”遺伝子組換え病原体”対策とは? 生物兵器と遺伝子組み換え(2) 2001年 [遺伝子技術]
2001年9月小針店で印刷・配布した「畑の便り」の再録
遺伝子組み換え「技術」、バイオテクノロジーは、組換え作物など農業、遺伝子治療、再生医療など医療、遺伝情報をもとにした新薬開発など医薬、など様々な分野で使われ、新しい商品、ビジネス、成長産業を生むものとして期待されています。このバイオテクノロジーが引き起こす問題の一つに、技術の「悪用」、生物兵器、人や農作物の病原体の兵器化があります。
大量破壊兵器は、よくABC兵器と言われます。Aはアトム・原子で核兵器、Cはケミカル・化学で毒ガスなど、Bはバイオ・生物です。核兵器も毒ガスも実戦で使用されていますが、生物兵器は使用されたことがありません。米国では1969年に攻撃的生物兵器開発の中止を決定しています。核兵器があるから大量破壊兵器はこれ以上要らないということなのでしょう。国際的には、1975年に生物化学兵器禁止条約が発効し平和目的以外の生物や毒素の製造や保管が禁止されています。しかし、この条約にはそれを検証する仕組みが含まれておらず、抑止力・実効性が疑問視されています。
そしてバイオテクノロジーの発達で、生物兵器がより強力に、より使いやすくなるとの懸念がでてきました。米国のCDC(疾病制圧センター)は、「将来、遺伝子操作で広範囲に散布可能な病原体(生物兵器)になりうるもの」としてニパウイルス、ハンタウイルス、ダニ媒介出血熱ウイルス、ダニ脳炎ウイルス、黄熱、多剤耐性結核菌など①入手容易②生産と散布が容易。③高い発病率と死亡率で大きな社会的衝撃を与えうる病原体をあげています。特にオウム真理教がボツリヌス菌や炭疸(たんそ)菌の散布を計画していた、バイオテロリズムが現実化していたことが判ってから懸念が一層高まりました。
それで、生物化学兵器禁止条約の検証の仕組み作りの交渉が95年以降本格化しました。具体的には、生物兵器を作りうる特定の施設(大学などの研究所やバイオ企業など)を毎年公表し、国際グループによる抜き打ち査察実施などです。昨年の沖縄サミットでは「2001年交渉終結」が首脳宣言に明記されました。ところが、今年になってクリントン政権に代わったブッシュ政権が、交渉結果をまとめた議定書草案の受け入れ拒否に方針変換、そのために、交渉自体が8月4日に終了し、事実上、生物兵器の開発が野放し状態にされました。
生物兵器の開発が野放し状態
米国が議定書草案に反対の理由に挙げたのは、①生物兵器を開発しそうな懸念国への検証システムが骨扱きにされかけている②その半面、自国の先端バイオ産業や大学が議定害に基づく研究施設への訪間調査義務づけなどで重い負担を課せられる③訪問調査に伴う企業秘密の漏えい防止策などに不安があるなどです。①は検証システムをつくる交渉を続けて解決すればよい問題です。②と③は訪間調査が行なわれる限り付きまといます。つまり、一番進んでいる米国のバイオテクノロジーが訪問調査によって、欧州や日本、ロシアなどに知られることを嫌ったのです。生物兵器、バイオテロリズムの恐怖よりも、米国のバイオ企業秘密の漏えいが怖かったのです。
米国の対策は、病気の検出、診断、治療、予防の改良に関する研究開発を進め、診断能力の強化と疾病サーベイランスの増強し、発生時対策をキチンと行なうことです。これ自体は、新たに出現する感染症の対策としてはとても重要ですが、生物兵器対策としてはどうでしょうか。火事で例えれば、放火を無くす事は放棄して、報知器と消防車を整えておこうと言う物です。一、二軒燃えても町中が火の海にならなければ良い、安全や人命よりも、企業秘密・利益が優先するという価値判断です。
遺伝子組み換え作物、食品の販売を、米国食品医薬局が始めて認めた時に米国政府高官は「新しい遺伝子組み換え食品の利益を短期間であげるためには、消費者はリスクを負わなければならない」と言ったと伝えられています。安全性を慎重に調査し対策を採り、人命・社会の安全を確保することよりも、企業利益が優先するという事が、バイオテクノロジー推進には常に付きまとうのでしょうか。
