確保できたとしても、質的には部分的には影響は避けられない見込みだそうです。一番、懸念されているのが「うどん」への波及。日本のうどん原料は、大半がオーストラリア西部で栽培されるオーストラリアン・スタンダード・ホワイト(ASW)小麦。うどん適性の高い品種をブレンドしたもので、歩留まりや粉の粘り具合がよく、白いのが特徴。100万トン近くのASWが日本国内で消費され、うどん業界によると、「他国産では代替できない」とされています。作柄が悪いとか、保存状態が悪いと小麦中のたんぱく質含有量が変化して、品質面で悪影響があるそうです。

日本向けの牛肉が不足?

  干ばつで餌となる牧草の量や質が低下し、羊の毛も細く弱いものになり羊毛の一割減産や品質低下を招いています。そのため中国産やインド産の毛織糸が2割程度上がっているそうです。豪州国内ではラム肉が値上がりしてます。

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  オーストラリアの肉牛は、牧草を餌とする牧草肥育が中心です。干ばつで牧草が育たず水も少ないため、やせ細るなど生育状況が悪化しています。家畜が飲む水もなく家畜を抱えきれず手放す酪農家が増えています。一旦破壊された牛・家畜群の再建には時間がかかりますから、将来は日本などの増大する牛肉需要も満たせなくなるだろうとみられています。

  また、日本向けには牧草肥育後、フィードロットで小麦などの濃厚飼料を与え、霜降り肉にし、大きくした牛が好まれます(枝肉で290kg程度)。ところが濃厚飼料になる穀物価格も上昇して、飼育頭数を減らしたり、肥育期間が短い米国・韓国・国内向けなどにシフトしています。日本向けの減少や価格上昇がおきています。価格は、現在前年比20%高。量的には20%減の見通し。
  日本のチーズは8割以上を輸入し、そのおよそ半分は豪州産。日本の乳業メーカーは世界的なチーズ原料高を受け、今年初めに相次いでチーズ製品を値上げしたが、豪州産の供給が滞れば一段の引き上げを余儀なくされます。
 
米国でも価格高騰

 このような異常気象の影響は米国でも起きています。中西部から平原地域にかけて干ばつ被害は、ここ数年来の大きな問題となっており、11月の中間選挙を前に米国農務省は9月に30州の生産者に総額7億8千万ドル(913億円)の緊急救済措置を実施しています。畜産関係では飲み水確保に要する経費や飼料生産の減少による飼料購入費などの生産農家への給付金です。
 また異常気象の影響で、トウモロコシの価格が急騰しています。1ブッシェル(約25・4キロ)当たり、去年は2ドル台、今年に入って2.5ドル台で推移していました11月にはいって3・5ドルを記録。アイダホ州で4000頭の牛を飼う畜産農家は、これまで年間飼料代が600万ドル程度だったが、今年は数十万ドル増加する見込みで、こうした畜産農家にとっては深刻な問題になっています。日本の畜産も同じです。飼料用トウモロコシの殆どを輸入していますから、卵や肉の生産費に直接影響し、価格に跳ね返ってきます。
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 「コーンベルト地帯」と呼ばれる米中部などの主要生産地にここ数年、日照り・干ばつが続いています。さらにブッシュ大統領が打ち出した新エネルギー政策でエタノールとガソリンを混ぜた燃料の普及を急ピッチで進めており、エタノール原料としての需要が拡大しています。地球温暖化が進み海水温上昇すると熱帯性低気圧、台風・ハリケーンが増大・強大化します。昨年のハリケーン・カトリーヌでメキシコ湾岸の製油施設が被害を受け、石油価格が高騰し、その後も様々な要因で石油価格は高止まりしています。この対策としてガソリンに代替する燃料としてトウモロコシを原料とするエタノール(エチル・アルコール)燃料の増産を打ち出したのです。自動車産業の父と呼ばれたヘンリー・フォードが初めてT型のフォードを設計した際、主な燃料としてエタノールを考えていました。しかし、エタノールはエチルアルコールつまりお酒の中のアルコール分ですから、には,当時高い税率が課されたことから,1919ー
年製T型フォードの燃料としての使用は断念されました。その後、1973年の第1 
次オイルショックを契機に再び脚光を浴び、90年代に空気清浄化改正法によって、排気ガスの一酸化炭素濃度を下げるなどの目的でガソリンにブレンドするエタノールの需要は高まりました。そして、今年になって燃料として本格的に注目されたのです。
 
 ガソリン価格とエタノール価格は連動しています。原油価格が高止まりしガソリン価格がこのままなら、エタノール原料としてはトウモロシ価格は4ドルまで上がりうるといわれています。
  このトウモロコシ価格急騰の影響で、来年の米国産大豆の作付けが減少すると見込まれています。従来、トウモロコシは大豆の40~30%くらいの価格で推移してきましたが、11月7日時点で50%前半になっています。トウモロコシと大豆の両方が作付け可能な地域では、割高になったトウモロコシを来春には栽培した方が有利です。日本が輸入する大豆の減少や価格上昇を招く可能性が大きいのです。大豆や油を絞った大豆粕は、飼料や醤油の原料になっています。

日本の畜産にも構造変化が必要

  11月10日の気象庁の発表では、太平洋の赤道域で海水温が今も1度以上も高い状態でエルニーニョが起こっています。温暖化が進めば、穀物不足・価格高騰は今後ますます頻繁になり、強度を増すでしょう。燃料用需要の増大がこれに拍車をか
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けます。金さえ出せばオーストラリア、米国などからの輸入で牛肉を大量に食べ続けられる大量消費の時代も長くは続かないでしょう。日本の畜産は、米国などからの輸入穀物=濃厚飼料を与える畜舎飼いが主流ですから、その影響から逃れることはできません。

  虹屋の畜産物は、飼育地で入手できる飼料を可能な限り与えるようにしています。例えば大月の宮尾さんの卵は、有機米、低農薬米のくず米などを与えています。北海道の興農牛は、牧草は全て自家農場の有機牧草。穀物飼料は、道内産を中心としたくず小麦、屑米、でんぷん粕、米ぬか、砂糖大根粕を混合した発酵飼料を作り、非遺伝子組み換えのトウモロコシを加えています。こうした取り組みは、飼料が有機認定品とは限りませんから、有機の畜産物にはなりません。有機畜産物にするには、輸入の有機飼料に依存するしかありません。

 虹屋は、家畜の生理・生態に無理をかけない飼い方で、飼育地で入手できる飼料を可能な限り与えるようにした畜産物の方が、輸入に依存する有機畜産物より日本ではエコロジーだと考えますが、いかがでしょうか?