参照 ⇒バイオテロリズムに関する2つの話題:CDC勧告と新刊書「世紀末の生物学」
人獣共通感染症連続講座 第98回
http://www.primate.or.jp/PF/yamanouchi/98.html
生物兵器と遺伝子組み換え(1) 2001年 [遺伝子技術]
2001年9月小針店で印刷・配布した「畑の便り」の再録
遺伝子組換え作物の兄弟に、生物兵器、病原性を人為的に高めた人間や家畜、農作物の病原体、それをミサイルなどでばら撒き伝染病を流行させる生物兵器があります。
遺伝子組替え「技術」は、ウイルスなどの持つ、細胞に遺伝子を入れ込み組み込ませる能力を利用したものです。人間の遺伝子治療では、白血病ウイルスや肝炎ウイルス、作物(植物)には、瘤(こぶ)病をおこすアグロバクテリウムが用いられます。病原性の遺伝子を除いて、ガン細胞を自殺させる遺伝子や殺虫毒素を作る遺伝子などをこれらのウイルスに組み込み、細胞に運ばせ入れ込み、組み込ませるのです。病原性を強めるための遺伝子を入れたら、生物兵器というわけです。
生物兵器自体は、昔からあります。日本では陸軍の731部隊・石井部隊がよく知られています。近年、遺伝子組み換え技術など最新のバイオテクノロジーや遺伝子解析・分子生物学などの知見の応用で、より強力な使いやすい生物兵器が作られるとの懸念が強まっています。またオウム真理教は致死性のボツリヌス菌や炭疸(たんそ)菌の散布を計画していました。このようなバイオテロリズムも心配されています。
そこで生物化学兵器禁止条約を強化・補足して実効性のある取締りの仕組みを作る多国間交渉が行なわれてきました。ところが、ブッシュ政権の米国の反対で、8月4日に生物兵器開発を取締まる交渉がご破算になりました。この間の経過から、今、遺伝子組み換え推進、組み換え作物の実用化を急ぐことの社会的意味合いを考えてみたいと思います。
ネズミ用生物兵器を開発したら起きたこと
オーストラリアの穀倉地帯では、約3年おきに甚大なネズミの被害が出ます。それでオーストラリアの有害動物コントロール協力センターはオーストラリア国立大学医学部と共同で、遺伝子組換えによってネズミの不妊化するウイルスの開発を行いました。ネズミ向けの「生物兵器」の開発です。
ネズミにおける天然痘、マウスポックス(マウス痘)ウイルスを組換え親にしました。このマウス痘ウイルスは感染すると、急速に広がるため、動物実験施設ではとくに監視が必要とされるウイルスです。このウイルスに、ネズミの精子に免疫反応を起こさせるための遺伝子(ネズミから採られた)を組み込む、するとこの組換えウイルスに感染した雌のマウスは精子を異物・病原体と認めて免疫反応を起こし、卵子との結合・受精が行なわれない、不妊化するという目論見です。
ところが、最初に作られた不妊化組換えマウス痘ウイルスでは、十分な効果・不妊化が起こらない。そこでもう一種の遺伝子を加える、精子を排除する免疫反応を増強する働きのネズミ由来の遺伝子も組み込むことにしました。手始めにマウス痘ウイルスに、免疫反応を増強する遺伝子だけを組み込んだウイルスを作り、感染させてみました。
すると、このウイルスに感染したネズミは九日以内に死にました。予めマウス痘ウイルスのワクチンを与え免疫を付けたネズミ、マウス痘ウイルスに遺伝的に抵抗性があり発病しない系統のネズミまで死んでしまった。免疫に関係する遺伝子を組み込んだだけで、単に病原性が強くなっただけでなく、ワクチンによる獲得免疫も乗り越え、致死的感染を起こしたのです。マウス痘ウイルスは、人にはまったく感染しませんから、今回作られた組換えウイルスが直接影響を人に与えるわけではありません。しかし、人間の病原体、菌、ウイルスに対して、同じように免疫に関係する遺伝子を組み込むことは可能です。作られた組換え病原体も同じように、ワクチン接種も無効になると考えられます。
参照⇒生物兵器としての遺伝子組換えウイルス、人獣共通感染症連続講座 第113回
http://www.primate.or.jp/PF/yamanouchi/113.html
病原菌の遺伝子から、感染症を発病させる仕組みを解明し、その知見から新しい抗生物質をつくる研究が進んでいます。その知見は、発病の仕組みを強化し感染力の強力な生物兵器を誕生させる知識になります。また、同じウイルスや細菌に感染しても発病する人としない人がいます。従来は、体質の違いや抵抗力の差だと考えられてきました。しかし1997年に、エイズウイルスが体内に侵入しても、あるタイプの遺伝子をもつ人は感染しにくいことがわかりました。このような遺伝子のタイプによる感染の違いを解明して、新しいワクチンを開発する研究が進んでいます。その違いの知識を応用すれば、特定の遺伝子のタイプの人々・人種だけに感染する、狙い撃ちにする病原体・生物兵器を作れることになります。
731部隊の石井四郎中将なら随喜の涙をながすような状況です。それにもかかわらず、米国は生物兵器開発を取り締まる、禁止する実効性のある仕組み作りをぶち壊しました。理由は何でしょうか。 続く
遺伝子組替え作物の実態は収量が減り、農薬使用は増大 2001年 [遺伝子技術]
2001年8月小針店で印刷・配布した「畑の便り」の再録
12日、輸入のレトルトカレーで食品衛生法違反での回収が始りました。日本で許可されていない食品添加物が使用されていたからです。10日には、森永のスナック菓子の回収が始りました。こちらは、日本で安全審査を経ていない未承認の遺伝子組替えじゃが芋が原料に含まれていたと言う食品衛生法違反です。
この10日頃から、以前予想したように「アメリカやカナダでは、安全とされたじゃが芋なのに、何故、回収しなければならないのか、消費者に媚びて、不必要な回収をしている」という論調が一部マスコミにでてきました。 虹屋が不思議に思うのは二つあります。
「国民の生命と財産を守る」という国家の存在理由からすれば、国民の食べ物の安全を確保することは大切な主権行為です。米国は、アメリカで認められていない農薬が他所の国からきた食糧に残留していたら、それは即刻に送り返す厳しい措置をとっています。日本で、日本の安全承認を受けていない遺伝子組替え食品を、日本国民が食べないように回収することは当然の措置ではないでしょうか。アメリカやカナダが安全と言っても、日本国民の食の安全を護る責任は日本国が負っているのだから、日本国が安全を確認していないものはダメというのは当然ではないでしょうか。
「外国では安全とされたものを日本で禁止するのは、おかしい」というのは、国家主権の放棄ではないでしょうか。近頃、歴史教科書問題や靖国問題では、日本の国家主権や独自性が声高に唱えられていますが、食に関しては国の役割をきれいさっぱり忘れるのは何故でしょうか。
もう一つは、「除草剤耐性などの遺伝子を組み込まれても、変わるのはその点だけで、他の性質は変わらない」という実質的同等性や、遺伝子組替え作物で農薬の使用量が減るといった遺伝子組替え作物を推進する主張を鵜呑みにしている点です。
アメリカの全大豆生産量の約60%を占めるモンサント社の除草剤耐性大豆(ラウンドアップ・レデイー大豆、以下RR大豆)の栽培の実態で見てみましょう。
米国で98年度の米国での栽培データを基にした研究が行なわれました。その結果は大豆を栽培した16州の平均農薬使用量で見れば、在来種の大豆を栽培した場合に較べ、遺伝子組替えRR大豆栽培では11.4%多い農薬使用量でした。
最大の大豆栽培を誇るアイオワ州など主要な六つの州に限れば、RR大豆の農薬使用量は30%多かった。在来の中の最も農薬便用量の少ない農家に比べれぱ、RR農家で最も農薬便用量の多い場合は34倍以上の農薬を撒いていました。
遺伝子組替えRR大豆では除草剤ラウンドアッブは1回だけ散布すれば良いとモンサント社は宣伝しています。しかしはモンサント社ですら、実際には1回で済まずに、RR大豆栽培農家の約1/4は年間3回ラウンドアップを散布しなければならないことを認めています。減るはずの農薬が逆に増えてます。