希少な国産はまぐり ハマグリを通して見る海と食の未来(下) [有機農業/食物にする生命との付き合い方]

畑の便り  №06-13 2005年4月28日小針店で印刷・配布したものに加筆

  日本では、国内のハマグリ資源がほとんど底をついているのに、スーパーでは大量のハマグリが売られています。そのほとんどは、大陸(中国、北朝鮮、韓国)から輸入されたシナハマグリやシナハマグリを蓄養(一定期間、いけすや干潟などで蓄え飼育すること)したり、放流していたものです。シナハマグリの小売価格は、地ハマグリ(国産のハマグリ・チョウセンハマグリ)の半値以下。
アジアの浅瀬と干潟を守る会の山本茂雄さんによれば(2005年3月のハマグリ調査のよびかけより)http://www.isemikawa.net/contents_b/archives/2005_3_2_42.html

店頭に並ぶ輸入ハマグリ類は、限りなく100%に近い精度でシナハマグリです。

中国自身の自国の消費が多くなったことと、日本に倣って埋立やダム建設を急ピッチで行った結果、輸出余力はきわめて小さくなり、現地で蓄養をしていない中国産を見つけることも、むずかしい時代になりました。エビ池での蓄養は、身が痩せてしまい、業界で言う「バクダン」が多く混ざってしまう消費者泣かせ・業者泣かせの粗悪品を産出してしまいます。これを使わない限り現在のような価格帯で需要を満たすことはできません。
しかも、主要な流通経路を記せば、

北朝鮮南甫(ナムポ)→中国蓄養池→大分県沿岸(直播放流の場合)→*→量販店
          ↓
          全国各地の旧産地問屋→*→ 量販店

 北朝鮮南甫は、東アジア唯一の輸出余力のある産地です。かつては*市場関係が関わって、まさにここにプロの目が光っていました。現在では市場外流通とか、”中抜き”と言って、商品知識の乏しい方々が一人で他品目の商品を大量に取り扱っています。*には何も介在しないことが多くなりました。デフレを起こすほど低価格にはなりましたが、絶滅していないものまで販売しているのが現実です。

 おまけですが、昨年の夏名古屋市博物館で催されていた「名古屋の漁師町下ノ一色展」で展示してあったハマグリの貝殻はすべてシナハマグリでした。

 豊橋市自然史博物館の展示物もハマグリと表示してある展示物(貝殻)もシナハマグリです。この二つの例は企画担当者が違いをわかっていても、展示するための貝殻すらも調達できないほど資源(貝殻すらもないくらい個体数)が減少しているのが現実なのです。

 全84商品8都道府県(5日集計現在)
宮城・千葉・東京・神奈川・愛知・三重・熊本・福岡
「○」表示名ハマグリがハマグリ(国内種)だった商品・・・4
「△」ハマグリが若干混ざっていた商品・・・・・・・・・・1
「同定中」・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3
それ以外は、シナハマグリか外洋性のチョウセンハマグリ

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今年は、北朝鮮産アサリの偽装がテレビ等で騒がれているので、スーパーの仕入れ担当者は大変苦労したと思います。ものめずらしいミスハマグリ(ベトナム産)や千葉県産?のチョウセンハマグリ(外洋に面した砂浜に生息)が店頭に並んでいたのと対照的に、おなじみの北朝鮮産中国エヒ養殖池蓄養品は発見できませんでした。必ずお隣に並んでいるアサリ・シジミも同時にチェックしました。さすがに愛知県です。1店舗を除いては、愛知県産のアサリがまじりっけなしで売られていました。こういうところで、干潟保全の成果を実感できるのです。矢作川河口堰を作らなかったこと、幡豆の里山を空港に売らなかったこと、六条潟を埋め立てなかったことがすべてこの結果を生んでいます。流通関係者の皆さんも干潟保全活動に積極的な参加を試みて、少なくなり続けた身近な海産物を呼び戻す担い手になってもらいたいと思います。

 

 糸島の加布里湾の干潟

干潟に腰まで入り込んで、はまぐりを採捕しています。漁は干潮の時間に限られますので、みなさん集中です。 ↑加布里のハマグリ

→選別機

糸島漁協

http://www.jf-net.ne.jp/foitoshima/sigenkanri.htm

干潟は4~5mの干満の差があり昔からアサリやハマグリの貝掘りが行われていました。ところが一時期はほとんど獲れなくなってしまいました。平成8年頃から多数の稚貝が見られるようになり、そこで漁協は貝資源管理規則を定め資源回復に取り組みました。漁場を3分割して2箇所を順周して使用し1地区は1年間休漁にする輪採方式で、採取サイズ(5.5cm以上)や漁獲量(1人1日10㌔)。漁期は11月から4月までで、漁協で造った"フルイ"にかけて選別し金網から落ちた小さい貝や捕獲制限以上は干潟に戻します。また、組合員は干潟に散らばるゴミやカキ等の貝殻の除去清掃を定期的に行い、稚貝の育つ環境を人為的に作る努力をしています。その甲斐あって、平成12年には見事な天然のハマグリが甦りました。年間生産量11㌧のこのハマグリを砂抜き洗浄冷凍したものを扱うことが出来ました。

浜口昌巳(瀬戸内海区水産研究所)さんの見解
―ハマグリはどんな増え方をするのか。
  夏(六―八月ごろ)に産卵し、三週間程度の浮遊幼生期(プランクトン時代)を持つ。この間に潮の流れに乗って湾や灘単位の海域を移動しながら成長し、やがて本来の住処(すみか)となる干潟に着底(砂に潜ってすみ着く)する。基本的にはアサリも同じだが、ハマグリの方が、移動分散能力が大きく、河口干潟への依存度も大きいのが特徴だ。

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 ―生育にはどんな条件が必要か。
 浜口 着底しやすい場所は泥分が少なく、淡水の影響を受けやすい低塩分の細砂底、つまり、河口に近くて、サラサラした砂の多い干潟。河口から強力な干潟が出ているような場所だ。アサリはハマグリに比べ、泥分の多い干潟を好む。

 ―ハマグリ、チョウセンハマグリ、シナハマグリの違いは。
 浜口 ハマグリは内海型、チョウセンハマグリは外海型で日向灘や鹿島灘などで見られる。いずれも、もともと日本に生息。中国や韓国から輸入されるシナハマグリは、ハマグリと非常によく似ている。父母が浜の種はハマグリだ。

 ―父母が浜でハマグリが増えている原因は。
 浜口 海の水質がよくなっていることに加え、天然に近い河口干潟として浜が残っていたため、安住の地を求めてさまようハマグリの眼鏡にかなったこと。ちょうどよい河口干潟があっても、ハマグリは自力では移動できない。その浜に向かう潮の流れも重要になるだろう。

 ―父母が浜では、さまざまなサイズのハマグリが見られる。
 浜口 資源の再生産、浜への着底がうまくできている証拠だ。近くの海でハマグリを放流しているとのことだが、放流サイズより小さな貝も見られることから、影響はまずないと考えてよい。今後はどこで再生産し、どういうルートで浮遊してくるのか、稚貝がどこにどれだけ分布しているのかなど調査が必要だ。

 ―どのような視点が大切か。
 浜口 重要なのは、一つの浜だけで再生産が行われているのではなく、複数の浜が相互に補完し影響し合い、“幼生ネットワーク”を形成していることだ。父母が浜の状態が現状のまま保たれていても、幼生の供給地となる場所が失われれば、ネットワークが衰退し、新たに父母が浜に加入してくるハマグリの個体数が減っていく。父母が浜だけでなく、燧灘全体で現状をとらえ、見守っていく必要がある。

 ―今後、われわれはどう、父母が浜と向き合っていけばいいのか。
 浜口 あくまで自然体で、これまで通りでいいのではないか。強いて挙げれば、浜を汚さないこと、少なくとも現状を維持していくこと。資源を採り尽くさないことも大切だ。アサリは条件さえ整えば、爆発的に増えるが、ハマグリはほそぼそとしか増えない。瀬戸内海は数百年、数千年単位でさまざまな種がすみ分けてきたし、増減を繰り返しながら多様な生物をはぐくんできた。人間のエゴで環境を変えたり、特定の種を増やすのではなく、現在の海の状態にあった生物が自然に生きていけるよう、われわれ人間が場を整えてやることが大切だ。
 
2006年4月28日印刷・小針店で配布した畑の便り 
 

希少な国産はまぐり ハマグリを通して見る海と食の未来(上) [有機農業/食物にする生命との付き合い方]

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畑の便り  №06-13 2005年4月28日小針店で印刷・配布したものに加筆
 
 ハマグリ、日本人には8000年前から親しまれた食材が、今や消滅寸前。
この春に福岡県糸島の加布里湾で獲れるはまぐりを、扱うことが出来ました。地元の漁師さんが手作業で獲り小さいサイズのものは浜に戻すという、正真正銘の国産天然はまぐりです。砂抜き、洗浄、凍結処理して、旨みと鮮度をそのままにお届けします。
 
焼き蛤の桑名の現状
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  蛤(はまぐり)は、日本をはじめ東アジア周辺の人びとには非常に身近な食材です。日本各地の貝塚からも多産し、日本では約8000年前の縄文時代の頃から日本の多くの地域の人びとがその恩恵を受けてきました。しかし、埋め立てによる干潟の消失や海洋汚染に伴い、1980 年代以降、内湾性のハマグリが激減しました。かつて日本中の津々浦々に生息していたハマグリは、ほとんどの地方で消滅もしくは消滅寸前で、100 羽いたトキが5羽になったと喩えられる絶滅危惧種なのです。鹿島灘が主要な産地である外洋性のチョウセンハマグリも、汚染の影響を受けにくいのですが、それでも減少しています。
 
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Meretrix lusoriaハマグリ
:本州以南~九州・韓国南岸に分布。河口や内湾の干潟に生息する内湾性のハマグリ。日本在来種。

Meretrix lamarckii チョウセンハマグリ
:本州以南~種子島・韓国・台湾・東南アジアに分布。外洋に面した砂浜の低潮帯~潮下帯に生息する外洋性のハマグリ。日本在来種。

Meretrix petechialis シナハマグ

リ:朝鮮半島西岸~中国大陸に分布。内湾の干潟に生息する。日本には自然分布していなかった種。現在、日本に大量に輸入され消費されており、養殖や放流によって国内でも生息が確認されることがある。

 

 他に台湾以南~東南アジアにはタイワンハマグリ M. meretrix、ミスハマグリ M. lyrataなどが分布する。

 


種無しぶどうの余りに不自然な作り方(下) [有機農業/食物にする生命との付き合い方]

畑の便り  №05-42 2005年10月11日小針店で印刷・配布したものに加筆 

何故、バナナに種がないのか? 3倍体
単為結実 柿やみかん
以上は(上)

ホルモン剤による処理 種無しブドウ

植物ホルモン剤で人工的に単為結実を起こしてつくるのが種無しブドウです。ジベレリン(GA剤)、サイトカイニン(BA剤・ベンジルアデニン)などです。受粉と種子が出来るまでのプロセスは、大雑把に見ると、めしべの先端の柱頭に花粉がつきます(受粉)。やがて、花粉は発芽し花粉管をめしべの中に伸ばします。子房の中の胚珠に向かって花粉管が伸びてゆき胚珠の中の卵細胞の核と、花粉管の中の精細胞の核とが合体(受精)して受精卵になり胚珠は成長して種子になります。

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 ジベレリン処理は、2回行います。1度目は、種無しにする為に行います。2回目は果粒の肥大化と着色促進の為行います。1度目は、葡萄の花が満開になる2週間前、2度目は、開花10日後に行います。

 花が満開になる前の1回目は、受粉・受精がすんだとブドウの樹をだますためです。1度目のタイミングがとても難しく、早いと、実がつかなくなり(花ぶるい)、遅いと種が入ってしまいます。しかも処理後8時間の間に雨が降ると再処理になってしまいます。自然の状態では、受粉すると、めしべの中で植物ホルモンが盛んに生成・分泌されます。これら植物ホルモンや花粉・花粉管から分泌する酵素の働きで、次の段階へ進みます。受粉しないとこれらが働かないため、例えば花と茎の間に離層ができて、落ち葉のように受粉・受精していない花は落ちてしまいます。

 処理は、ジベレリン溶液(100ppm)をコップに入れ花房をよく浸します。こうして人為的にホルモンを投与して、受粉が済んだと騙すわけです。処理をした房としない房を見分ける為に 溶液に食紅で赤い色をつけておくので、ジベ処理の後は、顔や手が、真っ赤になり大変だそうです。

 受精した胚珠(種)の発育によって生成される様々な物質、特に植物ホルモンの働きで果実の発育が促進されます。単為結実の八珍柿では、種がないためこれらの物質ができません。それで開花後10日頃~20日にかけて大量の幼果が落ちます。生理落果といいますが、果実が大きくなる過程で大量の栄養分を必要としますので、本来は種子の出来ていない果実は速やかに分離するのが、種子を効率的に残す為に必要なメカニズム・生理なのです。

 種無しブドウでは、開花後10日位に2回目の処理で人為的にホルモンをあたえるのです。

余りにも不自然、味(栄養)が劣る

 昭和33年くらいに種なしデラウェアーのが、初出荷され 今ではデラといえば、種なしがあたりまえになりました。最近では、ジベ処理を行った種なしの巨峰や、ピオーネも出荷されています。出荷時期は、種ありに比べ1週間くらい早くなり 種なし巨峰は、お盆前に市場に出回っています。種なしにする方が、実がつきやすく栽培が楽なことから最近では、種なしが、主流になってきています。

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 食べやすさ、外観は、良いです。しかし味では、ジベ処理した葡萄(種なし)は、しないものに比べ、甘味が落ち やや味も薄い感じがします。いわば、成長させたというよりも、膨張させたという感じで、栄養としては今ひとつ。梨ではジベレリンを熟期促進にを使って15~5日ほど早めに出荷している産地もあります。その年の気候などによりますが、糖度不足や食味低下を指摘されています。

 もともと種ができる品種です。種を遠くに動物に運ばせるために、種の周りに甘くて美味しくて栄養のある果肉をつけるのです。肝心の種も作らせずに、果肉だけ作らせるとは、ご無体なという作物の声が聞こえるようです。

 ジベレリン、サイトカイニンはホルモンでも植物のホルモンです。それで、動物・人体にはホルモン作用は無いと考えられていますが、本当のところは不明です。植物ホルモンの農薬には、2-4Dなど製造過程で不純物でダイオキシンを含有するものがあります。

こうした物性、毒性は別にして、植物ホルモンをつかった種無し処理は、余りにも不自然です。

 農業は、不自然なものです。例えば、牛は1年中妊娠可能です。野生では仔の生育期に餌が豊富でなければなりませんから、そこから逆算される妊娠可能な期間はおのずから限定されます。家畜では、人間がケアするのでその制限がありません。また牛乳の生産を考えれば、年中泌乳=年中出産=年中妊娠可能の性質の牛のほうが人間にとって都合が良いのです。