この研究を行なったC‐ベンブルック博士は、増加の原因を次のように指摘しています。RR大豆という単一作物と除草剤ラウンドアップの使用により、この除草剤に耐性の、撒かれてもなかなか枯れない雑草が出現が予想されていたが、それが現実のものとなり、耐性雑草がはびこり、農家は以前よりもラウンドアップを更にたくさん散布するようになっている。その上、モンサント社がラウンドアップの価格を40%も値下げしたため、競争他社も農薬を値下げし、農家にとっては農薬を増やすことに歯止めがかからなくなった。
「除草剤耐性などの遺伝子を組み込まれても、変わるのはその点だけで、他の性質は変わらない」という実質的同等性はどうでしょうか。収量と言う全体的な点で見てみると、RR大豆は在来種に比べて、C‐ベンブルック博士の研究では5~10%の収量減という結果、ネブラスカ州立大学の調査では、平均6%の減収です。『農業ジヤーナル』誌の独自調査によれば、インデイアナ州では15・5%、イリノイ州ではl%、アイオワ州では19%減収です。
その原因は解明中ですが、実質的同等性があるのなら、ただラウンドアップをかけられても枯れないという点だけが違うのなら、収量にこれだけの違いがあるものでしょうか。おかしい。安全審査は、実質的同等性を前提に組み込まれた遺伝子、それがあらわす性質だけの安全性を調べています。実質的同等性が無ければ、安全審査自体が無効です。「アメリカやカナダで確認された安全性」自体があやしくなります。組み換え作物、例えば組み換えじゃが芋を丸ごと、全部の性質で安全性を確認する必要がでてきます。
またまた遺伝子組替え食品が、食品衛生法違反で自主回収 2001年 [遺伝子技術]
2001年6月小針店で印刷・配布した「畑の便り」の再録
先日、カルビーのスナック「ジャガリコ」、ブルボンの「ポテルカ」が、食品衛生法違反で自主回収されました。日本で安全審査を通っていない未承認の遺伝子組替え食品(輸入の冷凍じゃが芋)が使用されていたためです。5月のハウス食品に続いて2回目です。
保健所から連絡が届いてからも、問題の品物をカルビーは出荷・販売していました。雪印の事件以来、食品メーカーは、製品の衛生管理、安全管理に注意していると思っていたのですが、食品衛生法違反が明確な製品を出荷しつづけるとは管理体制はどうなっていたのでしょうか。
検出不可能なはずなのに
なぜ食品衛生法違反が続くのでしょうか。遺伝子組替え食品の表示で、こうしたフライドポテトのスナック菓子は「組み換えたDNA及びこれによって生じたタンパク質が加工工程で除去・分解されることにより、食品中に存在していないもの」に分類され、表示義務が免除されています。(任意で表示はOK)つまり組換え遺伝子やそれから生成するタンパク質が無いのだから、仮に遺伝子組換え食品を原料に使っても、検査でわからない。検出できない。仮に遺伝子組替え使用の表示を義務付けても、違反を発見できない。違反を見つけられない規制は無意味であるという理由から、表示は不要とされています。
国の言う通りなら見つかるはずのないものが検出されたのですから、ビックリです。民間の分析会社ジェネテック社によれば、加熱などの加工で遺伝子が変性し、正常な遺伝子が減少している場合は、どれ位の割合で含まれていたか5%か10%といった分析まではできませんが、有無、問題の組換え食品・作物が入っていたかどうかは検出限界0.01%程度まで調べられるそうです。分析技術はどうであれ国の「組み換えたDNA及びこれによって生じた殺虫タンパク質などは、食品中に存在していない」というのは嘘だったわけです。
米国の分別・区分流通は信頼できるか
ポテトチップスという製品になってしまえば、判らないとされているのですから、原料段階での管理・チェックがおろそかにされていたのではないでしょうか。カルビーもブルボンも、輸入商社から混入なしの証明書をとっていたといいますが、自社で原料の検査をしていませんでした。
また米国での遺伝子組み換えジャガイモの作付面積は約3%、生産量では全体の1%程度です。またジャガイモは地下茎に栄養分が蓄積されたものであり、種のトウモロコシなどのように交雑により遺伝子組み換えが拡散して、知らず知らずのうちに混入する事はありません。どうして混じったのでしょうか。輸出元も、製品になってしまえば、判らないと高を括っていた?
昨年の11月の、人間が食べていけない組換えトウモロコシのスターリンクが、今回と同様に混入していたという事件を覚えていますか。この件は、①米国政府が輸出前に検査する②同じサンプルを米国政府は日本に送り、日本政府がクロスチェックして、混入が無いことを確かめることで日米政府は決着をつけました。そうしたら米国の検査ではシロ、日本ではクロと結果が違う事態が頻発しました。米国はキチンと検査していたのでしょうか。米国は、違うサンプルを送ったと弁明、一度や二度ならともかく・・、米国は官も民も、日本を小馬鹿にしているのでしょうか。?
さて、このスターリンクの件を受けて農水省は、「組み換え体利用飼料等に関する懇談会」を設けました。その懇談会が、この3月に中間報告をまとめました。
驚くべきことに、日本の安全審査を通っていない未承認のものも、一定の量の混入を輸入飼料で許容するという内容でした。つまり昨年、7000万ドルをかけて回収されたスターリンクは、少しずつ日本向けに混ぜて売っても良い、日本は飼料トウモロコシの95%を米国に頼っているから「安定供給に配慮して」日本が買うというお墨付きです。
日本の牛さん、豚さん、ニワトリさんが食べてよいのなら、日本の人間が食べてどこが悪いのか。米国は、いずれこう言い出すのではないでしょうか。厚生労働省も、カルビーもブルボンもハウス食品も「米国で安全性が確認され、承認されているもので、人体への影響はない」と言っています。どうして拒否できるでしょう。日本で安全審査を通っていない未承認の、日本政府が安全性を確認していない遺伝子組替え食品、納豆用小粒大豆(日本人しか食べない)とかが、日常的に食卓に上がるようになる日はそう遠くない?!
遺伝子組換えで本来の遺伝子の働きが妨げられた 名大が実験 2001年 [遺伝子技術]
2001年6月小針店で印刷・配布した「畑の便り」の再録
名古屋大学で、イネに遺伝子組替えを行なったところ、イネがもともと作っていたタンパク質の合成量が変化するという実験結果が出ました。実験を行なった松田幹夫教授は「導入した遺伝子が、イネ本来の遺伝子の働きを妨げた可能性がある」と語っています。
これまでの遺伝子組替えが、殺虫毒素などを組み込んで消費者に悪い印象をもたれたという反省から、社会に受け入れられるだろうと消費者の健康志向にあった栄養強化・改善の遺伝子組替え作物をつくる研究が盛んに行なわれています。名大では大豆のタンパク質・フェチリンとトウモロコシのオペクトの遺伝子をイネに組み込みました。その組換えイネのタンパク質の2種類を調べたところ、通常の約五分の一の量になっていたのです。
遺伝子組替え作物のもつ危険性の大部分は、組換え技術の未熟性にあります。外部から導入する遺伝子が、その作物・生物の遺伝情報全体のどこに入り込むのかコントロールできない。そのため作物全体に予見できない変化が起こる可能性、野生種から栽培種が育種される過程で休眠状態になった有害物質生成の遺伝子が活性化するとか、逆に通常の遺伝子の働きが妨げられるといった予見できない変化が起きる可能性があります。
今回の名大の実験結果は、この可能性が現実のものになった例ですが、現在の安全性審査では作物全体に起こる予見できない変化は考慮されていません。審査の見直しが必要です。
オーザックは安全なのか 2001年 [遺伝子技術]
2001年6月小針店で印刷・配布した「畑の便り」の再録
5月25日、ハウス食品のスナック菓子の「オー・ザック」全品が、食品衛生法違反で回収になりました。袋には「遺伝子組換え食品を使っていない」と明記してあります。しかし検査で遺伝子組み換えポテトの原料混入が判明、しかもそのポテトが日本で未承認で、従って食品衛生法では使ってはならない遺伝子組み換え食品だった為です。
ハウス食品は「この原料は、米国ではすでに安全性が確認され、承認されているもので、人体への影響はないとされており、」厚労省も、米国やカナダで承認されていることから「ただちに健康被害があるとは考えていない」としています。本当に安全でしょうか。