 しかしその人間の都合を追求した不自然さが、ホルモン剤を投与しての肥育促進や泌乳量増大、はては肉骨粉による共食いに行き着いたら何がおこったでしょうか。狂牛病です。植物ホルモン剤による種無しブドウなどもそうではないでしょうか。栄養的にも問題があります。

  №05-42 2005年10月11日小針店で印刷・配布した畑の便りに加筆 


種無しぶどうの余りに不自然な作り方(上) [有機農業/食物にする生命との付き合い方]

種の無い果物、さわし柿、バナナ、種無しぶどうの作り方
畑の便り  №05-42 2005年10月11日小針店で印刷・配布したものに加筆 八珍など種無し柿の時季です。種無し柿の正式名は平核無(ヒラタネナシ)。原木は新潟県新潟市古田にあり、樹齢約320年、高さ16m、幹周り203cmの巨木で県指定天然記念物。明治初期、庄内藩家老職の酒井調良が苗木を庄内地方に持ち帰り産地化したものが「庄内柿」であり、昭和初期になって佐渡郡羽茂村農会技術員が庄内柿の穂木を佐渡島に持ち帰り産地化したものが「おけさ柿」です。様々な地域で栽培されています。
 他にもバナナ、パイナップル、ブドウ、西瓜などで種無しがあります。同じ種無しでも、種がなくなる仕組みが違います。

何故、バナナに種がないのか? 3倍体
単為結実 柿やみかん
 
以下は(下) 
ホルモン剤による処理 種無しブドウ
余りにも不自然、味(栄養)が劣る
 
何故、バナナに種がないのか? 3倍体
 
 バナナは種で増える増え方と、親株の根元から新しい芽を出してそれが育つ増え方の、2種類の増え方をする植物です。だから、野生のバナナにはもともと種があります。ウン千年前に種が出来ない品種が出現。それを株分けして増やしました。今の
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普段食べているバナナに種がないのは、その品種がご先祖だからです。これは3倍体化による種無しです。雌雄には同じ数だけの染色体があります。子、種には雌親から染色体1組と、雄親からの1組がきています。それで2倍体といいます。これが3組分あるのが3倍体です。相同染色体が奇数のため花粉などができる際の染色体の減数分裂がうまく出来ず、花粉や卵細胞が作れないために種が出来ません。ほとんどの食用種無しバナナは、これになります。自然の中では3倍体は種、子ができませんから1代限りです。人間が株分けして増やしたのです。その中で、突然変異で多少変わった品種ができてきます。それを、また人間が栽培して広める。そうした繰り返しで現在の栽培バナナの種類は出来上がっています。種無し西瓜は、芽のうちにコルヒチンという薬品で処理します。コルヒチン処理された花の卵細胞は、通常の倍の染色体を持っています。その花に普通のスイカの花を受粉させます。2+1=3で3倍体で種無しスイカができます。
 
 
 
単為結実 柿やみかん
 
 これに対して柿や温州みかんは、単為結実性(タンイケツジツセイ)によるものです。温州みかんは花粉の発達が悪いため受粉はするが受精できずに種が出来ません。種無し柿は、受粉がしなくても実がなります。受精しても、途中で種(胚)の発育が停止します。よく種のような平たい板状の物が実の中にありますね。甘柿の「富有」は単為結実力は弱く種子形成力が強いので、受粉することで実が着き、また受粉すれば種子が入りやすい性質があります。
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 パイナップルは花粉は正常でも自分の花粉では受粉できない自家不和合性のために種が出来ません。私たちが食べるパイナップルの実。実は花托(花床)という花の付け根の花の床の部分。パインは花が100個ほども集まった花房で開花します。花は株の中心から出る頭状について、紫色の小花をらせん状に付けます。花は自家不和合性のために種を作らずにしぼんでしまい、花托が肥大します。それがあの果面に並んでいる亀甲紋はそのひとつひとつです。それが結合して食べるパインの実になるのです。茎などのできる芽を人間が挿し木して増やしています。
 
(下)に続く 

母なる大地は、不潔で有害だから要らない! 増える野菜工場 [有機農業/食物にする生命との付き合い方]

畑の便り  №04-43 2004年10月19日小針店で印刷・配布したもの
 
カゴメ(株)の野菜工場
カゴメ(株)とオリックス(株)は、和歌山市の加太(かだ)地区に「野菜工場」、コンピューターで温度や水、日照などを管理する水耕栽培のハイテク温室、を建設し「こくみトマト」等のカゴメブランドの生食用トマトを生産する新会社「加太菜園」を8日に設立しました。
 
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  敷地は関西空港埋め立て工事の土砂採取跡地。所有する和歌山県土地開発公社は、ニュータウン建設とか言っていましたが、ほとんど売れ残り、438億円の借金を抱え、裁判所で棒引きの交渉中。その土地を和歌山県が1平米560円で借り上げ、カゴメらの加太菜園に100円で又貸する形で調達。それで、総事業費が47億円で済むので建設を決めました。
  第1期の温室面積は5.2ha、出荷開始は05年10月予定、年間出荷量は約1,500t、最終的には20.1ha、年間出荷量は約6,000t(国内産トマトの1%弱)を目指しています。
 
 現在、カゴメは広島県、高知県などの20余りの現地の農業生産法人に出資し「野菜工場」でトマトを生産、その法人からトマトを仕入れて販売するという形で生食用トマトを年間約7000トン扱っています。上のようなやり方で「野菜工場」を増やし2007年には約2万トン、国内産トマトの3%弱を扱いたいとカゴメは意気込んでいます。

増える水耕栽培、野菜工場・・そのルーツ
 
このような野菜工場は30余り。カゴメだけでなくセコムが宮城県でハーブ類、プロミスが北海道でレタス、サラダ菜、イチゴ、とまとなど、キュービーが福島県でサラダ菜、JFEステールが兵庫、茨城県などでレタス類など、殆どが大企業の系列です。また連作障害に悩んだ末に野菜工場ほど厳密に環境制御しない施設水耕栽培に取り組む農家も増えています。国内の水耕栽培面積は1000ヘクタール(2000年)。野菜全体の栽培面積はほぼ横ばいなのに、10年間で倍以上に増えています。
 
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技術的には、昭和六十年のつくば万博で展示された「水耕栽培で一つの種から1万3千個の実をつけたトマト・ハイポニカ」の延長にあります。ハイポニカを鳥山敏子氏(賢治の学校代表)のように「生命体は、潜在的に無限の可能性を持っている。その生物の持つ可能性を、引き出した姿」と賞賛した方もいました。映画「ガイアシンフォニー第1番」にも取り上げられていましたから、ご覧になった方も多いと思います。

母なる大地は汚くて有害という思想
 
その発展形の野菜工場の技術思想は、母なる大地は雑菌が多く汚くて有害、大地から切り離した方が作物の持つ可能性を引き出せ、栄養の高い安全な食べ物を生産できる、「有機農業は雑菌にまみれた農業、野菜・植物工場こそ、食の安全、安心と安定供給を両立させる生産手法(高辻正基・東海大教授)」。
 
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母なる大地は、菌類などの目に見えない微生物から様々な動植物が棲息しています。人間の目から見れば、兄弟分のこれらの生物には、病原菌や害虫のように害を及ぼす居て欲しくないものもあります。幼子が母を独占したがるように、人間も母なる大地が自分だけのためにあって欲しいと望みますが、母親がわが子全てを慈しむように、大地は人間に害を及ぼすものにも居場所を与えています。
 
 有機農業は、土作りなどで健全な作物を育て病虫害にかからないように工夫はしますが、害を及ぼすものを全滅しようとはしません。慣行農業は、化学農薬を使って皆殺しをめざします。温室などの限られた空間で同じ作物を育てる施設園芸は病虫害が出やすく蔓延しやすいので、露地に比べて1.4倍ほど使っています。
 
 施設中の土壌には有益な共生微生物もいますが病害虫が胞子や卵などで休眠して機会を窺ってます。また病害虫は換気の際や作業者に付着して侵入したりします。野菜工場では、土壌を排除し、養液・化学肥料を溶かした水で水耕栽培します。(日本での水耕栽培は、日本の農業が人糞を肥料としていたため不潔であるという理由で昭和21年に米国占領軍が大津市と調布市で始めました。)空調を行い外気は原則入れません。無人化=完全自動化はまだ無理で、現状では着替えなどで作業者をクリーン化します。このような閉じられた施設には微生物や害虫がいないので、高辻教授は「農薬もいらない」。

病虫害が一気に広がり全滅する悪夢
 
しかし完全に無菌状態ではありません。一般栽培に比べるとかなり低い数ですが菌が棲息しています。このため病虫害が発生します。例えば、カゴメ系列の高知県の野菜工場では、細菌による青枯れ病が発生しています。青枯れ病は根から病原菌が侵入します。ここの水耕栽培は養液・化学肥料を溶かした水が循環してますので、簡単に拡がってしまいます。それで3株ほど発生した時点で、3万5千株のトマト全てを抜き取り廃棄しています。このために生じた損失5000万円をカゴメは一文も負担していません。
 
 水耕栽培は養液を通じて病害虫が伝染し病気が蔓延しやすいという欠点があります。養液を使い捨てれば蔓延を防げます。そうするシステムもありますが、養液=液体肥料を捨てると環境汚染(富栄養化)を起こします。経費の面からも循環使用するシステムが多いのですが、それでは養液や栽培装置等を常時殺菌しています。紫外線や加熱など薬剤を使わない方法もありますが、効果の確実性や経費の点から何らかの薬剤を使うことが多いようです。栽培装置には、薬剤が使用されます。上の高知の野菜工場では、防除に農薬を使っています。
 
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設備費、電気・運転費など生産コストが高く、販売価格を高くしなければなりません。高値で売るための口実としての無農薬が選ばれています。露地栽培でも無農薬・有機栽培が可能なように、野菜工場、水耕栽培でも技術的には可能です。その代わり、病虫害で一晩で全滅の悪夢、多大な設備費を返済できなくなる悪夢にうなされますが・・

野菜工場は地球温暖化を激化する
 
また高辻教授は「最近、世界的に増えてきた異常気象。工場生産なので、天候に左右されない、季節に関係なく野菜の安定供給を可能にする。植物工場の普及は今後の社会では緊急に必要なことなのです。」 温度、湿度は暖房機やクーラー、光はガラス張りの天井から注ぐ太陽光が強すぎれば遮り、不足なら蛍光灯など人工光をともす、養液をポンプで循環させる。これらの機器はコンピュータによって自動制御。確かに天候、季節に関係なく栽培可能です。
 
 しかしこうした器機を動かすにはエネルギー、電気が必要です。茨城県の土浦グリーンハウス(JFEスチール系)ではグリーンローズ、ルッコラ、サラダ菜などに1株7~19円の電気代です。電気を食べて育つ野菜です。日本の電力の6割は火力です。野菜工場は普及し増えれば、その分石油、石炭を燃やして発電。つまり異常気象を増やす地球温暖化の原因となる二酸化炭素の排出がより増えます。また幾ら光や水分があっても、二酸化炭素がなければ光合成は行えず、野菜は育ちません。日を浴びるキュウリの葉10枚は1時間に1立米の大気中の二酸化炭素を必要とします。施設栽培では換気で流入する外気や土壌の微生物の呼吸で発生する二酸化炭素で補われてます。野菜工場では土壌微生物のCO2放出はありえません。外気も流入させません。それでプロパンガスや天然ガス、灯油を燃すなどして補います。こうして増えた二酸化炭素で異常気象が頻発し、野菜工場が増え、電量需要が増え、二酸化炭素排出がさらに増えて・・という悪循環、袋小路。
 
 それで頻発する異常気象の下で、野菜工場が建設できない貧乏国は、どうすればよいのでしょう?
 
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ノート 
2004年11月荷の日本植物工場学会のシンポジウムでの、小倉東一氏(植物工場普及振興会)の発表では、レタス、エンダイブなどの葉菜の生産費は、一株あたり100円前後。「ここ10数年ではっきりといえるのは、(温室など)施設栽培の2~3倍の売値確保が必要になるということ」
 
 調査は、振興会の会員企業からの聞き取り調査で、生産費の内訳は、電気代が28円、ほか肥料など直接的生産費が4円。販売経費が31円、人件費15円、設備の償却費が15円、補修、修繕費が7円、合わせて100円前後。
 野菜工場で生産された野菜は、ごみ、土が付着せず洗浄の必要が無いので、スーパーの売り場での下処理、外食店の調理場での下処理が不要になる。一定価格で安定供給が可能という特徴を生かして、書く野菜工場が外食産業と直接取引きしたり、洗浄の手間が要らない付加価値のついた野菜としてスーパーに直接販売したりして、一株150~200円の高値で売れる販売ルートを開拓しています。
 防除など運営実態は、企業秘密ということでほとんどわからなかったそうです。
 また、

水気耕栽培「ハイポニカ」 は協和(株)http://www.kyowajpn.co.jp/
発明者の現在は、野沢技研http://nozawagiken.com/
 「地球上の自然の阻害要因を取り除いた時、生命の高度な本質が見えてくる。」加太菜園はカゴメ(株)の発表 http://www.kagome.co.jp/news/2004/041013.html高辻正基・東海大教授の植物工場研究所 http://www.sasrc.jp/pfl.htm施設園芸の基礎知識は 岐阜大学、福井博一教授の講義内容 
 
以上  №04-43 2004年10月19日小針店で印刷・配布した畑の便り 



狂牛病と遺伝子組換え食品 有機農業と畜産 [有機農業/食物にする生命との付き合い方]

畑の便り  №01-41&40 2001年10月2日小針店で印刷・配布したもの
狂牛病と遺伝子組換え食品 有機農業と畜産 
二頭目の狂牛病発生騒ぎから 13日追加
 
10月12日、東京で狂牛病、厚生大臣の言を借りれば、「正確な確認はしていないが、(二頭目の狂牛病である)可能性は強い」牛が見つかったと発表されました。その日の深夜に、シロの確定診断が出て、一安心ということになりましたが、様々な問題点が浮かび上がりました。
 
 狂牛病の二頭目の発生は、予測されたことですから、余り驚きませんでしたが、開いた口が塞がらなかったのは、都は「(昼の)現段階では、どの個体から採取したものかわからず(どの牛が)不明」とした事です。問題の牛は、10日に東京・港区の都中央卸売市場食肉市場で解体された食肉牛、約300頭のなかの一頭です。仮に、狂牛病と確定された場合、どの牛がわからないのですから、確実に狂牛病を感染源となる食肉、内臓を確定できない。300頭の牛の全てを疑い、回収し、廃棄しなければならない。
 また問題の牛の産地、生産農家も判らないことになります。つまり感染源となった飼料も調べられない、判らない。だから同じエサを食べていた牛も判らないことになります。この300頭の牛は18の県などから集荷されたもの。どの牛か判らなければ、この18の県などの牛の全てを疑わなければならないことになります。
 