遺伝子組替え「技術」は、あらゆる生物に応用されています。人間に用いられる場合「遺伝子治療」など言われます。遺伝子治療で最も懸念されているのは「ある遺伝子を加える場合には、その新しい遺伝子が間違った場所に導入されてしまう可能性が必ずあります。そして、これは恐らく癌もしくはその他の障害を引き起こしてしまいます。」遺伝子組替えの作物や家畜にこれと同じことが、それによって生じる危険性が(例えば、新たな毒素を作り出してしまうとか)起きない、少なくとも栽培や販売が許可されたものにはないと言い得るのでしょうか。
親からもらった遺伝情報・遺伝子以外の、新たな遺伝子が細胞に入り込み、組み込まれることは、しょちゅう起きています。私の体でも、貴方でもだれにでも起きています。インフルエンザなどウイルスに罹れば、ウイルスの遺伝子が私達の細胞に入り込み、そして、私達の遺伝子に組み込まれ、やがて細胞を乗っ取り病気をおこします。
遺伝子組替え「技術」は、このウイルスなどの細胞に遺伝子を入れ込み組み込ませる能力を利用したものです。人間の遺伝子治療では、ヒトに感染するマウス白血病ウイルスやアデノウイルスが用いられます。作物(植物)には、瘤病をおこすアグロバクテリウムが用いられます。病原性の遺伝子を除いて、遺伝子治療ではガン細胞を自殺させる遺伝子などが、作物では殺虫毒素を作る遺伝子や特定の除草剤を効かなくする遺伝子などをこれらのウイルスに組み込み、細胞に運ばせ入れ込み、組み込ませるのです。
私達の体で、インフルエンザウイルスなどに冒された細胞はどう振舞うでしょうか。まずは入り込んだウイルスの遺伝子を不活性にするなどして正常化しようとします。それに失敗すると、自らの遺伝子やタンパク質を分解して死んでしまったり、免疫細胞に自らを殺すように信号を出します。このような細胞の自決はガン細胞などでも起きます。アトポーシス、計画的細胞死といわれ動物から植物まで殆どの生物に組み込まれた生命の仕組みです。このアトポーシスに失敗すると、ガン細胞は増殖して癌が発病します。ウイルスに侵された細胞でウイルスは増殖して発病します。(このように生物の防御機能から、遺伝子組替え「技術」は組み込み自体の成功率が極めて低い)
さてウイルスは、自らの遺伝子を、とにもかくにも寄主細胞の遺伝子の間に組み込んで、姿を隠してアトポーシスを潜り抜ければ良い。遺伝子組替え[技術」に使われるウイルスなどは病原性や増殖性は除いてありますが、この点は変わらない。つまり「新しい遺伝子が目標とする生体の遺伝子中のどこにたどり着くのか実際にはコントロール出来ない。」遺伝子が間違った場所に導入されてしまったらヒトでは「これは恐らく癌もしくはその他の障害を引き起こしてしまいます。」遺伝子組替え作物では、「その植物が果実に異常な濃度の毒素を出すようになるかも知れない。この現象は“組み込み突然変異”、新しい遺伝子が組み込まれた場所に起因する予測することの出来ない変異」「一つの遺伝子が複数の特性に影響を与える現象として知られる“多面発現性”により、食品中に予測不可能な新しい毒素を生成することがある。」などが指摘されています。そしてアメリカ環境保護庁(EPA)は「多面性発現効果は、遺伝子組み換えを行った植物について30%までの頻度で生じる。」
“組み込み突然変異”や“多面発現性”は「毒素の増大、以前には見られなかった毒素の生成、環境からの有毒物質蓄積の可能性の拡大(例えば農薬や重金属)、養分の摂取に関する思わぬ変異などの望ましくない影響は、遺伝子組み換えの行われた植物について、これらの変化を一つづつ検証しなければ、育種家は見過ごしてしまうであろう。(EPA)」しかし安全性評価では調べられていません。組み込まれた遺伝子がつくる成分だけ安全性を評価する仕組みになっています。これでは米国やカナダや日本政府の「安全宣言」はどこまで信頼できるでしょうか。
日本では未認可(米国では人間の食用には許可されていない飼料専用)組換え作物が輸入されても、回収しない日本政府 2000年 [遺伝子技術]
2000年11月7,14日小針店で印刷・配布した「畑の便り」の再録
米国では、許可されていないトウモロコシの品種を原料とする食品の回収が10月初頭から広がっています。この「スターリンク」は遺伝子組替えのトウモロコシで、BT菌の殺虫遺伝子を組み込まれています。米国では、人間の食用には認可されていない唯一のトウモロコシです。動物の飼料用としてだけ許可されています。それが、製粉会社に運ばれてきた原料段階で混入していたのです。
厚生省は10月上旬には日本に既に輸入されている(約36000トン)事実を掴んでいますが、回収などの安全確保の措置は一切とりません。
市民団体の検査で、混入発覚
何故、混入が明らかにされたのでしょうか。そもそものきっかけは、日本の市民団体「遺伝子組替え食品いらない!キャンペーン」の検査です。去年から始った市民自主検査運動で、今年の4月に鶏や牛の飼料に大量の遺伝子組替え農産物が検出され、なかに日本で未承認の品種が2種みつかりました。その一つがこの組換えトウモロコシ「スターリンク」でした。
飼料から検出された以上、食品からも検出されるだろうと言うことで、トウモロコシを使った製品での検査を開始。米国でも市民団体「GEフード・アラート」が検査、9月18日に混入の結果が公表され、トウモロコシ使ったスナック・チップの回収などが始りました。日本の市販品でも、見つかって10月24日に発表されました。しかし回収などはされていません。
遺伝子組替え許容混入率、大豆で5%以下しかし法的強制力なし 2000年 [遺伝子技術]
2000年2月14日小針店で印刷・配布した「畑の便り」の再録
私たちの働き掛けで遺伝子組み換えの大豆などを食品の原料に使っているかどうかの表示が日本では2001年4月から義務づけられます。現状では集荷や運搬の際にある程度の混入、大豆では最大5%前後の組み換え原料が混入しています。義務化されるまで改善に取り組む時間があるにもかかわらず、この現状を口実に農水省は表示を実質的に骨抜きにかかりました。不使用の表示での混入の割合の上限を法で決めず、企業の判断にゆだねる方針を11月に公表しました。つまり
虹屋の「不使用」は混入なし、○○食品は5%混入、★☆製菓は15%まで混入。これでは表示をする意味がありません。
この方針に対し農水省は意見の公募をしていたので様々な団体、個人から反対の意見が出されました。
虹屋も送っています。衆議院でも取り上げられました。それで2月7日に大豆に限り混入の許容率を5%以下とすると発表。ただし原料分別管理の手順書(マニュアル)の目安値で、法的な強制力はありません。不当表示で行政指導したり告発する際の基準になりえますが、罰則なしでは実効性が疑問です。またトウモロコシは、「分別管理が遅れ、大半を輸入に頼る現状では、厳格な混入率規制は原料コストの高騰を招きかねない」として、目安も示されていません。
4月から新表示を導入する欧州連合(EU)と比較してみます。
日本・・・大豆とトウモロコシを原料とする24の食品
遺伝子組み換え(義務表示) 原料が組み換え作物
遺伝子組み換えでない(表示可能)
原料が非組み換え作物=大豆の場合混入率5%以下が目安、
トウモロコシは企業の自主判断
遺伝子組み換え不分別(義務表示)
原料が生産・流通段階で分別管理されていない
欧州・・・全食品、食品添加物
遺伝子組み換え作物使用(表示義務)
原料が組み換え作物=過去に認可した食品、
99年6月以降、新規認可は凍結
遺伝子組み換え作物が混入(義務表示)
原料の1%以上が組み換え作物
現在の検査技術では原料段階で0.1%の混入まで検出可能です。ですから混入をどの程度許容するかは、技術的な問題ではなく政治的社会的問題です。
つまり日本や欧州の消費者の遺伝子組み換え作物の安全性、食品としての有害性や組替え遺伝子による生態系(野外や腸内細菌など体内の生態系)汚染などに懸念を持ち、分別と表示を求めている声をどう見るかです。