 そもそも、18日からと殺・解体される牛の全てで狂牛病の検査を厚生労働省が実施することになり、その検査法の研修につかわれた都の食肉市場から供された牛の脳から、陽性の反応が出たことが事の発端です。全数検査は二頭目三頭目の狂牛病の牛を見つけ出し、食卓に上がらないようにするためです。この研修に供された牛から、見つかる可能性は当然あります。ですから、見つかった場合、その牛の肉などの出荷・流通を止めなければならない事態は十分に想定できたことです。ところが、先ほど見たように全く備えていなかった。食肉では販売されていないだろうと言われていますが、内臓は既に販売されているそうです。これでは、全頭検査が18日か実施されても、販売される牛肉の安全は保証されるのか。また同じ騒ぎになるだけではないのか?
 
 農林水産省は、11日から、牛の出荷の全面停止を行政指導していますが、11日にもこの市場には牛が集まり、都営のこの市場は受け入れ、と殺し解体しています。単純に言えば、食肉市場に入る前は、農水省の管轄で、市場の門をくぐってしまえば厚生労働省の管轄になるのですが、これは余りに酷い。右手のやっていることを左手は全く知らない。となれば、頭が問題ですが、両省の上にいるのは、総理大臣しかいない。
 
その総理は、自衛隊を米軍に使わせる法案にかかりっきりで、国内の「すぐ目の前にある危機」の管理はどうなっているのか。両大臣を叱りつけたそうですが、叱るだけなら、このチラシのように私にもできる。厚生労働省は、18日からの全頭調査では、確定診断が出るまで公表しないそうです。今回の場合、10日にと殺されてから、確定診断が出たのは12日の深夜です。3日間。18日以降、この日数が短くなったとしても、食肉や内臓は、食肉市場の門を出て流通に乗っているのではないでしょうか。果たして、確実に狂牛病の牛が食べられる前に確実に回収できるのでしょうか。この「すぐ目の前にある危機」にどう対処するつもりなのでしょうか?
閑話休題。
 ともあれ、食べ物の安全は、その栽培、飼育、加工製造まで目を届けなければならないという事を今回の狂牛病事件は教えています。それは、虹屋の原点でもあります。
以上13日追加
 
先月の10日に明らかにされた日本の狂牛病発生は、次々に隠された事実がわかり、波紋を広げています。10月5日、お菓子などの加工食品に使われるビーフエキスなども、特定危険部位を使っていないかの調査と使っていた場合の自主回収が行政指導されました。虹屋にもビーフエキスなどを使っているものがあります。調査の結果は、わかり次第、店頭に表示したり、チラシの「今週の野菜果物」、このWEB 虹屋でお知らせします。
 
 さて、狂牛病の原因は、異常プリオン蛋白です。プリオンという蛋白質は、哺乳類の身体に、普遍的に存在しています。正常なプリオンは蛋白質分解酵素で分解され、異常プリオンは壊れにくいという点が重要な違いです。このため、正常なプリオンは分解消失するのに、異常プリオンは細胞内に蓄積し塊をつくり、神経細胞を死に至らしめます。運動を司る小脳に蓄積し、牛が立てなくなるなど起立障害、狂牛病の症状が現われます。また異常プリオンは、分解酵素だけでなく、熱などでも変化・壊れ難いのです。
 
 狂牛病の検査は、脳を顕微鏡で病理検査をして空胞などの有無でまず調べますが、確定診断は脳組織を潰して、蛋白質分解酵素を働かせ正常なプリオンを分解消失して、異常プリオンの有無で調べます。現在の検査薬では、プリオンの有無はわかっても、異常か正常かは区別がつきません。
 
 蛋白質はアミノ酸で構成されます。正常なプリオンも異常なプリオンもこのアミノ酸の並び方、配列、一次構造は同じです。違いは立体構造(三次構造)。正常なプリオンは、らせん状で、異常プリオンは、シート状です。この異常プリオンの構造変化が、正常なプリオンに伝達され、ねずみ算的に異常が伝播して発症するとされています。伝染病は、病原体が病気のかかった人や動物の体内で自己増殖し、呼気や排出物などから体外に出て、人から人、動物から動物へと急速に感染し広がリます。狂牛病は、異常プリオンが肉骨粉などを経て、他の牛に食べられ、消化器から体内に入り、さらに正常なプリオンに出会って、正常なプリオンに構造変化を伝達して拡がります。したがって、同じ牛舎にいたとか、狂牛病の牛に触ったなどではプリオンは移りませんから病気になりません。
 
 フォールディング病
 この間まで、ヒトの遺伝子・ゲノムが完全にわかったとか騒がれていたことを覚えていますか。遺伝子・DNAにある情報は、酵素などの蛋白質のアミノ酸を並び方、配列の情報です。アミノ酸が、どういう順序で並べられるのか、その配列の情報が遺伝子にのっています。

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 遺伝子・DNAがひも状ですから、その遺伝子の情報で作られる最初の段階の蛋白質は、アミノ酸が並んだヒモ状です。次の段階で、このヒモが、複雑に巻いたり折れ曲がり立体的な三次元構造をもつ蛋白質に成長します。これを「フォールディング」と言います。フォールディングに失敗したものは、グチャグチャの塊になり、リサイクルされます。自然状態では特定のアミノ酸の一次配列が特定の三次元構造の蛋白質になります。この天然立体構造になって、はじめて酵素などの働きを発揮します。そして、天然立体構造が最もエネルギーが低い状態、言い換えれば最も安定した構造と考えられています。
 
 狂牛病におけるプリオンの振舞いは、この基本原則を揺るがすものです。同じアミノ酸配列(つまり遺伝子は同じ)でも、複数の立体構造があり、異常な方が、ある意味で安定的です。ともかくも、立体構造が蛋白質・酵素の働きに重要なことが判ります。ここ5年ほどの間に狂牛病だけでなく、アルツハイマー病などの神経性疾患は、タンパク質の立体構造の変化が原因となって起こる疾患、フォールディング病 (またはコンフォールデイング病)と判ってきました。タンパク質の構造が変化し、その異常タンパク質が鋳型となり正常タンパク質の立体構造を次々と変化させ、その結果形成された凝集魂が病因であることが明らかにされてきています。フォールディングの仕組みやどのような遺伝的因子や環境因子によって異常タンパクが生まれたり、構造変化が伝播するのかなど研究されています。
 
 この蛋白質の立体構造は、遺伝子組み換え食品の安全性評価の問題点と関係する。と天笠啓祐氏は指摘しています。「蛋白質は複雑であり、・・最高で1兆もの種類があると見られている。・・蛋自質は、また他の蛋白質によって活性化したり、活動を停止したり、分解するため、蛋白質のわずかな変化が、有害なものに転化する可能性がある。
 
 遺伝子組み換え食品の安全性評価の基本は、この遺伝子やアミノ酸の配列をみて、・・評価している。・・蛋白質の構造にまで踏み込んで安全性を評価していない点は、欠陥であり、狂牛病は、遺伝子組み換え食品の安全性評価の方法がいかに問題があるかを示しているといえる。」確かに正常なプリオンと異常プリオンはアミノ酸の並び方、配列、つまり遺伝子は同じです。
 
有機農業と畜産

24日に巻町の長津さんを訪ねました。目的は、娘達を牛やヤギに触れさせることです。彼女らは、TVやミニ動物園などの見世物でしか、動物を知りません。においも知らないでしょう。長津さんは、新潟県の有機農業の先駆者で、有畜農業、畜産を取り入れないと有機農業にならないと考え実践されています。県内でも有数の腕の良いの肉牛の飼育者です。
 下の2歳になる娘は、ヤギの傍を離れず、帰りの車の中でメェメェとずっと鳴いていました。カミサンは、有機農業をやる人だから優しく動物に接しているのだろう、牛も犬(メロンちゃん)もヤギもみんな良い顔をしているとしきりに感心していました。
 牛は草食動物、草を4つある胃の中の微生物が食べて大増殖し、牛はそのアミノ酸などを多く含む微生物を腸で消化して栄養としています。人間でも普段は肉を食べない人が、大量の肉を食べると、腸内の細菌がこれに対応できず消化不良を起こし、最悪、ショック死してしまいます。
 有機農業はこうした自然、生物の営みの基本に従い、活用する農業。それで、牛たちが良い顔で生き、私達は安心の食べ物が得られるのです。
下記は 虹屋が興農牛などの牛肉を共に扱っているポラン広場の声明です。
ポラン広場は、より確かな畜産のあり方を生産者と共に追求してきました

  ポラン広場全国事務局代表 今井登志樹
  ガイドラインプロジェクトチーフ 関  信雄
                 
生命のための食物を生産する農業も、農薬や化学肥料に頼り生態系を無視すれば、そこに生きる人間の暮らしや健康を損なうだけではなく、自然環境に重大な汚染をもたらすことになる。
私たちは、あらゆるもののつながりのなかで生きていることを深く自覚し、他の人々や生き物、自然をできる限り損なわないような方法で「共生」するための持続可能な有機農業を行いたい。

ポラン広場の有機農業の基準・前文からの抜粋です。

          *

ポラン広場は有機農業を推進していくという立場から生産者とともに有機農業の有り様を模索し、「ポラン広場の有機農業の基準」を作り、実践を重ねて来ました。畜産についても同様です。
・・・すべての家畜に対して、それらの生命を尊重し、それらの生理的欲求と健康な生活環境を可能な限り確保することを基本目標に掲げています。

肉骨粉という動物由来の飼料を与えることは、草食動物である牛の生理的欲求を無視していることに他なりません。
ポラン広場は、今回の狂牛病事件は氷山の一角であり、食料生産に効率とコスト削減を最優先させている近代畜産の歪みが衝撃的に暴露されたものだと考えています。
欧州で狂牛病が広がった原因の一つは、早く安く肉をつくるために死んだ家畜を処理したものを飼料として食べさせたことです。
日本でも同様でした。今回の狂牛病をめぐる報道で、問題となった牛が検査結果の出る前に肉骨粉処理され動物性飼料として流通されていることが明かになりました。日本で狂牛病は発生するはずがないとして抜本的な原因の究明と飼料等の見直しをしてこなかった行政と、生産コストや畜産物価格のみを重視する流通業者・消費者ニーズが創り出した結果と言えます。
化学肥料や農薬を多投した農産物、粗悪な飼料や薬剤添加物に依拠した畜産物・水産物、安価な原料と添加物による加工食品など、すべて根っこは同じです。
ポラン広場は、畜産においても飼料の考え方や飼育環境など有機農業の基準の基本目標を軸に検討を続けています。
できる限り地域の有機生産者や製造者との連携で飼料用資材を利用したいという取り組みも遅々とした歩みですが追求してきました。
何よりも安全な飼料で健康に育てることが原則です。
産地の確認は基より、誰がどんな飼料内容でどのように飼育しているかという情報は全て公開可能です。

ポラン広場は、これまでも生産者との緊密な提携により、有機農産物をはじめ安全で素性が明らかな食品を的確な情報と共にお届けしてきました。これからもその姿勢は変わりません。
風評に惑わされず、賢明なご判断と変わらぬご支援を心からお願いいたします。
 
畑の便り  №01-41&40 2001年10月2日小針店で印刷・配布したもの 


子山羊の里親探し 地獄と極楽は同じコインの裏と表 [有機農業/食物にする生命との付き合い方]

畑の便り  №03-34 2003年8月19日小針店で印刷・配布したものに加筆
子山羊の里親探し
 新潟県営の畜産施設の場長をつとめる今井明夫さんは、新潟県有機農業研究会の先達で、新潟県ヤギネットワークを主宰されています。過日、埼玉の方から子ヤギの里親探しのメールがあり、それと今井さんの返信が「まきば便り(27)、(28)」で公表されました。それを手がかりに、生物、食物としての生物と人間の関係のとり方を考えてみました。

子ヤギの里親探しのお願い、埼玉県 A.Y 
 新潟県ヤギネットワーク 今井明夫様 
突然のメールで失礼いたします。私は実家で生まれた仔ヤギの里親探しをしています。
 
  私の母が小学校教員をしておリ、子供たちにヤギを通してたくさんのことを教えたい!というのがきっかけでヤギを飼いました。しかし、勤務先の学校ではどうしてもヤギを常時飼うことは許されず、総合学習のために、毎朝母とヤギが「登校」していたわけです。私も母の学校に行ったり、家で総合学習の資料作りを手伝ったりしていたので、「子供たちがヤギから学んだこと」の大きさにはびっくりしました。突然切れる子の性格が治ったり、喧嘩がなくなったという話も聞きました。朝早くから、駐車場でヤギが来るのをみんなで待っていました。そして待ちに待った出産・・・まさに感動、でした。父母も大勢来ました。今年生まれたのはかわいいオスヤギ、3頭。。。
 
  一昨年のメス2頭の時のように、牧場のおじさんに託して、きっといい貰い手がみつかると子供たちも「お別れ会」をして泣く泣く手放した私たちでしたが、おじさんの「オスは貰い手がないから競りに出すしかないんだよ」という言葉に、「ちょっと待って!」と言わずにはいられませんでした。
 
  子供たちは「みんな牧場で幸せに暮らしているんだ・・・」と信じているのですが現実を知った私は、「里親探しをさせてください!何とか見つけますから」と何の根拠も無く、おじさんにお願いしました。
  「こんなむごい現実、子供に言うべきなんじゃないの?考えさせるべきなんじゃない?」と泣きながら母を責めました。今井さんは、どう思われますか。
  埼玉県 A.Y 
 
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山羊は家畜として理解してください、今井明夫
 
長いメールをいただき、どう返事したらよいか考えていました。私達は新潟県ヤギネットワークを組織しています。私達のネットワークには大勢の獣医さんや、学校関係者、学校飼育動物を支援している人たちがいます。あなたと同じ心配をする人たちもたくさんいます。結局、私の持論をそのままお伝えした方が良いと思いました。
 