遺伝子組替え食品普及には人体実験が必要、日本生活協同組合連合会 1999年 [遺伝子技術]
1999年1月18日小針店で印刷・配布した「畑の便り」の再録
遺伝子組み替え食品・作物は未知数の危険性があり、厚生省の安全審査は不十分。だから販売するなら、きちんと表示をして食べる人が選択できるようにすべきだと虹屋は考えます。しかし同じく表示を求めるにしても、日本生活協同組合連合会(日生協)は理由が違います。
「遺伝子組み替え技術は将来重要な技術だから、表示を付けて遺伝子組替え食品と知りながら食経験し、人体実験を繰り返して社会的な受容を形成する事が必要。供給のモラルとしても何かあった場合、対応するために表示が必要」(農水省食品表示問題懇談会遺伝子組み換え食品部会での片桐常務理事の発言、98年12月17日)
現状の遺伝子組み替え食品・作物は微生物の殺虫毒素遺伝子や除草剤耐性遺伝子などを、自然交配が起こり得ないトウモロコシなどに、種の壁を壊して組み込んだものです。
菜種などに組み込まれた遺伝子が作る除草剤を効かなくする酵素タンパクや殺虫毒素などを私たちは、常食する食物から大量に摂ったことはありません。これらの長期間での影響(ガンやアレルギーんなど)次世代への影響などは調べられていません。未知数です。
また、組み替えがうまく行ったか調べるのに、現状では抗生物質耐性遺伝子を目印に使うやり方が主流です。この遺伝子の腸内での細菌への移行も懸念されています。赤痢菌などからベロ毒素の遺伝子が、大腸菌に移行し、病原性大腸菌O-157などが生まれました。遺伝子組み替え食品から、抗生物質耐性遺伝子が細菌に移行し、抗生物質の効かない細菌が食べた人で増える懸念です。
そして厚生省の安全審査は、遺伝子操作で新しい性質・形質(例えば殺虫毒素遺伝子で毒素産出)が加わっただけで、それ以外は何の影響も受けていない、変化していないという実質的同等性の考えで行なわれています。しかし、殺虫毒素遺伝子の組み替えトウモロコシでは、アミノ酸の組成が変わる、アレルギー症状をおこす体内物質の原料となるアミノ酸が増えるという実質の変化が起きています。審査はこの変化を不問にして、安全としています。審査が信頼できますか。また、なぜこのような変化が起きるのでしょうか。
つい先日、新潟県農業総合研究所がイモチ病抵抗性コシヒカリの育種に成功したと伝えられました。方法は遺伝子組み替えを使わず、まずイモチに強い品種とコシヒカリを交配し第一代目雑種をえます。その遺伝要素の半分は、イモチに強い品種のもの。欲しいのはイモチ病抵抗性だけ、他はコシヒカリ。そこで第一代目雑種をコシヒカリと交配。二代目の遺伝は四分の三はコシ、四分の一がイモチ耐性種。この、もどし交配を繰り返せば、コシの遺伝要素が増えます。各段階で目標に近いものを選択し、今回は六代目で成功したそうです。この伝統的なやり方なら実質的同等性があると言えます。
来世紀は遺伝子選別の世紀か? 1999年 [遺伝子技術]
1999年1月11日小針店で印刷・配布した「畑の便り」の再録
今の日本社会は、生まれた子供を学力などで選別する社会ですが、来世紀は生まれる前から、遺伝子で選別し不合格者は誕生前に殺される社会になるのではないかという予感です。
受精卵で選別、診断
去年1998年、日本産婦人科学会は、体外受精のヒトの受精卵で、遺伝子を解析し、ある基準で遺伝的欠陥のある受精卵は廃棄する=受胎・誕生させないという遺伝子診断と治療の実施を決めました。遺伝病をもつ人々の反対を押し切って決めました。体外受精に限らず自然な妊娠でも、妊婦の健康診断で得られる血液から含まれる胎児の細胞を取り出し、遺伝子解析をする技術が金沢大学で開発されています。すべての胎児で誕生前に遺伝子を調べることは既に可能です。体外受精児で地ならしし、来世紀初頭には合格しない遺伝のヒトは誕生させない政策が遺伝子治療と称して広く行なわれるのでは?