  神奈川で学校の先生をしているお母さんがヤギを飼っていて、子供達にふれあい体験をさせたくて小学校に連れて行く、そのこと自体を批判するつもりはありません。ただお母さんが子供時代に飼っていたヤギはふれあい体験が目的ではありませんでした。家畜として家族にミルクを供給し、子山羊は肉畜として肥育されて、お正月の貴重なごちそうになり、毛皮はなめしやさんに頼んでチョッキになりました。ウサギもニワトリも同じで世界中どこの国でも家畜とはそうしたものです。寝食共にして暮らしても人のために生命を提供してくれます。
 
  分娩して子山羊を生まなけれぱミルクを飲むこともできません。子山羊は雌だけでなく、雄も遺伝的間性も生まれてきます。交尾させて妊娠させ150日後に生まれてくる生命の行く未について子供達に説明できないのなら避妊すべきです。
 
  いのちの教育とは生きている動物とふれあって可愛がれぱ良いというのではありません。人と家畜の係わり、人が家畜のいのちをいただいて生活していることをきちんと理解して子供達に話してやることが必要です。
 
  人は生きている家畜を殺して肉をいただき、皮をいただいているのです。  Yさん、あなたは牛乳を飲んでいますか、雄牛は優秀な血統のごくわずかな頭数が生きて精液を提供します。そのほかは去勢(睾丸摘出)して肉として肥育されます。牛乳の生産ができない牛は淘汰され、肉になります。20数ケ月で700kg以上になると屠殺されて食卓に供されます。牛乳を生産するということは子牛を生ませるということであり、子牛をどうするか前もって決めているのです。
 牛乳を飲むことも、牛肉、 豚肉、鶏肉を食べることも「 家畜を殺す」ということを理解 していなければ、できないこと なのです。
 
  私達は新潟県ヤギネットワークを組織しています。県内に8支部があり、飼い方の指導やヤギの入学、卒業、種付け、分娩の相談に応じています。  飼育する学校では通年して飼うこと、都合の良いときだけの貸し出しはしないこと、種付けして分娩させることを原則にしています。子供達に動物のライフサイクルを理解させ、人が家畜のいのちをいただいて生きている傲慢な動物であることをきちんと話します。
 
  低学年の生活科教材として飼育する場合でも同じです。オスヤギの里親を探したとしてもほんの一時のあなたの気休めでしかないのです。もらわれた先で飼い続けることができなけれぱ処分されます。 あなたへの説明になったかどうか判りませんが、理解して欲しいと思います。
 
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弱肉強食だけだろうか?  虹屋
 
人間がいただいている命は、家畜だけでなく、穀物、野菜や魚などの様々な生物を食べています。これは、人間に限らず、動物は全てそうです。植物は太陽の光を葉に受けて、光合成で様々な栄養素を作り出せる独立栄養ですが、動物はそれを横取りして生きる従属栄養です。植物の命をいただいて生きています。
 
  植物とて、陽光をめぐって争っています。より高く伸びより広い面積を占め多くの陽光を浴びようと争っています。その時の気象条件に合ったものだけが繁茂します。成長速度の遅いが、より少雨でも生育できるものやより低温でも生育できるものなどは日陰になり芽生えても育つことが出来ません。結果的に淘汰されてしまいます。つまり、現在は非常に繁栄しているが、乾燥や低温などの環境変動には脆弱になってしまいます。ですから、現在繁茂している個体を取り除いて、成長速度が遅いが様々な形質をもった個体が生育し種を残すようにすることが長い目で見れば有利です。草食動物がまさにその役割を果たします。
 
  しかし、植物と草食動物だけでは草食動物が植物を食い尽くしてしまうことが起こります。そこで草食動物を淘汰する食べる動物、肉食動物の役割はそこにあります。植物を草食動物が食べ、草食動物を肉食動物が食べる食物連鎖です。個々の捕食関係を見れば弱肉強食ですが、捕食者がいた方が環境変動にも強靭な、長期的に有利です。生態系・生物圏全体で見れば多種多様な生物種で構成され、強靭で生物の量、バイオマスが多いくなります。多種で多数の弱肉強食関係があるほうが、緑なす豊穣な大地です。地獄と極楽は同じコインの裏と表です。
 
  人間は、生態系で占める立場は最高位、我々を食べる動物はいません。ライオンなどの肉食動物との違いは、ライオンは餌となる鹿などを全て殺す能力を持ちません。鹿の群れを襲っても捕らえることが出来るのは、病気や老衰などで弱った個体です。群れ全体を殺す能力を持ちません。しかし人間は持っています。またライオンは空腹の時にだけ必要なときにだけ捕食します。しかし、人間は慰み、楽しみで他の生物を殺しています。食べなくても他の生物を捕らえること、殺すことに慰み、楽しみを感じる生物です。つまり、人間はオーバーキル、過剰な殺戮を行う能力を持ち、それへの本能的な歯止めを持たない捕食者です。したがって、後天的に、過剰な殺戮への歯止めを獲得しなければなりません。そうしなければ、鹿を殺しすぎたライオンのように困り、生態系・生物圏全体で見れば貧弱化することに成り、安定性を損なうことになります。
 
  山羊などの家畜は、人間が食べるために飼っている動物、餌を与え、繁殖をコントロールしている動物ですから、「今年生まれたのはかわいいオスヤギ、3頭」を食べなければ、他の個体を殺すことになります。目の前の「かわいいオスヤギ、3頭」の代わりに死んでゆく、殺されていく食べられる生物の命はオスヤギより軽いのでしょうか。それでは食べる必要がなくとも他の生物を殺す性向に、歯止めがありません。
 
  除草剤や殺虫剤などの農薬も同様です。江戸時代には「上農は(雑)草を見ずして草をとる」つまり雑草が一本も生えていないようにすることが理想でした。害虫も、病気も一切ないのが理想でした。作物以外は一切いない田畑が理想でした。つまり、除草剤を使い田にも畦にも雑草が生えていない今の水田は、上農ばかりの理想郷です。殺虫剤や殺菌剤を使い虫などを皆殺しにするのは当然の帰結です。
 
  しかし、その結果、何が起きたでしょうか。起きているでしょうか。残留農薬や河川に流れ出したものによる飲料水の汚染による人体への傷害。また朱鷺は絶滅しようとしています。蛍も少なくなりました。メダカもそうです。つまり、オーバーキル、過剰な殺戮を行うことへの本能的な歯止めを持たない性格そのままの農薬多投の農法では、生態系・生物圏全体が貧弱化し、安定性が損なわれます。「沈黙の春」はそれへの警告です。その反省から生まれた運動が、有機農業運動であり、減農薬栽培であり、天敵を利用し農薬を必要最小限にしようという総合的防除の思想です。
 
  蛇足ながら、またライオンは同族同士が縄張りなどで争っても、相手が負けを認めて逃げ出せば相手を殺しません。同族争いはしますが同族殺しはしません。人間は、同族殺しをします。ヒットラーのやったホロコースト、山本五十六が始めた都市空襲(生産力破壊を目的とした非戦闘員の殺戮)、米国のアフガニスタン、イラクへの戦争など殺傷手段は高度化していますが、それがオーバーキル、過剰な殺戮にならないようにする歯止めは高度化しているでしょうか。私は、他の生物種への過剰殺戮への反省から生まれた有機農業などの進展が、人間同士のオーバーキルへの歯止めの形成に役立たないかと願っています。

2003年8月19日印刷・小針店で配布したものに加筆



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